機械仕掛けのチルドレン・第六話A
ピキーン ピコピコ
プシューン プシューン
「あっ! やっちゃったあ。あ~あ…」
アスカが少し顔をしかめてため息をつく。無論、マリアとのゲームでの対戦中、失敗をやらかして自分のキャラクターを1体失ったからである。
その様子に、
「アスカ様、惜しかったですね。いい線でしたのに」
と、残念そうなマリア。
普通、ゲームで対戦している相手に対して、こんな事を言えば皮肉以外の何物でもないのだが、マリアの戦績はボロボロであり、彼女のキャラクターは既に全滅しているので、アスカも余裕綽々で、
「へへっ、まあ、こんなこともあるわよ」
と、苦笑している。
「よしっ!! これでこの面はクリアねっ!!」
次のキャラクターで素早く「ラスボス」を倒したアスカは、小さくガッツポーズをすると、次の面に備えて身構え直した。
プシューン プシューン
初めに出て来る「ザコキャラ」など、アスカにとってはものの数でもない。軽く次々と倒しながら、画面を見たまま、
「ねえ、マリア」
「はい」
「あんたさ、こんなゲームはだめなの? 成績ぜんぜんじゃない」
するとマリアは苦笑して、
「はい、残念ながら、このようなアクションゲームの攻略法に関してはプログラムされておりません。山形先生も、この手のゲームは苦手でいらっしゃたようです」
「ふ~ん、そうなの」
「ですが、先生は、アドベンチャーゲームやロールプレイングゲームに関しては、お好きだったようでして、こちらのジャンルに関しての攻略法はインプットされております」
「へえ~、じゃ、いま予約しているやつなんかは得意なんだ」
「はい、一応は」
その時だった。
『お呼び出し申し上げます。「Leaf Virtual Real Novel」の順番をお待ち戴いておいでの惣流様。順番が参りましたので、受付までおいで下さい』
それを聞いたアスカは顔を上げ、
「あ、順番がきたわ。マリア、いくわよ」
と、言いながら席を立つ。無論、画面の中ではまだゲームが続いているが、最早どうでもいい。マリアも微笑んで、
「はい」
と、立ち上がった。周囲を見回すと、シンジ、カヲル、レイも立ち上がり、こちらにやって来ようとしている所である。
アスカは、全員の姿を確認すると、軽く頷き、
「じゃ、みんな、いこっか」
+ + + +
第六話・夢か現か幻か!?
+ + + +
20代前半と思しき女性係員に、まず靴を脱ぐように言われ、その指示通りに靴を脱いで預けた後、ゲームのための部屋に案内され、中に入った五人は、その殺風景さに少々驚いた。薄暗い部屋の中には全く何もなく、隅の方にタオルケットのようなものが畳んで置かれているだけなのだ。
この部屋の様子に、アスカは、
「この部屋、なにもないじゃないの。これでゲームができるの?」
と、係員に尋ねたが、その係員はにっこりと微笑んで、
「はい、脳神経スキャンインタフェースを使ってバーチャルリアリティーを構築いたしますので、部屋の内部には特になにも必要ございません。むしろ、万が一の怪我などを防ぐため、部屋の中には障害物となるようなものはなにも置かず、壁と床は柔らかい素材で作っております」
なるほど、そう言われて見れば、足元がフカフカしている。アスカは続いて壁に手を置き、
「あ、ほんとだ。やわらかいわ」
それを聞いた係員は、再度微笑むと、五人にリストバンドのようなものを渡し、
「これがインタフェースです。これを左手の手首にはめ、壁に背中を着けて楽な姿勢で座ってください。私がこの部屋を出た後、約3分経ちますと、レーザーホログラム映像によるゲームの説明とシナリオの選択が始まりますので、その指示通りにして戴ければ結構です」
と、言った後、部屋の隅を指し、
「女性で、スカートをおはきになっておいでの方は、あちらにあるタオルケットをひざ掛けとしてお使いください。ではごゆっくり」
と、一礼し、部屋を出て行った。五人はそれぞれインタフェースを装着したあと、言われた通りに、壁に背を着けて座る。で、スカートをはいているのはマリアだけなので、アスカはマリアに、
「マリア、タオルケット、使う?」
と訊いた。しかし、マリアはにっこり微笑んで、
「いえ、わたしはアンドロイドですから、だいじょうぶです」
と、そのまま座っている。しかし、よく見ると、スカートの脇から覗くマリアの抜けるように白い太腿は、とても作り物とは思えない色香を発しているのだ。そう、例えて言うなら、まるで最高級の白磁に、柔らかさとセクシーさを感じるかのような……。
(う~ん、やっぱ、きれいね~…)
アスカは思わず無言で唸ったが、ふと気付いて、薄暗い部屋の中をそっと見渡した。すると、
「!」
何と、シンジとカヲルが、食い入るような視線でマリアの太腿に見入っているではないか。思わずアスカは反射的に、低い声で、
「シンジ、渚くん」
「!!!」
「!!!」
思わぬところから指摘を受けた二人は慌てて知らぬ顔をして視線をそらす。その様子に怒りも失せてしまったアスカは、軽く苦笑してレイを見た。すると彼女も、
「……;」
何とも言えぬ顔で苦笑しているではないか。その時、レイがこちらを向いて、
「! …;」
「! …;」
薄暗い中、二人は顔を見合わせて苦笑した。その時、部屋の中央に、突然光の点が現れたかと思うと、そこにレーザーによる立体映像が映し出され、
『本日は、バーチャルリアリティゲーム、「Leaf Virtual Real Novel」を御利用戴き、真に有り難う御座います。只今より、このゲームについて説明させて戴きます』
と、アナウンスが始まった。
『このゲームは、最新の脳内信号をスキャンする技術を応用し、恰も、そこに現実が存在するかのような感覚をプレーヤーに提供致します。これにより、プレイヤーは、ある時は正義のヒーローとなって悪人退治をしたり、ある時は学園ドラマの主人公となって青春を謳歌したりする事が可能となります。
では、早速では御座いますが、操作方法に関して説明させて戴きます。…まず、…』
その説明によると、インタフェースの作用により、プレーヤーは床に座っているだけだが、まるで肉体を動かして行動しているような五感がそのまま得られるのだそうだ。そして、一通りの説明の後、
『では、シナリオを御選び下さい。現在、デフォルトで用意されておりますシナリオは、
1.「雫」
2.「痕」
3.「To Heart」
の、三つで御座います。自作シナリオや、他のプレーヤーが作成したシナリオでプレーしてみたいと言う場合は、
4.「オプション」
を、御選び下さい。尚、プレーヤーの方が18歳未満の場合は、自動的に全年齢対応シナリオがロードされます』
これを聞いた五人は、同時に顔を見合わせたが、すぐにアスカが、
「シンジ、ほら、ミサトが言ってた、あの、本部長がマリアのモデルにしたロボットがでてくるってゲーム、もしかして…」
すかさずシンジも頷いて、
「うん、そうそう、たしか、この3番目の、『To Heart』、ってやつだよ。そうだよね、マリア」
それを聞いたマリアは、微笑んで軽く頷くと、
「はい、そうです。わたしのコンセプトの基本的なモデルになったのは、このゲームに出てくる、『HMX−12型・マルチ』です。無論、わたしとこの『マルチ』は、最終的な仕様は全く違ったものになりましたが」
ここまで聞いたら、他の四人に興味が湧かない筈がない。すかさずアスカが、全員を見渡し、
「じゃ、3番でいいわね」
他の四人がすかさず頷く。それを見たアスカが、
「3番」
と、言うや、音声入力で処理が進み、キャラクター選定映像が表示された。それを見たアスカは、
「あ、なるほどね。この時代はまだみんな名前はカタカナじゃないんだ」
と、言いつつ、カタカナの名前を持ったある少女のキャラクターに注目し、
「宮内レミィを表示」
そこに表示されたプロフィールを見るや、ニヤリと笑って、
「あ、このレミィって子、この子の役はあたししかいないわね♪ いいでしょ?」
無論、全員に否やのあろう筈がない。アスカはまたも笑って頷くと、
「惣流アスカ・ラングレー、宮内レミィに決定」
すかさず、アナウンスが、
『承知致しました。惣流アスカ・ラングレー様、宮内レミィに決定です』
つづいてアスカは、
「あ、それからさ、当然、マリアはマルチの役しかないってことで、これもいいわよね」
当然、これも問題なしである。後は、シンジ、カヲル、レイの役割であるが、ここで、意外にも、レイが、
「よかったら、わたし、神岸あかりの役、やるわ。シンちゃん、藤田浩之の役やってよ。渚くんは、佐藤雅史の役やってくれない?」
「!」
「!」
「!」
いつものレイらしからぬ積極的な発言に、マリアを除く三人は驚いたが、特に反対する理由はない。アスカがシンジとカヲルを見ると、二人とも反射的に頷いたので、アスカはまたもや頷くと、
「水無月マリア、マルチ。綾波レイ、神岸あかり。碇シンジ、藤田浩之。渚カヲル、佐藤雅史。それぞれ決定」
『承知致しました。水無月マリア様、マルチ。綾波レイ様、神岸あかり。碇シンジ様、藤田浩之。渚カヲル様、佐藤雅史。それぞれ決定です』
(Bに続く)
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'Moon Beach ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限
会社インターネット))
機械仕掛けのチルドレン 第五話F
機械仕掛けのチルドレン 第六話B
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