機械仕掛けのチルドレン・第五話B
(Aより続く)
ミサトも苦笑して、
「そうよねえ。マリアって、メイドのほかに、お笑いの能力もプログラムされてるのかしらねえ♪」
「お笑いアンドロイドか、こりゃ傑作だ。わははは」
と、笑い出した加持に続いて、
「ぷっ…」
「くくくく…」
アスカとシンジも笑い出してしまった。
「?…」
マリアはその様子を、きょとんとした顔で見ていた。
+ + + +
「じゃ、行ってきます」
「いってきまーす♪」
「行って参ります」
シンジとアスカに続き、一呼吸遅れて、マリアが丁寧に会釈して玄関から出て行く。
「行ってらっさいっ♪」
ニコニコ顔のミサトが三人を見送った。
+ + + +
晴天で日差しは強いが、比較的爽やかな空気の中を三人は歩く。無論シンジとアスカはシャツにジーンズと言うラフなスタイルであるが、マリアはまだ制服しか持っていないので、セーラー服を着ていた。
「今日はいい天気だね」
シンジが空を見上げて言った。アスカも頷き、
「うん、あんまりあつくないわね」
すかさずマリアが、
「現在の気温は27.6度ですが、湿度が50%ですので、爽やかに感じられるのではないかと思われます」
と、言ったものだから、二人とも苦笑して、まずシンジが、
「そうだよね。でも、マリアには関係ないんだろ。暑いとか寒いとかは」
と、言ったが、アスカは、
「でもさ、きのうの話では、マリアの人工皮膚は水分がいるってことだったでしょ。そうなると、温度とか湿度とか、関係してくるんじゃない?」
と、切り返す。これにはシンジも、
「あ、そうか」
と、頷いた後、マリアに向かって、
「マリア、そのへんどうなの?」
マリアは微笑むと、
「はい。確かに私は暑さ寒さで快適や不快を感じると言うことはございませんが、アスカ様のご指摘どおり、人工皮膚と毛髪には水分が必要ですし、体内の機械にとっても、温度は色々な影響がございますので、人間の皆様とは違った意味合いではありますが、温度や湿度は私にとって重要な情報です」
これを聞いたアスカは、
「ふーん、じゃさ、マリアの活動範囲っていうか、温度の許容範囲はどれぐらいなの?」
「はい、私の場合、基本的に人工皮膚が破損する事を許容するならば、低温は摂氏マイナス80度まで、高温は摂氏160度までは支障なく活動可能です」
「へえ~っ! すごいわねえ」
と、アスカは眼を丸くする。シンジも唸って、
「じゃ、85度以上の温泉の中でも平気で活動できるってことなんだね」
マリアは頷いて、
「はい。高温の水中での作業も可能なように設計されております。更には、一応は真空状態の中でも活動可能なように設計されております」
アスカも軽く頷きながら、
「あ、そうよね。かんがえてみたらさ、マリアって、もともとは宇宙ステーションのメイドとして開発されたじゃない。場合によったら、宇宙空間で活動しなきゃならないこともあるかもしれないもんねえ」
「はい、ご指摘どおりです」
一瞬の沈黙の後、シンジが、
「こうしてみると、マリアってすごい高性能なアンドロイドだね。なんか、メイドなんかやってもらうの、もったいないなあ」
するとマリアは突然真顔になり、
「シンジ様、無礼を承知で申し上げますが、それは少々違うのではないかと」
「えっ? どう言うこと?」
マリアの意外な口調に驚いたシンジは改めて彼女を見詰め返した。アスカも興味津々と言った表情で二人のやり取りに注目している。マリアは、真顔を崩さないまま、
「はい。私自身は取るに足らない機械であるとは思いますが、メイドは極めて大切な職務だと考えております。特に、宇宙空間でのサービス業務は、激務に耐えて職責を遂行しておられるスタッフの皆様をサポートすると言う意味で、決して疎かにはできないことだと思います。私は機械ですから、サービスの細やかさと言う点では、人間の皆様に追いつくのは大変だとは認識しておりますが、それでも、宇宙ステーションという極めて厳しい環境の中での労働しておられる皆様に、少しでもお役に立てるように、と考えて日々の研修に勤しませて戴こうと思っております。私は、このような極めて大切な任務を与えて戴いたことに感謝致しております。ですので、シンジ様にも、この点だけはお判り戴きたく存じます」
これを聞いたシンジは一瞬言葉を失ったが、すぐに、
「…そうか。…たしかにそうだよね。…うん、わかった。ごめんねマリア」
と、頭を下げたものだから、今度はマリアが妙に恐縮して、
「あ、シンジ様、申し訳ございません。真に無礼を致しました」
と、深々と頭を下げる。ここでアスカが、
「はいはい、もういいから、二人ともそれぐらいにしときなさいって」
と、苦笑しながら割り込んだ。二人は顔を上げてアスカを見る。
「ま、今回に関しては、マリアのいってることがもっともだわ。たしかにあたしもメイドっていったら、ちょっとかるくみてたけどさ、宇宙ステーションでカンヅメになってるスタッフをサポートする仕事でしょ。かんがえてみたら、あたしたちがおもってるよりも、ずっとたいへんよね」
アスカの言葉に頷く二人。アスカは続けて、
「マリア、しっかりがんばりなさいよ♪」
と、最高の笑顔で微笑んだ。するとマリアも、
「はい、がんばります♪」
と、これまた最高の笑顔で返す。そうこうしている内に、前方から、
「あ、シンちゃん、アスカ」
「おはよう」
三人が改めて前を見ると、こちらもシャツにジーンズ姿のレイとカヲルが微笑みながら立っている。シンジ達三人はややテンポを上げて二人の所へ歩を進めた。
「おはよう♪」
「おはよう♪」
シンジとアスカに続き、マリアが丁寧に会釈して、
「初めまして。水無月マリアと申します」
すると、まずレイが、
「初めまして。綾波レイです」
続いてカヲルが、
「初めまして。渚カヲルです」
と、マリアに挨拶した後、シンジに向かって、やや訝しげに、
「碇君、こちらのみなずきさんは?」
するとシンジは少しニヤリと笑って、
「あ、紹介するよ。綾波には昨日の晩、電話でちょっとだけアスカから話してもらったんだけど、詳しくは言ってなかったから、改めて説明するとね、実は、彼女は僕らと同じ、IBOのナインスチルドレンなんだよ」
「えっ?」
「えっ?」
流石のレイとカヲルも少々驚いたようだ。特にレイは「マリアがアンドロイドだ」と言う事を知っているだけに、余計に混乱しているようである。その時アスカが、
「あ、マリア、渚くんの前にきてよ♪」
「はい」
訳が判らないカヲルの前に、微笑を浮かべたマリアが立つ。ここでアスカもニヤリと笑い、
「渚くんさ、ちょっとマリアと握手してみて♪」
「えっ? どう言うこと?」
いきなり理解不能な事を言われたカヲルは一瞬ひるんだが、すかさずレイの方を見る。レイも一瞬固まったが、すぐに、
「……」
無言のまま頷いたので、カヲルも頷き返し、改めてマリアに向かって、
「よろしく」
と、言って、手を差し出した。するとマリアは、
「よろしくお願い致します」
と、「最高の微笑み」を浮かべ、カヲルの手を握った。
「!!!……」
カヲルは仰天した。何とも柔らかく、温かい手。そして、信じられないほど可愛いマリアの微笑み。
「…………」
尋常でないカヲルの様子と、この世の物とも思えない可愛いマリアの微笑みに、レイも呆気に取られている。
ここでアスカが、
「はい、じゃ、このへんでいいでしょ。握手はおしまい♪」
と、言ったものだから、カヲルは慌てて手を引っ込めた。アスカは続けて、
「じゃ、このへんでタネあかしするわね。レイにはちょっと話したんだけどさ、渚くんにはないしょにしてもらってたのよ。実はさ、この水無月マリアちゃんは、アンドロイドなのよね~♪」
「アンドロイド!!??」
カヲルの眼が点になった。
(Cへ続く)
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'Moon Beach ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))
機械仕掛けのチルドレン 第五話A
機械仕掛けのチルドレン 第五話C
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