第一部・原初の光
突然のアナウンスに館内は騒然となった。思わずアキコが、
「えっ! マーラが来たん!!!???」
と、叫んだ時、
トゥルルル トゥルルル トゥルルル
『中畑です。沖縄嘉手納米軍基地にマーラ出現! オクタのパイロットは直ちに出撃の準備をして!』
「形代です! 出撃いうても、どうするんですか?! わたしら、今ホテルですよ!」
『大丈夫! 準備はしてあるわ! 沢田、形代、北原の3名はホテルのロビーで待機していて!』
「了解しました!」
アキコは大急ぎでロビーへ駆け付けた。見ると、サトシとリョウコも駆け付けて来たところのようだ。二人とも顔面が蒼白である。
「沢田くん! 北原さん! どうなっとるん!?」
「わからないよ! とにかくここで待ってろ、と言うことみたいだ!」
その時ロビーにジャンプスーツを来た一人の少年が飛び込んで来て、
「お待たせ! 準備は出来とるで! すぐ着替えてや!」
マサキだった。手にはサトシたちのジャンプスーツを持っている。サトシは驚き、
「四条さん! どうしてここに!?」
「話は後や! とにかく準備しいや!」
三人は手渡されたジャンプスーツを持ち、ホテルの事務所に駆けて行った。
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第二十話・混乱
+ + +
騒然としたジェネシス中央制御室に伊集院の怒号が響き渡る。
「ナーガとキナラの出撃準備はどうなっている!?」
『こちら機関部山上! 出撃準備は完了です! いつでも出られます!』
「通信部! 中継ブースタを京都・沖縄間に飛ばせられるだけ飛ばしておけ! 絶対に通信を絶ってはならんぞ! 通信部加藤君! 中央でオペレーションの補助を頼む!」
『こちら通信部加藤! 了解しました! 今行きます!』
「中畑君! パイロットは!?」
「玉置、橋渡の両名が出撃準備中! すぐ出られます! しかし、全機沖縄へ送ってよろしいんですか!?」
「構わん! 今は出現したマーラの撃退が最優先だ! それから中畑君! 予備の操縦カプセルで君も沖縄へ飛べ!! ナビはナーガとキナラにやらせればいい! 君は乗っているだけで現地へ行ける!」
「了解しました! 機関部! 予備のカプセルの準備はどう?!」
『こちら山上! 予備の4機全て飛ばせられます!』
『こちら松下だ! 中畑君! 君は車の運転は得意だったな!』
「はい! 大丈夫です!」
『ならば大丈夫だ! 空中戦までは無理としても、現地へ飛ぶぐらいは簡単に出来る! 現地では充分気をつけて回避行動をとるんだぞ!』
「了解! ありがとうございます! では本部長! 出撃します!」
「うむ! 頼んだぞ!」
由美子が早足で中央制御室を出て行った直後、オペレータの末川真由美が、
「嘉手納基地からの映像が入りました! メインモニタに映します!」
メインモニタに映し出された映像に、伊集院は思わず、
「なんだこれは!!!!」
モニタに映ったマーラは、まるで太古の恐竜だった。丁度ティラノザウルスのような姿をしているが腕はずっと太くて長い。全身は黒っぽく、体高は15メートルはあろうか、尾まで入れると体長は25メートルはあると思われた。
「まるで伝説のドラゴンか! くそっ! こんな奴がよりによって米軍基地に出てくるとはな! やりにくい事この上ないじゃないか!」
無理もない。如何に緊急事態とは言え、米軍基地内は一種の治外法権地帯である。ジェネシスと雖も、在日米軍の依頼なくしてオクタヘドロンを送り込む訳には行かない。その時、
「本部長! オモイカネの分析結果は出たか!?」
と、息せき切って駆け込んで来たのは松下である。
「まだ出てません。しかし、よりによって米軍基地とは……。参りましたよ……」
「確かにな……。本部長、これは最早疑う余地はないな……」
「『シナリオ』ですか……。私もそう思いますよ」
伊集院は気持ちが暗くなって行く事を抑えられなかった。
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サトシ達がジャンプスーツに着替えてロビーに戻って来ると、そこは避難のためシェルターに向かう人々でごった返していた。
「おう、来たか! ほんなら行くで!」
マサキが号令をかけ、四人は表に出た。見るとホテルの駐車場の片隅に4機の操縦カプセルが置かれている。足早に移動しながら、サトシはマサキに、
「四条さん、なんでここに来てたんですか?」
「いや、本部長と由美子さんの命令でな。君らが沖縄へ来た時からずっとこっちで待機しとったんや。無論、オクタも4機連れて来てるで。今、海の中に隠してあるけどな」
「そうだったんですか……。でも、なんで本部長は……?」
「僕にもわからんのやけど、なんや、胸騒ぎがする、言うておられたんや。君らには気の毒やけど、悪い予感が当たってしもうた、ちゅうこっちゃな。ま、とにかく乗り込も。オクタはここの沖合に置いてあるさかいに、すぐドッキングも出来るで」
四人は慌ただしくカプセルに乗り込み、シートベルトを締めた。カプセル内にマサキの声が響く。
『みんな乗ったか? とりあえず海の上に出て待機や。行くで!』
4機のカプセルはそれぞれ離陸し、海に向かって飛行して行った。
+ + + + +
嘉手納基地滑走路に何の前触れもなく突如出現したマーラは、まるで自分が陸の王者だと言わんばかりの様子でゆっくりと格納庫の方へ歩いていた。
「何の前触れもなく」、とは言ったが、実はそれらしき兆候はあった。滑走路中央部に黒いシミのような物が突然現れたと思う間もなく、その黒いシミが盛り上がって恐竜のような姿になったのである。
流石の在日米軍も驚き慌て、基地は上へ下への大騒ぎとなったが、そこは世界一の軍隊を擁するアメリカである。すぐにマーラの迎撃態勢に入った。
マーラが現れたのは滑走路だったとは言え、反重力エンジンを搭載し、レーザーとメーザーを装備した垂直離着陸戦闘機が幸いにして実戦配備されつつあったため、戦闘機は次々と離陸して行った。無論、他の基地からの応援も飛んで来た。
「司令部。コチラ嘉手納804、目標ヲ補足シタ。攻撃ニ移ル」
『了解シタ』
最新鋭のVTOL、FV−30がホバリング気味にゆっくり飛行しながらマーラを照準に入れ、レーザーを発射した。レーザーはマーラに命中したが、やはりサイコバリヤーのせいでレーザーは受け付けないのか、光が乱反射するだけである。マーラは「何処吹く風」と言った様子で悠然と歩を進めていた。
『コチラ嘉手納902、攻撃ニ移ル』
『コチラ嘉手納705、攻撃ニ移ル』
3機の戦闘機は連続してメーザーを照射した。しかし、これも全く受け付けない。マーラは全く意に介していないようだ。このままでは格納庫に到達してしまう。
『コチラ司令部。ミサイル攻撃ヲ許可スル。ミサイルデ攻撃セヨ』
『902了解シタ』
「804了解シタ」
『705了解シタ』
3機の戦闘機は散開し、距離を取って同時に各機2発のミサイルを発射。
バシュゥゥーーーーーーン
バシュゥゥーーーーーーン
バシュゥゥーーーーーーン
バシュゥゥーーーーーーン
バシュゥゥーーーーーーン
バシュゥゥーーーーーーン
ミサイルは正確にマーラに向かって飛んで行く。
ドゥォォォォォォォォーーーーンッ!
ドゥォォォォォォォォーーーーンッ!
ドゥォォォォォォォォーーーーンッ!
ドゥォォォォォォォォーーーーンッ!
ドゥォォォォォォォォーーーーンッ!
ドゥォォォォォォォォーーーーンッ!
6発のミサイルが命中し、マーラは粉々に砕けた。あたりには煙が漂い、肉片と思しき物体が飛び散っている。
『コチラ902、任務完了シタ。帰還スル』
『コチラ司令部。了解シタ。応援機ハ原隊ヘ帰還、処理班出動セヨ』
応援機はそれぞれの基地へ戻ろうとし、3機の戦闘機は上空を旋回して帰還しようとした、その時であった。
「コチラ804! 目標ノ残骸ニ異状!」
爆発の煙が薄れた時、パイロット達は信じられない光景を目の当たりにした。飛び散ったマーラの残骸が目にも留まらぬ速さで集まり出したと思う間もなく、3つの小山が出来たのである。そして、次の瞬間、その3つの小山は巨大化し、それぞれマーラに変化したのだ。
「コチラ804! 目標ハ復活シ3体ニ分裂! 攻撃ヲ再開……」
通信の最後はノイズに掻き消された。
「グワアアアアアアアアッ!」
「グワアアアアアアアアッ!」
「グワアアアアアアアアッ!」
3体のマーラは同時に咆哮を上げたかと思うと、口を開き、3機の戦闘機に向かってそれぞれ「火」を噴く。
ドォォォォォーーーーーンッ!
ドォォォォォーーーーーンッ!
ドォォォォォーーーーーンッ!
「火」をまともに食らった3機の戦闘機は、あっと言う間に爆発して墜落してしまった。
「グワアアアアアアアアッ!」
「グワアアアアアアアアッ!」
「グワアアアアアアアアッ!」
マーラは再度咆哮を上げ、信じられない素早さで上空を飛行する戦闘機に向かって連続して「火」を噴きかける。躱す間もなく戦闘機は次々と爆発した。
「グワアアアアアアアアッ!」
「グワアアアアアアアアッ!」
「グワアアアアアアアアッ!」
飛行中の戦闘機を全て撃墜したマーラは雄叫びを上げ、またもや格納庫に向かって進み始めた。しかし、今度は前回とは違い、驚いた事に、移動速度が格段に上がっている。
『総員退去セヨ! 繰リ返ス! 総員退去セヨ!』
基地全体に非常放送が鳴り響いた。
+ + + + +
「何てバケモノだ……」
蒼白な顔でメインモニタに映る映像を見ていた伊集院はそれだけ言うのが精一杯だった。
「オモイカネの分析結果、モニタに出ます!」
末川真由美が言うと同時に、メインモニタの一角にウィンドウが開き、
”コノマーラノ放出セシ物ハスペクトル分析ニヨレバ火ニハアラズ、プラズマジェットナリ。直撃ヲ受クレバオクタヘドロント雖モ持チ堪フル保証ハナシ。カプセルノミナラバ破壊サルル可能性ハ極メテ大ナリト言ヘリ。分離スベカラズ。更ニコノマーラハ破壊サルルモ自己ノ能力ノミデ再構成サレタル状況ヲ鑑ミレバ、姿コソ恐竜ヲ窺ハセルトハ言ヘ実体ハ微生物ノ群体ト推察サルル。プラズマヲ放出セシ方法ヲ推察スルニ恐ラクハ内部ニテ空洞ヲ構成シ高温高圧ノガスヲプラズマ化セシモノト思ハルル。更ニサイコバリヤーノ存在モ併セテ考慮セバ、コノマーラニハ物理的攻撃及ビレーザー等ノビーム攻撃ハ有害無益ト推察サレリ。長剣ヲマーラニ突キ立テシ後マントラウエーブヲ発生サセ内部ヨリ霊的ニ破壊スベシ”
伊集院も松下も無言で青ざめている。その時加藤由美が、
「本部長! 在日米軍総司令部より連絡が入りました! ジェネシスの出動を要請するとの事です! 尚、今後このマーラを『サラマンダー』と呼称する、との連絡も入りました!」
「中畑君聞こえたか! 出動要請が出たぞ!」
『はい! 聞こえました! 現在我々は足摺岬南方を沖縄へ向かって飛行中! 最大速度で飛行しているため、後約20分で目的地に到達の予定です!』
「了解した! 現地に行っている4機には準備が出来次第、先に出撃させる!」
『了解!』
「こちら本部! 沖縄の先発隊聞こえるか!?」
+ + + + +
「こちら沖縄の四条! 現在万座沖で待機中です!」
『こちら本部だ! 米軍の要請が来た! 各機ドッキングして現場へ飛べ! 聞いたと思うがプラズマの直撃を受ければ安全の保障は出来ないぞ! 充分注意しろ!』
「了解! アスラ出撃します」
『こちら北原! ディーヴァ出撃します!』
『こちら形代! ガンダルヴァ出撃します!』
『こちら沢田! ガルーダ出撃します!』
各パイロットは操縦捍を握って念をこらした。すると、海中から4機のオクタヘドロンが次々と浮上し、空へ向かって飛び出して来る。4機のオクタはそれぞれカプセルとドッキングし、嘉手納基地に向かって飛行して行った。
+ + + + +
「『サラマンダー』か……。皮肉なもんだが、ぴったりの名前だな……」
それを聞いた加藤由美が、伊集院に、
「本部長、『サラマンダー』とはどう言う意味です?」
「なんでも、西洋の伝説に出て来る『火を司る精霊』で、ドラゴンのような姿だと聞いているが……」
「その通りです。全く皮肉な名前を付けたもんですな……」
と、丁度中央制御室に駆け付けた岩城が相槌を打つ。伊集院は頷き、
「ああ岩城先生。御苦労様です。……しかし今回の攻撃方法はマントラウエーブだけとは……、心細いですよ……」
しかし岩城は努めて冷静に、
「まあ彼等の能力も進歩していますからね。松下先生」
「うむ。コンピュータが発生させるマントラウェーブをより効果的に使ってくれる事が期待できるからな。……しかし本部長。やはりオモイカネの言うように、後から襲いかかり長剣を突き刺してマントラウェーブを発生させる、しかないのかねえ?」
「それしか方法はないでしょう。しかし、相手は非常に速く動ける上に、下手に切って体を分断したら敵を増やしてしまいかねません……。どうすべきか、ですね……」
伊集院も苦悩の色を隠せなかった。
+ + + + +
嘉手納基地は地獄の様相を呈していた。3体のサラマンダーは格納庫に達すると手当たり次第にプラズマを吐きまくっている。なにしろ航空燃料や弾薬が大量に存在する飛行場の事だ。見る間にあたり一面は爆発炎上して火の海となり、黒煙がもうもうと舞い上がっていた。
格納庫を完全に破壊すると、サラマンダーはそれぞれに別れて建物や設備にプラズマを吐きまくった。逃げ遅れた人々の悲鳴と怒号が上がるが、やがてそれも爆発音と火災で発生した強烈な上昇気流に吹き込んでくる強い風の音に掻き消されて行った。最早基地は完全に破壊され、一切の機能を停止した状態であった。
+ + + + +
「ひどすぎる……」
現場へ駆け付けたサトシはそれだけ呟くのが精一杯だった。マサキもリョウコもアキコも絶句している。
3体のサラマンダーはオクタヘドロンの事など全く意に介していない様子でプラズマを吐き続けている。最早そこは基地と言える状態ではなく、プラズマで溶けた金属の固まりと爆発で砕けたコンクリートの瓦礫の山でのみであり、生存者の存在も絶望と言える状況であった。仮に生存者がいたとしても、この状況では確認も救出も事実上不可能である。
『こちら四条! 現場に到着しました!』
『こちら伊集院だ! 基地からの映像は先刻途絶えた! オクタからの映像に切り替える! 各機待機せよ!』
『四条了解!』
「沢田了解!」
『形代了解!』
『北原了解!』
その時、由美子からの通信が入って来た。
『こちら中畑! 後約15分で到着の予定! 先発隊はそのまま待機して!』
その時サトシは初めて「死」と言う言葉を意識した。マーラとの過去2回の戦闘では不思議な事に死者は出なかったのだが、流石に今回は多くの人が死んだのだろうと思うと、何とも言えない暗い気持ちと恐怖感が湧き上って来る事を止められなかった。
(死ぬかも知れない……)
無論死にたくなどある筈もない。しかし、「死ぬかも知れない」と言う思いで起こる恐怖心に、「死にたくない」と言う意志すら押しつぶされそうになるのだった。
+ + + + +
「何と言う事だ……」
メインモニタの映像を見た伊集院はそれだけしか言えなかった。その時、真由美が振り向き、
「本部長! 通信にノイズが入って来ました! 過去2回と同じパターンのノイズです! マーラに間違いありません!」
「通信状況はどうだ! 支障はないか!?」
「今回のノイズはパターンこそ同じですが過去2回よりかなり微弱です! 現在の所通信そのものには支障ありません!」
「了解だ! 監視を続けてくれ!」
(くそっ! 祇園寺の奴、どうせ分離戦闘は出来ないのだから通信ぐらいは幾らでもさせてやる、と言うシナリオなのか!)
無論、「祇園寺のシナリオ」等と言うのは、根拠のない想像に過ぎない。しかし、だからこそ余計に、伊集院としては、はらわたが煮え繰り返る思いだった。
+ + + + +
基地を壊滅に追い込んだ3体のサラマンダーは、「何かやれるもんならやってみな」とばかりに去りもせず悠然と立っていた。まるでオクタヘドロンを挑発しているようにさえ見える。
(どうなるんだ……)
サトシは空中に停止したまま懸命に不安感と戦っていた。
+ + + + +
シンジは暗黒の次元の中で一人座って心を観ていた。最早「青い星の光」の事も意識にはない。
その時だった。
「…………!」
シンジの頭の中に小さな青い星のような物が浮かび、それが段々と強く光り出したと思ったら、突然その星はシンジの眉間を突き抜けて外に飛び出したのである。
「なんだ!!!」
シンジは驚いて眼を開き、眼前に出現した星を見た。するとその星は徐々に大きくなり、丁度一抱えあるぐらいの大きさの球となったではないか。同時にそれは徐々に透明度を増し、何とも美しい透明なサファイアブルーになった。
「これは!?」
思わずシンジは刮目した。その球の中に三つの映像が浮かんでいる。それは何か飛行機の操縦席のように思える。そしてそれぞれの操縦席には自分と同じぐらいの年齢の一人の少年と二人の少女がいる。
「綾波!? アスカ!? 僕!? ……いや違う! これは僕じゃない! この子も綾波じゃない! あの子だ! あの時来たあの子だ! ……と、すると、こっちの子もアスカじゃないんだ!」
シンジは「綾波そっくりの少女」がリョウコである事を察した。同時に「自分にそっくりな少年」は、「リョウコが言っていた『シンジにそっくりな少年』」であると言う事と、「この『アスカにそっくりな少女』も彼等の仲間だ」だと言う事も察した。
「しかしこれはなんだ?… なんでこんな映像が見えるんだ?……」
その次の瞬間、その球の中の映像全体の「拡大率」が、まるでカメラのズームを引くように変化して行き、
「!!!!!!」
シンジは驚愕した。彼等の映像が縮小して行くのに伴って、彼等をそれぞれ包むように巨大な人型の物体の半透明な映像が現れて来たのだ。そして「人型の物体」は透明度を下げ、大きなロボットのような形を現した。しかし、何故か胴体の一部はスポットライトが当たったような形に透明になっていて、その中にパイロットがいる事が認識出来る。更には周囲の光景も浮かび始め、
「エヴァ!? ……ちがう! エヴァじゃない! これはあの子が言ってたロボットだ!! 全部で4機!? 空を飛べるのか!? なんだこの場所は!? 火とガレキの山じゃないか! ああっ!? 怪物!? それも3体も! 使徒か?! ちがう! これがあの子の言っていた魔物か?!」
シンジは我を忘れて映像を凝視し続けた。
+ + + + +
「なにこれーーーっ!!?? なんでこんなところにあたしやファーストやシンジがいるのよーーーっ!? いや、ちがうわっ! これはあの子だわっ! かたしろ、って子よっ! いったいどう言うことなのよーーーーっ??!!」
タロットに描かれた太陽の光芒が突然青く光り、その中に不思議な映像が現れたのを見たアスカは、思わず叫んでいた。
「これは?! そうか! あの子が言っていた『オクタヘドロン』ね! でもなんでファーストやバカシンジがいるのよっ! そうか! そうじゃないのよっ!あたしとかたしろさんみたいに、そっくりな子がいるんだわっ! それになに?この怪物! これがあの子が言っていた『まーら』なのっ?!」
+ + + + +
「サトシくん!!! ……この子、わたし!? アスカも!?……」
青い光と共に現れた映像の中に浮かぶ映像に引きずり込まれていたレイは、
「ああっ!! この子、わたしじゃない!!」
思い出した。以前見た「見た事もない機械に囲まれた、自分そっくりな少女」の映像を。そして、
「この子、サトシくんの言ってた子だわ!! こっちの子もアスカじゃないんだわ!!」
改めてリョウコを凝視すると、まるで自分を見ているようだ。
「この子……、わたしじゃないけど、……わたし……だわ!」
何の根拠もなかったが、レイはリョウコと自分には何か深い縁があると直感した。
+ + + + +
松下は苦渋の表情を浮かべ、伊集院に、
「本部長、具体的にはどうやって倒す? もし敵が羊羹みたいに軟らかい体だった場合、下手に長剣を突き刺す訳にはいかないぞ。相手が動けば体が分断されてしまう」
「敵は3体です。……冒険ですが、こちらが2機で一組となり、1機が組み付いて相手の動きを止め、敵の頭部を上に押し上げてプラズマの直撃を避ける。そして、もう1機が後方から長剣で攻撃する。これしか方法はありますまい」
「しかし組み付く方は極めて危険だぞ。プラズマを避けつつ組み付かねばならんからな……。『質量・慣性中和システム』をフル稼動させれば相手の攻撃は避けられるとは思うが……」
「組み付く寸前に自動戦闘モードに切り換え、カプセルを分離すべきでしょう。後は、プラズマを食らわないように回避行動をとらせるしかないと思います。……いずれにせよ中畑君達が到着してからです。それまでは下手に動けませんな……」
+ + + + +
サトシはジリジリしながら由美子達の到着を待っていた。
(落ち着かない……。こわい……。どうしたらいいんだ……)
イライラした気持ちのままサラマンダーを見た時、1体のサラマンダーがこちらを向き、
「うっ!?……」
サラマンダーの眼が何とも嫌な色に光ったと思った瞬間、サトシの心の中に、恐怖、嫌悪、憎悪、と言った感情が湧き起こって来た。そして、何故かその感情は、「自分はリョウコが好きなのにレイの心を弄ぶイヤな奴だ」と言う自己嫌悪の感情とリンクしている。
(なんでこんな時にこんなことを思い出すんだ! だめだ! やめろ! やめるんだ!)
+ + + + +
(なんでこんな時にこんなこと考えてるんよ! だめよ! 今はこんなこと考えてる時じゃないけん! 忘れるんよ! しっかりせんと!)
不運な事にアキコもサラマンダーの眼の光を見てしまっていた。すると、昨夜の「サトシとリョウコのキスシーン」が心に浮かび、どうにもならない嫉妬心と自己嫌悪の感情が湧き上って来たのである。
(沢田くんと北原さんがキスしてたって、今は関係ないんじゃけん! 忘れるんよ! 忘れるんよ! アキコ!)
+ + + + +
(とにかく今は忘れるんだ! 戦いに集中するんだ!)
サトシは少しでも気を紛らわそうと、スクリーンに映る周囲の状況を見回した。基地はもはや原形をとどめていないが、一個所だけ建物が完全には壊れていない所がある。サトシが何気なくそちらを見た時、
「……あれは???!!!」
半壊した建物の陰にかすかに動くような物が見えた気がした。目を凝らしてその方向を見ると、スクリーンにウィンドウが開き、その個所が拡大され、
「……生きてるのか!!!???」
スクリーンに映し出された映像には、二人の人間が映っている。一人は大人の女性であり、一人は四、五歳ぐらいの子供であるように見えた。二人とも地面に倒れている上、吹き込んでくる強風で衣服がはためいてるため、目視だけでは生きているのかどうかは判らない。しかし、その時のサトシにはそれを冷静に考えるだけの余裕はなかった。自己嫌悪に苦しんでいる最中に目撃してしまったため、「人助け→善行→自己嫌悪からの逃避」と言う単純な思考パターンに陥ってしまっていた。
「助けなくちゃ! ……本部! 生存者らしき者を発見しました! 救出に向かいます!」
サトシはそれだけ言うと飛び出した。
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'たとえ、君を抱いても ' composed by QUINCY (QUINCY@po.icn.ne.jp)
原初の光 第十九話・意地
原初の光 第二十一話・悲痛
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