機械仕掛けのチルドレン・第八話C



(Bより続く)

 スーパーで買い物を済ませた三人が、帰り道を歩いていた時、突然マリアが、

「あ、申し訳ございません。ちょっと失礼いたします」

と、コースを外れて目の前の四つ角を曲がった。

「どうしたの」

と、付いて行くアスカ。無論シンジもやって来た。

 見ると、道端に一匹の茶色い子犬がうずくまっている。まだ死んではいないようだが、見るからに元気がない。

「申し訳ございません。鳴き声がセンサーに検知されましたので、保護すべきと判断し、こちらにまいりました」

と、言ったマリアに、アスカは、

「ぐあい、わかるの?」

「はい、動物や人間の皆様の健康状態に関して、ある程度の診断は可能な知識は実装されております。私の診断では、この子犬はおなかをすかせて歩けなくなったようです」

「そう、病気じゃないの?」

「はい、病気ではないと思われます」

 アスカはあらためてその子犬を見た。首輪を付けているし、見た感じでは純血種のポメラニアンのようだから、野良犬ではなさそうだ。

「まいごになったのかな。シンジ、マリアとあたしの荷物持ってよ」

「あ、う、うん」

 荷物をシンジに渡した後、アスカはしゃがんでそっと手を伸ばした。子犬は抵抗する事もなく、アスカに抱き上げられる。

「首輪に番号はついてるかな。…あ、あるわ。京都北08462573だって」

 するとマリアは、

「記憶いたしました。区役所のデータベースにアクセスいたしましょうか?」

「そうね。やってみて」

「では、アクセスを開始いたします。……あ、迷子犬の届けが出ております」

「あ、そうなの。じゃ、みつけたって、連絡できる?」

「はい。連絡ボタンがあります。こちらの連絡先を書いてこれを押すと飼主の方に電子メールが届くようです」

「わかった。じゃ、連絡して」

「連絡先はどういたしましょう?」

「マリアのアドレスでいいんじゃないの」

「はい。了解いたしました。…連絡完了です」

「じゃさ、この子犬、このままにしとくのもかわいそうだから、とりあえず連れてかえってミルクでもあげましょ」

「はい。了解いたしました」

「シンジ、荷物ぜんぶもってね」

「う、うん」

 + + + +

「あ、飲んでる飲んでる。よっぽどおなかすいてたのねえ♪」

 一心にミルクをなめる子犬の様子にアスカは眼を細める。

「これで元気になるといいね」

と、シンジも笑っている。そこにマリアがやって来て、

「シンジ様、アスカ様、とりあえず荷物はすべてかたづけました」

 アスカが顔を上げ、

「サンキューマリア、ほら、見てよ。こんなに飲んでさ♪」

「よかったですね。これなら安心です」

と、マリアも微笑んだ時、

「あ、電子メールが届きました。すぐに引き取りに行きたい、とのことですが、いかがいたしましょう?」

「そうね。こっちの住所を言ってもいいかどうか、問題あるしねえ。…どうするシンジ?」

「そうだね。…あ、ミサトさんに相談してさ、本部に来てもらったらどう?」

「あ、それグッドアイデアね♪ シンジもたまにはいいこと言うじゃない。じゃ、あたし、ミサトに電話してくるわ♪」

 + + + +

「本当にありがとうございました」

と、IBO臨時本部で何度も頭を下げて礼を言う飼主に、無事子犬を引き渡した三人は、ミサトから、

「あんたたちもなかなかやるじゃない♪ ちょーっち見直したわよ」

と、誉められ、アスカも上機嫌で、

「へへっ♪ あたしたちもそうそうバカばっかやってるわけじゃないからね♪ でもさ、マリアがいきなり道を曲がったのには、どうしたのかな、って、一瞬びっくりしたわよ」

「ふ~ん、マリア、そんなことも出来るようになってるのね」

と、頷いたミサトに、マリアは、

「はい、動物や人間の皆様のお役に立つのが私の役目ですので、生命の保護を第一にするようにプログラムされております」

「なるほどねえ。よく出来てるわねえ」

 ここでアスカが、

「じゃミサト、あたしたち、ばんごはんのこともあるから、もう帰るわ」

「はいは~い。おつかれさん♪」

 + + + +

 帰り道、アスカが、

「あ~、今日は色々とあったわねえ。もうおなかペコペコ」

「申し訳ございません。帰りましたらすぐにお食事の支度をしますので」

と、恐縮するマリアに、アスカは苦笑して、

「ああ、別にマリアをせめてるんじゃないのよ。いろいろあって楽しかった、って言ってるのよ。今日のばんごはんはおいしいわよ~♪」

 するとマリアは、

「え? どうしてですか?」

「だって、おなかすいてる時のごはんって最高じゃない」

「そうなのですか」

「そうよ。だからさ、いろいろとやった後のごはんは最高なの。おぼえときなさいね」

「はい。了解いたしました」

「でもさあ、あたし、マリアを見直したわよ」

「はい? と、おっしゃいますと?」

「だってさ、あんた、いっつもあたしたちに、これこれしていいか、って聞いてからなにかするでしょ。でも、子犬たすけた時はさ、もうしわけありません、ってだけ言って、すぐにたすけに行ったじゃない。決断力あるのねえ」

「いえ、それは、そう言うわけではございませんが…」

と、アスカの指摘に、意外にも、ややとまどった表情のマリア。その様子に気付いたシンジは、

(ん? マリア、どうしたのかな?)

 しかしアスカは構わず、

「な~にけんそんしてんのよ♪ ぱっと決断して子犬たすけたんだからさ、もっとどうどうとしてなさいよ♪」

「は、はい…」

(…マリア、どうしたんだろ。とまどってるみたいだ。自分の行動が理解出来ないのかなあ。アンドロイドなんだから、いくらなんでもそれはないよなあ…)

続く


この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'主よ、人の望みの喜びよ '(オルゴールバージョン) mixed by VIA MEDIA

機械仕掛けのチルドレン 第八話B
機械仕掛けのチルドレン 第九話A
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