機械仕掛けのチルドレン・第八話A




 9月19日。8:30。京都市立第九中学校三年A組の教室。

「初めまして。私はIBOのナインスチルドレン、アンドロイドの水無月マリアです♪ これからよろしくお願いいたします♪」

 にこにこと微笑みながら挨拶するマリアの様子には、少々の事には驚かなくなった生徒達も、流石に開いた口が塞がらない。無論、「アンドロイドがクラスメイトになるなんて思ってもいなかった」からだ。

 事情を知っている、シンジ、アスカ、レイ、カヲルの四人は、無論平然としているが、チルドレン仲間のトウジ、ケンスケ、ヒカリ、ナツミも呆気に取られている。

 で、これまた当然の事ながら、担任の教師も、かなり戸惑いつつ、

「で、では、水無月君は、えーと、碇君の隣に座りなさい」

 まあ、幸か不幸か、偶然にもシンジの隣しか席が空いていなかったのだから、仕方がないとは言うものの、

「はい。了解いたしました」

と、素晴らしく魅力的な笑顔で一礼し、シンジの隣に向かうと、クラスの中がまたもやざわめく。

 教師は続けて、

「碇君、君は同じIBOのチルドレンだし、同居しているんだから、水無月君の面倒をしっかり見てやってくれ。頼んだぞ」

「え? は、はい…」

 名指しで「マリアの世話役」を指示されたシンジが慌てて返答すると、

「シンジ様、あらためてよろしくおねがい申し上げます」

と、隣に座ったマリアに、またもや「素晴らしく魅力的な笑顔」で一礼されたものだから、

「う、うん、がんばってね…」

と、笑って挨拶はしたものの、少々表情は引きつっている。

 確かにマリアはアンドロイドであって人間ではない。しかし、逆にそれ故に、「美少女」と言う点では、並みの人間の女の子では到底及ばないのも事実である。シンジは「アスカと言う美少女」と「彼氏彼女の仲」だし、「レイと言う美少女」とは「いとこ同士」である。おまけにエヴァパイロットとして注目を浴びた存在なのだから、その上、「アンドロイド美少女」の世話係をやるとなれば、クラスの男子連中のやっかみを受けても仕方ないと言うものだ。

 「浮世の義理」と言う奴で、マリアがシンジの隣に来て、シンジが世話役に任命される事は当然とも言えるが、エヴァの次はアンドロイドでまたもやクラスの注目とやっかみを浴びる破目になってしまった、と言うのも、シンジにしてみれば少々気が重い話である。

 考えてみれば無理もない。元々シンジは引っ込み思案な性格なのである。色々な経緯を経て、以前から比べればかなりしっかりして来たとは言うものの、元々の気質が激変した訳ではなく、事件解決のために歯を食いしばって精一杯努力していたからこそ、エヴァパイロットとして実績を残せたに過ぎないのだ。

 だから、平穏な生活に戻ってしまえば、また元のような頼りない性格が出て来ても何の不思議もない。「転入生の世話役」なんてものは、シンジにしてみればもっとも苦手な役目である。アスカなんかはそれをよく判っているから、

(あ〜あ、シンジのやつ、また昔のダメダメシンジに逆戻りね…)

と、少し離れた彼女の席から苦笑している。無論、アスカの隣のレイも苦笑しながら、

(シンちゃん、がんばってね…)

と、心の中でエールを送っていた。

 + + + +

 第八話・いくらなんでも!?

 + + + +

キーンコーンカーンコーン

「起立! 礼! 着席!」

 1時間目の授業が終わるや否や、眼を血走らせたケンスケが真っ先にシンジとマリアの所にやって来て、

「おい、シンジ、どう言うことだ? 説明しろよ」

 見ると、これまた当然といえるだろうが、トウジ、ヒカリ、ナツミもやって来ているし、クラスの全員が遠巻きにこちらを見ているのも判る。

(あちゃー、まいったな…)

と、思いつつ、シンジは、隣のマリアを横目で見た。無論、マリアはこの上なく魅力的な微笑みを浮かべながら「待機」している。

(とにかく、説明するしかないな…)

 覚悟を決めたシンジは、

「そ、それがその…」

と、やや口篭もりながら説明を始めた。

 + + + +

 シンジから経緯の説明を受けたケンスケは、眼を皿のように見開いて、

「なにい~っ!? じゃ、この子のCPUはオモイカネⅡのものだってのか!?」

「そ、そうなんだよ。で、動力源は反重力電池で、モーターの代わりに、合成樹脂製の超電導物質で作った人工筋肉だってさ」

「それじゃ、まるっきりオクタヘドロンと同じシステムじゃないか」

「う、うん、そう言うことなんだ…」

「しかしなあ…、いくらなんでも、アンドロイドなんて、とても信じられないぜ…」

と、言いつつ、ケンスケは、にこにこと微笑んでいるマリアをまじまじと眺めた。何度見ても、到底「作り物」とは思えない出来栄えである。

 ここで、トウジが、

「そやけどなあ、新型エヴァのプロジェクトて、どう言うこっちゃ。…あ! それで今日、ワシらも本部に呼び出しされとったんか」

 それを聞いたナツミも、

「じゃ、ええと、この、水無月、さんもチルドレンってことは、今度のエヴァは前とちがって、言霊がなくても動かせるようにするってことに…」

 シンジはうなずいて、

「いやその、そのへんのくわしい話は、今日本部の方であると思うけど…」

 ここでヒカリが、少し心配そうな顔で、

「ねえ、碇くん、新型エヴァってどう言うことなの? また事件でも起きたの?」

「いや、加持さんの話では、それはないみたいだよ。経済政策の一環だって言ってた」

「そ、そうなの。それならいいんだけど…」

 その時、

キーンコーンカーンコーン

 次の授業の時間がやって来た。

 + + + +

 IBO臨時本部。本部長室。

「……」
「……」
「……」

 ミサトと五大から説明を受けた、日向、青葉、マヤの三人は、これまた呆気に取られるしかなかった。五大は改めて三人に向かい、

「まあ、君達三人には説明が遅れて申し訳なかったが、如何にアンドロイドとは言え、チルドレンと言う事になると、まずは加持ミサト総務部長から連絡してもらうのが筋だ。それと、今も言ったように、同居とかその他の問題点もあったから、それらをクリアにした後で、部長の方から説明してもらう事にしたんだ。そのあたりの事情は了解してもらいたい」

 ここでマヤが、

「本部長、アンドロイドがチルドレンとして配属される事になった経緯と、日本政府からIBOに対し、正式に新型エヴァの発注があったと言う話はわかりました。しかし、その二つを結びつけるのは、いくらなんでも技術的には無茶な話だと思いますが、そのあたり、いかがなんでしょうか?」

 五大は頷き、

「私見では、伊吹君の言う通りだと思う。元々エヴァは人間の意識と感覚を利用して操るものだからな。その意味では、アンドロイド、つまり、純然たる機械にエヴァを操縦させる事は出来ない筈だ。それは判る。私も、如何に日本政府の要求とは言え、最初聞いた時は、御都合主義の無茶な話だと思った。しかしだ」

「はい」

「山形が文字通り心血を注いで完成させた彼女を実際に見てな、私も少々考えが変わったんだ」

「と、仰いますと?」

「つまり、元をたどれば、エヴァやマギが作られた経緯の一つとして、人間と完全な意思の疎通が出来るAIを機械だけで作る事は不可能だと言う観念があった事は否定出来ない。だから、危険を冒しても生体兵器や生体コンピュータを作った訳だ。無論、補完計画との絡みもあるから、それだけが理由ではない事は判ってはいるがね」

「はい」

「しかし、もし機械だけで完全なAIを作る事が出来たとしたら、子供を乗せなければ動かない兵器であるエヴァや、不安定極まりないコンピュータたるマギを作ろうとはしなかった筈だ。もっと言えば、兵器としてのエヴァはともかくとしても、ダミーシステムに代わるものがAIで出来ていたら、エヴァはもっと有効に使えていただろう。それは判るな」

「はい」

「元々は私も、機械だけでは完全なAIを作る事は出来ないと言う意見だった。しかし、彼女を実際に見た結果、オモイカネⅡのCPUを使っているから、全て我々だけで開発した技術ではない事は充分承知しているとは言うもののだな、もしかしたら、彼女なら完全なAIを実現出来るかも知れない、と言う考えに至ったのだよ」

「完全なAIですか…」

「そうだ。それで、それをもし実現し、再生産出来れば、『暴走しない安全なエヴァ』を作る事も不可能ではあるまい。そう思わないかね?」

「完全なAIと、暴走しない安全なエヴァ…」

 マヤ、日向、青葉の眼が爛々と輝き始めた。

 + + + +

キーンコーンカーンコーン

「起立! 礼! 着席!」

 本日の授業は終わりである。で、無論、またもや真っ先にシンジとマリアの所にやって来たのはケンスケだった。

「おいシンジ、とにかく早く本部に行こうぜ」

「う、うん…」

 シンジは隣のマリアに向かって、

「じゃ、行こうか…」

 無論、マリアはにっこり微笑み、

「はい。シンジ様」

と、立ち上がった。

(Bへ続く)

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'A Sunny Day ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))

機械仕掛けのチルドレン 第七話C
機械仕掛けのチルドレン 第八話B
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