第三部・トップはオレだ!
「いやその……、こちらこそよろしゅう、いや、よろしく……。申し遅れましたが、操縦科3年2組の四条マサキです。……でも、綾小路さん。なんで僕らの事をご存知なんでっか」
マサキも慌てたらしく、関西弁と標準語が混ざっている。
「何をおっしゃいます。『カオス・コスモス』の際、大活躍なされたみなさんの事を存じているのは当然の事ですわ。私も皆さんの活躍に触発されて、青嵐学園への編入を決意致しましたのよ」
同世代の女の子とは思えないゆかりの話し振りに、全員毒気をすっかり抜かれている。
その時、
「あれっ、ゆかり姉さん」
声がした方に、全員が顔を向けると、そこにいるのは「新入生総代・草野大作」であった。
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第三話・吟風弄月
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ゆかりは微笑み、
「あら、大作君じゃないの」
「ちょっと失礼します」
と、言いながら大作はゆかりの隣りに座った。
「みなさん、オクタヘドロンのパイロットでいらした方々ですね。操縦技術科1年1組の草野大作です。沢田君、北原さん、形代さんとは同じクラスです。他のみなさんには始めて御目文字致します。今後ともよろしく。こちらの綾小路ゆかりとはいとこ同士です」
「そうですのよ。大作は私の母方のいとこです。二人とも青嵐学園に一緒に入りましたの」
「は、……どうもご丁寧に。……草野さんでんな。僕は四条マサキです。こちらこそよろしく」
「操縦科2年1組の橋渡タカシです。どうぞよろしく」
「はじめまして。操縦科2年1組の玉置サリナです。よろしく」
「綾小路さん、申し遅れました。わたしは北原リョウコです」
「わたしは形代アキコです」
「僕は沢田サトシです」
サトシ達六人は、大作とゆかりをまじまじと見た。やはり二人とも「如何にもエリート」と言う雰囲気を漂わせている。
何となく「六人の代表」みたいになってしまったマサキも、
「……いや、そやけど、新入生と編入生の総代のお二人が、いとこ同士やとは、大したもんですなあ」
と、神妙に応対している。大作は、力みも悪びれもせず、さらりと、
「いえ、単なる偶然です。たまたまこうなっただけです。大先輩のみなさんに負けないように努力しますから、今後とも宜しくお願い致します」
その時、
キーンコーンカーンコーン
昼休み終了前の予鈴である。ゆかりは、
「あら、もうこんな時間ですの。それでは私はこれで。どうもいきなり失礼致しました。これからも宜しくお願い致します」
大作も、
「では僕もこれで」
「は……。どうも、……こちらこそ……」
マサキが言い終わるとゆかりと大作は席を立って行ってしまった。残された六人は無言のままポカンとした表情で二人の後姿を見送っていたが、まずタカシが、
「……いやあ、……なんと言うたらよかかねえ……。あの二人がいとこ同士とはねえ……」
サリナも思わず唸り、
「綾小路さんて、すっごい落ち着いたしゃべり方をする人やねえ。ウチと同い年とは思えへんわあ……」
「そうじゃねえ……」
と、アキコも感服した後、
「……あ、時間じゃけん、わたしらもそろそろ行きましょうよ」
「そやな。行こか……」
マサキの言葉に六人は席を立った。
(いとこ同士かあ……。僕とリョウコもそうだけど、なんだかえらい違いだなあ)
サトシは大作とゆかりの事を考えながら、リョウコをチラリと見た。
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編入生のマサキ達は身体検査に向かった。サトシ達三人は教室で説明会である。教室に戻ると、既に大作は帰って来ていた。
キーンコーンカーンコーン
本鈴が鳴り、本郷が入って来た。
「さてそれでは今後の訓練計画についての説明を始める。資料を配るから後へ回してくれ」
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その頃、JRLの総務部では、中畑由美子が嘆息を漏らしていた。
「あー、毎日毎日書類とにらめっこかあ。肩が凝るわねえ」
それを見て、部員の中森由美が、
「部長、ちょっと休憩されたらいかがですか。コーヒーでも入れましょうよ」
「いいわねえ。じゃそうしようか」
中森由美は元ジェネシス通信部員の旧姓加藤由美である。半年前に結婚したが引き続きJRLで勤務している。
コーヒーメーカーのポットを持ってきた由美に、由美子は、
「由美ちゃん、もう半年になるのよねえ、結婚してから。どう、主婦としては?」
「最近やっと家事にも慣れて来ましたけど、まだまだです。……ところで部長も来月でしょ。いよいよですね」
二人はコーヒーを飲みながら「井戸端会議」と洒落込んでいる。
「そうなのよねえ。でも、まだなんだか実感が湧かないわ。……今まで家事なんかロクにやってないしねえ。ちゃんと出来るかしら。ふふ」
「大丈夫ですよ。わたしにだって一応なんとかできてるんですから」
と、笑った後、由美は、やや神妙な顔になり、
「……そう言えば、あれから1年5ヶ月なんですね。……あの人たち、みんな元気なんでしょうか……」
由美子も、少し遠い眼で、
「……そう信じたいわねえ。……わからないけどねえ……」
「カオス・コスモス」の際に助っ人として異次元世界から来てくれた五人の事は、JRL内部では「公然の秘密」となっている。一応、政府や国連の公式発表には碇シンジ達の事は一切触れられていない。無論、極秘文書には詳細な記録が残っているが、無用の混乱を防ぐために封印されたままだった。エヴァンゲリオンの事も、「魔界と現実界の融合を逆手に取って構成した『生物兵器』であり、パイロットは搭乗していなかった」と言う発表がなされたに過ぎなかったのだ。
コーヒーを一口飲んだ後、由美は、
「……でも、あれから後、こっちの世界は大きく変わりましたね。まさか、こんなに簡単に宇宙へ出られる時代が来るなんて、考えもしていませんでした」
「そうよねえ。反重力エンジンが実用化されて、世界は大きく変わったわ。エネルギー問題や環境問題もほとんど解決したしねえ。……ああ、そう言えば、新型ロボットの初飛行スケジュールがいよいよ最終決定されたわよ。当面の目標は宇宙ステーションと月開発だけど、取り敢えずの最終目的として、小惑星帯ぐらいまでは視野に入っているんだって」
「すごいですよねえ。私が生きている内にこんなことが出来るなんて、夢みたいです」
「ほんと、すごい時代よねえ。……さて、仕事にもどりましょう。……また書類とにらめっこかあ……」
由美子は苦笑しながら、軽く肩を回した。
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キーンコーンカーンコーン
終了の本鈴が鳴った。これで今日のスケジュールは全て終わりである。
「諸君、お疲れ様。今日のスケジュールはこれで全て終了だ。明日から本格的に訓練が始まるから、全員しっかり英気を養っておいてくれたまえ。……ああそれから、1週間後にクラス委員の選挙を行うからその積もりでいてくれ。それまでは私が代行する。では以上だ」
本郷が退室し、全員が緊張から解放された表情で思い思いに帰り支度を始めた。サトシもリョウコとアキコに声をかけた。
「リョウコ、形代、帰ろうか」
「悪いけど、わたしちょっと本屋に寄って行くから、サトシくんとアキコちゃん、先に帰っててよ」
「そうか。じゃ、形代、行こうか」
「うん。……じゃ、リョウコちゃん、お先に」
「じゃね」
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「こうやって形代と二人で帰るなんて、初めてじゃないかな」
「そうじゃねえ。ジェネシス時代に一回だけいっしょに登校したことがあったけんど、帰るのは初めてじゃね」
帰り道でサトシとアキコは以前の事を思い出していた。
その時、ふと、アキコが、
「沢田くん、リョウコちゃんとはちゃんと仲良くしとるの? なんか、見てるこっちがはがゆいよ」
「うーん、……形代にそう言われるとなんて言えばいいのかな……。こんなこと言っちゃいけないんだろうけど、なんとなく僕ら、『クサレ縁』みたいになってるよねえ。……なんのかんのと言っても、いとこ同士だろ。付き合い始めた時は、なんか夢中だったけど、落ち着いてしまうと、二人ともねえ……。兄弟みたいになっちゃった……」
「いいの? そんなこと言うて。あんだけきれいな子じゃけん、しっかりせんと、ほかの男の子に取られちゃうよ」
と、言いながらも、アキコも少々複雑な心境である。
「うーん、そうなんだよなあ。……でも、僕ら、まだ高校生だろ。取ったり取られたり、って言っても、なんか実感がなあ……。それに形代もいるしね。ふふ」
そう言いながら、サトシはアキコをまじまじと見て、
(こうして見ると、やっぱり形代もかわいいよなあ。それに、ゆかりさん、ってすごい美人だよなあ。……大人っぽいし……)
と、ついつい「良からぬ事」を考えていた。アキコは苦笑し、
「あ、そんなこと言うてる。リョウコちゃんに言いつけるよ。ふふ」
「いいよ。言いつけたって。どうせいとこ同士なんだから。……それにリョウコがほかの男を好きになっても、それを止める権利は僕にはないからね」
と、サトシはアキコの手前、少々「エエカッコ」をして見せた。
「あ、またそんなこと言うて。知らんよ、ふられても。ふふ」
「いいよ。そうなったら、また別の女の子探すから」
「あーあ、強がっちゃって。……言うとくけど、リョウコちゃんにふられても、わたしは代わりにはならんけんね。ふふ」
「あ、そんなこと言うの。……いいよ。その時になって、『わたしと付き合って』なんて言って来ても、聞いてやらないぜ。ふふ」
「いいよ。わたしだって、言い寄って来る男の子ぐらいいるけんね。ふふ」
二人とも実に自然に語り合っている。端から見るとまるで「恋人同士」のようだ。
(形代、やっぱりけっこう落ち着いてきたよなあ。ほんと、なんか見直すよなあ……)
アキコもこの1年5ヶ月でずいぶんと「大人」になった。以前だったらサトシとこんな会話は出来なかっただろう。その点から見ても、結構落ち着いたものである。
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リョウコは四条河原町の書店に来ていた。
「ええと、……ロボット工学の本は……」
その時、書棚を見て回るリョウコに近寄って来る人影があった。
「北原さん」
「あら、草野さん」
そこには草野大作が微笑を含んで立っていた。
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'A Sunny Day ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))
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