機械仕掛けのチルドレン・第五話A
9月17日。7:30。
ピンポーン
『はい♪』
「あ、マリア、あたし♪」
『あ、アスカ様、いま開けますね♪』
暫くしてドアが開き、笑顔のマリアが顔を出す。
「アスカ様、シンジ様、おはようございます♪」
「おはようマリア♪」
「おはようマリア」
二人も微笑を返しながら部屋に入って行った。
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第五話・遊びは楽しい!?
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リビングで、ミサトから話を聞いたシンジは、
「へえーっ、じゃ、今日の家事はほとんど終わったんですか」
と、やや驚きつつ、台所で朝食を作っているマリアの後姿に目をやる。
「そそ。やっぱりわたしとちがって大したもんだわ。6時40分ごろから掃除と洗濯を同時に始めちゃってさ、洗濯機が動いてる間に掃除も終わらせて、ゴミをまとめた後、7時20分ごろには洗濯物を干し終わってるからね。ベテラン主婦顔負けよ」
ミサトも、やや恥かしげに苦笑している。そこに、トイレから戻って来たアスカが、
「トイレがピカピカじゃない。マリアがやったの?」
「そうよ。今日は遊びに行かせてもらうんだから、って言ってさ、トイレと風呂まで掃除しちゃったのよ」
「へえ~っ」
「へえ~っ」
驚き顔のアスカとシンジに、加持も苦笑しつつ、
「二日目からこれだろ。ミサトがますますグータラになっちゃうな…」
しかし、最早完全に開き直ったミサトは、
「いーじゃないの。家のことは気にしないで仕事に集中できるんだから」
と、言い切る。これには流石の加持も、
「はいはい。キャリアウーマンに家庭の味を期待した俺がバカですよ」
と、笑うしかない。ここでアスカがニヤリと笑って、
「加持さん、マリアの爪のアカを煎じてミサトにのませたら」
「お、それナイスだな」
これを聞き、流石のミサトも、
「アスカ! あなた!」
と、一瞬怒ったような顔を見せたが、すぐに苦笑して、
「……ぷっ、うふふふふふ、……あーあ、確かにねえ、わたしもちょ~っちマリアを見習わなきゃだめかな」
加持とアスカはニヤニヤ笑っている。ここでシンジが、
「でも、ミサトさん、マリアはそのために作られたアンドロイドなんですから、別にそう気にしなくても…」
それを聞いたミサトは、更に苦笑し、
「ま、そりゃそうだけどさ、そう言う意味じゃないのよ」
「えっ? どう言うことなんです?」
きょとんとしたシンジに、アスカが尚一層苦笑して、
「シンジ、わかってないわねえ。これはさ、女としてのプライドの問題なの」
「えっ? プライド、って…」
「あーあ、シンジったら、これだからねえ、もうちょっと女のきもちも勉強しなさいよ。ようするにさ、ミサトの場合、家事はぜんぜんだめって、自分でも言ってるけどさ、でも、自分の居場所がなくなっちゃうような状態になったら、やっぱ、なんとなくおもしろくない、ってことなのよ。それぐらいわかんなさいよ」
と、丁寧に説明したアスカの言葉に続いて、加持が、
「ま、そう言う事だ。シンジ君、君もそろそろ、もう少し女性の気持ちを考えるように努力しなきゃな。アスカに嫌われちゃうぞ」
「えっ!? は、はい…」
深刻な顔で言葉を失うシンジ。しかしアスカは、
「ほらほら、シンジ、そんなしけた顔しないの。そんな顔したらかえって女の子にきらわれるわよ」
「えっ?」
顔色の深刻度が増加したシンジに、アスカは、
「こう言う状態をさ、ちゃんとこなすのも男の役目なのよ。せっかく加持さんにおしえてもらったんだから、元気に、はいっ、て、答えときなさいよ」
「そ、そうなの……。わかった」
シンジは加持の方を向き、
「わかりました。勉強します」
と、真顔で答えた。加持は笑って、
「ま、がんばれよ」
シンジの様子を見ていたためか、いつの間にか、完全に元気が復活したミサトも、
「そゆことよ。ま、シンちゃんもがんばりなさいね。わたしももうちょっと家事をがんばるから」
と、笑っている。ここに来てシンジもようやく元気を取り戻したのか、
「はい、わかりました」
と、笑う。その時、
「お待たせ致しました。朝食の用意が出来ました」
と、マリアの声が聞えてきた。
+ + + +
朝食のトーストを口に運びながら、ミサトが、
「あ、アスカ、あんた、明日は空いてるわよね」
「うん、あいてるわよ。…あ、きのうの振袖の話?♪」
思わず相好を崩したアスカに、ミサトもニヤリと笑って、
「そうそう。昨日約束したでしょ♪ わたしゃ、約束はちゃんと守るんだから♪」
「いやっほーっ♪ そうこなくっちゃ♪」
大喜びのアスカである。ミサトは更に、
「振袖は晴着だから、発表会なんかはそれでいいかも知れないけどさ、普段のお稽古の時は、振袖ってわけにもいかないでしょ。でさ、お稽古用の小紋も買ってあげるから」
「ええっ!♪ ほんと?♪ サンキューミサト!♪」
「それから、ついでと言っちゃ何だけど、マリアにも色々と買ってあげるつもりしてるから。あんた、一緒に選んだげてよね」
「うん、わかった♪ …でもさ、なんかえらく気前がいいわねえ。どうしたの?」
喜びながらも、やや訝しげな顔をしたアスカに、ミサトはまたもやニヤリと笑って、
「な~に言ってんのよ。大切な娘二人のためでしょ♪ それぐらい当然だって♪」
と、そこに苦笑した加持が割り込んで、
「おいおい、あんまり調子のいい事を言うなよ。マリアの教育手当の支給が急に決まったからだろ。真相は」
「えっ? な~んだ。そうだったの。ぷっ」
思わずぷっと吹き出すアスカ。ミサトは横目で加持をジロリと睨み、
「なに言ってんのよお。わたしが今までシンちゃんやアスカのことで、なにかケチったことある?」
と、言った後、シンジの方を見て、
「そうでしょ。シンちゃん♪」
いきなり振られたシンジは、
「えっ? は、はい。ミサトさんは、確かに、僕らのことでなにかお金をケチった、なんてことは……」
「ほら、ごらんなさい♪」
と、勝ち誇った顔でミサトは加持とアスカに笑いかける。加持は一層苦笑して、
「はいはい、そうでしたね。申し訳ございません」
と、おどけて見せた。アスカも笑って、
「ま、たしかにそうよね。かんがえてみたら、ミサトがあたしたちのことでなにかケチった、なんてことはなかったわ♪」
と、頷いた後、
「あ、ミサト、マリアの教育手当、って?」
ミサトは軽く頷き、
「今朝本部長から電子メールが入ってたのよ。考えてみたらさ、なんせ、日本どころか、世界でも初めての実験でしょ。アンドロイドの教育なんて。それで、本部長が、教育手当の支給を上に強く頼んでくれてたんだってさ。それが認められた、って、今朝正式に連絡があったんだって」
それを聞いたアスカは、
「へえ、そうなの。よかったじゃない♪」
と、言った後、マリアの方を向いて、
「マリア、よかったわね♪ これであんたも、お金のことは気にしなくってもよくなるしさ♪」
マリアは微笑んで会釈し、
「はい、本当に有り難いことです」
シンジも、思わず微笑み、
「うん、よかったよかった」
ここでマリアは、深々と頭を下げ、
「わたしのような身寄りのないアンドロイドに、ここまでお気遣い戴き、感謝に堪えません。今後とも、皆様に愛されるアンドロイドになれますよう、精進を忘れず、日々努力致しますので、今後とも宜しくお願い申し上げます」
全員、マリアのしゃちほこばった長台詞を、一言一句聞き逃すまいと言うような顔で聞いている。
で、「挨拶」が終わり、顔を上げたマリアが、
「あ、皆様、わたしのことでお気遣い戴くのは本当に有り難いのですが、コーヒーが冷めてしまいますので、お食事をどうぞ」
と、申し訳なさそうに言ったものだから、全員はっと我に返り、一斉にコーヒーカップに手を伸ばし、
「!…」
「!…」
「!…」
「!…」
思わず全員で一瞬固まったまま、「お見合い」してしまった。一瞬の静寂の後、
「ぷっ」
「ぷっ」
「ぷっ」
「ぷっ」
今度は全員一斉に吹き出す。加持がすかさずニヤリと笑って、
「そう言や、昨日の晩もこんな事してたな。マリアの話に夢中になって、メシを中断してたぜ」
シンジも苦笑を浮かべ、
「そうですね。でも、なんて言うか、マリアの話って、思わず聞いてしまいませんか?」
アスカも微笑んで頷き、
「うんうん、なんかそうなっちゃうのよね♪ マリアって、天然ボケみたいでさ♪」
(Bへ続く)
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'A Sunny Day ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))
機械仕掛けのチルドレン 第四話D
機械仕掛けのチルドレン 第五話B
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