第一部・原初の光
サトシ達六人は格納庫に到着し、全員操縦カプセルに搭乗した。リーダー格のマサキが叫ぶ。
「由美子さんっ! 全員出撃準備完了ですっ! 指示を待ちますっ!」
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第三十二話・貫徹
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由美子は苦悩していた。幾ら個人的な怨恨があったとは言え、まさかこんな状況下にこんな形で伊集院が自殺を図るとは考えもしなかったからである。しかしこうなった以上、現時点では、パイロットに無用の混乱を起こさせないために、伊集院の事は取り敢えず伏せ、自分が全指揮を執る以外にはないと考えた。
「オクタ全機! そのまま待機! 指示を待って!」
その時、ウインドウの中で祇園寺と対峙していた伊集院が横向きのまま、
『中畑君』
「は…、はいっ!」
『勝手な事をしてすまない。後は全て任せる。君なら大丈夫だ。幸運を祈る』
「は、はいっ! 了解しましたっ!!!」
伊集院は、不敵な笑みを浮かべ、
『……さて、と、祇園寺、私はこの時をずっと待っていた。……言わば、自分の死に場所を探していたんだからな……。貴様に殺された多くの人間達の怨み、私が今ここで晴らしてやる』
そう言うと、伊集院はまるで剣を持つような形に両手を握り、
『オーム・フリーヒ・ガハ・フーム・スヴァーハ……』
と、聖天のマントラを唱えた。すると驚いた事に、握り締めた伊集院の手の中から銀色の光の棒が延びたではないか。それを見た岩城は顔色を変えた。聖天は元々は邪神で、天部の中でも最も強力かつ恐ろしい神である。そんな神のパワーを異次元空間で開放したら何が起こるか判らない。
そう思った岩城は、
「本部長! そのマントラは聖天のっ!!! 危険過ぎますっ!!」
しかし、伊集院は祇園寺の方を向いたまま、
『岩城先生、今の私にはもうこれしかないのです……』
と、悲しげな声で言った後、改めて祇園寺を睨み付け、
『……祇園寺、抜け。この場ではどうせ小細工は通用しまい。念力と念力で勝負だ』
『ふんっ! 返り討ちにしてくれるわ』
そう言いながら祇園寺が構えると、同じように黒い棒が延びた。
『行くぞ! 祇園寺! うわああああああっ!!!』
伊集院は叫びながら祇園寺に斬りかかって行った。
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自衛隊統幕本部司令室は混乱を続けていた。幹部二人が悲痛な叫びを上げる。
「どうなってるんだっ!? なぜ急にやられ出したっ!? 現場の士気はあれほど上がっていたのにっ!!」
「始めに余りに簡単に敵を殲滅し続けたのが裏目に出たんだ! 各部隊は気分が高揚し過ぎて、相手を舐め切ってたんだっ! そこを逆襲されて、やられ続けた結果、反動で一気に士気が低下してしまったんだっ!」
「しかし、それぐらいの事でなぜここまでやられるんだっ!」
「医療部から連絡が入りましたっ! 負傷して担ぎ込まれた隊員に明らかに麻薬の中毒症状が出ているそうですっ! 医療部の話では、初期の怪物の『蒸発した体液』が麻薬と同じ効果を持っていたと言う事ですっ!」
「何だとっ!! 最初から嵌められていたのかっ!!! くそっ!!」
「連絡が入りましたっ! 舞鶴の海自の護衛艦に海中から出現した『半魚人』が乗り込んで次々と乗組員を襲っていますっ!! 空自の戦闘機も『悪魔』によって多数撃墜されていますっ!!」
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世界中の軍隊はマーラの体液による隊員の『麻薬中毒』と、続々出現するマーラの大群の攻勢の前に混乱を極めていた。特に人口密集地に多くのマーラが出現したため、一般人の被害も拡大する一方であった。
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ジェネシス中央制御室のメインモニタの中では伊集院と祇園寺の斬り合いが続いていた。戦いは互角で双方とも激しく切り結んでいたのである。実は開始から1分と経っていなかったのだが、モニタを見詰める人々にはそれが無限の時間のように思えた。
「本部長!!!」
由美子がモニタを見詰めながら思わず叫んだ。それを聞いた祇園寺は、
『雑音がうるさい。ウインドウを閉じて二人だけで勝負だ』
『望む所だ』
伊集院がそう言った直後、ウィンドウは閉じてしまった。
「ウインドウが閉じたぞっ! 復帰させろっ!!」
松下の叫びに、真由美が、
「だめですっ!! 映像信号に暗号がかかっていて復元出来ません!!」
中之島が怒鳴る。
「オモイカネに解読させろ! 急げ!」
しかし由美子はまたもやモニタに向かって、
「本部長!!!」
そこに山之内が歩み寄り、
「中畑! しっかりしろ!」
その怒鳴り声に、由美子ははっとなり、
「山之内君!」
「今はこっちでやる事がある! 辛いだろうがこっちの仕事に専念するんだ!」
「……わかったわ! 木原部長! 本部長の遺体をお願いしますっ!」
美由紀は、暗い表顔ながらも、しっかりとした口調で、
「了解よ。後は任せて。……医療部、中央に担架を持って来て! 白いシーツもね。急いで!」
由美子は軽く頷くと、ミサトの方に向かい、
「ミサト! あんたはエヴァンゲリオンの事には詳しいでしょ! どうやって動かすの!? これだけ敵の数が多いと、オクタだけでは足りないわ! エヴァンゲリオンも使うわ!」
「エントリープラグにパイロットを乗せてエヴァに格納するんだけど、ここにあるの!?」
「そんなものないわ! ……博士! 倉庫に出現したエヴァンゲリオンはどうやって動かすんですか?!」
「あれは神の意思を受けてオモイカネが作ったエヴァンゲリオンぢゃ。『魔界と現実界の融合』と言う現象を逆手に取ってな。……オモイカネに判断させよう。……データを入れてぢゃ、……よし、これでどうぢゃ」
”データ不足”
「何ぢゃこれは!? そうか! オモイカネにはオクタのモデルとしてのエヴァのデータしか入っておらなんだわ!!」
「どうするんです!」
苦り切った表情の由美子が叫んだ時、加藤由美が振り返って、
「4体のマーラ、いえ、使徒のコースが判明しました! 周囲には目もくれず4体全てがゆっくりと京都市中心部を目指して進んでいます! オモイカネの予想では、約30分後に千本丸太町付近で4体が合流しますっ!」
それを聞いた岩城は、
「何だって! 『龍穴』のある所だ! そうか! 龍穴の場所に魔界の穴を現出させようと言うのか!」
由美子は驚き、
「先生! りゅうけつ、とは何です!?」
「龍の穴、と書き、風水で言う『地のエネルギー』の集合場所です。昔、平安京の大極殿のあった所なんです。……迂闊だった。あそこなら魔界の穴を現出させられると言う訳か……」
その時中之島が、
「そうぢゃ!! 岩城、お前にやった『新世紀エヴァンゲリオン』の動画ファイルはどこにある?!!」
「えっ!? あんなもの、どうするんです?!」
「あの中には儂が独自に研究したエヴァンゲリオンのデータと、元の話が気に入らんから作り直したシナリオのファイルが暗号化して隠してある! それをオモイカネに読ませるのぢゃ!」
「えっ! そうだったんですか! 確かあのメモリカード……、ああっ! 沢田君に貸したままだ!」
由美子はインカムを掴み、怒鳴った。
「サトシ君!! 聞こえるっ!? 岩城先生から借りたメモリカードはどこにあるのっ!?」
『僕の部屋の机の上ですっ!』
「ええっ!?」
由美子は顔色を変えたが、すぐに唇を噛み締め、
「……取りに行くしかないか……」
それを聞いた松下は、
「しかし中畑君! 地上はマーラで一杯だぞ! どうやって取りに行くんだっ!」
由美子は力強く言い放った。
「私が行きます」
松下は血相を変え、
「いかん! いま君はここの指揮官だ! 君にもしもの事があったらどうするんだ!」
しかし由美子は断固とした口調で、
「ならば私は今ここで戦術主任も指揮官も辞任します!!」
「何だと!! 馬鹿な事を言うな!!」
「私は人に、『死んで来い』とは絶対に言えません!! その意味で指揮官としての資格も能力もない事は充分自覚しております!! 自分の最後のケジメは自分で付けます!!」
「中畑君!! 何を言うんだ!!」
松下は青筋を立てて怒鳴ったが、由美子は表情を変えなかった。その時岩城が、
「博士! 博士の研究所のサーバには入っていないんですかっ!?」
「バカを言うな! あんな遊びのデータは儂の娯楽用パソコンには入れてあるが、流石に研究用のサーバには入れておらんわ!!」
「そ、そうですよね……。そうだ! じゃ、操縦カプセルだけ飛ばして取りに行けばどうです?!」
しかし、由美子は、
「この状態でカプセルだけ飛ばすのは、小型マーラを無用に刺激することにもなりかねません! おまけに空を飛ぶ奴も出て来ています! ……末川さん! 飛行するマーラの状況は?!」
「本部上空にも多数飛行していますっ!!」
由美子は、軽く頷いた後、
「本部付近での本格的空中戦は絶対に避けるべきです! 人が地上をウロウロするだけなら刺激する事は最小限度ですみます! 幸いにしてオクタも『神』の力を得ました! 最早私如きの指揮などなくても大丈夫です!! 絶対に私が行きます!!」
「中畑君……」
余りに激しい由美子の口調に、松下も、他のスタッフも沈黙するしかなかった。
(これでいいのよ。……これで。……所詮私は人に「死ね」とは言えない人間なんだもの……)
由美子としてもこの自分の行動が無茶である事は百も承知だった。伊集院亡き今、彼女はここの指揮官である。本来なら自分が行くべきでないの当然の事だ。しかし今の彼女は、どうしても他人にメモリカードの回収を命じる事は出来なかった。
マハカーラで家族の全てを亡くしたと言う心の傷を持ち、おまけに人一倍涙もろい。指揮官としては失格だと思いながらも、どうしても他人に「死んで来い」とは言えない。それを命ずるぐらいなら自分が死んだ方がマシだと考える性格である。
事実、サトシ達が戦闘で危険な目に遭った後は、何時も後悔の念で泣きそうになった。こんな事では戦術主任など出来ないと思いながらも今まで何とかやって来たが、今度と言う今度ばかりは、どうしても自分が行かなければ、と言う気持ちを抑える事は出来なかった。「私はもう泣かない。泣きたくない。今回ばかりは自分が体を張って行動しなければ申し訳ない」と言う気持ちしかなかったのである。
更に現在はオクタヘドロンも「神」と同一化している。事がここまで来れば、例え自分が死んだとしても、後は松下や岩城に任せて大丈夫だろうと言う計算もあった。「指揮官としての責任を全うする」よりも、体を張る事で「三流戦術主任」としての自分の「ケジメ」を付ける方を選んだのだ。
しばしの沈黙の後、ミサトが口を開いた。
「……私も行くわよ。……由美子、あんたは指揮官としては失格かも知れないけど、私よりもずっと強い人間よ。……だって、あんたには、自分の弱さをはっきり認める勇気があるんだもの……」
それを聞いた由美子は苦笑し、
「流石は私の『兄弟』ね。……ミサト、わかってくれてうれしいわ……」
その時だった。じっと黙っていたシンジが叫んだ。
「ミサトさん!! 僕も行きます!」
続いて、アスカとレイも、
「あたしも行きます!」
「わたしも!」
しかしミサトは、
「だめ! あなた達はここで待っていなさい! 命令よ!」
シンジは悲しそうに、
「でも……」
「あなた達にはエヴァに乗って貰らわないとだめなのよ! ここにいなさい!」
「はい……」
「はい……」
「はい……」
三人が納得したのを見た由美子は、
「決まりね。ミサト、付き合って貰うわよ」
「モチよ。武器は?」
「壁際の武器庫に自動小銃があるわ。使えるわね」
「オッケー。任せといて」
「この無線機持って。……じゃ、行くわよ! 松下先生、岩城先生、後をお願いします。もし私達が戻って来られなかったら、使徒が結集する直前にオクタを全機出撃させて下さい。戦術も全て御任せします!」
松下と岩城は頷いた。
「判った。気を付けてな」
「引き受けました。幸運を」
由美子とミサトは自動小銃を持ち、早足で出て行った。
+ + + + +
中央制御室に再び慌ただしさが戻った中、中之島が口を開いた。
「松下、碇君達三人には操縦カプセルに乗って貰えるぢゃろか」
「脳神経スキャンインタフェースと音声モードを使えば動かせると思いますが」
「万が一メモリカードが手に入らん時に備えてここで再計算をするのぢゃ。上手く行けばカプセルをエントリープラグの代わりに使えるかも知れん。後は起動法ぢゃな。手伝え」
「はい」
+ + + + +
「ミサトさん……」
「ミサト……」
「……………」
中央制御室のスタッフが動き回る中、シンジ達三人は部屋の片隅で椅子に座り、ミサトの事を案じながら不安そうにモニタを見詰めていた。そのため、山之内と加持が何時の間にか姿を消している事には気付かなかった。
+ + + + +
由美子とミサトは地上一階にやって来た。シャッターの所には保安員が数名いて監視モニタを不安そうに見ていた。
「どう、状況は?」
「あっ、中畑主任!? ええっ、二人!? どう言う事です!?」
「今詳しく説明しているヒマはないけど、この人は葛城ミサト。私の義兄弟みたいなものよ。……外はマーラで一杯?」
「御覧の通りマーラがウヨウヨしています。今の所、このシャッターを破る事は出来ないようで、外で人間の出て来るのを待っているようです」
「まさに、『飛んで火に入る夏の虫』ね。でも仕方ないわ。ミサト、行くわよ」
「ええっ! 出るんですか!? なぜです!?」
「どうしても住宅棟へ取りに行かなきゃならないものがあるのよ。内側のシャッターを開けて、私達が出たらすぐ閉めて。それから私の合図で外のシャッターを開けてちょうだい」
「了解しました! お気を付けて!」
内側のシャッターを開けて、由美子とミサトは外へ出た。
「ミサト、準備いいわね」
「オッケーよ。由美子」
「じゃ、行くわよ。シャッター開けて!!」
ダダダダダダダダダダタッ!!!!
ダダダダダダダダダダタッ!!!!
「うわああああああっ!!!」
「うおおおおおおおっ!!!」
「ギャアアアアアアアアッ!!」
「グゥェェェェェェェェェェェッ!!」
不意を衝かれたマーラの一団は血飛沫を上げながら倒れた。銃声に気付いた他のマーラが遠くから走って来る。由美子は叫んだ。
「走ってっ!!!!」
二人は住宅棟めがけて走り出した。
+ + + + +
由美子とミサトはマーラの目を躱すために建物や植木の陰を通りながら住宅棟に辿り着いた。
「ここの5階の502号室よ。いいわねミサト」
「了解よ」
「行くわよ!」
二人はドアを開けて中を見た。取り敢えずそこにはマーラはいない。
「階段はこっちよ」
二人は階段への通路を急いだ。その時だった。
「グエエエエエエッ!!」
いきなり前方のT字路から直立歩行する巨大なワニのようなマーラが姿を現した。
ダダダダダダッ!!
「グワアアアアアアアッ!!」
由美子の小銃が火を噴いた。しかし固い鎧のような皮膚は容易に銃弾を受け付けない。一部は肉に食い込むのだが、多くは跳ね返されてしまう。マーラは由美子に襲い掛かって来た。
「よけてっ!」
ミサトは咄嗟に体勢を低くしてマーラの喉をめがけて小銃を撃った。
ダダダダダダッ!!
「グワアアアアアアアッ!!」
喉の柔らかい部分に銃弾が食い込み、マーラは怯んだ。由美子は体勢を立て直して同じ場所めがけて銃撃した。
「グェェェェェェェェェェッ!!!!!」
断末魔の悲鳴を上げてマーラは倒れた。
「助かったわ。ありがと」
「行きましょ!」
二人は再び駆け足で走り出した。
+ + + + +
サトシはカプセル内のスクリーンモニタを見ながらじりじりしていた。迫り来る使徒の事も気になるが、由美子の事が心配でならない。モニタに映るのは必要な情報だけであり、由美子が映る訳もないのだが、どうしてもモニタを見詰めてしまう。
(由美子さん……。頑張って下さい。……死なないで下さい)
+ + + + +
シンジはメインモニタを見ながら不安と懸命に戦っていた。しかもかつて自分達が戦った使徒が迫って来ているのだ。しかし今のシンジはミサトの帰りを待つしかなかった。隣りのアスカとレイをそっと見ると、二人も真剣にモニタを見詰めている。その時、シンジの視線に気付いたアスカが、
「シンジ、どうしたの?」
「いや、……正直言って不安なんだ。……で、アスカや綾波はだいじょうぶかな、って、思ってね……」
「心配してくれてありがと……。あたしもこわいわ。……でも、ここまで来たらやるしかないわよ。……でも、まさかこの世界に使徒があらわれるなんて……。おまけにエヴァまで、でしょ……。ファースト、あんたはだいじょうぶ? 前とちがって人間っぽくなったから、こわくない?」
「……正直言ってこわいわ。……でも、わたしは一度死んだ身だもの。もう一度人生をやりなおせるチャンスにかけるだけよ」
「わかった。……がんばろうね。……レイ」
「ありがと。……はじめて名前をよんでくれたわね。アスカ」
「うん。……あんたも異次元であたしのことを名前でよんでくれたからね。おかえしよ」
その時、シンジが、
「綾波……」
「なに? シンジくん」
「綾波、僕のことも名前でよんでくれてるんだ……。異次元で会った時は意識してなかったけど、その時もそうよんでくれてたんだよね……」
「うん。……そうよびたくなったの」
「ありがと。……でも、僕は、レイ、ってよぶの、てれくさいな……」
「うふっ。綾波、でいいわよ……」
二人の様子を見たアスカが、くすっと笑い、
「あーらシンジ、あたしのことはアスカ、ってよぶくせに、どうしたの。ふふっ」
「え、……いや、その……」
シンジは少し赤面した。張り詰めた三人の心にほんの少し余裕が生まれた。
+ + + + +
由美子とミサトは階段を駆け登って四階までやって来た。その時だった。
「グワアアアアアアアアアッ!!」
「グワアアアアアアアアアッ!!」
「ギャオオオオオオオッ!!」
不意に横からマーラが姿を現した。鵺が2体と毛むくじゃらの鬼が1体だ。
ダダダダダダダダダッ!!!
ダダダダダダダダダッ!!!
二人は銃を乱射した。しかしマーラは周囲に光の幕を張り、銃弾を跳ね返す。由美子は思わず叫んだ。
「サイコバリヤー!!??」
「下がって!」
二人は咄嗟に廊下を退却し、横の通路を一瞥して安全を確認すると物陰に身を潜めた。由美子は軽く舌打ちをし、
「まずいわね……。サイコバリヤーを張るマーラには銃は使えないわ」
「ATフィールドみたいなものね。……どうする?」
「この通路の奥に非常階段があるわ。そこへ迂回しましょう」
+ + + + +
コンソールに向かって計算を続けていた中之島が大きく頷いた。
「計算結果が出たぞ。カプセルを操縦席として使えそうぢゃ。問題はどうやってドッキングさせるかぢゃが……。オクタみたいに背中に埋め込めんかの」
松下も画面を見ながら、
「オモイカネにデータを与えて背中を陥没させられませんかね」
「何とかやってみるか……。それから、動かすエネルギーぢゃが、カプセルの反重力エンジンを全開にすれば何とかなるぢゃろ」
「しかし、あれだけ大きな物を飛ばす事は出来ませんよ。動かすだけで精一杯です」
「エヴァンゲリオンは基本的に自分の生体エネルギーで動く筈ぢゃ。マーラの体を再構成したのぢゃから問題なかろう。必要なのは制御電源だけぢゃ。後は、反重力システムをどう使うかぢゃが……。質量・慣性中和システムのみに振るべきぢゃな。飛ばす事は最初から考えない方がよかろう」
「運動性能に全てをかけますか」
「うむ、そうすべきぢゃ。しかし、このままではまだ動かん。神経接続のシステムはメモリカード待ちぢゃな」
「やっぱり必要ですか……」
「うむ、ここだけで何とかなるかとも思ったのぢゃが、やはり無理ぢゃった」
「もし、回収出来なかったとしたら……」
一瞬の沈黙の後、中之島は、
「……カプセルをドッキングだけさせて、後は、マントラを唱えるぐらいしかなかろうな……」
+ + + + +
由美子とミサトは非常階段へ迂回して5階までやって来た。由美子がドアをそっと開けて中を窺う。
「……大丈夫なようね。入るわよ」
二人は非常階段から中に入り、通路を進んだ。
「この前のT字路を右に曲がったらすぐよ」
由美子がそう言い、二人がまさにT字路に差し掛かったその時だった。
「グワアアアアアアアアアッ!!」
「グワアアアアアアアアアッ!!」
「ギャオオオオオオオッ!!」
鵺が2体と毛むくじゃらの鬼が1体、またもやその姿を現した。
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'祈り(Ver.4b) ' composed by VIA MEDIA
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