第一部・原初の光




 ここは第3新東京市ジオフロント内のネルフ本部前。

 そこには活動限界で停止した3機のエヴァンゲリオンと巨大な3体の使徒、ゼルエル、アラエル、アルミサエルの死体があった。全ての戦いが終わり、最後の瞬間に凄まじい光と音が発生したためか、周囲の人間は全て気絶していた。

「う、ううーん、……どうなったの。……ああっ!! ここは!!??」

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第三十七話・帰還

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 ミサトは余りの意外さに我が眼を疑った。さっきまで別次元の世界にいた筈の自分がまさかここにいるとは考えもしなかったからだ。周囲を見渡すと、赤木リツコも伊吹マヤも気絶している。青葉シゲルも日向マコトも倒れていた。

「どう言うことよ! これは! ……リツコ、起きて! リツコ!」

 ミサトはリツコを揺り起こした。

「う、うーん、……ミサト……。終わったの?」

「終わったの、って、どう言うことよ?」

 リツコは上半身を起こして、

「なに言ってんのよ。使徒が3体攻めて来たんじゃないの。同時に世界中で多数の小型使徒が侵攻して大変だったんじゃない。気絶していた間に忘れたの?」

「世界中で同時侵攻?……。そんな……」

 その時ミサトは気付いた。

(そうか! 歴史が変わったんだ! ……だとしたら、これはしらばっくれるべきだわ!)

「そ、そうだったわね。……とにかくみんなを起こしましょ」

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「ここは、どこだ……。はっ! 初号機のエントリープラグ! まさか!」

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「はっ! ここは! 弐号機のエントリープラグ! かえって来たの!?」

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「……ここは、零号機の中……。わたし、帰って来たの?」

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 加持はスイカ畑で眼を覚まし、

「うーん。ここは……。あれっ!? そうか、帰って来たのか! これから後始末が大変だな……」

と、苦笑した。

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「ああっ!! この少年は!!」

 ミサトは驚いた。少し離れた所に髪の毛まで真っ白な「全身が白い、天使のような少年」が裸体でうつ伏せになって微笑を浮かべながら死んでいるではないか。慌ててミサトはそこへ駆け寄った。

「リツコ! これを見て!」

 リツコはマヤの端末を抱えて駆け寄って来た。

「……この少年は……」

 リツコは端末を操作し、

「この少年が全ての使徒の根元だったようね。この使徒が3体の使徒を引き連れてやって来たのよ。……マギがそう判断したわ」

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 シンジ達は全員強制射出されたエントリープラグから救出され、ミサトやリツコのいる所へやって来た。

「シンジ君、アスカ、レイ、……うううっ。うわあああっ!!」

「ミサトさんっ!! うわああっ!!」

「ミサト! わあああっ!!」

「葛城三佐……。ううっ」

 三人はミサトに抱き着いて泣いた。

「みんな……、よく頑張ったわね。……よかった」

 その時ミサトはある事を思い付いて三人にそっと耳打ちした。

「みんな。……わかってると思うけど、絶対に余計なこと言っちゃだめよ。全部私にまかせて。……必ずちゃんと始末を付けるから。……なにを聞かれても、覚えていない、って言うのよ」

「はい……」
「はい……」
「はい……」

 その時、リツコはレイの髪に目を留め、

「あら、レイ、……髪の毛どうしたの? 色が少しおかしいみたい……」

 レイはドキリとしたが、知らぬ顔で、

「えっ!? なにか?……」

「髪の毛の色が濃くなったみたい。……戦いの影響だったらいけないから、精密検査しましょうね」

「はい……」

 その時、日向マコトが沈痛な表情で駆け寄って来た。

「地下から連絡が入りました。……碇司令が殉職なさったそうです」

「!!!!…… 司令が!……」

 リツコは顔色をなくした。

「父さんが!……」

 シンジは一瞬まさかと思ったが、確かに納得出来る話だと考え、努めて平静を装った。ミサトもしらばっくれて、

「……とにかく私達は仕事をしましょう。……それが司令の遺志を継ぐことだから……」

 その時だった。シンジが「使徒の少年の死体」を目に留め、

「あっ! あれは?!……」

 ミサトがすかさず、

「『最後の使徒』の死体よ。わかる。シンジ君」

「あ……、は、はい」

 シンジはミサトの口調から「『沈黙せよ』とのサイン」を読み取っていた。

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「父さん……」

 シンジは病院でゲンドウの遺体と対面した。別の世界であのように戦ったとは言うものの、まさかこちらの世界に帰って来てこうなるとは考えもしていなかったので気持ちが沈むのは仕方なかった。ゲンドウが安らかな死に顔だったのがシンジにとってはせめてもの救いだった。

「父さん……。さよなら。……母さんと安らかにね……」

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 その後レイは病院で精密検査を受けたが、「色素が沈着しただけ」との診断を受けて帰って来た。シンジとアスカも一応の診察を受けたが「異状なし」と言う事で帰って来た。

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「最終決戦」の日の夜、ミサト、シンジ、アスカの三人は、懐かしのミサトのマンションに帰って来た。そして全員順番に風呂に入った後、テーブルで向かい合って、

「さて、と、これからの作戦を練りましょう。すぐに加持君とレイも来るから」

と、ミサトが言った、丁度その時、

ピンポーン

「あっ、加持かな。ちょっち待ってね」

 ミサトはインタホンを取り上げ、

「はい。あっ、加持君。今開けるわ」

 程なくして、ミサと共に、加持とレイが大きな買い物袋を下げて入って来た。

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「お邪魔するよ」
「こんばんわ」

 加持とレイの顔を見たシンジとアスカは、

「こんばんわ」
「いらっしゃい」

 ミサトは軽く頷き、

「さて、これで全員揃ったわね。早速作戦会議と洒落込みましょうか」

 全員がテーブルに着いた後、加持がまず口を開いた。

「実は、まず言っておかなきゃならん事がある。向こうの世界で大怪我をして医務室に担ぎ込まれた時、夢を見たんだ。『碇司令の机を探れ』、ってね。それを思い出して調べたら、とんでもない物が出て来たよ」

 ミサトが興味深そうに、

「なに? とんでもない物、って」

「その前に状況を少し説明しておくよ。あの後コンピュータをフル回転して調べたら、今回の使徒襲来は世界的なものだった事がわかった。大物の使徒はこっちに来た3体だが、世界中で多数の小型の使徒が大暴れして大混乱だったそうだ」

 ミサトは愕然として、

「ちょっと待ってよ! それって!……」

 加持は頷き、

「そうだ。向こうの世界と同じ現象だったんだ。それで、こっちの3体の巨大使徒は、エヴァ3機をフル回転させて何とか倒した、と。そして、使徒の根元たるあの少年を初号機が倒した瞬間、全世界の小型使徒は全て死んだそうだ」

 アスカは眼を丸くして、

「なにそれ! まるっきり向こうの世界とおんなじじゃないの!」

「そうなんだ。もっとも、向こうの世界がその後どうなったかはわからないけどね。……多分解決したんだろうな。……こっちと同じように」

 ミサトは大きく息をし、

「なるほどねえ……」

「それから、地下のダミーシステム生産工場は全て破壊されていた。使徒の侵入はそこまで及んでいたんだよ。……そしてだ、驚くなよ。地下のアダム、いや、リリスも消滅していた。ロンギヌスの槍だけ残してね」

 レイは真剣な顔で、

「どう言うこと……」

「詳しくはわからんよ。……しかし、これだけは言える。俺達がこっちへ帰って来た時、ちょうど歴史が変わった後だったんだな」

 シンジは思わず、

「そう言えば、あの神様が言ってました! 『時間の流れは一定ではない』、って!」

「そうだ。だから俺達はこの時点に帰って来れたんだ。そして歴史が変わった。……サード・インパクトは阻止出来るぞ」

 ミサトは心配そうな顔で、

「でも、ゼーレはどうするの? 連中はまだ生き残ってるんでしょ?」

「実はだな、聞いて驚くな……。連中は全員死んだよ」

「ええっ!」
「ええっ!」
「ええっ!」
「ええっ!」

と、驚いた後、四人は言葉をなくした。加持は続けて、

「今回の世界的な使徒の侵攻の混乱で、……ほんとに不思議な事なんだが、全員死んだそうだ。極秘情報だけどな」

 しかし、ミサトはまだ不安そうに、

「でも、まだ残党はいるんじゃない? 大丈夫かな」

「それを阻止するのがこのメモリカードさ。碇司令の机の中にあった」

「なにが書いてあったの?」

「碇司令とゼーレが進めていた『人類補完計画』の全貌だよ。まさかこんなものを残していたとはな」

「そうなの! 驚きねえ……」

「これは内務省を通じて政府に提出する。そして、国連にもだ。『人類補完計画』が、実は『サード・インパクト』だったと知ったら、政府や国連のお偉方は腰を抜かすぜ。これで全て解決だ」

 ここに来て、ミサトもやっと明るい顔になり、

「やったわね! 加持君! 見直したわよ!」

「いやあ。みんなのおかげだよ。……それからもう一つ。このメモリカードにはすごく重大な情報が記録してあったんだ。みんなにはとんでもない事だと思うけど、思い切って全て明かそう。……みんな、レイの秘密はもう知ってるよな」

 それを聞いたミサトは、顔を曇らせ、

「レイの秘密、って。……ああ、あまり言いたくはないけど、知ってるわ……」

 シンジとアスカも、

「綾波の秘密……。知ってます……」

「うん、異次元世界で聞いたわ……」

 レイは淡々と、

「……わたしの宿命ですから……。でも、自分がクローンだと言うことしか……」

 ここでシンジは、覚悟を決め、

「この際だから全部言った方がいいよね。……綾波は僕の母さんのクローンらしいんだ……」

 それを聞いた、ミサト、アスカ、レイは、

「えええっ!! ちょっと、それ……」
「ちょっと!! シンジ……、それ……」
「えっ!! まさか……」

 一瞬の沈黙の後、再びミサトが口を開き、

「……クローンだってことはわかってたけど、シンジ君のお母さんのクローンですって!?」

 レイは上目遣いにシンジを見て、

「シンジくん。……それ、ほんとなの……」

 流石にシンジも、言葉に詰まり、

「いや、それはべつに、確証があるってわけじゃ……」

 その時、黙って聞いていた加持が、

「やはりな……。それぐらしいか知らなかったか。……聞いて驚くな。……実は、レイは、シンジ君のお母さん、碇ユイさんのクローンじゃなかったんだ」

「えええっ!!」
「えええっ!!」
「えええっ!!」
「えええっ!!」

 四人はまたもや驚き、言葉をなくした。加持は続けて、

「そうだ。碇司令は何とかユイさんのクローンを作ってユイさんを蘇らせようとした。クローンさえ作れば、初号機に入ったユイさんの魂をサルベージして移植する事でユイさんを生き返らせられると考えたんだな。しかし、その研究は成功しなかった。流石に残った髪の毛ぐらいでは、クローンを作る事は出来なかったんだ」

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

「そんな時碇司令にとってはとんでもないニュースが入った。実はユイさんにはマイさんと言う双子の妹がいて、そのマイさんが事故で急死したんだ。何とか臨終に間に合い、身寄りの無かったマイさんの遺体を引き取った碇司令は、マイさんの卵子を取り出して冷凍保存した。そして、精子銀行から取り寄せた精子を受精させ、それを多数に分割させて作ったのがレイだったんだ。つまり、厳密に言うとクローンじゃないんだ。体外受精児ではあるけどね……」

 シンジとレイは呆気に取られ、

「それじゃ、綾波は僕のいとこなんですか!!」

「わたしが……、シンジくんといとこ同士だったなんて……」

 アスカとミサトは呆然とするしかなく、

「おどろきねえ……」
「なんとねえ……」

 加持は続けて、

「そうだ。それから後、碇司令は遺伝子操作をしてレイの受精卵をユイさんに変化させようとした。しかし上手く行かずに失敗を繰り返し、結果的に断念したんだよ。……そして、その後は方針を転換し、碇司令独自の『人類補完計画』を進めようとした訳さ」

 シンジとミサトは溜息をつき、

「そうだったのか……」

「事実は小説よりも奇なり、ねえ……」

 話が一区切り付いたと見た加持は、ミサトに向かい、

「それから最後に一つ。葛城、冬月副司令とリツコ君の事なんだが」

「ああ、あの二人ね。……ほっとくわけには行かないわね」

「そうだ。あの二人は碇司令の『人類補完計画』に深く荷担している。このまま放置は出来ない。……事が明らかになれば、おそらくタダでは済まないだろうな」

「覚悟は出来てるわ。……で、加持君としてはどうするつもり?」

「一応俺の考えでは、二人に『出家』を勧めようと思っている」

「出家? なにそれ?」

「うん、明日二人に『友人として』出家を勧める。実は、内務省関係者に縁が深い、知り合いの寺院に頼んで既に手筈は整えてあるんだ。……二人が納得して『出家』し、以後一切の公的活動をやめるなら、俺としては二人に関しては穏便な処置で済むように内務省に進言するつもりだ。

 まあ、『出家』なんぞと言えば、馬鹿馬鹿しく聞こえるかも知れんが、言ってみれば、『見逃してやるから、おとなしくしていろ』と言う事と同義だ。無論、内務省の監視も付くし、行動はかなり制限されるがな。

どうだ? 二人に『引導』を渡すのに、一緒に行ってくれるか?」

「いいわ、一緒に行きましょ。……リツコに対する最後の友情ね」

「俺の話は一応これで終わりだ。全て仕切ったようで申し訳ないが、このセンで行く事を了解してくれるかな」

 シンジ、アスカ、レイは、

「はい。僕はそれでいいです」
「あたしもオッケーよ」
「わたしもそれでかまいません」

 ミサトは全員を見渡し、

「じゃ、これで決まりね。……みんな、最後の仕事よ。がんばりましょ」

「はいっ!」
「まかせといて!」
「はいっ!」

 加持は大きく頷いた後、ニヤリと笑い、

「よしっ! じゃ、これで今日の作戦会議は終わりだ。パーッとやろうぜ。色々と買い込んで来たからな!」

 ここでミサトは相好を崩し、

「そうこなくっちゃ! シンちゃん! ビールビール!」

「はいっ!」

 アスカも元気になって、

「シンジ! コーラちょうだい!」

「はい、コーラ!」

 レイは控えめに、

「わたしはジュースもらうわ。……あ、自分でするから……」

「いいよいいよ。ほら、綾波」

「ありがと……」

「いや、そんな、お礼を言ってもらうほどじゃ……」

 二人の様子を見たアスカが笑いながら、

「あーらシンジ、レイ、なにてれてんのよ。うふふっ。おたがいがいとこだ、ってわかったとたんにはずかしくなったの?」

 シンジは真っ赤になり、レイは俯いてしまった。

「そ、そんな、ちがうよ!……」
「…………」

 ミサトは苦笑し、

「うふふふふっ。 シンちゃん赤くなってる。レイまでうつむいちゃってさ」

 シンジは恥ずかしそうに、

「いやだなあ。ミサトさんまで……」

 みんなの様子に、加持が笑いながら、

「おいおい。あんまりシンジ君をいじめると、家事やってもらえなくなるぜ。わははははは」

 ミサトのマンションに久しぶりに明るい笑い声が響き渡った。

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 こちらは「オクタ」の世界。

 千本丸太町での「最終決戦」の後、光がおさまると同時にオクタヘドロンのパイロット達は我に返った。

「どうなったんだ……」

と、サトシは改めて周囲を見渡して、

「ないっ!! エヴァンゲリオンも、使徒の死体も、マーラも!! おーい! みんな! だいじょうぶか!」

『四条や! こっちは無事やで!』

『こちら形代! わたしも無事じゃけん!』

『橋渡です! 僕も大丈夫たい!』

『玉置です! ウチも無事やで!』

『こちら北原! わたしもだいじょうぶよ!』

「碇君! 綾波! 惣流さん! 返事しろ!! ……そうだ!! 穴はどうなったんだ!?」

 だが、シンジ達の返事はない。サトシは改めて『魔界の穴』のあった位置を見たが、そこには何も見えなかった。

「穴が消えてる……」

 呆然とするサトシのカプセルに、マサキの声が飛び込んで来て、

『カプセルが残っているはずや! 降りて調べよう!』

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「あっ! ミサトがいない! 加持さんも……」

 由美子は驚愕した。中央制御室のスクリーンが激しく光った後、気がついたらミサトと加持の姿は忽然と消えていた。

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 世界中を「青い光」が駆け抜けた後、全てのマーラは忽然と消え失せた。人々は一瞬何の事か判らず呆然とした後、自分達が助かった事に気付き狂喜乱舞した。

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「こちら中畑! 全員大丈夫!? 返事をして!」

『こちら四条! 全員無事ですが、碇君たちは消えてしまいました!』

「了解! こっちもそうよ。ミサトと加持さんは消えたわ!」

『残ったカプセルを調べます! 許可を下さい!』

「許可するわ! 調べてちょうだい!」

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 六人は地上に残された3機のカプセルを調べたが、やはり、シンジ達の姿はどこにも見当たらなかった。

「こちら四条! 碇君達はやはりいません!」

『そう、しかたないわ。後は処理班にまかせるから全員帰って来て! 本当におつかれさま!!』

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 由美子はインカムを外すと、大きく溜息をつき、肩を落として、

「終わったの、か……」

 そこに中之島が歩み寄って来て、

「中畑君。本当に御苦労ぢゃった。……ようやく終わったようぢゃ。『魔界の穴』は完全に塞がれたようぢゃよ」

「本当に、……本当に、……終わったんですか……」

「ああ、間違いなかろう。……ほれ、オモイカネが休止しておる。普通のコンピュータになってしもうた。……オモイカネの能力は、どうやら魔界と現実界の融合の時にだけしか発揮出来なかったようぢゃ。……また一からやり直しぢゃよ。通常時にも能力を発揮出来るようにの。……何年かかるか判らんが、また頑張るわい……」

「でも博士……、お歳の事もお考えになられた方が……」

「なあに、まだまだ死なんわい。……研究を完成させるまではの。……ふふふ。……あーあ、また一からやり直しぢゃ……」

「……博士、……ミサト、いえ、葛城さん達はどうなったんでしょう」

「さあ、どうなったのかのう……。元の世界へ帰れたかのう……。いや、きっと帰れたんぢゃよ。……そう信じようではないか。のう……」

 その時真由美が振り返り、

「世界中から通信が入って来ました。青い光の帯が通過し、その後マーラは全て消失したそうです」

 松下も、泣き笑いとしか言えない表情で、

「終わったんだな……。ほんとに……。ううっ」

 由美子も眼を真っ赤にし、

「松下先生……。終わったんですね……。ぐすっ」

 岩城も声を潤ませ、

「終わったんですよ……。うぐっ。うっ、……うはは」」

 山之内さえも、

「ああ、全て終わったのさ。……ううっ、……うあは、わはは」

 由美子はゆっくりとインカムを手にした。

「みんな! 聞こえる!? ううっ。……終わったのよ……。終わったのよ!!。……うふふ、はははははは!」

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 サトシはそれを聞き、呆然となったが、

「……終わったのか。……ううっ。終わったんだな。ううっ……。ほんとに、終わったん、だな。……うわああああっ!!! やったぞ!! やったんだ!」

 無線にリョウコとアキコの声が、

『うわああっ!! わたしたち、やったのよ!! うわああっ!!』

『やったんじゃね!! とうとうやったんじゃね!! わああっ!』

 マサキの怒鳴り声も、

『やったんや! 僕ら、やったんやぞ! ……わははははっ。ううっ』

 タカシとサリナの声も、

『やったとね!! とうとう……。やったとね! ぐすっ!』

『そうや! ウチら、やったんやで! うわあああっ! 』

 カプセル内にみんなの声が次々と飛び込んで来る。泣き声は次第に笑い声と混じり出し、最後は全員が泣き笑いしていた。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'パッヘルベルのカノン ' mixed by VIA MEDIA

原初の光 第三十六話・打破
原初の光 第三十八話・友情
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