機械仕掛けのチルドレン・第八話B



(Aより続く)

「すごいなあ、そんなこともできるのか」

と、驚くケンスケに、マリアは微笑んで、

「はい、おかげ様でそう言う仕様にしていただいております」

 トウジはトウジで、

「おいシンジ、おまえなあ、また惣流とミサトさんとだけと違うて、こんなベッピンさんとも同居やて、どう言うこっちゃ、許せへんでえ」

とニヤニヤしている。無論、シンジは頬をやや染め、

「そ、そんな…。これは任務じゃないか。それに、マリアはアンドロイドだよ…」

 しかしトウジは更に、

「いやいや、アンドロイドちゅうても、こんだけペッピンさんやったらそのへんの女よりもずっとええ。か~っ! うらやましいやっちゃのう」

 すると、

「鈴原! なにバカ言ってんのよ!」

「いててて! ヒカリ! なにすんねん!」

と、ヒカリに耳を引っ張られる始末。

 九人揃ってIBO臨時本部への道を進んでいる内に、自然と、前を行くシンジ、マリア、ケンスケ、トウジ、ヒカリのグループと、後のアスカ、レイ、カヲル、ナツミのグループに分かれてしまい、それぞれがマリアの話をしながら歩いていた。

 当然の事ながら、マリアの事を知らなかった四人は、興味津々で話を聞いている。さて、本来ならナツミはシンジ達のグループにいてもよさそうなものだが、どう言う訳か、アスカとレイから昨日と一昨日の話を話を熱心に聞いている。

 ナツミがアスカに、

「アスカさん、じゃ、マリアちゃんって、普通に行動する限り、人間と全く変わらないんですかあ?」

「そうなのよ。あたしもとにかくおどろきの連続ね」

 ここでレイが、

「ナツミちゃん、ほら、昔のわたしの話、聞いてるでしょ」

「は、はい」

「わたしの見たところではね、マリアちゃんって、昔のわたしよりも人間っぽいわよ」

「へえ~っ、そうなんですかあ。…あ、そうだ。ちょっと思いついたことがあるから、わたし、マリアちゃんと話して来ますね♪」

「うん、行ってあげて」

 ナツミはにっこり微笑むと、軽く頷いてマリアの所に向かった。そして、シンジ達に、

「あ、ちょっとすみません。マリアちゃんとお話しさせてくださ~い♪」

 ケンスケが振り返り、

「あ、ナツミちゃんか。どうぞどうぞ」

と、自分のポジションを譲る。ナツミは微笑んで、

「ねえねえ、マリアちゃん♪」

「はい、八雲様」

「あ、ナツミでいいですよお♪」

「はい、では、ナツミ様、なんでしょうか?」

「ねえ、マリアちゃんって、夢を見るの♪?」

「え?」
「え?」
「え?」
「え?」

 ナツミの質問に、マリアより先に他の四人が眼を点にする。すかさずケンスケが、

「ナツミちゃん、なに言ってんだよ。いくらなんでもアンドロイドだから、夢は見ないだろ」

と苦笑した後、マリアに、

「なあマリア、そうだよな」

 しかしマリアは、

「いえ、無意味かも知れませんが、一応、夢は見られる仕様になっております」

「え゛?」
「え゛?」
「え゛?」
「え゛?」

と、驚く四人。それを聞いたナツミは笑って、

「そうですよねえ♪ アンドロイドでも、夢を見たっていいですよねえ♪ 相田さんったら、夢のない話をするんだからあ♪」

 訳の判らないシャレのような話だが、ナツミに突っ込まれたケンスケは、まずマリアに、

「マリア、アンドロイドが夢を見るって、どう言うことだ?」

「はい、実は私も、なぜそのような仕様になっているのかと言う理由は存じません。ただ、山形先生は、眠って夢を見ることができるように、プログラムしてくださいました。そのため、眠ることも夢を見ることもできます。ただし、私にとっての眠りは、コンピュータのメンテナンスの時間ではありますが」

「う~ん、アンドロイドが眠って夢を見る、ねえ…」

と、唸った後、ケンスケはナツミに、

「なあ、ナツミちゃん」

「は~い♪」

「なんでそんな風に思ったんだ?」

 すると、ナツミは屈託のない微笑みを浮かべて、

「別に、特に深く考えてなんかないですよお。ただ、アンドロイドでも、夢が見られたら楽しいだろうなあ、って、思っただけですけど♪」

「う~ん、夢が見られたら、楽しい、か…」

と、再び唸るケンスケ。その時、それを後で聞いていたレイは、

(…夢が見られたら楽しい? そう言えば…)

 そして、土曜日に、

(今は、こうやって、みんなと遊びに来て、楽しい、って、思ってる。でも、前は……)

(楽しいって、どう言うことなの……)

と、考えた事を思い出し、

(アンドロイドには、美しいってことはわからないって、マリアちゃん、言ってた…。昔のわたしも、美しいってことは、わからなかった…。それが今はわかる…。昔のわたしは、楽しいってことはわからなかった…。でも、今はわかる…。これは、どう言うこと…)。

「綾波さん、どうしたの?」

「えっ?」

 突然のカヲルの言葉がレイの思索を破った。レイは慌てて、

「あっ? う、ううん、なんでもないの」

「あ、そう」

と、カヲルはやや怪訝そうな顔をしたが、すかさずアスカが、

「まーまー渚くん、レイだって、物思いにふけることもあるわよ♪ そうよねレイ♪」

「え? う、うん…」

 レイは改めて前を行くマリアを見た。

(もし、アンドロイドが、楽しい、って、感じることができるようになったら…)

 + + + +

 本部にやって来た九人は、ミサトから一連の説明を受け、

「…と、言うわけでね、新しいプロジェクトが始まって、マリアもナインスとしてみんなの仲間になったから、なかよくしたげてちょうだい。なにか質問ある?」

 ここでケンスケが、

「部長、確認なんですけど、マリアはチルドレンと言っても、IBOの所有物じゃないんですね」

 ミサトは頷き、

「そうなのよ。チルドレンとして配属されて、管理はIBO、それも私が行うことになってるんだけど、所有物じゃないわね。まあ、私としては、機械扱い、物扱いしないで、自分の家族のつもりで接することにしてるから、みんなもそのつもりで仲間になってくれたらうれしいわね」

「了解しました」

「あ、それからマリア」

「はい」

「あんたはこのミーティングの後、データをすべてバックアップすることになってるから、私と一緒に技術部に行ってちょうだい」

「了解いたしました」

「じゃ、他に質問がなかったら今日は解散します」

 + + + +

 技術部。

「なんだ。結局みんな来たの」

と、苦笑するマヤ。日向と青葉も笑っている。

 マリアのデータをバックアップすると言うので、どんな事をやるのかと、興味津々の八人は結局全員ついて来てしまった。ミサトも、

「ま、みんなそれだけマリアのことを思ってくれてる、ってことよ」

と、苦笑している。

「そうですね。これなら安心です」

と、ミサトに頷いた後、マヤは改めてマリアに向かい、

「仕様書は読ませてもらったけど、お会いするのは初めてね。技術部部長代行の伊吹マヤです」

「水無月マリアです。よろしくおねがいいたします」

と、一礼するマリア。続いて、

「僕は同じく技術部部長代行の日向マコトだ」

「俺も同じく技術部部長代行の青葉シゲル。よろしくな」

「はい、よろしくおねがいいたします」

「じゃ、早速バックアップを始めましょうか」

と、マヤに言われ、マリアは、

「はい、お願いいたします」

と、用意された椅子に座った。マヤはコンソールに向かい、

「じゃ、無線でリンクするわよ」

「了解しました」

「リンク開始。…接続完了」

 そして、マリアは、

「では、データ転送を開始いたします。転送ディレクトリは、”MGL−00−Maria”」

「了解。…受信開始」

と、マヤが言って十数秒後に、

「送信完了致しました」

「えっ? もう終わったの? 速いわねえ」

 驚くマヤに、マリアは、

「はい、最速で送信いたしました」

「了解したわ。じゃ、保存しておくわね」

「よろしくおねがいいたします」

 + + + +

 マリアのデータのバックアップも終わり、チルドレン全員はそれぞれ帰宅の途についた。当然、シンジとアスカはマリアと一緒に歩いていたが、マリアが、

「あ、シンジ様、アスカ様、もしよろしければ、このまま買い物に行かせていただきたいのですが」

「あ、そうだったわね」

と、アスカは頷き、シンジの方を見て、

「じゃ、シンジ、また三人でいこっか」

「うん、そうだね」

「じゃ、マリア、三人でいきましょ」

「はい」

(Cへ続く)


この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'Moon Beach ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))

機械仕掛けのチルドレン 第七話A
機械仕掛けのチルドレン 第八話C
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