第一部・原初の光




(マーラだ!!!!!)

 サトシは愕然とした。既にプラットホームは逃げ出す人々の流れでパニック状態になり始めている。咄嗟に反対側のホームを見ると、アキコが人込みに紛れて呆然としているではないか。

「形代っ!!!! すぐ行くからそこを動くなっ!!!」

 サトシは無我夢中で声を限りに叫んでいた。

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 人込みを掻き分けながらサトシは全速力で走った。ホームへの階段を駆け上がると、丁度そこに蒼白な顔をしたアキコがいる。

「シェルターへ行こう!!」

 サトシはアキコの左手を掴むとシェルターに急いだ。

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第二十八話・再起

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 ジェネシス中央制御室は騒然としていた。よりによってまともに飛べるパイロットが三人しかいない状態でマーラが出現したのだ。由美子の苦悩は並大抵の物ではなかった。

「本部長はすぐ来るわ! それまで私が指揮を執ります! 末川さん! 電波状態はどう!?」

「ノイズパターンはマーラの物です! 今回はかなり強力です!」

「了解! 通信部! ブースタを飛ばしておいて! 機関部! オクタの準備はどう!?」

『こちら山上! 後約2分で準備完了の予定! ディーヴァ以外の7機全て出撃可能です!』

「了解! パイロット3名の準備は!?」

『こちら四条! 玉置、橋渡の両名と共に格納庫で待機中です!』

「了解! 準備出来次第すぐに出て!」

『こちら通信部加藤! ブースタ5機射出完了です!』

「了解! 通信状況を常に監視していて!」

 その時、伊集院、松下、そして出先から駆け付けた岩城の三人が中央制御室に駆け込んで来た。伊集院は由美子に向かい、

「中畑君! 準備の方はどうだ!」

「間もなく出撃します! ……申し訳ありません。私の判断で沢田、形代両名を休職させた直後にこうなってしまいました」

「やむを得んよ。最悪の場合は自動モードで飛ばすだけだ」

「ブースタが宝池上空に到達しました! 映像出ます!」

 オペレータの末川真由美の声に呼応するようにメインモニタに映像が現れた。

「何だこれは!」

 伊集院は戦慄した。宝池上空に直径数十メートルはあろうかと言う真っ黒な球体が浮遊している。しかも、その球体は固体ではなく、まるで煙の固まりのように、周辺部を微妙に振動させながら変形を繰り返しているのだ。おまけに、スピーカからは何とも嫌な音が聞こえて来るではないか。

 伊集院は気持ち悪そうに、

「まるで蚊の羽音だ。嫌な音だな」

 松下も眉をしかめ、

「本部長、映像を拡大させてくれ」

「末川君、拡大してみろ」

 映像を拡大すると、小さな黒い物体が飛びまわっているような状況が写し出された。伊集院は何とも不快そうな声で、

「不気味としか言いようがない……」

 それは無数の真っ黒な「虫のような生物」の群体だったのである。松下は、今にも鳥肌を立てんばかりの表情で、

「やはりそうか……。本部長。これは『虫』だよ。さしずめ、『バグマーラ』だな。今回は『虫』で来やがったか……」

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「こちら山上! 出撃準備完了しました!」

 山上の叫びの後、由美子の声がスピーカーから響き渡った。

『了解! アスラ、ナーガ、キナラ、出撃して!』

『了解! アスラ出撃!』
『了解! キナラ出撃!』
『了解! ナーガ出撃!』

 由美子の指令に呼応して3機のオクタヘドロンは格納庫から出撃して行った。

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 伊集院は心配顔で、

「中畑君、しかし、どうやって戦う? 今回は物理的攻撃は使えそうにないぞ」

「はい。今回は反重力フィールドを有効に使いいつつ、光線剣をマントラに同調させて『敵を焼く』しかないと思っています。……でも、あれだけの量ですから、大変だと思いますが……」

 その時、中央制御室に一人の人物が駆け込んで来た。

「わたしも出撃させて下さい!」

「リョウコちゃん!!」

 由美子は驚いて叫んだ。駆け込んで来たのはリョウコだったのだ。

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 サトシとアキコはごった返す構内を通り抜けて京都駅地下にあるシェルターに入った。流石にシェルター内の人々はみんな不安げである。泣きじゃくる子供をしっかりと抱きしめてなだめている親子連れらしき人もいる。シェルターの片隅で手を組み、懸命に祈っている人もいる。恐らくは家族の事を案じているのであろう。初めてシェルターに入ったサトシは複雑な思いだった。

(みんな……、こんなに不安そうにしてたのか……)

 サトシもアキコも愕然とする思いであった。その時誰かが、

「おい、テレビ映ったぞ!!」

 その声に呼応し、みんなが一斉に壁のテレビモニタを見る。

「なんやあれ。気色わるいなあ……」

 みんなが一様に嫌な顔をした。無理もない。宝池上空の『黒い虫の固まり』がモニタに映し出されたのだ。中には鳥肌を立てんばかりの顔をしている人も多数いる。

「おかあちゃーん。こわいよー」

 大声を上げて泣き出す子供もいる。

「だいじょうぶやで。ジェネシス、言うとこの人がやっつけてくれはるさかいな。泣かんとき。……だいじょうぶや……」

 母親が不安そうな顔をしながらも一心に子供をなだめている。

(……どうしたらいいんだ。みんな僕たちをたよりにしてる。……僕はここにいてもいいのか。……どんなに苦しくても、少しでも役に立つのなら行かなきゃならないんじゃないのか……)

 サトシは心底苦悩していた。隣りのアキコを見ると、アキコも肩を震わせながら真剣な顔をしてモニタを見ている。

(どうしたらいいんだ……)

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「おねがいします!! 行かせてください!! おねがいします!!」

 痛々しくも左腕に包帯を巻いたまま、悲痛な顔でリョウコは何度も訴えたが、由美子は、

「リョウコちゃん! だめよ! まだ体が完全に治ってないんでしょ! 今行かせる事は出来ないわ!」

「でも、マーラを倒さなかったら大変なことになります! わたしはだいじょうぶです! オクタの操縦には左腕が使えないことはほとんど影響しません! 行かせて下さい!」

「うっ……、でも……」

 リョウコの真剣な瞳に由美子は圧倒され、やむなく、

「……わかったわ。……あなたなら止めても聞かないでしょ。いいわ。出撃しなさい。……本部長、構いませんね」

 伊集院は無言で頷いた。

「じゃあすぐに格納庫に行って! ディーヴァは修理中でまだ使えないの。ヤキシャで出なさい。充分注意してね!」

「了解しました!」

 リョウコが踵を返して中央制御室を出て行こうとした時、伊集院が力強く言った。

「北原君」

「はい!」

 リョウコは振り返った。

「充分注意しろよ」

「はい! ありがとうございます!」

 リョウコは駆け出して行った。

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 3機のオクタヘドロンは宝池上空に到着した。

「こちら四条! 現場に到着しました!」

『了解よ! 自動モードに切り替えてカプセルを分離して! オクタ各機は光線剣とマントラウエーブを使ってマーラに自由に攻撃を仕掛けて! このマーラは群体だから、細かい作戦は通用しないわ。カプセルも独自に回避行動をとりながらマーラに向かってメーザーとレーザーを同時に照射して! 攻撃開始!』

「四条了解!」
『橋渡了解!』
『玉置了解!』

 各機はカプセルを分離し、一斉に攻撃を開始した。アスラ、キナラ、ナーガの3体は各々光線剣を作動させ、マントラウエーブを同調させると一気にバグマーラに斬り込む。

ブワアアアアアアアアアアッ!!

「なんじゃこら!?」

 マサキは驚いて叫んだ。黒い球体だったバグマーラの群体は一斉に散開してオクタヘドロンに襲い掛かったのである。3機は滅多矢鱈に光線剣を振り回した。

ジュワアアアアアアッ!!

 光線剣に焼かれたバグマーラは次々と宝池に落下していった。しかし、無数のバグマーラは蚊のような羽音を立てながら次から次へと「湧いてくる」のである。更に一部はカプセルにも襲い掛かって来た。

『カプセル全機! 回避しながら攻撃して!』

 由美子の叫びに呼応するようにカプセルはレーザーとメーザーを照射した。しかし悲しいかな、レーザーもメーザーも「ピンポイント攻撃」である。バグマーラは「まるで煙のように」襲い掛かって来る。焼いても焼いてもきりがなかった。

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「なんやねんこれ!? どうしようもあらへんやないの!」

 サリナも叫びながら攻撃を続けたが、こちらも全くきりがない。しかも、バグマーラの一部はカプセルの反重力フィールドに焼かれながらも「特攻」して来る。更にその内の一部はフィールドを突破してフロントスクリーンに衝突し、潰れながらコールタールのような粘液をへばりつかせて視野を遮るのである。このままの状態が続けば完全に視界を失ってしまうのは時間の問題だった。既に3機のオクタヘドロンのカメラには粘液がへばりついて機能を失いかけている。後の頼りはレーダーとスキャナーだけだった。

 +  +  +  +  +

「くそおおおおっ! どうなっとるたい!」

 タカシも叫びながら攻撃を続けた。

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 岩城がモニタの一角にあるウインドウを見て、

「見て下さい! バグマーラの一部が分離して行きます!」

 伊集院が頷き、

「ブースターを1機動かして追うんだ。どこへ行くか調べろ!」

 分離した一群のバグマーラは宝池の近くにある乗馬クラブの方向に向かっていた。ブースターはそれを追いながら映像を送って来る。松下は、眉を顰め、

「乗馬クラブへ行くのか?!」

 松下が言った通り、一群のバグマーラは乗馬クラブに向かって飛行し、厩舎に残されていた馬に次々と取り付く。それを見た由美子は、ぞっとした顔で、

「ああああっ!! 馬が!!」

 バグマーラに取り付かれた馬は、瞬時に真っ黒な固まりになる。そして、その次の瞬間には、その固まりはいくつかの固まりに散開していた。伊集院も思わず、

「馬が白骨だけになったぞ!!!」

 その時、スクリーンの一角にウインドウが開き、

”コノマーラハ、他ノ動物ニ取リ付キテ、ソノ蛋白質ヲ分解シテ自己ノ栄養トシ、更ニ増殖ヲ続ケルト推定サレリ。熱及ビ物理的攻撃ニハ弱イト思ハルルモ、増殖能力ガ極メテ大ナリト推定サルル故、出来フル限リ早急ニ殲滅セザル時ハ他ヘ及ボス被害ガ甚大ナル物ニ及ブト思ハルル。反重力フィールドヲ応用シ、マントラウエーブヲ併用シツツ赤外線兵器トシテ使用スベシ。反重力フィールドヲ赤外線兵器トシテ応用スル場合、以下ノルーチン、'ultrared.lib ' ヲ使用スベシ。然レドモ、反重力フィールドヲ赤外線兵器ニ転用スル以上、オクタヘドロンノ防御能力ノ低下ハ避クル事ヲ得ズ”

 それを見た松下は苦悩しながら、

「くそっ!! ジレンマか! 仕方ない! 本部長! 残っている3機のオクタのプログラムにこれを追加するんだ!本体だけ遠隔で現場に飛ばして自動モードで動かせばいい!」

 由美子も悲痛な表情で、

「松下先生! 現場のオクタ3機に無線でプログラムを送れないんですか!?」

「理論的には可能だろうが、ノイズがなあ。下手にマーラに妨害されたらプログラムが暴走してしまいかねないんだ!」

「わかりました! 仕方ありませんね! 現場の3機!! 出来るだけがんばって!! すぐ応援を送るから!!」

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 シェルターの中で誰かが叫んだ。

「あかん! 押されとるやないかっ!」

 サトシはじりじりしながら戦闘の様子を見ている。

(どうしよう……。どうしたらいいんだ……)

 横を見ると、アキコも蒼白な顔でモニタを見ていた。その時、

「あっ! もう一つ来よったぞ!」

 叫び声につられてモニタを見直すと、

「あああああっ!!!」

 サトシは思わず叫んだ。モニタには4機目のオクタヘドロン、ヤキシャが映っているではないか。しかもカプセルを分離して一緒に飛行している。

(北原!!!!)

 サトシはカプセルに乗っているのがリョウコであると確信した。アキコを見ると声も出ないようである。

(北原! ……僕はなんてだめなやつなんだ! このままじゃだめだ! このままじゃ!……)

 その時サトシは決心し、立ち上がって叫んだ。

「形代! 僕、行くよ!」

 アキコも立ち上がり、

「わたしも行くけん!」

 すぐさま二人はシェルターの出口に向かって駆け出して行く。

「おい! 君ら! どこ行くんや! 出たらあかん!!」

 誰かが叫んだが、その時二人は既に外へ出ていた。

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 階段を駆け上がったサトシとアキコは息を切らせながら京都駅八条口のタクシー乗り場までやって来た。しかし、無論の事動いているタクシーは一台もないし、地下鉄も電車も動いていない。

「どうしよう!」

 蒼白な顔で叫んだサトシに、アキコは真っ赤な顔で、

「本部まで走るしかないけん! 走らんと! そうじゃ! わるいけど、そのへんの自転車を借りたら!」

 その時、

キキキキキキッ!!!

 一台の車が猛スピードで走って来て二人の前で急停車した。

「二人とも早く乗れ!!!」

 車を運転していたのは山之内である。サトシは驚いて、

「山之内さん!!!! どうしてここに!!!」

「話は後だ! 早く乗れ!」

 山之内の言葉に応じてサトシとアキコは車に乗り込んだ。

「ベルトを締めたな! 飛ばすぞ!」

 車は急発進し、西へ向かって走り出す。サトシは息を切らせながら、

「山之内さん! どうして僕らがここにいるってわかったんですか?!」

「情報部をクビになっても、君達が今朝京都を離れる予定だったって事ぐらいはわかるからね。時間的に見て、もしかしたら、って言うカンさ。まさかこう上手く行くとは思わなかったけどな」

 アキコも不安気に、

「北原さん、出撃したみたいじゃけんど、だいじょうぶなんですか!」

「怪我をおして出撃したんだよ。彼女の意思でね……。そうだ、連絡しておこう」

 山之内は車載スマートフォンのボタンを操作した。

「……ジェネシス本部か?! 秘書室の山之内だ! 中央に繋いでくれ!」

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 オペレータの末川真由美が叫ぶ。

「中畑主任! 秘書室の山之内さんから電話が入りました。音声繋ぎます!」

『こちら山之内! 沢田、形代両名と共に本部に移動中! オクタヘドロンの出撃準備をしておいてくれ!』

 由美子は訳が判らず、

「ええっ!? どう言うことよ! 二人がそこにいるの!?」

『そうだ! 二人とも出撃するぞ! 大丈夫だ! 以上!』

「ちょっと、山之内君! どう言う事よ! ちょっと!」

「電話が切れたようです」

 真由美は申し訳なさそうに言った。由美子は苦悩の表情を浮かべ、

「本部長、どうしましょう」

「とにかく彼等の到着を待とう。いずれにせよ、予定通りガルーダとガンダルヴァとマホラーガの出撃準備をしておけ」

 +  +  +  +  +

 山之内の車は無人の街と化した京都市内を疾走している。サトシは俯いたまま、

「山之内さん……、僕……」

「わかってるよ。みなまで言うな。……そうだ。君達に一つ言い忘れていた事があった。……この前、『開放系の神』の話をしただろ」

「はい……」
「はい……」

「津田氏によるとな。その『開放系の神』はな。人間全体のために存在しているんじゃないんだ。あくまでも『君達一人一人のために』存在しているんだ。これだけは覚えておけよ。いいか、『一人一人のために』だぞ」

「はい」
「はい」

 +  +  +  +  +

 宝池上空のバグマーラに対して、4機のオクタヘドロンとカプセルは攻撃を続けていた。宝池は既にバグマーラの死体で真っ黒になっている。しかし、幾ら攻撃を加えても後から後から「湧いて」来るのだ。

「くそおおおおおっ!! なんぼやってもきりがあらへんぞっ!!」

 流石のマサキも焦りの色を滲ませていた。

 +  +  +  +  +

 更に、バグマーラは小さな固まりを数多く分離させ続けていた。その固まりは周囲の小動物に襲い掛かってその肉を食らう。そして、次々と獲物を求めて移動し、攻撃範囲を広めて行った。宝池周辺の住民は一応避難していたが、これではシェルターの外には絶対に出られない。一刻も早くバグマーラを全滅させなければならなかった。

 +  +  +  +  +

「もっと速くっ! もっと速く動いてっ!」

 リョウコはヤキシャを自動モードに切り替えた後、カプセルで他機と同様の攻撃を行っていたが、いかんせん相手の数が多過ぎる。しかも左腕が使えないので手動操作がどうしてもぎこちない。勢い、操縦も音声操作と脳神経スキャンに頼らざるを得なかった。

(このままじゃだめだわ。なんとかしないと……)

 +  +  +  +  +

 自衛隊統幕本部司令室は喧騒に包まれていた。

「11式ヘリを出せるだけ出せ! 新型ミサイルを忘れるなっ! 各務原からもF−23を出すんだ! 『新型神経破壊パルスメーザー搭載機』だぞっ!」

 幹部の怒号にオペレータが答える。

「桂駐屯地から既に新型ミサイルを塔載したヘリが6機出ていますっ! 引き続いて出撃準備中ですっ!」

『こちら宇治機関部! もしバグマーラが分散してエンジンに突入したら爆発します! 反重力エンジン搭載機しか出せませんよ!』

「この際やむを得ん! あいつが全て分散したら京都は全滅だ! パイロットには充分注意させて、接近させるのは反重力エンジン搭載機だけにさせるんだ!後は援護に回せ!」

『了解しました!』

『こちら各務原! 間もなくF−23が出撃します!』

「F−23は出来るだけ遠方から攻撃するんだ! エンジンに虫を吸い込むな!」

 +  +  +  +  +

 サトシ達三人を乗せた車は嵐山のジェネシス本部に到着した。山之内が怒鳴る。

「着いたぞ! 君達は直接格納庫へ行け! 僕は中央へ行くから! 充分注意してな!」

「はいっ!」
「はいっ!」

 サトシとアキコは駆け出して行った。

 +  +  +  +  +

「こちら機関部山上! 沢田、形代両名が格納庫に到着しました!」

『了解! サトシくん! アキコちゃん! 大丈夫なのっ?!』

「大丈夫です! 行かせて下さい!」

「わたしもだいじょうぶです!」

『わかったわ! とにかくカプセルに乗って待機していて!』

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 由美子は伊集院の方を向き、

「本部長! 両名の出撃許可を!」

「いいだろう。二人とも充分注意しろ! 絶対無理はするな! 中畑君! 両名の脳神経スキャンデータには充分注意しろ! 混乱が生じたらすぐに退却させるんだ!」

「了解しました! ガルーダ、ガンダルヴァ、出撃して! マホラーガは自動モードで出撃!」

「どうだ! 状況は?!」

 山之内が中央制御室に飛び込んで来た。

 +  +  +  +  +

「ガルーダ出撃します!」

 +  +  +  +  +

「ガンダルヴァ出撃します!」

 +  +  +  +  +

 サトシとアキコは無人のマホラーガを引き連れて出撃して行った。

 +  +  +  +  +

 桂駐屯地から出撃した6機の11式準音速ジェットヘリは宝池上空に到達した。編隊長が無線に怒鳴る。

「こちら陸自654。現場に到着した。指示を待つ」

『こちら司令室。各機ジェネシスと協調して攻撃に移れ』

「了解。オクタヘドロン各機。こちら陸自654。位置を保って回避行動に専念してくれ。新型ミサイルでマーラを攻撃する。全機攻撃開始」

 6機のヘリは反重力フィールドを展開したまま散開し、マーラに向かってミサイルを発射する。

バシュゥゥーーーーーーン

バシュゥゥーーーーーーン
バシュゥゥーーーーーーン

バシュゥゥーーーーーーン
バシュゥゥーーーーーーン

バシュゥゥーーーーーーン

 ミサイルはマーラに命中したが、いかんせん相手は群体である。そのまま通過して反対側に出てしまうだけだった。

「くそっ! 厄介な奴め! 連続して撃て!」

 連続してミサイルが発射されたが、虚しく「空を切るだけの結果」に終わった。

「だめだ! 固体じゃないからどうしようもない! 上空に移動してウルトラテルミットで焼き払う! 各機上昇しろ! オクタヘドロン各機も追従しろ!」

 その時、バグマーラの一群が分離して1機のヘリに襲い掛かった。強力な反重力フィールドに阻まれて機体には到達出来ないが、周囲に黒い虫が幕を張ったように展開したため、ヘリは視界を失ってしまった。

『こちら653! 視界を失った! 誘導願う!』

「そのまま垂直に上昇しろ! 上空で水平に飛行して虫を振り払え!」

 更にバグマーラは次々と分離してヘリに襲い掛かる。

「だめだ! こののままじゃ視界を失うだけだ! 全機垂直に上昇しろ!」

 編隊長の怒号が響き渡った。

 +  +  +  +  +

 由美子がインカムに叫ぶ。

「オクタ各機!! 自衛隊機と共に上昇して!! 自衛隊がウルトラテルミット弾を使うわ! その後はドッキングして待機!」

『こちら沢田! まもなく現場です!!』

「サトシくんとアキコちゃんはマホラーガを連れてそのまま上昇して! 自衛隊機より上に行くのよ!」

『沢田了解!』
『形代了解!』

「二人とも大丈夫!? 気分悪くない?!」

『僕はだいじょうぶです!』
『わたしもだいじょうぶです!』

「了解よ! 充分注意してね!」

 +  +  +  +  +

 サトシは飛行しながらも不安を消せなかった。

(だいじょうぶだろうか……。今のところはとりあえずだいじょうぶみたいだけど……。マーラを見てしまったら……。……形代、だいじょうぶかな……)

「形代、だいじょうぶ?」

『うん、だいじょうぶじゃけん、心配せんで。……沢田くんはだいじょうぶ?』

「うん、なんとかだいじょうぶだよ。……とにかくがんばろうね」

 +  +  +  +  +

 現場の4機のオクタヘドロンとカプセルは自衛隊機と共に上昇した。流石に上昇してしまうとバグマーラも追って来なかったようで、一応全機とも少々落ち着いたようである。自衛隊機も「虫」を振り払って一応落ち着いた。

 そこへサトシとアキコがやって来た。7機のオクタヘドロンとカプセルは自衛隊機よりも上昇して空中に静止し、先発隊4機はドッキングした後、下方の様子を監視した。

「こちら沢田です! 心配かけました!」

『おお、沢田君! 大丈夫け!?』

と、マサキが声をかけてきた。サトシは元気を振り絞り、

『だいじょうぶです! 迷惑かけてすみません!』

 +  +  +  +  +

 サリナも心配そうにアキコに声をかける。

『形代さんはどうもない?』

「はい! なんとか! 心配かけてすみません!」

『そう。気いつけてな』

 +  +  +  +  +

 タカシもリョウコに、

『そう言えば、北原さんは大丈夫なんか?』

「はい! わたしはだいじょうぶです!」

 リョウコは相変わらず凛とした声で言った。

 +  +  +  +  +

 バグマーラは相変わらず増殖を続けているようだった。小さな固まりが分離してどこかへ飛んで行く。放置する事は出来ないが、さりとて今の所はどうしようもない。「数の論理」の恐ろしさをまざまざと見せ付けられているようだった。

 +  +  +  +  +

 サトシは恐る恐るマーラを見た。何しろ「黒い虫の固まり」である。気持ち悪い事この上なかったが、取り敢えず胃痛や嘔吐感はしなかったので「ほっと一息」と言ったところである。

「こちら沢田! 由美子さん! 今の所だいじょうぶです!」

『そう、よかったわ! 充分注意してね! アキコちゃんはどう?!』

『わたしもだいじょうぶです!』

『了解よ! 充分注意してね!』

 +  +  +  +  +

 その時、中央制御室でモニタを見ていた岩城は突然妙な感覚に教われた。

(なんだ、この感覚は!? ……見えるぞ!)

 岩城の脳裏に閃いたのは、バグマーラの中央部のイメージであった。元々は音楽家であり、中之島に無理矢理弟子にされた上、音楽作りの方向に魔法を応用していただけだからそれほど魔法の能力に秀でている訳ではないとは言うものの、やはり岩城も『求道者』ではある。更に、パイロット達を訓練していく過程において自分も色々とやっていたので、その相乗効果もあって認識能力が高まっていたのだろうか、この時ははっきりと「見えた」のである。

(本体が中央部にある……)

 岩城の眼には、中心部に直径数メートルの大きさの黒い球があり、そしてそれこそがこのマーラの本体であると確信した。

「本部長! バグマーラの中心に本体があります! そいつを直接叩くんです!」

 伊集院は驚き、

「えっ! どう言う事です!?」

「根拠はありませんが、私にははっきり見えました! 中心部に本体があります!パイロット! 中心部に意識を集中してみろ! 何か感じないか!?」

 +  +  +  +  +

(……見える! 見えるわ!)

 リョウコは岩城の指示通り、バグマーラの中心部に意識を集中してみた。すると驚いた事に、黒い球が脳裏にはっきりと浮かんだではないか。

「見えました! 中心部の本体を認識しました!」

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'たとえ、君を抱いても ' composed by QUINCY (QUINCY@po.icn.ne.jp)

原初の光 第二十七話・衝撃
原初の光 第二十九話・認識
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