機械仕掛けのチルドレン・第四話C



(Bより続く)

「いーっていーって♪ そんな深刻な顔しないでいいからさ。みんなで遊びに行くんだから、にぎやかな方がおもしろいでしょ♪ それに、あんたもチルドレンなんだし、みんなとなかよくしないとだめでしょ♪」

 アスカにこう言われたマリアは満面に感謝の表情を浮かべ、

「アスカ様、シンジ様、ありがとうございます」

と、深々と頭を下げた後、ミサトと加持の方に向き直り、

「では、大変勝手な事ですが、明日はシンジ様とアスカ様に同行させていただきます。無論、帰ってからはきちんと家事は行いますので」

 ミサトと加持は苦笑して、

「はいはい。そんなに気にしなくていいからさ」

「そうだぞ。みんなと仲良くするのも君の任務だからな」

と、言ったものだから、またもやマリアは再び深々と頭を下げて、

「リョウジ様、ミサト様、ありがとうございます」

 すると加持は、

「お、リョウジ様と来たか」

と、一層苦笑したが、すぐに、

「あ、そう言やそうだな。名前で呼べ、って言ったのは俺だった。あはは…」

と、照れ笑いを浮かべた。

 + + + +

 全員でワイワイ言いながらの後片付けも終わり、今日はそろそろお開きの時間、と相成ったので、シンジは、

「じゃ、僕らはそろそろ部屋に帰ります。明日荷物をまとめてこっちに来ますから」

と、言った。加持とミサトは頷き、

「お、そうか。じゃ、明日からな」

「うんうん、じゃ、二人とも頼むわね♪」

「はい」
「うん♪」

 シンジとアスカが立ち上がって玄関に向かうと、当然と言うべきか、マリアはきちんと後に付いて来る。

「じゃね♪ マリア、明日むかえにくるからさ♪」

と、アスカがマリアに微笑みかけると、マリアも、

「はい。ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

と、またもや頭を下げる。アスカとシンジは苦笑して、

「またまた。そんなにしゃちほこばらなくていいわよ」

「そうそう。もっと気楽にね」

 するとマリアは、

「はい、わかりました。シンジ様、アスカ様、おやすみなさいませ」

と、またまた頭を下げた。これでは流石に切りがないので、二人とも苦笑したまま頷いて外に出た。

 + + + +

 二人がアスカの部屋の前までやって来た時、アスカが、周囲を見回して、人気のない事を確認した後、やや俯き気味のまま、小声で、

「ねえ、シンジ…」

「ん?」

「…よかったら、さ……」

「え?」

と、一瞬訳が判らないと言う顔をしたシンジだが、すぐに気付いて、小声で、

「…あ、…う、うん…。じゃ、一度部屋に戻ってさ、シャワー浴びてから……」

「……うん、じゃ、あとでね……」

「う、うん…」

 シンジはそそくさと部屋に戻って行く。少し顔が上気しているアスカは、鍵を開け、部屋に入った。

 + + + +

シャーーーーーーーーッ

 やや虚ろな目付きのアスカがシャワーを浴びている。彼女はハーフだし、もうすぐ15歳と言う事もあって、流石に素晴らしい体だ。

「キュッ」

 水栓を閉じると、アスカは浴室から出て、バスタオルで入念に体を拭いた。体全体が上気しているように見えるのは、シャワーを浴びたためだけではなさそうだ。

バタッ

 アスカはバスタオルを身に纏うと、脱衣場の扉を開け、寝室に向かった。

ブウウウーーッ

 鏡台に向かい、濡れた髪をドライヤーで乾かす。鏡に映る彼女の表情は、心なしか、ウキウキしているように見える。

(シンジ……)

 アスカは、ミサトと加持が新婚旅行に出かけた日の事をふと思い出していた。

 + + + +

 話は少し遡る。

 ミサトと加持が結婚式を挙げたのは8月17日だったが、新婚旅行に出発するのはその翌日の18日からと言う事で、17日の夜、既に今の部屋に移っていたシンジとアスカの所に、それぞれ、加持とミサトが、話がある、と、やって来た。

 シンジに面と向かった加持は、

「シンジ君、男同士だ。単刀直入に言うぞ」

「は、はい。なんでしょう?」

 何の事か判らないシンジはやや緊張している。

「君とアスカとの事だ」

「えっ?」

 流石にシンジは驚いた。自分がアスカと「恋人同士」と言ってもいい関係になっている事は、無理に隠してはいないが、加持にこうもストレートに言われるとは思っていなかったからだ。加持は続けて、

「俺も人に対して偉そうに言えるほどの事はやってないし、君とアスカの仲についてゴチャゴチャ言うつもりはないよ。でもな、一つだけ君に約束して欲しい事があるんだ」

「は、はい……」

 ここで加持は一呼吸置き、

「絶対に、妊娠だけはさせるなよ」

「!!!!!」

 シンジは絶句した。加持はシンジの眼を確と見て、

「わかってるとは思うが、君もアスカもまだ中学生だ。中学生だから何もしちゃいかん、と言う資格は俺にはないが、事、妊娠と来たら、君たち二人だけの問題じゃなくなる。中絶と言う事になったらアスカも深く傷つくし、本当なら生まれて来るはずの子供を殺すのも忍びない。その意味で、それだけは、絶対にないようにな。ついでに言うと、今、ミサトはアスカの所に行っている」

「…………」

 流石に返す言葉がないシンジの眼を見詰め、加持は、

「わかったか?」

 一瞬置いて、シンジは、

「はい、わかりました。約束します」

 それを聞いた加持は、笑って、

「そうか、ありがとう」

と、シンジの肩をポンと叩いた。

 + + + +

「………うん、わかった。約束するわ」

 アスカは軽く頷いた後、じっとミサトの眼を見た。ミサトは、そんな彼女の両肩に手を置き、

「ありがとう」

と、だけ言うと、そっとアスカを抱き寄せた。アスカも、甘えるようにミサトの胸に顔をうずめていた。

 + + + +

 そして、8月18日の夜。

 レイ、カヲル、ナツミと一緒に、ミサトと加持を関空で見送ったシンジとアスカの二人は、マンションに帰って来た後、アスカの部屋で向かい合っていた。

「シンジ……」

「ん?」

「加持さんから、いわれた?」

「うん。…アスカも、ミサトさんから?」

「うん。…妊娠だけは絶対だめよ、それだけは注意しなさい、って……」

「そっか……。僕も、加持さんから同じこと言われたよ…」

 二人は俯いたまま黙っていたが、暫くして、

「あの…」
「あの…」

と、同時に顔を上げて見詰め合う。すると、当然と言うべきか、二人とも次の言葉を発する事が出来ない。ややあって、アスカが、

「なに…」

 シンジはシンジで、

「いや、その…、アスカから言ってよ…」

 無論の事、アスカは、

「なによ、シンジからいいなさいよ。男でしょ」

と、「最後通牒」を発する。これを言われたらシンジとしても、

「ちぇっ、アスカはこんな時だけ男扱いするんだもんなあ…」

と、ブツブツ言いながらも覚悟を決めざるを得ない。まあ、このやりとりは、この二人にとっては「定番の愛の言葉」みたいなものなのであるが……。

 で、シンジはしぶしぶと、

「じゃ、言うよ。…あのさ…」

「うん」

「あの、その…」

「はやくいいなさいよ」

「う、うん…。あの、アスカ、僕らさ、ほら、今年の2月にさ…」

「え? …うん…」

 ここまで言われればアスカにはシンジの言いたい事は判る。自分も同じような事を言おうとしていたからだ。しかし、いざシンジに言われてしまうと、急に照れ臭くなり、まともに口には出せない。

「あの…、最後までは行かなかったけど、あんなこと、しちゃっただろ…」

「う、うん…」

 ここでまた二人は黙ってしまった。シンジの言う「あんなこと」、とは、無論、言うまでもないが、使徒が襲来する直前に、「二人が結ばれる寸前まで発展してしまった事」である。暫しの沈黙の後、再びシンジは、

「で、あれからさ、僕ら、事件のこともあったし、キスはしてもさ、あそこまではしなかっただろ…」

「うん…」

「でも、ミサトさんと加持さんが結婚して、新婚旅行行っちゃったらさ、ほんと言うと、その間に、なんとなく最後までしちゃいそうな、そんな気、してなかった?」

「え?」

 アスカは顔を上げた。無論の事、シンジの言った事は当たっていたからだ。

「シンジは、そんな気、してたの?」

「…う、うん…。正直言うと、そうなんだ…」

「そっか……。あたしも……」

「やっぱり、アスカもそう思ってくれてたの……」

(Dへ続く)

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'主よ、人の望みの喜びよ '(オルゴールバージョン) mixed by VIA MEDIA

機械仕掛けのチルドレン 第四話B
機械仕掛けのチルドレン 第四話D
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