第二部・夏のペンタグラム
2016年元旦。新しい年の始まりである。
ミサトも、流石に神妙な顔で、これまた神妙な顔でテーブルの反対側に座るシンジとアスカに、
「新年、明けましておめでとうございます♪」
「あけましておめでとうございます♪」
「明けましておめでとうございます」
と、挨拶が終わった後、
「はい、これ二人にお年玉よ♪」
「ありがとうございます。ミサトさん」
「サンキューミサト♪ あたし、お年玉なんてはじめて♪」
「そうよねえ♪ アスカは日本のお正月は初めてだもんね♪」
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第二十二話・陰陽和合
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挨拶が終わると、早速ビールを一本空け、
「あー、しかし、お正月のビールは格別ねえ♪」
と、この点に関してはいつも通りのミサトに、シンジは、
「ふつう、お正月はおとそなんじゃないんですか」
アスカは苦笑し、
「なに言ってんのよシンジ、ミサトはビールの一気のみにきまってるじゃない♪」
ミサトも笑って、
「そうそう、お屠蘇もビールも変わんないわよ♪」
その時、
トゥルルル トゥルルル トゥルルル
「あ、電話だ」
と、アスカが立ち上がった。
「はい、葛城です♪」
『アスカか、新年明けましておめでとう』
「あ、加持さん♪ あけましておめでとうございます♪ ミサトにかわるわね。……ミサト、加持さんよ♪」
ミサトはいそいそとやって来て、
「もしもし加持君、明けましておめでとう♪ 今年もよろしくね♪」
『明けましておめでとう。どうだそっちは?』
「うん、昨日の今日だかんね。みんな変わりないわよ♪ ところで、そっちはどう?」
『ああ、今日は正月で店はほとんどが休みなんだが、それでも開けている古本屋もあるし、色々と回ってみるよ。ついでに折角京都に来たんだから、初詣にも行ってみようと思ってる』
「そ。頑張ってね♪ こっちはみんな元気だから心配ないわよ♪」
『そう言えば、レイは一人だったな。連絡してやれよ。あ、それから、シンジ君を頼む』
「はいはい♪ ちょっち待ってね♪ ……シンちゃあん、加持君から」
シンジも急いで電話の所に来た。
「はい、シンジです。明けましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします」
『明けましておめでとう。今年もよろしくな。正月だからって、葛城にあまり飲ませないように、しっかり監督してくれよ』
「はい♪ わかりました」
『じゃ、以上だ。一応4日ぐらいに帰るつもりだから、葛城にそう言っておいてくれ』
「はい、わかりました。伝えておきます」
「加持君、何だって?」
「4日ぐらいに帰るから、って事でした」
「うん、了解よ♪ あ、そうだ。加持君からも言われたんだけど、レイはどうせ一人だろうし、こっちに呼ぼうか?」
「あ、それいいですね♪ あ、そうだ、どうせだったら、渚君と八雲も呼びませんか?」
それを聞いたアスカは、
「あらシンジ、なかなかいいこと言うじゃない♪ うん、あの子たちさ、みんなひとりだから、よんであげようよ♪」
ミサトも微笑んで、
「そうね♪ 私も八雲さんの顔見たいし、折角のお正月だしさ、みんなでわいわいやろうか♪ じゃ、シンちゃん、電話してよ♪」
「はい♪」
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「はい、綾波です」
『あ、碇です』
「あ、シンちゃん、あけましておめでとう」
『あけましておめでとう。あのさ、もしよかったらこっちに来ない? 八雲さんや渚君も呼んで、みんなでわいわいやろうか、って言ってんだけど』
「ありがとう。喜んで行かせてもらうわ」
『じゃ、すぐ来てよね』
「うん」
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ナツミは大喜びで、
「どうもわざわざありがとうございまーす♪ すぐ行きますから♪」
『場所わかる? そうだ、なんだったら、いつもの別れ道のところまでむかえに行こうか?』
「そうですね♪ よろしくおねがいしまーす♪」
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カヲルも、
「そう、どうもありがとう。じゃ、すぐ行くから」
『じゃ、いつものところでね』
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ピンポーン
「あ、みんなかな♪」
アスカは微笑んで立ち上がった。
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最初に入って来たシンジが、
「みんな連れて来ました。綾波もちょうど来ました」
出迎えたアスカが、微笑みながら、
「みんな、あけましておめでとう♪ 今年もよろしくね♪」
ミサトもにこやかに、
「みんないらっしゃい♪ 明けましておめでとう♪」
レイとカヲルは、この二人らしく、控えめに、
「あけましておめでとうございます。今年もよろしく」
「あけましておめでとうございます。今年もよろしく」
ナツミは明るく元気に、
「あけましておめでとうございまーす♪ あ、葛城部長ですね♪ はじめまして、八雲ナツミです♪ 今日はどうもありがとうございます♪」
「はじめまして八雲さん♪ さ、みんな上がってちょうだい♪」
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全員でわいわい言いながら、お雑煮を配った後、ミサトは、
「さて、と、みんな集まったし、お雑煮も出来たから、いただきましょうか♪ いただきまーす♪」
「いただきまーす♪」
「いただきます………」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす♪」
五人のチルドレンもにこやかに祝い箸を手にした。
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おせち料理をアテに、連続してビールを空けたミサトは、すっかり上機嫌で、
「うーん、なかなかいけるわねえ、このおせち、出来合いだけどさ♪ ビールもおいしいし、けっこうけっこう♪」
その時ナツミが一礼し、
「葛城部長、わざわざお呼びいただきまして、どうもありがとうございます♪ ほんとにごちそうさまです♪」
「なに言ってんのよお♪ そんなにかしこまらなくてもいいからさ、気楽にしてちょうだい♪」
「はーい♪」
その様子に、アスカが苦笑しながら、
「へへっ♪ さすがのナツミも今日はちょっとかしこまってるわね♪」
「そりゃそうですよお♪ 部長さんの家におじゃましてるんですもん♪ いくらわたしでも緊張しますよお♪」
レイも笑って、
「ナツミちゃんはすぐに他の人となかよくなれるし、なんかうらやましいな……」
そこでシンジとミサトがすかさず、
「でもさ、綾波もこのごろすごく元気で明るくなったじゃないか」
「そうそう、昔のレイからは考えられないわ♪」
それを聞いたカヲルは、
「綾波さん、昔は、暗かっ……、いえ、元気なかったんですか?」
レイは、少し照れ臭そうな顔で、
「はい、やっぱり使徒と戦ってる時は、いつも緊張してて……」
それを見たアスカとミサトは、
「そうなのよ、レイったらさ、事件が解決したとたんに元気で明るくなっちゃったのよ♪」
「でも、ほんとによかったわ。レイも明るく元気になったしね♪」
カヲルが、頷きながら、
「そうだったんですか。……よかったですね」
と、言ったのへ、レイは少し頬を染め、
「……ありがとう……」
「あーらレイ、ちょっと赤くなってるわよ♪」
と、茶化したアスカに、レイは、
「え?! ……もう、アスカったら……」
そこにナツミが、
「やっぱり、お二人はベストカップルですねえ♪」
「ナツミちゃん!……」
「ナツミちゃん!……」
と、慌てる二人に、思わずミサトが、
「うふふふふっ♪」
シンジ、アスカ、ナツミも、
「うふふ」
「うふふふっ♪」
「うふふっ♪」
ここに来て、
「……うふふっ♪」
「……うふふ♪」
と、流石のレイとカヲルも苦笑した。
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「すんまへんなあ。こんな本は見た事もおへんわ」
「そうですか。どうもすみませんでした」
加持は京都の古書店巡りを続けていた。元日とは言え、京都の古書店では開いている店も結構ある。しかし、朝から数軒回ったが、何の手掛かりも得られなかった。
「あ、お客はん、ちょっとすんまへん」
「なんですか」
出て行こうとする加持を、古書店の老主人が呼び止めた。
「すんまへん。もっぺんその本を見せとくれやす」
「はい、どうぞ」
加持が差し出した「原初の光」を、老主人はまじまじと眺めた。
「……式神ゴンゾウはんねえ。けったいな名前やなあ……。式神、言うたら、その昔、安倍晴明はんが使わはった鬼の事や……」
「えっ!? それはどう言う事です」
「へえ、昔、平安時代の事ですのやけど、京都に、安倍晴明、ちゅう、偉い陰陽師がいやはりましてな」
「おんみょうじ?」
「そうどす。……そうでんなあ、今で言うたら、さしずめ、『魔法使い』どすわ」
「はあ、それで……」
(なに!? 「魔法使い」、だと!?)
「安倍晴明はんは、陰陽道の術で、色々と不思議な事を起こしたり、病気治しのご祈祷をやったりしやはったんどすわ。で、その晴明はんは、鬼を使うてはりましてな、その鬼に、色んな事をやらせはった、ちゅう事です。その鬼の事を、式神、言うんどす」
「すみません。その、『あべのせいめい』と言う『おんみょうじ』の事について書いた本はありませんか?」
「はあ、それやったら、そこに、『陰陽道の本』ちゅう、赤い本がおまっしゃろ。その本やったら割に詳しいどっせ」
「じゃ、この本戴きます」
「へえ、おおきに、1000円どす」
加持はその本を手にして、そそくさと古書店を後にした。
+ + + + +
アスカはすっかり満腹し、
「あー、たべたたべた♪ あたしさあ、おせち料理、ってはじめてだったけど、けっこういけるもんねえ♪」
レイも、満足気に、
「ほんと、おいしかったわ……」
その時ミサトが、ニヤリと笑って、
「ま、今回は出来合いだったけどさ、来年はわたしがチャレンジしようかな、っと♪」
と、言ったのへ、シンジは思わず慌てて、
「み、ミサトさんっ!」
「なーによシンちゃん、その言い方はあ……」
「いえ、どうもごめんなさい……」
「うふふ♪ 心配しなくたってさ、ちゃんとシンちゃんに手伝ってもらうわよ♪」
「はあ……、そうですか……」
アスカが苦笑しながら、
「そうよシンジ、だいたいさあ、そんな心配なんかしなくっても、ミサトがひとりでやるわけないじゃない♪」
「こらアスカ!」
「へへっ♪」
その時カヲルが、
「でも、僕は部長の手料理を一度いただいてみたいですね」
「あら、渚くん、うれしいこと言ってくれるじゃない♪ おねえさん、ちょーっち感激だな♪」
と、ミサトは笑ったが、アスカはまたもや苦笑し、
「あーあ、渚くん、やめといたほうがいいわよ」
「どうして?」
「だってさ、ずっと仕事ひとすじに生きてきたキャリアウーマンに、家庭的な味をもとめるのがどだいまちがってるじゃない」
ミサトは大声で、
「アスカ!」
と、言ったものの、すぐに苦笑した。
「……あーあ、もう、反論できないわ。……うふふ……」
と、その時、ナツミが、
「あっ、そうだ♪ ねえねえ♪ 今思いついたんですけど、せっかくみんな集まったんですから、もしよかったら、これからみんなで初詣に行きませんか♪」
ミサトがすかさず、
「へえー♪ 八雲さん、なかなかしゃれたこと言うじゃない♪ うん、みんなで行こっか♪」
アスカとシンジは、
「さーんせい♪ あたし、はじめてだしさ♪」
「いいですね」
カヲルとレイも、
「僕もはじめてなんで、行ってみたいです」
「みんなで行きましょう」
「決まりね♪ じゃ、行こうか♪」
ミサトは笑って立ち上がった。
+ + + + +
(晴明神社……、一条戻橋……、式神、か……)
加持は古書店を出た後、すぐに近くの喫茶店に陣取り、「陰陽道の本」をざっと流し読みしていた。
(よし、決めた!)
何の根拠もなかったが、加持はこの「晴明神社」に行ってみようと言う気になった。勘定を済ませて店を出ると、丁度やって来たタクシーを拾ってそそくさと乗り込み、
「堀川一条の晴明神社までお願いします」
「はい、有り難うございます」
+ + + + +
ミサト達六人は、タクシーに分乗して「新東都神社」にやって来た。元々が「使徒迎撃要塞都市」として作られた第3新東京市であるから、古くからある神社などはない。しかし、この時代でもやはり神社は必要なため、やや郊外寄りの場所に、結構立派な神社が建てられていたのである。境内は初詣の人々で結構賑わっていた。
アスカが眼を丸くし、
「へえー、けっこうりっぱねえ」
ナツミも頷いて、
「そうですねえ♪ 出雲大社もりっぱだったけど、ここもりっぱですねえ♪」
ミサトが二人に、
「ま、歴史はないけどね。日本の心、ってやつよ」
シンジ、レイ、カヲルは、
「そうですね。なんか、心が落ち着きます」
「わたしもなんだか、心がやすまります……」
(こんな気持ち、はじめてだな……)
「僕も神社ははじめてですけど、いいですね」
「じゃ、本殿にお参りしましょ♪ その後はおみくじね♪」
と、言ってミサトが歩き出した。
+ + + + +
ポン、ポン
ポン、ポン
ポン、ポン
ポン、ポン
ポン、ポン
ポン、ポン
六人は本殿で「二礼二拍手一礼」の手順に則り、賽銭を上げて礼拝した。
+ + + + +
おみくじを引くや、アスカは、
「あ、あたしのおみくじ小吉だ。……シンジは?」
「……大吉、だけど……」
「あ、シンジ、あたしの運、とったわねっ! かえしてよっ!」
「そんなむちゃな……」
カヲルはレイに、
「綾波さんは?」
「中吉です……。渚くんは?」
「僕も中吉、なんだ……」
「そう、……うん、中吉だから……、ま、幸せになれるわね……。きっと……」
「そ、そうだね……」
ミサトは、おみくじを開くや、
「やった♪ わたしは大吉だ、っと♪」
ナツミも、
「あ、部長もですかあ♪ わたしもなんですう♪」
「へへっ♪ お互い、『こいつあ春から縁起がいいのう』ってとこね♪ ……あ、そうだわ。こんなとこで言うのもなんだけどさ、ま、八雲さんとは今年から本格的なお付き合いだから、あらためてよろしくねっ♪」
「はーい♪」
+ + + + +
(ここが晴明神社か。そんなに大きな所ではないな……)
晴明神社にやって来た加持は、まず周囲を見回してみた。これと言って特徴のない、ごく普通のビル街の中に、その神社はさりげなくある。
元々が境内が大きくない上、流石に元日だけあって、境内は参拝客で混雑している。加持はその人込みの中に入って行った。
(なんだあれは……。星印?……)
境内に入った加持の眼に最初に入って来たのは、提灯に付けられた「星印」である。日本の神社なのに星印が付いている、と言う点に、加持は妙な感じを覚えた。
(あ、そう言えば、さっきの本の中に……)
加持は「陰陽道の本」の事を思い出した。何かこの星印について説明がしてあったように思える。しかし、この混雑の中では、立ち止まって本を開いて見るのも無粋な事だし、多忙な社務所で話を聞く事も出来そうになかった。
(仕方ない。とりあえず出るか……)
踵を返して歩き出し、鳥居をくぐって表通りまで出た時、
(ん! あれは!!……)
加持の眼に飛び込んで来たのは通りの向かいにある喫茶店の看板だった。
「式神」
(「式神」だと?!)
+ + + + +
「いらっしゃいませ」
「ホットコーヒーを」
「かしこまりました」
(見た所、普通の喫茶店だ……)
ウエイトレスが去った後、加持は「喫茶店・式神」の中をそっと見回してみた。これと言って特徴はない、普通の喫茶店のようだ。店内にはちらほらと客もいるが、混雑はしていない。加持はタバコを取り出すと、おもむろに一服付けた。
「フウウウーーーッ」
カウンターの方を窺うと、店の主人らしい50がらみの男がドリッパーでコーヒーを入れている。
(そうだ。気晴らしに新聞でも読むかな……)
無論、「星印」の事も気にはなるが、この手の本の内容を細かく分析するのは神経を使う事である。
リニア新幹線の中では、ずっと「原初の光」を読んでいたし、昨日から碌に新聞もテレビも見ていない。元々大して興味もないオカルトや宗教には少々食傷気味だった。
加持は立ち上がって新聞や雑誌の置かれているラックの方へ行った。ラックの隣には大きな本棚があり、漫画の単行本や通俗小説なども置かれている。何気なくそれらを見ていた時、
(!!!!!!!!!!!)
本棚にあった一冊の本の背表紙の文字が加持の眼を射抜いた。
『原初の光』
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'Moon Beach ' composed by VIA MEDIA(arranged by Singer Song Writer(有限会社インターネット))
夏のペンタグラム 第二十一話・悪因悪果
夏のペンタグラム 第二十三話・暗中模索
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