第三部・トップはオレだ!



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第十六話・密厳浄土

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(発令室。プラグから救出され、シンジ達三人は本部に帰って来た。ほっとした表情のスタッフ達の前で淡々と語るミサト)

ミサト「みんなほんとにおつかれさま。……これで全ての戦いは終わりよ」

シンジ「はい……」
アスカ「はい……」
レイ「はい……」

(三人とも気が抜けたような表情)

冬月「みんな、ほんとうにご苦労だったな……。まあ、ゆっくり休め」

シンジ「あの、……父さんは……」

ミサト「碇司令は死んだわ……。わたしが殺したのよ……」

シンジ「!!!!!!!!」
アスカ「ええっ!!??」

レイ「…………」

シンジ「ミサトさん! どう言うことなんですかっ!!??」

ミサト「休養中だった碇司令は、レイを誘拐して、本部の人工進化研究所の手術室にこっそり連れて来たの。そしてね、今まで協力させていたリツコを殺してから、レイも殺そうとしたのよ。それが最後にわかってね。わたしがレイを助けに行った時、碇司令がわたしを殺そうとしたから、やむなく撃ったのよ……」

シンジ「……そんな。……綾波、ほんとなの?」

レイ「……ええ、ほんとよ……」

アスカ「……そんなことって……」

ミサト「でも、わたしがあなたのお父さんを殺したことには違いないからね。言い訳はしないわ……」

シンジ「…………」

(その時加持が入って来た)

加持「それはちょっと違うようだぜ」

ミサト「加持君!!」

シンジ「!!……」
レイ「!!……」

アスカ「加持さん!」

ミサト「違う、って、どう言うことよ」

加持「悪いが、さっき俺の部屋からマギのデータをちょいと拝借させてもらったんだ。それによるとだな、手術室のドアの開閉は葛城が出てから後は記録されてないんだ。ところがだ、さっき俺が手術室に行った時には、リッちゃんの死体しかなかったぜ」

ミサト「なんですって!!?? それ、どう言うことよ!!」

加持「つまり、その時碇司令は死んでなかった、って事だ。事実、その後、部屋を出た証拠がある」

ミサト「まさか……」

加持「本当さ。論より証拠、これからみんなで行ってみるかい」

ミサト「いいわ。行きましょ……」

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(手術室にやって来た加持、ミサト、シンジ、アスカ、レイ、冬月。床に横たわるリツコの遺体には加持の手によるものか、白いシーツがかぶせられていた)

加持「これを見ろよ」

(加持が指し示した先には点々と続く血の跡が)

ミサト「壁の方に続いてるわ」

加持「そうだ。そして壁の所で消えている」

ミサト「まさか、隠し扉?」

加持「そのようだぜ」

(加持が部屋の隅のボタンを操作すると、壁に穴が開いた)

加持「この中だな」

(ダミーシステム工場に移動し、その様子に愕然とするミサト、シンジ、アスカ。顔をしかめる加持と冬月。しかしレイは無表情のまま)

ミサト「これは!!!……」
シンジ「!!!!!……」
アスカ「なにこれ!!!……」

(水槽の底には「レイのクローン」が多数沈んで横たわっていた。全て動かない)

レイ「全部、『別のわたし』なんです……」

ミサト「なんですって!!??」

シンジ「綾波!! どう言うことなの??!!」

アスカ「レイ、あんたまさか!……」

レイ「わたし、クローンだったんです……」

加持「これがダミープラグのコアさ……。冬月副司令、ご存知でしたか?」

冬月「いや、私もここまでやっているとは知らなかった……」

加持「まあこれ以上はあれこれ言っても仕方ないだろう。……ほら見ろよ。床に血の跡がる。別の出口に続いているぜ……。俺がさっき調べたマギのデータには、ダミーシステム生産工場の電源を全て落としてからエレベーターを動かした形跡がある。それもターミナルドグマまでだ」

ミサト「えっ!!?? じゃ、まさか……」

加持「そのまさかだろうな。碇司令は、用のすんだダミーを処分してから地下のアダムの所へ行ったのさ。……目的はわからんがね……」

冬月「いや、あれはアダムではなかったのだよ。リリスだったんだ……」

加持「なるほど、そう言う事でしたか。これで碇司令がアダムのサンプルを欲しがった理由が納得出来ましたよ」

冬月「まあ、そう言う事だ。……さて、加持君、私はいつでもいいよ。一緒に行こうか……」

加持「そうですな。……ま、詳しい事は内務省の方で伺いましょう」

ミサト「加持君……」

加持「ま、こっちが本業の仕事なんでね。……それからついでに言っておくと、レイはクローンと言っても、ただのクローンじゃない。シンジ君の妹だ」

シンジ「ええっ!!??」
ミサト「なんですってえ!!?」
アスカ「まさか!!」

レイ「…………」

冬月「……やはりな、そう言う事だったのか。……ま、それについては内務省の方で詳しく聞かせてくれ。私の話との突き合わせもあるしな……」

加持「そうしましょうか……」

ミサト「ちょっと待ってよ! レイがシンジ君の妹、ってどう言うことよ!!」

加持「……葛城、盗聴器の受信機をマギに繋いだだろ」

ミサト「ええ、そうよ。それがなにか?……」

加持「その時の受信記録がそっくりマギに残っている。それを聞けば全てわかるよ……。さ、冬月先生、行きましょうか……」

冬月「ついでに教えてくれ。……JAを手配したのは君か?」

加持「そうです。あの『茶番劇』の真相を解明して内務省に報告したんですよ。それでJAの修理と調整が間に合ったんです」

冬月「そうか……。最後にもう一つだけ。……ゼーレはどうなったんだ?」

加持「全員、『プロフェッショナル』の手に掛かったそうです」

冬月「……そうか……。君は、人類の『命の恩人』だな………」

加持「いやいや、『進化を妨げる悪魔』かも知れませんよ」

(ニヤリと笑う加持。「呆然とする三人」と「暗い表情のレイ」を残して冬月と去って行く)

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(過去の様々なシーンをバックに流れる字幕とナレーション)

「その後の調査の結果、『光の巨人』は地下のリリスだった事が判明。そして、『リリス』とは、南極のジオフロントで発見された『アダム』や『使徒』と共に、どうやら『太古の昔に宇宙からやって来たもの』であり、その原動力と目されるS2機関で動いていた『生体メカ』だったのではないか、そして『ロンギヌスの槍』とはS2機関の『制御棒』であったのだろう、との推定がなされるに至った。

 ゼーレが持っていた『裏死海文書』は、古今東西のオカルティズムの寄せ集めであり、何ら根拠のないものと判定された。しかし、『古来の伝説』が多く含まれていたため、『太古の、宇宙からの訪問者』に関する記述が反映されていたのだろう、と推定された。

 冬月は内務省での事情聴取の結果、碇ゲンドウが進めていた『ゲンドウ独自の人類補完計画』に深く荷担していたとは言うものの、自ら進んで日本政府と国連に申告した情状を酌量され、内務省の保護観察の下に置かれる、と言う処分で済んだ。

 碇ゲンドウは、ターミナルドグマまでの足取りは判明したとは言うものの、その後の足取りは杳として知れず、『行方不明』と言う事になった。

 レイに関しては、盗聴器のデータとレイ本人の証言、更には遺伝子検査の結果により、『碇ユイの遺伝子を組み込んだ卵子に碇ゲンドウの精子を受精させて作られた体外受精児』である、との認定がなされ、『シンジの妹』との立場で経歴が訂正されるに至った。

 国連ではアメリカと日本の主導の下、ゼーレの残党は悉く粛清された。特務機関ネルフもその目的と任務が変更されて、生体工学の研究機関として生まれ変わる事となった。

 そしてゼーレが残していた『量産型エヴァの使用記録』により、『使徒は全て撃退された』と認定され、ここに人類史上空前絶後の事件は幕を閉じたのであった。

 そして、あの『最終決戦』から2ヶ月が経った」

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(ある朝。ミサトのマンション。シンジの部屋)

レイ「お兄ちゃん、早く起きなさいよ。学校に遅刻するわよ」

シンジ「……ふわあああ、なんだ、レイか……。もうちょっと寝かせてよ……」

(またもや毛布にもぐり込むシンジ)

レイ「早く起きなさいよ。おくれるわよ」

(無理矢理シンジの毛布をめくるレイ)

レイ「!!!!! もう、お兄ちゃんたら……」

(シンジの下腹部を見て頬を真っ赤に染めるレイ。グズグズと起き上がるシンジ)

シンジ「なに言ってんだよお……。朝にそんなことするからだろ……」

(そこに怒りの表情で飛び込んで来たアスカ)

アスカ「バカシンジ!! せっかくレイがおこしてくれてんでしょっ! さっさとおきなさいよっ!!」

ぱちいいいいんっ!!

シンジ「いててっ!! なにすんだよっ!! アスカ!!」

アスカ「もうあさごはんのしたくはできてんのよっ! はやくしなさいよっ!」

シンジ「わかったよお……。きがえるから二人とも出てってよお……」

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ミサト「どう、シンちゃん起きた?」

アスカ「やっとおきたわよっ!! だいたい、ミサトがシンジを甘やかしすぎてんのよっ!! とくにレイがここにきてからはさ、シンジのせわやいてばっかだから、完全にグータラになっちゃったじゃないっ!!」

レイ「…………」

ミサト「まーまー、レイもやっと身内が出来たんだからさ、それもいいじゃないのお♪ ……でも、そうよねえ。事件が解決してからのシンちゃん、確かにちょーっちダラけてるわねえ。たまには『活を入れて』やるかなー♪ ……だけどさ、こうやって朝ご飯も作ってくれるし、レイがこんなに世話女房タイプだったなんて、わたしも意外だったなー♪」

(ミサトの言葉に俯いて頬を染めるレイ)

レイ「……世話女房タイプだなんて……、そんな……」

ミサト「ああレイ、気にしないでねー♪ ほんの冗談だからさー♪」

(そこに現れたシンジ)

シンジ「おはようございます……」

アスカ「ほらほらさっさとごはんたべて! おいてくわよっ!!」

シンジ「わかったよアスカ……。そんなにポンポンポンポン言うなよな……」

レイ「お兄ちゃん、カバンのしたくはできてるの?」

シンジ「あ、まだだった……」

レイ「じゃ、わたしやっとくね……」

シンジ「うん、……たのむよ……」

アスカ「……むう……」(もう、兄弟のくせに……)

ミサト「……♪」(あーあ、みんな変われば変わるものよねえ……♪ あ、アスカだけは相変わらずかな……♪)

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「新世紀エヴァンゲリオン Another Case」

 完

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 サトシとアキコは呆気に取られた顔で、

「……うーん、こんなストーリーだったのか……」

「……なんて言うか、皮肉っぽい話じゃったね」

 それを聞いたゆかりは苦笑し、

「そうなんですのよ。私も見た時は結末に少々驚きましたわ。……そうですわね、強いて言えば、『冷たく乾いた皮肉な笑い』で締めている、と言う事になるのでしょうか……。それから、このシナリオで博士が一貫して主張していらっしゃるテーマは、『因果応報』だと感じましたわ」

 二人は頷き、

「そうですね。僕もそう思いました」

「わたしもです」

「ま、とにかくこの分岐シナリオはこれで終わりですわ。如何でした?」

「いや、たしかにそこそこ行けると思いましたよ」

「同感じゃね。わりと面白かったよ」

「まあ、お二人にも何とか楽しんで戴けたようでよかったですわ」

と、微笑むゆかりに、サトシは、頭を下げ、

「今日はほんとにどうもありがとうございました。こんなにお世話になっちゃって」

 アキコも同じく、

「ほんとにどうもありがとうございました」

 ゆかりは微笑んだまま、

「いえいえ、どういたしまして♪」

「じゃ、僕たちはそろそろおいとまします。ほんとに遅くまですみませんでした」

「そうじゃね。そろそろおいとませんとね」

「そうですか。またいつでもいらして下さいね♪」

 サトシとアキコはまた一礼した。

「はい、どうもありがとうございます。また色々と教えて下さい」

「わたしもよろしくおねがいしますけん」

「はいはい、いつでもどうぞ♪」

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'Cosmos ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))

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