第四部・二つの光




「発進!!!」

 サトシの叫びがコックピットに響き渡る。

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「発進!!」
「発進!!」

 アキコとアスカが一緒に叫ぶ。

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「プリティヴィ発進!!」

 ゆかりが鋭く言い放つ。

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「ヴァーユ発進!!」

 大作も叫ぶ。

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 +  +  +  +  +

『発進!!』
『発進!!』
『発進!!』

「エンゲージ!!!」

 オクタヘドロン3機のパイロットの叫び声とライカー艦長の怒鳴り声がブリッジに響き渡る。

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 +  +  +  +  +

「球体が移動を開始しましたっ!!! 現在秒速100キロですっ!!!」

 興奮の余り、日向の声はやや上ずっていた。

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第三十二話・決着

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「うおおおおっ!!! 行けえええええっ!!!!!」

 アスカの叫び声がアグニのコックピットにこだまする。

「現在の速度! 秒速200キロ!!」

 アキコも負けじと声を張り上げる。

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「280! 290! 300!」

 操縦桿を握り締め、自分に言い聞かせるように大作が叫ぶ。

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「球体の加速度が急上昇中! 現在秒速500キロです!!」

 目を血走らせた日向が叫びまくる。

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「700キロメーターパーセコンド!!」

 オペレータの怒声がエンタープライズのブリッジにこだまする。

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「球体は更に加速!! 秒速1000キロを超えましたっ!!」

 真由美も金切り声を上げている。

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「うおおおおおっ!!! 秒速1500キロやああっ!!」

 マサキも吼えている。

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 +  +  +  +  +

「秒速2000キロを突破!! 更に加速中!!」

 ゆかりも興奮を抑え切れない。

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「見えます!! 球体の中のひび割れが大きくなる速度がにぶって来ました!!」

 メインモニタを見詰めながらナツミが叫ぶ。

「秒速4000キロを突破しましたっ!!」

 日向の声は嗄れ切っていた。

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「レイ! どうだ!?」

「行けるわ! 球体の中の時間がおくれてきたのがわかるわ!!」

「よしっ! マントラレーザーのコンソールを渡す! 思念を乗せて送り込んでくれ!」

「了解!」

 レイは手を組み、コンソールのレバーを手で抱くよう持った。

「オーム! アヴァラハカッ!」

………)

 次にレイは手を離してレバーを右手で握り直した。そして叉手のように左手を添えて瞑目し、思念を集中する。

「ア・ヴァ・ラ・ハ・カッ!」



 アカシャのオモイカネⅡがレイの思念に呼応するかの如くに動作し、強力なマントラの波動を発生し始めた。

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 +  +  +  +  +

「おっ! 遅れ出しよったな!!」

 カーラのスクリーンに映るウィンドウの中の二つの時計の時刻にズレが出始めた。

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「秒速6000キロを突破!!!」

 由美子も声を限りに叫ぶ。

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 すっかり声がかすれてしまった日向が振り向き、

「博士!! このペースで行けば、2分後には秒速1万キロを突破します!!」

「うむっ!!!」

 中之島が力強く頷く。

 +  +  +  +  +

「秒速8000キロだ!! そろそろだぞっ!!」

 ひたすら思念をこらすレイの横でサトシが声を張り上げた時、

「えっ!? ええっ!? …これは!!」

 突然、レイが顔色を変え、眼を見開いたのだ。サトシは驚き、

「レイ! どうした!?」

 +  +  +  +  +

「渚君! カプセルがそろそろ切り離されるぞっ!!」

「了解!!」

 興奮した大作の叫びにカヲルが答えたその直後、

(えっ!? なんだっ!!??)

 突如、カヲルの心の奥底に奇妙な感情が湧き出して来たのである。

(これはなんだ!?)

 カヲルがその感情の正体を確かめんと、自分の心の中に眼を向けた時だった。

(「歌はいいねえ。歌は心を癒してくれる。リリンが生み出した文化の極みだよ。そう思わないかい? 碇シンジ君」)

 驚いた事に、破壊された第3新東京市の市街地に出来た湖に突き出た建築物の残骸の上で、シンジに向かって微笑む自分の姿が見える。

(こ、これは!!?? ……そうか!! アダムか!!)

 カヲルが愕然となり、一瞬絶句した時、 大作が叫んだ。

「9000キロだ! カプセル分離!!!」

ガタンッ!!

「しまった!!」

 カヲルも叫んだが一瞬遅く、ヴァーユのカプセルは分離されていた。目の前に本体が見える。

「どうした!?」

 驚いた大作に、カヲルは、

「アダムが仕掛けて来た!!」

「なんだとおっ!!??」

 大作が血相を変える。カヲルは勢い込み、

「フェイズ・スキャナは使えるか!?」

「使える!!」

「球体の中心部をさぐってくれ!!」

「ちょっと待て!!」

 大作はコンソールを操作した。スクリーンにウィンドウが開く。

「あああああっ!!!!」
「あああああっ!!!!」

 それを見た二人は同時に叫んでいた。

『ふふふ、バレたら仕方ないね』

 そこに映っているのは不敵な笑みを浮かべたアダムと無言で佇むリリスの姿である。大作は慌てて計器を見た。

「加速がにぶっているぞっ!! このままじゃ1万を超えない!!」

 +  +  +  +  +

 ウィンドウに映るアダムを睨みながら、サトシは青筋を立て、

「クソおおっ!! しぶとい奴めっ!!」

 すかさずレイが、

「手動に切り替えてっ!! フル加速してカプセル再結合!!」

「レイ!!!」

 サトシが叫んだ直後、一度アカシャ本体から離れて減速を始めたカプセルはまたもや急加速して本体とドッキングした。

「アダムとリリスが時間の流れを乱しているのよ!! このままじゃ時間は巻き戻せない!! ここで離れるわけにはいかないわ!!」

 +  +  +  +  +

「沢田くんっ!! どうなったんよっ!!」

 真っ青な顔でアキコが悲痛な叫び声を上げる。その時、コンソールを操作していたアスカが、

「ああっ!!!」

「!!!!!」

 ウィンドウに映るアダムとリリスの姿にアキコは絶句した。

 +  +  +  +  +

「綾波っ!! 沢田君っ!!」

 顔色を変えてシンジが叫ぶが、返事は返って来ない。

「あああっ!! 碇さんっ!! これを!!」

「あああっ!!」

 スクリーンに開いたウィンドウの映像に、ゆかりとシンジは叫んだ後、絶句した。

 +  +  +  +  +

「アダム!! リリス!!」

 クールなリョウコも叫んでいた。

 +  +  +  +  +

「どうなったのぢゃ!!」

 中之島が顔色を変えて怒鳴った。マヤが悲痛な声で、

「アカシャのカプセルだけが再びドッキングしましたっ!! 他機のカプセルは分離後減速していますっ!!」

「理由はっ!?」

「現在分析中ですっ!!」

「うむっ!! 判った!! …由美子君!! そっちはどうぢゃ!!」

『こっちは予定通りですっ!! 球体は無人のオクタ6機と一緒に加速を続けています!!』

「判った!! 監視を続けてくれっ!!」

『了解!!』

 +  +  +  +  +

「綾波さんっ!! 応答しろっ!! 応答しろっ!!」

 カヲルが声を限りに叫ぶ。

『渚くんっ!! だいじょうぶよっ!!』

「!! 綾波さん!!」

 +  +  +  +  +

「渚くんっ!! 心配しないで!! かならず帰るからっ!!」

『わ、わかったよっ!!』

 +  +  +  +  +

 カヲルは、この上ない真剣な顔で大作を見て、

「草野君! マントラレーザー、いや、サイコバルカンを使わせてくれっ!!」

「どうするつもりだ!!」

「アダムを倒す!!」

「なにっ!!?? 出来るのか!?」

「わからんがやってみる!!」

「なんでマントラレーザーでなくてサイコバルカンなんだ!?」

「アダムとリリスがここに来られたのはサイコバルカンがあったからだ! つまり、なにか影響を与えられるとしたら、サイコバルカンの方だ!!」

「うむっ!!……」

 大作は一瞬考え込んだが、すぐに決断し、大きく頷くと、

「よしっ! わかった!! そっちのコンソールを使え!!」

 その時、

『むだだよ。やめた方がいい。そんな事をしたら、かえってこっちが元気になるんじゃないかい。ふふふふ』

 アダムの嘲笑がコックピットにこだまする。それを聞いたカヲルは、腹の底から怒りを込めて、

「むだかどうか、これを食らってから言えっ!!!」

 カヲルの腹の奥底から真っ白い光の塊が激しく湧き上がり、頭の中で爆発した。

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「な、なんだああっ!!??」

 信じられない現象が起こった。カヲルの叫びに呼応して、サイコバルカンのエネルギーレベルを示す数値が桁違いに跳ね上がったのだ。大作は我が眼を疑い、

「そんなバカな!! カプセルだけでこんなエネルギーが出るはずが!?……」

 その次の瞬間、

「わああああああっ!!!! くらえええええっ!!!」

 再びカヲルが叫んだ途端、強烈な一条の光がカプセルから放たれ、球体の中心部を貫いた。

『ふふふ。……ええっ!? ぎゃああああああああああああああああっ!!!』

 アダムが映るウィンドウが強烈に光ると同時に、この世の物とも思えない、アダムの凄まじい断末魔の叫びがコックピットに響き渡る。

「!!!!!!!!」

 大作は絶句した。

 +  +  +  +  +

 ウィンドウを見ていたサトシは、眼を丸くして、

「ああっ!! やったぞ!!」

 しかし、レイは平然と、

「だめよ! リリスがまだいるわ!!」

「えっ!? …!!!!」

 サトシは絶句した。何と、光が収まったウィンドウの中にはまだリリスがいるではないか。

「時間の流れをもとにもどすわっ!!」

 レイはそう叫ぶとレバーを握ったまま意識を集中した。その時、

『…レイ、あなたはわたし、わたしはあなたよ。運命にさからわず、ひとつになりましょう……』

 抑揚のないリリスの声がコックピットに響く。しかし、レイは決然と、

「そうは行かないわ。わたしはわたしよ。あなたじゃないわ。それに、今のわたしにはかけがえのないものがたくさんある。命がけで守らなければならないものがたくさんある。碇司令のエゴから生れた人形でしかないあなたとはちがうわ」

『なにを言ってるの。あなたも碇司令の人形だったじゃないの。…わたしと同じよ……』

「昔はそうだったかも知れない。でも今のわたしはちがう」

『言ってもむだのようね……』

 その時だった。

「うっ!! あああっ!!」

 突然、レイが頭を抱えて蹲る。サトシは慌ててレイを抱き起こし、

「レイ! 大丈夫か!?」

「だ、だいじょうぶよ……。こんなことで、負けないわ……」

 激しい頭痛をこらえ、レイは心の中で一心にマントラの波動を追い続ける。

「リ、リリスがシステムに侵入しようとしているのよ……。でも、オモイカネⅡも必死に頑張ってそれを排除しようとしてくれているわ……。わたしも、絶対に負けない……」

「僕はどうしたらいい!?」

「…わたしの、脳神経スキャンデータを、解析して……。球体の中の時間の流れが、どう、なってるか、見て……。ううっ……」

「わかった!!」

 サトシは素早くコンソールを操作し、

「時間の流れはこっちの計算通りにもどって来ているぞっ!! このままリリスの力を封じて行けば勝てる!! レイ!! がんばってくれっ!!」

「…………」

 苦痛に顔をゆがめながらレイは無言で頷いた。

………)

 +  +  +  +  +

 再び加速を始めて離れて行く球体を見ながら、大作が、

「あっ!! 速度が上がった!!!」

「綾波さんっ!!」

 カヲルの叫びがカプセルに響き渡る。

「くそおおっ!! くそおおおおおっ!!」

 カヲルが眉を吊り上げてコンソールを操作し、サイコバルカンを発射する。しかしリリスには何の効力もない。

「くそおおおっ!! だめかああっ!! 綾波さああんんっ!!」

 カヲルは必死に叫んだが、レイからの応答はなかった。

 +  +  +  +  +

 中央制御室のメインスクリーンには、驚くべき事に無数のウィンドウが開いており、この世界の過去の映像や、安倍が書いた「原初の光」と思しき世界の映像、更には別次元のものと思われる映像、更には明らかに誰かの妄想としか思えない映像などが動画として流れていた。ミサトはマヤに、

「マヤちゃん!! この映像はなにっ!? マギは何を映しているのっ!?」

「リリスがオクタヘドロンのカプセルを通じてマギとオモイカネⅡにしつこくクラッキングを試みていますっ! しかし、カプセルのオモイカネⅡが必死で頑張ってシステムを守っているようですっ! この映像はそれによって生まれた副産物のようです!!」

「じゃ、どれが真実の映像なのか、分からないって事なの?!」

「現在の所、八雲さんの透視能力だけが頼りですっ! しかし現状では八雲さんの分だけでは映像として表示できませんっ!! 四人分のデータを合わせて再解析を行いますっ!!」

 マヤはそう言うと再びコンソールに向かって一心にキーボードを叩き始めた。

 ミサトが顔色を変え、ナツミに、

「八雲さんっ!! どうなってるのっ!!??」

 ナツミは必死の表情で思念を集中させながら、

「…リリスが時間の流れを乱そうとしていますが、綾波さんががんばってリリスの力をおさえています…」

 その時、マヤが、

「スキャンデータ解析完了!! モニタに出します!!」

 メインモニタの中央に大きくウィンドウが一つ開く。

「!!!!!!!」
「!!!!!!!」
「!!!!!!!」
「!!!!!!!」

 スタッフ全員が絶句した。そこには、苦痛の表情で、血だらけになりながらロンギヌスの槍を互いに突き立て合っているレイとリリスの姿が映っていた。

 +  +  +  +  +

「秒速9500キロを超えた!! 早くカプセルを切り離さないと、1万を超えたら一気に光速まで行くぞっ!!」

 サトシは声を嗄らして叫び、コンソールに手を伸ばす。しかし、

「だめ! まだ、だめよ……」

「えっ!?」

 息も絶え絶えになりながら発せられたレイの言葉にサトシが思わず手を止める。

「レイ!」

「リリスはまだ、死んでないわ……」

「だ、だけど……」

「…サトシ、くん……」

「どうした!?」

「もし、…帰れなかったら、ごめん、ね……」

「!! ………………」

 サトシは一瞬絶句したが、すぐに微笑みを浮かべ、無言のまま首を振った。それを見たレイも、苦しみをこらえてにっこりと微笑むと、レバーを抱くようにして両手を組み、

「アヴァラハカッ! スヴァーハ!!」



 +  +  +  +  +

「秒速1万キロを突破しましたっ!!!!」

 日向が叫んだ十数秒後、北極星の方向を映していたウィンドウが眼も眩むような激しい青い光を発すると同時に、激しい揺れがIBO本部を襲った。

「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」

ゴオオオオオオオオオオッ!!!!!!

「地震だあああっ!!!」

「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」

 スタッフの叫び声が中央制御室に響き渡る。

 +  +  +  +  +
 +  +  +  +  +

「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」

 エンタープライズのブリッジも強烈な青い光で満たされた。

 +  +  +  +  +

「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」
「わああああああああっ!!!!!」

 JRL中央制御室にも青い光が満ちていた。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'祈り(Ver.4b) ' composed by VIA MEDIA

二つの光 第三十一話・反攻
二つの光 第三十三話・終息
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