第四部・二つの光
続いて五大は、
「時田さん!! 応答願います!!」
『こちら時田です!!』
「JAも現状維持のまま待機させておいて下さい!!」
『了解しました!!』
「伊吹君、引き続き量産型迎撃作戦を行う。使徒をおびき寄せた時と同じ要領で実行してくれ」
「了解! プログラムスタートします!」
+ + + + +
第二十四話・光明
+ + + + +
ターミナルドグマ。
「よし、これでいい」
そう言いながら持明院はアダムの頭頂部に軽く突き立てた細い針を抜き取った。その様子を息を殺して見詰めていたミサトが肩を落として息を吐く。
「ふうーっ、…持明院さん、これで五人とも霊的能力を発揮出来なくなるんですか」
「そうだ。鍼灸の応用なんだが、頭頂にある霊的中枢のツボを針で突いてやると霊的能力を封じてしまう事が出来る。無論、ただ突けばいいと言うものではなく、それに合わせてこちらもそれなりの『気』を送ってやる必要はあるがね」
「なるほど。…でも、鮮やかなお手並みには感服しました。五人の処置に1分もかからないなんて……」
「まあ、慣れの問題だよ。君でも練習すれば出来るようになるぞ」
「へえー、そうなんですか……」
持明院の言葉にミサトは一瞬顔をほころばせたが、すぐに真顔になり、
「ところで、祇園寺が言っていた事なんですが……」
「え? …ああ、あの事か……」
「まさかと思いました。あなたは伊集院さんだったんですか」
「うむ…。祇園寺に潜在記憶を呼び起こされるまでわからなかったが、私は伊集院輝明こと鈴木弘さ。全部思い出したよ。…君も知っての通り、向こうの世界で自殺し、自ら霊的存在となって祇園寺と戦った時、奴と私の霊体は暗黒の次元に飛び込んだ。その後、祇園寺と碇ゲンドウはこの時代のこの世界に戻って来たが、私は20年前のこの世界に来ていたんだよ」
「でも、その体は誰の……?」
「この体はな、持明院イチロウと言う名の男のものさ。無論、無理矢理奪い取った訳ではなく、丁度私がこの世界に来た時に急病で死んだのだがね。そこに私の霊体がたまたま飛び込んだと言う事だ。で、その瞬間に蘇生して、命拾いしたんだが、その時に持明院と私の記憶が混ざり合ったんだ。無論、意識は持明院のものだ。そしてだ、本来なら、そのままずっと私は、『命拾いした平凡な男、持明院イチロウ』として生きる事になった筈だったんだ。ところがだ、その後私にはなぜか透視能力と予知能力が発生した。それでその力を使って『晴明桔梗』を作り、京都財団にまで発展させた、と言う訳さ……」
「それでわかりました。あなたは向こうの世界で、この世界の複数の歴史を、それとは知らずに透視した人々が公表していた『この世界の歴史』を知っていた、そして、その記憶を潜在意識に持ってこの世界に現れたため、この世界の未来を『予知』できた、と言うことなんですね。安倍理事長が書かれた『原初の光』のアイデアも、元はあなたから出た物だったんですね」
「その通りだ。透視能力ならともかく、正確な予知を行う能力と言うのは、真正なオカルティズムの観点に立てば疑問があるし、無論、実際に行う事も、理論的には不可能なんだ。しかし私にはそれが出来た。だからこそ、セカンド・インパクトの後の混乱を逆に利用して大儲けする事も出来た、と言う事だ。私の予知能力はオカルト仲間からはまさに神仏に等しい能力だと驚嘆されたが、凄い魔法も、タネを明かせば何と言う事もなかった、と言うヤツだな……。『原初の光』も、元ネタは私が安倍に話した事であり、安倍は私の潜在意識を読み取って小説にした、と言う事だ……」
「…………」
自嘲気味に笑う持明院の言葉に、ミサトは何も言えない。その時、入口の方から速いテンポで響く複数の足音が聞こえて来た。
「葛城! 警備班が到着したぞ!!」
加持の声が響く。ミサトは振り向きながら立ち上がると、
「今行くわ!」
+ + + + +
+ + + + +
月軌道に浮かぶ巨大な黒い球体を調査すべくやって来たエンタープライズは、全力を尽くして分析を続けていたが、何も判らないまま時だけが過ぎていた。
コンソールを睨んでいた由美子が、苦渋に満ちた顔で振り向き、
「艦長、まったくわかりませんね……」
ライカーも顔を顰め、
「困りましたねー。我々の能力の全てをかけても、この黒いボールからは何も情報が掴めませーん。…ミスター松下! そっちはどうですかー?」
『こちらJRL本部の松下です! こちらもオモイカネをフル回転させてそちらの情報を分析していますが、今の所何も出ません!』
「そうですかー。そっちのフェイズ・スキャナには何も反応はないですかー? こっちも何もなくて困ってまーす!」
『申し訳ありません! こちらにも何もないですね! とにかく調査を続けて戴けるよう、お願いします!!』
「オッケーねー! わっかりましたー!!」
+ + + + +
JRL本部中央制御室。
「今の所、『黒い球』に関しては打つ手なし、か……。ふーむ……」
メインモニタを見ながら松下が溜息を漏らす。それに呼応するかのように岩城が振り向き、
「本部長、どう分析してみても、あの球体は『無』としか言いようがありませんね。レリエルのディラックの海とも思えないですし……」
「全くな……。そうだ、今の内にオクタの被害状況を確認しておくか。…四条君! こちら松下だ! 応答しろ!」
+ + + + +
「はい! 四条です!!」
『オクタ6機の被害状況はどうだ!? こっちのセンサーでは一応異状なしのレベルだが、特に旧モデル3機は自動モードで援護射撃ばかりをやらせていたから、そこそこやられてるんじゃないか!?』
「いえ、そんな事ありません! 僕らは3機とも無傷みたいなもんですし、旧モデル3機も多少焦げたとこはありまっけど、事実上、無傷ちゅうても問題あらへんレベルです!!」
+ + + + +
「わかった! とにかくこちらは全力で分析を続ける! いざとなったらエンタープライズに合流して貰う可能性もないとは言えんから、そこで待機していてくれ!!」
『了解しました! 通信終了します!』
「さて、と、久々に私もやるかな……」
そう言いつつ松下は空いているコンソールに向かった。デスクトップモニタの片隅のデジタル時計の数字がふと眼に飛び込んで来る。
(11時28分か……)
+ + + + +
+ + + + +
IBO本部中央制御室。
「30分……、何もなし、か……」
腕時計を見ながら呟く五大の声は暗かった。量産型をおびき寄せるべく開始した作戦だったが、案に相違して何の反応もない。
(11時28分……、5時間半か。パイロットもそろそろ限界だし、燃料も補給すべきだな。…よし)
五大は意を決すると、中之島の方に振り向き、
「博士、今の所何の反応もありません。エヴァもオクタヘドロンもすぐに出撃出来る態勢を取った上でパイロットを休ませるべきでしょう。燃料補給も兼ねて、一時全機回収します」
中之島は頷くと、
「うむ、妥当な判断ぢゃろうな。賛成するぞよ。JAはどうする?」
「JAは無人ですから地上で待機させても問題ないでしょう。そのままにして貰います」
「成程の。判ったぞよ」
五大は続いてマヤに、
「伊吹君、聞いた通りだ。全機回収してくれ。回収完了後、パイロットは全員待機室に行かせておいてくれ」
「了解しました。……通信回線接続完了。…こちら伊吹! エヴァンゲリオン及びオクタヘドロン全機に指示します! 全機一時回収します! エヴァは各自近くの回収ポイントに戻ってちょうだい! オクタヘドロンは出撃したジオフロント開口部から戻って下さい! もどってきたらエヴァもオクタヘドロンもパイロットは全員待機室に行ってちょうだい! わかった!?」
+ + + + +
「こちら参号機! 了解しました! もどります! ふうーっ……」
シンジは大きな溜息を一つつくとアスカを見た。
「アスカ、もどろうか」
「うん、ひとやすみね。あたしもさすがにつかれたわよ……」
+ + + + +
「伊吹君、時田氏に繋いでくれ」
「はい。……接続完了です」
「こちら五大です! 時田さん! 応答願います!」
『こちら時田です! エヴァンゲリオンとオクタヘドロンは一時回収ですか!?』
「ええ! パイロットを少し休ませます! それで、申し訳ないのですが、そちらは無人ですからJAは地上で待機させておいて下さい! 量産型をおびき寄せる作戦そのものはこのまま継続しますので、何か変化があったらすぐに連絡します!」
『了解しました!』
その時、ミサト達三人が中央に戻って来た。
「本部長、戻りました!」
ミサトの声に、五大は振り向き、
「おっ、お手柄だったな。で、連中は拘置室か?」
「はい。持明院さんに連中の霊的能力を封じる処置をしていただいた上で、全員独房に入れました」
「そうか、わかった」
と、頷き、持明院に、
「元締、お手数をおかけしました」
持明院は苦笑すると、
「いや、久し振りに昔の感覚を思い出したよ。…ところで、外の様子はどうなんだ?」
「量産型をおびき寄せようとしたんですが、今の所無反応です。それで、JAだけ地上に残して、全機共、一時的に回収している所です」
「そうか。作戦の練り直しだな」
「ええ、そうです。…葛城君、連中から何か情報は得たか?」
「はい、とんでもない情報をつかみました。戦闘が現在一時的におさまっているのならば、ぜひ作戦会議を招集していただきたいのですが」
「うむ、その方がよかろう。現状を打破するためのアイデアがみつかるかも知れんからな」
と、言った後、五大はレナに、
「田沢君!」
「はい」
「聞いた通りだ。服部君を呼んで一緒に準備してくれ。パイロット以外の幹部スタッフは全員参加だ。冬月さん、時田さんにも出てもらおう。ここのオペレーションは技術部員に任せる」
「了解致しました」
その時、中之島が、
「おお、そうぢゃ、ちょっと待ってくれんかの」
一同がそちらを向く。中之島は続けて、
「本部長、今思ったのぢゃが、会議に入る前に、五人をもう一度調べたらどうぢゃろう。無論葛城君も何か情報は掴んだぢゃろうが、掴める限りの情報を掴んでから会議に入る方が良いと思うぞよ」
「うーむ成程。…葛城君、どうだろう、連中の取調べは可能か?」
五大の言葉にミサトはやや顔を顰め、
「博士の仰る事はもっともだと思いますが、少なくとも私がさっき見た限りでは、麻酔がかなり効いていますから、もうしばらくは無理ではないかと」
「そうか。なら仕方ないな。…博士、お聞きの通りです。取調べは後にするしかないですね」
「うむ、止むを得んな。判った」
仕方ない、と言う表情で中之島が頷く。五大は改めて、
「では予定通り会議を行う。出席者は全員臨時会議室に集合だ」
+ + + + +
「カプセル分離! 着陸!」
バシュッ!!
サトシの声に呼応してアカシャのカプセルは本体から分離し、本部横の臨時駐機場に着陸した。
「沢田くん、おつかれさんじゃったね」
サトシを出迎えたのは既に着地していたアキコであった。流石に一段落してほっとしたと言う顔をしている。
「いや、形代が『裏当て』のことを思い出してくれたおかげだよ。草野も一緒にやってくれたしね。…それに形代もよく頑張ったじゃないの」
「そ、そうかな…。沢田くんに、そう言ってもらえると、うれしいよ」
アキコはやや俯き加減になりながらも、瞳を光らせてサトシを見た。その何とも言えない輝きにサトシは魅了され、一瞬ドキリとしてしまった。
「沢田さん、形代さん、戻りますわよ♪」
後からゆかりの声が響く。サトシは我に返り、慌てて振り返ると、
「は、はい! 行きます! …じゃ、行こうか」
「うん」
サトシが本部の方に向かって歩き始めると、その隣に寄り添うようにアキコも歩き出した。
+ + + + +
「では会議を始める。葛城君、頼む」
五大の言葉を受け、ミサトは椅子から立ち上がると、
「はい。では、この際ですから、情報は全て公開致します。…まず最初に、中之島博士から昨夜伺った話なのですが、博士がマギの破損ファイルを解析なさった所、この……」
ミサトの言葉にマヤが顔色を変え、立ち上がる。
「ちょっと待って下さい。マギの破損ファイルを解析なさった、って、どう言う事なんですか!? 勝手にマギに侵入してデータを抜き取った、と言う事ですか!?」
中之島はややバツの悪そうな顔をしている。すぐさま五大が、
「伊吹君、控えろ」
「でも! 本部長!」
「確かに博士のなさった事は不当かも知れん。しかし今回に限っては、事後ではあるが、私が全て承諾した事だ。技術者としての君の気持ちはわかるが、この件に関しては一切口出しは禁ずる。全て私の判断に任せて貰いたい」
「は、はい……。わかりました……」
マヤが腰を下ろした後、五大は改めてミサトに、
「葛城君、続けろ」
「はい。…破損ファイルの解析の結果判明した事なんですが、実はこの世界は少なくとも350回以上、破滅と再生を繰り返していました」
「ええっ!!!」
「ええっ!!!」
「ええっ!!!」
「ええっ!!!」
「ええっ!!!」
「ええっ!!!」
「ええっ!!!」
事情を知らなかった技術部の三人、冬月、時田、そして他のスタッフ全員が一斉に驚きの声を上げる。一瞬置いてミサトは、
「…そしてそれが原因で、現在この世界は、虚構と現実の混同が起こっています。そのため、本来起こり得ない超常現象が発生しているのです」
余りにも意外なミサトの話に、事情を知っている者以外は驚くのみだった。特にマヤの狼狽振りは尋常ではない。その様子を見たミサトは、静かに、
「…マヤちゃん、いえ、伊吹代行」
「えっ!? は、はいっ!」
「これでわかったでしょ。確かに私たちの立場からすれば、博士の行動は不当だと非難する事は出来るわ。でも、これほど重要な事実を、私たちはずっと知らなかったし、考えた事すらなかったのよ。それを知らせて下さったのが博士だとしたら、これも一つの『縁』であり、『神の思し召し』なのかも知れないじゃない。私は素直にそう思うわ。本部長もそうお考えになられたから、今回の事は納得なさったのだと思うのよ。そのあたりを考えて、今回は納得してくれないかしら」
流石のマヤも俯いたまま、
「は、はい。…確かにその通りです。これほどの重大な事実が、私たちのすぐそば、マギの中にあったのに、私たちは今までずっと知りませんでした。考えてみたら、技術者として恥ずべき事です。反省しています……」
「じゃ、わかって貰えたようなので続けます。…実は、この事実なんですが、碇ゲンドウと祇園寺は既に知っていました」
「なにっ!?」
「何ぢゃと!?」
五大と中之島も顔色を変える。ミサトは続けて、
「この件に関しては後で詳しく申し上げますが、もう一つ、我々に関する事で、極めて重大な情報があります」
と、言った後、持明院に向かって、
「持明院さん、私が申し上げてよろしいでしょうか?」
しかし、持明院は、
「いや、それに関しては私が言おう」
「そうですか。ではお願い致します」
そう言うとミサトは椅子に腰を下ろした。入れ替わりに持明院が立ち上がる。
持明院は、おもむろに、中之島に向かって、
「中之島博士」
「ん? 何ぢゃな」
「改めて挨拶させて戴きます。……お久し振りです」
「何!?…… !!! お主! まさか!!」
「そうです。私は伊集院です」
「何ぢゃと!!」
「元締!!!」
「なんですと!!!」
「ええっ!!!」
中之島、そして五大と中河原と加納は血相を変えて立ち上がった。
+ + + + +
五人のオクタヘドロンのパイロット達が待機室に戻って来ると、既にエヴァンゲリオンのパイロット八人がいた。全員とも表情そのものは暗くなく、やはり一応使徒を全て倒した安堵感が表れているようだが、流石に疲れているせいか、押し黙ったまま座っているだけである。
「みんなお疲れ様でした。まあ、一応なんとかなりましたわね」
流石にゆかりはこのあたりソツがない。にこやかに微笑みながら積極的に声をかけている。ゆかりの行動で、待機室に温かい空気が流れたような感じがした。
「あ、そう言えば、惣流さんは初めてでしたわね。初めまして、私はオクタヘドロンⅡ・プリティヴィのパイロット、綾小路ゆかりです」
いきなり名指しで呼びかけられたアスカは少し慌てて、
「えっ、あ、はじめまして、惣流アスカ・ラングレーです」
「今回は大変でしたわね。でも、全快されてほんとによろしかったですわ」
「い、いえ、どうも。まあ、なんとかなおってよかったです。はい……」
「さっきの参号機の活躍は素晴らしかったですわよ。とても病み上がりとは思えませんでしたわ。あ、それから、こちらは私のいとこでヴァーユのパイロット、草野大作です」
「草野です。初めまして」
「あ、は、はい、はじめまして」
いつもは積極的なアスカが今日は何故か妙にしおらしい。その様子を見ていたシンジは少しおかしくなった。すると、早速、
「あ、なによシンジ、なにわらってんのよ」
シンジの苦笑に気付いたアスカが早速食ってかかる。
「え? いや、その、別に、笑って、なんか、ないよ……」
「うそばっかり! くすくすわらってたじゃないの! あたしがちゃんとあいさつしてんのがそんなにおかしいわけ!?」
「そ、そんなことないってばあ……」
「だいたいシンジはね、いっつもそうなのよ! こないだもさ! ………」
シンジとアスカは周囲の目も気にせずすっかりいつもの二人に戻っている。そんな二人を、苦笑しながら他の十一人が温かく見守っていた。
+ + + + +
臨時会議室では持明院の話が続けられていた。
「…と、言う訳だ。まさか私が向こうの世界から20年前のこの世界にやって来ていたのだとは、祇園寺に知らされるまでは、考えた事もなかった。しかし、私もそうなんだが、五大や中河原や加納にしてみれば、私の『予言』が何故当たったのか、これでようやく理解出来た、と言う所だろう。まあ、私の精神と記憶の一部が『向こうの世界の伊集院』のものであったとしても、現在の私の生活と行動に大きく変化が出る訳ではない。今まで通りにやって行くつもりだ。…話は以上だ」
そう言うと持明院は椅子に腰を下ろした。それを受けてミサトが再び立ち上がり、
「ありがとうございました。…さて、持明院さんのお話は伺いましたので、私たちがターミナルドグマで入手した情報を続いて報告致します。
先程も申しましたように、碇ゲンドウ一行は、この世界が破滅と再生を繰り返していた事を知っておりました。そして、言わば『癖』がついている状態になっていたため、それが比較的簡単に成し得ることも理解していたようです。
連中の話では、『最初のサード・インパクト』の時に発生したエネルギーがあまりに大きかったため、セカンド・インパクトの時点まで時間が巻き戻されると言う現象が起き、その時『癖』がついた、と。そして、それがすべての根源だった、と言う事です。
それから後、この世界は、数ヶ月から数十年の単位で、破滅と再生を繰り返していた、と。つまり、サード・インパクトを起こしさえすれば、時間を巻き戻す事ができる、と言う事なのです」
会議室の全員は真剣な表情でミサトの話に聞き入っている。
「更に、祇園寺が認識し、碇ゲンドウに伝えていた事なんですが、ここ、即ち第3新東京市は、『よもつひらさか』であり、それに加えて、『しだいのエネルギー』が集約している場所である、と。そして、そのエネルギーを使って、リリスは使徒と人類を生み出した、と。私にはよくわからないのですが、確かこのように言っていました」
「ううむ……、そう言う事か……」
中之島が思わず唸り声を上げる。ミサトは軽く頷いた後、続けて、
「次に、碇ゲンドウが言っていた事です。ここがネルフ本部となった経緯に関する情報なんですが……」
+ + + + +
待機室。
パイロット達がそれぞれに雑談していた時、突然思い出したように、トウジが、
「あ、そういうたら、シンジ、ちょっと思い出したんやけどな」
「なんだい」
と、振り向いたシンジに、トウジは続けて、
「お前にしても、惣流にしても、前はあんなに強かったとは思わんかったんやが、今日はムチャクチャすごかったやないけ。いったいどないしたんや?」
「えっ? そ、そう言われても……」
シンジは思わず口篭もった。確かに今日の参号機の活躍はすごかったが、特に何か意識していた訳ではない。思い当たる事を強いて言えば、自分が声に出して参号機に命令した事が、極めて的確に素早く実行された、と言う事ぐらいだったのだ。
そこに、アスカが思いついたように、
「そういえばシンジ、あんたさ、プラグの中でやたらさけんでたけど、参号機、そのとおりに動いてたわね」
「えっ? そうだった? 意識してなかったけど……」
他のエヴァンゲリオンのパイロット達は興味深そうに三人の話に聞き入っている。アスカは続けて、
「それからさ、もうこの際だからあえて言うけど、あたし、気をうしなってたときさ、シンジによばれたようにおもったわよ」
「えっ!?」
シンジは驚いた。自分が参号機の中で「アスカ」と叫んだ時の様子が脳裏に蘇る。
「それで、そのあとさ、加持さんの声がきこえたようにおもったのよ。そしたら目がさめたんだけど」
「そんな事があったの!?」
「うん、だからさ、もしかしたらそのへんのことに関係してないかな、って、おもうんだけどね」
オクタヘドロンのパイロット五人は興味深そうに話を聞いていたが、ゆかりがゆっくりと顔を上げ、口を開いた。
「それは、『言霊』ではありませんこと?」
「ことだま!?」
「ことだま!?」
シンジとアスカは同時に叫んだ。
+ + + + +
臨時会議室。
「…………以上です。本部長、まとめをお願い致します」
そう言った後、ミサトは腰を下ろした。入れ替わりに五大が立ち上がり、
「今の葛城部長からの報告に関してだが、加持部長、補足や訂正はあるかね?」
「いえ、ありません」
「元締はいかがです? 何かありますか?」
「いや、ない。葛城部長の話は正確だ」
「わかりました」
と、頷いた後、五大は正面を向いて、
「では、現在我々が得ている情報を元に纏めておこう。
まず、碇ゲンドウや祇園寺が危険を冒してまでここにやって来た理由がはっきりしたと言う事だ。ここは、『何か事を起こすためには、この場所で行わねばらなぬ聖地と言うべき場所』なのだ。だからこそ、連中はターミナルドグマにまで侵入し、儀式を行おうとした。
その、『聖地』たる理由は、この場所は、リリスが人類と使徒を生み出した場所であり、それに必要な四大のエネルギーが集約されている場所である、と言う事だ。そして連中は、ここを『黄泉比良坂』とも考えていた。
これらから導かれる結論は簡単だ。ここ、正確に言えばターミナルドグマを、物理的、霊的に封鎖してしまう必要がある、と言う事だ。それを実現すれば、最早、サード・インパクトは起こせなくなる。そしてその後は、時間の流れも正常化し、それに伴って虚構と現実の混同も解消されて行く事になる。
無論、その前に、量産型を殲滅する事と、あの黒い球体の処置は必要だし、連中の『ビッグバン計画』とは分けて考えねばならんが、使徒は全て消滅したし、量産型を全て倒せば、最早ビッグバンを起こせるようなエネルギーは発生させられないから、最終的には問題は同時に解決する事になる」
五大の話が一段落したと見た中之島が、手を上げ、
「本部長、構わんかの」
「どうぞ」
「ターミナルドグマを、物理的、霊的に封鎖すると言うのは、具体的にはどうする積りぢゃな?」
「細かい部分を吟味する必要はあるとは思いますが、私としては、『古事記』の記述を応用すべきだと考えています」
「『大きな石』を置いて、『黄泉の国の入口』を封鎖する、と言う事か」
「ええ、そうです。そのためには色々と、えっ!!?」
その時、
ゴオオオオオオオオオオッ!!!
「うわあああああっ!!!」
「きゃあああああっ!!!」
「うわあああああっ!!!」
「うわあああああっ!!!」
「きゃあああああっ!!!」
突然、凄まじい地鳴りと共に激しい地震が襲いかかって来た。
+ + + + +
待機室。
ゴオオオオオオオオオオッ!!!
「うわあああああっ!!!」
「きゃあああああっ!!!」
「きゃあああああっ!!!」
「うわあああああっ!!!」
「きゃあああああっ!!!」
「きゃあああああっ!!!」
「みんな!! 机の下にもぐれええっ!!」
地鳴りと悲鳴の中、大作の怒号が響き渡る。
+ + + + +
臨時会議室。
「………ふうー、やっと収まったか……」
地震が収まった後、机の下から這い出して来た五大が、会議室の中を見渡しながら、
「怪我人はいないか!?」
と、叫ぶ、それに呼応し、これまた机の下から出て来たミサトが立ち上がりながら、
「私の周囲は全員無事です!」
と、叫ぶ。五大は頷き、
「了解した! 怪我をしている者はいないか!? いたら言ってくれ!!」
一呼吸おいたが返事はない。全員が次々と机の下から出て来る。
「よし! それでは全員無事とみなす! とにかく中央と連絡を取り、被害状況を確認してから次の対応を決める! 葛城君! 調べてくれ!」
「了解しました!」
ミサトがスマートフォンを取り出して、中央にかけようとしたその時、
ジリジリジリジリジリジリジリッ!!!!!
突然、非常警報が激しく鳴り響いた。同時にミサトのスマートフォンが鳴る。
トゥル、トゥル、トゥル
「!!! もしもしっ!! 葛城ですっ!!」
電話は中央制御室の技術部員からのものだった。内容を聞いたミサトは顔色を変え、
「えっ!『パターン青』が出た!?」
「量産型が来たかっ!?」
五大も叫んでいた。
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'夜明け -Short Version- ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)
二つの光 第二十三話・執念
二つの光 第二十五話・変化
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