機械仕掛けのチルドレン・第二話A




「アンドロイドお!!??」
「アンドロイドお!!??」

 素っ頓狂な声を上げたシンジとアスカに、マリアは、やや眼を細めて笑いかけ、

「はい、そうです。私は、山形ケンジ先生の設計により、京都精密ロボット工業株式会社で製作されたアンドロイドです♪ あ、ちなみに、開発コードネームはMGL−00。起動開始日は、2016年7月18日です♪」

と、「追い討ち」をかける。二人は尚一層混乱し、あんぐりと口を開けてしまった。

 そこに、マリアの後から、

「まあ、二人とも上がってよ」

と、苦笑交じりのミサトが顔を出した。よく見ると、ミサトの顔はほんのり赤い。シンジとアスカは、訳が判らないまま、

「はい……」
「はい……」

 + + + +

 第二話・家事はお任せ!?

 + + + +

『……おかけになった電話は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため、かかりません……』

(……出ないわ……。出かけたのかしら……)

 レイが受話器を耳に当てたまま、やや寂しそうにしている。机の上には京都の観光案内雑誌が2,3部。メモも何枚か見える。

 実はレイも明日カヲルと遊びに行く予定を立てており、いっその事、ダブルデートを、と考えて、シンジとアスカに連絡を取ろうとしていたのだ。まずアスカの所にかけたが留守。次に、シンジにもかけてみたがこちらも留守。ここまでやったのなら、と、スマートフォンにまでかけてみたが、二人とも電源を切っている。

 やむなく、すこし俯き加減になり、受話器を置いた後、

(…シンちゃんとアスカ、二人でどこか行ったのかな…。どうしたんだろ、二人とも…)

 不思議な事に、今までレイはこの二人に電話して空振りであった事はなかった。いつも必ず連絡は取れていたのである。それだけに、今回、二人ともに電話が繋がらなかった事は、別に「異常事態」ではないとは言うものの、「いつもと違う」と、思わせるのには充分だった。

「仕方ないわ。また後でかけましょ……」

 呟きながら、レイは、机に戻って雑誌を広げ、

(……どこがいいかな……)

と、シャープペンシルを手にした時、

トゥルルル トゥルルル トゥルルル

「あらっ?」

 はっとなり、反射的に立ち上がって受話器を取る。

「はい、綾波です」

『渚です』

「あ……」

 一瞬言葉に詰まったレイに、カヲルは、

『ん? どうしたの?』

「ううん、なんでもないの。…今さっき、シンちゃんとアスカに電話してみたんだけど、二人とも留守なのよ。スマートフォンもつながらないの。それで、後でまたかけようって思ってたとこに、いきなり渚くんからかかって来たから、一瞬とまどっちゃって……」

『なあんだ。そうなの。…で、どこに行くか決めた?』

「うーん、それがさ、なかなか決まらなくて……」

『僕の方もさ、一応考えてみたんだけど、どうも迷っちゃってさ。それで、綾波さんの方はどうかと思ってね』

「なーんだ、いっしょね…。うーん、どこにしようかな……。あ、そうだ、この前雑誌で見たんだけど、銀閣寺のあたりにね……」

 レイはシンジとアスカにかけた電話の事などすっかり忘れ、カヲルとの、

「とりとめないながらも、二人だけの世界」

に没入してしまっている。考えてみると、この二人は、この二人故に、

「電話で話しているのが、一番気楽で、一番楽しく、一番自分に素直になれる」

と、言う、実に「安上がりなカップル」なのであるが……。

 それはさておき、この時のレイにとっては、まさか明日の「ダブルデート」に、「とんでもない事態」が待ち受けていると言う事などは、全く考えもしない事であったろう。或いは、「つながらない電話」は、その予兆であったのだろうか……。

 + + + +

「……話としては以上よ。わかった?」

と、ややヤケクソ気味に言い切ったミサトの前で、テーブルを挟んで座っているシンジとアスカは、まだ開いた口が塞がらなかった。無論、こちらから向かって、ミサトの左では加持が苦笑しており、右にはニコニコ顔のマリアがいる事は言うまでもない。

 ややあって、アスカが、

「…でさ、まあ、ミサトの話はわかったわ。…ようするに、その子は、アンドロイドだけど、IBOのナインスチルドレンで、しかも、新型エヴァが4機作られるから、あたしたちだけじゃなくって、その子もテストパイロットになっちゃった、って、ことよね。…でさ、ミサトがその子の教育係ひきうけさせられちゃったのはわかったけど、それがあたしとシンジにどう関係するの?」

「それはさ」

と、ミサトはここで大きく息を吸い込み、

「要するに、シンちゃんとアスカもここに戻って来て、わたしたち夫婦と、このマリアの五人で同居する、って、ことなの」

「どおきょおおおっ???!!!」
「どおきょおおおっ???!!!」

 シンジとアスカは、思わず腰を浮かせて立ち上がり、そのまま凍り付いてしまったが、一瞬の後、赤鬼と化したアスカが、

「じょ、じょうだんじゃないわよっ!!! なんであたしがここにもどってこなきゃなんないのよっ!!! しかもさ、ロボットと同居なんて、まっぴらごめんよっ!!!」

 ここで加持が、苦笑を浮かべ、

「まあまあアスカ、ちょっと落ち着いて。座って座って」

 次に、立ち上がったまま青い顔で絶句しているシンジにも、

「ほら、シンジ君も、とにかく座って」

と、諭したので、二人は少し気を取り直し、椅子に座った。加持は続けて、

「まあ、いきなり同居しろって言われたアスカとシンジ君の気持ちはわかるんだが、これも半分任務なんだよ」

「にんむう!!??」
「にんむう!!??」

 二人はまたもや眼を剥いたが、加持はそのまま、

「うん、さっきも言ったように、この、水無月マリア君は、元々は宇宙ステーションでのメイド用として開発された。それだけに、人間の家庭と言うものをきっちり教え込む必要がある。宇宙ステーションと言う狭い空間で、しかも、ちょっとイライラしたからと言って、気分転換に家に帰るわけにもいかない場所で勤務する人と接するんだから、細やかなサービスは絶対に必要だ。その意味でな、政府の意向としては、出来る限り色々なパターンの、人間との接触を勉強出来るように、実習にあたって配属する家庭の家族構成は、やはり、最低、夫婦二人と、男女の子供二人ぐらいは欲しい、と言う事なんだ」

 これを聞いたシンジとアスカは、一瞬何の事か判らずにお互い顔を見合わせたが、すぐに気付いて、

「あたしとシンジが加持さんとミサトのこどもおお??!!」
「僕とアスカが加持さんとミサトさんのこどもおお??!!」

と、また腰を浮かせて眼を剥いてしまった。ここでミサトが苦笑して、

「そゆことよ。ま、あんまり出来のいい子供じゃないけどねえ」

と、つい余計な冗談を言ったものだから、アスカはまたもや真っ赤になり、

「な、なによっ!! そりゃ、あたしだって自分がそんなにできがいいとは思ってないけどさ、ミサトだって、母親としたらぜんぜんできが悪いじゃないのよっ!!」

 原因は自分にあるとは言うものの、ここまで言われたらミサトも負けてはおれず、

「あーら、言うわねえ。ま、そりゃ、わたしゃさ、炊事も洗濯もまるでだめ、ちらかすことだけはいっちょまえのダメ主婦よ。でもさ、わたしゃ、ずう~っと任務任務で生きて来たのよ。前に渚君がウチに来た時、あんたも、わたしに家庭の味を求めるのはどだい間違ってる、って、言ってたじゃないのよ。今更わたしに母親の味求めることそのものがナンセンスでしょっ」

 それを聞いたアスカは、ますます頭に血が昇り、思わず、

「な、なによっ!! ひらきなおっちゃってさ! だったら、13歳や14歳のいたいけな女の子にドンパチやらせることそのものが、だいたいナンセンスじゃないのよっ!! そんなこともかんがえないで作戦部長やってたわけっ!?」

 話が変な方向に流れ、二人は、

「あ、言ったわねーっ!! だいたい、あんたはさあ……」

「なーによー、このダメ主婦! もんくがあんなら、料理のひとつぐらい……」

 すっかりエキサイトしたアスカとミサトの「痴話喧嘩的親子喧嘩」を、シンジは呆然と見ていたが、幾ら何でも、今日のミサトはおかしい。そう思ったシンジは、そっと加持に目配せをしてからテーブルの横に移動した。無論、それを見た加持も、苦笑しながら横に来て、小声で、

「なんだい?」

「あの、いくらなんでも、ミサトさん、ちょっと変だと思うんですけど、どうしたんですか?」

(Bへ続く)

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'Moon Beach ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))

機械仕掛けのチルドレン 第一話C
機械仕掛けのチルドレン 第二話B
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