機械仕掛けのチルドレン・第六話L
(Kより続く)
「いや~、ほんと、楽しかったわあ♪」
ゲームセンターからの帰り道の、駅に向かう道すがら、アスカはかつて見せたこともない程の上機嫌である。
「どう、シンジ、おもしろかったでしょ♪?」
シンジはやや苦笑して、
「いや、もちろん面白かったけどさ、なんか、シナリオをムチャクチャにしたみたいで、なんとなく、気が引けてさ…」
しかしアスカは一笑に付し、
「なあに言ってんのよ。あんなもん、しょせんはゲームじゃないのさ。楽しんだもん勝ちよ♪ ねえレイ」
レイもにっこり笑って、
「そうそう、なんかとっても楽しかったわ。特にさ、最後のシーンで、レミィと一緒になって浩之を追いかけ回すとこなんか、最高だったわよ」
それを聞いたシンジは、
「あ、綾波らしくないこと言うなあ。アスカといっしょになって僕をいじめて楽しいのかあ」
しかしレイはまたも笑って、
「シンちゃんこそなに言ってんのよ。誰もシンちゃんなんていじめてないでしょ。あかりとレミィが浩之をいじめただけでしょ♪」
レイのこの言葉にはカヲルも笑って、
「ははは、碇君の負けだよ。勝負あり、だね」
これにはシンジも苦笑し、
「あーあ、渚君までそう言うかい…」
と、言った後、気を取り直したように、
「ま、それはいいとして、まあ、面白かったか、って、聞かれるとさ、僕の感想を言うとしたら、シナリオがどうとか言うよりも、あの機械、たしかにすごいゲーム機だ、って、思ったよ。まるで僕の記憶と意識が、浩之の記憶と意識に完全に一体化されてるような気がしたからね。脳神経スキャンインタフェースって、すごいんだなって、改めて感じたよ」
と、その時、ふと気付いたシンジは、マリアに向かって、
「ねえマリア、今日さ、ちゃんとマルチの役、やれたよね。あれはさ、インタフェースに模擬的に信号を渡してたのかい?」
マリアは微笑んで軽く頷くと、
「はい、そうです。人間の皆様がインタフェースを使うのと同じ状態になるように、模擬信号を送信していました。受信の方はインタフェースからの信号をそのまま処理できますから、全く問題ございません」
これを聞き、アスカも、
「へえ~、だから、あたしたちになんの違和感も感じさせずに、いっしょにゲームができるんだ」
と、感心している。マリアは再度微笑み、
「はい、ついでに申しますと、ゲーム機のコンピュータが行っている処理と同じ事を、インタフェースを経由して並列にモニタするような形で、わたしのコンピュータも行っていました。ですので、やろうと思えば、わたしが主導権をにぎってシナリオを進めることも、技術的には可能です」
「へえ~っ」
「へえ~っ」
「へえ~っ」
「へえ~っ」
これには流石の四人も眼を丸くする。ここでアスカが、
「ま、どっちにしてもさ、ほんと、仮想空間だとは思えなかったわよ。なんだかさ、ドラマの主人公になったみたいで、すっごくいい気分だったわ。…あれ?」
最後の言葉を聞きとがめたシンジが、
「アスカ、どうしたの?」
するとアスカは苦笑して、
「いまさ、ふっと思ったのよ。あたしたちさ、ほら、向こうの世界では、アニメの登場人物だったじゃない。そう思うとなんかおかしくってさ」
「あ、そっか…」
と、シンジも頷いたが、その時、
「あ、わかった! 綾波」
「ん? なに?」
「綾波さ、今日、僕にさ、浩之の役やれって言ったの、もしかして…」
シンジの指摘にレイは苦笑し、
「ばれちゃったか。…実は、そうなのよ」
これを聞いたアスカも、
「な~んだ、そうだったの。道理でね。レイがあんな積極的なこと言うの、なんかへんだと思ったわ」
レイは苦笑したまま、
「ま、そう言うことなんだけど、シンちゃんにさ、色々な意味で、もっとしっかりしてほしいな、って思う気持ちもあったから、言ったのよ」
それを聞いたシンジは、
「え? しっかりしろって、どう言うことなんだよ」
「それはシンちゃんが考えることよ。これはわたしからの宿題ね」
「なんだよ。どう言うことなんだよお」
「それは、ヒ、ミ、ツ♪」
「ちぇっ、なんだか面白くないなあ…」
二人のやり取りに、アスカは心の中で、
(レイったら、シンジが鈍感だから、それとなく言ってくれてんのよね…。ふふふ、ありがとレイ)
その時、
「あ、そうだ」
と、カヲル。四人の視線が集まる。
カヲルはマリアに、
「マリアちゃん、ちょっといいかな」
「はい、どうぞ」
「今思ったんだけどさ、マリアちゃん、マルチの役やっててさ、データに基づいて、マルチを忠実に再現してたのかい? それともさ、僕らみたいに、適当にアドリブ入れてたのかい?」
カヲルも含めての四人は、「当然、マリアは、『忠実に再現した』、と言うだろう」と思った。しかし、マリアはにっこり笑うと、
「はい、せっかくですので、アドリブを適度に入れさせていただきました」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
マリアは続けて、
「ゲーム開始以降の皆様の行動パターンを分析しましたところ、これは、原作シナリオを外しても、面白さを追求なさっておられるのだなと判断いたしましたので、わたしもそれに合わせて適当にデータを変更させていただきました。例えば、笑うシーンなんかそうなんですが、原作のマルチの笑い方をなぞるのではなく、わたしが山形先生にプログラムされた笑い方を敢えて出したりしておりましたです」
これを聞いたカヲルは、
「へえ~っ、そうなのか」
と、感心する事しきりである。レイ、アスカ、シンジも、
「そうなの…」
「ふ~ん、すごいわね。そんなこともできるの…」
「へえ~っ、なんとねえ…」
と、驚いている。
その時だった。
「!」
どう言う訳か、突然シンジの心の中に、「公園でのマルチとのシーン」が浮かび上がって来たのである。
(僕はゲームの中で藤田浩之になってたけど、碇シンジとしての意識もちゃんと残ってた。…だとしたら、あの時の、マルチのほほえみ、あれ、マリアが僕に向かってほほえんでくれた、って、ことだよな。…ゲームには違いないんだけど。…それと、あの、抱きしめた時の感触、あれ、マルチの感触じゃなくって、マリアの感触なのかな…)
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'Moon Beach ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))
機械仕掛けのチルドレン 第六話K
機械仕掛けのチルドレン 第七話A
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