第一部・原初の光




「な、なんや!!??」

 白川が外へ飛び出して南の方を見た。家のすぐ南は宇治川で、観月橋と言う大きな橋が架かっている。

「ああああっ!!! あらなんじゃ!!??」

 サトシも外へ飛び出してその方向を見た。

「ああああああっ!!!!」

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第四話・奔流

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 サトシは我が眼を疑った。宇治川から観月橋に向かって大蛇とも龍とも思える大きな怪物が何匹も首を伸ばし、橋の上を通行している車に襲い掛かっている。

「あれは!!??」

 よく見ると怪物には8本の首がある。その時、昨夜見た鵺の映像が心に浮かび、そこから連想してサトシは直感した。

(ヤマタノオロチだ!!!)

 既に何台かの車は怪物に襲われて爆発炎上している。最近の車は燃料に液化天然ガスを使用しているため、一旦爆発するとその威力は凄まじい。さっきの轟音は車の爆発音だったのである。

「逃げろ!! 逃げるんや!!!」

 白川が大声で怒鳴る。白川の妻も外に飛び出し、北へ向かって走り出す。

「サトシちゃん!! 早よ逃げい!!!」

 白川の怒号に我に返ったサトシは白川の後に続いて北へ走り出した。あたりは逃げ惑う人々の罵声と怒号、次々と衝突する車の音、パトカーのサイレン等で物凄い騒音である。サトシは無我夢中で走った。

 国道24号線の坂道を駆け上がって後を見ると、怪物は川の中から首を伸ばし、観月橋に巻き付きながら次々と車を破壊している。そして段々体を持ち上げながら橋の上に登ろうとしているようだった。

バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!
バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!
バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!

 左手から聞こえて来た轟音にそちらを見ると、11式準音速戦闘ジェットヘリが3機飛んで来る。陸上自衛隊宇治駐屯地から駆け付けたようだ。ヘリは怪物に向かってミサイルを発射した。

ドカーーーーーーーンッ!!!

 ミサイルは怪物の頭に命中し、凄まじい轟音を上げて砕け散る。

「グァアアアアアアアアッ!!!」

 怪物が凄い声で吠えた。怪物の周囲は煙で包まれ、その光景を遠巻きにしていた人々の間から歓声が上がる。

「やったぞおおおっ!!!」
「やったぞおおおっ!!!」

 しかし何と言う事だろう。煙が晴れると、怪物は何も無かったのように平然と首をくねらせ、橋の上の車を口で銜え、ヘリに向かって投げ付けたのである。

ドォーーーーーーーーン!!!

 投げられた車が命中し、鈍い音と共にヘリは墜落した。

「あああああああっ!!!」

 人々の間から悲鳴とも溜め息ともつかない声が上がる。残りのヘリ2機は再度ミサイル攻撃を試みた。しかし、ミサイルは命中するが怪物はびくともしない。

「グァアアアアアアアアッ!」

 怪物はまたもや咆哮を上げると2本の首で車を2台銜え、連続して投げ付けた。残った2機のヘリはあっけなく墜落してしまい、人々の間から大きな悲鳴が上がる。怪物は完全に橋の上に登り、巨体をくねらせながら北へ向かって動き出した。

 その時だった。

ヒュウウウウンンンッ!!

 サトシの上空を後方から大きな物体が風切音を立てて通過しして行く。思わず見上げると、何か大きな人形のような物が飛行しているではないか。その物体は怪物に飛び掛って行った。

(あのロボットだ!)

 黒い細身の胴体、嘴の鋭い軍鶏のような頭、怪物に飛び掛かったのは、昨夜ジェネシス本部の会議室のスクリーンで見たあのロボットに間違いなかった。

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「あっ!!!」

 突然眼の前に浮かんだ青い光に、レイは思わず叫んでいた。更に驚いた事に、

「シンジくん!!!」

 眼の前の青い光の中にシンジの姿が浮かんでいるのである。またもや思わずシンジの「名」を呼んだレイは、刮目してその映像を見詰めた。

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 昨夜見たロボットは8体だったが、ここへ飛んできたのは1体だけである。ロボットはまず1つの首に飛び掛かっていた。腕から光の棒のような物が伸びており、ロボットはその光の棒を怪物の頭部に突き立て、横に払う。

「グエエエエエエエエエエエエッ!」

 頭部を切られた首は、血のような物を吹き出しながらのた打ち回って倒れた。しかしすかさず他の首がロボットに襲い掛かり、肩に噛み付いたと思う間もなく、また別の首が右足に噛み付き、そのまま首を横に振って投げ飛ばす。ロボットは宇治川の河川敷へ落下して行った。

(やられたか!)

 サトシは思わず目を見張ったが、ロボットが河川敷に落下する寸前、胴体からカプセルのような物が飛び出してサトシの方へ飛んで来て、道に落下する寸前に速度を緩めると、サトシのすぐそばに着地した。

(北原さんだ!)

 何の根拠もなかったが、サトシはそのカプセルに乗っているのが北原リョウコだと直感し、思わず駆け寄った。

(確かこのロボットは遠隔操作で動くはずだ! なんで乗ってるんだ?!)

 カプセルは卵型をしており、前半分はガラスのような透明な板だった。中を覗き込むと、確かに中にいるのはリョウコである。

(やっぱり!!)

 リョウコは気を失っているようだ。サトシはとっさにノブに手を掛け、ドアを開けようとした。

(しまった。カギがかかっているかな)

 案に相違して、ドアは簡単に開いた。中ではリョウコが無言のまま操縦席に突っ伏している。

(どうしよう! どうしたらいいんだ!)

 サトシは自分に問いかけていた。

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「これは!?」

 レイは再び叫んでいた。途切れ途切れに浮かんでは消える映像の中に、信じ難い事だが、自分の姿も見える。

「シンジくんと、わたしが!?」

 その映像の中のシンジは、何か具体的な事を行っていると言う訳ではなく、ただ慌てているように見える。そして、そこにいる自分は、ただ苦しんでいるように見えた。

「ああっ!!」

 苦しむ自分の所にシンジがやって来て、助けようとしている。その時、レイは思い出した。

「これは! あの時の!!」

 レイの眼の奥に、シンジが初めてネルフ本部にやって来た日の光景が油然と湧き起こって来る。

 ……突然の使徒の襲来……。

 ……初号機を出動させるために、病院から格納庫まで寝台で運ばれた自分……。

 ……搭乗直前、自分をかばってくれたシンジ……。

 そして、その直後だった。

『逃げちゃだめだ!!!!』

 シンジの言葉がレイの耳に蘇っていた。

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 その時、サトシの心の中に小さな声が響いた。

(『逃げちゃだめだ』)

「ええっ!?」

 驚いた事に、その声は、抑揚がなく、コンピュータで合成したような感じを受けるとは言うものの、自分の声を録音して聞いた声にそっくりだったのだ。

「どう言うことなんだ!?」

 サトシは一瞬怯んだが、その次の瞬間には何も考えずにリョウコを後部座席に移し替え、操縦席に飛び乗っていた。

グイイイイインンンッ!!

 突然、ドアが自動的に閉まり、カプセルが宙に浮く。

「うわわわわわわわっ! 飛んだああああっ!」

 ふと見ると、怪物は残る7本の首をもたげて北に進み出している。サトシは思わず、

「起き上がれえええええっ!」

 河川敷に倒れていたロボットが起き上がる。しかし怪物は目もくれずに北へ向かっていた。見ると、怪物は尻尾は1本だがそこから7本の首が伸びている。さっき切られた1本を加えると、まさにヤマタノオロチだ。その時、カプセルの中に中畑由美子の声が響いた。

『ええっ!? そこにいるのは沢田サトシ君なのっ!!?』

「はいっ! 今は僕が乗っています!」

『どうしてあなたがそこにっ!!??』

「いえ、それが、そのっ!」

『わかった!! 今はいいわ! とにかく私の言う通りにしてっ!!』

「は、はいっ!! ……あの、どうしたらいいんですかっ!?」

『操縦捍はわかる?! それを握るだけでいいの! 後は心で強く考えたら動いてくれるわ! 遠隔操作で動かせるから、そのままの場所で操縦して! ただし気をつけてね! テレパシーで動かせると言うことは、精神がリンクしているから、攻撃されたら痛みを感じると言うことよっ!』

「は、はいっ!!」

 サトシは無我夢中で操縦捍を握り締めた。頭に血が上って何も考えられなくなっている。

「戦えええっ! 怪物を倒せえええっ!」

 ロボットは飛び上がり、怪物からやや距離を保って空中に静止した。

「武器は! どれが武器なんだ!」

 由美子の声が聞こえて来た。

『沢田君! レーザーがあるわ! レーザーを使ってみてっ!』

「レーザー発射!」

 ロボットの目が光ったかと思うと、怪物に向かって赤い光の筋が飛んで行く。

「グエエエエエエエエエエッ!!!!」

 レーザーが怪物の頭の1つに命中した。その頭は悲鳴を上げてのた打ち回り、橋の欄干から川に向かってだらりと枝垂れ落ちて行く。

「いいぞっ! 連続して打てっ!」

 ロボットの目が光り、再度レーザーが発射されたが、同時に怪物は体の周囲に光の壁のような物を張り巡らし、乱反射させてしまった。

「バリヤーかっ!?」

 怪物は平然と残った6本の首を伸ばし、ロボットに襲い掛かって来る。

「うわあああああああっ!」

 サトシは咄嗟に操縦捍を引いた。ロボットはすぐさま後退し、怪物の攻撃を避けようとしたが避け切れず、1本の首が左肩をかすめる。

「うぐううううううっ!」

 サトシの左肩にさほど強くはないが鈍い痛みが走る。サトシは思わず操縦捍から手を放し、左肩を押さえた。ロボットは背中からふらふらと落下し始める。

『沢田君! 大丈夫っ!? 返事をしてっ!』

「いかんっ!」

 サトシは痛みを堪えて再度操縦捍を握る。

「くそおおおおおっ! どうすりゃいいんだっ!」

 サトシが改めて操縦捍を引くと、ロボットは体勢を立て直して上昇を始めた。

「攻撃を食らうなっ! 避ける事に集中するんだっ!」

 怪物は残った6本の首を振り回しながらロボットに襲い掛かろうとしていたが、ロボットはやや距離を保って動き回り、怪物の攻撃を避けていた。怪物はロボットに気を取られて足止め状態である。これで暫くは時間を稼げそうだ。

「中畑さんっ! 聞こえますかっ!! どうしたらいいんですっ!! 中畑さんっ!」

 サトシは何度も由美子に呼びかけたが、返事はない。

「……くそっ! だめだ! 通信できない! なんとかしないと! ……落ち着け。落ち着くんだ。なにか方法はあるはずだ」

 サトシは自分に言い聞かせるように呟き、正面のシールド越しにロボットを凝視した。すると目の前のシールドの一部に丁度モニタのような四角い映像が現れ、観月橋付近の拡大映像を映し出した。怪物とロボットが細部まで良く見える。

 ロボットは確かにジェネシス本部で見た8体の内の1体だった。じっくり見ると、大きさこそ小さいが、昔、テレビの再放送で見た「新世紀エヴァンゲリオン」に登場したエヴァンゲリオンに良く似ている。しかし、胴体はエヴァンゲリオンよりはやや太目であり、頭部は軍用ヘルメットを被った軍鶏のような感じで、眼は2つあり、明らかに顎ではなく嘴を持っていた。肩には突起物は無く、全体的に地味な感じである。色は全身黒っぽかったが、光が当たると濃い緑色に光る。首筋から肩にかけては赤っぽく、まさに「軍鶏」のイメージである。

 次にサトシは自分が乗っているカプセルの中を見渡してみた。丁度戦闘機のコックピットのような形をしているが計器類はそれ程無く、座席は前後に2つあり、前部座席の前には床から1本操縦捍が伸びているだけである。カプセルは長さと高さがそれぞれ2メートルぐらい、幅は1メートルぐらいの大きさで、卵を平たくしたような形だった。

「クソっ! どうする!? どうしたらいいんだっ!!」

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「シンジくん!!」

 その時レイの眼には、使徒サキエルに激しく攻撃されている初号機の姿が映っていた。シンジはエヴァンゲリオンに関しては何も知らないに等しい。どうすれば、能力を発揮出来るのか判る筈もない。

「エヴァには心があるわ!! いっしょになって、心を合わせて戦うのよ!!」

 思わず発せられたレイの叫びが虚空に響き渡った。

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「さわだ…、くん…」

 サトシがぎょっとして後を振り返ると、リョウコが薄目を開いている。

「北原! 気付いたのか! だいじょうぶなのかっ!」

 サトシは思わず、恰もクラスメイトの名を呼ぶようにリョウコの姓を呼び捨てにしていた。

「ガルーダには…、心があるわ….ドッキングして…、一心同体で戦うのよ…」

「ええっ!?」

 サトシは思わずぞっとした。リョウコの声に全く抑揚がなかったからだ。まるでさっき聞いた自分の声のように、合成したような印象を受ける。しかし、今はそんな事に気を取られている時ではなかった。リョウコの言葉の真意を確かめねばならない。一瞬のためらいの後、サトシは思い切って口を開き、

「おい! 北原! どう言うことだ! なんでそんなことを言うんだ! 中畑さんはそんなこと言ってなかったぞ! おい! 北原!」

「…………」

 リョウコは再び気を失ってしまったようだった。

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 ジェネシス本部中央制御室は極度の緊張と喧騒に包まれていた。

 伊集院が真っ赤になって怒鳴り声を上げ、

「中畑君! どうなってるんだっ! 状況はどうなんだっ!」

「だめですっ! 突然音声がとぎれましたっ! 末川さんっ! 状況はどうなってるのっ!?」

 由美子の叫びにオペレータの末川真由美が悲痛な叫びで呼応し、

「常用回線は通信不能! 現在通信部が予備回線への変更作業中です! 同時にスピン波通信も試みていますが反応がないようですっ!」

 メインモニタのスクリーンに映し出された観月橋の映像もノイズだらけで殆ど判別不可能である。伊集院はインカムを掴み直し、

「操縦カプセルからの映像が映らないぞっ! 通信部! デジタル処理はどうしたんだっ!」

『こちら通信部! デジタルはノイズが多すぎて使えませんっ! アナログが精一杯ですが、これもノイズのためこれが限界ですっ!』

 通信部オペレータの加藤由美の悲痛な叫びが響き渡る。伊集院は歯噛みし、

「機関部! 他機の発進はまだ出来ないのかっ! 整備状況を報告しろっ!」

 機関部長の山上博也のかすれた声が、

『こちら機関部山上! 現在アスラの整備に全力を上げていますが、後10分以上かかる見通しですっ!』

「だめだっ! 遅すぎるっ! 何とか5分以内にアスラを発進させるんだっ! 中畑君! パイロットの準備はっ!」

「現在四条がアスラのそばで待機中! いつでも搭乗出来ますっ!」

『こちら通信部加藤! だめですっ!! 予備回線もスピン波通信も繋がりませんっ! 後は無人中継ブースタカプセルを飛ばして通信波の増幅を試してみるしかありませんっ!』

「すぐに飛ばすわっ!! 加藤さん! ブースタ対応回線の準備をっ!! マサキ君っ! そちらは大丈夫っ!?」

『こちら四条マサキ! 準備OKですっ! いつでも出られまっせっ!』

『こちら通信部加藤! ブースター対応回線に切り替えて待機中!』

「末川さんっ! 中継ブースターの射出を!」

「了解! 射出します!」

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「くそっ! どうすりゃいいんだっ!」

 サトシが改めて前方を見た時、怪物はガルーダを相手にする事をあきらめたように首を引っ込め、体勢を立て直して再び北に進み始めた。その時、怪物の1つの頭がこちらを向いた。その視線がサトシの眼を貫く。

「うっ!」

 突然サトシの脳裏に、恐怖、嫌悪、不安、歓喜、驚愕、と言った様々な感情が理由もなく一斉に湧き上って来た。サトシはその訳の判らない状態に混乱しながら、思わず、

「くそおおっ!!! ドッキングしろおおっ!!!」

 と、その途端、ガルーダは急上昇を始めた。カプセルも同時に斜め前方に上昇し、ガルーダの方に向かって猛スピードで飛行して行く。

「うわあああああっ!!! ぶつかるううううっ!!!」

 衝突すると思った瞬間、ガルーダはこちらに背を向けた。すると背中の一部がドアのように開き、カプセルの前部がすっぽりとその中に嵌まり込む。

「クウエエエエエエエエエエッ!!!!」

 カプセルとドッキングしたオクタヘドロン・ガルーダは雄叫びを上げ、全身は光に包まれた。

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「これは!?」

 レイは驚きの余りそれだけしか言えなかった。眼の前に見えるシンジの顔つきが突然変わり、激しく叫んで操縦桿を握ったと思う間もなく、今まで防戦一方だった初号機が一気に攻勢に転じたのである。それは、少なくともレイが知っている「かつての歴史」ではなかった。

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『こちら機関部! アスラ出撃準備完了! 発進可能です!』

「よし、出撃だっ! アスラ発進っ!」

『よっしゃあっ! 行くでえっ! アスラ、発進しまあすっ!』

「中継ブースターは現在桂離宮上空を飛行中!! 間もなく中継可能地点に到達しますっ! …………ガルーダからの映像信号が回復しましたっ!」

「サトシ君! 聞こえる!? 聞こえたら返事をしてっ!!」

 スクリーンに突然鮮明な映像が映った。それを見た伊集院が、

「おい! あれは何だ! 怪物しか見えないぞ! ガルーダ本体からの映像じゃないか! 操縦カプセルからの映像に切り替えろっ! 音声通信はどうなってるんだっ」

「操縦カプセルからの映像信号は…………、ガルーダ本体の信号とリンクしています!! 音声通信回線も回復している筈なんですが!」

 真由美の言葉に由美子は顔色を変え、

「ええっ! じゃ、カプセルがドッキングしているんじゃないのっ! 危険過ぎるわっ! 一体どう言うことっ!? 沢田君! 応答してっ!」

「中継ブースターを現場に移動させろっ! ブースターのカメラで直接モニタするんだっ!」

 伊集院も大声で叫んでいた。

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「うわああああああああっ!!!」

 サトシは思わず眼をつぶり、両手で頭を覆っていたが、何のショックもなかったので恐る恐る眼を開いてみると、何と、カプセル内部は全面スクリーンに切り替わっている。まるで椅子に座って空を飛んでいるようだ。しかし、ガルーダの体勢は半透明になって見えている。

「どこだ! 怪物は!」

 下を見るとちょうど真下に小さく怪物の姿が見える。ガルーダはかなり上空にいるようだ。サトシは、声を限りに、

「行けええええっ!!!」

 ガルーダは両腕を前方に伸ばして手を握り、拳を縦にして、丁度剣を持つような形に重ねた。すると、握った手の中から赤い光の棒が下方に伸び、逆手に剣を持ったようになったのである。そしてそのままの姿勢で俯いて下方の怪物を見据えると、思い切り腕を下げて「光線剣」を下方に伸ばし、足を縮めた姿勢を取って弾かれたように落下して行った。

「クウエエエエエエエエエエッ!!!!」

 ガルーダは雄叫びを上げ、怪物に向かって凄いスピードで突入して行く。

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「中継ブースターがカメラ使用可能距離に到達しましたっ! 映像を切り替えますっ!!」

 真由美の言葉が消えるか消えないかの内に映像は切り替わった。伊集院が顔色を変え、

「ああああっ!! ガルーダがっ!! ぶつかるぞっ!!!」

 由美子も叫んでいた。

「沢田君っ!」

『こちらアスラ! 後約1分で現場に到着しますっ!』

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「うわああああっ!!! ぶつかるううううっ!!!」

 怪物はガルーダの咆哮に気付いたのか、動きを止めて上方を見、光のバリヤーを張り巡らした。その瞬間、凄まじい速度で落下して行ったガルーダの「光線剣」が、怪物のバリヤーを突き破り、8本の首の結合部を貫いていた。

「グエエエエエエエエエエエッ!!!!!!!!」
「グエエエエエエエエエエエッ!!!!!!!!」
「グエエエエエエエエエエエッ!!!!!!!!」
「グエエエエエエエエエエエッ!!!!!!!!」
「グエエエエエエエエエエエッ!!!!!!!!」
「グエエエエエエエエエエエッ!!!!!!!!」

 怪物は残った6本の首からこの世の物とも思えない程の大きさの断末魔の叫び声を上げ、橋の上に崩れ落ちたまま動かなくなった。

「はあ、はあ、ふうううううううっ」

 怪物に激突する、と思った瞬間、ガルーダは直前で急停止したのである。サトシはその急停止の重力によるショックで一瞬気が遠くなったが、何とか正気を保ったのだった。

「やっ…た……」

 サトシの全身から汗が噴き出し、全ての力が抜けて行く。ガルーダは静かに橋の上に降り立つと、そのまま体を伸ばし、直立の姿勢を保ったまま静止した。

「うわあああああああああっ!!!! やったあああああああああっ!!!!」

 この一連の出来事を遠巻きにしていた観衆から大歓声が上がった。

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「あっ!……」

 初号機の留めの一撃がサキエルの体を貫き、サキエルは爆発もせず、その活動を停止した。そして、笑いながら意気揚揚と引き上げて来るシンジの姿が見える。

「これは、いったい、なんなの……」

 この一連の映像は、かつて自分が辿った歴史を踏まえてはいるが、あちこちで少しずつ違う。何故このような映像が見えるのか。単なる自分の願望なのかそうでないのか。レイにはどうしても判らなかった。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'たとえ、君を抱いても ' composed by QUINCY (QUINCY@po.icn.ne.jp)

原初の光 第三話・無常
原初の光 第五話・涼風
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