機械仕掛けのチルドレン・第一話B



(Aより続く)

 しかしその後、一度は死んだと思われていた碇ゲンドウが、異次元世界からやって来た祇園寺羯磨や、旧ネルフの技術担当だった赤木リツコと共に、「再びサード・インパクトを、或いは一歩進んでビッグバンを」起こそうとした事件が起こったが、これも、異次元世界から応援に来てくれた、中之島博士とオクタヘドロンのパイロット五人の計六人と、京都財団が再製作させたJAの協力、そして、再びエヴァンゲリオンに乗ったシンジを初めとする八人のチルドレンの活躍で、最終的に今年の2月に解決された。このあたりは無論まだミサトや加持の記憶にも新しい所である。

 その事件は流石に「表沙汰にしない」訳には行かず、政府によって事後処理が進められたのだが、その際、中之島博士がこの世界に残して行った、3機の「オクタヘドロンの操縦カプセル」に、政府が目を付けた。

 それは、そのカプセルに、「反重力エンジン」、「脳神経スキャンインタフェース」、「ノートパソコンサイズのスーパーコンピュータ・オモイカネⅡ」、「乾電池型反重力電池」等々、とんでもない技術が満載されていたからである。

 無論、こちらの世界でも、京都財団の研究所によって「反重力エンジン」と「脳神経スキャンインタフェース」は開発されていたが、こちらのインタフェースが、霊的能力の開発にも使えると言う事を除けば、「向こうの世界」の方の技術が進んでいた事は否定しようがなかった。

 カプセルは、オクタヘドロンⅡ・アカシャのカプセルに乗ったまま行方不明になったと思われていたエヴァンゲリオン零号機のパイロット、綾波レイと、異次元からの助っ人でアカシャのパイロット、沢田サトシを探索するために宇宙探査用の無人宇宙飛行機に改造され、3ヶ月間、宇宙をさまよっていたのである。

 その後、「結果的に、タイムワープしていた」サトシとレイが帰還し、六人は元の世界に帰ったのだが、宇宙を探索していた無人飛行機はそのまま飛び続け、6月6日に地球に戻って来た。

 そして、その内の、ヴァーユのカプセルをベースにした1機はIBOに残されたが、残りの2機、アグニとヴァルナのカプセルをベースにした飛行機は政府に提出された。政府直属の研究機関がカプセルを詳細に調べた結果、「乾電池型反重力電池」と、「オモイカネⅡ」には、流石に仰天したらしい。

 それで、政府は慌ててプロジェクトチームを作り、このカプセルに搭載されている技術を隅々まで吸い上げようとした。そして同時に、2月の事件で疲弊した経済の立て直しの目玉に、と、宇宙開発と深海開発プロジェクトを発足させたのである。

「…それでだ」

と、五大はここまで話した後、一呼吸置き、

「まず、日重共に、JA−2と3が発注された。目的は深海開発用だ。そして、IBOには、宇宙開発用として、新型エヴァンゲリオン、EVA−NEO−0から3までの4機が発注された、と言う訳なんだ」

 それを聞いた加持は、ミサトに、

「すまん、ミサト、ちょっと俺に話をさせてくれ」

と、言った後、五大の方に向き直り、

「本部長、IBOは国連の直属機関です。日本政府が発注した、とは、どう言う事なんですか?」

「要するにだな、この前の事件で、量産型を抱えていた世界中のIBO支部は殆ど壊滅して、今まともに動いているのは日本の本部だけと言う事と、エヴァンゲリオンも、結局は『胡散臭い物だった』と言う事がわかってしまったから、日本政府も国連に圧力をかけ、実質上の支配を強化する、と言うハラらしい。それの一環として、『隠しているネタは全て出せ』と言う事なんだ。

 今度は、『暴走しない、安全な、宇宙作業用エヴァ』を『ニッポン国の御為に』作れ、と言う事だよ。しかも、宇宙で使う限りは、少々の事があっても地上には影響がなかろう、と言う訳さ」

「なるほど…。その事情はわかりました。で、それが水無月君とどう関係するんです?」

 ここで五大は、一呼吸置き、

「彼女は元々宇宙ステーションでのメイド用に開発されていたんだ。しかし、当然の事ながら、今までの技術ではこんなアンドロイドを作るのは夢のまた夢だった。私が大学の研究室にいた時、コンピュータ工学が専門の山形は懸命に取り組んでいたが、私は生体工学が専門と言う事もあって、こんなものが実現するとは考えもしなかった。その後、そのプロジェクトは中止され、私は別の研究室に行ったんだが、山形は大学も辞めて、みんなからバカにされながらもコツコツと研究を続けていた。ネックになっていたのは動力源と駆動部とコンピュータだった。物理的に人間サイズの機械を長時間動かすためのバッテリーや燃料電池は作れなかったし、駆動部も、サーボモータで動かす事そのものは何の問題もなく研究は進んでいたが、山形はそれには満足しなかった。人間そのものの動きを求めていたんだ。コンピュータもそうだ。AIのプログラムの原型は山形が開発して既に大型コンピュータでは充分な能力を発揮していたんだが、人間の頭に乗せるサイズのものは出来なかった。しかし…」

と、ここまで五大が話した時、ミサトがはっとして顔を上げ、

「本部長、まさか…」

 五大は頷き、

「そうだ。水無月君の動力源は反重力電池、駆動部はオクタヘドロンと同じパターンの、それも合成樹脂製の常温超電導物質で作った人工筋肉、そして、コンピュータは…」

 ミサトは思わず、

「オモイカネⅡ…」

 五大は再度頷いて、

「その通りさ。天才と言うか、ある意味においては、『究極のヲタク』だった山形は、政府からオモイカネⅡの解析を委託され、のめり込んでしまったんだ。それでそのまま不眠不休の研究を続け、僅か1ヶ月弱でアーキテクチャーを見事解析し、ハードもソフトも自分の物とした。ところが…」

「ところが、なんです?」

「山形は元々心臓が悪かった。それが、無茶な研究が元で健康を更に害してな、7月15日に急死した。自分の研究室のデスクでな…」

「なんと…」

 言葉をなくしたミサトに、五大は続けて、

「7月17日に、連絡が取れなくなった事を不審に思った関係者が、山形の研究所に行って、山形の遺体を発見した。残されていた記録と司法解剖の結果、15日に死亡した事がわかったんだ。そして、その研究所に残されていたのが…」

 五大はここで言葉を切った。ミサトは頷き、

「この、水無月マリアさん、なんですね」

「その通りだ。彼女が発見された時、彼女はまだ起動していなかった。しかも最初は彼女がアンドロイドだとは誰にもわからなかった。女の子の死体だと思われていたんだ。この通り、肌の感じも見かけも人間そのものだからな。それで警察もすわ事件かと思ったらしいが、すぐそばに詳細な仕様書、つまり、君に渡したその書類の原本だが、それが置かれていたため、彼女が人間ではないと言う事はすぐわかった。それで、警察が一時的に彼女を保管していたんだが、18日になって、突然動き出したんだ」

「えっ!?」
「えっ!?」

「18日の夜だった。倉庫で物音がしたので警察官が見に行ったところ、彼女は既に起きており、にっこり笑って、『初めまして、水無月マリアです。よろしく』と、言ったそうだ。慌てて調べた監視ビデオの映像では、まるで今まで寝ていた女の子が自然に目覚めるように、彼女はゆっくり起き上がっていたらしい」

 ミサトと加持は眼を丸くした。

「それが、この子の『誕生』した瞬間、と言う事ですか…」

と、言った加持に五大は頷き、

「それでな、私もその日に関して調べてみたんだが、2016年7月18日は、旧暦で6月15日。つまり、水無月の満月の日なんだよ。恐らく山形は、その日に彼女が自動的に起動するように、プログラミングしていたんだな。水無月と言う姓はそこから決めたんだろう。マリアと言う名前は、満月即ち母なる神、聖母マリアから命名したんだろう。

 しかし、まあ、私と山形の『ヲタク趣味』が、こんな事になるとは、まさに、『因果の小車』だよ…」

 五大はここで一呼吸置いた後、改めて続けて、

「話が前後したが、水無月君の処置に困った警察は、政府に相談を持ちかけた。この子が『物』だとした場合、一体誰に所有権があるのか、法的な問題まで出てしまう。CPUはどうもオモイカネⅡのものを流用したらしいが、それ以外は『純然たる山形の所有物』だからな。山形が死んだ事で、法的には相続権のある親族が相続する事になるが、幸か不幸か山形は独身で天涯孤独。遠い親戚はあったそうだが、みんな気持ち悪がって受け取らない。まあ、当たり前だわな。それで政府は困って、このプロジェクトに無理矢理押し込んでしまったんだ」

 ミサトは、意外、と言った顔で、

「ムリヤリ押し込む、とは?」

 五大は、また大きな溜息をついて、

「要するに、『アンドロイドでも操縦出来るエヴァンゲリオン』を作れ、と言う事だよ」

「!!!!!!」
「!!!!!!」

 二人は絶句した。五大は続けて、

「人間の意識も言霊も必要としない、機械だけで動く新型エヴァンゲリオンを作れ、と言う事なんだ。新型エヴァは、松代の実験場で製作を開始する事になった。第3の本部が復旧したらプロジェクトはそちらに移る。そこで、とにかくの、水無月君の処遇なんだが……」

 またもや五大は言葉を切った。ミサトと加持は息を飲んで次の言葉を待っている。

「……政府の指示では、IBOのチルドレンとして、『人間との生活』を教育しろ、と言う事だ」

「!!!!!!」
「!!!!!!」

(Cへ続く)

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'A Sunny Day ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))

機械仕掛けのチルドレン 第一話A
機械仕掛けのチルドレン 第一話C
目次