第二部・夏のペンタグラム




「……さて、とにかく後始末と情報の分析が必要だな。……伊吹君」

 五大の言葉にマヤは振り返り、

「はい」

「すまないが、葛城君がいないから、待機室にいる田沢君と一緒にケージに行って、パイロットの様子を見て来てくれないか。……いずれにしても、エヴァの回収作業が一段落したらみんなで揃って会議をやらねばならんが、終わるまで待たせておいてその結果を伝える事が可能な状態かどうかを判断して来て欲しいんだ」

「えっ?! あの子たちに会議の結果を伝えるのですか?」

「そうだ。それがどうかしたか」

「いえ、今まで例がなかったもので……」

「今ここでそれに関して総括する事は控えるが、君の発想は間違っている。彼等はパイロットではないか。知る権利に関しては子供扱いで、義務だけ押し付けるのは大人のエゴだと思うがね。本来なら会議に出席させてもいいぐらいだ」

「!!! ……了解致しました」

「頼んだぞ」

「はい」

 マヤが立ち上がり、中央を出て行こうとした時だった。顔色を変えた服部が駆け込んで来て、

「本部長!!」

「どうした」

「世界各地で使徒が侵攻しています!!」

「なにっ!!」

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第四十四話・五蘊盛苦

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 五大は服部に、

「どう言う事だ?!」

「使徒が現れたのは日本だけではありませんでした!! こちらより少し遅れて世界中に使徒が出現し、軍隊が出動していると言う情報が次々と入って来ています!」

 マヤも顔色を変え、

「本部長! どう言う事なんでしょう!?」

「わからん。しかし、使徒が外国に出現したとしても、今の我々にはどうする事も出来ん。エヴァンゲリオンは局地戦にしか使えないからな。……服部君」

「はっ!」

「とにかく情報だけは収集しておいてくれ。外国の支部とは連絡は取れるな?」

「はい、今の所は連絡が通じています!」

「ではとにかく、情報を漏らさず集めておいてくれ。頼んだぞ」

「はっ!」

 その時、日向が振り返り、

「本部長、時田氏から無線です」

「繋いでくれ」

『こちら時田です。聞こえますか?』

「聞こえます。どうもありがとうございました。助かりましたよ」

『いえいえ、ちょっとお待ち下さい……』

 音声が2,3秒途切れた後、

『……本部長! 葛城です!』

 流石に五大は驚き、

「葛城君! そこにいたのか!」

『はい! 加持情報部長も一緒です! とにかくそちらに戻ります!』

「わかった。時田さんに代わってくれ」

『はい』

 また2,3秒して、

『……時田です。何でしょう?』

「早急に今後の協力態勢に関して相談させて戴かねばならないと思います。出来るだけ早い時期に会合を持ちたいのですが」

『了解しました。しかし現在JAは右肩を破損しております。すぐにも修理が必要ですので、今日の所は引き上げさせて戴きたいのです』

「わかりました。ではまた連絡させて戴きます。お気を付けて」

『ありがとうございます。ではまた』

 軽く頷いた後、五大は振り向き、

「青葉君」

「はい」

「すまないが、誰でもいいから人を集めて、旧司令室にテーブルと椅子を用意させてくれ。あそこを臨時会議室とする。隅の方に多少ガラクタはあるが、広さは充分な筈だ」

「了解しました」

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 こちらは新潟のホテル。スイートルームで「戦争」の生中継を見ていたゲンドウ達五人は少々気の抜けた様子だった。暫しの沈黙の後、リツコが、

「……碇司令」

「なんだ」

「これもシナリオの内ですの? エヴァの再起動はおろか、JAまで出て来る事は考えてもいませんでしたわ」

「ふっ、問題ない。元々第3などは眼中にない。あれはあくまでも陽動作戦だからな」

 ここでアダムが、

「……でも、まさかエヴァがまた3機とも起動するとは思わなかったよ。……シンジ君、また乗ったんだね……」

 ゲンドウは、やや表情を硬くし、

「……シンジか……」

 追い討ちをかけるように、リツコも、

「レイもそうですわね」

「…………」

 リリスは無言のままだ。ややあって、ゲンドウは、

「……そうだな。……まあしかし、どうせ第3のエヴァは局地戦にしか使えん。前のように使徒が1体ずつ第3にやって来る状況ならともかく、世界中で使徒が同時侵攻を行ったら、量産型を何とか完成させようとするはずだから、その意味では別にどうと言う事はない」

 その時、祇園寺が、

「おっ! 見ろ、碇」

 ゲンドウは勢い込み、

「なんだ?」

「臨時ニュースだ。世界中で使徒が暴れ出したぞ。予定通りだ」

 ここに来て、ゲンドウは北叟笑み、

「ふふふ、いよいよ本格的に始まったか。……では、新たなる神の誕生の前祝いにワインで乾杯と洒落込むか。リツコ君、用意してくれ」

「はい」

 やや俯いたまま、リツコは立ち上がった。

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 加持とミサトはIBO本部の中央制御室に駆け付けた。ミサトが開口一番、

「葛城と加持、只今戻りました」

 五大が振り向き、

「おお、二人とも無事だったか」

 加持が、頷いて、

「はい、なんとか」

 五大は続けて、

「今、旧司令室にテーブルと椅子を準備させている。すぐに会議を行うから、疲れているところをすまないが、出席してくれ」

 しかし、ミサトが進み出て、

「本部長、申し訳ないのですが、会議に入る前にどうしても申し上げねばならない重要な事があります」

 すかさず五大は頷き、

「そうか……。わかった。では私の部屋で聞こう」
(……京都の事だな……)

「了解しました」

「時田氏はもう引き上げたか?」

「はい、あの後すぐに引き上げられました」

「そうか。……うむ、わかった。では、部屋に行こう」

と、五大は中央を出て行こうとしたが、

「すみません、資料を持って行きますので、少々お待ち願えませんか」

と、ミサトが言うのへ、五大は、

「わかった。先に行って待っている」

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 応接室。

 待っている冬月の所に、加持が戻って来て、

「冬月先生。我々と本部長だけで話をする場を設けました。行きましょう」

「わかった。行こう」

と、冬月は立ち上がった。

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 本部長室。

コンコン

「どうぞ」

 五大の言葉に、

「失礼します」

と、入って来たのはミサトだけである。それを見た五大は、

「おや? 加持君はどうした?」

「申し訳ありません。中央では言うべきでないと判断しましたので、資料、と言う『口実』を申しましたが、実は、ある人に同行して戴いております。加持がすぐに連れて参ります」

 その時、

コンコン

「失礼します」
「失礼するよ」

と、入って来たのは加持と冬月である。五大は、冬月を見て、

「あっ! あなたは確か……」

 加持がすかさず、

「本部長。こちらは前ネルフ副司令の冬月さんです」

「冬月コウゾウです」

と、一礼した冬月に、五大は、やや驚いた顔のまま、

「やはり、冬月さん……。私が本部長の五大アキラです」

 冬月は頷き、

「君が五大君か。会うのは初めてだったな。京都時代から、お互いに名前はよく知っていたと思うが……」

「そうですな……。しかし、こんな形でお会いするとはね……。加持君、冬月さんの事は他のスタッフには気付かれてはいないな?」

「はい、誰にもわからないようにお連れしました」

「うむ、よかろう、今はその方がありがたい」

 ここで加持が、

「申し訳ないのですが時間がありません。すぐに用件にかかりたいのですが」

 五大は頷き、

「そうだな。始めよう。そこのソファに座りたまえ」

「はい」
「はい」
「……」

 三人と五大が向かい合わせに座った後、すぐに五大が、

「で、話とは何だ?」

 すかさず、ミサトが真顔で、

「まず結論から申し上げます。碇ゲンドウが生きていました」

 五大は顔色を一変させ、

「なにっ!!!!」

「それから、祇園寺羯磨もこちらに来ています」

「なんだと!!」

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 弐号機ケージ。

 マヤは、プラグから降りたシンジとアスカを出迎え、

「アスカ、シンジ君、おつかれさま」

「いえ、どうも……」

「……まあ、なんとかなったわ……」

 二人を見て、マヤは軽く頷くと、

「じゃ、二人ともシャワーを浴びたら、待機室に行って待っててちょうだい。後でまた連絡に行くから」

「はい」
「はい」

「ゆっくり休憩しててね」
(……この様子なら待たせておいてもだいじょうぶね……)

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 零号機ケージ。

 こちらでは、レイとカヲルをレナが出迎えている。

「二人ともおつかれさま」

「……はい、どうも……」

「わざわざすみません……」

「悪いけど、二人ともシャワーを浴びて着替えをすませたら待機室で待っててね」

「はい」
「はい」

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 三人から話を聞いた五大は、

「……話はわかった。しかし、そんなバカな事が……」

 しかし、冬月は真顔で、

「間違いないよ。私はこの眼で碇も祇園寺も見た」

「……なんと言う事だ……」

と、呻く五大に、加持が、

「それから本部長、私と葛城は昨日京都へ参りました」

「事情は聞いている。安倍理事長に会ったそうだな」

「なら事情はおわかりでしょう。この件は由々しき事態にまで発展してしまいました。何としてでも最悪の事態に至る事だけは阻止せねばなりません。京都財団との全面的な協力態勢の確立が必要と考えます」

「無論だ。とにかくこれから緊急会議を開く。まずこちらの態勢を確立せねばな」

 ここでミサトが、

「それから、先程時田氏と一緒にいらっしゃった加納氏にもお会い致しました」

「そうか、あいつはJAの担当だからな。……で、加納からは何か聞いたか?」

「はい。JAに関して少々伺いました。加納さんも、安倍理事長から私達の事をお聞きになられたそうです」

「そうか……。今まで事情を隠していたのは悪かった。一度君達とじっくり情報交換をする必要があるな」

「はい、よろしくお願い致します」

 その時、五大のスマートフォンが、

トゥル トゥル トゥル トゥル

「はい、五大です」

『伊吹です。チルドレンは全員会議終了まで待機させても大丈夫と判断致しました。それから、会議室の準備も整いました』

「わかった。では技術部からは君と日向君、青葉君の三人が出席したまえ。私もすぐに行く」

『了解致しました』

 電話を切った後、五大は改めて、

「……さて、問題は、碇ゲンドウと赤木リツコの事を今日の会議で出すべきかどうかだな。……どうしたものか……」

 それを聞いた加持は、

「私としては思い切って出すべきだと思いますが」

「うむ……。確かにそうなんだが、今ここで全て公表してしまうと、スタッフに与える影響が大き過ぎないか、と言う事が心配なんだ……」

 ミサトも、

「しかし、本部長、いずれ伝えなければならない事です。ならば、早い方がいいのではありませんか」

「そうか。……そうだな。よし、わかった、君達五人の事はともかくとして、この一件に関しては全て話そう。しかし、チルドレンには、特に碇君にはいきなり話す訳にはいかないだろう」

「確かにその通りですね。……では、綾波、惣流、碇の三名には、私と加持がまず話します」

と、頷くミサトに、五大も頷き、

「そうか、ではその三人に関しては頼んだぞ。……しかし、さっきも言ったが、君達五人とは一度どこかで極秘に話し合う必要があるな」

「はい」

「問題はいつのタイミングで、どの程度の範囲でそれを公表するかだ。いくら何でも君達の体験をそのまま公表する訳にも行かんだろうからな」

 ここで加持が、

「しかし、本部長、事がここまで来れば、少なくともIBOのスタッフとチルドレン全員には全て話さねばならないのではありませんか?」

「それも一理ある。しかし、信じてもらえるかどうかはわからんぞ。そこを考慮せねばならん」

「確かに」

「何はともあれ会議に行こう。……冬月さん、申し訳ありませんが、会議に出て戴けますかな」

と、立ち上がった五大に応えて冬月も立ち上がり、

「ああ、無論だ」

「では、参りますかな。……おっと、この中はあなたの方がお詳しいのでしたな」

「ふっ、……そうだな。……しかし、まさかまたここに来る事になるとはな……」

と、苦笑した冬月に、五大も苦笑し、

「これも我々のカルマですよ」

「ああ、その通りだな……」

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 アスカとシンジが着替えを済ませて待機室に帰って来た時、レイとカヲルはもう戻っていたが、ナツミとケンスケはまだだった。

 待機していたトウジが、

「シンジも惣流もお疲れさんやったな……。どうやった?」

「うん、なんとかなったよ。……でも、今回の使徒は、前と同じなのに、なんだか違うヤツみたいだった」

と、シンジが言ったのへ、アスカも頷き、

「シンジのいうとおりよ。性格がちがう、っていうか、べつの生き物みたいだったわ」

 レイも真顔で、

「……そうよね。前とは明らかにちがってたわ……」

 カヲルも頷き、

「僕にはよくわからないけど、なんだかあいつ、殺気をただよわせてたよ」

 ここで、ヒカリが哀しげに、

「……でも、またこんなことになるなんて……」

 しかし、アスカは、意外にも冷静に、

「ヒカリ……」

「なに? アスカ」

「……あたしさ、こんどばかりはまいったわ……。なんせ、いきなりだったもんね。……でもさ、こうなったからにはしかたないわよ。なにもやらないで使徒に殺されたくないもんね……」

「アスカ……」

 その時、ナツミと一緒に戻って来たケンスケが、

「みんなおつかれ」

「…………」

 しかしナツミは無言のままである。トウジが振り向き、

「お、ケンスケと八雲。……どうやった?」

 ケンスケが、大きく息を吐き、

「いやあ、まいったよ。俺さ、今までエヴァに乗りたい乗りたい、って言ってたろ。でもさ、実際にやってみて、こんな恐い思いしたの初めてだったよ……。やっぱ、あんなことかるがるしく言うもんじゃないな、って、つくづく思ってね、反省してるよ……」

 アスカが、心配そうに、

「ナツミ、どうだった?……」

「ええ、なんとか……」

 その時、シンジがヒカリに、

「あ、そうだ。委員長、ペンペンは?」

「シェルターに行ってコダマ姉ちゃんとノゾミに預けてきたわ。場合によったらわたしたちも出なきゃならない事があるかも知れない、って、田沢さんから言われたから……」

「そうなの。どうもありがと」

 その時だった。マヤが入って来て、

「みんな揃ってるわね」

 シンジが振り向き、

「あ、伊吹さん……」

 マヤは、全員を見回すと、

「悪いけど、これから全員で集まって会議をやるわ。それで、あなた達にもその結果を伝えるから、ここでしばらく待ってて欲しいのよ」

 驚いたシンジは、

「えっ? 僕たちにも会議の結果を?」

「そう。本部長の指示なの。お願いするわ。……あ、それから、葛城部長と加持部長が帰って来たわよ」

 それを聞いたアスカは、

「えっ?! そうなの! よかった……」

と、やっと表情を緩めた。

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 臨時会議室では、マヤ、日向、青葉、レナ、服部の五人が五大達の来るのを待っていた。

「待たせたな」

と、入って来た五大の後にいる冬月を見たマヤは、思わず立ち上がり、

「あっ!! 冬月副司令!!」

 日向と青葉も、

「副司令!!」
「副司令!!」

 冬月は、しみじみと、

「しばらくぶりだな。……君達も元気そうで何よりだ……」

 マヤが、驚いた顔のまま、

「副司令! どうしてここに!?」

と、言うのへ、五大が、

「それに関しては私が纏めて説明するよ。……さて、これで全員揃ったな。では、会議を始める。……服部君、まずは海外の状況から報告してくれ」

 服部は立ち上がり、

「はい。まず結論から申し上げます。現在、アメリカ、フランス、イギリス、中国、カナダ、オーストラリア、ロシアの各支部から、使徒が侵攻中との連絡が入っています」

「なんですって!!?」
「えっ!!!!!」
「!!!!」

 ここで初めてそれを知った、ミサト、加持、冬月は、唯々驚くしかなかった。

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 アメリカ西海岸では、突然上陸したサキエルに対し、空軍機の攻撃が続いている。しかしやはり使徒には通常兵器は効果がない。

「コチラ623、使徒ニ対シテノ通常兵器ハ効果ナシ」

『了解。戦術核ヲ搭載シタ爆撃機ヲ出動サセル。全機退避セヨ』

「了解」

 +  +  +  +  +

「……海外の状況は以上です。それから、会議直前の情報なんですが、アメリカはどうやら戦術核の使用に踏み切る模様です」

と、言葉を切った服部に、五大は眉を顰め、

「なに? いよいよ核を使用すると言うのか」

「はい。そのようですね」

 ミサトも勢い込み、服部に、

「N2爆雷ではなく、核を?!」

「そうです。それも、推察するに、小型中性子爆弾のようです」

 加持は頷き、

「中性子爆弾ならATフィールドを破れると考えていると言う事か」

「そうですね。確かに今までは使徒に放射線を直に浴びせかける攻撃が行われた実績はありません。やってみる価値は充分にあるでしょう」

 ここで五大が、

「ちょっと待て、今気付いたんだが、その他の国からは使徒が侵攻したと言う情報は入っていないのか?」

「そうです」

と、頷いた服部に、五大はやや訝しげに、

「全部IBOの支部がある国ばかりだ。……しかし、そう言えばドイツには現れていないのか?」

「はい。そうです」

「どう言う事だ……。まあ、今はわからない事に関してあれこれ悩んでも仕方ないが……。それで、戦闘状況は、アメリカが核を使うと言うぐらいだから、余り芳しくないんだな?」

「そうです。しかも、奇妙な事に、使徒は……」

と、ここで言葉を切った服部に、五大は、

「どうした?」

「いえ、すみません。……使徒は、手当たり次第に人間を食っているそうです」

 五大は顔色を変え、

「なんだと!!?」

 服部の報告に全員が顔色をなくしていた。

 +  +  +  +  +

ゴオオオオオオオオッ!!!

 小型中性子爆弾を搭載したアメリカの空軍機がサキエルに迫る。

「間モナク目標上空ニ到達スル。投下許可ヲ願ウ」

『投下ヲ許可スル』

 +  +  +  +  +

 話が一段落した後、五大は、

「……いずれにせよだ、海外の状況はともかくとして、こちらの今後の態勢を整える必要がある事だけは間違いない。そこでだ、この際、伊吹君、日向君、青葉君の三人に、今まで伏せていた事情を話そう」

 それを聞いた日向は驚き、

「えっ!? 本部長、事情を伏せておられた、とは、どう言う事なんですか?」

「私はある組織の命を受けてここに来た。その組織は、『サード・インパクト』阻止のために動いている」

「えっ!!??」
「ええっ!?」
「えっ!?」

と、驚いた三人に、五大は続けて、

「たまたま起こったある事情で、葛城君と加持君は私がここに来た目的を知った。しかし君達にはその件は今まで伏せていたのだ。まずそれを詫びる。そして、ここにいる服部と田沢も私の同志であり、部下だ。二人は私をサポートするために送り込まれたのだよ」

「えっ、田沢さんと服部さんも?」

と、また驚いた日向に、レナは、

「そうです。私と服部は本部長と同じ組織の命でここに来ました」

 ここでマヤが、

「本部長、よくわからないのですが、その事情と言うのは、JAが応援に来てくれた事とも関係しているのですか? それに、『サード・インパクト』、とはどう言う事なんです? あれは既に阻止された筈ではないのですか?」

と、言うのへ、五大は頷き、

「JAに関してはその通りだ。我々が属する組織、京都財団が再製作させた。無論、物理的戦力の確保のためであり、私がここに来たのは、エヴァンゲリオンを押さえるためだ」

「エヴァを!?」

と、また呆気に取られた日向に、五大は続けて、

「そうだ。順に話そう。まず、『サード・インパクト』の事なんだが……」

と言った後、加持に、

「加持君、『原初の光』は持っているかね」

「はい、ここにあります」

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 待機室の八人は、暗い表情で会議が終わるのを待っていた。誰も言葉を発せず、沈黙の時だけが流れている。しかしその時、アスカが、

「……ねえ、ナツミ」

 ナツミは慌てて顔を上げ、

「えっ? は、はい……」

「あんたさ、たしか、戦闘シミュレーションの時は、こんなことやるの、すごくいやそうだったじゃない。なのにさ、なんで一番に、エヴァに乗せてくれ、って、言ったの?……」

 一呼吸置いて、ナツミは、

「……わたし、ほんとはこんなことするの、いまでもすごくいやだし、とてもつらいですよ。……でも、あのままほっておいて、使徒にやられてみんな死んじゃうなんて、がまんできないですよ。……だから、わたしにできるかどうかはわからないけど、もしできるのならなんとかしたい、って思って、本部長にそう言ったんです……」

 アスカは、しみじみと頷き、

「……そうなの……。なるほどね……」

 すると、トウジも、

「……八雲の気持ち、わかるで……。ワシかてこんなことやりとうない。そやけど、このまま使徒にやられて死ぬのはワシもいやや。……そやさかい、もしワシにも、乗れ、ちゅう命令が下っとったら、やっぱり、乗っとったやろな……」

 ヒカリも頷き、

「わたしだってそうよ。……誰だってこんなこと好き好んでやりたいなんて思わないと思うわ。……でも、エヴァに乗れるのが子供だけだって言うんなら、仕方ないもんね……」

 ここで、ケンスケが、

「……でもさ、俺はよくわかんないんだけどさ、なんでエヴァには子供しか乗れないんだ? ……シンジ、どうなんだ? 知ってるか?」

 シンジは、少し困った顔で、

「それがさ、前の時も、それについては、僕らもなにも聞かされてなかったんだよ……」

「そうなのか……。綾波や惣流も?」

 アスカは頷き、

「うん、そうなのよ」

 レイも、

「ええ、それに関しては、なにも……」

 シンジは続けて、

「それでさ、去年の『最終決戦』の後に色々と発表されただろ。それぐらいしか、元々知らないんだ」

 ケンスケは、改めてシンジに、

「確か、エヴァには人間の意識をコピーして植え付けてあって、それが操縦システムの中枢になってる、って言うような話だったよな?」

「うん、たしかそんな話だった。だから、パイロットは神経接続でシンクロできる、ってことらしいんだけどね……」

 ここでナツミが、

「……なんだか、まるで、パイロット、って言うよりも、赤ちゃんみたい……」

「!!!」
「!!!」
「!!!」

 ナツミの言葉に、シンジ、アスカ、レイは一瞬絶句した。シンジの顔色が変わったのを見たトウジが、訝しげに、

「おっ? シンジ、どないしたんや? えらい深刻な顔しよってからに。……あれ、そう言うたら、惣流と綾波も顔色が悪いで」

 アスカは、努めて平静を装い、

「え? う、ううん、なんでもないわよ。ナツミがいきなり『赤ちゃんみたい』、なんて言うからびっくりしちゃってさ……」

と、言った後、ナツミに、

「ねえナツミ、それ、どう言うことなのさ?」

 しかし、ナツミは、逆に意外だ、言う顔で、

「どう言うこと、って、……別に深い意味なんかないですよ。エヴァンゲリオンに人間の心が植え付けられてて、子供がパイロットなんだったら、まるでお母さんと赤ちゃんみたいだな、って、思っただけなんですけど」

と、言ったので、アスカも、

「あ、そうか。……そ、そうよね。……そう言われてみたら……」

 ここでトウジが唸って、

「おもろい発想やな。……そやけど、あのエヴァがオカアハンで、乗ってるワシらが赤ん坊やて、あんまりぞっとせえへん話やな」

 カヲルも頷き、

「そうだよね。何となく気持ちのいい話じゃないよ……」

 流石に余り気持ちのいい話ではない事もあり、ここで一呼吸話題が途切れたが、その直後、ケンスケが、改めて、

「……でも、どっちにしても、俺たち、もう逃げられないんだよな……。もちろんさ、本部長は、いやなら乗らなくていい、って、言うだろうけどさ、実際問題として、逃げたくても逃げられないよ。……使徒がまた来たんだもんな……」

と、暗い表情で吐き捨てるように言ったのへ、他の七人は何も言えなかった。

 +  +  +  +  +

 マヤ、日向、青葉の三人に、説明を続けていた五大は、

「……つまり、私の属する組織が危惧していた『サード・インパクト』とは、この本に暗示された『魔物の侵攻』と、それに並行して進む、『魔界と現実界の融合』による『深層意識レベルの人間の精神破壊』の事だったのだ。しかし、その予想は大きく外れてしまった。まさか、使徒を復活させて、人類の滅亡を目論む奴がいたとは考えもしなかった」

「!!!」
「!!!」
「!!!」

 ここに来て、絶句するしかなかった三人に、五大は続けて、

「君達には信じ難い話だと思う。しかし、使徒の出現が何よりの証拠だ」

 マヤは、蒼白な顔で、

「……そんな……。まさか……」

 日向と青葉も、悲痛な表情で、

「……とても、信じられません……」

「……同感です。私も信じられません……」

 しかし五大は続けて、

「この一件の裏には、使徒を再生した人間がいる。我々がなすべき事は、とにかく使徒を撃退し、その人間を捕えて計画を破綻させる事だ。そうしないと、使徒の侵攻で人類が滅亡しかねん。もし、奴等のS2機関が意図的に暴走させられたら、その結果は火を見るより明らかだ」

 その時、マヤが、

「本部長、今、使徒を再生した人間がいる、と仰いましたが、その証拠はあるんですか?」

 五大は、ゆっくりと頷き、

「証拠はある。実は、冬月さんにおいで戴いたのはそれにも関係しているんだ。君達には大変言いにくい事だが、この際だから率直に言おう。

……その人間は、祇園寺羯磨と言う人物、そして、赤木リツコと碇ゲンドウだ」

「ええっ!!!!!」
「ええっ!!!!!」
「ええっ!!!!!」

 三人は驚きの余り思わず立ち上がったが、すぐさま青葉が、

「本部長!! どう言う事です!! どうして死んだ筈の碇司令、いえ、前司令が!?」

 五大は、悲痛な顔で、

「碇ゲンドウは死んでいなかった。……生きていたのだよ……」

 マヤが、血相を変え、

「そんな! そんなバカな!! それに、先輩、いえ、赤木博士が関わっているって、どう言う事なんですか!!?」

 ここで五大は、冬月の方を向き、

「それに関しては、冬月さんが一番詳しい。……冬月さん、申し訳ありませんが、お話し願えますかな」

 冬月は、ゆっくりと立ち上がって、

「ああ、話させてもらうよ……」

 +  +  +  +  +

 チルドレン全員は、暫く黙り込んでいたが、ケンスケが、突然シンジに、

「そう言やさ、シンジ、応援に来てくれたあのロボット、あれがJAなのか? なんであのロボットのこと、知ってたんだ?」

 シンジが、顔を上げ、

「それがさ、僕もたまたま知ったんだ。……ほら、前のテストの時、あのロボット、暴走しただろ。それを僕とミサトさんが止めたんだけどさ、それからずっとお蔵入りになってたのを、京都の財団法人が深海開発用に改造して再製作したらしい、って、ちょっと前にミサトさんからチラッと聞いたんだよ……。もちろんその時はさ、あれがまさか使徒との戦いに使われるなんて、ぜんぜん思わなかったけどね……」

 ケンスケは頷き、

「そうかあ。……そりゃそうだよな。まさか、また使徒が来るなんて、考えもしてなかったもんなあ……」

「うん、だからさ、本部長が、『もう一つ手は打ってある』みたいな事言っただろ。それで、もしかしたらJAかな、って思ったんだけどね……」

「ふーん、……でもさ、あのロボット、すごい動きだったよな。まるで重さがないみたいだったぜ。こうしてみるとさ、あんなすごいロボットを止めたことがあるなんて、エヴァって、ほんとにすごいんだなあ」

「いや、それがさ、前の時はあんなにすばやく動かなかったよ。ただ走ってるだけだったけど……。でも、確かにそう言われて見ると、まるでテレビの忍者みたいな動き……、えっ!?」

と、突然顔色を顔色を変えたシンジに、ケンスケは、

「どうした?」

 シンジは慌てたが、努めて平静を装い、

「い、いや、なんでもないんだ。……ただ、あのロボットが本気を出したらすごいんだなあ、って、思っただけだよ……」

と、言ったものの、心の中では、

(……あの動き、向こうの世界のエヴァにそっくりだ……。まさか……)

 +  +  +  +  +

 一通りの説明を終えた冬月は、悲痛な顔で、

「……と、言う訳だよ。悲しい事だが、これは事実だ……」

 マヤは、リツコの件には殊の外苦悩し、

「……そんな……、そんな、……先輩が……」

 日向と青葉も、唇を噛み締め、

「……とても信じられません……」

「……別次元の世界から、人の意識がやって来たなんて……」

 冬月は、続けて

「さっき本部長が仰った、『向こうの世界』の話は聞いただろう。その中に出て来た祇園寺羯磨と言う男の意識がこちらの世界で蘇った様子を私はこの眼で見た……。今でも信じ難いが、真実だ……」

 ここでマヤが、

「副司令、いえ、冬月先生、……さっきの、『この世界は、実は補完計画で一度滅び、その後再生していた』って言うお話、とても信じられませんが、本当なんですか?」

 冬月は頷いて、

「ああ、私にも信じられん話だがね。私は碇にその『映像』を見せられた。それから察するに、『向こうの世界』で起こった『魔物との最終決戦』の時のエネルギーがこっちの世界に影響を及ぼし、過去に遡って歴史を変えたらしいのだ」

 マヤは、力なくうなだれ、

「……まさか、……そんな……」

「しかし、例え歴史が変わっていようといまいとだ、かつて碇が進めていた『人類補完計画』の実態は、今は君達も知っているだろう。無論、それに関しては私も同罪だがね……。補完計画が発動していたら、間違いなく人類は滅んでいた。そして、碇は死んでいなかった、と言う事と、あいつが使徒を再生した、と言う事実を合わせて考えれば、結局、現在は、『いつか来た道』を再び歩んでいる事だけは間違いない。これは何としても阻止せねばならん」

と、言った冬月に、ミサトが、

「……冬月先生」

「なんだね」

「率直にお聞きします。今の正直なお気持ちをお答え願いたいのです。……先生は、今は、本当に、碇前司令の計画を阻止したいとお考えですか?」

 冬月は頷き、

「無論だよ。私は君と加持君のはからいと『お情け』で出家した。そして、僧侶となって人と触れ合う内に、それまでの自分の行動の間違いに気付いた。人類を補完するなどと言っても、それは所詮、まやかしの言い訳に過ぎない。自分がどう生きてどう死ぬかは、全て個人の意思のみに委ねられるべきものだ、と言う事を、密教の修行を通じてつくづく悟ったのだ。他人を補完する、などと言うのは、結局は、自分が世の中を気に入らないから、他人を巻き添えにして無理心中する事でしかない。それがよくわかったのだよ……」

 ここに来て、ミサトも頷き、

「……わかりました。先生を信じましょう」

 冬月は頭を下げ、

「ありがとう。恩に着るよ……」

 ここで五大が、

「とにかくそう言う事だよ。今後、田沢と服部は京都財団との連絡係として行動してもらう事が増えると思う。こっちはこっちでエヴァの改良作業を進めねばならん。既にエヴァ用の外部電源として燃料電池を調達してある」

と、言ったのへ、日向は驚き、

「えっ!? 燃料電池を!?」

「そうだ。京都財団が日重共に発注して調達したのだ。すぐに納入される手筈になっているから、実戦配備の段取りを進める。それから、出来る事なら武器システムの改良も行わねばならんぞ」

 その時ミサトが、

「それに関しては一つ提案があります」

「なんだね?」

「エヴァの肩に付いている装甲板はプログナイフの鞘を兼ねていますが、あれは実は拘束具です」

 これには流石の五大も驚いて、

「なんだと?!」

 マヤも顔色を変え、

「葛城部長?! どう言う事ですか!? それは!」

 ミサトは、冬月の方を向き、

「そうですよね。冬月先生」

 冬月は頷いて、

「その通りだ。あれは本来のエヴァの力を抑えるための拘束具なのだ。あれを外せばエヴァの力は格段に上がる。無論、当時としてはあれを付けておく外はなかったのだがね……」

 それを聞いた五大は、

「わかった。では、操縦システムの改善と共に、その拘束具を外す方向で検討に入る。エヴァを完全にこっちの手の内に入れれば拘束具を使う必要はあるまい」

 ここで青葉が、

「本部長、この際ですから伺います。脳神経スキャンインタフェースはエヴァの操縦のために開発なされたのですか?」

「実はその通りだ。神経接続を行わずにエヴァを操縦する方法の一つとして、私が京都財団で開発した。無論、実験した訳ではないから、今回それが上手く機能するかどうかは賭けだったがね」

「では、パイロットを二人にした理由は?」

「ここでチルドレンに戦闘シミュレーションを行わせた時、二人組で操縦させたら、換算シンクロ率が大幅に上がった。あれは私にも意外だったが、あそこまでシンクロ率が上がれば、何とかエヴァを起動出来るだろうと思ったのだよ。今後はその方向で改良を行う。最早LCLも不要だし、極論すればプラグスーツも必要ない。元々パイロットが頭に付けていたヘッドギヤと脳神経スキャンインタフェースを接続する方向で作業を進める」

 青葉は、頷いて、

「了解致しました」

 五大は続けて、

「それと、もう一つ重要な事を言っておく。京都財団は、社会福祉事業を行う財団だが、その中核にはオカルティストのエキスパートが何人もいる。彼等が中心となって、祇園寺や碇の所在を全力を挙げて『透視』する作業に入っているはずだ。君達にはピンと来ないだろうが、祇園寺は『魔法』のエキスパートだからな。奴に対抗するためにはこっちも『魔法』を使う必要がある、と言う事を認識しておいてくれ」

 流石に、マヤが訝しげに、

「魔法、ですか……」

 しかし五大は平然と、

「そうだ。君達は非科学的と思うかも知れんが、私に言わせればエヴァンゲリオンそのものが立派な『魔法』の産物だよ。『魔法』とは、一言で言えば、『意識の中に変革を引き起こす技術』だ。その中心となるのが『透視能力』であり、これこそが『魔法』の核なのだ。事象の裏に潜む真実を見ぬく力、それが魔法だ。心に置いておけ」

「……はい、了解しました」

と、一応頷いたマヤを見て、五大は、

「それではこれで会議を終了する。今後の工程は追って指示するからそのつもりでいてくれ。それから、この会議の結果だが、碇ゲンドウ達の事だけは伏せて、後はチルドレンに伝える事にする。それは私がやろう」

 ここでマヤが、

「碇前司令の事は伏せておくのですか?」

「いずれは公表せねばならんだろう。しかし、全員の前で今それを公表してしまうと、碇君の立場が微妙になってしまう。まず本人に伝えてから、彼の意思を尊重した上で、全員に公表する。その役目は葛城君に任せてある」

 マヤも頷き、

「そうですか。……そうですよね……。はい、了解しました」

 五大は、改めて、

「では解散する。取り敢えず、青葉君、日向君、伊吹君の三人は、持ち場に戻ってエヴァンゲリオンの回収の後始末を指揮しておいてくれ」

「はい」
「了解しました」
「了解致しました」

 マヤ、日向、青葉の三人は、そう言って頷くと立ち上がった。

 +  +  +  +  +

 話す事もなくなった待機室の八人は無言でただ会議が終わるのを待っていた。壁の時計は既に8:00を指している。昨夜から一睡もしていないため、流石に全員椅子に座ったままウトウトしていた。

 その時、入って来た五大が、

「みんな待たせたな」

 シンジは起き上がり、前を見た。ミサトと加持もいる。

「はっ! ……あ、本部長……。あっ!! ミサトさん! 加持さん!」

 ミサトは全員を見渡し、

「みんなほんとにお疲れさま。よくがんばったわね」

 加持も、

「何とか帰って来たよ。みんな、本当によくやってくれたな」

「それで、どうなったの? ミサト」

と、アスカが言うのへ、ミサトは、

「本部長がお話しなさるわ。みんな疲れているのに悪いんだけど、もう少しがんばって聞いてちょうだい」

 八人は眠い眼をこすりながら椅子に座り直した。

 +  +  +  +  +

 チルドレン八人に、五大は一応の説明を終え、

「……と、言う訳だ。世界中で使徒の侵攻が始まっているし、日本ではIBOが旧ネルフの任務を引き継いで使徒を撃退する事になると思う。今後、エヴァとJAの連携を取って共同作戦を展開する事になるだろう。

 それでだ、ここで改めて君達に頼まねばならん。今日は緊急事態だったため、半ば無理矢理エヴァに乗ってもらったが、今後は君達の意思を尊重するつもりだ。それで、これからもパイロットとしてエヴァを操縦してくれる意思があるかどうか、確認しておきたい。

 無論、何度も言っているように、一切強要はしない。じっくり考える時間を与えるべきなのはやまやまだが、何しろ今は緊急事態で時間がない。それで、とにかく今の気持ちだけでもいいから、答えてもらいたいのだ」

 アスカが真っ先に、

「本部長、あたしはやります。このまま使徒に殺されるのはいやです」

 シンジとレイも

「僕もやります」

「わたしもです」

 続いてナツミとトウジが、

「お役に立てるかどうかわかりませんが、わたしにもやらせて下さい」

「ワシもやります。このまま死にとうないですわ」

 ケンスケ、カヲル、ヒカリも、

「俺もやります」

「僕は元々エヴァのパイロットでした。無論やります」

「やります。お手伝いさせて下さい」

 それを聞き、五大は頷いて、

「そうか。どうもありがとう。とにかくエヴァを操縦出来るのは君達だけだ。私達は更なる改善に全力を尽くす。辛い任務だが、頑張ってくれ」

と、言うのへ、まずシンジが力強く

「はい」

 アスカとレイも、しっかりと

「もちろんです」

「了解しました」

 カヲル、トウジ、ケンスケも、

「がんばります」

「はい、やりまっさ」

「俺もがんばります」

 最後にナツミとヒカリが、

「いっしょけんめいやります」

「わたしもがんばります」

 五大はもう一度頷き、全員を見渡すと、

「では、今日はこれで解散する。ゆっくり休養し、鋭気を養っておいてくれたまえ」

 +  +  +  +  +

「……う、うーん……」

 シンジは自室で目覚めた。枕元の時計を見ると、もう20:00である。

(……もう、こんな時間か……)

 本部からマンションに帰って来たシンジ、アスカ、ミサトの三人は、シャワーを浴びるのもそこそこに、自室に戻ると即刻ベッドにもぐり込んでいたのだ。

(……起きよう……)

 シンジはのそのそとベッドから這い出し、Tシャツと短パンに着替えた。

 +  +  +  +  +

 リビングに出て来たシンジの眼に、テーブルの上のコーヒーメーカーでコーヒーを立てているアスカの姿が飛び込んで来た。

 シンジに気付いたアスカが、

「あ、シンジ」

「どう、よく寝られた?」

「うん、さすがにね。ぐっすりとねたわ。……さっきおきてコーヒー入れたばっかよ……。シンジものむ?」

「うん、ありがとう。いただくよ。……あ、自分でつぐから」

「いーのいーの、たまにはあたしが入れてあげるわよ。……はい」

「ありがと……。でもさ、アスカ……」

「なに」

「……まさか、こんなことになるなんてさ……」

「そうよね。……でも、がんばるしかないわよ……」

「そうだね。……がんばらなきゃね……」

 その時、

ピンポーン

 シンジが立ち上がり、

「あれ? 誰だろ。…………はい」

『シンジ君か、俺だ』

 加持の声だ。シンジは、

「あ、加持さん。今開けます」

『頼む。レイも一緒だ』

「綾波も? ……とにかく開けます」

 +  +  +  +  +

 入って来た二人に、アスカが、

「あ、いらっしゃい」

 レイは一礼し、

「こんばんわ」

 加持が真顔で、

「いきなりで悪いが、緊急の用事でね。レイを連れてとにかく来た、って訳さ。……葛城は?」

と、言うのへ、シンジが、

「まだ寝てます」

 加持は頷き、

「そうか、アスカ、すまないけど起こして来てくれ」

 アスカは、加持の口調に少々驚いたが、

「あ、……は、はい」

と、席を立った。

 +  +  +  +  +

 起きてきたミサトが、

「みんなおまたせ」

 加持は、申し訳なさそうに、

「悪いな。寝てるところを」

と、言ったが、ミサトは首を振り、

「ううん、今日は当然よね。私こそ寝過ごして悪かったわ」

と、席に着く。加持は頷いて、

「じゃ、五人揃ったから、話を始める。葛城、俺が言ってもいいか?」

 しかしミサトは、起き抜けにも拘わらず、凛とした声で、

「わたしが言うわ」

 加持はまた頷き、

「そうか、じゃ、頼む」

 ミサトは、改めて三人を見回し、

「みんなよく聞いてちょうだい。……特にシンジ君、しっかり聞いてね」

「え? ……は、はい……」

と、少なからず驚いたシンジに、真顔で、

「結論からまず言うわ。……シンジ君のお父さん、碇司令は、死んでいなかったのよ」

「!!!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!」
「!!!!!!!!」

 余りの衝撃に三人は絶句し、顔色を失った。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'夜明け -Short Version- ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)

夏のペンタグラム 第四十三話・勇猛果敢
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