第三部・トップはオレだ!




 嘉手納基地の待機室に案内された五人は、テーブルに置かれた飲み物に手を付ける元気もなく、沈んだ表情で押し黙っていた。

 考えてみれば無理もない。月では無我夢中だったし、気も張り詰めていたが、こうして地上に降り立ってみると、行方不明になったサトシの事が改めて心配になるし、ましてや、「使徒との全面核戦争」に直面していると言う現実に対して平静でいられる筈がない。

「……そやけど、沢田君、どこに行ったんやろ。大丈夫やろか……」

 ポツリと漏らしたマサキに、大作が、

「確かにな。……さっきは僕も、使徒が現れた、って聞いて興奮してたからそれほど思わなかったんだけど、こうしてちょっと落ち付いてみるとさ、心配だよ。……まあ、きっと帰って来る、って、信じてるけどね……」

「そやね……。なんちゅうてもな、ウチら、マーラと命がけで戦って来たんやさかい、大丈夫やと思う。……そう思いたいわ……」

 と、サリナ。タカシも、

「……『カオス・コスモス』の時もそうじゃったけんね。色々あったけんど、沢田君も、僕らも、こうやって生き残って来たんじゃけん、きっと帰って来るとよ」

と、自分を元気付けるかのように言う。だが、リョウコは、

「……そうね。……きっと帰って来るわよ。……きっと……」

とは言ったものの、その後、厳しい口調で、

「でも、最悪の事だけは考えておかなくちゃね……」

 全員がはっとした表情で顔を上げた。すかさず大作が口を開き、

「北原、そんな言い方はないだろ。みんな心配してんだぞ。君ももうちょっと心配したらどうなんだ」

 リョウコもキッとなり、

「わたしが心配してサトシくんが帰って来るのなら、いくらでも心配するわよ。でも、今は『戦争』なのよ。わたしたちだって、いつ『死ぬ』かわからないのよ。サトシくんの事ばかり気にして心配して、それでもしわたしたちの誰かがオクタの操縦でミスして死んだら、それでサトシくんが喜ぶと思う?」

 これには流石の大作も、

「驚いたな。そこまで言うか? そんな事は充分わかってるよ。でも、心配なのは人情だろ。おまけに北原はずっと沢田君と付き合ってたんじゃないか。それなのにその程度なのか?!」

「わたしがサトシくんと付き合ってた、って言う事は関係ないわよ! こんな状態になったらみんな同じじゃない! 草野さんがそうなったって同じよ! それとも、もしあなたが行方不明になったとしたら、わたしが心配してメソメソ泣いて、それでミスったらあなたは満足なわけ? わたしにそうして欲しいわけ!?」

「そんな事言ってないだろ!! 君の言う事はたしかにもっともかも知れないよ。それぐらいは僕だってわかってるさ! でも、それでも心配なのが人情ってもんだろ! だったら、縁起でもない事言ってそれ以上心配をあおるな、って言ってんだよ!」

「なによ! わたしがなにを言おうと、そんなことはサトシくんの安否には関係ないじゃない! 事実を冷徹に見ないとわたしたちまで失敗したらなんにもならない、って言ってるだけじゃないの!」

「そんな事はわかってる、って言ってるだろ!!」

 と、ここでマサキが、

「まあまあ、ちょっと落ち着けや、二人とも」

 声を荒げていた二人は、肩の力を少し抜いた。マサキは続けて、

「………確かに、北原ちゃんの言う事は、論理的にはもっともな事や。そやけど、草野君の言うてる事も人情としてはようわかる。結局、なんのかんの言うても、みんな沢田君の事を心配しとる、言う事やないけ。そやろ」

「……はい……」
「……はい……」

「こんな時、こんなとこでケンカしてチームワーク乱したらやな、それこそ、北原ちゃんの言うようにドジ踏んで、僕らがムダ死にせんとも限らん。そやろ。まあ、まだ死んだと決まった訳やないんやし、ここは一つ、綾小路さんと形代ちゃんに任せようやないか。僕らはこっちの仕事に集中しよ。……あ、そう言うたら、沢田君の事を最初に言うたのは僕やったな。……悪かったわ……」

 マサキがそう言った時だった。

トゥル トゥル トゥル

 電話の音に全員がはっとなって顔を上げる。しかしいざとなると受話器に手を伸ばす勇気がない。

トゥル トゥル トゥル

 一呼吸の後、やむを得ない、と言う表情でマサキが立ち上がり、受話器を手にした。

 +  +  +  +  +

第二十八話・狂瀾怒涛

 +  +  +  +  +

「はい、こちら待機室の四条です」

 電話は、由美子からのもので、

『JRL本部の山之内です!』

「あ、由美子さん、なにか?」

『マサキ君、落ちついて聞いてよ。……アキコちゃんと綾小路さんも行方不明になったわ』

「ええっ!?」

 +  +  +  +  +

 JRL本部中央制御室。

「……と、言うわけなのよ。突然通信が途絶えたの」

と、由美子が言うのへ、マサキは、

『そ、そいで、僕らはどうしたら……』

「とにかくエンタープライズが捜索のために月軌道に戻ったわ。中之島博士の話によるとね、どうも、艦長としては、元々、あなた達を地球まで送り届けた後、月に戻るハラづもりだったみたいね」

『えっ!? そうやったんですか?!』

「ええ。要するに、アメリカ空軍所属の宇宙戦艦だから、はっきり言ってしまえば、日本のパイロットが一人行方不明になった程度なら、空軍としてはパイロットを見捨てても地球を守らなきゃならないでしょ。それはわかるわね」

『はい……』

「それで、タテマエ上は、戻るつもりだ、と言う事をあなた達にはっきり言う訳にはいかないから、とにかく2機残しておけば、迎えに行く、って名目で探索に戻る事が出来る、って考えてたようね」

『なるほど……』

「それが、その2機も行方不明になったから、アカシャだけならともかく、同じ場所で3機も連続して突然消えたと言う事実を考えれば、オカルティズムの観点から綿密に調査する必要がある、って事で、軍上層部を説得したらしくってね。月に戻ったのよ」

『そうでっか。わかりました』

「とにかく、3機の調査はエンタープライズに任せましょう。何のかんの、って言っても、破片が発見された訳じゃないし、博士も、使徒が現れた、と言う、『現実離れした事態』まで考えたら、言わば、『神隠し』に遭ったような状態なのかも知れないから、『一捻り』したらすぐに帰って来る可能性は大だって仰ってるしね。あんた達は、地球の防衛と言う任務があるから、そっちに集中してちょうだい。頼んだわよ」

『はい。了解しました』

「じゃ、これでね。みんなにそう伝えておいてね」

『わかりました。ではこれで』

 電話を切った後、由美子は、松下に、

「……本部長。……どうなんでしょう……」

「わからんな。……三人の行方不明に関してはだ、人情としては、本来なら、もっと慌てて心配しないといけないんだろうがね。正直言って、『カオス・コスモス』以後は、物事全てに対する感覚がマヒしていると思うよ。今起こっている事の全てが悪夢なんじゃないかって、心のどこかで考えている、と言う気さえするね……」

「確かに……。私も『カオス・コスモス』から後は、感覚が変わってしまいました。……現実感が薄い、と言うか、『人間と怪物の殺し合い』を『ゲーム感覚』で捉えているような気さえします……」

「いずれにしてもだ。我々は今こうやって『生きている』つもりでいるがな、例え『10匹前後の数』とは言ってもだ、『核兵器でも殺せない怪物』が、地球の上をゆっくり暴れ回って、『人間をエサとして生きて行く』と言うような状況になったとしたらどうなると思う? 我々はじわじわと食い尽くされるのを待つだけになるんだ。そうなった時、人類はどうなるのか。まさに、『生き地獄』じゃないか。……いや、実はもうそうなっているのかも知れんのだぞ……」

「確かに……。そう考えたら、いえ、私達はそれを潜在意識では薄々感じているから、『三人の行方不明』にも何となく現実感を感じないのでしょうかね……」

「まあ、とにかくだ、そうならないように頑張るだけだ。彼等の行方不明に関しては、博士が仰るように『オカルト現象』の可能性が充分にあるからな。その観点から探索したら案外簡単に……、あ、そう言えば、フェイズ・スキャナはどうなんだ?」

「フェイズ・スキャナですか?」

「そう、……そうだ! もし月で起こった事がオカルト現象だとしたら、フェイズ・スキャナで何かわかるかも知れんぞ!」

「そうか!!! そう、そうですよね!!」

 由美子も大きく頷いた。松下は、真由美に向かって、

「末川君!! フェイズ・スキャナのフォーカスを月に向けろ!! 出力と感度を最大にして探査するんだ!!」

「了解!!」

 +  +  +  +  +

 嘉手納基地待機室。

 マサキが全員に事情を説明し、

「……と、言う訳や」

 大作が、ポツリと、

「ゆかり姉さんと形代さんも……」

「…………」
「…………」

 タカシとサリナは無言のままだったが、リョウコは、

「……とにかく、エンタープライズに任せましょう。中之島博士も行って下さってるんだし……」

「そう言うこっちゃな……」

と、マサキが頷いた時、

トゥル トゥル トゥル

「はい、待機室の四条です。…………!!!! …………はい。了解しました。すぐに行きます」

 受話器を置いたマサキは、

「全員すぐに発令室に来い、て。……使徒に戦略核が打ち込まれるそうや……」

「!!……」
「!!……」
「!!……」
「!!……」

 +  +  +  +  +

 アメリカ東海上のサキエルは極めてゆっくりした速度でアメリカ本土を目指して進んでいた。

 +  +  +  +  +

 嘉手納基地発令室。

 マサキが、カジマの前に歩み出て、

「失礼します。オクタⅡのパイロット五名、参りました」

 カジマは頷き、

「おお、丁度よかった。モニタを見たまえ。今発射される所だ。これは北アメリカの映像だが、続いて世界中で発射される予定だよ」

 五人は真剣な表情でモニタを見詰めた。

 +  +  +  +  +

 ペンタゴン内の国連軍使徒撃退特命本部特設発令室。

 コンソールを操作していた操作員が、

「ミサイル発射準備完了シマシタ!!」

 司令官は頷き、

「発射セヨ!!」

 +  +  +  +  +

ゴオオオオオオオオオッ!!!

 ミサイルはマッハ3を越える速度でサキエルに迫る。

 +  +  +  +  +

「おっ! 映像が切り替わった!」

と、言ったマサキに、カジマが、

「軍事衛星の映像だよ」

「あっ! あれが戦略核ミサイル!」

 大作も声を上げた。

 +  +  +  +  +

ドオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンッ!!!!!!!

 ミサイルはサキエルに着弾した。凄まじい轟音と閃光が発生し、海上にキノコ雲が湧き起こる。

 +  +  +  +  +

 国連軍使徒撃退特命本部特設発令室。

「ミサイルハ使徒ニ命中!!」

と、言った操作員に、司令官が、

「映像監視ヲ継続!!」

 +  +  +  +  +

 サリナは、

「なんも見えへんねえ……」

 タカシも、

「まあ、あの『キノコ雲』じゃけんねえ……」

 +  +  +  +  +

 世界中の軍が注視する中、軍事衛星が、キノコ雲の縁から出て来た物体を捉えた。

 +  +  +  +  +

 操作員が顔色を変え、

「使徒デスッ!!!」

「何ダトオッッ!!! 何テバケモノダ!!!」

 司令官も愕然として怒鳴った。

 +  +  +  +  +

 大作が、愕然として、

「生きてる!! 何てヤツだ!!!」

「こんなヤツ、どないせえっちゅうねん!!」

 マサキも吐き捨てた。

 +  +  +  +  +

「グワアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 戦略核の攻撃をものともしなかったサキエルは、水面に浮上し、雄叫びを上げる。

 +  +  +  +  +

 操作員が、

「使徒ハ速度ヲ上ゲテ本土ニ向カッテイマス!!!」

 司令官は、

「連続シテミサイルヲ発射セヨ!! 複数同時ニ打チ込メ!!」

 +  +  +  +  +

「……やんぬるかな、か……」

と、カジマが嘆息を漏らす。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 五人は無言のままだ。その時、通信員が、

「司令!! 通信ガ入リマシタ!!」

「ドウシタ!!?」

「北米ニ続キ、世界各地デ使徒ニ対シテ行ワレタ戦略核攻撃デスガ、戦果ハ芳シクナイトノ事デス!!」

「……ワカッタ。引キ続キ通信ヲ監視セヨ」

「了解!」

 カジマは、五人の方に向き直り、

「聞いての通りだよ……」

 マサキが、おずおずと、

「あのー、すんまへん。僕は英語が得意やないんですが……;」

「おお、これは失敬。世界中でな、戦略核攻撃が行われたんだが、戦果は芳しくないそうだ。引き続き攻撃が行われるとは思うが、望みは薄い……」

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

「現在の所、極東地域にはまだ使徒は現れていないが、ここにもいつ現れるか判らん。いや、それ以上にだ、現在世界中に出現している使徒を倒さない限り、全人類はじわじわと嬲り殺しにされる運命を辿るのは火を見るよりも明らかだ。……どうしたものか……」

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 +  +  +  +  +

ドオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンッ!!!!!!!
ドオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンッ!!!!!!!
ドオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンッ!!!!!!!

「グワアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 連続して打ち込まれた核ミサイルの攻撃を跳ね除けたサキエルは、アメリカ本土を目指して高速で進んでいる。

 +  +  +  +  +

 国連軍使徒撃退特命本部特設発令室。

 操作員が、悲痛な声で、

「ダメデス!! 使徒ガ核攻撃可能範囲ヲ越エマシタ!! モウミサイルハ打チ込メマセン!! 本土上陸ハ時間ノ問題デスッ!!」

「何ト言ウ事ダ!!! オオ、神ヨ!!!」

 司令官は、思わず天を仰いだ。

 +  +  +  +  +

 嘉手納基地待機室。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

トゥル トゥル トゥル

「!!! …………はい、待機室です」

と、電話を取ったマサキに、カジマが、

『すぐ発令室に来てくれ』

「了解しました」

 +  +  +  +  +

 嘉手納基地発令室。

 マサキが、カジマに、

「五名、参りました」

「ついさっき、ニューヨークに使徒が上陸した。軍の攻撃を全く受け付けずに活動しているらしい。前回ハワイと西海岸に上陸した時とはケタ違いの暴れっ振りだそうだ」

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

「その他にも、世界各地で出現した使徒は、全ての核攻撃を跳ね除け、激しく暴れ回っているらしい。アメリカ本土とヨーロッパは現在大混乱の最中だ。無論、相手の数が少ないから、まだ攻撃を受けていない地域が殆どだが、『核兵器でも死なない怪物』が今後ずっと継続して活動を続ける事が予測される以上、いずれは自分達の住む地域にも怪物が来る、と言う恐怖感から、アメリカ各地でパニックによる暴動が頻発している。更に、ニューヨークやワシントンが破壊されて首都機能を失ったら、もうそれを抑える事は出来なくなる」

「……で、我々はどうしたら……」

と、訊いたマサキに、カジマは、

「国連軍の最高司令部が決断を下した。今の所は無事なこの極東地域に、残っている世界中の軍隊を集結させ、オクタヘドロンを中核とした決戦軍を編成する事になった」

「!!!!」
「!!!!」
「!!!!」
「!!!!」
「!!!!」

 +  +  +  +  +

「グワアアアアアアアアアッッッ!!!!」

ドオオオオオオンンッ!!

 ニューヨークに上陸したサキエルは、「最早何の意味もなさなくなった軍隊の攻撃」など全く無視して破壊と殺戮の限りを尽くしていた。逃げ惑いながら踏み潰される人々の悲鳴が響き渡る。

「ワアアアアアアアッ!!!」

「キャアアアアアアッ!!!」

「グワアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 +  +  +  +  +

 カジマは続けて、

「それでだ。君達には大変荷が重い話で申し訳ないが、現在無事に残っているオクタヘドロンⅡの5機と、京都のJRL本部に残っている旧オクタヘドロンの3機を中心とした独立部隊を編成してだ、世界各地の使徒を1体ずつ殲滅する作戦を実行に移す事になると思う。大変な任務だが……」

 その時だった。通信員が、真っ青な顔で、

「司令!!」

「ドウシタ!?」

「使徒ガ上陸シタ地域トノ通信ガ次々ト途絶エテ行キマス!!」

「何ダト!!??」

 +  +  +  +  +

 JRL本部中央制御室。

 松下が真由美に怒鳴る。

「どう言う事だ!?」

「わかりません! 世界中から入って来るはずの通信が突然途絶えました!! 全て使徒が上陸した地域ですっ!!」

 由美子も血相を変え、中森由美に、

「国内はどうなのっ!? 沖縄とは連絡が取れるのっ?!」

「国内は現在の所正常ですっ!! 沖縄とも通信可能ですっ!!」

「エンタープライズとの連絡はどうだ!?」

と、叫んだ松下に、真由美が、

「回線が繋がりましたっ! 中之島博士ですっ!」

『松下! 一体何が起こったんぢゃ! アメリカともヨーロッパとも連絡が取れんぞっ!!』

「こっちもですっ! 使徒が上陸した地域の通信網が破壊されたようですっ!」

『何ぢゃと!?』

 +  +  +  +  +

 エンタープライズメインブリッジ。

「ちょっと待て! こっちに持って来たオモイカネⅡを艦のメインコンピュータに接続してもらう!」

と、言った後、中之島はライカーに、

「艦長! 接続を頼む!」

「了解ねー!!」

と、頷いたライカーは、通信員に、

「コネクト!!」

 通信員は、即座に、

「アイサー! ……コンプリート!!」

「よしっ!」

 接続を確認した中島は、オモイカネⅡのモニタに現れた表示に、

「!!!! こ、これはっ!!」

『博士!! どうしたんですかっ!!?』

 問いかけて来た松下に、中之島は、

「極めて強烈なマーラのノイズパターンぢゃ!! 残っている衛星回線で辛うじてモニタ出来るアメリカやヨーロッパの各地の通信網に、マーラのノイズパターンが乗っておるぞ!! これだけ酷ければ、コンピュータのCPUは全滅ぢゃ!!」

「オー、ノーーッ!!!」

 ライカーは思わず叫んでいた。

 +  +  +  +  +

 松下は、血相を変え、

「しかし博士!! 何で直接使徒が攻撃を行った訳でもない地域の通信網にノイズがっ!!?」

『一つしか考えられん!! 松下!! 忘れたのか!! 使徒は大型生物の形をしたヤツだけしかおらん訳ではなかろう!! 細菌みたいなヤツがおった筈ぢゃ!!』

「!!!!! まさか!!!」

 +  +  +  +  +

「そうぢゃ!! たった今、オモイカネⅡが断定しよったわい!! これはイロウルぢゃ!! イロウルが増殖して通信網に侵入しおったのぢゃ!!」

『待って下さい!! 今度の使徒がマーラと一体化していて、人を食った実績があって、しかも細菌状のヤツが来たとなると!!!』

 悲痛な松下の声に、中之島は、

「言うまでもないわい!! 人間に取り付きよるのは最早時間の問題ぢゃ!! 人類史上最悪の『バイオ・ハザード』になるぞ!!!」

 ライカーが頭を抱えて叫ぶ。

「オーマイガアッッドオォォ!!!」

 +  +  +  +  +

 地球では世界各地でマーラとしての能力を持った使徒イロウルの侵攻が始まっていた。実はイロウルは他の使徒に付着していたのである。そしてその使徒が上陸した地点で飛散を始め、通信網、電力供給線、水道、ガス等の、所謂「生命線」を次々と侵して行ったのであった。

 通信が出来なくなった。電気が来なくなった。水もガスも出なくなった。

 こうなると今まで文明を謳歌していた人間はひとたまりもなかった。

 生活の根幹を侵され、パニックにより暴徒と化した人々が各地で荒れ狂って行く。そしてそれを修復する術を失った人間は自ら滅びの道を邁進して行くだけだった。

第三部・トップはオレだ! 完



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'祈り(Ver.4b) ' composed by VIA MEDIA

トップはオレだ! 第二十七話・多情多恨
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