第二部・夏のペンタグラム




「なに?! どうなってんの!!??」

 余りの状況にアスカも眼を白黒させている。その時突然、

トゥルルル トゥルルル トゥルルル

「!!」
「!!」

 二人は一瞬顔を見合わせたが、すぐにシンジが受話器を取った。

「もしもし」

『シンジ君!? 伊吹です!!』

「えっ!? 伊吹さん? あ、は、はい」

『落ち着いて聞いてね! 今大変な事が……』

 その時外から緊急放送が聞こえて来た。

『本日午前2時20分、東海地方を中心とした関東中部全域に、特別非常事態宣言が発令されました……』

「えええっ!! どう言うことよ!!」

 思わずアスカが叫んだ。シンジも顔色を変え、

「伊吹さんっ!! まさかっ!!」

『緊急放送が聞こえたのね! 使徒が来たのよ! アスカと一緒にすぐに本部に来てちょうだい!! 交通機関は使えないから、一番近いエレベーターでジオフロントの中に降りるのよ! そこから本部に移動して!』

「は、はいっ!! わかりましたっ!!」

 シンジは投げ付けるように受話器を置いた。

「シンジ!! まさか、使徒が来たの!!??」

「そうなんだ!! すぐ本部へ行こう!! アスカ!! 早く服を着るんだ!!」

「わかったわっ!!」

 アスカは大急ぎで裸のままシンジの部屋を飛び出して行った。シンジも慌てて服を着始めた。

『……繰り返します。本日午前2時20分、東海地方を中心とした関東中部全域に、特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は、直ちに所定のシェルターに避難して下さい。繰り返します。本日午前2時20分、……』

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第四十一話・不惜身命

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 IBO本部中央制御室に五大の怒鳴り声が響き渡る。

「伊吹君! チルドレン全員に連絡したな!!」

「はい! 連絡は全て完了しました! ご指示の通り、家族も連れて来るように言ってありますっ!!」

「よし! すぐにエヴァンゲリオンの起動に取りかかる! 準備を進めてくれ!」

「了解しましたっ!!」

 マンションで京都の安倍からの連絡を受けた五大は、メモリカードにメールをセーブした後すぐに本部にやって来ていた。そこに突然政府から、「日本海から使徒が出現し、第3新東京に向かっている」との緊急連絡が入ったため、大急ぎでスタッフに連絡したのである。自宅で五大からの連絡を受けたマヤは、すぐに車で本部に駆け付けた後、各チルドレンに連絡を取ったのであった。

 +  +  +  +  +

 こちらはシンジとアスカ。

「シンジ! 準備できたわ! 早く行きましょっ!!」

「ちょっと待って!! ペンペンも連れて行くよ!!」

 シンジはまだ眠っているペンペンを冷蔵庫から引っ張り出すとリュックに入れ、

「お待たせ!! 行こう!!」

 二人はマンションを飛び出した。

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 レイは真夜中の道を一所懸命エレベータに向かって走っていた。

(……まさか、また使徒が来たなんて……)

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 カヲルも全力で駆けていた。

「クソっ!! まさかこんなことになるなんてっ!!」

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 こちらは鈴原家。たまたま父と祖父が当直だったため、トウジは妹のサクラを叩き起こして避難の用意をさせていた。

「サクラ! まだか! 早うせんか!」

「おにいちゃん! ふくきたよ!」

「よっしゃ! 行くで!」

 トウジはサクラの手を掴んで駆け出した。

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 洞木家。

「コダマ姉ちゃん!! ノゾミ!! お父さんも早く!!」

 ヒカリも大声で叫んでいた。

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 相田家。

「よし! これでいい!! 行くぞ!! パパ!! 先に行くよ!!」

「ああ!! わしもすぐに行く!!」

 ケンスケも真顔で家を飛び出した。

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 ナツミも一心に夜の道を走っていた。

「…………」

 あの明るいナツミとは思えない暗い顔をしている。しかし、内心思う所があるのか、唇をしっかり噛み締めて懸命に駆けていた。

(……まさか、……まさか、……こんなことになるなんて……。でも、……絶対にへこたれないわ!)

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 第2新東京。

「だめだ!! あちこち連絡を取ったが、どうしても第3に戻る方法はない!!」

と、吐き捨てた加持に、ミサトは蒼白な顔で、

「電話も通じないの?!!」

「そうだ! 緊急時だから、一般回線は使えない! 今、渡が段取りをしているから、あいつからの連絡を待つしかない!」

「でも!! でも!! それじゃあの子たちが!!」

「落ち着け! 今ここでいくら心配してもどうにもならん! なんとかこっちで出来る方法を考えるんだ!!」

「……なんで、なんでこんなことに!!……」

 悲痛な表情のミサトに、冬月も何も言えない。

「…………」

 加持が歯噛みし、

「……クソっ!! よりによってこんな時に!!……」

と、地団太を踏む。ミサトは唇を噛み締めたまま、

「…………」
(シンちゃん! アスカ! レイ!……)

と、心の中で三人の無事を祈るしかなかった。

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 旧東京放置地区に近い日重共の工場。

 加納が大声で、

「時田さん! 急いで下さい!!」

 時田も、今までにない真剣な顔で、

「現在出撃準備に全力を尽くしています! しかし、どうやって運ぶのです?!」

「走らせるしかありません」

「しかし、操縦者はどうするんです?! 使徒が空を飛んでいる以上、ヘリも出せませんよ!!」

「リアクターを外した後に作った操縦室に乗って行くしかないでしょう」

「しかし、あれは元々海中作業のための操縦室です!! JAが陸地を走ったら、振動で中の人間は持ちませんよ!!」

「そのための反重力エンジンです。質量と慣性を中和させる方向に働かせれば、中に乗っている人間は振動も加速も感じません」

「!!!!! まさか!! そんな事が?!」

「可能です」

 その時、技術員が駆け付け、

「時田担当!! 出撃準備が整いました!!」

 すかさず時田が振り向き、

「わかった!!」

と、言った後、改めて加納に、

「加納さん、お聞きの通りです!!」

「では出撃します。とにかく操縦員の方をお願いします。私も行きます」

「私もご一緒致します!!」

「そうですか。それではよろしくお願い致します」

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 シンジとアスカは本部に駆け付けた。待機室にやって来ると、他の六人は既に来ており、全員深刻な表情でテーブルに着いている。

 まず、トウジが、

「お、シンジと惣流がやっと来よったか。これで一応全員やな」

 アスカが勢い込んで、

「どうなの!? なにかわかった?!」

 しかしもケンスケが首を振り、

「それがさ、俺たちもまだなにも聞いていないんだよ。とにかく家族と一緒に本部に避難しろ、って言われただけなんだ」

 シンジは驚いて、

「えっ!? 家族の人もなの?!」

 ヒカリが頷き、

「そうなの。本部長の指示らしいわ。こんな時にバラバラになったらいけないし、どうせジオフロントのシェルターに避難するぐらいなら、本部のシェルターに避難するように、って言われたのよ」

 アスカは、意外、と言った顔で、

「おどろいたわねえ。まさか本部長がそんなことおっしゃるなんて……」

 それを受け、トウジが、

「そやけど、ありがたい話やで。ワシとこなんか、オヤジとオジイが本部で当直やったさかい、妹だけほかのシェルターに避難させるわけにも行かへんかったさかいな……。ホンマ、ありがたいこっちゃ……」

 その時、急ぎ足の五大が待機室に入って来た。

「全員集まったか」

 シンジは思わず立ち上がり、

「あ、本部長!! 使徒はどうなったんですか!!?」

「使徒は日本海側の糸魚川付近の海から現れた。比較的ゆっくりと飛んでこちらに向かっている」

 レイが、今までにない真顔で、

「……使徒にまちがいないんですか?……」

「間違いない。『パターン青』が確認された」

と、苦悩の表情を浮かべる五大に、カヲルも、

「……そんな、まさかそんなことが……」

 五大は、改めて全員を見回し、

「……非常に心苦しいが、ここで改めて君達に頼まねばならん。無論、無理強いはしないが、エヴァンゲリオンに乗って貰わねばならん可能性が大だ」

「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」

 絶句した八人に、五大は続けて、

「まさかこんな事になるとは私も思っていなかった。しかし事がこうなった以上、どうしても使徒を倒さねばならん。今、我々のカードはエヴァンゲリオンだけだ。もう一つの手は打ってあるが、間に合うかどうか……」

 すかさずシンジが、

「でも、今はエヴァは動かないんでしょ!! どうやって動かすんですか?! それに、もう一つの手、ってなんですか?! もしかして……」

「今、技術部がエヴァンゲリオンの再起動に全力を尽くしている。何とか動いてくれる事を祈るだけだ。それと、もう一つの手と言うのは、JAだよ」

「!!!! やっぱり!!……」

「今JAは全速でこちらへ向かっている。しかし、使徒に対するJAの効力は未知数だ。おまけに、時間的に少々苦しい。……無論、エヴァだって、動くかどうかわからんがね……」

 その時、部屋の電話が、

トゥル トゥル トゥル

 すかさず五大が受話器を取り、

「五大だ」

『本部長! とにかくエヴァの起動準備だけは整いました! パイロットの搭乗待ちです!!』

と、言ったマヤに、五大は頷き、

「わかった。待機していてくれ」

 受話器を置いた後、五大は八人に、

「伊吹君から連絡が入った。エヴァの起動準備が整ってパイロットの搭乗を待っている。それでだ、今ここにあるエヴァは3機、誰に乗ってもらうか、なんだが……」

 その時、ナツミが立ち上がり、

「わたしにやらせてください!!」

「ナツミ!!!!」
「八雲ちゃん!!!!」

 アスカとケンスケは思わず叫んでいた。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'たとえ、君を抱いても ' composed by QUINCY (QUINCY@po.icn.ne.jp)

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