機械仕掛けのチルドレン・第四話B



(Aより続く)

「はい。あと、『おいしい』と言う概念が数値化出来れば、もっと皆様に喜んでいただけるお料理が作れます。今後の研究課題ですね」

「ふーん……」
「ふーん……」
「ふーん……」
「ふーん……」

と、四人は感心して頷いている。その時マリアが、

「あ、おしゃべりが過ぎまして申し訳ございません。シチューが冷めないうちにお召し上がりください」

と、言ったものだから、全員、はっと我に返ってスプーンを手にした。

 + + + +

 食事も終わって、全員が、雑談がてら、マリアの入れたコーヒーを飲んでいる。そんな中、アスカが、

「あ、そういやさ、ミサト、マリアって、あたしたちの学校の制服きてたじゃない。やっぱり、実験的に学校に通うの?」

 ミサトは頷いて、

「そうよ。月曜日からあんたたちのクラスに編入されることに急に決まってね。もう手続きも終わってるわよ」

「へえー、そうなんだ。…でもさ、マリアの頭だったら、中学校なんかいかなくってもいいんじゃないの?」

「な~に言ってんのよ。あんただって大卒でしょ。それと似たようなもんよ。要するに、マリアの場合は、人間との生活を覚えるために学校に行くのよ」

「あ、そっかあ。あたしの場合も、一応、日本での生活のために、ってことだったもんねえ」

「そうそう。だからさ、みんなびっくりすると思うけど、そのへん、うまくフォローしたげてね。頼んだわよ」

「うん、わかった♪」

と、笑って頷いたアスカに、マリアが、

「アスカ様、どうもありがとうございます。よろしくお願いいたします」

と、深々と頭を下げる。それを見たアスカは、

「まっかせなさいよ♪」

と、再び微笑んだ。その時、マリアの頭の赤い髪飾りが目に止まり、

「あ、そうそう。あたしさ、今日、ずっと気になってたのよ。マリアさ、あんたの頭のその赤い玉だけどさ、それ、ただのかざりなの?」

 するとマリアは軽く頭を振り、

「いえ、これはアンテナです。これを使いまして、色々な周波数の電波を出したり受けたり出来るようになっておりますし、携帯用の回線を使ってインターネットに接続することも可能です」

「へえー、そうなんだ」

と、感心顔のアスカに、マリアは続けて、

「それと、まだテストは行っておりませんが、仕様としては、脳神経スキャンインタフェースと直接電波で交信することもできるようになっております」

「えっ? そんなこともできるの」

「はい、接続さえできれば、皆様と直接『心理的交信』も可能と言うことになります」

「あ、そっかあ、そうじゃなきゃ、エヴァを動かすことなんてできないもんねえ」

「はい、その通りです」

 その時、シンジが思い出して、

「あ、そう言えばミサトさん、引越しの件なんですけど、僕らの部屋は、空けちゃうんですよね?」

 するとミサトは、

「あ、その件なんだけどさ、身の回りのものだけこっちに持って来たらいいわよ。どうせ来年の春からはまた第3でしょ。それにあんたたちの今の部屋も返すわけじゃないから」

「えっ、そうなんですか」

「うん、適当に整理してさ、荷物置き場にしといてかまわないから」

「はい、わかりました」

「それで、こっちでの部屋割りなんだけど、ちょうど部屋が三つ空いてるし……」

と、言いつつ、ミサトは後を振り返り、並んだ三つのドアを見渡した。

「…向かって左から、アスカ、マリア、シンちゃんの順にしましょ。いいわね?」

「あ、はい」

と、シンジ。続いてアスカも、

「うん、わかった」

 マリアは、

「はい、了解いたしました」

と、頭を下げる。そして続けて、

「では、一段落いたしましたようなので、後片付けをさせていただきます」

と、言って立ち上がった。ちょうどその時、

トゥルル トゥルル トゥルル

 マリアが受話器を取る。

「はい。加持でございます」

『! …あ、綾波と申しますが、加持部長、いえ、ミサトさんはおいでですか?』

「はい。しばらくお待ち下さい」

 + + + +

(これ、誰なの……;)

 思いもよらぬ声にレイは驚いている。

 + + + +

「ミサト様。綾波様と仰る方からお電話です」

「あ、レイからね」

と、言ってミサトは立ち上がり、電話の所へ行く。

「はい、ミサトです♪」

『あ、こんばんは、綾波です。あ、あの、シンちゃんかアスカ、そちらにいますか…?』

「あ、二人ともいるわよ。ちょっち待ってね♪」

『あ、あ、それから、すみません。…あの、電話を取ってくれた方は…』

「あ、あの子ね」

と、ミサトは苦笑しながら、

「あの子はさ、今日からウチの家族になった子なのよ。水無月マリア、って言うの。ま、詳しくは、シンちゃんかアスカに説明させるわ。それで、どっちを呼ぶの?」

『あ、じゃあ、アスカをお願いします』

「はいはい♪ ……アスカ、レイからよ♪」

「え? レイから?」

と、言いつつ立ち上がるアスカに、ミサトは、

「マリアのこと、説明してあげてね♪」

「あ、そっか♪」

 やや苦笑しながらアスカは受話器を手にした。

「はい、あたし♪」

『あ、アスカ、部屋の方と携帯に電話したんだけど、連絡取れなかったから、もしかしたらそっちかな、って思って…』

「あ、わるいわるい。あたしもシンジも今日はずっとこっちだったかんね。で、なに?」

『うん、実はさ、明日、渚くんと一緒に遊びに行くんだけど、よかったら、アスカとシンちゃんも一緒にどうかな、って…』

「あ、そうなの。あたしとシンジもでかけるつもりだったから、ちょうどいいかもね。ちょっとまってよ」

 アスカは受話器の送話口を手でふさぐと、シンジの方に向き、

「シンジい」

 呼ばれたシンジはテーブルからこっちにやって来て、

「なに?」

「レイがさ、明日、渚くんと遊びにいくんだけど、あんたとあたしもいっしょにどう、って?」

「あ、そうなの。いいじゃない。一緒に行こうよ」

「うん、わかった」

 アスカは再び受話器を耳に当て、

「もしもし、シンジもオッケーだって」

『あ、そう。よかった。…じゃ、明日の朝9時でいいかな。待ち合わせの場所は、いつもの、学校へ行く時の合流地点でいいわね』

「うん、わかった。じゃ、明日9時ね」

と、言った後、アスカは少しニヤリとして、

「あ、それからさ、さっき電話をとった女の子なんだけどさ」

『え? あ、みなずきマリアさん、って人? 部長は、家族になった、って……』

「へへへ、まあそんなとこなんだけどね。実は、あの子ね、『人』じゃないのよ」

『えっ!? それ、どう言うこと?』

「きいておどろくなかれ。なんと、あの子はロボットなのよねー♪」

『ええっ!? ロボット!?』

 流石のレイも電話の向こうで絶句している様子が伝わって来る。

「そ。アンドロイドなのよ。あ、そうだ! ちょっとまってね♪」

『う、うん……』

 アスカは一層ニヤニヤしながらダイニングの方を向くと、

「ねえ、ミサト、明日レイと渚くんにマリアを紹介してもいい?」

 ミサトはやや驚いたように振り向き、

「えっ!? マリアを?」

と、素っ頓狂な声を上げたが、すぐに、

「あ、そっか。うんうん、いいじゃない♪ どうせみんな仲間になるんだしさ♪」

 それを聞いたアスカは更にニヤつきながら、受話器を持ち直して、

「あ、レイ、ちょうどいいわ♪ 明日さ、マリアを紹介するわ♪ いっしょにつれてくから♪」

『ええ? う、うん…。わかった……』

「あ、それとさ♪ 渚くんにはないしょよ♪ いきなり会わせてびっくりさせるんだからね♪」

『う、うん。わかったわ……。じゃ、明日ね』

「じゃね♪ おやすみレイ♪」

『おやすみ』

 アスカは受話器を置き、シンジの方を見た。シンジもニヤニヤ笑っている。

「シンジ、マリアと話したら、あの二人、びっくりするわよ♪」

「楽しみだね♪」

 + + + +

(アンドロイド、って、どう言うことなの……)

 電話を切った後、レイは暫し放心状態であった。

 + + + +

「……て、わけでさ」

 テーブルで神妙な顔をしているマリアに、アスカがニヤニヤしながら今の状況を説明した後、

「明日さ、あたしたち四人につきあってね♪ たのむわよ。マリア♪」

 流石にマリアは一層神妙な顔で、

「はい。了解致しました。でも、わたしも遊びに連れて行って下さるなどと、よろしいのでしょうか?」

(Cへ続く)

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'主よ、人の望みの喜びよ '(オルゴールバージョン) mixed by VIA MEDIA

機械仕掛けのチルドレン 第四話A
機械仕掛けのチルドレン 第四話C
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