第二部・夏のペンタグラム




 愕然とする冬月と律照に向かって、ゲンドウは再び、

「言った通りだ。『真実の歴史』を取り戻し、再度人類を、いや、全ての『生命体』を補完する。それは同時に『神』を滅ぼし、我々が『神』となる事だ」

「!!!!!!!!!……」

 律照は絶句したが、冬月は、

「碇! バカな事はやめろ! そんな事は絶対に許さんぞ!!」

 しかしゲンドウは冷笑し、

「ほう、冬月、利いた風なセリフを吐くんだな。ユイに会いたくないのか?」

「僧侶になって人と触れ合う内に、私は自分の間違いに気が付いた。自分の勝手な都合で他人を補完するなど、絶対に許される事じゃない!」

「……そうか、なら仕方ない」

「殺すと言うなら殺せ! そんな事には絶対に協力せんぞ!!」

「殺しはせん。どうせこの補完計画が完遂されれば全て同じ事だ。但し、お前は『神』にはなれんがね」

「そんなものになろうとは思わん!!」

「……まあよかろう。冬月、お前は一応生かしておこう。この計画の完遂を見届けてもらうためにな……」

と、言った後、ゲンドウは律照の方に向き直り、

「さて、リツコ君。……君はどうするかね」

 一瞬の沈黙の後、律照は、

「……協力させて戴きます」

 愕然とした冬月は、

「赤木君!!! 何を言うんだ!!」

と、怒鳴ったが、律照は平然と、

「……尼僧生活はもう真っ平です。碇司令、あなたとなら最後までお付き合いさせて戴きますわ」

 ゲンドウはニヤリと笑い、

「そうか。それはありがたい。……しかし、今度は『裏切り』は許さんぞ」

 しかし律照も、

「それはお互い様ではありませんこと?」

と、切り返したのへ、ゲンドウは苦笑し、

「……ふっ、その通りだな。……まあいい、どうせ今の私にはウソは通らん。それぐらいの『透視能力』は身に付けているからな」

 ここに至って律照も苦笑し、

「そうでしょうね。……では本日只今をもって、私、赤木律照は僧名を捨て、元の赤木リツコに戻りますわ」

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第三十話・冷酷無残

 +  +  +  +  +

 冬月は、

「赤木君!! やめろ! やめるんだ!!」

と、思わず怒鳴ったが、相変わらずリツコは平然と、

「……冬月先生、………私はあなたとは違います。こんなままで一生を終えるのはもう我慢出来ません。そう言う事ですのであしからず」

「赤木君……」

 ゲンドウは、軽く頷くと

「……ではこれで決まりだな。……祇園寺、聞いた通りだ」

 祇園寺も頷き、

「よかろう。では椅子から外してやろう」

「……はあっ、……これで少し落ち着きましたわ。初めまして祇園寺さん。赤木リツコです」

「うむ。祇園寺羯磨だ。よろしくな」

 ゲンドウは、改めて、

「さて、祇園寺、これでお前がここの『社長』だ。部下に命じて冬月を監禁させておけ」

「ああ、この男の記憶は全て取り込んだからな。任せておけ。社員の連中は早速『薬』で『洗脳』してやろう」

 その時、冬月が、

「碇……」

「どうした。何か言いたい事でもあるのか?」

「自ら『神』となるなどと、そんな事が出来ると思っているのか。必ず破滅するぞ」

「今更何を言う。まあ見ておれ」

 リツコが割り込み、

「碇司令」

「何だ」

「『真実の歴史』はさっき見せていただきました。でも、それから後の事は知りません。くわしく聞かせていただけますわね」

「無論だ。詳しく説明してやろう。……さて、行くか」

「おう」
「はい」

と、三人が去った後、

(何と言う事だ……)

 冬月は、暗澹たる気持ちをどうする事も出来なかった。

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 さてこちらはIBO本部中央制御室。

 インカムを着けたマヤが、コンソールを操作し、

「じゃ、午後の実験を開始するわね。全員準備はいいかな」

『はい』
『いいわよ♪』
『はい』
『ええです』
『はい』
『はーい♪』
『はい』
『はい』

「バイザーの中に人形が見えるわね。最初にその人形をこちらで走らせるから、それをよく見てちょうだい。……走ってるでしょ。私が合図したら、それを見ながら『走る』と一言口に出して強く唱えるの。『走れ』じゃないわよ。『走る』よ。準備いいかな。……はい唱えて」

 すかさず日向が、

「全員の音声データ、記録完了」

 それを受け、マヤは、

「じゃ、止めるわね。今人形は止まっているから、私の合図で、『走る』と唱えてちょうだい。言葉に出すだけよ。頭でイメージを描く必要はないからね。唱えた後は静かに映像を見るだけよ。……はい唱えて」

 +  +  +  +  +

「走る。……あ、動いた」

 シンジが強く言葉を発すると、イメージを頭に描いていないのに、街の中を人形が走り始めた。

(ふしぎだな。想像してないのに……)

 +  +  +  +  +

 青葉が、計器をモニタしながら、

「脳神経データ、全員シンクロを確認しました。サードが動作開始。続いてシクス、ファースト、セブンス、エイス、フォースも動作を開始。……フィフス、セカンドも只今動作を開始しました」

 ミサトは、意外、と言った顔で、

「本部長。どう言うことなんですか?」

 五大は、ニヤリと笑って、

「『言霊』だよ」

「ことだま?」

「そうだ。古来日本には『言霊』と言って、『口に出した事は現実化する』と言う概念がある。それを応用しているんだ」

「では、動作に対してキーワードを付けるようなものですか」

「そうだ。手法としては、予めイメージを見せておき、それを『言葉』で想起させる、と言うやり方なんだな。この方法だと、言葉を出すだけで、自力で頭にイメージを描かなくてもイメージが想起されたのと同じ結果を得る事が出来る。映画を見た後、セリフだけ聞けば無理に想像しなくても自然にその情景を思い出せるだろう。それと同じだ」

「あ、なるほど。そうですね」

と、納得顔のミサトに、五大は続けて、

「動きの基本パターンを決めないでやってしまうと、勝手な動きを想像してしまう。それではまずいので、お手本としての動きを見せておいた、と言う訳なんだ」

「そう言うことですか」

「この方法の特徴は、『自然に浮かぶイメージ』を利用する、と言う事だ。つまり、自分の意思と関係なく見える心の映像を使うから、イメージを想像する事が苦手であっても、言葉と動きの関係を素直に受け入れる事の出来る者は簡単に行う事が出来る。むしろ、自分の意志を強く持たない者の方が入りやすい方法なんだ」

 ミサトは頷き、

「あ、なるほど。それでシンジ君が一番に動かせたんですか」

 五大は苦笑し、

「そうなるかな。碇君はやや意志が弱そうだからな。ははは」

「すると、いまこのウインドウに映っている映像は、あの子たちの心に浮かんで来る映像なんですね」

「そう言う事だ。まあ『夢』みたいなもんだな」

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「あ、またとまった。……走る。……なんだか動きがぎこちないわねえ。しっかりしなさいよ。……あ、またとまっちゃった」

 人形は走ったり止まったりを繰り返している。アスカは思い通りに動かない人形にやや苛立ちながら頭にイメージを描き始めた。

『アスカ、無理に頭に描いちゃだめ。言葉を出した後は人形を静かに見るだけでいいのよ』

「でもさあ、すぐにとまっちゃうのよ」

 マヤの言葉にアスカはやや不満そうだ。

『大丈夫。一度深呼吸して、肩の力を抜いてリラックスして』

「はあい」

 アスカは少し口を尖らせたが、気を取りなおして大きく深呼吸し、肩の力を抜いてバイザーの中を改めて見た。

「走る」

 アスカの言葉に呼応して人形が走り始めた。

(見てるだけよね……。あ、ほんとだ。かってに動いてる……)

 +  +  +  +  +

(…………)

「走る」と唱えた後、レイは特に何も意識せず人形の動きを見ていた。ただ走るだけであり、それ自体は別に面白くも何ともないのだが、黙って見ていると、まるで自分が街の中を走っているような気持ちになる。

(……言葉で唱えるとその通りになる。……マントラみたい……)

 +  +  +  +  +

 日向が、計器を見ながら、

「現在の成績はシンクロ率換算で、サードが41%。シクスとファーストが40%。他は37%付近です」

 五大は頷くと、

「よし、安定して来たな。伊吹君、では次の動作に移ってくれ」

「了解。……みんな、次の動作に移るわよ」

 +  +  +  +  +

 さてこちらは松代の例の会社の社長室。

 社長の椅子でふんぞり返る祇園寺に、ゲンドウが、

「どうだ祇園寺。『社長の椅子』の座り心地は」

「まあまあだな。ところで、ここの社員にはお前の土産だと称して『薬』を飲ませておいた。これで連中は全て我々の『人形』だ」

「しかし名前には注意しろよ。ここの社長の名は『芦屋ユキミツ』だ。人前では『芦屋』と名乗っておけ」

「わかっている。まあ、ここの『社長』も、もう表に出る事はないだろうがな。わはは」

「ふっ、それもそうだな」

 その時、リツコが割り込み、

「碇司令。そろそろ事情を伺えますか」

「そうだな。何から話そう」

「あの『最終決戦』の後、どうなさっておられたのです?」

「あの日、初号機ケージに使徒ゼルエルが侵入した。その時、初号機とゼルエルの格闘で、初号機の血とゼルエルの血が飛び散って私の右眼にかかったのだ。その時私は全てを知った。さっきの君のようにな。……同時に私の心の中にある祇園寺と使徒カヲルの存在を認識したのだ。私はすぐさまシャツを脱ぎ、そこに飛び散った『血』を染み込ませて採取した後、ダミーシステム生産工場に行き、レイの遺伝子のサンプルを取ると全てを破壊した」

「では、工場が破壊されていたのは……」

「そうだ。私が破壊した。そして司令室に戻って、既に手に入れていたアダムのサンプルと過去に採取した使徒の遺伝子データ、それからレイのダミープラグのデータを持ち、ターミナルドグマに降りた」

「……あそこにはリリスが……」

「そうだ。そしてある方法を使い、ロンギヌスの槍を動作させてリリスをLCLに還元した」

「それでリリスが消えていたのですか。……どんな方法を使ったんです?」

と、リツコが訊いたのへ、ゲンドウは苦笑し、

「それは祇園寺に聞いた方がよかろう。……話してやれ」

 祇園寺は、ニヤリと笑い、

「『呪文』だよ。信じ難いと思うかも知れんがね」

 リツコは、やや眉を顰め、

「呪文?」

「そうだ。碇の心の中に蘇った私は、ロンギヌスの槍はアダムやリリスの制御装置だと言う事を即座に見抜いた。そしてそれを動作させるのは、一定の波形を持つ音声、即ち『呪文』だと言う事もな。それで、古来より伝わる『魔法』の呪文を幾つか碇に唱えさせたのだ。思った通り、ある呪文で槍は動作した。ターミナルドグマは音響効果が非常によいように作られていたから、一人の声でも簡単に動作したぞ。そしてリリスは『溶けた』、と言う訳だ」

 それを受け、ゲンドウが、

「その後私はターミナルドグマの排水口のバルブを開き、ポンプを動かして、溶けたリリスを地下水脈に流した。それから密かに隠しておいた私の『死体』を初号機ケージに捨てて置き、そしてそのまま逃げ出したのだ」

 意外にも、リツコは淡々と、

「どこへいらしたのです?」

「しばらくは国内に潜伏していた。しかし、ゼーレの連中が全て死に、残党も一掃されたと言う情報を得たのでドイツに渡った」

「ドイツに?」

「そうだ。ドイツにはキール・ローレンツの本拠地があった。そこへ乗り込んだのだ。そしてゼーレの隠し資産を手に入れた」

「隠し資産?!」

と、驚くリツコに、ゲンドウはニヤリと笑い、

「うむ、キールが死んだ後、隠し資産を手に入れるのは簡単だった。そして、国連から一掃されたとは言うものの、命だけは助かった数人のゼーレの残党に接触し、『洗脳』した」

「…………」

「そして仮死状態になって、白い石のようになっていたアダムのサンプルを『覚醒』させたのだ」

 リツコはまたもや驚いて、

「アダムを!!……。どうやって?!」

 ここで祇園寺が、ニヤリと笑って、

「無論『魔法』だよ。ふふふ。『覚醒の儀式』を行ったのだ」

「魔法!?」

 ゲンドウは苦笑し、

「その私のトランクを開けてみろ」

「これは!!! ……アダムの胎児!?」

「そうだ。オランウータンの奇形胎児の標本と言う事にして持ち込んだのだ。麻酔で動きを止めたが無論生きている」

 ここで、祇園寺がリツコに、

「……ちょっと待っていろ。金庫の中にもう一つ面白いものがある」

「なんですか?……」

 ゲンドウが笑って、

「ふふ、それは見てのお楽しみだ……」

 祇園寺は、大きなビンを抱えて戻って来た。そして、

「……これだ」

「!!!!!!! これは!!!!!」

 流石のリツコも愕然となったが、ゲンドウは平然と、

「この青い髪、見覚えがあるだろう」

「まさか!! レイの……」

「少し違う。これはリリスだ」

「リリス!!?? でも、リリスは溶かした、と……」

「地下水脈に流したと言ったろう。それが再結晶するまで待った。地下水脈を通って新横須賀の海岸にある洞窟に流れ込み、そこで黒い石のような形に結晶したのを回収したのだ」

 祇園寺が、続けて、

「無論、場所は『透視』したのだがね」

 ここに至り、リツコは俯いて大きな嘆息を一つ漏らした。そして、顔を上げ、

「……碇司令。これからどうなさるおつもりですの?……」

「まずはこのアダムとリリスを『ヒト』の形に仕上ねばならん。既にアダムにもリリスにも『ヒト』の遺伝子は組み込んであるが、成長を促進させる必要がある」

「……それを手伝え、と言う事ですか。……リリスにはレイの遺伝子のサンプルを組み込んだのですね」

「そうだ。そしてアダムには、ドイツに残っていた『渚カヲル』の遺伝子のサンプルが組み込んである」

「えっ、フィフスの、いえ、渚カヲルの?!」

と、驚いたリツコに、ゲンドウは相変わらず平然と、

「そうだ。あいつもレイと同じく、オリジナルの他にダミーのためのクローンが用意されていた。ゼーレによってな。もっとも、私がドイツに行った時にはオリジナルもダミーも残っておらず、遺伝子のサンプルがあっただけだったがな」

「量産型エヴァのために……」

「その通りだ。その作業は、どちらも『真実の歴史』では、使徒ゼルエルを倒した後の時点で行われていた。レイの場合は『三人目』になった時に君が組み込んだだろう」

「……はい。……確かに、さっきの映像ではそうでした……」

「渚カヲルの場合、洗脳したゼーレの残党から聞き出した話では、ドイツにいた渚カヲルのオリジナルにアダムの遺伝子を組み込んでから洗脳する予定だったのだが、その下準備を進めている最中に、アダムのサンプルが暴走して多くの小型使徒が発生した。そしてそれがキールを殺したのだ。他の国でも同じような状況だったらしい。そっちはクローンを使おうとしたらしいがな」

「それでゼーレのメンバーは全て死んだのですか……。でも、なぜアダムが暴走したんです?」

「その時点で『歴史』が変わったからだ。異次元空間からシンジ達がこっちに帰って来る時、次元の壁に穴が開いた。その時流れ込んだ『魔界』のエネルギーがアダムを暴走させたのだ。……そうだな、祇園寺」

「その通りだ。しかし、これも『原初の暗黒の神』の思し召しと言うべきか、我々の意識も碇の肉体で復活した、と言う訳だ。ついでに言うと、『使徒・渚カヲル』の魂もここにあるぞ」

「えっ!? どこに……」

と、またもや愕然となったリツコに、ゲンドウはニヤリと笑い、

「もう既に『魔法』を使ってアダムの胎児に霊的に移植した。後は肉体的に成長させるだけだ」

「では、リリスの方は?」

「そっちは必要ない。わかっていると思うが、今更レイの意識を移植する訳にも行くまい。却って逆効果だろう」

「確かに。……今のレイはもう私達の『敵』です。でも、リリスの意識はどうするんです?」

「それなら問題ない。ダミーシステムのデータは持っている。それを移植すれば充分だ」

「デジタル化した過去のレイの意識を、ですか」

「そうだ。これで君の協力が必要だと言った訳がわかっただろう」

 リツコは、またもや一つ溜息をつくと、

「……はい」

「と、言う事だ。……では早速準備を始めるぞ」

と、言ったゲンドウに、一瞬置いてリツコは頷き、

「了解しました」

 +  +  +  +  +

 さてこちらはIBO本部。今日の実験スケジュールを全て終えたチルドレンは、ミサト、マヤと共に食堂でミーティングを行っていた。

 ミサトが全員を見渡し、

「みんなどうもお疲れさま。どうだった?」

 まずアスカが、

「かんたんじゃない。なんかゲームみたいだったしさ♪」

 シンジとレイも、

「昼からの実験はなんとかできたように思います」

「わたしもなんとか………」

 続いてカヲルとトウジが、

「初めてでしたけど、まあなんとか、ね」

「ワシもこんな実験やったら大丈夫ですわ」

 ヒカリとナツミは、

「わたしもなんとかできそうです」

「おもしろかったですよー♪」

 最後にケンスケが、

「俺もなんとかできました。戦闘シミュレーションなんかやらないんですか?」

と、言うのへ、マヤは軽く頷き、

「相田君、その内出て来る予定よ。ただし、格闘シミュレーションだけどね」

 トウジは俄然色めき立ち、

「おっ、それやったらワシの方が得意やで」

 と、元気なみんなの様子に、ミサトは笑って、

「まーまー、みんななんとかやって行けそうね♪ とりあえず今日は初日だったし、全員集まってもらったけど、明日もう一回みんなで集まってもらったらさ、後は学校も始まるし、毎日でなくてもいいから、来られそうな曜日とか時間とかをまた言ってちょうだい。それに合わせてスケジュールを組むから♪」

 その時、マヤが書類を見ながら、

「午後からの成績は最終的には大体みんな横一線だったけど、シンジ君が一番飲み込みが早かったみたいね」

「え? 僕がですか?」

と、意外そうなシンジに、マヤは微笑んで、

「そう。シンジ君の場合、言葉による制御は合っているみたいね。アスカと対照的だわ」

 アスカは、少し悔しそうに、

「やっぱりあたしだめだった?」

「ううん、だめってことないわよ。アスカの場合、イメージを描く力や意志の力が強いから、どうしてもそっちが出てしまうのよ。まあ、これはそれぞれの得意な分野を見つける、って言う意味もあるから、全部精通する必要はないわ」

「そっか。ま、あたしの場合はシンジとちがって意志がつよいもんね♪」

と、機嫌を直したアスカに、シンジは閉口し、

「あ、またそんなこと言ってる。ひどいなあアスカは……」

 ここでトウジが、

「お、早速夫婦ゲンカけ♪」

と、言ったのへ、シンジとアスカは慌てて、

「な、なに言ってんのよ、トウジ!」
「な、なんだよ…………」

 トウジは更に、

「お、二人ともちょっと赤うなりよった♪」

 すかさずヒカリが、

「やめなさいよ鈴原」

「へいへい♪」

 その時ナツミが笑って、

「あ、鈴原さんと洞木さんもいいコンビみたいですねー♪」

「えっ? なに言ってんのよ、八雲さん」

と、慌てたヒカリに、ケンスケも、

「お? 委員長も赤くなった♪」

「もう、相田くんたら……」

「……………;♪」

「……………;♪」

 カヲルとレイは無言で苦笑していた。その時、

「みんな、ご苦労だったな」

 声の方に全員が振り向くと、五大が微笑んでいる。ここでミサトが、

「あ、本部長」

 五大はそのままミサトの横に来て、

「碇君、惣流君、綾波君はこの前会ったな。他の五人の諸君、本部長の五大アキラだ。よろしくな」

「初めまして、八雲ナツミです」

「相田ケンスケです」

「洞木ヒカリです。初めまして」

「渚カヲルです。初めまして」

「鈴原トウジ、言います。よろしゅう」

と、一礼する五人に、五大は笑って、

「まあみんな、肩肘張らずに気楽にやってくれたまえ。期待してるよ」

「はい」
「はい」
「はい……」
「はい」
「はーい♪」
「はい」
「はい」
「はい」

と、元気なチルドレンを見て、五大は軽く頷き、

「ではお疲れだろうから、私はこれにてな」

 ミサトは五大に、

「どうもありがとうございました。本部長」

と、一礼した後、チルドレンの方に向き直り、

「じゃ、今日はこれで解散します。明日また9時からお願いね♪」

「はい」
「はい」
「はい……」
「はい」
「はーい♪」
「はい」
「はい」
「はい」

 +  +  +  +  +

 丁度その頃、海面下に没した旧東京都の放置地区の海岸では、時田シロウが先頭に立ち、完成したJAの試運転作業が密かに進められていた。

 ベースキャンプに設置したモニタを見ながら、時田が口を開く。

「では、エンジン起動」

 それを受け、操作員甲が、

「AG機関、起動しました。JA立ち上がります」

 数十メートル先に置かれた巨大トレーラーの荷台から、JAがゆっくり起き上がる。それを見た加納は、思わず、

「おお、動いたぞ!」

 しかし時田は冷静に、

「データはどうだ?」

「全て正常です」

と、応える操作員乙。時田は頷き、

「では、海中に潜行を開始する」

「了解」

 操作員甲が操縦器を操作すると、JAはゆっくりと海に向かって歩き出した。

 +  +  +  +  +

 こちらは松代。例の会社の倉庫では、リツコが陣頭指揮に立ち、アダムとリリスの「成長促成」作業の準備が進められていた。洗脳した社員に命じて買いに行かせた大きな浴槽や水中ポンプ、酸素ボンベ等が搬入され、所狭しと並べられている。冬月は倉庫の隅のコンテナに再度監禁されていた。

 髪は黒いままだが、白衣に着替えたリツコが、ゲンドウに、

「この2体を14歳の人間の大きさまで成長させようとすれば、いくら早くやっても1ヶ月はかかりますわ」

「そうだろうな。それまでは用心するしかない」

「……碇司令、アダムとリリスを成長させる、と言う事はわかりました。でも、それだけでは『サード・インパクト』は起こせませんわよ」

「無論だ。その手も既に考えてある」

と、笑うゲンドウに、リツコは訝しげに、

「どうなさいますの?」

「使徒を再生する」

 流石のリツコも、顔色を変え、

「使徒を!!! どうやって?!」

 ゲンドウは、北叟笑んで、

「アダムとリリスの精子と卵子があれば、使徒の胎児はいくらでも作れる。後は持ち出した使徒の遺伝子データを使って遺伝子を組み替えればいい」

「でも、どうやって……。ここの設備では無理ですわ」

「問題ない。ウイルスを使えば簡単だ」

「なんですって!! じゃ、まさかアダムとリリスも……」

「そうだ。アダムとリリスにカヲルとレイの遺伝子のサンプルを組み込むに当たってはウイルスを使った」

「しかし、それでは不安定なのでは……。ガン細胞と同じですわ」

「問題ない。一定期間だけ持てばいい」

 +  +  +  +  +

 倉庫に響く二人の会話を聞きながら、冬月は余りの状況に脂汗を流していた。

(何と言う事だ。……これは「補完」などではない。人類、いや、全ての地球上の生命体を破滅させる計画だ。何とかしなくては……)

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'夜明け -Short Version- ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)

夏のペンタグラム 第二十九話・無間地獄
夏のペンタグラム 第三十一話・楚材晋用
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