機械仕掛けのチルドレン・第四話D



(Cより続く)

 シンジは続けて、

「でもさ、そんな気がしててもさ、ちゃんと避妊のこと、考えてた? …正直言ってさ、僕、考えてなかったよ…」

 アスカはまた俯いて、

「あたしも、かんがえてなかった。…正直いってさ、避妊までかんがえて、セックスするのって、なんか、逆にちょっとこわいな…」

 シンジは軽く頷き、

「うん…、僕もそう思うんだ…。なんか、避妊して、アスカとセックスするって……、そりゃ、避妊って、とっても大切なことだと思うけど、薬局に行って、買って来るなんて、はずかしくってできないしさ…。それに、避妊するってことはさ、セックスを、普通のことって考える、ってことだろ……。それって、やっぱり、そんなことしてもいいのかな、って、どっか、こわいよ…」

「第一さ、薬局行っても、中学生には売ってくれないんじゃないの…?」

「そうだよね…」

 ここで一瞬の沈黙の後、シンジが、

「でさ、あの、それから、そのちょっと前にさ、僕、アスカに言ったよね。…自分に自信が持てるようになってから、アスカのこと欲しいって言う、って…」

「うん。……で、自信の方はどうなの…?」

「……前よりはずっと自信あると思う。…でもさ、やっぱり、アスカを妊娠させちゃったりは、できないよね……」

「…う、うん…」

「それに、避妊してても、失敗するかもしれないし…」

「……」

「だからさ、…あの、最後まではさ、まだしないほうがいいような気も…」

「う、うん…」

 またもや二人は黙り込む。暫くして、今度はアスカが、

「あのさ、シンジ…」

「うん?」

 アスカは顔を赤らめながら、

「…あのさ、最後までしなくても、がまんできる?」

「え?」

 アスカの言葉に、シンジも思わず真っ赤になってしまった。慌てて口から出た言葉が、

「そ、その…、がまんって言うよりもさ…」

 ここに来て、またもや言葉が出ない。しかし、一呼吸置いた後、思い切って、

「あの、僕、…アスカみたいなすてきな女の子と、あそこまでしちゃっただけでも、ぜいたくだ、って、思ってるよ…」

と、言ってしまった。

「え?」

 今度はアスカが一層真っ赤になって俯く。しかし、何秒かの後、彼女は顔を上げ、

「…シンジ、ありがと…」

と、言いながら、シンジに寄り添って来た。シンジは夢中でアスカを抱き寄せる。

「あ……」

 アスカの口から漏れた甘い吐息は、それ以上言葉にならなかった。

「………」
「………」

 二人はしっかりと抱き合いながら、何時果てるともなく、唇を重ねている。

 そして、どちらからともなく、ベッドに倒れ込み……、

「…あっ…、ああ…、シンジ…、好きよ…」

「大好きだよ…。アスカ…」

 二人は生まれたままの姿になり、抱き合いながら、まるで肌と肌とが溶け合って混ざり合うかのような感触の中にのめり込んで行った。

 + + + +

 さて、話は元に戻って、9月16日。

 ドライヤーで髪を乾かした後、アスカは一応パジャマに着替えてベッドに腰掛け、シンジが来るのを待っていた。

 無論の事、部屋に付いているセキュリティシステムの、体調センサーのレベルは下げてある。このシステムは、侵入者対策に加え、急病などの場合も通報出来るスグレモノで、脈拍や体温、呼吸の異常なども感知してしまうため、「興奮する事」などをやった場合は異常とみなされる可能性がある。それで、一定時間を区切り、体調センサーに関してはレベルを下げられるようになっているのである。

 で、そうこうしている内に、

ピンポーン

 アスカはそそくさと立ち上がってインタホンを手にする。

「あ、シンジ、今あけるわ♪」

 急いで玄関に行き、ドアを開けると、すぐさまシンジが入って来た。

「お待たせお待たせ」

と、言いながら、シンジはアスカの肩を抱くようにしてそそくさとベッドに向かう。そして腰を下ろすと、まず、

「………」
「………」

 二人の唇と舌が粘っこく絡み合う。アスカはシンジの背中に手を回し、しっかりと抱き付いて来た。やがて二人は唇を離し、

「ふぅーーっ…」
「ふぅーーっ…」

と、大きく息をついた。

 アスカはシンジの耳元で、

「ねえ、シンジ、これからはさ、みんなで同居だから、あんまりおおっぴらにはできないわねえ…」

「うん、でもさ、この部屋はまだ使えるし、時々は、ね……」

「うん……、シンジ、好きよ…」

「僕も、アスカのこと、大好きだよ…」

 甘い言葉を交わしながら、シンジの右手がアスカのパジャマの中に入って行く。

「あン…」

 敏感な部分を指先で転がされたアスカは、甘い吐息を一つ漏らした。体が火照り、鼓動は聞えそうなほど大きくなる。その時、


ピンポーン


「!!!!!」
「!!!!!」

 余りにも意外な状況に、二人は思わず飛び離れてしまった。

ピンポーン ピンポーン

 二人は顔を見合わせたが、アスカが恐る恐る立ち上がってインタホンの所に向かう。

「…はい」

『あ、アスカ様! ご無事でしたか!!』

「マリア!?」

 驚いた事に、「犯人」はマリアである。

「どうしたのよ。いったい」

『いえ、アスカ様のお部屋の体調センサーに、異常な信号が現れましたので、もしかしたら急病かと思いまして、急いで参りました!』

 マリアの言葉に、アスカはとんでもなく驚いたが、何とか平静を装い、

「きゅ、急病、って、あたしはなんともないわよ。それに、チェックのレベルは下げておいたのに、どうしてわかったのよ」

『はい、わたしのアンテナに入って来た信号を分析しましたところ、アスカ様のお部屋のセンサーのものだとわかりました。それで、レベルは低いながらも、おかしな波形でしたので、ご病気かと思いまして、念のために…』

「ちょ、ちょっと待ってよ。そりゃ、あたしだっていろいろと事情はあるんだから、体操ぐらいはすることもあるわよ。びっくりさせないでよ」

 流石におかしな言い訳である事は承知の上だが、アスカとしては「体操」とでも言うしかない。

『そうですか。それはどうも、お騒がせして申し訳ございませんでした。これからは注意いたしますので、お許し下さい』

「はいはい、もういいから、あんたもかえってはやくねなさいよ、って、あれ、アンドロイドもねるの?」

『はい、寝なくても特に問題はありませんが、人間の皆様に合わせて、一応夜は寝ることになっております。その間は、コンピュータのメンテナンスを行いますが』

「あ、そうなの。じゃ、早くかえってメンテナンスをやっときなさいよ。じゃ、おやすみね」

『はい、おやすみなさいませ』

 インタホンを置き、気の抜けた表情で、アスカはベッドに戻って行く。

 + + + +

「………だってさ…」

「あっそ…」

 ベッドに戻って来たアスカは、一通りの事情をシンジに説明した。無論、二人とも放心状態である。

「でさ、シンジ、つづき、する?」

「……やめとく…」

「さんせい…」

 二人は暫く引きつったような顔で苦笑していた。

続く


この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'主よ、人の望みの喜びよ '(オルゴールバージョン) mixed by VIA MEDIA

機械仕掛けのチルドレン 第四話C
機械仕掛けのチルドレン 第五話A
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