第四部・二つの光




「そうだ!! きっとそうだ!!」
「そうよ!! そうじゃわ!!」
「そうよ!! 間違いないわ!!」

 サトシ、アキコ、リョウコの三人も立ち上がって叫んだ。他の八人は何の事か判らずに呆気に取られている。

「みなさん! どうしたんですの!?」

 努めて冷静にゆかりが問いかける。すかさずシンジが、

「あの光の巨人の胸の球は、『開放系の神様』なんです!!」

「なんですって!!??」

 その次の瞬間だった。ナツミがモニタを指差して、

「ああっ!! あれを!!」

「光ってる!!」

 シンジも叫んでいた。驚くべき事に、モニタに映る「銀色の光の巨人」の胸の球が、青く光っているではないか。

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 由美子も顔色を変え、

「オクタヘドロンは現状維持のままそこで停止!!」

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第三十一話・反攻

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「オモイカネの見解は!!??」

 松下の怒鳴り声が響き渡る。真由美も真顔で、

「現在分析中ですっ!!」

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 五大も声を限りに、

「アダムとリリスが動き出したのかっ!!??」

 マヤはフルスピードでコンソールを操作しながら、

「詳細は不明です!! マギもオモイカネⅡもまだ見解を出していません!!」

 その時だった。

「ミサトさんっ!!」

 中央制御室に、シンジを先頭に、パイロット全員とレナが飛び込んで来たのだ。

 ミサトは振り返り、

「シンジ君!? どうしたの!?」

 シンジは勢い込んで、

「あの『光の巨人』の胸の球は『開放系の神様』ですっ!!」

 思いもよらないシンジの言葉にミサトは思わず、

「なんですって!!??」

「何っ!!??」
「何ぢゃと!!??」

 五大と中之島も驚いて立ち上がった。シンジはミサトに食い下がり、

「何とか、あの光の球と話をさせてくださいっ!!」

「な、なに言ってんのよ!! 第一、どうやって……」

 その時、中之島が、

「そうぢゃ! 出来るかも知れん! 碇君! こっちへ来い!!」

「は、はいっ!」

 シンジは中之島の所にやって来た。ミサトも、

「博士、どう言う事なんです!?」

と、言いつつこちらに来る。

「まあ見ておれ。…碇君、このインカムを着けてしゃべれ。君の音声信号を光に変換して『光の球』に送ってみるのぢゃ。…由美子君! 応答せいっ!!」

『こちらエンタープライズの山之内です!!』

「こっちから送る信号をオクタのマントラレーザーに乗せてくれ!! 光通信のレベルにして青く光っている方の胸の球に当てるのぢゃ!!」

『了解しました!!』

「では送るぞ!! …碇君、しゃべってみろ!」

「は、はいっ……」

 シンジは一つ深呼吸をすると、オモイカネⅡのモニタに映る、ガルバに抱えられた「銀色の光の巨人」の胸で青く輝く球をじっと見詰め、口を開いた。

「神様、シンジです」

 その次の瞬間、またもや信じ難い事が起こった。

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「ああっ!! 胸の球が!!」

 由美子が刮目して叫ぶ。青く光る胸の球の輝きが細かく震えるようにちらつき始めたではないか。

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「末川君! 信号波として分析して向こうに送れ!!」

 松下も叫んでいた。

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『シンジか、久し振りだな』

「あっ! 通じ……」

 ミサトが驚きの余り叫びかけたが、慌てて手で口を抑える。シンジは平然と続けて、

「神様、おひさしぶりです。まさかこんな事になっていたなんて、全然思いもしませんでした」

 他の全員は固唾を飲んで見守っている。

『そうだな。あの時は、お前達に、私は神だ、と言うしかなかった。あの時、全てを説明している余裕はなかったし、私もまさか月の底から出して貰えるとは思ってもいなかったしな…』

「どうしてそちらでは、月なんかにいらしたんですか?」

『その理由を言うと、皮肉としか言いようがない話になる。そっちの世界とこっちの世界が同じカルマから生れた双子の異次元宇宙だったと言う話は覚えていると思うが、私、即ち正型生産装置と、もう一体、負型生産装置、と言うより、アダムとリリス、と言った方が君達には判り易いだろう。つまり、アダムとリリスが地球に送り込まれて来た時は、二つの地球はまだ一つだったのだ』

「えっ!?」

「ええっ!?」
「ええっ!?」

 シンジのみならずスタッフの間からも驚きの声が上がった。

『私とリリスが生命の生産を完了し、次の星に行こうとした時、次元転換装置、レリエルの事だが、それが故障して暴走した。その結果、一つの次元が枝分かれして二つの次元が出来てしまったのだよ』

「そんなことが!」

『ああ、それで、その時、こちらの世界では、私とリリスは月に飛ばされた。そちらの世界では、アダム、つまりそちらの世界の私は南極の位置に、リリスは日本の箱根の位置に飛ばされて、それぞれ永い眠りに就く事になった、と言う訳だ。話は前後するが、ジオフロントは、暴走した次元転換装置が作ったものだ』

「あっ! だからこんな大きな空洞が地下に!」

『そう言う事だよ。…後の事は君達も知っての通りだ。結果的に、こっちの世界では私とリリスが月に来たために使徒は生まれなかったが、そっちの世界では地球に残ったために使徒が生まれてしまったのだ』

「そうだったんですか。でも、どうしてあなたが『神様』になったんですか?」

『人間が生きて行くには「神」と言う概念が不可欠だ。私は情報を生み出す装置だからな。人間が「神」と言う概念を生み出せるように思考パターンをセットするのだ。そして、人間が不条理な問題点に遭遇した時、それを「神」の与えた試練と納得し、困難に立ち向かって行く勇気を持たせ、精神の進化を促すのだ。これこそが「開放系の神」が存在する目的なのだよ。その意味では、厳密に言うと、私は「神」ではない。まあ、あの時はあのように言うしかなかったがね……』

「はい、なんとなくわかるような気がします。」

『さて、少々話が過ぎたようだな。もう時間がない。次元の壁の亀裂を修復せねばならん。どうやったらいいかは判っているか? ロンギヌスの槍の文字は読んだのか?』

「えっ? それは……」

 すかさず中之島はシンジの頭からインカムを外すと、

「槍の文字を元にして作ったプログラムを送信する! 確認してくれ!」

 そう言いつつ中之島はオモイカネⅡのキーボードを素早く操作した。

『……………………………確かに受け取った。これでいい』

「「「「おおーっ!!」」」」

 中央制御室にスタッフの喜びの声がこだまする。中之島は続けて、

「感謝するぞよ! そうぢゃ! 一つだけ教えてくれ!! 何で槍の文字は古い日本語のように読めるのぢゃ!?」

『実はあれは我々の母星の言語を絵文字に象徴化して書いた物なのだ。サイコメトリの能力がある者なら誰でも読めるようにしてある。後は受け手の感性次第だ』

「ではどうして惣流君はあれを古い日本語として読んだのぢゃ!? 彼女はドイツ生まれぢゃぞ!?」

『それは私にはわからない。彼女はあれを古代日本語として理解したのか?』

 そこにアスカが割り込んで来た。中之島が持つインカムに顔を近付け、

「いいえ! ひらがなみたいによみました!!」

『そう言う事か。なら理解出来る。意味は判らなくても、読み上げる事が出来た、と言う事だな。それは、我々の母星の言語をそのまま読んだ、と言う事に近い。古代日本語と我々の母星語は、構造が似ていると言う事になる』

「何と!?」

 中之島は驚愕したが、すぐに気を取り直し、

「よく判ったぞよ! 改めて感謝する!」

『すぐに取りかかれ。君達の推定通り、弐号機と初号機は私とリリスの代わりに使える。参号機は補助エネルギー源として使え。遠隔操作では操縦は無理でも、反応を起こす程度の起動だけなら充分出来るだろう。遠隔で起動した後、次元転換装置の中に入れろ。後は3機まとめて外からロンギヌスの槍を突き刺せばいい』

「了解した!! …伊吹君!! 計算はこれで完了ぢゃ!! すぐに作戦手順とパイロットの配置をプリントアウトして本部長と葛城君に渡せ!!」

「はいっ!!」

「松下!! 聞こえるか!!」

『聞こえます!!』

「今送ったプログラムはそっちでもセーブしたな!!?」

『してあります!!』

「よしっ!! すぐにそれに基づいて作戦を実行せいっ!!」

『了解しましたっ!!』

「アダム!! 聞こえるか!? すぐに作戦は実行されるぞよっ!!」

『わかった。頼んだぞ』

「恩に着るぞっ!!」

『うむ。…シンジ、聞こえるか』

 中之島はシンジにインカムを渡した。

「はいっ!! 聞こえますっ!!」

『アスカと仲良くやって行くんだぞ』

「えっ!! ……は、はいっ!」

『では、さらばだ』

「神様、さようなら! …あっ! 最後に一つだけ教えてください!! 初号機と弐号機には、僕の母さんとアスカのお母さんが入ってるんですか!?」

「!!」

 シンジの言葉に、アスカが思わず表情をこわばらせる。しかし、

『心配するな。お前の推定通りだ。魂なんか入っておらん。思考パターンと言語パターンが植え付けられているだけだ。それを「言霊」として捉えているに過ぎん』

 アダムの言葉にシンジとアスカは心からほっとした顔をした。

「そうですか!! …どうもいろいろとありがとうございました!!」

『元気でな』

 そう言い終わると、アダムは胸の球体の光を消した。それを見た五大は大きく頷くと、振り向いて、

「作戦を開始する!!! 葛城君!! 人員を配置しろっ!!!」

「了解っ!!!」

 ミサトは手にした文書を見ながら、大声で、

「レイ! 沢田君と一緒にアカシャに搭乗しなさい! ロンギヌスの槍を任せるわ!」

「はいっ!!」

「沢田君! 任せたわよ!」

「はいっ!!」

「アスカ! あなたは形代さんと一緒にアグニよ! 弐号機の遠隔起動をしてもらうわ!」

「はいっ!!」

「形代さん! 頼んだわよ!」

「はいっ!!」

「渚君はヴァーユに乗ってちょうだい! あなたの担当は参号機の起動よ!」

「はいっ!!」

「草野君! 頼むわね!!」

「了解しました!!」

「シンジ君はプリティヴィよ! 初号機の起動を任せます!」

「は、はいっ!!」

「綾小路さん! お願いするわ!!」

「お任せ下さい!」

「北原さん! あなたは今まで通り、単独でヴァルナを頼むわ! 但し、JAの制御を任せます!」

「了解しました!」

「時田さん! 応答願います!!」

『こちら時田です!! 状況は全て把握しています!!』

「JAの反重力エンジンの制御をヴァルナで出来るよう、準備願います!」

『了解!! すぐに取りかかります!!』

「八雲さんには脳神経スキャンインタフェースを繋いだ状態で中央で監視をしてもらいます! 光速を超えたらレーダーもスキャナも使えなくなるから、あなたの透視能力だけが頼りよ!」

「はいっ!! わかりましたっ!!」

「鈴原君、洞木さん、相田君の三人は八雲さんのバックアップよ! 同じようにインタフェースを使って読み取れるものは何でもいいから読み取ってちょうだい! それを参考にして八雲さんのスキャンデータを修正するわ!!」

「わっかりましたっ!!」
「はいっ!!」
「了解ですっ!!」

「それから、チームリーダーには綾小路さんを指名します! 全員、彼女の指示に従う事! では全員配置についてっ!!!」

「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」

 十三人のパイロット達は全員持ち場に散って行った。

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「急いでっ!! 全員配置についてっ!!」

 由美子が大声でインカムに怒鳴る。

『こちら四条!! カーラとヤキシャの準備は完了ですっ!!』

『玉置です!! ガルバとキナラも配置につきましたっ!!』

『橋渡ですっ!! ヴァジュラとナーガの準備も完了しましたっ!!』

「了解!! アダムはヴァジュラの、リリスはガルバの担当よ! 槍はカーラが持ってちょうだい!! 後はプログラム通りにやるわ!! 自動モードにして待機!!」

『了解!!』
『了解!!』
『了解!!』

「マサキ君! あなたがチームリーダーだからね! しっかり頼むわよ!!」

『任せとくんなはれ!!』

「艦長!! エンタープライズの準備はどうですかっ!?」

「こっちは準備完了でーす! いつでも出発オーケーねっ!!」

「了解しました!! オクタの準備も全て整いました! 向こうからの指示で同時に実行して下さい!!」

「オーケーよっ!! まっかせなさいっ!!」

「博士!! こっちはいつでも出られますっ!!」

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「判った!! こっちはこれからオクタを月軌道まで飛ばさねばならん!! そのままで待機しておいてくれっ!!」

『了解っ!!』

「葛城君! パイロットの配置はどうなっておる!?」

「もうすぐ全員搭乗完了です! …日向君! どうなってる!?」

「現在綾小路さんとシンジ君がプリティヴィに搭乗中ですが、これで最後ですっ!」

『こちら綾小路です! 綾小路、碇の両名、搭乗完了しましたっ!!』

「了解! …お聞きの通りです! 全員搭乗完了しました!!」

「わかったわ! …時田さん!! JAの準備はいかがですか!?」

『完了しています! いつでもリンク可能ですよ!!』

 ここで中之島が、

「おおそうぢゃ! 葛城君、ちょっと待ってくれ。一言言っておいた方がよかろう。…綾波君! 聞こえるか!?」

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「はい、こちらアカシャの綾波! 感度良好です!」

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「アカシャのオモイカネⅡに組み込んであるマントラコマンドシステムぢゃが、君に合わせてカスタマイズしておいた! さっきよりも効率的に使える筈ぢゃ! 宜しく頼むぞよ!」

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「承知致しました! ありがとうございます!」

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「よし、これで良かろう! 葛城君、儂の方は以上ぢゃ!」

「了解! …本部長!」

「うむっ! …よしっ! 全機出撃だ!」

 ミサトは頷くと大きく深呼吸をした。

「了解!! …作戦開始します!! ジオフロントゲート全開!! オクタヘドロン全機発進!!!」

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 サトシが叫ぶ。

「アカシャ発進!!!」

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 大作も怒鳴る。

「ヴァーユ発進!!!」

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 アキコも叫ぶ。

「アグニ発進!!!」

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 リョウコも静かに叫ぶ

「ヴァルナ発進!!!」

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 ゆかりも力強く言い放つ。

「プリティヴィ発進!!!」

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 2016年2月13日19:30。

 5機のオクタヘドロンⅡは、3機のエヴァンゲリオンとJAを引き連れ、月軌道を目指して発進して行った。

 ミサトが心配そうな顔で、中之島に、

「博士! 球体への到着は何時ごろになるでしょう!?」

「制限を外したとは言うものの、オクタ単体では秒速100キロが限界ぢゃ。月軌道までは1時間ちょっとかかる。実際の作戦を開始出来るのは21時過ぎぐらいからぢゃな……」

「すると、残された時間は3時間、と言う事ですね。我々の計算通りに行ったとすれば、光速を超える速度まで加速するのには、1時間プラスアルファですから、何とか間に合う事になりますが……」

「うむ、気持は判る。不測の事態もないとは言えんからのう……。まあしかし、今はそれを心配しておっても始まらん。とにかく計算通りにやるだけぢゃ……」

「そうですね……」

 計算している時は必死だったが、こうなってみるとやはり一抹の不安が胸をよぎる。何とも言えない表情で二人が考え込んでいる所にレナがコーヒーと紙コップを満載したワゴンを押してやって来た。

「お二人とも、コーヒーでも飲んで下さい」

 努めて明るく振舞うレナの笑顔にミサトと中之島は少し気を持ち直した。見ると、レナが配ったらしく、周りのスタッフもコーヒーを飲んでいる。

「ありがとう。いただくわ」

「すまんのう。ご馳走になるぞよ」

「どうぞどうぞ」

 そう言いながらレナは手早くコップにコーヒーを注ぎ、二人に手渡した。そしてすぐにまたワゴンを押して、コンソールの所にいるマヤ、日向、青葉の方に向かって行った。

「葛城君、田沢君は気が利く子ぢゃのう」

「ええ、そうなんですよ。ほんとに助かってます」

 コーヒーを飲み終わった後、中之島が口を開き、

「とにかく全力を尽くすのみぢゃ」

「そうですね」

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 エンタープライズのメインモニタに開いたウィンドウには、「黒い球体」の周囲に6機のオクタヘドロンが配置され、その下方にエンタープライズが位置している様子が表示されていた。

 黒い球体を地球に見立てると、赤道の周囲に、60度間隔で、カーラ、ヤキシャ、ヴァジュラ、ナーガ、ガルバ、キナラの順に並んで球体を取り囲み、南極の下にエンタープライズがある、と言うような形である。

 モニタを見詰めながら、由美子がインカムに、

「オクタ全機!! 最終確認を行います!! 異状ないわね!?」

『カーラ、ヤキシャ異状ありません!!』

『ヴァジュラ、ナーガも正常です!!』

『ガルバ、キナラも異状なしです!!』

「了解!! 作業はもうすぐ始まると思うから、そのつもりで待機しててちょうだい!」

『了解!』
『了解!』
『了解!』

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「レイ、いよいよだな。がんばってくれよ」

「うん。サトシくんも、操縦の方、おねがいね」

「でも、まさかこんな事になるなんて、全然思いもしなかったよなあ」

「そうね……。ほんと、運命、って、不思議なものね……」

「そうだな。……おっと、あれこれ言ってる内に、もう到着だな。気持を引き締めてがんばろうぜ」

「うん」

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「ねえ、アキコ、まさかあたしとあんたがさいごにいっしょにこんなことやるなんておもってもいなかったわよねえ……」

「そうじゃね。わたしとアスカちゃんの縁、って言っても、ちょっと意外じゃったよ……。なんにしても、これで最後じゃけん、がんばろうね」

「そうね。がんばろ。…あ、ところでさあ、あんた、沢田くんとつきあってるの?」

「え!? …い、いきなりどうしたん!?」

「いや、だってさ、あたしはいちおうシンジとつきあってるでしょ。それでさ、レイは渚くんとなかよくなったしね。あんたと沢田くんがなかよくなって、北原さんが草野くんとなかよくなったとしたら、なんとなくなっとくできるのよね」

「え? じゃ、アスカちゃんは『草野くんと渚くんは異次元の双子』じゃって言うのん?」

「うん、なんとなくそんな気がしてさ……」

「うーん、どうなんじゃろね……」

「それとさ、実は……」

と、アスカはアキコにタロット占いの件を話した。

「え、そんなことしてたの……; いや、それがさ、実を言うとね、その占い、結構いい線行っとるよ……;」

「えっ? そうなの!? あたってたのか……。タロットって、次元をこえても占えるとはねえ……」

「うん、まあ、そんなんじゃろかね……。あ、もうそろそろ到着じゃよ」

「あ、もうついたの? じゃこのはなしはまたあとでね」

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「渚君、どうだい、オクタに乗ってみて」

「いやー、凄いねえ。こんなに速いのに振動も加速も感じないなんて」

「反重力エンジンと質量・慣性中和システムのおかげだよ。戦闘中も全然ショックを感じないんだぜ」

「凄いなあ。びっくりするよ。…お、そう言えば、もうすぐ到着だね」

「おっと、そうだな。…じゃ、参号機の遠隔起動、よろしく頼むぜ」

「うん、がんばるよ」

 +  +  +  +  +

「碇さん、いかがですか? オクタヘドロンにお乗りになられたご感想は?」

「は、はい……; あのー、そちらの世界に行った時に乗せてもらったそちらの世界のエヴァの乗り心地に、そっくり、ですね……;」

「おほほほ、そうですか。質量・慣性中和装置を使えば、コックピットにいる私たちは何も感じませんのよ。物体が移動する時には、本来は質量かける速度の2乗の運動エネルギーを持っておりますし、当然慣性がありますから、急激な加速や方向転換をすれば、それが重力として私たちの体にも伝わるのですが、中和装置はその慣性のエネルギーさえも吸収してオクタヘドロンの運動エネルギーに変換してしまうのですの。それでとんでもない運動性能を出せますのよ。お判りになられまして?」

「は、はあ……;」

「そう言えば、私たちの世界に来て下さった時は、碇さん、惣流さん、綾波さんのお陰で、私たちの世界も助かったのですわ。今回も、その時と同じ気合でがんばってくださいね。あ、でも、あまり硬くならずに、リラックスして下さいね。おほほほほ」

「は、はい……: がんばります……;」

「そろそろ到着ですわ。頑張りましょう」

「は、はい……;」

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「こちら北原。JAベースキャンプの時田さん、応答願います」

『……時田です』

「デフォルトの通信速度ではJAの動作応答に少しタイムラグが生じるようです。64テラBPSまで上げても構いませんか?」

『……64テラならギリギリ行けるでしょう。構いません』

「ありがとうございます。では64テラで通信します」

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「いよいよ、ぢゃな」

「ええ」

 中之島とミサトは中央制御室のメインモニタを睨みながら腕組みした両手に力を込めた。

『こちら綾小路です!! 目的地に到着しました!!』

「了解!! ではプログラムをスタートして、定位置について!!」

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 5機のオクタヘドロンとJAは、アカシャ、ヴァーユ、アグニ、ヴァルナ、プリティヴィ、JAの順に、60度間隔で黒い球体を取り囲むように並んだ。無論、プリティヴィ、アグニ、ヴァーユのそばには、それぞれエヴァンゲリオン初号機、弐号機、参号機がある。

「こちら綾小路!! 全機配置完了!!」

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「了解!!」

「こちら葛城! エンタープライズの山之内! 応答願います!」

『こちら山之内! こっちはいつでもオーケーよ!!』

「では最後にもう一度作戦行動を確認します! 綾小路さん! こっちはあなたが全員を代表して応答して下さい!」

『……了解ですっ!!』

「由美子! そっちはあなたが応答してちょうだい!」

『了解よ!』

「私の合図で、アダム、リリス、エヴァを球体に入れ、ロンギヌスの槍を突き立てます! その後、球体を反重力フィールドで包み込み、後は北極星に向かってフル加速して下さい! 秒速1万キロに達したら、その後はエネルギー反応が爆発的に増大して一気に光速まで達します! ですから秒速9000キロの時点で全機全自動モードに切り替え、カプセルを分離して離脱します! その後、こちらの世界のメンバーは地球に、向こうの世界のメンバーはエンタープライズに帰還して下さい!」

『了解!』
『……了解!』

「作業は、基本的には全てプログラムによる自動操縦で行います! しかし万が一、不測の事態が起こった場合は、チームリーダーに連絡した上で手動に切り替えて作業を継続します!」

『了解!』
『……了解!』

「では私の号令で同時に開始します! そのままで待機して下さい!!」

『了解!』
『……了解!』

 ミサトは壁の時計にチラリと眼をやり、

(21時5分か……。よしっ!!)

 大きく深呼吸すると、

「作戦行動を開始します!! エヴァンゲリオン起動!!」

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 シンジが叫ぶ。

「動けええっ!!」

 +  +  +  +  +

 アスカも叫ぶ。

「うごけええっ!!」

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 カヲルも叫んだ。

「動けええっ!!」

 +  +  +  +  +

 コンソールを見詰めたままマヤが叫ぶ。

「エヴァンゲリオン3機反応確認!!」

「アダム、リリス、エヴァ3機! 全て球体に投入!!」

 ミサトの怒鳴り声が響き渡った。

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 3機のオクタヘドロンは3機のエヴァンゲリオンを黒い球体に投入した。あっと言う間に暗闇の中に3機が吸い込まれて行く。

「こちら綾小路!! エヴァンゲリオン3機の投入完了!!」

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(母さん、さよなら。…今度こそほんとにさよならだよ……)

 消え行く初号機を見ながら、シンジは心の中で呟いた。

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(ママ、さよなら。…でも、しんぱいしないでね。あたしはだいじょうぶだから……)

 アスカも心の中で呟いていた。

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 ヴァジュラとガルバもアダムとリリスを球体の中に投入した。

「こちら四条! 投入完了です!!」

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 ミサトは大きく頷き、

「ロンギヌスの槍を投擲!!」

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「レイ!」

「うんっ!」

 レイはサトシに頷くと、コンソールのレバーを握り、

「投擲!!」

 アカシャは右手を思い切り後に引くと、眼にも止まらぬ速さで槍を球体の中心めがけて投げた。凄まじい勢いで槍が飛んで行く。

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「投擲!!」

 マサキの叫びに応じてカーラから放たれた槍も、球体の中心部めがけて飛んで行った。

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「こちらエンタープライズの山之内! 球体内部でのエネルギー反応を確認!!」

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「球体内部で強力なエネルギー反応を確認!!」

 マヤの叫びに、ミサトは再び大きく頷くと、インカムに手を添え、

「反重力フィールド展開!! 加速開始!!!」

と、叫んだ。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'祈り(Ver.4b) ' composed by VIA MEDIA

二つの光 第三十話・復活
二つの光 第三十二話・決着
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