第三部・トップはオレだ!




 5月18日6:00。JRL本部中央制御室。

 時計を見た松下が、

「オクタ各機! これ以上監視飛行を続けても仕方あるまい! 全機帰還するんだ!」

『了解しました』
『了解です』
『了解しました』
『了解!』
『了解しました』
『了解です』
『了解致しました』
『了解です』

 パイロット全員が口々に応答する声が中央に響き渡る。

 +  +  +  +  +

 本部へ向かって飛行するアカシャの中で、サトシは軽い自己嫌悪に囚われていた。

(……なんで、リョウコの事をあんなに気にしていたんだ……)

 スクリーンを見ると、リョウコのヤキシャは大作のプリティヴィと並んで飛行している。

(……今更、……だよな……)

 +  +  +  +  +

「……本部長。ゼルエルはどうなったのでしょう……」

と、言った由美子に、松下は、

「あれだけの衝撃波を食らったら、普通ではまともにいられる筈はないが、なんせ『バケモノ』だからなあ……。まあ、今後も注意するしかあるまい……」

 その時だった。由美が血相を変えて振り向き、

「!! 本部長! 緊急通信です! 外国で『使徒』が出現したとの情報が入って来ました!」

「何だと!! またか!!」
「なんですって!!」

 松下と由美子は顔色をなくした。

 +  +  +  +  +

第二十三話・自己嫌悪

 +  +  +  +  +

 由美は続けて、

「『使徒』が出現したのは、アメリカ本土、ロシア、中国、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリアの7ヶ国です! 現在、軍隊が応戦中です!!」

 由美子は、愕然として、

「全部で7体も!?」

「はい! アメリカに出現した『使徒』は、ハワイに出現したものと同じ『サキエル』である事が確認されています!」

「何だと!? 半日でハワイからアメリカ本土に移動したと言うのか!」

と、驚く松下に、由美子は、

「本部長! だとすると、こっちに現れたゼルエルも、どこかへ高速で移動してしまったのでは?!」

 その時、中之島が、

「二人とも、まあ待て。今ここで我々がジタバタしても始まらん。幸か不幸か、『使徒』が出現した国は強力な軍事力を持っている国ばかりぢゃ。特にアメリカはハワイの事もあるから、恐らく『使徒』に対して核攻撃を行うぢゃろう。こっちはこっちの態勢を固めて様子を見るべきぢゃ」

 松下と由美子は、

「……確かに」

「……はい、博士の仰る通りですね……」

 中之島は改めて、

「30分もせん内にオクタは帰って来る。とにかく、プリティヴィの修理も含めて、こっちはこっちで出来る事をやるだけぢゃよ」

 +  +  +  +  +

ゴオオオオオオッ!!

 夜のアメリカ西海岸に出現したサキエルに対し、戦術核を搭載した爆撃機が迫って行く。

 +  +  +  +  +

 八人のパイロット達は本部に帰って来た。操縦カプセルから降りた彼等を機関部長の山上が出迎え、

「みんなご苦労だったな。すぐに整備と改良に取りかかるから、君達は作戦室に行ってくれ。……それと、また外国に『使徒』が現れたらしい。今度は全部で7体だそうだよ」

 或いは、との感もなくもなかったとは言うものの、パイロットは全員言葉を失うしかなかった。

 +  +  +  +  +

 作戦室では松下を始めとする幹部による会議が行われていた。

 その時入って来た7人のパイロットに、松下が、

「お、みんな帰って来たか。今、情報を分析していた所だよ」

 まず、マサキが、

「で、結局どうなんでっか? 外国の方は?」

 松下は、何とも言えない顔で、

「それがな、意外な事に、核攻撃はかなりの効果を上げたそうだ」

 サリナが驚いて、

「核攻撃は使徒に有効やった、言う事ですのん?」

 由美子が頷き、

「そうなのよ。さっき入って来たばかりの情報なんだけどね……」

 +  +  +  +  +

 日本時間5月18日4:00頃。アメリカ西海岸の某所。

「コチラ802。投下ノ許可ヲ」

『許可スル』

ヒユウウウウウウウウッ!!

ドオオオオオオオオオオンンンッ!!

「グエエエエエエエエエエッ!!」

 核爆弾の直撃を受けたサキエルは頭を抱えて悶絶し始めた。

 +  +  +  +  +

「……と、言う訳でね。アメリカ西海岸に現れたサキエルは、核攻撃で撃退されたのよ。海に逃げたらしいわ」

と、言った由美子の言葉に、ゆかりが、

「核兵器は使徒のATフィールドをある程度破る事が出来た、と言う事になるのでしょうか?」

 中之島が頷き、

「うむ、少なくとも現在判っておる情報では、ATフィールドに対して核攻撃は有効であった、と言う事になるのう。しかもぢゃ、今回アメリカが使った核は小型の戦術核ぢゃった。戦域核から戦略核レベルの物を使えば、殺す事も充分可能ぢゃと考えられるのう」

 ここで大作が、

「アメリカ以外ではどうだったんです?」

 由美子は、手元の資料を確認しつつ、

「アメリカからの『核攻撃は有効』と言う情報が国連を通じて他の国にも流れたのよ。それで、核保有国はすぐに核を使ったし、核を持っていないカナダとオーストラリアはアメリカに依頼して核を打ち込んだの。で、結果は同じでね。一応全ての使徒は撃退されたわ。ただし、一つだけちょっと気になる事があるのよ。ロシアに現れた使徒なんだけどね」

 続いてサトシが、

「ロシアにはどんな使徒が出たんです?」

 由美子は続けて、

「まだら模様の黒い球みたいなヤツよ。あのアニメの中では『レリエル』と言う名前が付けられてて、影の部分で何でも飲み込むヤツなんだけどね。他の使徒は全部海から現れたんだけど、こいつだけはいきなりモスクワ郊外に出て来たらしいわ。

 それで、ロシア軍は思い切って球体と影に同時に戦術核を打ち込んだのよ。そしたら、影の方は、当然と言う事になると思うけど、核ミサイルを飲み込んでしまったの。球体の方に発射されたミサイルは、これが驚いた事に、本体に突き刺さって、爆発しないまま中に埋まってしまったんだけど、その次の瞬間、突然球体も影も消えてしまったのよ」

 リョウコは驚き、由美子に、

「消えたんですか?」

「そう。『消えた』のよ。それで、これまた驚いた事に、影が消えた後、飲み込まれていたものがそのまま無傷で現れたらしいわ。しかも、残留放射能も検出されなかったんだけど、生物だけは全く残っていなかったらしいの」

「えっ!!? じゃ……」

と、驚いたアキコに、由美子は頷くと、

「そう。『食われた』のよ……」

 タカシが、眉を顰め、

「『食われた』、とですか……」

「まあ、ハワイにサキエルが出て来た時の事を考えれば、当然と言う事になるんだけどね。今回の使徒は、カオス・コスモスの時に出て来たマーラとしての使徒とも、あのアニメに出て来た使徒とも、明らかに違うわね……」

 パイロット達は由美子の言葉に顔色をなくすしかなかった。

 +  +  +  +  +

 格納庫。

「オクタ全機共、オモイカネとの接続が完了しました」

と、言った作業員に、山上は、

「よし、では分析を開始する」

 +  +  +  +  +

 作戦室。

 中之島が、全員を見回し、

「まあ、いずれにしてもぢゃ。今回、マーラではなく『使徒』が現れたと言う事をどう解釈するかは大きな問題ぢゃの。それと、今の所現れたのは全部で8体ぢゃ。これに関しては外国に出た連中の詳しいデータが欲しい所ぢゃのう……」

 その時、

「失礼します」

と、入って来た山之内に、松下が、

「お、山之内君。どうしたね」

「外国に現れた使徒に関する詳しいデータが揃いました。ロシアのヤツとアメリカのヤツは先に入って来た通りなんですが、その他の国の分をオモイカネに入れてあります」

「そうか。見てみよう」

 コンソールを操作すると、作戦室のモニタに複数のウインドウが開いた。

 +  +  +  +  +

「ん?! これは何だ?!」

 モニタを見ながらプリティヴィのデータを解析していた山上が顔色を変えた。

 +  +  +  +  +

 山之内が、レーザーポインタでウィンドウを指しながら、

「日本に現れた使徒はゼルエル、アメリカはサキエル、ロシアはレリエルでしたが、イギリスはシャムシェル、中国はラミエル、フランスはイスラフェル、カナダはマトリエル、オーストラリアはサハクィエルでした」

 松下は唸って、

「こいつら全部が海から現れたんだな」

「そうです。そのあたりの動きは、あのアニメの設定とは明らかに違っていますね。特に、オーストラリアに現れたサハクィエルは、宇宙に現れる事になっていましたからね」

 ここで中之島が、

「それに関してなんぢゃが……、のう、この期に及んで今更気取っても始まるまい。ざっくばらんに言うがの、儂は、この一件、『向こうの世界』で何かが起こって、それがこっちの世界に影響を及ぼしたと解釈しておる。無論、必ずしもそれが全てとも言えんとは思うがのう」

 由美子が、身を乗り出し、

「と、おっしゃいますと?」

「カオス・コスモスの事を考えればぢゃ、当然、今回の件は、言ってみれば『向こうの世界からの挑戦』と見るのが妥当ぢゃろう。無論、向こうの世界が組織的にこっちに戦いを挑んできたと考えるのは間違っておると思う。しかしぢゃ、まず普通に考えれば、『異次元の世界』の実在が一応確認されておって、しかも、その世界に存在しておった怪物がこっちの世界に現れたとなれば、『次元の壁』を破ったヤツがおって、その穴からこっちに『使徒』を送り込んで来た、と考えるのがまず常道ぢゃ。

 しかし、それだけの事をやってのける、となれば、これはまともな手段では不可能ぢゃ。ならば、当たり前の事ぢゃが、あのアニメの設定通りの『使徒』ではなく、それに加えて『何か』があると考えるしかあるまい」

 山之内も、少し顔をこわばらせ、

「すると、やはり『魔界』が関わっている、と?」

「うむ。今の所はマーラのノイズパターンは検出されておらん。しかし、カオス・コスモスは『魔界と現実界の融合』が引き起こした事件ぢゃった。そして、その時に『向こうの世界』と『こっちの世界』の間に『通路』が開いた事を考えればぢゃ、今回も『魔界』が関わっていると考えるのが順当ぢゃろうな」

 松下も、

「と、言う事は、『向こうの世界』で、『魔界と現実界の壁』に穴を開けたヤツがいる、と?」

「それは判らんぞ。あるいはこっちでかも……」

 その時だった。スピーカーから、

『こちら機関部山上です! 作戦室、応答願います!』

「松下だ」

『プリティヴィのオモイカネⅡを分析した所、「使徒」が放ったビームにマーラのノイズパターンが混ざっていた事がわかりました!!』

「なにっ!! すぐそっちへ行く!!」

 全員が顔色を変えて席から立ち上がった。

 +  +  +  +  +

 機関部。

「……以上です。このデータがそれです」

と、モニタを示した山上に、中之島は唸って、

「間違いない。マーラのノイズパターンぢゃ……」

 松下は、

「こっちのサイコバリヤーのデータが混入したのではないのか?」

 しかし、山上は、

「私も初めはそう思ったんですが、入念にフィルタをかけて何度もチェックした所、間違いなく『使徒』が発したビームに混ざっていたと言う事が確認されました」

 山之内も唸って、

「やはり、そうだったのか……」

 由美子も、中之島に、

「博士、今回の件にも『魔界』が関わっているとしますと、もしかして祇園寺一派の残党がどこかで活動を再開した、と言うような事は……」

「……由美子君、『残党』ならまだマシぢゃよ……」

「えっ!? では、まさか?!……」

「祇園寺は『霊的存在』ぢゃった。言わばエネルギーの波動のようなもんぢゃ。魔界の穴が塞がった時、儂等はあいつも伊集院君も消滅したと解釈したが、絶対にそうである、と言う保証はない。無論、残留していると言う証拠もないがの……」

 ここで、山之内が、

「まあ博士、想像を逞しくすればどんな事でも思い付きます。しかし今は確たる証拠はないのですから、一つずつ対応して行くしかないでしょう」

「その通りぢゃな。とにかく今回出現した『使徒』は、マーラと無関係ではない事が判明した。しかし、そうなると逆に『霊的攻撃』も有効になる可能性がある。特に、マントラレーザーは使えるぢゃろう。それを足がかりにして対応して行くべきぢゃな」

 松下も、

「その通りですな」

と、同意した後、山之内の方を向き、

「山之内君、前にも言ったが、博士と協力して、世界中の情報を集めるんだ。前のように、オカルト現象が発生していないかどうか調べてくれ」

 山之内は、

「了解しました」

と、頷き、中之島に、

「博士、御協力をお願い致します」

 中之島も頷き、

「うむ。無論ぢゃ」

と、言った後、山上に、

「ところで話は変わるがの、山上君」

「は、何でしょう」

「使徒ゼルエルが放ったビームぢゃが、結局の所どうなんぢゃ? あれはやはり粒子ビームぢゃったのか?」

「それが、ガンマ線の発生状況から考えまして、どうも怪しいのです。プリティヴィのバリヤーが受けたエネルギー量から計算しますと、もしあれだけのエネルギーを粒子ビームだけで発生させたとしますと、ガンマ線がもっと大量に発生していてもおかしくないのですが、そこまでの量は検出されませんでした。それでどうもあれはは放射線だけを発生させていたのではないかと考えられます」

「やはりそうか……。つまり、放射線は見せダマぢゃった、と言う事か……」

 ここで、サトシがおずおずと、

「……あのー、博士、どう言う事なんでしょう?……」

 中之島は、やや苦笑して、

「いやそのな、あいつがビームを放った時にガンマ線が大量に発生したと聞いて、儂は彼奴が粒子ビームを放ったのか、と思ったのぢゃよ。ところがぢゃ、よく考えて見ると、もしそれだけ大量の粒子ビームが放たれていたとすると、周囲の大気と反応して発生する放射線はとてもではないがあれだけの量では済まん筈なのぢゃ。それでもしかするとあれは粒子ビームではないのかも知れん、と気付いたのぢゃよ。儂もまだまだ修行が足らんわい……」

 ゆかりは頷き、

「なるほど、そうですわね。大気中で粒子ビームを無闇に放つと、下手をすると『放射線シャワー』が発生する可能性がありますものね」

 リョウコが、訝しげに、

「放射線シャワー?」

 中之島は、軽く頷き、

「そうじゃ。高速粒子によって大気の原子が破壊されると、その時に発生した放射線が更に大気の原子を破壊し、鼠算的に放射線を発生させてしまう可能性があるのぢゃ。そうなるとあたり一体は被爆の憂き目に遭うのぢゃが、今回はそこまではならなかった。と、言う事は、粒子ビームと言っても大した事はなかったか、あるいは放射線だけを出してレーザーと混ぜ、恰も粒子ビームと思わせるようにした、と考えられる、と言う事なのぢゃよ」

 ゆかりが、それを受け、

「それに博士、もし使徒が放射線を発生させていたとしますと、ATフィールドの内側から外に向かって出した放射線がフィールドを通り抜けた訳ですから、核攻撃が使徒に有効であると言う事も頷けないではありませんね」

「その通りぢゃな。案外、使徒は放射線が弱点なのかも知れん」

 ここでアキコが、

「でも博士、使徒が放射線を出せると言う事は、放射線に強いとは考えられませんか?」

「その可能性もある。しかし、自分が放射線を出すからと言って、放射線に『免疫』があるとは言い切れん。例えば電気を発生させる動物が電気で死なないかと言うとそうでもないからの。要するに量の問題なのぢゃ」

「あ、なるほど……」

と、アキコが頷く。続けて大作が、

「つまり、放射線はATフィールドを潜り抜ける力がある可能性がある、と言う事ですか」

 中之島はまた頷き、

「その通りぢゃ。考えて見れば、レントゲンなんかまさにそうぢゃろう。物質を摺り抜ける力がある物ならば、ATフィールドだって摺り抜けられる可能性は大ぢゃな」

 ここで、松下も、

「よし、わかった」

と、頷き、山上に、

「山上君、その方向でオクタの武器を強化出来ないか検討してくれ。それと、サイコバリヤーの改善、マントラレーザーの波形を相手のフィールド波形に合わせて変動させて攻撃する方法も同時に検討するんだ」

「了解しました」

 更に、中之島は、

「それにはオモイカネとオモイカネⅡの改良も必要ぢゃな。では早速取りかかるとするかの」

 +  +  +  +  +

 自室に帰って来たサトシは一眠りした後、ベッドに寝転んで天井を見ながら考え事をしていた。無論今日は学校は休みであり、みんな自宅で休養している。

(……あの時、なんであんなにリョウコの事を気にしてたんだ……)

 すったもんだの末、リョウコとは「別れ」て、アキコと「付き合い」始めたのに、いざ彼女が危険な目に遭いそうになった途端にまた気にし出してしまった。その心の動きはサトシに小さな自己嫌悪を起こさせるに充分だったのだ。

(……僕はやっぱりまだリョウコの事が好きなのかな……)

 色々と考えてみるが結論は出ない。無論、リョウコの事を考えても、特に、「好きでたまらない」と言う感情が起こって来る訳ではないが、いざとなった時あのように考えてしまった理由は判らない。

(……形代にはだまっているべきかな……)

 こんな事をアキコに「告白」しても気を悪くするだけだろう。しかし、黙っているのは自分が辛い。どうしたものか、と考えながら、サトシは悶々としていた。

(……でも、考えてみたら、今はこんな事で悩んでいる時じゃないんだよな……)

 今の状況を考えれば、こんな事で悩んでいるべきではないのは理の当然である。しかし「人間の感情」と言う物は「理屈ではどうしようもない」部分がある事は否定出来なかった。

(……こんな事でいつまでもクヨクヨしていたら、またあんな事に……)

 サトシの心に「沖縄で戦った時のミス」の事が蘇って来た。いつまでもこんな事で悩んでいたら、次の戦いでもまたつまらぬミスをやってしまいかねない。

(よし、決めた……)

 サトシはベッドから起き上がり、時計を見た。13:00を指している。

(綾小路さん、起きてるかな……)

 電話に手を伸ばし、ボタンを押す。

『はい、綾小路です』

「あ、沢田です。ややこしい時間にすみません」

『あら、こんにちは♪ どうなさいましたの?』

「お疲れのところを申し訳ないんですが……」

 +  +  +  +  +

 アキコも自室で休養していたが、やや空腹感を覚えたので、食事の支度をしようと立ち上がった。

「あ、そうじゃ、沢田くんもおなかすかしとるよね……」

 アキコは受話器を手にした。

『ツーッ、ツーッ、ツーッ……』

(話し中か……、後でかけよ……)

 +  +  +  +  +

「……と、言う訳なんです……」

と、話し終えたサトシに、ゆかりは、

『そうでしたの。……でも、沢田さん、逆に一つお聞きしますが、もし形代さんが先に出ておられたとしたら、あなたはどうお考えになりました事? やはり、ご心配なさったのではありませんか?』

「えっ?! ……そう言われると……、確かに、その通りです……」

『それから、こんな事を申してすみませんが、私が先に出ていたら、どうお考えになられますか?』

「えっ?! いやその、……やっぱり心配すると思います……」

『そうでしょう。何のかんのと言っても、親しい異性の友人が危険な目に遭うかも知れない、となれば、やはり心配になるのは当然でしょう。増してや、あなたと北原さんはずっとお付き合いしてらしたのですから、全く心配しないと言えばウソになるのではありませんこと?』

「は、はあ……」

『そんな事で自分に対して詰まらない意地を張る事はないと思いますわ。お気になさらずともよろしいのではないかと考えますわよ』

「そうですか。……そう、そうですよね。こんな事でクヨクヨ悩む事ないですよね」

『そうですわ。それに、そんな風にお考えになった、と言う事は、それだけ形代さんの事を気遣っておられる、と言う事でもあるのでしょ』

「あ、そう言われると……」

『そうですわよ。そんな事はもう気にせず、しっかり頑張って下さいね』

「はい、色々とどうもありがとうございました。これで気持ちが晴れました」

『いえいえどうも。大した事ではありませんわ♪』

「ではこれで失礼します」

『はいはい。ではまた♪』

カチャン

トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル

「あれ、電話だ。……はい、沢田です」

『あ、沢田くん、わたし』

「あ、形代。どうしたの?」

『おなかすいたでしょ。ご飯作ったから、よかったら食べに来ん?』

「えっ!? そ、そうなの。うん、ありがたくごちそうになるよ」

『どないしたん? あわてて、うふふ♪』

「い、いや、なんでもないよ。あははは、じゃ、すぐ行くから」

『じゃ、待っとるけんね♪』

 電話を切った後、サトシは少し心が晴れる思いだった。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'夜明け -Short Version- ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)

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