機械仕掛けのチルドレン・第五話F
(Eより続く)
そんなこんなで、園内をゆるりと見て回り、「満開の桜の後は、これまた見事な菊の花。その後は年中咲いているハイビスカス、等々」と、「昔では考えられない花の宴」を満喫した一行は、丁度昼時だから、と言う事で、園内に設けられたレストランに入った。
「うんうん♪ なかなかいけるじゃない。ここのランチ♪」
と、アスカは上機嫌であるし、シンジも満足気な表情だ。しかし、レイとカヲルはと言うと、
「………」
「………」
無論、料理の味には満足しているのだが、マリアの方に時々チラチラと視線をやっている。
マリアが「食事が可能」である事は、今朝、喫茶店に行った時、シンジとアスカがレイとカヲルに話していた。しかし、その時はコーヒーしか飲まなかったし、「アンドロイドが食物を食べると言う行為そのもの」は、やはり気にならない訳がない。
で、マリアはと言うと、
「……♪」
流石にアンドロイドと言うべきか、実に行儀よく食べている。しかも、「おいしい」と言う顔をしている。その様子に、カヲルは、
(う~む、どうやって味を判定してるんだろ。やっぱり、人間にとっておいしい味を基準にして、おいしいとかまずいとか言った顔してんだろうな……)
レイも、
(マリアちゃんって、おいしいとかまずいとかはわからないはずだわよね……。て、ことは、それを判断する基準は、やっぱり人間と一緒にご飯食べて、覚えて行くのかしら……)
と、マリアの「心中」を慮るのに余念がない。
その時だった。レイは、
(あれっ!?)
「おいしい」と言う概念に思いが至った時、突如、かつての自分を思い出した。
(そう言えば、わたし……)
よく考えてみると、「自己」を確立していなかった時の自分は、「食事がおいしい」と言う事など、全く意識していなかったではないのか。
(ごはんがおいしい、なんて、考えたこともなかったじゃない……)
それだけではなかった。更に考えてみれば、
(今は、こうやって、みんなと遊びに来て、楽しい、って、思ってる。でも、前は……)
以前の自分には、「楽しい」と言う感覚などなかった。それが、今は、「楽しい」と感じる事が出来る。これは一体どうした事か……。
「レイ」
(楽しいって、どう言うことなの……)
「レイ!」
「えっ!?」
アスカの声がレイの思索を破った。思わず前を見ると、みんなきょとんとした顔をしている。
「どうしたのさ? へんな顔してかんがえこんじゃって」
訝しげに問いかけたアスカに、レイは慌てて、
「う、ううん、なんでもないのよ。ちょっと考えごとしちゃって。ごめんなさい」
「ふーん…、あっそ」
と、すぐに納得して、アスカはコーヒーカップを手にする。レイは改めて前を見直した。
(あ……)
何と、自分の皿はにまだそこそこ残っているが、他の四人は既に食事を終えて、セットのコーヒーを飲んでいるではないか。レイは慌ててフォークを手にした。
+ + + +
食事を終えた五人は、植物園を後にし、バスで北白川のゲームセンターへとやって来た。このゲームセンターは京都でも老舗の部類に属する店で、相当昔から市民に親しまれているのだそうだ。
入口に大きく掲げられた看板には、
「究極のゲーム遂に登場!! Leaf Virtual Real Novel シリーズ」
と、書かれている。五人は立ち止まってそれを見たが、ややあって、アスカが、
「ねえレイ、これがあんたの言ってた、脳神経スキャンインタフェースを使ったゲームなの?」
レイは軽く頷くと、
「うん、そうみたいね。すごいバーチャルリアリティゲームらしいわよ」
「ふーん、ま、とにかく入りましょうよ」
と、アスカが先陣を切って歩き出した。
+ + + +
「わっ、すごい!」
と、アスカが眼を見張った。無論これはゲームそのものに対して、ではなく、件のコーナーの混雑振りに、である。
流石に最新のゲームだけあって、ゲーマー達の関心度も高く、平日でも夜などは満員だそうだ。但し、係員の話では、土曜日の昼と言うレベルで見たら、今日はまだ空いている、との事らしい。
順番が回って来たら呼び出してくれると言う事で、順番待ちの登録を行った後、それまでにこれを読んでおいてくれ、と渡されたパンフレットを手に、五人は別のコーナーに向かった。
+ + + +
比較的空いているテーブルゲームコーナーの一角に陣取った五人は、早速それぞれパンフレットに目を通していた。その冒頭のキャッチコピーは、
「ビジュアルノベルとして一世を風靡した、Leafの『あのゲーム』達が、新しい命を吹き込まれ、今、蘇った! 感動の嵐、再び!!」
と、言ったものである。無論、これだけではシンジ達には何の事か判らないが、内容をよく読むと、
「二十年近く前に、当時のゲーマー達を熱狂させた、『ビジュアルノベル』と銘打ったアドベンチャーゲームがあったが、それが、バーチャルリアリティゲームとして生まれ変わった。このゲームでは、ゲーマーが仮想現実の世界に入り込み、その世界の登場人物になり切って、その世界を自由に堪能出来る」
と、言う物らしい。このゲームの凄い所は、別に作ったシナリオをメモリカードに入れて持ち込める仕様になっている事だと言う。このシステムのおかげで、自分や他人が書いたシナリオを持ち込んで楽しむゲーマーが後を絶たないそうである。
一通りパンフレットを見た後、アスカが、
「ま、とにかく、まだしばらく時間はあるからさ、そのあいだ、ゲームやろうよ」
と、言ったので、みんなそれぞれ適当に好みのゲームを探して、コインを投入した。で、マリアはと言うと、アスカが、
「マリア、あんたはあたしにつきあいなさいよ♪」
と、対戦型ゲームの相手に指名したので、
「はい、よろしくお願いいたします」
と、アスカに向かい合って座った。
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'Moon Beach ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))
機械仕掛けのチルドレン 第五話E
機械仕掛けのチルドレン 第六話A
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