第一部・原初の光




「ああっ!!」

 突然再び現れた青い光の中の映像にレイは愕然とした。

「わたし!?……」

 何と、さっき見た「シンジがいたコックピットの映像」と同じコックピットの中に自分がいる。

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第九話・同調

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「どう言うこと!?」

 その「映像の中の自分」が、まるで「今、ここにいる自分」であるかのような気持ちで、レイは映像を見詰めた。

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『リョウコちゃん! 応答してっ! リョウコちゃんっ!』

 由美子の叫びが無線に飛び込んで来た直後、

『だいじょうぶです。心配かけてすみません。一瞬目がくらんでしまって』

 リョウコからの応答である。サトシはほっとし、気を取り直した。

『よかった! 大丈夫?! 失神したんじゃないの!?』

『いえ。気はたしかです。だいじょうぶです』

 その時サトシは妙な事に気付いた。声こそ確かにリョウコだが、調子が微妙に違う。まるで前の戦闘の時、リョウコが口走ったうわ言のような感じだ。

(あの話し方……、綾波レイ!!?)

 サトシは背筋に寒気が走るのを感じた。

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 中央制御室には重い空気が漂っていた。全員が現状を打開するための策を懸命に考えていたが、気が焦るばかりで名案が浮かばない。伊集院も由美子も顔に焦燥の色を浮かべている。その時、メインモニタの一角にウインドウが開き、

”コノマーラノサイコバリヤーニハメーザー攻撃ハ逆効果ナリ。オクタヘドロンノ反重力フィールドヲ応用シ、敵ノバリヤーヲ中和無力化スベシ。エネルギー光線モサイコバリヤーノ波動ノ利用ト推定サルルガユエ、一石二鳥ナリ。反重力フィールドヲパイロットノ精神波動ニ同期サセ、マントラノ波動ヲ加フルベシ。ソノ後マーラノ下方ニ潜リ込ミ、剣ニモ波動ヲ伝ヘ、中心部ヲ攻撃スベシ”

「直接攻撃か! しかし、危険が大きいぞ! 突入時にもし光を食らったら反重力フィールドは大丈夫か!?」

 伊集院は苦渋の表情だ。その時、由美子の脳裏にアイデアが閃き、

「そうだわ!! 末川さん! 『動物体電気』のキーワードでオモイカネに判断させて!」

「了解! …………インプットしました!」

”『動物体電気』ノ観点カラ推察セバ、コノマーラハ一度発光シタ後ニハ一定ノ時間ヲ経過後ニアラザラバ発光不能ト推定サレリ。予測デハ現在ヨリ四分二十三秒ハ発光スル事能ハザルナリ”

 これを見た由美子は決断した。

「本部長! 直接攻撃の許可を!」

「うむ! やりたまえ!」

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 オモイカネからの指示を操縦カプセルのモニタで見ていた六人は流石に顔色を変えていた。如何にカプセルを分離して戦うとは言っても、実際に物理的に接触して戦う事は、一応考えてはいても実感がない。更に「感情移入」の問題が不安感を一層増幅させる。

『みんな聞いた!? 直接攻撃を敢行します! しかし、感情移入の問題があるから、迂闊には突っ込めないわ! 特に精神の動揺の激しい人には向きません。どうしても恐い人は今申告して! 蛮勇を振るって突っ込まないと駄目だと思うから!』

 前回の戦いの事を思い出し、サトシは恐怖を感じた。

(どうしよう……。この前みたいなことになったら……)

 その時だった。

『わたしが中和をやります』

 リョウコの声である。その直後、迷っていたサトシの心に一筋の光明が射すように、さっきの綾波レイの声が蘇る。

(『逃げちゃだめ.戦うのよ』)

(『おねがい、心を開いて.わたしはあなたの力になりたいの.おねがい.わたしの心を受け入れて』)

 サトシは思わず叫んでいた。

「僕もやります! 北原と一緒に中和をやらせて下さい!」

 続いてマサキが、

『攻撃は僕がやりまっさ!』

 由美子は、心配そうに、

『リョウコちゃん大丈夫? 無理しちゃだめよ!』

『だいじょうぶです。わたしが最初に突入し、マーラのサイコバリヤーを中和します。そのあと、攻撃して下さい』

『わかったわ! じゃあ、ディーヴァが最初に突入。敵のバリヤーを中和。ガルーダは短剣を装備して敵のバリヤーを中和しつつ、もし可能ならそのまま攻撃して!! その後アスラが長剣でとどめを刺すのよ! それからバックアップ班! 役割を決めておくわ! サリナちゃんが中和。アキコちゃんは二番手。タカシ君は攻撃ね!! 私が指示したら即座にカプセルを分離してオクタを突入させるのよ!!』

『形代了解!』
『橋渡了解!』
『玉置了解!』

『では行くわよ! ガルーダは短剣! アスラは長剣を装備!』

 サトシが念ずるとガルーダは肩から短剣を抜いて構えた。隣を見るとアスラは長剣を装備している。サトシは全身の血が逆流する程の激しい動悸を感じた。それが良からぬ連想を呼び、

(なんでこんな時に、北原に綾波の存在を感じたんだろう……。どう言うことなんだ……。まさか、実は北原は一瞬失神して、その時に! ……だめだ! こんなこと考えてちゃだめだ! 今は戦いに集中しなくちゃ!)

 サトシは必死に疑念を振り払った。スクリーンの一角にリョウコの映像が映っている。

『準備いいわね!? では突——』

 その時、マーラの斑点が不規則な光を発し始めた。

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「中畑主任!! 分離中の3機の遠隔操縦システムに通信エラーが頻発しています!!」

 真由美の言葉に、由美子は慌てて、

「攻撃班突入一時中止! 分析急いで!」

”マーラガノイズヲ使用シテオクタヘドロンノ遠隔操縦システムニクラッキングヲ試ミテイル模様。直チニシステムノ一時停止シ防御策ヲ講ズルベシ”

「いかんっ! 直ぐにリンクを解除し、システムを一時停止させろ!」

 伊集院の叫びに真由美が呼応し、

「システム一時停止! リンク解除しました! マーラはまだクラッキングを試みています!」

 由美子が不安気に、

「バックアップ班の3機はどうなの!?」

「正常です! 試みてはいるようですが、ドッキング中は遠隔操縦システムを使わないのでクラッキングが出来ないようです!」

「バックアップ班! 分離中のカプセルの保護を最優先して!」

 伊集院は眉をしかめ、

「くそっ! やっぱり仕掛けて来やがったのか! 何て事だ! 中畑君、このままではどうしようもないぞ! 攻撃班をドッキングさせるしかないのか!」

「しかし、ドッキングしての直接攻撃は危険が大き過ぎます! 末川さん! オモイカネの判断は!?」

”マーラガスピン波ヲ使用シテイル以上、現在ノ仕様デハ遠隔操縦システムノ通信ヲ完全ニ保護スル事ハ不可能ナリ。ドッキングサセテ直接操縦サセル以外ナシ”

「これはあきらめるしかないわね……。一時撤退して、対抗策を考えるしかないわ……」

 由美子がそう呟いた時だった。

『こちら北原。中畑主任。ドッキングの許可を』

「だめよ! リョウコちゃん! 危険が大き過ぎるわ!」

『かまいません。今倒さないとマーラが充電して再発光します。その前に攻撃するしかありません。オクタヘドロン本体の防御能力は強大です。きっと耐えられます』

「うっ……」

 由美子は一瞬言葉に詰まったが、次の瞬間叫んでいた。

「松下先生! オクタ本体の物理的強度はどうでしょう!」

「多分大丈夫だと思うが、オモイカネに計算させるんだ!」

「末川さん! オモイカネに強度を計算させて!」

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 サトシはスクリーンに映るこの一連のやりとりを聞きながら心底不安になっていた。

(どうしよう……。だいじょうぶだろうか……。こわい……。でも、やるしかないのか……。どうしたらいいんだ……)

『結果が出ました! 物理的に何とか耐えられそうです!』

『サトシ君! マサキ君! 聞いた通りよ!! もしどうしても恐かったら言って!!』

『こちら四条! やるしかありまへんがな!!』

 サトシはスクリーンに映るリョウコの顔を見た。相変わらず無表情だが、その眼は強く輝いている。

(北原……。くそっ!!)

「やります!! ドッキングの許可を!!」

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(みんな、恐い思いをさせてごめんね! 絶対に死なないでね!)

 心の中で手を合わせて祈りつつ、由美子は叫んだ。

「攻撃班! ドッキング!! 反重力フィールド最大稼動!!」

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 分離していた攻撃班のカプセルはそれぞれの本体とドッキングした。その瞬間、3機のオクタヘドロンは全身が光に包まれた。

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「準備いいわね! ……では突入!!!」

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「反重力フィールド最大稼動! マントラ波動同調! ディーヴァ、発進します!」

 リョウコは大きく息を吸い込むと、

「オーム・アヴァラハカッ!!」

 リョウコは操縦桿を握り締め、コンソールから流れる音と表示されているシンボルに念を集中する。

………)

ヒュウウウウウウウッッ!!

次の瞬間、ディーヴァはマーラのカサの上部に飛び掛かっていた。

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「マーラに変化発生! バリヤーが徐々に弱まって行きます!」

「ガルーダ発進してっ! サトシ君! 攻撃開始よ!」

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フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 ディーヴァに飛びつかれたマーラは蚊の羽音のような、何とも嫌な音を立てながら振動し始めた。

「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 リョウコの全身に刺すような痛みが走った。マーラが反撃して来たのだ。

 リョウコは必死に苦痛をこらえ、マントラの波動に意識を集中させ続けた。

………)

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 +  +  +  +  +

「ど、どうなってるの!?」

 眼の前に浮かぶに映像に向かってレイは叫んでいた。映像の中の自分が苦しみ悶え始めたのだ。

「神様!!………」

 レイは思わず映像を見詰めたまま手を組み、神に祈っていた。

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「ガルーダ発進! オーム・アヴァラハカッ!!」

 サトシは全身全霊を込めて操縦桿を握り締めた。ガルーダは右手に短剣を持ち、マーラのカサの下側に飛び付いた。

「うわああああああああああああああっ!」

 ガルーダがマーラに接触した瞬間、サトシの全身にも激痛が走った。

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「中畑主任! ディーヴァ、ガルーダの脳神経スキャンインタフェースに大量のノイズが混入しています! マーラがインタフェースを逆用して反撃を試みているようです! パイロットに肉体的苦痛が!」

 真由美が振り返り、悲痛な叫びを上げた。由美子は血相を変え、

「なんてことっ! インタフェースにノイズフィルタをかけてっ!」

「今試みていますが阻止出来ませんっ!」

「くそっ! 物理的にではなくパイロットの神経を侵そうと言うのか! 何て奴だ! 末川君! パイロットの安全を最優先しろ!」

 伊集院は思わず怒鳴っていた。

「パイロット! マントラを聞けっ!! マントラに集中するんだ!」

 岩城も夢中で叫んでいた。

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「うわああああああああああああああああああああああああっ! うわああああああああああああああああああああああああっ!」

 サトシは必死に操縦桿を握り締める。

「クゥエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」

 ガルーダは雄叫びを上げ、マーラの触手の付け根に短剣を突き立てた。マーラの体が裂け、粘液が大量に吹き出す。ガルーダはその粘液をもろに浴びてしまった。

「ぎゃあああああああああっ!」

 サトシはまるで熱湯を浴びたような熱さと痛みを感じた。

ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 マーラは一層激しく振動し始め、ゼリーのような触手をガルーダに絡み付かせて来た。サトシはヒリヒリとした痛みに加えて全身をぬめぬめとしたロープで縛り付けられるような苦しみを覚えた。

「うわああああああああああああああああああああああああっ! うわああああああああああああああああああああああああっ!」

 サトシは何も考えられず、ただひたすら叫びながら操縦桿を握る両手に力を込めていた。

………)

 +  +  +  +  +

「パイロット両名の神経負荷が一気に増大しました! このままでは神経がもちませんっ!」

「フィルタはどうなのっ!?」

「だめですっ! 繰り返し試していますが外されてしまいますっ!」

「もうここまでだわっ! 神経リンク強制解除! カプセル緊急分離急いでっ!」

 しかし、その時、

『まって、……くだ…さいっ!』

「リョウコちゃん!!」

 +  +  +  +  +

 リョウコは息も絶え絶えになりながら吐くように由美子に告げた。

「だめ…ですっ、今、…解除したら、なん…にもなりませんっ…、ううっ、わたし…は…だい…じょうぶ…で…すっ、沢田…くんを、第…一…に、考えて…あげて…くだ…さいっ」

………)

 +  +  +  +  +

「リョウコちゃんっ! ……末川さんっ! サトシ君はっ! 彼はどうっ!?」

「両者とも神経負担は限界に近づいてますっ! 極めて危険ですっ!」

「サトシ君! サトシ君っ! 返事をしてっ!」

 +  +  +  +  +

 サトシは必死で苦痛に耐えながらリョウコと由美子のやりとりを聞いていた。

(ううっ、く、苦しいっ! もうだめかっ!)

 その時、苦痛に耐えながらリョウコがサトシに呼びかけて来た。

『沢田…くんっ、がん…ばっ…て、逃げちゃ…だめ…っ…』

(きた…はら…? あや…なみ…?)

 サトシは歯を食いしばった。

「うぐぐぐぐぐうっ! 由美…子さんっ、まだ…行け…ますっ。まだ…、大…丈夫…ですっ」

………)

 +  +  +  +  +

 マサキの悲痛な声が中央制御室に飛び込んで来た。

『由美子さんっ! まだあきまへんかっ! 早う二人を助けんとっ!』

「まだだめっ! 今行けばあなたもやられるだけよっ!」

 由美子が叫んだ直後、真由美が振り返った。

「マーラに変化! バリヤーもノイズも極めて不安定になっています!」

 それを聞いた由美子はインカムに怒鳴った。

「今だわっ! アスラ発進っ!」

『了解! 行くでえっ!』

 +  +  +  +  +

「うおりゃあああああああああああああああっ! いてまえええええっ!」

 アスラは長剣を振りかざしてマーラの下部へ進入し、全力を込めて触手の付け根に剣を突き立てた。

バスウウウウウウウウウッ!!!!

 マーラの体は大きく裂け、一気に大量の粘液が噴き出す。

ブシュウウウウウウウウッ!!!!

 アスラは咄嗟に身を躱し、粘液を避ける。

「うわっちちちちちっ!」

 アスラの右腕に少量の粘液がかかり、マサキは顔を顰めた。

「くそおおおおおおおっ! いてまええええっ!」

 アスラは剣を何度も突き立てる。マーラの体は更に裂け、更に大量の粘液が噴き出した。

 +  +  +  +  +

「マーラのエネルギー反応は急速に低下していますっ! ノイズレベルも低下!粘液の流出と共に体積も激減していますっ!」

「もう少しよっ! がんばってっ!」

 由美子は無我夢中でインカムに叫んだ。

 +  +  +  +  +

「ぐああああああああっ…………。ううっ」

 マーラのエネルギー反応の低下に伴って、サトシの苦痛も収まって来る。全力でこらえていた痛みが殆ど消えた時、サトシは自分の意識が遠のいて行くのを感じた。

(北…原…、だい…じょうぶ…か…な…)

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「くううっ……、ふうっ……」

 リョウコも苦痛から解放され、気が遠くなるのを感じていた。

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 マーラは粘液の流出と共にどんどん体積を減少させて行った。そしてそれに連れて振動も収まり、徐々に高度を下げ、静かに矢橋帰帆島に着地した。皮肉な物で、マーラから流出した大量の粘液のおかげか、付近一帯の火災はかなり収まっていたのである。マーラにしがみついていたディーヴァとガルーダもそのまま着地した。

「マーラのエネルギー反応完全に停止! ノイズも消えましたっ!」

 歓声とも悲鳴とも判らない真由美の叫びに、由美子は、

「やったわ! 倒したわ! サトシ君! リョウコちゃん! 大丈夫!? 応答してっ! バックアップ班! すぐにガルーダとディーヴァのカプセルを分離して安全な所まで運んでっ! 救護班出動! 救出作業急いでっ!」

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「消えた……」

 映像の中の自分が苦痛から解放されたように見えた直後、青い光は消えてしまった。レイはなすすべもなく、呆然とする他なかった。

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「沢田くん! だいじょうぶ?! 沢田くん!」

 サトシが眼を開くと、目の前にアキコがいた。眼には一杯涙を溜めている。

「形代……」

「気がついたんね! よかった! ほんとによかった! うううっ」

「ここは……、どこ……?」

「うう、ぐすっ。安全区域よ。もうだいじょうぶじゃけん。ぐすっ。マーラはたおせたんよ。……ぐすっ」

「北原は……?」

「北原さんも無事よ。横にいるけん、安心して。ぐすっ」

 サトシが横を見ると、リョウコが地面にしゃがみこんでいた。リョウコの顔を見ると、何とも穏やかな表情をしている。

「北原……、だいじょうぶ……?」

 サトシの呼びかけにリョウコはサトシの方を向いた。

「うん……。わたしはだいじょうぶ。沢田くんは?」

「ああ、だいじょうぶだよ。……おたがい無事でよかったね」

 サトシはリョウコの瞳を見た。リョウコもこちらを見ている。相変わらず澄んだ瞳が光っているが、とても柔らかで穏やかな輝きだった。

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 救護班が到着し、サトシとリョウコはヘリで本部へ帰る事になった。アキコは少し寂しそうな顔で、

「救護班が来てくれたけんね。沢田くんと北原さんはヘリで帰るように由美子さんから言われているから、乗ってってよ。わたしらはオクタを持って帰るけん」

 リョウコはうなずくとゆっくり立ち上がった。

「沢田くん、行こ」

「うん、行こう…か……」

 サトシもゆっくりと立ち上がりかけた、その時だった。

「キャアアアアアアッ! 沢田くん! しっかりして! 沢田くん!」

 サトシは力無く崩れ落ち、アキコの悲痛な叫びが周囲の空気を裂いた。

「救急手当だっ! 急げっ!」

「沢田くん! だいじょうぶ!? 沢田くん! 死んじゃいやあああっ!」

 救護隊員の怒号とアキコの泣き声の中、サトシの意識は失われて行った。

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「あっ!!」

 レイは驚いて立ち上がり、振り返った。自分の背後で青い光が強く光ったのだ。

「? ……ああっ!!?」

 眼を凝らすと、信じ難い事に、少し向こうに人影のような物が見えるではないか。レイは恐る恐るそちらの方に向かって歩き始めた。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'たとえ、君を抱いても ' composed by QUINCY (QUINCY@po.icn.ne.jp)

原初の光 第八話・激流
原初の光 第十話・祈念
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