第一部・原初の光




 サトシは自室に帰り、ベッドに横たわって天井を見ていた。

(どうしたらいいんだ……)

 リョウコの容態、自分やアキコのスランプ等に関わる思いが色々と心に湧き上って来るが考えは纏まらない。自分はどうしたらいいのか、悩みばかりが心をさいなむだけである。

 ベッドの上で寝返りを打つと、机の引き出しが目に入り、

(綾波……)

 机の引き出しの中には、あの時手に着いていた「レイの髪の毛」がしまってある。無論、あれ以来マントラ瞑想はしていない。レイに会いに行く勇気もなかった上、リョウコとの事もあったからレイの事は考えないようにしていたのである。しかし、リョウコとの仲に多少隙間が出来てしまった事や、自分のスランプについて悩んでいる内にレイの事を思い出してしまった。

(…………)

 サトシはベッドから起きて引き出しを開けると、レイの髪の毛を包んだティッシュペーパーを取り出した。

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第二十六話・衝撃

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(綾波……。どうしてるだろ……)

 サトシは暫く髪の毛を見ていたが、やがて意を決したようにティッシュを畳み、それを胸のポケットに入れると、スマートフォンでマントラ波動音楽を再生させた後、ベッドの上に座り、

「オーム・アヴァラハカッ!」

………)

 マントラの波動に意識を集中していると、頭の中に青い光が閃いた。

「…………!」

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「……あっ!!!」

 暗黒の次元の中で一人座り、祈り続けていたレイの横に青い光が閃いた。

「サトシくん……」

「綾波……」

 レイは立ち上がり、

「だいじょうぶ? さっきはたいへんだったでしょ」

「えっ? さっき、って?」

「ついさっき怪物と戦っていたんでしょ。光の中に見えたのよ」

「ええっ?! ……もう1週間も前のことだよ!」

「ええっ! どう言うこと? わたしが見たのはついさっきなんだけど……」

「どうも時間の進み方がちがうんだね。……僕はなんとか大丈夫だったけど、仲間が……」

「知ってるわ。わたしとそっくりな女の子がけがしたんでしょ。だいじょうぶだった? ……さっきからずっと心配だったの」

「それも知ってるのか。……北原、……あの子は大けがしたけど助かったよ……」

「そう……、よかった……」

「そうだ……。これ……」

 サトシは髪の毛を取り出し、レイに見せた。

「これ……、わたしの……?」

「うん。……この前来た時に、僕の手についたらしいんだ。信じられないけど、持って帰ってたんだ」

「これ……、見て……」

 レイも、胸のポケットにしまっていたサトシの髪の毛を見せた。

「!? ……もしかして……?」

「そう。……あなたの……」

 サトシはレイを見つめた。レイは何とも言えない澄んだ美しい眼でサトシを見つめている。

「とにかく、すわろうよ」

「うん……」

「実は、ね……」

 サトシはレイに、リョウコと好き同士になった事、しかし戦闘中の自分のミスが元でリョウコに怪我をさせてしまった事、そしてリョウコに、「事件が解決するまでは必要以上の付き合いは控えたい」と言われた事、そして今自分がスランプになってしまった事、等を語り、

「……と、言うわけなんだ……」

「そう……。それで、サトシくん、どうするつもりなの……」

「……わからないんだ。……どうしたらいいかわからないよ……」

「……それで、わたしのところへ逃げてきたわけ?」

 思わぬレイの強い口調に、サトシは驚いて顔を上げ、

「えっ!? それで、って?……」

「だめよ。そんなことじゃ。今あなたがしっかりしないとなんにもならないじゃない。元気を出してがんばってよ」

「……で、でも……。どうしたらいいかわからないんだ! 助けてよ!」

「……サトシくん。……わたしね、あなたたちが戦ってるのを見たわ。それで、けがをした子、きたはらさんね。その人を見て感じたの。……この人はわたしとなにか関係がある、ってね。……他人とは思えなかったわ」

「綾波……、なにを……」

「サトシくん。きたはらさんとなかよくなったんでしょ。わたし、さびしいけど、それはしかたないと思うわ。あなたたちの世界のことなんですもの。でも、今あなたたちにはとても大事な任務があるんでしょ。だから、きたはらさんは、つらいけど、事件が解決するまで待って、って言ったんでしょ。なのに、なんでその気持ちをわかってあげないのよ」

「…………」

「わたし、あなたのこと、好きよ。……シンジくんのことも好きだし、気になるけど……。ある人を好きなのに、他の人も好きになってしまった、って言う、こんな気持ち、初めてだったわ。……あなたのことを好きになって、シンジくんのことでなやんで……、でも、それでわたし、初めて人としての心をもてた気がしたわ。……人を好きになったよろこびも、……二人の人を好きになった苦しみも、……好きになった人に会えない、そんなせつない気持ちも初めて知ったわ……」

「綾波……、僕は……」

「だから、あなたときたはらさんが好き同士になった、って、さっき聞いたとき、くやしかった。泣き出しそうだった。……でも、それはしかたないことだとわかるわ。……だけど、あなたはなによ。任務でしばらくの間自分の気持ちをおさえなければならないからって、わたしのところへ逃げてきたわけ?」

「逃げてきた、って……、そんな……」

「わたし、あなたにそんなふうに思われてもちっともうれしくない。……わたしのことが好きで、わたしのところへきてくれたのならほんとにうれしいけど、きたはらさんにそんなこと言われたからわたしのところへきたのなら、くやしいだけよ! ……ううっ」

 レイは泣き出してしまった。

「綾波……、そんな……」

「逃げちゃだめよ! ぐすっ……。わたし、よくわからないけど、サトシくんがほんとにきたはらさんのことだけを好きなら、悲しくても笑ってよろこんであげられると思う。……だって、あの人は、『もう一人のわたし』みたいに思うもの。……ううっ。……わたし、あなたにシンジくんの心を感じたように、きたはらさんにわたしの心を感じたわ。だから、あなたがきたはらさんとなかよくなって、しあわせになるのなら、わたし、あなたのことをあきらめられるわ。……ぐすっ」

「…………」

「でも、……でも、……きたはらさんとちょっとうまくいかないだけで、こんなふうにわたしのところに逃げてくるなんて! ……悲しいわよ! くやしいわよ! ……ううっ、……ううっ、……ぐすっ……」

「…………」

 サトシは何も言えなかった。泣きじゃくるレイの横で、どうしていいのか全く判らないまま俯き、そして、

(……オーム・アヴァラハカッ……)

 無意識的にマントラを唱えてしまった。

………)

 サトシの脳裏をマントラのシンボルが駆け抜けた時、

「あっ!……」

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 脳裏に青い光が閃いたと思う間もなく、サトシは自室に帰っていた。

「…………」

 胸のポケットからティッシュを出すと、引き出しにしまい込み、

「…………」

 そして、ベッドに戻り、布団をかぶった。

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 アキコは自室で放心したような表情で机に向かっていた。何も考えられず、どうしたらいいかも判らない。

「…………」

 無言のまま立ち上がるとベッドに入り、布団をかぶる。

「うっ、うっ、……ぐすっ……」

 アキコの眼からこぼれ落ちた涙が枕を濡らしていた。

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 10月8日になった。総務省に対してと同様に、防衛省に対しても外務省から調査の要請が出ていたが、防衛省の回答は、

「11式準音速ジェットヘリに搭載した反重力エンジンは自衛隊が独自に開発したものであり、総務省からもジェネシスからも一切の情報の提供は受けていない。また、川島主任研究員に関しても、一切の違法行為及び守秘義務に反する行為は行っておらず、ジェネシス情報部の山之内氏とは個人的に交流があるのみであり、何ら法的な問題はない」

と言うものであった。

 防衛省からの答がこれであり、総務省からの回答も「高沢担当が浜崎次官に口頭で伝えた内容が全て」であったため、外務省としてはこれ以上どうしようもなかった。

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(もう、こんな時間か……)

 サトシが目覚めると、もう10:00だった。昨夜はあのまま寝ようとしたのだがなかなか寝付かれず、やっと明け方になってうとうとした、と言った状態だったのである。

(さすがに腹へったな……)

 結局昨夜は何も食べていなかったのでかなり空腹である。サトシは起き上がってシャワーを浴び、食堂へ向かった。

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(あ……)

 サトシは食堂で定食を買った。室内を見渡すと、窓際の席にアキコが一人ポツンと座って食事をとっている。サトシは一瞬迷ったがその席に向かい、

「形代、おはよう……」

「あ、沢田くん……、おはよう」

 アキコもあまり元気がない。ふとみると眼が赤いではないか。彼女も昨夜はよく寝られなかったようだ。

「調子、どう?……」

「あんまりかわらんね。……沢田くんはどうなんね?」

「僕も大したことないよ……」

 二人とも空腹ながらも食が進まないのか、ゆっくり食べていた。

「よう。お二人さん。調子の方はどうかな♪」

 二人が顔を上げると、にこやかな顔をしてコーヒーを持って立っている山之内の姿がある。サトシは元気なく、

「山之内さん……。おはようございます」

 アキコも当然とは言うものの、元気なく、

「おはようございます……」

 山之内は、苦笑すると、

「うーん。いかんなあ。元気ないぞ。わはは。……どうなんだ。二人とも調子が戻らないのか」

「はい、僕の方はどうも気持ちが沈んでしまって……」

「わたしもだめなんです……」

「……そうか。よし、わかった。さっさと食事を済ませろ。二人とも今日から3連休なんだろ。僕に付き合え。いいところに連れて行ってやる」

「え、…いいところ、って……。どこなんです?」

と、サトシは元気なく聞き返したが、山之内は笑って、

「君達二人が元気を取り戻す所さ。……さあさあ、しっかり腹ごしらえをしておけよ。わはは」

「はあ……」
「はあ……」

 二人はキツネにつままれたような顔をして箸を進めた。

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「そう言えば……。あの子、だいじょうぶかな……」

 暗黒の次元の中で瞑想を続けていたシンジの脳裏に、リョウコに対する心配がよぎった。

 ついさっき、つまりシンジにとっては「ついさっきの出来事」であった「光球の中の映像」で、シンジはサトシの戦いに感情移入していたが、少し落ち着いてみるとリョウコの事も心配になったのである。

「綾波といっしょに使徒と戦った時も、こんなふうに心配したよな……」

 シンジはかつてレイと一緒に第伍使徒ラミエルと戦った「ヤシマ作戦」の事を思い出していた。そして、あの時感じた「純粋に人の事を思いやる心」に思いを馳せ、

「あのとき……、僕はなにも考えずに綾波のことを心配してた。綾波もほほえんでくれたんだ……。

 でも、それから後の僕はいったいどうなってしまったんだろ……。アスカや綾波のことを思いやる気持ちを忘れてしまっていたよな……。自分のことだけしか考えなくなっていたしな……。

 綾波が零号機で自爆して僕を助けてくれた時、……悲しかったけど、結局、そこまでして僕を助けてくれた綾波の心を、ちゃんと受け取ってやったんだろうか……。

 そうじゃなかった。……あの時は、もう自分のことだけしか考えていなかった。……父さんの横暴にも、腹を立てながら、結局思ったことを率直に言えなかった……。僕はずっと逃げてたんだ……。

 でも、結局、逃げても逃げても、いやなことからは逃げられなかったんだ……」

 シンジは心をよぎる色々な思いを見つめていたが、不思議な事に、「あの子、死んだのじゃないか」と言う気は起こらなかった。根拠はないが「妙な確信」が湧き起こって来たのである。

「うん……。あの子、きっとだいじょうぶだ。……なにが起こるかわからないけど、とにかくがんばるんだ……」

 シンジは気持ちを改めて再度カードを見つめ始めた。

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「ふう……、なにも見えないわねえ。どうしたらいいのかしら……」

 アスカはあれから後暫くの間カードに描かれた太陽の絵を見つめていた。しかし光芒が時々青くなるだけで何も起こらず、目も疲れて肩も凝ってきたので、「少し休憩」と言った感じで息を抜き、

「………そう言えば、さっきのファーストそっくりの子、だいじょうぶだったのかなあ……。操縦席はとびだしたみたいだったから、たぶんにげられたんだろうけど、無事だといいわねえ。……あ、そうだ。あたしたちもあんなときがあったよね……」

と、シンジ、レイと三人で組んで使徒と戦った時の事を思い出すと、

「あのとき、三人でくんで、クモみたいな使徒や、空からふってきたヤツとたたかったのよね……。あたしたち、けっこういいチームワークしてたよねえ……。……それからあと、あたし、なんかおかしくなっちゃったんだ。シンジにへんにライバル意識もやしちゃってさ。……けっきょく、くだらないことだったわよねえ……。シンジにはシンジのよさがあったんだから、すなおにみとめてやればよかったわよねえ。……あ、あたし、なにかんがえてんだろ、ふふ……。さ、またはじめよっかな……」

 アスカは気持ちを新たにして太陽の絵を見つめ始めた。

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「わたし……、なんであんなこと言ったのかしら。……サトシくんに……」

 一頻り泣いた後、レイは膝を抱えたまま考えていた。

「……これが、嫉妬なの?……。でも、わたしも二人の人を好きになってる……。わたし、どうしたらいいの……。サトシくん、シンジくん、……わたし、どうしたらいい……」

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 山之内の運転する車の助手席で、サトシはやや不安気に、

「山之内さん……。どこへ行くんですか」

 後部座席にはアキコが神妙な顔で座っている。

「まあまあ、それは着いてからのお楽しみ、ってね。……ふふ」

 車は丸太町通りを東に走り、西大路通で右折して南下する。JRのガードをくぐり、九条通で左折すると、大きな五重塔が見えて来た。

「ここだ。ほら、五重塔が見えるだろう。東寺だよ」

 アキコが前方を見ながら、

「東寺、って言うと、弘法大師ゆかりのお寺ですね……」

「そうだ。正式名は教王護国寺と言って、真言宗の根本道場だよ。空海が嵯峨天皇から下賜された寺なんだな……。さて、到着したぞ」

 山之内は駐車場に車を止めると二人を連れて寺務所に行き、

「すみません。山之内豊と申しますが、森下有信阿闍梨はおいででしょうか」

「はい。少しお待ち下さい」

 程なくして作務衣を着た、山之内と同年代ぐらいの僧侶が姿を現して、

「おお。山之内やないか。久し振りやなあ。何年ぶりや」

「5年ぶりぐらいかな。……ところで今日はちょっと頼みがあるんだが、この二人に護摩行の様子を少々見学させてやって貰えんだろうかな」

「それぐらい別に構わへんと思うけど。……そのお二人さんは?」

「オクタヘドロンのパイロットで沢田サトシ君と形代アキコさんだ」

「おお、そうか。それはそれは。はじめまして、森下です」

「沢田サトシです」

「形代アキコ、言います」

「そんなら行きましょか。真言行は24時間態勢で続いとるさかい、今も見られるわ」

 森下の案内で三人は本堂に行った。

「お参りの人は次々と来とるさかい、横から入ろか。静かにな」

 サトシは目を見張った。荘厳な堂内では数人の僧侶が護摩を焚きながら一心にマントラを唱えている。その気迫溢れる様子に圧倒される思いだった。

 山之内は二人に耳打ちし、

「沢田君、形代君、この護摩行は何のために行われていると思う?」

「いえ……、わかりません。……なんのためなんです」

「わたしにもわからんです。……なんのためなんですか」

「魔界と現実界の融合を少しでも遅らせ、君達がマーラと戦う時に少しでも有利になるようにと、ジェネシスが発足した時からずっと行われているんだ」

「えっ!!」
「ええっ!!」

 サトシとアキコは思わず息を呑んだ。更に、山之内は、

「無論、火を焚く護摩はずっと連続する訳にもいかないから断続的に行われているんだが、マントラを唱える真言行そのものはずっと続けられているんだよ。何十人もの僧侶が交代でね……。どうだ、凄い迫力だろ……」

「はい……」
「はい……」

「祈願を行っているのはここだけじゃない。日本中の多くの神社や寺院で事件解決のための祈願は行われている。しかも、その殆どが自主的に始められたものなんだ」

「…………」
「…………」

「君達は自分一人で戦っているんじゃないんだ。……多くの人の祈りに支えられて戦っているんだよ。……お参りの人々もそうだよ。一刻も早い事件解決を願って毎日多くの人がお参りに来ているんだ。……君達の背中には多くの人の祈りがある、……それを忘れるんじゃないよ……」

「はい」
「はい」

「じゃ、行こうか……。森下、恩に着るよ。いずれまた改めて」

「おお、御苦労さんやったな。またいつでも来いや」

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 東寺を後にした三人はそのまま九条通を東に向かっている。

「せっかくだからちょっと寄り道して行こうか。なかなかいい所があるんだ」

 山之内の言葉に、サトシはおずおずと、

「あのー、山之内さん、お仕事の方はよろしいんですか……」

「ははは。気にするな。実はちょっとした事情で情報部の方はクビになってね。ヒマを持て余してるから心配するな」

 サトシは驚き、

「えっ。情報部をクビになった、って……」

「今は秘書室で窓際族やってるよ。……まあ、その話は後だ。ははは」

 車は東大路通を北上し、五条通で左折した。そのまま少し行って中央分離帯の所でUターンし、高架道路に入る。

「もうすぐだからな」

 高架道路を通り抜けて暫く走ると、左側にインターチェンジが見えて来た。山之内は車を左に寄せてインターチェンジに入ると、そのまま山道を登って行く。

「ここは東山さ。頂上付近に景色のいい所がある」

 車は程なくして山頂に到着し、三人は車を降りて少し歩いた。

「わあ、きれいじゃね……」

 アキコは声を上げた。山頂の展望台からは京都市内が一望出来る。天候にも恵まれたため、市内の様子がはっきり見えた。

「ここは将軍塚と言ってね、征夷大将軍の坂上田村麻呂の像を祭って都の霊的バリヤーとしたところなんだ。どうだ。ここの展望台はなかなか素敵だろう。

……ごめん。ちょっとトイレに行って来るから、二人ともここで待っててくれないか」

 山之内がそう言って駐車場の方へ歩いて行ってしまった後、展望台の手すりの所で、二人は並んで京都市内の眺望を見ていた。サトシがふとアキコの方を見ると、サラサラのロングヘアーが爽やかな風に揺れている。気付くと周囲の人々がアキコをちらちらと見ているではないか。

(みんな形代を見てる……。こうやって見ると、形代、とてもきれいな子なんだな……)

 サトシは改めてアキコの横顔を見た。リョウコやレイとは違うタイプだが、アキコも素晴らしい美少女である。周囲の注目を集めるのも無理からぬ事だ。

 サトシの様子に気付いたアキコが、

「沢田くん、どうしたんね?」

「いや、……べつになんでもないんだけど、みんな形代の方を見てるな、って、思ったもんだから……」

 アキコは少し顔を赤らめ、

「え? そうなん……。なんか、はずかしいね……」

 それを見たサトシは、

「そんなことないよ。……だって、形代、美人だもん。……みんな見るよ」

と、思わず言ってしまった。

「そんな……。わたしなんか、そんなことないよ。広島の子じゃし、地味な感じじゃけん……」

「ううん、そんなことないよ。自信持ちなよ……」

「ありがと……。でも、沢田くんとこんな話するなんて思わんかったけん、ちょっとびっくりしとるよ……」

「え、ごめん。へんなこと言っちゃったかな……」

 サトシも少し赤面した。アキコは少し照れくさそうに、

「いや、そんな……。沢田くんがあやまるようなことじゃ……」

「ねえ、形代……、最初に電話して来てくれた時のこと、おぼえてる?」

「うん……、おぼえとるよ……」

「あの時、せっかく『電話して来てね』、って言ってくれたのに、それからなにもしなくてごめんね……」

「なに言うとるんよ。沢田くん、北原さんとなかよくなっとったんでしょ……。それでわたしに電話してきたらいけんじゃないの……」

「うん……、まあ……、それはそうなんだけど……」

「わたしね……、あのときからなんとなく、沢田くんのこと気になっとったんよ……。でも、なんかそれからあれこれしとるうちに、こんなふうになってしもうたんよね……。でもわたしのことは気にせんといて、沢田くん、北原さんとなかよくせんと……」

「…………」

 努めて明るく語るアキコに、サトシは何も言えなかった。アキコは続けて、

「でもね……、わたし、沢田くんのこと、好きになったんは後悔しとらんよ……。こう言うめぐりあわせだった、ってだけのことじゃけん、しょうがないよ。

……それより、わたしのやきもちがもとで北原さん、大けがしてしもうたもんね。……わるいのはわたしなんよ」

「そんなことないよ。僕が命令を聞かずに飛び出したのが悪いんだ。形代は僕を助けようとしてくれたんだろ……。悪いのは僕だよ……。ねえ、この前清水寺で顔を合わしたことあっただろ。……おぼえてる?」

「うん……、おぼえとるよ……」

「あのときね、形代、四条さんと一緒だったろ……。それで、形代、四条さんと付き合ってるのか、って思ってたんだ……」

「……あんときはね、ひなたさんと四条さんの三人で遊びに行っとったんよ。四条さんがひなたさんを紹介してくれた日じゃったけん、それで、一緒に行ったんよ……」

「そうだったの……。勝手に思い込んでごめんね……」

「ううん、そんなこと……。沢田くん……、わたしね……、もうちょっとがんばってみようとは思うとるけど、……それでもあかんかったら、ジェネシス、やめよう、思うとるんよ……」

「え、……やめる、って……」

 サトシはドキリとした。サトシも昨夜なかなか寝付かれずに色々と考えていたのだが、「このままの状態が続くならパイロットを辞めよう」と言う考えも、ちらりとではあるが心をよぎっていたのである。その事に関しては無理に考えないようにしていたのであったが、アキコも同じような事を考えていたと知って少々驚いたのであった。

「うん……。ゆうべね、なかなか寝られんで、いろいろと考えとったんじゃけど、……オクタに乗れんパイロットなんか、用なしじゃけんね。……じゃけん、もう少しやってみてもあかんかったら、やめよう思うとる……。

……でもね、今日、山之内さんに東寺へつれて行ってもろうて、お坊さんのがんばってくれとるところ見せてもろうて、ものすごう感動したけん、たとえやめて広島へ帰っても、毎日どっか近くのお寺へお参りには行こう、思うとるんよ。……それぐらいしかできんけんね。……わたし……」

「……形代、……僕も、ゆうべ、ちょっと、そう思ったよ……」

「沢田くんも?……」

「うん、……もし乗れなくなったら、……やっぱり、やめるしかないだろ、ってね……」

「そう……、しかたないけんね……」

「そう言えば、……こうやって形代と話するの、はじめてだね……」

「そう言えば、そうじゃね……」

「……ねえ、形代、……こんなときに、こんなこと言うのもおかしいかもしれないけどね……。僕と北原ね、……とりあえず付き合いはやめたんだ……」

「え……? どうしてなん?」

「北原に言われたんだけど、事件が解決するまでは、付き合いはひかえよう、って言うことになったんだよ……。やっぱり、今は任務が一番だから、って……」

「それで沢田くん、なっとくしたん?……」

「うん……。しかたないからね……」

「それ、……もしかしてわたしのせいなんじゃ……」

「ちがうよ。……北原は、任務のことだけ言ってた……」

「……そう……」

 アキコはそれだけしか言えなかった。複雑な思いではあったが、だからと言って、今サトシに対して自分の気持ちをどうこう言える訳でもなかったからだ。

「やあすまんすまん、お待たせお待たせ」

 声のした方に振り返ると、山之内が微笑を含んで立っている。

「缶コーヒー買って来たから、あっちのベンチで飲もうか」

「はい」
「はい」

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'アヴェ・マリア(カッチーニ) オルゴールバージョン 'mixed by VIA MEDIA

原初の光 第二十五話・信念
原初の光 第二十七話・覚悟
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