第三部・トップはオレだ!
『こちらヴァーユの四条!! 了解! すぐ帰艦します!! オクタ全機! エンタープライズに戻るんや』
『北原了解!』
『綾小路了解!』
『形代了解!』
『橋渡了解!』
『玉置了解!』
『草野了解!』
「沢田了解! 離陸態勢!」
月面にいるアカシャ以外の飛行中の7機はすぐさま旋回してエンタープライズへの帰艦ルートを取った。アカシャも即座に離陸態勢に入った、その時だった。
「えっ!?」
突如、アカシャのコックピットのフロントスクリーンにウィンドウが開き、その中に五つの記号が現れたのである。
□
○
△
∪
∩
「なんだ? ええっ!? これはマントラのシンボル!! ああっ!」
(
□
○
△
∪
∩
□
○
△
∪
∩
□
○
△
∪
∩
□
○
△
∪
∩
………)
サトシの耳にマントラの波動が響き、眼にははっきりとマントラのシンボルが焼き付いた。そして脳裏に青い光が強く輝いたと思った次の瞬間、アカシャは忽然と消え失せていた。
+ + + + +
第二十七話・多情多恨
+ + + + +
アカシャの認識信号が突然消えた事に気付いたアキコが、
「あれっ? 沢田くん? !!!! ああっ!! おらん!!」
『緊急事態発生!! エンタープライズ応答せよ!!』
マサキの怒鳴り声がアグニのコックピット内に響く。
+ + + + +
エンタープライズメインブリッジ。
『こちら四条!! 緊急事態発生!! アカシャが行方不明!!』
「何ぢゃと!!?」
と、叫んだ中之島に、マサキは続けて、
『アカシャが突然消えました!! 認識信号も消滅!!』
通信員が頷いて、
「了解! レーダーとスキャナで調査せよ!」
中之島は苦渋の表情で、ライカーに、
「艦長! どうする!? 見捨てても行けんが、地球にも戻らんといかんぞ!!」
「5ミニッツ、5分だけ調査させましょーう! それでだめならオクタ2機を監視班としてここに残し、我々は地球に戻らなければなりませーんっ!!」
「!! ……やむを得んぢゃろな……」
+ + + + +
7機はレーダーとスキャナを駆使して上空から調査を続けたが、何も手掛かりが見付からないまま5分が経過した。
マサキが声を荒げ、
「あきまへん!! なんもみつかりまへんわ!!」
+ + + + +
ライカーが、インカムを掴み、
「オクタ全機!! タイムリミットね!! そこに2機だけ残して後は帰艦しなさーい!!」
+ + + + +
アキコは思わず、
「そんな!!」
しかし、マサキは、
『形代ちゃん!! もうしゃあない!! 見捨てて行く訳やないのやから、命令に従うんや! 僕らは地球に戻らんとあかんのやぞ!!』
「でも!!……」
その時、中之島の声が、
『形代君! やむを得ん! 何らかの原因で方向を間違えたのかも知れんし、いざとなったらオクタⅡは自力で地球に戻れる! そこに2機だけ残って後は戻るのぢゃ!!』
続いて、ライカーが、
『アグニとヴァルナはそこに残って監視を続けなさーい! 後の5機は帰艦しなさーい!!』
「えっ!? は、はいっ! 了解!」
+ + + + +
ゆかりも、
「了解!」
+ + + + +
マサキが、
「了解! 帰艦します!」
と、言ったのに続き、
『了解』
『了解』
『了解』
『了解』
残りの四人の声がヴァーユのコックピットに飛び込んで来た。
+ + + + +
JRL本部中央制御室。
中之島の臨時通信に、松下が、顔色を変え、
「アカシャが行方不明!!??」
『そうぢゃ!! 突然消えてしもうたのぢゃ!』
「博士!! もしかしてレリエルのディラックの海では!!?」
『儂も一瞬はそうかとも思うた! ぢゃが、それらしき物は何もないのぢゃ!』
「マーラのノイズパターンもないんですか!?」
『そうぢゃ!! とにかくアグニとヴァルナだけ残してエンタープライズは地球に戻る! そっちの状況はどうぢゃ!?』
「日本にはまだ使徒は現れていません! 現在旧オクタ3機は自動モードで出せる状態で待機中です!! 海外では軍が核攻撃態勢に入りました!!」
『了解ぢゃ!! それから、月軌道に通信用ブースタカプセルを飛ばしておくから、そっちと月の裏側の2機は通信可能になる! 形代君と綾小路君のサポートを頼むぞ!!』
「了解しました!!」
+ + + + +
地球に突然現れた使徒に対し、アメリカ軍を中心として編成された「国連軍」はすぐさま核攻撃の態勢に入った。
世界中の基地からは戦術核レベルの中性子爆弾を搭載した爆撃機と援護のための戦闘機が次々と離陸して行く。
原子力潜水艦も戦略核による攻撃の準備を整えて時を待っていた。
+ + + + +
アカシャが消えた地点の上空に浮ぶアグニの中で、アキコは沈痛な面持ちで手を組み、サトシの無事を祈り続けていた。
(……沢田くん、帰ってきて! 絶対に死なんでよ!!)
アキコの脳裏に様々な映像が浮んでは消える。ジェネシス時代、タロットの「恋人たち」を見た時、アダムとイヴをサトシと自分のように連想してサトシの事を何となく気にし出し、初めて電話をした時の事。琵琶湖上空での巨大クラゲとの戦闘の後で意識不明になったサトシを案じて大泣きした事。清水寺でリョウコと二人連れでいたサトシを見てショックを受けた事。沖縄での大失敗。ジェネシスを休職する事になり、一緒に新幹線のホームまで行った事。暗黒の次元でシンジ達と出会った事。突然現れた使徒との「最終決戦」。サトシとリョウコが本格的に交際を始めた時の悲しさ。更には、中途半端ながらサトシと付き合い始めた時に感じた喜び。そして先日、ついにキスにまで至った事……。
(……沢田くん……)
その時だった。
『形代さん!!』
と、飛び込んで来たゆかりの声がアキコを現実に引き戻す。
「あ、はいっ!」
『形代さん、ボケっとしていても仕方ありませんわ! レーダーとスキャナで調査を続けましょう!』
「はい!」
『それから、こんな時こその「テレパシー」ですわ! どんな事でもいいから、感じ取るように意識を集中なさい!!』
「はいっ!!」
その時、
『こちらJRL本部の山之内由美子! アグニとヴァルナ! 聞こえたら応答して!!』
「あっ! 由美子さん! 聞こえます! 形代です!」
一呼吸置いて由美子からの応答が返って来る。
『エンタープライズが月軌道に通信用のブースタカプセルを置いて行ったから、直接通信出来るわ! 通信波が届くのに1秒以上かかるからちょっと話しにくいと思うけど、何とか話せるし、そっちの状態もモニタ出来るから、回線はずっと繋ぎっぱなしにしておくのよ!』
「了解しました!」
『こちら綾小路! 了解しました! さ、形代さん、始めましょう!』
「はいっ!!」
+ + + + +
超高速で飛行するエンタープライズは地球軌道に戻って来た。オクタⅡ各機に搭乗したまま格納庫で待つパイロットにライカー艦長が指示を飛ばす。
「オクタヘドロンⅡ各機! 出撃の準備をなさーい!」
マサキが、
『ここから大気圏に突入するんでっか!?』
「そうでーす! 貴方達の任務は、国連軍の戦闘をバックアップする事ねー! 東アジア地域が受け持ちでーす! 沖縄の嘉手納基地に向かいなさーい! 通信は日本語でOKでーす!」
『了解しましたっ!! ヴァーユ発進!!』
『カーラ発進!!』
『プリティヴィ発進!!』
『ヴァジュラ発進!!』
『ガルバ発進!!』
+ + + + +
アメリカでは、ニューヨークの東の海面を進むサキエルに中性子爆弾を搭載した爆撃機が援護の戦闘機と共に迫って行く。
「コチラ963。司令部応答セヨ」
『コチラ司令部。感度良好』
「中性子爆弾ノ発射許可ヲ」
『許可スル』
+ + + + +
アグニとヴァルナはアカシャが消えた地点を中心にその周囲を綿密に探索し続けていたが、相変わらず何も見付からない。
「だめじゃわ! なんもみつからん!!」
『形代さん! あせっちゃだめですっ!! 落ち着いて!!』
「は、はい……」
(沢田くん……)
+ + + + +
「発射!!」
バシュウウウウッ!!!
中性子爆弾を積んだミサイルがサキエルめがけて飛んで行く。
ドオオオオオオオオンンッ!!!
「グワアアアアアアアアアッ!!!」
大量の中性子を浴びたサキエルはもがき苦しみ出した。
+ + + + +
沖縄に向かった5機のオクタⅡは最終着陸態勢に入ろうとしていた。
「こちらJRL所属のヴァーユ! 嘉手納基地、応答願います!」
『こちら嘉手納基地司令部! 感度良好!』
「着陸許可願います!」
『許可する! 2番滑走路の端が空いているからそこに着陸せよ!!』
「了解!!」
+ + + + +
「コチラ963。続イテ攻撃スル」
『了解』
「発射!」
爆撃機から続いてミサイルが発射されたその時だった。
「グオオオオオオオオオオオッッ!!」
突然、海面に浮ぶサキエルが叫んで空中に浮び上がり、灰色の光に包まれたと思う間もなく、その光はまるで風船が一気に膨らむように広がって行き、
ドオオオオオオンンッ!!
驚くべき事に、「光」に触れた瞬間、ミサイルは爆発してしまったのだ。
「!!!!! 使徒ハ『光』ヲ発シテミサイルヲ破壊!!」
『963! 退避セヨ!』
「了解!! ウワアアアアアアアアッ!!」
ドオオオオオオンンッ!!
拡大を続けた「光」に触れた米軍爆撃機も援護の戦闘機も爆発し、粉々に砕け散る。
+ + + + +
嘉手納基地司令部。
司令官の所に出頭したマサキが、
「失礼します。JRLの四条以下五名、着任致しました」
と、言った後、一礼した五人に、
「おお、待っていたぞ。私が、国連軍使徒撃退特命本部、嘉手納支部司令官の、ジェームス・カジマだ」
マサキは驚き、
「えっ!? 失礼でっけど、司令はんは日系人で……」
カジマはやや苦笑して、
「そうだ。私は日系四世だよ。家庭環境の関係で日本語は得意だ」
と、言った後、改めて、
「まあ、それはさておいてだ、来てもらった早々で悪いのだが、事態が急変した。使徒が核兵器を撃退しているとの連絡が入ってな」
「えっ!!」
「!!!」
「!!!」
「ええっ!!」
「えっ!」
驚く五人に、カジマは続けて、
「ニューヨーク東海上に現れた使徒サキエルが、光のようなものを発して核ミサイルと爆撃機と援護の戦闘機を破壊したのだ」
マサキは、身を乗り出し、
「それはもしかしてATフィールドでっか?!」
「いや違う。まだ分析中だが、破壊される直前に、爆撃機がレーダーで受けた信号を基地に転送していたのだが、そこからマーラ特有のノイズパターンが検出されたようだ」
リョウコは思わず、
「サイコバリヤー!!」
カジマは頷き、
「そうだ。それも恐らくは相当強化されている。戦術核クラスの中性子爆弾で使徒を倒せないとなれば、最後の手段として戦略核クラスの核兵器を直接打ち込んでも絶対に倒せると言う保証はなくなったと考えざるを得ない。そうなると、かつて使徒やマーラと戦った君達とオクタヘドロンが最後の切り札になる可能性すらある、と言う事だ」
「わかりました。それで、僕らはどうしたらよろしいんでっか?」
と、マサキが言うのへ、カジマは、
「我々の任務は東アジア及び太平洋東部地域の防衛と使徒撃退だ。現在の所この地域には使徒は現れていない。それで今後の動きを見ながら対応する事になるし、場合によっては他の地域に出撃してもらう事もあるかも知れないから、とにかく現在は基地で待機しておいてくれ。部屋には係の者に案内させる」
「了解しました」
その時、
トゥル トゥル トゥル
「お、ちょっと失礼」
と、受話器を手にしたカジマは、
「カジマだ。…………!!! …………そうか、了解した」
受話器を置くと、改めて、
「国連軍最高司令部が使徒に対する戦略核攻撃の指示を出した。いよいよ全面核戦争だよ」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
五人は絶句した。
+ + + + +
(沢田くん、……どこ行ったんよ……)
月の裏側ではアキコとゆかりがアカシャの探索を続けている。
『形代さん! まだ何も感じませんか?!』
「は、はい……。まだなにも……」
泣き出しそうになる気持ちをぐっと堪えてアキコは応答した。
(……沢田くん、わたし、どうしたらええんよ! ……神様!!……)
その時、突然アキコは、
「あっ! そうじゃ!」
『どうかなさいましたの!!?』
「だめでもともとですけん、マントラを唱えてみます!」
『わかりました! 私も唱えますわ!』
アキコは手を組んで眼を半眼にし、マントラを唱えた。
「オーム・アヴァラハカッ!」
『オーム・アヴァラハカッ!』
ゆかりの声も無線を通じてコックピット内に入って来る。アキコはマントラのシンボルを心の中で見続けた。
(
□
○
△
∪
∩
□
○
△
∪
∩
□
○
△
∪
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□
○
△
∪
∩
………)
その直後だった。アグニのフロントスクリーンに突然ウィンドウが開き、
□
○
△
∪
∩
アキコは驚き、
「えっ!? これはマントラのシンボル!?」
『形代さん! こちらにもマントラのシンボルが出ましたわよ! ……このウィンドウは、……これはオモイカネⅡですわ! オモイカネⅡの5番目のCPUが動作し始めたのですわ!!』
アキコは慌ててパネルのインジケータを見た。確かに普段は「眠っている」オモイカネⅡの5番目のCPUが動作した事を示すLEDが点灯しているではないか。
「一体なにが!?」
と、アキコが思わず叫んだその次の瞬間だった。
「ああっ!!」
『ああっ!!』
二人の脳裏に青い光が強く輝いたと思う間もなく、アグニとヴァルナは忽然と消えてしまった。
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'たとえ、君を抱いても ' composed by QUINCY (QUINCY@po.icn.ne.jp)
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