第一部・原初の光




 千本丸太町交差点の東西南北に姿を現した4体の使徒は、エヴァンゲリオンやオクタヘドロンの存在などまるで意に介さないかのようにゆっくりと歩を進めていた。上空の2体の使徒もゆっくりと高度を下げ、『魔界の穴』に接近して来た。しかし、そのゆっくりした動きは却って威圧感に満ち、パイロット達に「無言の圧力」を与えていた。

 いつしか周囲には自衛隊員もマーラも存在していなかった。「最後の決戦」を見守るのは「静寂の街並」だけだった。

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第三十五話・激突

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 シェルターの中で弟や妹達を抱き寄せながらひなたは必死に祈っていた。

(神様!! みんなをお救い下さい!!!)

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 白川夫妻も避難先のシェルターでサトシの無事をひたすら祈っていた。

(サトシちゃん! がんばるんや! 負けたらあかんで!)

(サトシちゃん! 絶対に死んだらあかんで!)

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「オン・アビラウンケン、オン・アビラウンケン、オン・アビラウンケン、オン・アビラウンケン、オン・アビラウンケン、オン・アビラウンケン………」

 東寺の地下シェルターで、森下有信は全身全霊を込めて大日如来のマントラを唱えていた。昨日朝の避難命令の時からずっとここで続けている。同時に避難した市民の一団も一緒になってマントラを唱えていた。

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「オン・アビラウンケン、オン・アビラウンケン、オン・アビラウンケン、オン・アビラウンケン、オン・アビラウンケン、オン・アビラウンケン………」

 加山龍光も避難先のシェルターで一心にマントラを唱えていた。

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 皇居地下シェルターでは、侍従長が顔色を変え、

「陛下! 御避難なさって下さい!」

 しかし天皇は眉一つ動かさず、

「どこへ行くと言うのだ」

「とにかく遠方へ御避難を!」

「私はここで国民と運命を共にする。この状態にあって今更どこに行く」

「しかし! 陛下!」

「この皇居の地下シェルターでだめならどこへ行っても同じだ。私はここで国民と運命を共にする」

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 由美子とミサトは顔を見合わせ、頷いた。

「じゃ、行くわよ。……オクタ全機! 攻撃開始!!!」

「エヴァ全機! 攻撃開始!!!」

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 昨日の10月15日8時50分に警報が発令されてから丁度24時間が経過している。無論全員不眠不休だった。食事すら碌に取らずに流動食を飲んでいるだけである。しかし誰も疲労を感じている余裕すらなかった。思わず由美子の口からも悔しさ故の愚痴がこぼれる。

「松下先生! 今更なにを言っても仕方ありませんが、結局我々は全て祇園寺と碇ゲンドウに嵌められていたと言う事ですか!」

「そう言う事だ! 今回の決戦すら奴等にとってはシナリオの一部でしかなかったんだ! 我々を舐め切っていやがるんだ! クソっ!! やたらとアイデアが浮かぶのも、事が上手く運ぶのも、全て魔界の力の副作用だったんだ! それだけの事だったんだ!」

「なんてこと……。くっ!……」

「しかし、『策士、策に溺れる』と言う事もある。連中が連中のシナリオを自信を持って演じていると言うなら、こっちもそれを逆手に取ってやるだけだ! 中畑君! 君にとっても正念場だぞっ!!」

「はいっ!!」

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「行くぞおおっ!!」

 シンジは千本通を南に向かって飛び出した。目前には使徒ゼルエルの姿が迫る。

「父さん!! そこにいるんだろう!! 覚悟しろっ!!」

 しかし通信は何も入って来ない。ゼルエルは歩みを止め、畳んだ両手をリボンのように伸ばし始める。

「来るっ!!!」

シュワアアアアアアアッ!!!
シュワアアアアアアアッ!!!

 初号機に向かってゼルエルは両腕を凄まじいスピードで突き入れて来る。

「跳べっ!!」

 初号機はすかさずジャンプして攻撃を躱した。

(凄い! まるでテレビの忍者だ!)

 質量・慣性中和システムをフル稼動した初号機は鋭角的な動きを難無くこなす。そのままゼルエルの頭上を跳び越して背後を取った。

「ナイフだ!」

 初号機はゼルエルの背後に回って長剣を素早く取り出すと、ゼルエルの後頭部めがけて突き立てた。

カキイイインンンンッ!!!!

「くっ!! ATフィールドかっ!!」

 ゼルエルはすかさず背後にATフィールドを展開し、ナイフを跳ね除けた。初号機を通じてシンジの右腕に反動が伝わる。

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「北原! 形代! 行くぞ!」

 サトシは叫ぶと同時にガルーダを上昇させた。彼の眼には『魔界の穴』がはっきりと映っている。

『了解!』
『了解!』

 ディーヴァとガンダルヴァも上昇して来る。すぐに3機は三方から『魔界の穴』を取り囲む態勢を取った。

「どうする。……どうすれば。……そうだ! ガルーダ! 青く光れ! 『魔界の穴』を照らし出せ!」

「心を持ったガルーダ」には、「語り掛けるのが一番だ」と感じたのである。

「ガルーダ! 行くぞおおおおっ!! オーム! アヴァラハカッ!!」

「クウエエエエエエエエエッ!!」

 サトシのマントラに呼応するかのようにガルーダは雄叫びを上げ、青く光り始めた。

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「ディーヴァ! 青く光るのよ! オーム! アヴァラハカッ!!」

「ウオオオオオオオンンッ!!」

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「ガンダルヴァ!! 光って! オーム! アヴァラハカッ!!」

「グオオオオオオオオオッ!!」

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「どっからでも来なさいよ!」

 アスカは最早肉眼でも目視出来る高度にまで降下したアラエルをじっと睨んでいた。次の瞬間、アラエルは眩しい光を弐号機に照射した。

「うっ!!! 来たわねっ!!」

 アスカの脳裏に過去の嫌な思い出が次々と蘇ってくる。精神攻撃が始まったのだ。

(いくらでもやれば! もうなにもこわくないわ!)

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(来た!)

 上空からゆっくり降下して来たアルミサエルは突然体を紐状に変え、急に速度を上げて零号機に襲いかかって来た。

「ATフィールド全開! ナイフ装備!」

 レイの叫びに零号機は長剣を右手に持ち、ATフィールドを張り巡らした。

(絶対に負けない!)

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「弐号機パイロットの脳波に乱れが発生! リング状の使徒は零号機に急接近!」

 由美の叫びに、ミサトは、

「アスカっ! 大丈夫っ!? ……脳波レベル調べてっ!」

『だいじょうぶよっ! ミサト!』

「脳波レベルは、……なんとか正常範囲に収まっていますっ!」

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「攻撃!」

 直前に迫ったアルミサエルに対し、零号機は長剣を振り下ろした。

バサアアアアッ!!!

(やった!?)

 長剣は見事にアルミサエルの体を分断した。しかし、分断されたアルミサエルはそのまま零号機の両腕に絡み付いた。相手を物理的に攻撃する際は、武器をATフィールドの外へ出さざるを得ない。その一瞬の隙を狙われてしまったのだ。

「しまった!! ……うぐぐぐぐぐっ!!」

 零号機とレイの両腕に同時にミミズ腫れが走り出す。またもやアルミサエルは物理的融合を試みたのだ。

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「零号機に使徒が物理的融合! パイロットに苦痛が!」

 またもや振り返り、由美が叫ぶ。ミサトはインカムを掴み直した。

「レイ!! カプセルを分離するわっ!」」

『だい…じょうぶ…ですっ!! まだ…行けますっ!!』

 その時、松下が『魔界の穴』の映るウィンドウを指して叫んだ。

「ああっ!! あれはっ!! カメラの信号だけにしろ!」

 真由美がコンソールを手早く操作する。

「信号切り換えますっ!」

 由美子が叫んだ。

「『魔界の穴』が出たわ!!!」

 3機のオクタヘドロンによって照らされた「魔界の穴」の映像に変化が起きた。光学的には見えないため岩城の脳神経スキャンデータを重ねて映していたのだが、明らかに「光学的信号」が映り出したのである。

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(そうや! 今のアスラには話しかけたらええんや!)

「行くでえええっ!!! アスラ! たのむでえええっ!! オーム! アヴァラハカッ!!」

「ウオオオオオオオオオオオッ!!」

 マサキの呼び掛けに呼応したアスラは雄叫びを上げて北から来た使徒サキエルに襲いか掛かった。

「な、なんちゅうごっついやっちゃあっ!!」

 近くで見るサキエルはやはり巨大だった。体高もアスラの2倍半はある。

「そやけど! 大きさだけでは勝てへんでえっ!! マントラレーザーやっ!!」

 アスラは超高速でサキエルの周囲を飛び回りながらレーザーを照射した。

ブシュウウウウウウウウウッ!!!

「グエエエエエエエエッ!!」

 さしものATフィールドも、次元を潜り抜けるマントラレーザーには効果がなかった。サキエルの体から煙が上がる。しかしなにしろ「象に針を刺す」ようなものである。決定打とはならない。

「くそお! でかいさかいきりがあらへんやないかっ! そうや!コアを狙うんやったな! アスラ! マントラウエーブ全開や! 光線剣使うで!」

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「ナーガ! ヤキシャ! たのむぞっ! オーム! アヴァラハカッ!!」

 タカシが叫ぶとナーガとヤキシャは並んで丸太町通りを東に飛行した。目前には使徒イスラフェルの姿がある。

「両側からマントラレーザー!」

 ナーガとヤキシャは左右に散開、レーザーを照射した。ATフィールドを貫いてイスラフェルの左右にレーザーが命中する。

ブシュウウウウウウウウッ!!!
ブシュウウウウウウウウッ!!!

「おっ! 分かれたね!」

 レーザー攻撃を受けたイスラフェルは2体に分離、跳ねながらナーガとヤキシャに襲いかかって来た。

「うおぉぉっとお! 簡単にはやられんよっ!」

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「キナラ! マホラーガ! 頼むええっ! オーム! アヴァラハカッ!!」

 サリナは叫んだ。キナラとマホラーガは西から来た使徒マトリエルに飛びかかる。

 マトリエルはクモのような足を巧みに振り回し、キナラとマホラーガを叩き落とそうとした。

「そんなヘロヘロビンタに当たってたまるかいなっ! マントラレーザー発射!」

 キナラとマホラーガはレーザーを発射した。

ジュワアアアアアアアッ!!
ジュワアアアアアアアッ!!

 キナラとマホラーガのマントラレーザーはATフィールドを通過して命中。マトリエルの体から煙が上がる。しかし本体には殆ど影響がないようだ。

「そうやわっ! 足関節に集中してっ!」

ブシュウウウウウウウウッ!!!
ブシュウウウウウウウウッ!!!

 キナラとマホラーガはマトリエルの足一本にレーザーを集中させた。案の定、関節部は切断され、マトリエルはグラリと傾いた。

 +  +  +  +  +

 シンジが叫んだ。

「一歩後退! 立てなおせっ!」

 初号機は一歩後へ下がって体勢を立て直した。脇に長剣を構えて突進する姿勢を取る。その時、ゼルエルは素早く振り返った。眼が光っている。

「よけろっ!!」

ブシュウウウウウウウッ!!!

 初号機は咄嗟に右に逃げた。ゼルエルの光線は初号機の左肩をかすめて後のビルを直撃し、壁の一部を溶かした。ゼルエルは連続して光線を照射して来るが、それを初号機は躱し続けた。シンジの心にだんだん焦りが生まれて来る。

「クソっ! どうするっ!? このままじゃきりがない! なんとかしろっ!!」

アヴァラハカッ!!


「はっ! マントラ!」

 その時、シンジの脳裏に突拍子もないアイデアが閃いた。

(そうだ! これだけ素早く動けるなら! やってみる価値はあるぞ!!)

「左右に反復して動けっ!」

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「凄い! 分身の術!?」

 モニタに映る初号機の姿が2つに分裂したのを見てミサトは驚愕した。余りに素早く左右に動いているので人間の感覚では2つに見えるのである。使徒と雖も生物ならば、2体に見えても不思議ではない。

「今はこんな事も可能なのか!!!」

 松下は驚きの余り叫んでいた。

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「ああああっ!! あれはっ!!」

 サトシは叫んだ。青い光に照らされた魔界の穴の中央部に斬り合いを続ける二人の人間の影のようなものが見える。

「祇園寺!! 本部長!!」

 カプセルのスクリーンにウインドウが開き、斬り結ぶ祇園寺と伊集院が映った。

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 中央制御室のモニタにもウインドウが開き、祇園寺と伊集院が姿を現した。二人は斬り合いの手を一時止めて対峙する。由美子が叫んだ。

「祇園寺と本部長だわ!」

 祇園寺は愕然として、

『何だ! 今度はここまでやりやがったのか!』

 伊集院は誇らしげに、

『我々の認識能力もここまで来た! もう逃れられんぞ!!』

『クソっ!! ここまでやるとは!』

『オクタ3機! マントラレーザーを撃て!!』

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 サトシは驚き、

「ええっ!!!? でも本部長! あなたも消えてしまいます!!」

『構わん! 撃て!! 今ここで穴を塞がないと何にもならん!!』

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「もう少しよ……。もう少しよ……。しんぼうするのよ」

 アスカはアラエルの精神攻撃にずっと耐えていた。明らかに相手のエネルギーが弱って行くのが判る。さしものアラエルも精神エネルギーを無限に出し続ける事は不可能だったらしい。こちらに何の反応もないので無理をし続けて疲れが出て来たようだ。

アヴァラハカッ!!


「はっ! マントラ!! ……よしっ、今だ! ATフィールド全開! エネルギー逆流!」

 弐号機の全身が赤く光る。まるで燃えているようだ。

「クワアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 思わぬ形でエネルギーの逆流を食らったアラエルは悲鳴を上げた。

 +  +  +  +  +

「くうううううううっ!!」

 レイの全身に苦痛が走り、脳裏に「もう一人の自分の映像」が映った。「もう一人の自分」が語り掛けて来る。

(「わたしとひとつになりましょう。……こんどこそ。……わたしはあなた。… …あなたはわたし……」)

「うううううううううっ!! ……くううううううっ!!!」

(「どうしたの……。わたしとひとつになりましょう……。ひとつに……」)

(絶対に負けない! わたしは絶対に負けない! そうだ! マントラを!)

「オーム! アヴァラハカッ!!」

 レイは脳裏に浮かぶマントラの記号にひたすら意識を集中した。

………)

 苦痛に耐えながら懸命にマントラに意識を集中すると、不思議な事にレイの苦痛が和らいだ。

 +  +  +  +  +

「マントラの波動が使徒の神経攻撃を緩和していますっ!!」

 エヴァンゲリオンの状態をモニタしている由美がコンソールを操作しながら叫ぶ。

「レイ!! がんばって!!」

 ミサトは拳を握り締めた。

 +  +  +  +  +

 アスラは光線剣を延ばし、サキエルの攻撃を躱しつつ、隙を見てコアに突進した。マントラと同調した光線剣ならATフィールドを貫ける筈だ。マサキは叫んだ。

「突入やああああっ!!」

 アスラが突入する直前、サキエルは跳び上がって攻撃を躱し、そのまま上を通り抜けてアスラの背後を取った。そして慌てて態勢を立て直したアスラに飛び掛かり、両手で胴体を掴んだ。

「しもうたあっ!! 捕まったっ!!」

 しかし次の瞬間、カプセルは強制排除され、マサキは単独で飛行していた。

”マサキ、私ヲレーザーデ撃テ”

「アスラ!? まさか!? ……そうか!!」

 アスラがマサキの心に語りかけて来たのだ。見るとアスラはサキエルのコアに取り付いている。サキエルはATフィールドの内側にアスラを取り込んだまま腕の骨をピストンのように後退させ、アスラに突き立てようとしていた。

 +  +  +  +  +

 質量・慣性中和システムをフル稼動し、ナーガとヤキシャは攻撃を躱す。まるでワープしているように素早い。しかし、次の瞬間だった。

バシィィィッ!!

「しもうたっ!!」

 タカシの乗るナーガの右足をイスラフェル甲の指先がかすめた。まるで鋭利な刃物で切ったようにすっぱりと右足が脱落した。

「くそおおっ! 飛ぶのに足はいらんっ!」

 イスラフェル甲は相変わらずナーガを狙って来る。乙はヤキシャに仕掛けている。このままでは一向にラチがあかない。

”タカシ、分離シテ囮ニナレ、後ハ私達ニ任セロ”

「はっ! 今の声は!? ……そうか! よしっ! 一旦後退!」

 ナーガとヤキシャは高速で後退してビルの陰に隠れた。2体のイスラフェルは飛び跳ねながら追って来る。

「カプセル分離! 後はたのむ!」

 タカシはカプセルを分離した。ナーガとヤキシャは光線剣を延ばし、そのままビルの裏を通ってイスラフェルの背後に回り込んだ。

「よっしゃ! 行くよ!」

 タカシはカプセルを高速で飛ばし、遠回りしてイスラフェルの正面に出た。カプセルに気付いたイスラフェルが追って来る。

「引っ掛かったね!」

 タカシはいきなりカプセルをUターンさせ、高速で甲乙の間をすり抜けた。2体のイスラフェルがこちらを振り向く。

「今たい! 突入!」

 +  +  +  +  +

「よっしゃあ!! 続けて撃って!!」

 サリナは叫んだ。しかし、次の瞬間、マトリエルは傾いたままこちらに中央の眼を向け、溶解液を発射した。

ジュウウウウウウウウウウッ!!

「うわああっ!!」

 溶解液をモロに浴びたかと思った瞬間、マホラーガが飛び込んで来て、身を挺してキナラを守った。さしもの「特殊セラミックで出来ているオクタヘドロン」と雖も、強力な溶解液の直撃を受けて装甲が溶解して行く。

「ああっ!!」

 サリナの心にも声が響いた。

”私ガ盾ニナル。攻撃ヲ続ケヨ”

「マホラーガ!!?? まさか!? ……もうしゃあない! 盾になったって!」

 キナラはそのままマホラーガの背後に張り付き、垂直に立ったままマトリエルに接近した。次々と浴びせられる溶解液にマホラーガは侵蝕されて行く。しかし、相手も溶解液を使う限りはATフィールドを張れない。

「今や! 眼に張り付いて!」

 マホラーガはボロボロになりながらマトリエルの眼に張り付いた。これで溶解液の直撃を防げる。

 +  +  +  +  +

「分身の術」を使った「2体の初号機」に対し、ゼルエルは超高速で両腕を同時に伸ばした。

「もらった!」

 シンジが叫ぶと初号機は素早く中央で停止し、ゼルエルの両腕を両脇に抱え込んで腕に巻き付け、力任せに引き付けた。

ブツッ!!!!
ブツッ!!!!

「グワアアアアアアアアアアッ!!」

 ビルの谷間に肉がちぎれる鈍い音と、ゼルエルの悲鳴が響き渡る。

「ATフィールド全開!」

 初号機はATフィールドを張り巡らし、ゼルエルに迫る。ゼルエルの両目が光ったかと思った時、初号機はゼルエルの直前で消えた。光線は虚しく彼方のビルを焼く。

ダアアアアアアアンンンンッッッ!!

 次の瞬間、消えたと思った初号機は隣りのビルを蹴って反転し、ゼルエルの頭に飛び蹴りを食らわせていた。ゼルエルは転倒し、初号機が上から馬乗りになる。

「グワアアアアアアアアッ!!!」

「覚悟しろ!!」

 初号機はゼルエルの顔面に長剣を振り下ろして突き立てた。

ブシュウウウウウウウウッ!!

 ゼルエルの顔面から青い体液が吹き出して初号機の顔に飛び散ったが、構わず初号機は長剣をひねる。ますます体液が吹き出し、初号機の顔面を青く染める。

『シ、シンジ……。不覚だ……。お前を……、舐めていた……』

 突然モニタにウィンドウが開き、苦痛に歪むゲンドウの顔が映った。

「父さん! 死ね!!!」

 初号機は長剣を抜き、全身の力を込めてコアに突き立てた。

ドスウウウウウウッ!!

 +  +  +  +  +

 サトシ、リョウコ、アキコの三人はやむを得ず叫んだ。

「マントラレーザー全開! 許して下さい!」
『マントラレーザー全開! 本部長! すみません!』
『マントラレーザー全開! ごめんなさい!』

 3機のオクタヘドロンはマントラレーザーを全開にして撃った。レーザーが穴の中央部で集約されて輝く。しかし、中央部の二人の周囲にはバリヤーのような物が張り巡らされ、レーザーを跳ね返した。

『ふんっ! それぐらいでやられるか! 覚悟しろ!』

『死ねえええっ!!』

 二人はまたもや斬り合い始めた。

「北原! 形代! 撃ち続けろ!」

『了解!』
『了解!』

 3機のオクタヘドロンはレーザーを撃ち続けた。しかし一向に状況は変化しない。サトシの心にも焦りが出て来た。

(なんとかしなくちゃ……。なんとか……)

 +  +  +  +  +

 モニタを見ながら中之島が怒鳴った。

「伊集院君! このままでは駄目ぢゃ! 祇園寺の力を抑えてくれ!」

『うるさいぞ! クソジジイ! どうせもう手遅れだ!』

『私も貴様ももうエネルギーはゼロに近い! 最後の勝負だ!』

 +  +  +  +  +

 その時アスカの脳裏に閃くものがあった。

「そうだ! 質量と慣性を中和できるなら!! ……目標の真下に移動して!」

 弐号機は猛烈な速度で移動し、アラエルの真下に位置した。

「ナイフ装備! ジャンプ!! いけええええええええっ!!!」

 弐号機はアラエルに向かって凄まじいスピードで迫って行く。瞬く間にアラエルに組み付いた。

「これでおわりよ! ナイフで攻撃!」

 弐号機はアラエルに長剣を突き立てるがATフィールドに阻まれて刺さらない。

「そうくるのならこれでどうっ!! 質量最大に増加!」

 質量・慣性中和システムを逆転した弐号機は見かけ上の重量を増加した。さしものアラエルも重さに耐えられずに凄い勢いで落下し始める。地面がぐんぐん迫って来た。

「まだよ。まだよ。まだよ。……今だ! カプセル分離! 自爆!」

 地面に激突する寸前にカプセルは分離されて飛び出し、弐号機とアラエルはそのまま地面に激突した。

ドオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッ!!!

 弐号機とアラエルは爆発し、粉々に砕け散った。

 +  +  +  +  +

 レイの脳裏にも閃きが走った。

(そうか! 生物と生物の戦いなら!)

「内部へATフィールド収束! 異物を分解!」

ブワアアアアアアッ!!

 零号機の内部へ向かってATフィールドが一気に収束した。その瞬間、零号機と物理的に融合していたアルミサエルはマントラによって強化された「免疫反応」によって生化学的に分解されて零号機に吸収され、レイのミミズ腫れも消滅した。

「カプセル分離! 自爆!」

ドオオオオオオオオオオオオオオオンンンッ!!!

 レイの乗ったカプセルは分離されて外へ飛び出した。その直後に零号機は自爆し、アルミサエルも共にバラバラになって消滅した。

 +  +  +  +  +

「アスラ!! すまんっ!! 堪忍してくれっ!!」

 マサキのカプセルから発射されたマントラレーザーはATフィールドを通過してアスラの反重力エンジンを直撃した。

ドオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンッ!!!!!!

 アスラは激しく爆発し、サキエルのコアを破壊した。

「グワアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 コアを爆破されたサキエルは断末魔の叫び声を上げながらその場に崩れ落ちて動かなくなった。

 +  +  +  +  +

ブオオオッ!!
ブオオオッ!!

 風を切ってナーガとヤキシャは2体のイスラフェルのコアめがけて突進した。2体のイスラフェルは即座にATフィールドを張る。タカシは叫んだ。

「光線剣! 最大に延ばせ!」

 ナーガとヤキシャはATフィールドによって突入を阻まれたが、長く延びた2本の光線剣がフィールドを通過し、2つのコアを同時に刺し貫いた。

ドオオオオオオオオオオンッ!!
ドオオオオオオオオオオンッ!!

 2つのコアは破裂し、2体のイスラフェルはその場に倒れて動かなくなった。

「よっしゃあ! ありがとう! ナーガ! ドッキングするとよ!」

 +  +  +  +  +

「堪忍してや! レーザー発射!!!」

 キナラの発射したレーザーはマホラーガを直撃した。

ドオオオオオオオオオオンンンンンッ!!!!

 マトリエルの眼が爆発で焼け爛れ、体は更に傾いた。サリナが叫ぶ。

「とどめや! 光線剣!」

 キナラは光線剣を伸ばして突入し、焼け爛れた眼に突き立てた。

グシャアアアアアッ!!

 マトリエルは崩れ落ちて動かなくなった。

 +  +  +  +  +

 初号機のモニタに映ったゲンドウは血だらけになっていた。

『シンジ……、お前に私を殺す資格があるのか……。お前も、…サード・インパクトに…荷担…したんだ…ぞ……』

「そうだ! その通りだ! くやんでもくやみきれないよ! あの時、わけがわからないまま、『みんな死んじゃえ』なんて言った僕が悪いんだ! だけど、僕は父さんとちがう! その罪を一生せおって生きる! どんなつぐないでもする! それがあんたとのちがいだ! ……父さん! これが最初で最後の親孝行だ! 僕が父さんの罪をつぐなってやる!」

『シ、シンジ……! 待て……、待ってくれ……』

「これでおわりだ! 地獄へ落ちろおおおおおっ!!!」

「ウオオオオオオオオオオオオンンンンッ!!!」

 初号機は凄まじい雄叫びを上げて長剣を抜き、全身全霊を込めてコアに再度突き立てた。

ドスウウウウウウウウッ!!

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 ゼルエルは断末魔の悲鳴を上げて活動を停止し、同時にモニタに映ったゲンドウも消えた。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'祈り(Ver.4b) ' composed by VIA MEDIA

原初の光 第三十四話・復讐
原初の光 第三十六話・打破
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