第一部・原初の光




(あかん!…… 見えへんぞ!)

 マサキも同じく中心部に意識を集中したが、彼には何も見えない。

「あきまへん! 僕には見えまへん!」

 +  +  +  +  +

(だめだ……。僕には見えない……)

 サトシも意識を集中してみたが何も見えなかった。しかし、不快感がしなかっただけ儲け物と言ったところだろうか。

「こちら沢田! なにも見えません!」

 +  +  +  +  +

第二十九話・認識

 +  +  +  +  +

 由美子はインカムに、

「タカシ君! サリナちゃん! アキコちゃんはどう?!」

『ウチもだめです!』

『僕も見えんとです!』

『わたしも見えません!』

 サリナとタカシとアキコも認識には至らないようである。

「わかったわ! じゃ、とにかくそのまま監視を続けて!」

『北原了解!』
『橋渡了解!』
『四条了解!』
『玉置了解!』
『沢田了解!』
『形代了解!』

(リョウコちゃんだけか……。どうしたらいいんだろう……)

 由美子もどうしたらいいか判らない。その時松下が、

「中畑君! 今の内だ! マホラーガのコンピュータには新しいプログラムがロードされている。先発隊4機をマホラーガに順に接触させてプログラムを読み取らせろ! 機体を接触させれば交信出来る!」

「みんな聞いた!? サトシくんとアキコちゃん以外の4機は順番にプログラムを読み取って! その後は各機ともドッキングしたままにしておくのよ! ノイズが酷いから遠隔操作は出来ないわ!」

 そこへ自衛隊の無線が飛び込んで来た。

『こちら陸自654。只今よりウルトラテルミットによる爆撃を開始する。各機安全圏を確保しろ!』

 +  +  +  +  +

「投下!」

 編隊長の合図で自衛隊機はウルトラテルミット弾を投下する。

ヒュウウーーーーーーーーーーーーッ

ドオオーーーーーーーーーーーンッ!!!

 テルミット弾は一気に爆発し、周囲は炎に包まれた。付近は髪の毛が焦げるような凄まじい悪臭に包まれ、煙がもうもうと巻き上がる。

「やったか!?」

 次の瞬間、自衛隊員達は信じられない光景を目の当たりにした。煙の中から無数の「黒い虫」が飛び出し、猛スピードで一斉に自衛隊機めがけて襲い掛かって来たのだ。虫は反重力フィールドに焼かれながらもしつこく機体めがけて突進し、黒い粘液を付着させ始めた。

「な、何だ!!??」

 6機のヘリは瞬く間に黒い固まりとなり、完全に視界を失った。幸いにして、全機反重力エンジンを搭載していたために、取り敢えず浮上を続ける事は出来たが、全く身動きがつかない状態である。

「くそっ! 何も見えんぞ! 全機状況を報告しろ?!」

『こちら652! 視界ゼロです!』
『こちら651! 当機も視界ゼロ!』
『653も視界ゼロです!』
『こちら656! 何も見えません!』
『こちら657! 当機も視界ゼロです!』

「司令部! こちら陸自654! 作戦続行不可能! 全機退却する! 誘導頼む!」

『こちら司令部! 間もなく応援機が到着する! その指示に従え!』

 +  +  +  +  +

 先発隊4機のプログラム読み取りが終わった後、サトシ達は上空から様子を見ていたが、煙が晴れるにつれて明らかになった下の状況を見て戦慄した。驚いた事に、周囲の樹木は炎上して煙を上げており、宝池とその周辺には「虫の死骸と思しき黒い物」が大量に散らばっていたが、巨大な群体は殆ど大きさを変えていないのだ。おまけに小さな黒い固まりは一層ペースを上げて散開している。

(どうしたらいいんだ……)

 サトシは不安感で一杯だった。

 +  +  +  +  +

 小さな固まりになって分散したバグマーラは京都市内各地に飛散して行った。そして動物を見つけると手当たり次第に襲い掛かって食い尽くすのである。各地に白骨化した動物の死体が散乱し、その数を増して行く。そして、その様子が伝わるに連れてシェルター内の人々の恐怖を一層煽るのであった。

「うわあああん! おねえちゃああん! こわいよお!」

「だいじょうぶやさかい。泣かんとき。だいじょうぶやさかいな」

 シェルターに避難したひなたは、懸命の思いで弟や妹を元気付けていた。幾ら長女だと言っても、彼女もまだ十六歳の少女である。自分の不安と戦うだけで精一杯の筈だったが、健気にも勇気を振り絞っていた。

 ひなたもオクタヘドロンが7機出動したのを知っている。マサキは当然としても、不安定な状態にあるアキコまで出撃している事は容易に判った。それが彼女の心を一層重くさせている。

(マサキくん、がんばってや! アキコちゃん、絶対に死んだらあかんよ!)

 +  +  +  +  +

『こちら陸自741。全機誘導に従え』

「こちら654。了解した。誘導頼む」

 応援機が到着したので、陸自の6機が、退却すべく移動を開始した時だった。

「うわわああああああっ! 何だあああっ!」

 マーラの体液を浴びた6機のヘリが突然異常振動を起こしたかと思う間もなく、一斉に空中分解したのである。マーラの体液で金属が侵されていたのだ。

「うわああああああっ!」

 ヘリのパイロット達は緊急脱出装置を作動させる。しかし、その次に待っていたのは地獄絵図だった。

「ぎゃああああああああああああっ!」

 降下するパイロット達にバグマーラが一斉に襲い掛かる。彼等は見る間に黒い固まりとなり、地上に到達する前に全て白骨と化してしまった。更に、一部は誘導機にも襲い掛かり、

『こちら陸自741! 先発隊は全機やられた! 繰り返す!! 先発隊は……うわああああっ!』

ドオオオオオオオオーーーーーーーーンッ!!!

 不幸にも反重力エンジンを搭載していなかった陸自741は、エンジンに大量のバグマーラを吸い込んで爆発した。

 +  +  +  +  +

「自衛隊機がやられた! オクタは大丈夫か!!?? 自己診断ではどうなっている!?」

 伊集院が思わず叫んだ時、メインモニタにウィンドウが開き、

”現在ノ状況ヲ鑑ミレバ、自衛隊機ヲ分解セシメシモノハマーラノ体液ナリ。強酸性ノ液体ト推測サルルガ故、本体ガセラミックデ構成サレシオクタヘドロンハ一応無事ト思ハルル。自己診断デモ現在ハ異状ナシ”

「そうか……。しかしこのままでは身動きがつかんぞ……」

 +  +  +  +  +

「!!!!……」

 自衛隊機の様子を見ていたサトシは恐怖の余り声も出なかった。まさに一瞬の出来事だったので手の打ちようもなかったのである。

(どうしたらいいんだ……。なんとかしないと……。でも、どうしたらいいんだ……)

 サトシは必死に恐怖と戦っていた。

 +  +  +  +  +

 その時、モニタを見ていた由美子は決断した。

「本部長! もうこうなったらマーラの本体に直接攻撃を仕掛ける以外にありません! 本体の位置を認識出来るのは北原だけです! 彼女にヤキシャを誘導させて本体を攻撃させます! ヤキシャが本体を補足したら、そこを目標にして他機による追撃を行います!」

「しかしノイズはどうなんだ! 遠隔操作が出来るのか!? 末川君! ノイズのレベルは?!」

「現在のノイズレベルでは遠隔誘導は不可能です! カプセル分離時は自動モードで動かすしかありません!」

「くっ……。これもだめか……」

と、由美子が吐き捨てた直後、

『こちら北原! 中畑主任、行かせて下さい!』

「でもどうするの!? 遠隔操作は使えないわよ! 自動モードではオクタは相手の正確な位置を認識出来ないわ!」

『ドッキングしたまま攻撃するしかありません! 突入時に反重力フィールドを赤外線兵器モードにセットし、相手を焼きながら群体内部に侵入します! 後は本体を光線剣とマントラウェーブで攻撃します!』

「だめよ! 赤外線兵器モードにセットしたら、もし何か他の攻撃があった場合、オクタ自身の防御能力が落ちているから安全が保証出来ないのよ! ドッキングしたままの突入は許可出来ないわ!」

『でもほかに方法がありません! このマーラは今までと違います! このまま放置はできません! やらせて下さい!』

 その時松下が、

「中畑君! ぎりぎりまでドッキングしておいて本体の位置を特定しておき、突入直前に自動モードにして分離させたらどうだ! 敵の本体もそれほど激しく動ける訳ではあるまい!」

「それで行きましょう! リョウコちゃん! わかった?! とにかくその方法でやってみて!」

『了解しました! 攻撃開始します!』

 +  +  +  +  +

「ヤキシャ! 敵の直上から侵入します!」

 リョウコの叫びに呼応し、ヤキシャはマーラの真上に移動する。

「攻撃開始!」

 ヤキシャは頭を下にし、降下を始めた。倒立姿勢のまま凄まじいスピードでマーラに向かって落下して行く。

(はっ!? これは!?)

 突入直前、突然リョウコの脳裏に、

(分離したら逃げられてしまう!!)

「このまま突入!!」

 リョウコは無我夢中で叫んでいた。

 +  +  +  +  +

「北原!!! 分離しろっ!!」

 無線に入ってきたリョウコの声を聞いたサトシは叫んでいた。

 +  +  +  +  +

「カプセル強制分離してっ!!」

「だめですっ!! 強制分離を受け付けませんっ!!」

 由美子と真由美の悲痛な叫びが中央制御室に響き渡る。

 +  +  +  +  +

「突入!!!」

 リョウコがそう叫ぶか叫ばないかの内にヤキシャはマーラに突入した。

バスウウウウウッ!!!!!

 +  +  +  +  +

「リョウコちゃんっ!! 返事をしてっ!! リョウコちゃんっ!!」

「通信が途切れましたっ!!」

 +  +  +  +  +

「北原あああっ!!! 返事しろおおっ!!」

 サトシが声を限りに叫んだ時だった。

(ああっ!! 見える!!!!)

 脳裏に青い光が閃いたかと思った直後、マーラ内部の様子がはっきりと頭に浮かんだのである。意外な事にマーラ内部は空洞であり、その中に本体らしき物がある。驚いた事に、その本体から無数の触手のような物が伸びてヤキシャに絡み付いているのだ。ヤキシャは何とか離れようともがいている。

(北原っ!!!)

 サトシは無我夢中で叫んでいた。

「中が見えますっ!! ヤキシャを助けに行きますっ!!」

 +  +  +  +  +

(見える!!!!)

 アキコも同時にマーラの内部を透視していた。ヤキシャの窮状もはっきり判る。

(北原さん!! 助けに行くけんね!!)

「わたしにも見えました! 助けに行かせて下さい!」

 +  +  +  +  +

「サトシ君! どう言う事なのっ!? 中が見えたのっ!?」

『はいっ! 中は空洞なんですっ! ヤキシャはマーラに捕まっていますっ! 助けに行かせて下さいっ!!』

『わたしも行かせてくださいっ!!』

 サトシもアキコも決心は固そうである。止めても聞かないだろう、と由美子は思った。

「わかったわ! 許可します! でも、突入後5分経ったら自動モードに切り換わるようにセットしておくのよ! 中に入ったら通信が出来ないから!」

『了解しました!』
『了解しました!』

「充分注意するのよっ!」

 由美子は全ての責任を取る覚悟を決めていた。

 +  +  +  +  +
 +  +  +  +  +

「あああっ!! またかっ!?」

 カードを凝視し続けていたシンジの目前に再び青い光の球が出現した。

「今度はなんだっ!? 黒い球っ?!」

 +  +  +  +  +

「まただわっ!!!」

 アスカの前にも突然映像が浮かび始めた。

「なにこれーっ!! 黒い虫のかたまりなのっ!? きもちわるいーーっ!!」

 +  +  +  +  +

「!!!!!!」

 色々悩んだ後、再び祈り続けていたレイの目前にも映像が現れた。

「サトシくん!!」

 +  +  +  +  +
 +  +  +  +  +

「自動モードタイマーセット! ガルーダ、突入します!」

『同じくタイマーセット! ガンダルヴァ、突入します!』

「行けえええええっ!!!」
『行けえええええっ!!!』

 サトシとアキコは叫んだ。ガルーダとガンダルヴァは猛スピードでマーラに突進する。

「突入!」
『突入!』

 +  +  +  +  +

「うわあああああああっ!!」

 サトシが叫んだ時、ガルーダはマーラ内部に突入していた。横を見るとガンダルヴァも来ている。

「形代!! 大丈夫かっ!!」

『うん!! だいじょうぶじゃけん!!』

 中は思った通りの空洞で、真っ暗かと思ったらさにあらず、結構明るい。さっき見た映像の通り、小さな黒い球から細い無数の触手が伸びて、中央部にいるヤキシャに絡み付いていた。

「北原っ!! 大丈夫かっ!」

『沢田くんっ!! 早くこの本体を攻撃してっ!! この触手に捕まったらだめよっ! マントラウエーブを無効にされるわっ!!』

 リョウコが言い終わらない内に、マーラの本体はガルーダとガンダルヴァに向かって触手を伸ばして来た。

「形代!! 気をつけるんだっ!! 援護に回ってくれっ!」

『了解!! 光線剣作動! マントラウエーブ全開!』

「光線剣作動! マントラウエーブ全開!」

「クウェェェェーーーーッ!!」

 サトシが叫ぶとガルーダは雄叫びを上げて光線剣を伸ばし、マーラの触手を薙ぎ払った。ガンダルヴァも同じように触手を払っている。

「くそっ!! なかなか近づけないぞっ!!」

 触手に絡み付かれないように払いのけてはいるのだが、逆になかなか本体に近付けない。一進一退の攻防が続くだけである。その時、マーラの本体が嫌な色に光った。

「うわああっ!! これはっ!!」
『いやああああっ!! やめてええっ!!』

 サトシとアキコの脳裏に前回の時と同じ嫌な感情が湧き起こり、胃痛と嘔吐感が襲って来た。しかし、サトシもアキコも必死に耐える。

 +  +  +  +  +

「中が見えるっ!!」

 シンジの目前に現れた映像は、ガルーダとガンダルヴァがマーラに突入した途端、まるでカメラの視点が切り換わるようにマーラ内部を映し出した。

「すごい!! ……なんだこれは!!」

 +  +  +  +  +

「中が見えるわっ!!!」

 アスカの前に現れた映像もマーラ内部を映し出していた。

「なんてきもちわるいのよおおっ!!」

 +  +  +  +  +

「!!!! ……これ、内部なの!?」

 レイも、マーラ内部で展開されている戦いの映像に引きずり込まれていた。

「サトシくん!! 死なないで!!」

 いつしかレイは一心に祈っていた。

 +  +  +  +  +

「くそおおおおっ!! こんなとこでやられてたまるかああっ!! 形代! がんばれっ!!」
『負けられんけんっ!! わたしは負けられんのよっ!!!』

 その時、必死で苦痛と戦うサトシの脳裏に、

(そうだ!! マントラがだめでも!!)

「北原!! レーザーが使えるなら、本体をレーザーで撃て! マーラの気をそらしてくれ!!」

『了解!! レーザー発射!!』

 ヤキシャは眼からレーザーを発射する。

ブシュウウウウウウッ!!

 肉が焼けるような音がしてマーラの本体から煙が立ち上る。マーラは触手をヤキシャに集中させるべく動かした。

 その瞬間、不思議な事にサトシとアキコの苦痛が和らいだ。

「形代! 今だ!」
『了解!!』

「クウェェェェーーーーッ!!」
「ウォォォォーーーーーッ!!」

 ガルーダとガンダルヴァは叫び声を上げて光線剣を振り上げ、マーラ本体に突き立てた。

ブシュウウウウウウッ!!
ブシュウウウウウウッ!!

 +  +  +  +  +

「あいつら、大丈夫やろか……」

 マサキが不安感に囚われながら監視を続けていた時だった。

『こちら空自987。神経破壊パルスメーザーを使う。オクタ各機避難せよ』

 横を見ると各務原から来たと思われるF−23が2機飛行している。

「なんやてっ!!?? あいつらまだ中やぞっ!!」

 +  +  +  +  +

「こちらジェネシス!! 空自987! マーラ内部にオクタ3機が突入中! 攻撃は一時待機して下さい!」

 由美子は声を限りにインカムに怒鳴っていた。

 +  +  +  +  +

ブシュウウウウウウッ!!
ブシュウウウウウウッ!!

 本体を攻撃されたマーラは苦し紛れにガルーダとガンダルヴァに触手を絡み付かせて来た。その瞬間、スクリーンのウィンドウに、

”マントラウエーブシステム異常”

「なんだって!!!」

 サトシは愕然としたが、最早後には引けない。声を限りに、

「ガルーダがんばれっ!!!」

 +  +  +  +  +

「ガンダルヴァ!! がんばるのよっ!!」

 アキコも叫んでいた。

 +  +  +  +  +

「ああっ!!」

 伊集院は思わず叫んだ。

「見ろっ!! マーラがっ!!」

 バグマーラの群体が形を崩し始めている。まるで苦しんでいるようだ。

ブワアアアアアアッ!!!

 バグマーラは大きな振動音のような音を立てたと思う間もなく一気に散開し、中からマーラ本体の触手に絡み付かれた3機のオクタヘドロンが姿を現した。

「攻撃班! 応答してっ!!」

 由美子も叫んでいた。

 +  +  +  +  +

「うわああああああっ!!」

 タカシは驚きの余り叫んだ。散開したバグマーラが一斉に上空に飛んで来たのだ。周囲は真っ黒になり、完全に視界は失われた。

 +  +  +  +  +

「うわあああああっ!! 何だあああっ!!」

 散開したバグマーラの一部は自衛隊機にも襲い掛かった。2機の自衛隊機はエンジンに大量の「虫」を吸い込んで操縦不能となり、宝池に向かって急降下し始めた。

「うわああああああっ!!」

 2機の自衛隊機のパイロットは咄嗟に脱出用レバーを引いた。その時不幸な事に、1機の「神経破壊パルスレーザー」が誤動作し、宝池に向かって発射されてしまった。

 +  +  +  +  +

バシイイイイイイイイイイッ!!!!!!

 宝池上空で戦闘中だった3機のオクタヘドロンは、神経破壊パルスメーザーをモロに浴びてしまった。

 +  +  +  +  +

「うわあああああああああああっ!!!!」

 +  +  +  +  +

「きゃあああああああああっ!!!!」

 +  +  +  +  +

「きゃあああああああああっ!!!!」

 +  +  +  +  +

 脳神経スキャンインタフェースにパルスが侵入し、パイロット達の全身に激痛が走る。本来なら反重力フィールドが防御してくれる筈なのだが、赤外線兵器モードに切り換えていたため、パルスが直接侵入して来たのである。丁度巨大クラゲと戦った時と同じになってしまったのだ。

 サトシ達三人の意識は徐々に失われ、気が遠くなって行く。そして即座に3機のオクタヘドロンは自動モードに切り換わった。

 +  +  +  +  +

「自衛隊機が突っ込むわ! 残る4機は2機ずつになって自衛隊機の方向を変えて! パイロットは脱出したから破壊してもいいわ!」

『了解!』
『了解!』
『了解!』

 マサキはアスラの手をマホラーガの肩に置いてコマンドを送った後、一緒に飛び出して行った。

 タカシとサリナも一緒に飛び出した。

 +  +  +  +  +
 +  +  +  +  +

「あああああああっ!!!」

 シンジは思わず映像に向かって叫んでいた。

「なんとかしてくれえええっ!!」

 +  +  +  +  +

「きゃあああああっ!! なんとかしてよおおっ!!!」

 アスカも叫んでいた。

 +  +  +  +  +

「オーム! アヴァラハカッ!!」

 レイは思わず手を組んでマントラを唱えていた。

 +  +  +  +  +
 +  +  +  +  +

(くそおおおっ……、こんな……ことって……)

 薄れ行く意識の中、突然サトシの脳裏に、

(「オーム! アヴァラハカッ!!」)

(はっ!! 綾波っ?!)

 サトシは最後の力を振り絞り、

「負けて…たまる…かあっ!!!」

 サトシが叫んだ瞬間、またもや脳裏にはっきりとマントラの波動が響いた。

アヴァラハカッ!!


「クウェェェェーーーーッ!!」

 突如ガルーダが雄叫びを上げ、その全身は青い光に包まれた。そしてその光が周囲を明るく照らしたと思った瞬間、マーラの触手は力なく垂れ落ちて行った。

(やった…か……)

 触手が垂れ落ちて行くのを見ながらサトシの意識は完全に失われて行った。

 +  +  +  +  +
 +  +  +  +  +

「うわああああああああっ!!!」

 シンジは思わず眼を閉じた。ガルーダが光った瞬間、光球が眼も眩む程の明るさで輝いたのだ。

 そして、一瞬の後、恐る恐る眼を開いたシンジは、信じられない光景を眼にし、

「ああああああっ!!!!!!」

 思わず立ち上がって叫んでいた。

「アスカ!! 綾波!!!」

 何と、そこに立っていたのはアスカとレイだったのである。

「シンジ!!! ファーストもいるの!!!」

「シンジくん!! シンジくんなのね!! アスカも!!」

 三人は呆然と顔を見合わせた。

 +  +  +  +  +
 +  +  +  +  +

「うわああああああっ!! 食われるうっ!! ……あれっ!?」

 脱出した自衛隊機のパイロットは暫く座席のロケットで上昇していた。かなりの速度なのでバグマーラも追いついて来なかったのだが、パラシュートが開いて降下を始めた途端に「虫」が襲い掛かって来たのである。しかし、マーラ本体が倒された瞬間、虫は全て死んだようになって落下して行った。

「助かったのか……??」

 +  +  +  +  +

「こちら四条! 自衛隊機を捕捉しました! 破壊します!」

ドオオオオオーーーーーンッ!!

 アスラとマホラーガはレーザーを発射し、自衛隊機を1機撃墜した。

 +  +  +  +  +

「こちら橋渡! レーザー発射!」
『こちら玉置! レーザー発射!』

ドオオオオオーーーーーンッ!!

 ナーガとキナラもレーザーを発射して残る1機を撃墜した。

 +  +  +  +  +

 2機の自衛隊機は宝池付近の山に墜落し、最悪の事態は免れた。

 そして京都市内に散らばって行ったバグマーラの固まりも全て死滅した。

 +  +  +  +  +

「ノイズ消失! マーラは活動を停止したようです!!」

 真由美の叫びが中央制御室に響き渡る。伊集院も、

「やったか!!! すぐに救護班を出動させろ!!」

「サトシ君!! リョウコちゃん!! アキコちゃん!! 返事をして!!」

 もう耐えられない。由美子は泣きながらインカムに叫んでいた。

 +  +  +  +  +
 +  +  +  +  +

「アスカ!! 無事だったのか!! よかった!! ほんとによかった!!」

「シンジ!! ううっ……。よかった!! ぐすっ……。でも、どう言うことなの、これ!?」

「綾波!! どうしてここに?!」

「シンジくん! 無事だったのね! ううっ……、ほんとによかった……」

 その時、三人の周囲がこの上もなく美しいサファイアブルーの強い光に包まれた。

「あああっ!!」
「きゃあああっ!!」
「きゃあっ!!」

 三人は思わず眼を閉じたが、恐る恐る眼を開いてみた。そして、またもや信じられない光景を目の当たりにしたのである。

「あああああああっ!! 君たちは!!!!」

 シンジは思わず叫んだ。そこには自分達三人にそっくりな三人の男女が呆然と立っている。

 レイとアスカも、思わず、

「サトシくん!!」

「かたしろさん!!」

 サトシ、リョウコ、アキコの三人は言葉も出ないようである。

 その時だった。

 何と、六人の頭上から、

「原初の光より生まれし我がチルドレンよ。よくぞここへ来た」

「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」

 六人は驚きの余り、声を失った。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'たとえ、君を抱いても ' composed by QUINCY (QUINCY@po.icn.ne.jp)

原初の光 第二十八話・再起
原初の光 第三十話・転回
目次
メインページへ戻る