第三部・トップはオレだ!




 あれこれしている内に時は流れ、5月になった。

 この1ヶ月の間にオクタヘドロンⅡの最終調整も完了し、10日には初飛行の予定である。宇宙開発事業団から出向して来たパイロットによる手動操縦の調整も順調に進んでいた。

 オクタ各機の命名に関してはJRL内部で検討が進んでいたが、最終決定と発表は初飛行の当日と言う事になり、それまではコードネームで呼称する事になった。

 中之島の開発したオモイカネⅡはまだJRL本部に持ち込まれてはいないが、最終調整の段階に入っており、「実戦配備」は近かった。

 由美子と山之内はと言うと、連休前に結婚式を挙げ、モルディブへ新婚旅行に行っており、7日に帰国の予定である。

 パイロット候補生達は全員特に何という事もなく、毎日の勉強と訓練、そして遊びに勤しんでいる。操縦訓練に関してはまだシミュレータを使っている段階だが、成績の方はみんな順調であった。

 サトシとアキコはゆかりと三人であちこち遊びに行ったりして結構仲良くやっていた。

 リョウコと大作もそれなりに仲良くやっている。しかし、特にベタベタするような事はなく、如何にもこの二人らしい、と、言った所だった。

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第十九話・心機一転

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 今日は5月5日。

 明日が連休最後の日と言う事もあり、本当にのんびり出来るのも今日が最後、と言った調子で、サトシはベッドに寝転がってボケッとしていた。

(さて、今日はどうするかな……。明日も休みだけど、連休最後の日はなんとなく落ち着かないし、どこかに遊びに行くとしたら今日がいいよなあ……)

 その時、何の脈絡もなかったが、ふとサトシの心に、ゆかりのアパートで見た、「新世紀エヴァンゲリオン」の分岐シナリオの1シーンが浮かび、

(そう言や、あのシナリオ見た時はなんとも思わなかったけど、今考えてみると、いくつか謎が残ったままだったよなあ。……博士はどう言うつもりであれを作ったのかなあ……。なんとなく気になるよなあ……)

 時計を見ると10時過ぎである。

(10時過ぎ、か……。そうだ。一度思い切って博士の所に連絡をとってみる、ってことは出来ないかな……)

 無論中之島博士とも面識はあるし、オクタヘドロンのパイロットだったと言う事から考えてみても、連絡を取ってみる事自体は然程無謀ではない。しかし流石に何の前触れもなく博士に電話をかけるのも何となく気が引ける。

(そうだな。岩城理事長に相談してみるかな……)

 岩城はジェネシス時代のサトシの直接の師である。岩城に相談するのが一番よさそうだ。

(よし……)

 サトシはベッドから起き上がって受話器を手にした。

『はい、岩城です』

 女性の声である。どうやら岩城夫人らしい。

「あ、すみません。青嵐学園高等部一年の沢田と申しますが、理事長はご在宅でいらっしゃいますか」

『はい、少々お待ち下さい』

「…………」

『お待たせしました。岩城ですが』

「あ、先生、すみません。沢田です」

『おお、沢田君か。しばらくだな』

「実はちょっとお願いがありまして」

『おおそうか。なんだね?』

「はい、中之島博士に少々お聞きしたい事があるのですが、連絡させていただいてもかまわないでしょうか」

『ああ、別に構わないと思うが、博士に聞きたい事があるとは珍しいな』

「はい、実は博士のお作りになった『新世紀エヴァンゲリオン』の分岐シナリオを拝見したんです」

『お、あれを見たのか。……あ、もしかして綾小路君から聞いたのかい』

「はい、そうです。綾小路さんとはたまたまご縁がありまして、見せていただきました」

『そうか。それで興味を持った、と言う事か』

「そうなんです。それで博士にいくつかお聞きしたい事ができまして」

『なるほどな。じゃあ、いざと言う時は、僕からそう言われた、って言っていいから、博士の所に電話したらいいよ。オモイカネⅡの最終調整も殆ど終わっている頃だし、今なら大丈夫だろう』

「はい。じゃ、そうさせていただきます。どうもありがとうございました」

『ではまたな。博士によろしく』

「はい、ではこれにて」

と、一度電話を切った後、サトシは改めて、

「さて、と、中之島博士のところは、と……、077……」

『プルルル プルルル プルルル』

『中之島ぢゃが』

「あ、博士、オクタヘドロンの元パイロットだった沢田です」

『おお、沢田君か。これは珍しいのう。どうしたんぢゃ』

「実は、少々博士にお聞きしたい事がありまして」

『ほう、この儂にか。どう言う風の吹き回しぢゃな。ふぉっふぉっふぉっ』

「はい、博士がお作りになった『新世紀エヴァンゲリオン』の分岐シナリオの事なんですが」

『おお、あれか。あれがどうしたんぢゃな』

「いえ、実は先日あのシナリオを拝見致したんですが、少々疑問に思った事が何点か出来ましたので、それでもしよろしかったらお話をうかがえないか、と思いまして」

『ほう、そうか。それはそれは。ふぉっふぉっふぉっ。……まあその話となると、電話ではなんぢゃから、良かったらこっちへ来てみるかの』

「えっ? よろしいんですか」

『ああ、構わんぞよ。まあ、むさ苦しい所ぢゃから申し訳ないがの。ふおっふおっふおっ』

「はい、では喜んで行かせていただきます。……あ、すみません。友人と同行してもかまいませんか?」

『おお、構わんぞよ。何人でも連れて来給え。場所は判るかの?』

「はい、わかると思います。大津市の雄琴でしたよね」

『そうぢゃ、JRの湖西線で雄琴駅まで来て、そこから徒歩15分ぢゃ。まあ、細かい場所は本部で聞けば判るぞよ。ふぉっふぉっふおっ』

「はい、そうさせていただきます。では何時ごろにおじゃまさせていただいたらよろしいでしょうか」

『別に何時でも構わんぞよ。好きにし給え』

「どうもありがとうございます。では昼過ぎごろにおじゃまさせていただきます」

『そうかそうか。では待っておるぞよ。ふおっふぉっふおっ』

「はい、ではこれにて」

(……形代と綾小路さんに電話しなくちゃな)

 サトシはアキコとゆかりに連絡すべく、再度ボタンに手を伸ばした。

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 サトシ、アキコ、ゆかりの三人は、JR雄琴駅から中之島博士の研究所に向かう山道を歩いていた。無論ゆかりは岩城から貰ったメモリカードを持参している。

 サトシは周囲の緑に感心しながら、

「聞いてはいたけど、やっぱり山の中だなあ。こんなところに研究所があるなんてねえ……」

 アキコは、興味津々と言う顔で、

「……でも、中之島博士の研究所におじゃまするなんて、なんかちょっとドキドキするよ」

「大丈夫だよ。だって、僕らはジェネシス時代にお世話になってたんだし、面識もあるだろ」

 ゆかりはいつも通りの調子で、

「そうですわ。私は博士に直接お会いするのは初めてですから少々緊張致しておりますけど、沢田さんや形代さんはジェネシス時代からお世話になっていらしたんですもの。……でも、そのお陰で私も博士にお会い出来るのですから幸運ですわ♪」

 サトシは軽く頷き、

「そう言ってもらえると僕もうれしいですよ。……あ、あそこだ」

 少し歩みを早め、三人は前方に見えて来た風変わりな建物を目指した。

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 三人は研究所の玄関の所にやって来た。やや緊張した面持ちでサトシはインタホンのボタンを押した。

「ピンポーン」

 インタホンから中之島の声が響き、

『おお、来たか。今カギを開けるぞよ』

 サトシは、少々驚き、

「えっ? ど、どうも。……僕たちだってわかったんですか?」

『テレビカメラで見えておるのぢゃ。ふおっふおっふぉっ。すまんが、入ったら電光掲示板の案内に従って応接室まで行ってくれ給え』

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 三人は応接室に入り、ソファに座った。程なくしてドアが開き、異様な風体の中之島が姿を現した。

「よく来たのう。沢田君も形代君も久し振りぢゃの。ふぉっふぉっふぉっ」

 サトシとアキコは一礼し、

「はい、どうもおひさしぶりです」

「博士、おひさしぶりです」

 中之島は軽く頷くと、ゆかりを見て、

「時に、そちらのお嬢さんは初めてぢゃな」

 ゆかりは深々と頭を下げた。

「お初に御目文字致します。綾小路ゆかりと申します」

「おお、青嵐学園高等部転入生総代の綾小路君かの。初めまして、中之島ぢゃ」

「ご存知でいらして下さったとは感激ですわ。以後お見知り置きを」

「おお、こちらこそな。ふおっふぉっふぉっ」

と、言った後、中之島はサトシの方を向き、

「所で早速本題ぢゃが、沢田君、あの分岐シナリオに関して、何を知りたいのぢゃな?」

 サトシは改めて背筋を伸ばし、

「はい、実は、あのシナリオのストーリーを後で思い返してみたのですが、いくつかの点で疑問が残りまして、それで、博士はどのようにお考えでいらしたのか、伺いたいのです」

「おお、そうかそうか。どんな点ぢゃな?」

「まず第一にですね、全体的に見ましたところ、ストーリーとしては筋が通っていると思うんですが、結局、なぜ使徒が第3新東京市に襲来したのか、その理由が最後まで説明されていない、と言う点です」

「おお、それか。参ったの。ふぉっふぉっ。……あれはの、何も考えてなんかおらんのぢゃよ」

「えっ? どう言う事なんですか?」

「要するにぢゃ、その時頭に浮かんだストーリーを適当に纏めただけでのう。謎解きを完全にやってしまう事なんぞ、考えておらんかった、と言うだけの事ぢゃ」

「そうなんですか」

 ゆかりとアキコも、

「そうでしたの……」

「へえ……」

 中之島は、続けて、

「あの物語は元々儂が作った物語ではないわの。ちゃんと原作者がおる。儂は単に結末が気に入らんかったから、第拾九話からの分岐シナリオを書いただけぢゃよ」

「…………」
「…………」
「…………」

「まずその点について言えばのう、例えばぢゃ、『使徒が逃げるなんてあり得ない』と、リツコがちと漏らしたぢゃろ。その部分に関わって来るのぢゃが、答は出ておらん。その言葉から、『使徒は意図的におびき寄せられているのではないか』と言うぐらいが判るだけぢゃわな。これは元の物語でも結局、完全な答としては描かれておらんと思うぞよ。あちこちに暗示はされておるがの」

 サトシは頷き、

「確かにそうですね」

「それからぢゃ、『人類補完計画とは、結局どんなものだったのか』の答も出ておらん。更に、渚カヲルの扱いも薄っぺらぢゃ。細かい所を追求すれば穴だらけぢゃよ」

「はあ、……そうなんでしょうか……」

「そんなもんぢゃよ。それから、割合大きな問題点としてはの、レイ、まあ、綾波君と言わず敢えてこう言うがの、レイが実はゲンドウの娘ぢゃった、と言うくだりで、『精子なくして「人間」は作れなかった』とゲンドウが語る点なんぢゃが、ここは意図的に、クローン技術に関してはぼかして書いてあるのぢゃ」

 その時、ゆかりが、

「確かに、技術的には、『精子なしで人間のクローンを作る事』が不可能とは言い切れませんわね」

 アキコは、少々驚き、

「えっ!? そうなんですか」

 中之島は、軽く頷き、

「綾小路君の言う通りぢゃ。シナリオを書いた当時、外国では『成人の卵子と体細胞だけを使い、卵細胞を何度か分裂させる事に成功した』と言う報道が流れた事もあったのぢゃ」

「へえ……」

と、小さな嘆息を漏らしたアキコに、中之島は、

「無論、その後色々と問題があって、人間のクローンを作る研究をする事は法的に禁じられたのぢゃが、技術的には不可能とは言い切れん。しかしの、儂は人間のクローンを作る事には反対ぢゃし、感情的にも『レイをクローンとする』のは好まんかった。それに、ストーリー的にはこうした方が面白いからの」

 サトシは改めて頷いた。

「なるほど……」
(そう言や、レイは、体外受精児で、碇君のいとこだったんだよな。その意味ではクローンとは言えないんだよな……)

「そう言う意味で、あのシナリオは急拵えと言う事もあっての、結構問題点はあるのぢゃ。まあしかし、基本的なコンセプトだけは守っておるがの」

と、続けた中之島に、ゆかりが、

「と、仰いますと、『因果応報』ですか?」

「それもある。それはあのシナリオのテーマぢゃ。そしてのう、もう一つのコンセプトは、『ストーリーが醸し出す雰囲気』ぢゃよ」

 アキコは、やや首を傾げ、

「雰囲気、ですか……」

「そうぢゃ。要するに、細かい部分は敢えて無視して、『最終決戦の緊張感』と『事件解決後の解放感』だけを出そうとしたんぢゃよ」

 サトシも、判ったような判らないような顔で、

「はあ、なるほど……」

「テレビ本編にも、映画にも、それが欠けておった。ぢゃから、儂は、基本的な本編と映画の手法と設定を守ったままそれを書こうとしただけなのぢゃ」

 ここに来て、サトシは頷き、

「そうだったんですか」

「うむ。後の細かい謎解きは、読者、つまり受け手の想像力に任せたのぢゃ。その方が、続編も作りやすいからのう」

 その時、ゆかりが、

「続編をお作りになられるおつもりだったのですか?」

「いや、それはない。もし作るなら、と言うレベルでの話ぢゃ。儂は大体、若干の余韻を残した終わり方をするドラマが好きでのう。それであのようにしたのぢゃよ」

 サトシは、またも頷き、

「なるほど。……では、あのストーリーに関しては、それ以上はお考えになっておられない、と」

「そう言う事ぢゃ。まあ、元々あれを作った時は、まさか『カオス・コスモス』のような事が起こるとは考えてもおらなんだし、まさかあの世界が異次元に実在している等とは思ってもおらなんだ。ぢゃから、その意味では、最早儂のような『一ファン』の謎解きは無意味になってしもうたわのう」

 アキコも納得し、

「そう言えば、そうなんですよね。みんな、生きた人間として実在しておったんじゃし、真実は、向こうの世界の人だけが知っておることなんですけんねえ」

「そうぢゃな。まあ、今となっては、儂等には『向こうの世界の真実』を知るすべはない。しかし、『真実』は、謎のままながらも厳然と存在するのぢゃ。それを思うと、あれこれ想像しても詮無い事ぢゃからのう。……ま、そんな所ぢゃな」

と、締め括った中之島に、サトシは深々と頭を下げ、

「そうですね。……どうもありがとうございました」

「いやいや、お役に立てんですまん事ぢゃったのう。ふぉっふぉっふぉっ。他に何か質問はあるかの?」

 改めて、ゆかりが、

「そう言えば、シナリオの中に出て来た、『裏当て』ですが、あれは実際に可能なんですか? 出来る、と言う話をどこかで聞いたような気も致しますけど」

 中之島は、ニヤリと笑うと、

「おお、あれか。可能ぢゃよ。……沢田君、すまんがちと実験台になってくれんかの」

 サトシは少なからず驚いた。

「えっ?! どうなさるんです」

「まあまあ、心配するな。どうせこんなオイボレのやる事ぢゃ。大した事はないぞよ」

「はあ……。で、どうすればよろしいんですか?」

「こっちへ来て、しゃがんで儂に背中を向けてくれんかの。……そうぢゃ、それでよいぞ。……で、こうやって左手で肩の所の服を掴むのぢゃ」

「博士、お手やわらかにお願いしますよお……;」

と、何とも言えない表情のサトシに、

「……♪;」
「……♪;」

 ゆかりとアキコも苦笑している。中之島は、ニヤニヤ笑いながら、

「大丈夫ぢゃよ。ふおっふおっふぉっ。……それでぢゃ、こうやって、右手で拳を作って外側に曲げる。そしてぢゃ、掌の付け根の部分で自分の左手を叩くのぢゃ」

「ポンッ!!」

「あっ!!」

と、サトシは驚き、やや興奮気味に、

「確かに、なんて言うか、体の中の方に振動がズンと来ました!」

 それを聞いたゆかりとアキコも眼を丸くして、

「あら、すごいですわね……」

「へえ、ほんとにそんなことが……」

 中之島は手を離すと、

「心臓マッサージの原理の延長なんぢゃよ。古流柔術なんかでは、正面から向かい合い、心臓の前の部分を掴んで叩くらしいがの」

 ゆかりは、

「なるほど。よくわかりましたわ。どうもありがとうございます」

と、頭を下げた後、

「あ、ところで博士、一応メモリカードの現物は持参させていただきましたんですが……」

「おお、あれを持って来たのか……」

と、中之島は表情を一変させた後、ゆかりから受け取ったメモリカードをしげしげと眺め、

「……おお、今こうやって改めて見ると、この旧式のカードも何だか懐かしいのう。『カオス・コスモス』の時、これのデータを使ったと言っても、あの時はこんな感慨に浸る余裕なんぞなかったからのう。ふぉっふぉっふぉっ。……これを作った時は儂もまだ若かったのう……」

 その様子に、サトシとアキコは、

「…………;」
(若かった、って……;)

「…………;」
(そのころでも、確か博士は80代だったんじゃ……;)

と、苦笑した。

 ゆかりは、改めて、

「このメモリカードにはシナリオのほかに、独自にエヴァンゲリオンを研究なさっだデータも入れておられたんですのね」

「そうぢゃ。もしあれを本当に作るとしたらどうなるか、と言う事に関して研究したのぢゃ。無論あくまでもシャレぢゃったがの」

 ここでサトシが、

「でも、『カオス・コスモス』の時は、オモイカネに読ませてエヴァンゲリオンを動かしたんですよね」

「まあ、あの時は、『魔界と現実界の融合』と言う、『科学の壁をブチ破る事態』が起こっておったからのう……」

「そうでしたね。なんだか今でも少し信じられないような状態でしたからね……」

 その時アキコが、

「あ、ところで博士。シナリオとは関係ないんですが、一つ教えていただきたいのですけんど、よろしいでしょうか?」

「何ぢゃな? 何でも聞き給え。ふぉっふぉっ」

「あの、わたしらが乗っとったオクタに付いとった光線剣なんですけんど、あれはどう言う原理でできとるんですか? どう考えても、レーザーが剣になる、言うのは疑問なんですけんど」

 それを聞いたサトシも、

「あ、そう言われてみるとそうだよなあ」

「おお、あれか。あれはのう、反重力フィールドを活用しておるんぢゃよ」

と、言った中之島に、アキコは、

「反重力フィールドを、ですか」

「そうぢゃ。まず反重力フィールドを筒状に伸ばす。そして先端部のフィールドを曲げて、光を回折させる道を作るのぢゃ。そして、後は筒の外側に沿って強力なレーザーを発射すれば、光の棒は先端で曲がって筒の内側に入り込むのぢゃ。その時同時にレーザーの波形を乱せば、戻って来たレーザーで自分を傷つける事はないわの」

 アキコは感心し、

「へえ……」

 ここでゆかりが、

「でも、それだけでは、物質を受け止めたり出来ませんわね。そのあたりはどうなさっておられるのですか?」

 中之島はニヤリと笑い、

「流石は綾小路君ぢゃの。いい所に気が付くわい。ふぉっふぉっふぉっ。実はのう。それは考慮しておらなんだ。単に相手に攻撃を仕掛ける時は、レーザーだけの方がやりやすいからのう。しかし、『最終決戦』の時はぢゃ、沢田君がガルーダで斬り合いをやったぢゃろ」

 サトシは頷いた。

「はい、確かにあの時は相手の剣を受け止められました。どうしてなんですか?」

「それはのう。今となってはあくまでも想像するだけしかないのぢゃが、恐らくは、ガルーダのコンピュータが、光線剣の中のフィールドを変化させて、サイコバリヤーのような物を作り出しておったのぢゃろうと思うぞよ」

「あ、なるほど」

と、サトシは頷いたが、中之島はアキコに向かって、

「まあ、儂としても情けない話ぢゃが、この件に関してはそれぐらいしか判らんのう」

「なるほど、そう言うことだったんですか。どうもありがとうございました」

と、一礼したアキコに、

「ふおっふおっふぉっ。何の何の」

と、笑った後、一息置いて中之島が、

「……所でぢゃ、今日は折角来たのぢゃから、オモイカネⅡでも見て行ったらどうぢゃな?」

 サトシは身を乗り出した。

「え? 拝見させていただけるんですか?!」

「おお、構わんぞよ。あれはもうすぐオクタⅡにも配備される。そうなったら、君等にも身近なものになるからのう。なら、今見ておくのも一興ぢゃろ」

 サトシ、ゆかり、アキコは、

「ありがとうございます。ぜひ拝見させて下さい」

「ありがとうございます。思いもよりませんでしたわ」

「ありがとうございます。わたしもぜひ拝見いたしたいですけん」

「そうかそうか。ふぉっふぉっふぉっ。では研究室の方へ行こうかの」

と、中之島は立ち上がった。

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「これがオモイカネⅡぢゃよ」

と、中之島が示した物を見たサトシは、

「えっ?! こんな小さなノートパソコンみたいなものがですか?!」

 ゆかりとアキコも、

「コンパクトですわねえ。B5サイズですわよ」

「ほんと、小さいですねえ」

「ふぉっふぉっふぉっ。『山椒は小粒でピリリと辛い』と言う奴ぢゃよ。まあ、ここまでコンパクトにするのにはかなり苦労がいったがの」

 サトシは、顔を上げ、

「で、性能は前のオモイカネと同じなんですか?」

「いや、それを上回っておるぞよ。人間と同じように思考する部分に関しては、前よりも優れておる」

 ゆかりも興味深そうに、

「どうやってそれを実現なされたのです?」

「前のオモイカネは、CPUが1つぢゃった。人間の大脳のシステムに似せて作ったのぢゃ。しかし、Ⅱの方は5つ持っておる。その内4つをそれぞれ人間の、五感、意識、個人的無意識、集合的無意識、に当てはめたのぢゃ」

「では、最後の1つはどうなさいましたの?」

「1つは遊ばせてあるのぢゃ。まあ、強いて言えば、『超越意識』に該当するかのう」

 サトシは、感心した顔で、

「それで人間と同じようにものを考える事ができるんですか」

 中之島は頷き、

「うむ、さっきも言ったように、前は大脳の構造を参考にしたのぢゃが、今回は感覚と意識の構成を参考にしたのぢゃ。そうしたら、人間と同じようにものを考えられるようになったぞよ。ふぉっふぉっふぉっ」

 アキコは、少し唸って、

「すごいですねえ……」

「まあしかしのう。こいつはまだ生まれて間もない赤ん坊のようなもんぢゃ。これから色々と経験を積ませんとのう。ふぉっふぉっふぉっ」

と、中之島は、少し苦笑した。

 +  +  +  +  +

 サトシ達四人は応接室に戻って来た。

 中之島が、手を叩き、

「おお、そう言えば、まだ何も出しておらなんだの。失敬失敬。ふぉっふぉっふぉっ。ちょっと待ってくれ給え」

 サトシは恐縮し、

「あ、博士、どうぞお気遣いなく……」

「何の何の、遠慮せんでもよいぞよ。ふおっふぉっふぉっ。……ちと見ておれ。このリモコンを操作するとの。……ほれ、あそこの壁を見てみろ」

 アキコは眼を丸くし、

「あ! 壁がひっくりかえった」

 サトシとゆかりも、

「まるでどんでん返しですね」

「忍者屋敷みたいですわね」

 またもや中之島はニヤリと笑うと、

「つまらぬ仕掛ぢゃが、こうすると向こう側の部屋の棚がこっちに向くのぢゃよ。ふおっふおっふおっ。……君達、すまんがの、あそこにコーヒーセットとお茶菓子があるから、ちと段取りしてくれんかの」

 ゆかりが率先して、

「はい。……では形代さん、お言葉に甘えて入れさせていただきましょうか」

「あ、はい」

と、立ち上がったアキコに続いて、サトシも、

「あ、僕もやるよ」

 三人の様子を見た中之島は、

「ふぉっふぉっふぉっ。これはこれは、よいチームワークぢゃのう。結構な事ぢゃ。ふぉっふぉっふぉっ」

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 コーヒーと菓子で暫く歓談した後、サトシ達三人は中之島の研究所を辞する事にした。今度は中之島も玄関まで見送りに来た。

 サトシがまず、

「博士、今日はどうもありがとうございました」

 アキコとゆかりも、

「ほんとにお世話になりました。どうもありがとうございます」

「色々とありがとうございました。とても勉強になりましたわ」

「いやいや、何の何の。ふぉっふぉっふぉっ。またいつでも来給え。ふぉっふぉっふぉっ」

と、中之島は笑いを絶やさなかった。

 +  +  +  +  +

 三人は雄琴駅に戻って来て、ホームで電車を待っていた。

 サトシが、少し唸って、

「いやしかし、けっこう面白かったねえ。色々と見せてもらってさ」

 アキコとゆかりも、

「そうじゃねえ。わたし、オモイカネⅡがあんな小さなコンピュータじゃとは思わんかったんで、びっくりしたよ」

「そうですわねえ。あれには私も驚きましたわ」

「まあ、何にしても、来てよかったよ」

と、言ったサトシに、アキコとゆかりは、

「そうじゃね。楽しかったし」

「そうですわね。沢田さんのおかげですわ」

 サトシは少し照れて、

「いやそんな。……あ、電車来たよ」

 +  +  +  +  +

 三人は京都駅に戻って来た。時刻は15:00過ぎである。

 ホームに下りるや、ゆかりは、

「あ、申し訳ないんですが、私はちょっと買い物に行ってから帰りますので、ここで失礼致しますわ」

と、一礼した。サトシとアキコも、

「あ、そうですか。どうも今日はおつかれさまでした」

「またよろしくお願いします」

「はい。ではまた♪」

と、言ってゆかりが去った後、サトシはアキコに、

「形代、僕らどうする? せっかくだから、どっか寄って行こうか」

「そうじゃねえ。……でも、沢田くん、今からじゃったら、特に遊びに行けるようなところもないよ……」

「そうだなあ……。じゃ、駅ビルのデパートにある本屋にでも行こうか。なにか面白い本があるかも知れないしさ」

「そうじゃね。行ってみようか」

 +  +  +  +  +

 二人は駅ビルにある書店にやって来た。元々特に目的があって来た訳でもないので、適当に書棚を見て回っているだけである。そうこうしている内に、アキコの前を二人の男女が横切った。

「あれ、ひなたさんと四条さん」

と、驚いたアキコの声に、川口ひなたが振り返った。

「あ、アキコちゃんと沢田くんやないの」

 マサキも振り返って、

「こらまた偶然やな」

 サトシも、

「いや、ほんと、こんなところでお会いするとは」

 +  +  +  +  +

 立ち話もなんだから、と言う事で、四人はビル内の喫茶店に入った。

 ひなたは開口一番、

「いやあ、しばらくやねえ。わたしもバタバタしとって連絡せえへんかったけど、どうしてたん?」

 アキコは、やや苦笑し、

「ええ、まあ、いろいろとあって」

 それを受け、マサキが、

「僕も学校では余り顔合わさへんさかいなあ。学年が違うと、どうしてもなあ」

 すかさずひなたが、

「そんなもん、あんたがJRLの寮出てしもて、アパートで一人暮ししてるさかいやないの」

「なにボケとんねん。そんなもん1年以上前からやないけ。それは関係ないやろが」

「あ、それは確かにそうやな……。えへへ……;」

 ここでサトシが、

「四条さんは元々市内の高校に行ってらしたんですから、その方が通いやすいですもんねえ。……あ、そう言えばここしばらく学校の食堂でも顔合わせませんけど、どうしたんですか?」

 マサキは急に照れた様子で、

「いや、それはその、な……。このごろ弁当持参でな……;」

 ひなたも少し頬を染め、

「四条くん! ……もう……;」

 それを聞いたアキコは、眼を丸くし、

「え? と、言うことは、もしかして……♪;」

 マサキは、ますます小声で、

「ま、そやねん……。こいつが弁当作ってくれよるさかい……;」

「あ、ひなたさあん……♪」

と、苦笑したアキコに、ひなたも、

「……ま、そう言うことやねんわ……。えへへ……♪;」

 しかし、ここでマサキが逆襲に転じ、

「そんな事言うたら、君らもそうやないけ。この前橋渡君と玉置ちゃんからたまたま聞いたで。隠しとってからに」

 ひなたは、驚き顔で、

「え?! ちょっと待ってえな。もしかして、あんたらも……♪;」

 流石に、サトシとアキコも頬を染め、

「はあ、実はそうなんです……;」

「…………;」

 +  +  +  +  +

「……と、まあ、そんな訳でして……;」

と、一通りの説明を終えたサトシに、ひなたは少し唸って、

「そうやったの……。まあ、確かに『人生いろいろ』やさかいなあ」

 アキコも、少々バツが悪そうに、

「ほんとなら、まっさきにひなたさんに言わんとあかんかったんですけんど、なんとなく、てれくそうて……;」

 ここでマサキが、

「そやけど、あの綾小路さんと仲良うなった、ちゅうのは意外やったで。まあ、あれだけのベッピンさんやったら、なんぼでも男は言い寄って来るやろうけどな」

 サトシは慌てて、

「いや、別に僕は綾小路さんにはなにも……;」

 すかさずひなたが、

「もう、四条くんたら、なに言うとんの。せっかくアキコちゃんと沢田くんが仲良うなった、ちゅうのに……」

 アキコもサトシをフォローして、

「いや、そんな。わたしも綾小路さんとは仲良うさせてもろうとりますけん……」

と、言った後、今度は逆に、

「それはそうと、ひなたさんと四条さんこそ、なんで急に仲良うなられたんですか?」

 マサキは、すっかり照れてしまい、

「……いや、そのな……。ちょっと前のことなんやけど、僕がちょっとムチャやって、カゼこじらせてしもうた時にな、こいつが熱心に看病してくれよってなあ。……それで、僕の方が、……ちょっと参ってしもうたんやわ……♪;」

 サトシとアキコは、

「へえー……」

「へえー……、そうじゃったんですかあ。……ひなたさあん……♪」

「…………♪;」

 マサキは、やっと顔を上げて、

「……ま、なにはともあれ、そう言うこっちゃねんわ……♪;」

 その時、話が一段落した、と見たひなたが、

「あ、それとな、話は変わるんやけど、わたしも青嵐学園大学を受けることにしたんよ」

 アキコはまた眼を丸くした。

「え?! ひなたさんも?」

「そやねん。今日はそれで参考書探しに来たんよ。まあ、わたしが受けるんはパイロット養成の方と違うて、総合技術の方やけどな」

 サトシも、

「へえー、そうなんですか」

 マサキは苦笑して、

「そやねん。やめとけ、言うてんのやけど、どうしても受ける、言うて聞かへんのや」

 すかさずアキコが、

「でも、ひなたさんが合格したら、四条さんもまた一緒に勉強できるんじゃけん、ええじゃないですか」

「まあ、それはそうなんやけどな。……あはは……」

と、流石のマサキも笑うしかなかった。

 +  +  +  +  +

 喫茶店で暫く過ごした後、マサキ達二人と別れたサトシとアキコは寮に帰って来た。

「ねえ沢田くん、今晩どうするん?」

「え?! 今晩、って……?;」

「晩ご飯の事じゃけんど」

「あ、晩ご飯ね……、あはは。別に考えてないけど、いつもと同じで、食堂で適当に食べようかな、と……」

「……もしよかったら、……わたし、作ったげよか」

「え?! 形代が?」

「うん。……もしよかったら、じゃけんど……」

「そっか……。うん、じゃ、お願いするよ。形代の手料理なんて、初めてだしね」

「がんばって作るけんね♪」

「じゃ、買い物に行かなきゃ。……これから一緒に行こうか」

「うん♪」

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'Moon Beach ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))

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