機械仕掛けのチルドレン・第一話A




 2016年9月16日。15:20頃。

 京都財団北山研究所内、IBO臨時本部の本部長室。

「なんですって!!!!!????」

 加持ミサトが、これほどの驚きを見せた事はかつてなかった。血相を変え、五大アキラ本部長が言葉を発する暇さえ与えず、

バンッッ!!!

と、五大の机を叩き、

「本部長!! もう一度、エヴァを作るとおっしゃるんですか!!!??」

 ミサトに怒鳴られるまでもない。五大も苦り切った顔で、

「国連の命令だ。私は強硬に反対したが、通らなかった」

 しかしミサトは尚も、

「なんで今更エヴァなんです!! また使徒が来るとでも言うんですか!!??」

「いや、違う。……名目は宇宙開発だ」

「ええええっ!!!???」

 驚き慌てたミサトに、五大は、

「もう既にパイロット候補生も配属された。どうしようもない」

 益々驚きの度合が増したミサトは、

「パイロット候補生!!?? また子供なんですか!!??」

「いや、違う……」

と、ここで五大は言葉を区切り、やや俯いて大きな嘆息を漏らした。ミサトは、五大の次の言葉を、眼を血走らせて待っている。

 五大はゆっくりと顔を上げ、

「……アンドロイドだ」

「!!!!!!!!!!!!!!!!」

 絶句し、人事不省になる寸前のミサトの後で、

ギイイイッ

 ドアが開いた音に、ミサトが恐る恐る後を振り返ると……、

「初めまして、水無月マリアです。よろしく♪」

 中学校の制服を着て、綺麗なグリーンのショートカットヘアーの左右には二つの大きな丸い髪飾りを付けた、少し垂れ気味だが大きい瞳がきらきら光る、何とも愛くるしい美少女が微笑んでいた。

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 第一話・この子はロボット!?

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 五大は椅子から立ち上がり、マリアの隣に行くや、

「紹介しよう。今話したアンドロイドの水無月マリア君だ。まあ、彼女の詳しい経歴、いや、仕様は、詳細な仕様書が来ているから、それを見てくれ」

 苦り切った表情を浮かべる五大の隣でニコニコと微笑むマリア、その様子を見ながら、

「………」

 ミサトは眼を真ん丸に見開いたまま、絶句しているだけだった。

 + + + +

キーンコーンカーンコーン

「起立! 礼! 着席!」

 委員長の男子の号令で、クラスの生徒全員が担任の先生に一礼する。どこにもある見慣れた光景であるが、無論ここは第3新東京ではない。京都市立第九中学校三年A組の光景である。

 事件が終わり、すっかり平和を取り戻したとは言うものの、使徒や量産型エヴァンゲリオンとの激闘で破壊された第3新東京は、2017年4月の運用再開に向けて、まだ復興工事中である。碇シンジを初めとする八人のチルドレンは、IBOが一時的に京都に移転しているため、京都の中学校に転校して来ていたが、それも半年が過ぎ、彼等もすっかり京都での生活に馴染んでいた。

「シンジい、かえろっか」

 帰り支度をしているシンジの所に、惣流アスカ・ラングレーがやって来た。

「あ、ちょっと待ってよ。まだしたく中なんだ」

「もお、どんくさいなあ。さっさとしなさいよ」

「わかってるよお。でも、ちょっとぐらい待ってくれてもいいだろ」

「わかったわよ。はよしてや」

 アスカもすっかり京都の生活に慣れてしまった。無論、ギャグとして意図的に使っているのではあるが、「どんくさいなあ」、「はよしてや」、等と言う関西の言葉も時々混じる。ややあって、シンジが、

「……お待たせ。行こうか」

と、言って立ち上がった。アスカは苦笑し、

「はいっ、おまちいたしましたわよ♪」

 二人は連れ立って教室を出た。綾波レイと渚カヲル、八雲ナツミと相田ケンスケ、洞来ヒカリと鈴原トウジは、とっくに連れ立って帰ったようである。

 + + + +

 帰る道すがら、アスカが、

「シンジ、明日の休みさあ、どっか行かない?」

「うーん、そうだね。どこに行こうか……」

「京都来てからさあ、もうけっこうあっちこっち行ったわよねえ……」

 「かつての歴史」では考えられない事であるが、この二人は、力を合わせて事件解決に尽力した事も関係し、お互いに心を開いて、今はすっかり「傍目も羨むカップル」となっている。

 それともう一つ、「事件の最中」は、「虚構と現実の混同」が起こっていた事もあり、曜日が狂っている状態であったのだが、事件解決後はそれも訂正され、今日、2016年9月16日は金曜日になっていた。そのため、明日の第3土曜日は休みである。

 ややあって、シンジが、

「まあ、帰ってからゆっくり考えようよ」

「そうね。そうしよっか」

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 IBO本部長室には、五大から手渡された資料を、眼を血走らせて読むミサトの姿があった。無論、五大は相変わらず苦い顔で、マリアは相変わらず微笑んでいるのだが。

 その時だった。

「!!!!!」

 資料を読み進むミサトの眼が、あるページでクギ付けになったのである。ミサトは一瞬置いて顔を上げ、

「本部長!!!」

 五大は、大きな溜息をつくや、

「やむを得ん。全部白状するよ。……まあ、ソファにかけたまえ。コーヒーでも飲みながら、ゆっくりやろう」

と、「この上ない苦笑」を浮かべた。すかさずマリアが、

「じゃ、コーヒー二つ、お入れしますね♪」

と、一段とにっこり笑い、部屋の隅に置かれたコーヒーメーカーの所に行く。

「…………」

「…………」

 五大とミサトは、無言のまま、ソファに向かい合わせに座った。横目でマリアの様子を窺うと、

「ふんふんふん♪」

 実に可愛いハミングが聞こえて来る。どう見ても、「若く、可愛らしいメイド」にしか見えない。その時五大が、

「そうだ、加持情報部長も呼ぼう。君達二人に一緒に聞いてもらった方がいい」

と、立ち上がって電話の所に行くや、マリアが、

「じゃ、コーヒー一つ追加ですねー♪ ふんふんふん♪」

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 マンションに戻って来るや、アスカは自分の部屋のカギを開けながら、

「じゃ、あとで電話して来てよ♪」

「うん、じゃね」

と、言って、シンジは手を上げ、同じフロアの自分の部屋に戻って行った。アスカはドアを開けて中に入る。

 京都に引っ越して来てから暫くの間は、シンジもアスカもミサトと同居していたのであるが、ミサトと加持が結婚し、加持がこちらにやって来ため、流石にそのまま同居と言う訳にも行かず、同じマンションの同じフロアの別の部屋に移っていたのである。しかし、IBOと京都財団が関っているマンションであるため、プライバシーは守られているとは言うものの、セキュリティの面も含め、例えば、テレビ電話や安全センサーへの設置等、ある程度、みんなお互いに全員の事が判る造りにはなっていた。

 + + + +

「本部長、まず、このですね、『基本デザイン:山形ケンジ、五大アキラ』と言うくだりからご説明願えませんか」

 最早憮然となった顔でミサトが五大に詰め寄った。その隣には真剣な表情の加持。テーブルにはコーヒーが「何故か」四つ置かれており、向かい側の五大の隣ではマリアが微笑んでいる。

 暫しの沈黙の後、

「それはな、山形ケンジと言う男と、五大アキラと言う男が、大昔、京都工業大学の研究室で、この、水無月マリア、開発コードネームMGL−00の基本デザインを担当したと言う事だよ。……要するに、そう言う事なんだよ」

 五大は最早ヤケクソの表情である。男同士として、加持は苦笑するしかなかったが、ミサトはもう一度、五大の隣で微笑んでいるマリアをまじまじと見た後、やや呆れ顔で、

「あの、もしかして、この子の基本デザインは、まさか……」

「その通りだ。例の『恋愛シミュレーションゲーム』に出て来るアンドロイドを実現したようなものだ。……これでわかっただろ。私がずっと独身だった理由の一端が」

と、苦笑混じりに吐き捨てた五大に、ミサトも流石に冷静になり、

「本部長のプライベートな事に関しては、私がとやかく申し上げる立場ではありません。しかし、この子が宇宙開発用のアンドロイドとして開発され、しかも、エヴァも再製作されるとなれば、私としては詳しい事情を聞かざるを得ません。まず、エヴァの再製作の事から順にお聞かせ下さい」

 ここへ来て、五大も少し落ち着きを取り戻したらしく、

「わかった。順に話そう。まずだ……」

 五大がミサトと加持に語った話の内容は以下の通りである。

 2015年の10月16日の「最終決戦」で、サード・インパクトは回避された。

(Bへ続く)
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'A Sunny Day ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))

機械仕掛けのチルドレン 設定資料B
機械仕掛けのチルドレン 第一話B
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