第一部・原初の光




 ジェネシス本部長室。

トントン

「どうぞ」

 入って来た山之内が、

「お呼びと伺いましたので参りました」

「これについて説明して貰いたいのだが」

と、伊集院は山之内にパソコンのモニタを示した。山之内は悪びれもせず、

「これがどうか致しましたか」

「この人物となぜ会っているのか説明したまえ」

「説明の義務はないと存じますが」

「山之内君、君が自衛隊の主任研究員と会見しているとなると、私としても無視出来ん。理由を説明したまえ」

「拒否致します」

「なにっ?」

 +  +  +  +  +

第二十五話・信念

 +  +  +  +  +

 流石の伊集院も山之内の態度に立腹したが、敢えて冷静に、

「どう言う事だね?」

 山之内は平然と、

「職務とは無関係な事で私が本部長の命令に従う義務はないからです。私のプライベートな問題に関して本部長が追求なさる権利もないと存じます」

「これは職務上の事だと思うがね。もし君が職業上の守秘義務に反して情報を自衛隊に流したと言う事になると、当然処罰に値する。説明して欲しいのだが」

「私が職業上の守秘義務に反した行為を行っていると言う証拠でもあるのですか」

「中国や韓国から、『要請に反してジェネシスが反重力エンジンに関する情報を自衛隊に流したのではないか』、と言う抗議が来ていた、との連絡が総務省を通じて外務省からあった事は知っているだろう。ジェネシスのからの情報は、『総務省預かり』になっていた訳だから、自衛隊が反重力エンジンを実用化したとなれば、まず疑いがかかるのはジェネシスだ。無論私はジェネシスから情報が流れた等とは考えていないが、外務省からこんな写真が回って来たら、私が君に事情を聞かねばならないのは当然ではないのかね」

「失礼ですが、本部長のお話では、私が守秘義務に違反した、と言う事の、状況証拠にすらなりませんね」

「どうしても言わない気かね」

「はい」

「なら仕方ない。行きたまえ」

「失礼致します」

 平然と出て行く山之内を、伊集院は憮然と見ていたが、

「仕方ない……」

と、電話機を手にした。

『総務省です』

「ジェネシスの伊集院です。高沢担当を御願い致します」

『高沢だ』

「伊集院です。先程の件ですが——」

 伊集院は高沢に今の経緯を説明し、

「——と、言う訳です。頑として話そうとしません」

『困った事だ。実は今、外務省の浜崎事務次官がこっちへ怒鳴り込んで来ていてな。この男に会わせろと言われているんだ。とにかく私と浜崎次官がすぐそちらへ行く。今17時半だから、18時にはそちらに着けるだろう。その男を外に出すなよ』

「了解致しました」

 +  +  +  +  +

 サトシとアキコは由美子と共に医療部に来ていた。医療部長の木原美由紀が由美子に向かって、

「うーん、ざっと診察した限りでは、二人ともどこも悪い所はないわねえ……」

 由美子も怪訝そうに、

「なら、どうして二人ともあんなに苦しんだの。医学的にはどうなるわけ?」

「医学的に言うと、神経性の急性胃炎、と言うやつよ。まあ、ありきたりの話になっちゃうんだけどね」

「要するに、前回の戦闘の時のトラウマがまだ尾を引いている、と言うわけ?」

「消去法で行くとそうなるわね。無論、徹底的に精密検査をやればまた違う結果がでるかも知れないとは思うわよ。……でも、短時間だとは言っても、少なくとも最新の検査設備で診ているのだから、そんなにいい加減じゃないわよ。それで診た限りではなにもないのよ」

「…………」
「…………」

 不安そうに話を聞いているサトシとアキコに、美由紀は、

「二人とも今はなんともないんでしょ?」

「はい。僕はだいじょうぶです」

「わたしもなんともないです」

「ふうむ……。そうなると、やっぱり前回の戦闘でのショックが残って、条件反射的に神経性胃炎を起こしているとしか思えないわね」

「でも、その時は二人とも立ち直ったのよ」

「それから後の方が問題よ。二人とも興奮状態からさめた後の反動が大きかったんじゃない? だとしたら精神的なものだから、根本的に治そうとすれば、気持ちが完全に収まるまで待つしかないわね」

 由美子も不安気に、

「じゃ、具体的にはどうすれば良いわけ?」

「当然、なにかはっきりとした精神的な原因があるなら取り除かなきゃだめよ。精神安定剤ぐらいならいくらでも出すけど、それでは根本的な解決にはならないわ。結局、どうするか、と言うことになると、結論から言えば、二人とも楽しいことでもやって元気を取り戻して貰うしかないわね」

「……そう。わかったわ。どうもありがとう」

 由美子はサトシとアキコの方を向き、

「……じゃ、行こうか」

「はい……」
「はい……」

 二人に元気のあろう筈もなかった。

 +  +  +  +  +

 高沢担当と浜崎次官の前で伊集院は山之内に、

「山之内君、もう一度聞く。この写真に関して説明する気はないのかね」

 山之内は平然と、

「はい」

「けしからん! 伊集院君! こんな男はクビだ! クビにしたまえ!」

と、浜崎は怒りをあらわにしたが、山之内は尚も平然とした顔で、

「浜崎次官、お言葉ですが、法律にも服務規定にも何ら違反しない者を何の理由もなく免職させる事は、充分法的手段に訴える理由になると存じますので念のため」

「くっ……」

 浜崎が思わず言葉を飲み込む。ここで伊集院が、

「まあ待ちたまえ、山之内君。浜崎次官も、申し訳ありませんが少々の御猶予を。……山之内君、君が会見していたこの人物は、自衛隊総合研究所の川島慶太郎主任研究員だ。あくまでも私見として言うが、私とて中国や韓国の要請が全て妥当な物だと言い切る事はしない」

 浜崎は血相を変え、

「おいおい、君まで何を言うんだ!」

「浜崎次官、申し訳ありませんが、私はここで『要請の妥当性』に関する議論をしようとしている訳ではありません。あくまでも『修辞』としてお聞き下さい」

 伊集院は浜崎に淡々と告げた後、改めて山之内の方を向き、

「……つまり、ここで『要請の妥当性』に関しては議論しないが、政府の方針として、『国際間の調整が完了するまでは、ジェネシスは自衛隊に反重力エンジンに関する独自の情報を提供する事は控え、総務省に預ける』となった訳だ。ならば、その決定には従わねばならない。それはわかるな」

「当然でしょうね」

「然るに、自衛隊が反重力エンジンを完成させ、更に、ジェネシスの情報担当が自衛隊総合研究所の主任研究員と会見していると言う事が判明した以上、『ジェネシスが自衛隊に情報を流したのではないか』と言う疑いをかけられるのはある程度やむを得まい。それはあくまでも『疑い』のレベルではあるが、ジェネシスにとって不利な材料とはなっても有利な材料にはならないと思うのだが、その点は同意して貰えるかね」

「概ね同意致します」

「そして、少しでもジェネシスに不利な材料があれば、それは取り除かねばならないのが本部長としての私の職務だ、と言う事も同意して貰えるかね」

「それも概ね同意致します」

「ならば、今回の件での君の行動は、『ジェネシスにとって不利な材料である』と判断せざるを得ない。よって、私はその真相を明らかにする義務があると考える。……と、言う事で、君に説明を『要請』している訳なのだが」

「成程。では、私の立場で申し上げましょう。まず、情報担当とは言え、『反重力エンジンに関する技術情報』は、本部長の許可を戴かない限り知る事は出来ません。従って、私は、『職務上、反重力エンジンに関する技術情報』を知らない事になります。それは認めて戴けますか」

「認めよう」

「ならば、私がジェネシスの外に『反重力エンジンに関する技術情報』を持ち出す事は不可能です。それから、勤務時間外に私が誰と交友関係を持とうが、それは私のプライバシーに属する事です。これが私の回答です」

 このやりとりを聞いていた浜崎が烈火の如く怒り出し、

「何を言うか!! そんな事は今関係ないだろう!! キサマが自衛隊の川島と何を話していたかが問題なんだ!! さっさと白状せんか!!」

「御断り致します」

「なにい!!!!!」

 山之内は、またもや平然と、

「職務とは無関係な事情で私が誰と何を話していようと、何度も言うようですが、それは私のプライバシーの問題です。ここで申し上げる義務は御座いません。私が職務上の守秘義務に違反したと言うのならば、その具体的な証拠を提示して下さい」

「キサマ!! 誰に向かって口を利いている積もりだ!! キサマ如きザコの一匹や二匹、何時でもクビを飛ばしてやる事ぐらい出来るんだぞ!!」

「どうぞ御自由に。その節は是非法廷でお会いしたいですね」

「く、クソめが!!! 眼に物を見せてくれるわ!!」

 浜崎はこめかみに青筋を立てて怒り狂っている。山之内は平然と上着のポケットに手を入れると、

「浜崎次官、あなたがどのような高い立場のお方でも、脅迫は厳然たる違法行為です。今のお言葉は全て録音させて戴いているのであしからず」

と、ICレコーダをつまみ出して見せた。浜崎は顔色を変え、

「それをよこせ!!」

と、山之内に掴みかかったが、山之内はさっと身を翻して避けると、

「ついでに申し上げておきます。このレコーダだけでなく、先程からの話の内容は全て無線で別室にある私の端末にも飛ばしていますので」

と、今度は小型無線マイクを取り出した。浜崎は流石に苦り切った顔で後ずさりをし、椅子に力なく腰掛ける。そこに高沢が割って入り、

「二人ともやめて下さい。こんな時にここでそんな事を言い合っても仕方ないでしょう」

 流石に浜崎も沈黙した。高沢は淡々と続け、

「山之内君、あくまでも私見だが、確かに君の言う通り、証拠のない事で個人を断罪する事は出来ないのは当然だ。ましてや、職務とは関係のない個人の交友関係に口出しする権利もない。……仕方なかろう。君と川島氏の会見が君のプライバシーに属する事だと君が言う以上、この話はこれで終わりだ。

 そして伊集院君。念のために確認しておくが、『反重力エンジンに関する技術情報』については、君の許可がない限り、機関部長の山上君と松下顧問以外は知る事は出来ないのだな」

 伊集院は頷き、

「はい、その通りです」

「そして、君の調査では、情報が漏れた形跡はない、と言う事だったな」

「はい、少なくとも私の調査ではその形跡はありません」

「ならば、結論としてはこうなる。『ジェネシスから自衛隊に反重力エンジンに関する情報が流れた形跡はない』、とね」

「高沢君!! 君まで何を言うか!! そんな幼稚な言い訳が通るとでも思っているのか!! その山上とか松下とかはどうなんだ!! そいつらが情報を流した可能性もあるだろう!!」

 浜崎は再び怒鳴ったが、高沢は、

「ならば、本部長たる伊集院君や情報を預かっている私が流した、と言う可能性もありますね」

 これでは、流石の浜崎も黙るしかなく、

「くっ……」

 高沢は更に続けて、

「まあ仕方ありません。自衛隊も独自に反重力エンジンの研究は行っております。それが完成したとしても別に不思議ではないでしょう。現にアメリカは完成させているのです。最終的には文書で回答させて戴きますが、取り敢えずここで口頭で申し上げるならば、『反重力エンジンの情報は漏れていない』と言う事です。御納得戴けなくても、総務省としてはそのように回答させて戴きます」

 それを聞いた浜崎は顔を真っ赤にして立ち上がり、

「よくわかった。高沢君、君もそれなりの覚悟はしておけよ」

と、言って席を立ち、部屋を出て行こうとした。その時高沢が、「やむを得ない」と言う顔で、

「次官、少しお待ち戴けませんでしょうか」

 浜崎が立ち止まったのを見た高沢は、山之内を見据え、

「……山之内君、ジェネシス内部の人員配置に関する権限は私が一手に握っている事は知っているな」

「存じております」

「ではジェネシス担当として君に通告する。君の本日の言動は、法律上も服務規定上も全く問題がない事は認めるが、種々の事情を鑑みると君は情報部よりも秘書室向きと判断した。故に、本日只今を以て、君の情報担当の職を解き、秘書室勤務、本部長付を命ずる。判ったな。書類はすぐに回す」

「有り難く拝命させて戴きます」

「宜しい。では早速君に命ずる。情報部の君のデスクから、もし私物があるのなら撤収し、秘書室の空いている机に移動したまえ。細川君には連絡しておく。職務に関しては伊集院本部長の別命あるまでは待機、と言う事になるが、伊集院君、どうかね」

「はい、異存は御座いません」

 高沢は改めて山之内の方を向き、

「では以上だ」

 ここで山之内は、

「了解致しました」

と、言い、平然と退室して行った。高沢は改めて、

「次官、お引き止め致しまして申し訳ありませんでした。以上、御覧の通りです」

 浜崎は苦り切った表情のまま無言で出て行った。

 二人が去った後、高沢が苦笑しながら、

「……しかし、ある意味においては大した奴だ。……参ったよ」

 伊集院も「どうしようもない」と言う顔で、

「申し訳ありませんがやむを得ません。確かにこの写真だけでは、何の証拠にもならない事は事実です」

「しかし、これからどうする? ……このままにはしておけんぞ」

「全ては私の責任です。……私の出処進退に関しては担当に全てお任せ致しますので」

「今君をクビにしても仕方ない事は良くわかっているよ……。しかし困った事だ」

 と、その時、

トゥルルル トゥルルル トゥルルル

 伊集院は受話器に手をかけ、

「すみません。ちょっと失礼します。……伊集院だ」

『おお伊集院君か。儂ぢゃよ』

 電話の主は中之島博士だった。伊集院は少々面喰い、

「これは博士! どうなさったんですか!?」

『ふぉっふぉっふぉっ。なに、ちと暇潰しに易などを立てておったら、面白い卦が出たのでな。それで、気まぐれで君に教えてやろうと思ってな。ふぉっふぉっふぉっ』

「はあ……、と、仰いますと?」

『風地観の一爻変ぢゃよ。後は君が解釈せい。ではな。ふぉっふぉっふぉっ』

「博士! どう言う事で……」

 伊集院は高沢の方を向き、

「切れてしまいました……」

 高沢がいぶかしげな顔で、

「どうしたんだね」

「いや、中之島博士からの電話でして、『ふうちかんのいちこうへん』とだけ仰って切れてしまいました」

「何の事だ? 訳がわからん」

「易なんですが、調べますのでちょっとお待ち下さい」

 伊集院はパソコンを操作してデータベースにアクセスした。

「君は易を知っているのかね」

「いや、殆ど知りません。……『ふうちかんのいちこうへん』……。これです。『風地観の一爻変』、『幼稚極まりない物の見方である。物事の裏に潜む真実を洞察せよ』……。何の事でしょうか……。あっ! もしかして……」

「何かわかったのか?」

「いえ、もしかすると、自衛隊が接触したのは中之島博士ではないかと」

「なに? 博士にだと?」

「まあ情報と言いましても、あの人は暗喩するだけですが、理解出来る人間にとってはヒントの宝庫です。しかし、中之島博士とは……。山之内も自衛隊も上手い方法を考えたものです」

「そうか。博士は完全なる民間人だからな……。如何に、オクタヘドロンと反重力エンジンの基本部分の開発者だと言っても、ジェネシスの顧問ですらない上に、暗喩するだけとなると、誰が接触しようと文句は言えない訳か……」

「はい。基本仕様の部分と、こちらで新たに追加開発した技術に関してはウチの守秘義務の範囲ですが、それ以降に博士が御自分で開発なされた技術に関しては、武器輸出などの規制にかからない限りはどうする事も出来ません。特に、オカルト理論に関する部分などは技術ですらありませんからね。ましてや、禅問答のようなやり方で自衛隊の開発内容の問題点を博士に伝え、それに対するアドバイスを暗喩で返してもらうと言う形で情報交換すれば、他者から見れば何をやっているのかはサッパリ分からないと思います。……ちょっとお待ち下さい」

 伊集院は電話機に手を伸ばし、

「……情報部か。伊集院だ。山之内君はそこにいるかね。……そうか。ではすぐにこちらによこしてくれ。……そうだ。すぐにだ」

 +  +  +  +  +

 ラウンジで、由美子が、

「まあ仕方ないじゃない。あんまり気にしないでゆっくりすれば」

「はい。……どうもすみません」

「わたしも、……すみません……」

と、サトシとアキコはうなだれているが、由美子は、

「なに言ってんのよ。調子がいい時もあれば悪い時もあるわよ。気にしないで元気出してよ」

と、苦笑し、

「まあとにかく訓練の方は無理しないでのんびりやりましょ。今日は二人とも部屋に帰ってたっぷり休んでね」

「はい……」
「はい……」

 +  +  +  +  +

「山之内君、個人の資格で個人としての君に聞きたい事があるのだが、構わないかね」

「私の答えられる事でしたら」

「高沢担当に御同席戴いても構わないかね」

「ええ、個人としてのお立場でしたら」

 伊集院が高沢を見る。高沢は頷いた。

「では、よかったら教えてくれ。君は中之島博士とはどう言う関係があるのだね」

「個人の資格で、昔から親しくさせて戴いております」

 それを聞き、伊集院は嘆息を漏らすと、

「……ふーむ、では、自衛隊総合研究所の川島氏とは?」

「『自衛隊総合研究所の川島氏』とは特に関係は御座いません」

「そうか。では、川島慶太郎氏と言う人が君の『個人的な知り合い』にいるかね」

「それでしたらおります」

「どう言う関係か教えて貰えるかな」

「『同好の士』とだけ答えさせて戴きます」

「いつからの知り合いだね」

「『昔からの知り合い』と申し上げておきます」

「川島氏と君は中之島博士のところで会った事があるかね」

「中之島博士と川島氏のプライバシーに関する御質問には、現在の私の立場では答えさせて戴く訳には参りません。博士と川島氏の許可をお取り下さい」

「そうか。……わかった。どうもありがとう」

「どう致しまして。……退室の許可を戴けますか」

「許可する」

 山之内が退室して行った後、高沢は苦笑し、

「やれやれ。これではどうしようもないな……。本当に『自衛隊が独自に開発した』としか言いようがない……。『瓢箪から駒』か、それでやむを得ないな」

「申し訳ありません。私の不手際です」

「まあ仕方ないさ。君の責任ではない……。『ジェネシスからの情報』としては流れていない以上、それで突っ張り通すしかあるまい……。

 まあ、個人的には、彼に『感謝する気持ち』もないではないのだがね。『自衛隊が独自に開発した』事には違いないし、大体、前回の戦闘においては、自衛隊の協力がなかったら、正直言ってどうなっていたか判らなかった事も事実だしな」

「おっしゃる通りです。確かに前回の戦闘で自衛隊に大いに助けて戴いた事は感謝致しております」

「うむ、自衛隊の戦力アップのおかげで対マーラ戦略においてはジェネシスも楽になるのだからな。……大体、アメリカも本音では『自衛隊の戦力アップはこちらも助かる』と言って来ているんだ。……ここだけの話だがね。……しかし、人事に関してはどうする? 山之内を情報担当から外したが、元に戻すかね」

「いえ、彼がこう言う行動をとったと言う事は、ある意味においては『確信犯』なんでしょう。こうなる事を想定して動いていたのだと思います。ならば、このまま私の下で使います。

 ……正直申しまして、人類の存亡を賭けた戦いにおいて、国際的な『足の引っ張り合い』をやっている、と言う事は、実に情けない話です……。もし人類が滅んでも、それも宿命なのではないか、とつくづく思いますよ……」

 伊集院も苦笑していた。

 +  +  +  +  +

 山之内は本部の中庭の片隅にあるベンチに座ってスマートフォンを取り出した。

『中之島ぢゃが』

「どうも博士、山之内です」

『おお、山之内君か。ふぉっふぉっふぉっ。調子はどうぢゃな』

「御協力戴きまして有り難う御座います。全て予定通りです」

『そうか、それは何よりぢゃ。伊集院君も儂の電話でようやく気付いたようぢゃのう。……しかし、あやつも勘働きの鈍い奴ぢゃ。ふぉっふぉっふぉっ。しかし君はどうなんぢゃ。クビの方は繋がっておるかの』

「はい。情報担当から秘書室に回されましたが、何とかクビの方だけは繋がりました。……まあ、私如きのクビぐらい、日本、ひいては世界のためには幾らでも差し出しますがね。とにかくそう言う事ですので御報告まで。……ここだけの話ですが、防衛省の方でも博士には感謝しているようですし……」

『ふぉっふぉっふぉっ。儂は防衛省には何も感謝されるような事はしておらんぞ。何か勘違いしておらんかの。ふぉっふぉっふぉっ』

「そうでしたね。失礼致しました」

『まあとにかく君も頑張りたまえ。ふぉっふぉっふぉっ』

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'IN THEME PARK ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)

原初の光 第二十四話・潜行
原初の光 第二十六話・衝撃
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