第三部・トップはオレだ!




 突然の使徒の襲来から1週間が経過した。

 この間、世界各国の軍による懸命の捜索にも関わらず、使徒の影すら発見出来ない。並行して、アメリカを中心とする核保有国は、「使徒との全面核戦争」の態勢を着々と進めており、日本でもJRLと自衛隊が「使徒迎撃」の準備を進めている。

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第二十四話・奇々怪々

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 5月24日。JRL本部の作戦室では、山之内と中之島が集めた「世界中でのオカルト現象」に関する調査結果を元にして会議が行われていた。

 山之内は、調査結果を報告した後、

「結論を申し上げます。現在の所、『カオス・コスモス』の時に発生していたような『目立ったオカルト現象』と思われるものは発生しておりません。その意味で、現在、『魔界と現実界の融合』に関しては、『その可能性がある』と言う事すら推定出来ません」

 松下が唸って、

「うーむ、博士、今回の使徒は、『マーラのノイズパターン』を発生してはおりましたが、『魔界と現実界の融合によって生まれた物』ではないと言う事でしょうか」

 中之島も、

「現在の情報ではそう考えざるを得んのう。無論、『マーラとしての性質を持って、この世界に出現した』と言う事は否定出来んぢゃろうが、『魔界と現実界の融合で生み出された』とは、到底言えんぢゃろな」

 ここで由美子が、

「では、やはり『向こうの世界』からやって来た、と?」

 中之島は、頷き、

「今の所は仮説に過ぎんが、そう考えるのが一番妥当ぢゃろうな。しかし、『魔界』が関係しておる可能性は否定出来ん。となればぢゃ、月並みで陳腐な見解ではあるが、『向こうの世界から魔界を通ってやって来た』と考えるのが一番素直ぢゃな」

「やはり、……で、その際、『マーラ』としての能力を持った、と……」

「そう言う事になるのう。……クソっ! こんな時、『向こうの世界』の状況を探る方策でもあればのう……」

 中之島の言葉に、由美子が、

「確かに……。でも、こればかりは……」

と、頷いた時、突然立ち上がり、

「あっ!?」

 山之内も身を乗り出し、

「どうした!?」

「『異次元の双子』よ! 私もそうだけど、考えてみたら、サトシ君、アキコちゃん、リョウコちゃんもそうだし、あなたもじゃないの! この五人の内誰かが自分の異次元の双子の相手とテレパシーが通じないかしら!」

 由美子の指摘に、山之内は、

「あっ! 確かにそう言われて見たら……」

 中之島も、思わず机を叩き、

「そうか! 元々オクタのパイロットの諸君は『魔法使い』としての能力を見込まれてここに来た筈ぢゃ。もしかしたら可能かも知れん!」

 由美子は、勢い込んで、

「そうですよ! 私や山之内には無理でしょうけど、あの子たちなら出来るかも知れませんよ!」

 更に、中之島は、

「そうぢゃ! もう一つ思い付いたぞ! もし使徒が『魔界』を通ってこっちに来たのぢゃとすると、それを逆手に取って『向こうの世界』と『こっちの世界』の間に何とか通信ルートを開く事が出来るかも知れんぞ!」

 松下も、

「そうだ! 博士! スピン波を『マーラのノイズパターン』で変調してやれば、次元の壁を通り抜けられるのでは?!」

「おお! そうぢゃ! やってみる価値はあるぞ!」

 その時、山之内が、

「あ、でも、『向こうの世界』にスピン波の受信機があるでしょうか」

 指摘され、中之島は、

「お、そうか。……たしかにそうぢゃ。向こうで受信する方法か……」

と、一呼吸考えたが、すぐさま、

「うむ! そうぢゃ! 受信する方法はないとしとても、レーダーとかスキャナのような使い方が出来んかの!?」

 山之内も頷き、

「なるほど! そうですね!」

 ここで、松下が、

「よし、では整理しよう。方法は二つだ。一つは『テレパシー通信』が出来ないか、と言う事。もう一つは『次元の壁を通り抜けるレーダーもしくはスキャナ』を作れないか、と言う事。この二つを早速やってみよう!」

 由美子が、それを受け、

「では、すぐに沢田、形代、北原の三人に『テレパシー通信』をやらせてみます。岩城理事長にも応援をお願いする事に致します」

「うむ、それがいい。岩城は彼等の『師匠』だからな。頼んだぞ。それから、可能性としてはある以上、君と山之内君もやりたまえ」

 由美子と山之内は、

「はい、了解しました」
「了解しました」

 その後、すぐさま由美子が、

「では、今から青嵐学園に行って来ます」

と、立ち上がり、山之内と共に作戦室を出て行った。

 続いて中之島が、松下に、

「松下、儂等はオモイカネにデータをセットしよう。レーダーとリンクさせてスキャナとして使うのぢゃ。今後はこのシステムを『フェイズ・スキャナ』と呼称するぞ」

「了解しました。早速始めましょう」

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 青嵐学園理事長室。

 由美子と山之内から事情を聞いた岩城は、

「うーむ、成程。あの三人に『テレパシー通信』をやらせてみよう、と……」

 山之内は頷き、

「そうです。彼等なら出来るかも知れません。元々理事長は彼等の『師匠』でしたから、そのあたりの御指導をお願い致します。無論私達もやらさせて戴きます」

「わかりました。やってみましょう。早速彼等を呼びます」

 ここで由美子が、

「私が連れて参りましょうか?」

 岩城は頷き、

「そうですか。ではお願い致します」

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 操縦技術科1年1組。

「……で、あるからしてだな……」

 担任の本郷が授業を行っている所に、

「授業中失礼します。JRL総務部の山之内です」

と、由美子が現れた。それを見たサトシが、

「あれ? 由美子さん……」

 本郷は由美子に、

「あ、これはどうも……。何でしょうか?」

「急務が発生致しました。沢田、形代、北原の三名を理事長室に行かせて戴きたいのですが」

「えっ!?」
「えっ!?」
「えっ!?」

 サトシ、アキコ、リョウコの三人が、思わず声を上げる。本郷は、

「わかりました」

と、頷いて、三人に、

「沢田、形代、北原、聞いた通りだ。理事長室に行ってくれ」

「は、はい……」
「はい……」
「はい」

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 JRL中央制御室。

 松下が、真由美に、

「ではフェイズ・スキャナの実験を開始する。末川君、始めてくれ」

「了解しました。開始します」

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 青嵐学園理事長室。

 話を聞いたサトシは、

「えっ!? 僕らに『テレパシー通信』をやれ、と仰るんですか?」

 由美子は頷き、

「そう。月並みな結論かも知れないけど、今の所本部では、今回の事件は『向こうの世界』が何か関係している、との仮説を立てて検証を進めているわ。そのための一つの手段として、あなた達三人に『テレパシー通信』をやらせてみよう、と言う事になったのよ」

 ここでアキコが、由美子に、

「わたしらなら、『向こうの世界』とテレパシーで通信できるかも知れん、と言うことですか」

「ええ。あなた達三人は『暗黒の次元』で碇シンジ君、綾波レイさん、惣流アスカ・ラングレーさんと出会っているでしょ。その状態を再現する、とまでは行かなくても、誰かがそれぞれの『異次元の双子の相手方』と通信出来ないか、と考えたのよ」

と、言った由美子に、リョウコも、

「なるほど。可能性はありますね……。と、言うことは、部長や山之内室長も可能性はある、と言うことですか?」

 山之内が頷き、

「無論僕と総務部長もやってみるつもりだ。ただ、素質から言って君達よりは可能性は低いと思うがね……」

「あ、なるほど。『魔法使い』としての素質、ですか……」

と、リョウコが言うのへ、岩城が、

「まあとにかくやってみようじゃないか。私も昔に戻って君達の『魔法の師匠』をやらせてもらうよ」

「わかりました。がんばってみますけん、よろしくお願いいたします」

と、アキコ。続いてリョウコも、

「了解しました。よろしくお願いいたします」

 そして、サトシも、

「わかりました。よろしくお願いします」

と、一礼した後、改めて、

「でも、今は『魔界と現実界の融合』は起こっていない訳ですから、そのあたりが前とは違うんですね」

と、言ったのへ、岩城は、

「そうだ。あの時は『異常事態』だったからな。そこから考えると今回は前と同じと言う訳には行かないだろうが、とにかくやってみるだけだよ」

 それを聞き、サトシは、

「なるほど、……『異常事態』ではない、と……」

と、頷いたが、その時、

「あっ!?」

 岩城が、身を乗り出し、

「どうした、沢田君?」

「いえ、それがその……」

 由美子も、

「何か思い付いたの? サトシ君」

 サトシは、やむなく、

「……は、はい……。決心しました。思い切って言います。……実は、今思い出したんですが、『カオス・コスモス』のすぐ後に、僕、一度だけ、綾波に会っているんです」

 由美子は、顔色を変え、

「なんですって!?」

 山之内と岩城も、

「何だと?!」
「何だと?!」

 アキコとリョウコも、

「えっ!?」
「えっ!? レイと!?」

「沢田君、詳しく話してくれないか」

と、山之内が言うのへ、サトシは、

「はい……。事件が解決した後、僕と北原が遺伝子検査を受けた日の夜だったんですが、どうも寝付かれなくて、マントラ瞑想をやったんです。そしたら、たまたま綾波と出会えたんです」

「『暗黒の次元』でか?」

「はい、それで色々と話をしたんですが、もう事件も解決したし、お互い別の世界に別れ別れになったから、この事は誰にも言わないようにしよう、って、言って、別れたんです。……今まで黙っていて申し訳ありませんでした」

と、頭を下げたサトシに、由美子は、

「まあ、その経緯からしたら、今まで言わなかった、って言っても、別に責められることじゃないわ。その事はもういいんじゃない。それよりもその話の内容よ。綾波さんは向こうに帰ってどうなったの?」

「ええ、帰った時点が過去だったらしく、『サード・インパクト』は阻止できたって、言ってました」

 ここで山之内が、顔色を変え、

「なんだと! 沢田君、ちょっと待て。それじゃ、『向こうの世界』の歴史が変わった、と言う事じゃないか!」

 サトシは驚き、

「えっ!? ……そ、そう言われれば確かにそうです。その時は、事件が解決した、って事にばかり気を取られて、あまり意識してなかったんですけど……」

 山之内は唸って、

「うーむ、これは重要な情報になるかも知れんぞ。これはここで話すよりも、本部に行って、本部長と中之島博士にも聞いてもらった方がいいな。すぐ本部に戻ろう」

 由美子も頷き、

「そうね、それがいいわ。戻りましょう」

「私も行きましょう」

と、言った岩城に、山之内は、

「ちょっと待って下さい。本部長に電話を入れます。会議の準備をしておいてもらいましょう」

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 JRL中央制御室。

「どうだ。フェイズ・スキャナには何か反応があったか?」

と、松下が言うのへ、真由美は、

「だめです。今の所何もありません」

 しかし、中之島は、

「まあ、始めたばかりぢゃからな。時々波形を変えてみるのぢゃぞ」

「了解しました」

と、真由美が頷いた時、

トゥルルル トゥルルル

 松下のスマートフォンである。

「おっ、山之内君から電話だ。……松下だ。どうした?」

『本部長、重要と思われる情報を手に入れました。すぐに戻りますので、会議の準備をお願い致します』

「なんだと! わかった。準備しておく」

と、顔色を変えた松下に、中之島が、

「どうした、松下?」

「山之内君が何か掴んだようです。すぐに戻るから会議の準備を頼む、と言う事でした」

「おお、そうか。突破口になると有り難いのう」

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 作戦室。

「……と、言う訳なんです」

 説明を終えたサトシに、中之島が、

「うーむ、これは全く以て意外な話ぢゃのう。『向こうの世界』がそうなっておったとは……」

 松下が、改めて、

「沢田君、もう一度確認するが、『向こうの世界』でも、こちらと同じように使徒が同時に侵攻して来た、と、そして、『小型使徒』が大量に発生した、と言うんだな」

「そうです。それで、最後の使徒と考えられた『天使のような白い少年』を初号機が倒した瞬間に、全ての『小型使徒』は死んだそうです。その時の混乱でゼーレのメンバー全員と碇ゲンドウが死んで、補完計画は実行されずにすんだ、と言う事です」

「こっちの状況と同じだ。……と、言う事は、『向こうの世界』とこっちの世界は、やはり何か同期している部分があるのか、とも考えられるな……」

 ここで由美子が、

「つまり、今回のこっちの事件も、やっぱり、『向こうの世界が』関係している、と?」

 松下は頷き、

「断定は出来んが、充分以上の可能性はある。逆に言えば、向こうでも何か起こってこっちと連絡を取ろうとしてる可能性すらあるぞ」

 それを受け、中之島が、

「問題は時間の流れぢゃな。向こうとこっちでは時間の流れが同じではない、と言う事ぢゃったぢゃろ。つまり、連絡を取ろうにも、フェイズ・スキャナで様子を探ろうにも、スピン波を使う限り、絶対的な時間の速度が同じにならんと非常に困難ぢゃろうな」

「そこは、『魔界』と言う『インタフェース』を挟む事で何とかならないでしょうか?」

「うむ、それは可能かも知れん」

 その時、山之内が、

「ちょっと待って下さい。どうも気になっているんですが、今の時点では、沢田君が綾波君から聞いた話の流れをそのままこっちの事件に結び付けるのは危険なのではないでしょうか?『向こうの状況』はわからないのですから、『向こうもこっちと連絡を取ろうとしているのではないか』と言う事に囚われると、落とし穴に落ちかねない気がするのですが」

「成程な、確かにそれはその通りだ」

と、頷いた松下に、山之内は続けて、

「寧ろ重要なポイントは、『事件解決後、沢田君が綾波君と交信した実績がある』と言う事だと思います。その時の状態を再現すれば、何とか『向こうの世界』と連絡を取る事が出来るかも知れない、と言う事でないかと」

 中之島も頷き、

「成程、一理あるのう」

 ここで由美子が、

「サトシ君、確認しておきたいんだけど、要するには、『マントラ瞑想中に綾波さんに会えた』と言う事ね?」

「はい、そうです」

 山之内は、少し首を傾げ、

「しかし、どうして綾波君はその時『瞑想状態』になったんでしょう」

 思わぬ指摘に、サトシは、

「えっ!?……」

と、少し顔色を変えた。それを見た山之内は、

「?……」
(おっ?……)

 しかし、中之島は、

「それは気にする事はなかろう。『暗黒の次元』をインタフェースとして『テレパシー交信』をやったとすれば、『時間の概念』は無視出来る訳ぢゃ。例えそれがいつの時点であっても、綾波君がマントラ瞑想さえやってくれれば何とかなる筈ぢゃぞ」

 岩城が、それを受け、

「博士、と、なりますと、寧ろ問題は、『向こうも瞑想をやってくれるかどうか』と言う事ですね」

 中之島も、

「お、そうか、そう言う事になるのう。儂は『時点』の事ばかり考えておったが、それ以前に、向こうがそれをやってくれるかどうかの方が問題ぢゃな」

と、頷いた後、サトシに、

「沢田君、その時、綾波君がなんで瞑想をやったかは聞いておらんかったか?」

「……いえ、それは……、その時は意識していませんでしたし……」

 中之島は、

「そうか、なら仕方ないのう」

と、また軽く頷いた後、改めて、

「とにかくぢゃ、今の時点で一番可能性のある方法は、沢田君、形代君、北原君の三人に、マントラ瞑想をやって貰う事ぢゃな。そうして『暗黒の次元』に網を張っておけば、何か引っ掛かるかも知れん」

と、言うのへ、リョウコが、

「博士、わたしの場合はタロットを使っていて、意識がなくなった時に『暗黒の次元』に行っていた、と言う事が後でわかったんですが、マントラ瞑想でよろしいんですか?」

 アキコも、

「わたしもタロットでしたけんど」

 それを聞いた中之島は、

「おお、そうか。それならそっちの方がよかろうな」

 ここで由美子が、

「でも、リョウコちゃんとアキコちゃんは、その時の事は覚えてなかったんでしょ」

「そうです。その時は覚えてませんでした」

「わたしもです」

と、リョウコとアキコ。それを受け、岩城は、

「問題はそこですね。何らかの形でその状態になった時に無意識レベルで掴んでいる情報を引き出す必要がありますよ」

と、言った後、軽く机を叩き、

「そうだ、脳神経スキャンインタフェースを使えばどうでしょう」

 中之島も、

「うむ、それぢゃな。同じような状態を再現してインタフェースを接続してやれば、その時の無意識レベルの情報は引き出せる」

 岩城は頷き、

「わかりました。しかし私が見る限りでは、沢田君、形代君、北原君共に、長い間『魔法の訓練』はやっていなかったでしょうから、今すぐにそのような状態になれるとは思いません。また訓練を始める所からスタートすべきでしょう」

 それを受け、松下は、

「わかった。とにかく今はその方向でやろう。岩城理事長には三人の訓練を始めてもらい、私と博士はスキャナの方を進める」

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 時間もそこそこ遅くなったので、サトシ達三人は学校に戻らずそのまま自室に戻って来た。

 岩城からは、

「とにかく今日はあれこれ言わないから、部屋に帰ってヒマがあったら瞑想なり占いなりをまた始めるように」

とだけ言われている。その意味では、少なくとも今日は「楽をさせてもらった」と言う事になる。

 しかし、サトシはと言うと、少々後悔の念に囚われていた。

(……どうしよう。……レイとから聞いた話の事は言ったし、「マントラ瞑想をやったらレイに会えた」、って事はウソじゃないけど、肝心の「髪の毛」の事はとうとう言えなかった……)

「あの時、マントラ瞑想をやったのは、『レイの髪の毛』が残っていたからだ」と言う事は、結局言いそびれてしまっていたのである。

(「髪の毛」の事を言うとなったら、「なんで髪の毛を持っていたのか」も言わなきゃならないだろうしなあ……)

 考えてみれば無理からぬ事だった。

 そもそも、「レイの髪の毛」を持っていたのは、「暗黒の次元でレイと抱き合ってキスし、思わず頭に手をやった時にへばり付いた」からである。如何な事、この「事情」をそのまま言うのはあまりに気が引ける。

(……だからって、言わない訳にはいかないよな。……レイと会えたのは、向こうも僕の髪の毛を持ってたからだし……)

 色々と悩むが解決策は思い浮かばない。どうしたものかと考え込んでいた時、

トゥルルル トゥルルル トゥルルル

 サトシは一瞬はっとしたが、受話器に手を伸ばし、

「はい、沢田です」

『山之内です』

「あっ、山之内さん、どうも……」

『今日はどうもお疲れ様だったな。ところでサトシ君、男同士だ、ざっくばらんに話し合いたいんだが』

「は、はい、なんでしょう?……」

『今日の会議での君の様子だ。これはあくまでも僕のヤマカンに過ぎないんだが、何か言いにくい事があったんじゃないのか?』

「えっ!? ……いえ、その……」

『図星だな。どうだ? 僕にも言えない事か?』

「いえ、その……。わかりました。全部お話します。……実は……」

 山之内に見抜かれたと悟ったサトシは、ハラを括って全てを語り、

「……と、言う訳なんです。どうもすみませんでした……」

『そうだったのか。……よし、わかった。その話はな、絶対に北原君や形代君には言うなよ。由美子にもな』

「えっ!? それは……」

『もう何も言うな。いくらなんでもその話をするのはヤボと言うもんだよ。なあに、心配するな。岩城理事長には僕が上手く言っておくから』

「えっ? はあ、どうも……」

『君のその話は、「向こうの世界」とテレパシー交信をする時には重要なポイントになると思うから、岩城理事長には言わなきゃならんと思うが、「何故髪の毛を持っていたのか」に関しては、別の理由を付けておこう。そうだな、「魔法的な意味合いで、髪の毛を使えば何か出来るかも知れないと考えて、二人で髪の毛を抜いてお互いに持っていた」と言う事にしておこうじゃないか。それから、僕とこの話をした事もだ、「たまたま相談事で話をしている内に思い出した」と言う事にしておこう。わかったな』

「は、はい。……どうもありがとうございます……」

『心配するな。僕に任せておけ。じゃあな、明日から頑張ってくれ』

「あ、待って下さい」

『なんだい?』

「あの、なんで僕がその話をしなかった事がわかったんですか?……」

『はっはっは、それはな、「魔法」だよ♪』

「えっ!?」

『と、言えば聞こえがいいんだが、タネをバラすとだな。以前君が僕に「女の子の事で悩んでいる」って言って、それで相談に乗った事があっただろう』

「は、はい。ありました……」

『今日の会議での君の顔が、その時と同じだったんだよ。もう一度言っておくぞ。絶対にみんなには言うなよ。特に形代君にはな』

「えっ!?」

『じゃあな♪』

「あっ、山之内さん………」

 電話が切れた後、サトシは暫し呆然としていた。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'夜明け -Short Version- ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)

トップはオレだ! 第二十三話・自己嫌悪
トップはオレだ! 第二十五話・会者定離
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