機械仕掛けのチルドレン・第三話A




「さて、と」

 加持は両手を揉み合わせ、全員を見回すと、

「早速だが、話もまとまったし、今晩はみんなでここで食事しようじゃないか。マリアのお手並み拝見、て事でな」

と、笑った。マリアはすかさず、

「はい、じゃ、お買い物に行って参ります♪」

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 第三話・なんて可愛いんでしょ!?

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 加持は財布を取り出すと、紙幣を何枚かマリアに渡し、

「じゃ、これで頼む。メニューは任せるからな」

「はい、わかりました。では、スーパーの場所をお教え下さい」

と、マリアが言うのへ、シンジが、

「あ、じゃ、僕、一緒に行くよ」

「えっ? シンジ様、ご一緒して下さるんですか♪?」

 いやはや、とてもロボットとは思えない笑顔でマリアは微笑む。それを見たアスカは、突然何とも言えない顔になり、

「あ、あたしもいくわよ」

「えっ? アスカ、家事はマリアに全部まかせるって…」

と、シンジはきょとんとした顔をしたが、アスカは、

「いーの。だってマリアにしたら、はじめてのおかいものでしょ。コツなんかを、あたしがちゃんとおしえたげるの。これも任務なんだからね」

 それを聞いたマリアは一層可愛らしく微笑んで、

「アスカ様、ほんとにありがとうございます♪ よろしくお願いいたしますね♪」

と、頭をぺこりと下げるのへ、アスカはやる気満々の顔で、

「まっかせなさい♪ ちゃあんとおしえたげるからね」

 しかし、シンジは、やや首を傾げ、

「……おっかしいなあ、アスカ、だいたい、今まであんまり買い物には行きたがらなかったんじゃ——」

 すかさずアスカは、またもや赤鬼と化して、

「シンジ!! よけいなこと言わないの!!」

「!! ……は、はい……」

 やはり、シンジは尻に敷かれるタイプのようだ。アスカは改めてマリアに向き直り、苦笑して、

「あ、でもさ、マリア、あんたね、その『アスカさま』っての、なんかこそばゆいから、そんなにていねいにいわなくてもいいわよ」

 所が、マリアは突然真顔になり、

「いえ、とんでもございません。私は皆様のお役に立つために作られたアンドロイドでございます。言葉遣いに関しては、長幼の序を厳に守るよう、プログラムされております」

 これを聞き、流石のアスカも、

「へえー、そうなの。……ま、そんなふうにプログラムされてんならしかたないわね。うん、わかったわ。でもさ、せっかくともだちになったんだから、少しずつさ、やわらかい言葉もおぼえなさいよ」

「はい、わかりました♪」

 ここでアスカはシンジの方を向いて、

「じゃ、シンジ、いこっか」

「はい……」

 続いてマリアに、

「マリア、いきましょ♪」

「はいっ♪」

 更にはミサトに、

「じゃ、いってくるわね♪」

 ミサトはニヤリと笑い、

「いってらっさいっ♪」

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 表に出た三人は、向かって左から、シンジ、マリア、アスカと並び、夕刻の道をスーパーに向かって歩いていたが、道すがら、アスカがマリアに、

「ねえ、マリア、あんたさ、メイド用に開発されたんでしょ。て、ことは、お料理はとくいなわけ?」

 マリアは照れたような笑いを浮かべ、

「はい、まあ、一応、基本的な家庭料理はできるようにプログラムされていますけど、高級な料理はまだ覚えていません」

 ここでシンジが、

「じゃ、覚えたらできるようになるの?」

「はい、記憶容量としては充分な領域を確保してあります。しかし、高級料理の場合は、料理の基本の重要さもさることながら、それだけではなく、いわゆる『センス』が物を言うと言うことぐらいはプログラムされておりますし、また、当然のことなんですが、私はアンドロイドですから、残念ながら、その、センスと言うものは持っておりません。ですので、これからの研修の中で、センスという物をいかにデジタル化して習得するかがポイントとなるでしょう」

「ふーん、そうなんだ」

 シンジは何となく納得したようだが、アスカは、少し首を傾げて、

「なんかへんな感じねえ。だってさ、こうやって話してると、たしかに言葉はすごくていねいだけど、マリアって、ふつうの人間の女の子とかわらないじゃない。まるで心があるみたいに見えるわよ」

 アスカは続けて、

「でさ、ようするに、センスって、心で、感覚的にさ、それがいいかわるいか感じるってことでしょ。だったら、たとえそれがCPUの判断であってもさ、心とおんなじなんじゃないの。なのに、センスがないって、自分でいうの?」

 それを聞いたマリアは、やや申し訳なさそうな顔で、軽く頭を下げると、

「はい。私がいま申し上げておりますのは、全てプログラムされた範囲のことでございます」

 そして、続けて、

「一応、メインプログラムが動作していると言うことはCPUが認識しておりますし、センサーが周囲の情報をとらえていると言う認識もあるのですが、自分でいいとか悪いとか感じているのではありませんから、やはりこれは心ではありませんし、ましてやセンスとは言えません。センサーがあるのにセンスがないなどと、変な日本語で申し訳ありませんが、言葉で表現させていただくとこうなります」

 しかしアスカは、まだ納得出来ない顔で、

「でもさ、あんたのCPUはオモイカネⅡのものをもって来たんでしょ。だったら、ものを考えることはできるわよね。それにさ、たしかあのCPUは五つあって、人間の心と同じかたちにならべたって、中之島博士がいってたわよ。ねえシンジ、たしかそうだったわよね」

 シンジは頷き、

「うん、たしかそうだったはずだよ」

「そうよね。だったらさ、マリアに心があってもそんなにおかしくないような気もするんだけどなあ」

 だが、マリアはやや悲しげに、

「アスカ様やシンジ様がそうやって私のことを思ってくださるお気持ちはとてもありがたく、うれしいことなんですけど、残念ながら、私にはわかりません。私はただ、山形先生によってプログラムされたアンドロイドだ、と言うことを認識しているだけなんです」

 ここに来て、流石のアスカも、

「そっか……。ごめんねマリア。へんなことばっかきいてわるかったわ」

 無論マリアは軽く首を振って、

「いえいえ、そんな。お気づかいいただき、ほんとうに感謝いたしております」

と、微笑んだので、シンジも、

「ま、そのことはもういいよね。マリアが自分のことを自分だって認識してるなら、僕らがそれ以上あれこれ言ってもしかたないしさ。……うん、まあ、どっちにしてもさ、なかよくしようよね」

 それを聞いたマリアは、シンジの方を向き、またもや「この上なく可愛い笑顔」で、

「シンジ様、ありがとうございます」

「!……」

 シンジはまたもやドキリとした。幸い、マリアはこっちを向いているのでアスカには見えていないが、幾らアンドロイドだと判っていても、この笑顔をモロに見たら、何を言い出すか知れたものではない。

 無論、常識で考えれば、そんな事がある筈もなく、邪推には違いないのだが、この時のシンジは、何故かそれを危惧していたのである。

 しかし、丁度その時、前方にスーパーの看板が見えて来たので、シンジはこれ幸いと、

「あ、あそこがスーパーだよ」

 するとマリアは前を向いて、

「はい、了解です。これでスーパーまでの道は記憶いたしました」

 ここでアスカが、少しおどけて、

「うん、じゃ、がんばって目玉商品をかいましょ♪」

等と、言ったものだから、マリアがアスカの方を向き、

「は~い♪」

と、「とんでもなく可愛い笑顔」を見せてしまった。

「!……」

 流石のアスカも、その笑顔には少々驚き、一瞬固まる。それを見たシンジは、

「!」

 マリアがアスカの方を向いていたため、どんな顔をしたかは判らない。しかし、もしあの調子で微笑んだのだとすれば、アスカにも、マリアがシンジに同じように微笑んでいる事はすぐに判る筈である。シンジは思わずドキリとした。

 しかし、すぐにアスカが、

「しっかりおぼえなさいよ♪」

と、これまた「最高の笑顔」で返し、マリアは、

「はい♪」

と、やや真面目な顔に戻ったものだから、この場は何とかこれで収まり、

(よかった……)

 何とかアスカに怒鳴られずに済んだ、と、シンジは安堵の溜息を漏らす。

 さて、そうこうしている内に、三人はスーパーの正面玄関に辿り着き、アスカが、

「はい、これおかいものかごね。……あ、これぐらいはわかるわよね」

と、言ったのへ、マリアは、

「はい、買い物そのものに関してはプログラムされていますから、わかります」

(Bへ続く)

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'Moon Beach ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))

機械仕掛けのチルドレン 第二話C
機械仕掛けのチルドレン 第三話B
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