第四部・二つの光




 中央制御室。

 マヤが振り返り、

「葛城部長! 加持部長から内線です!」

 ミサトはすかさず、

「インカムに繋いで! ……もしもしっ!」

『加持だ! アスカの意識が戻ったぞ!!』

「えっ! そうなの!! よかった!!」

『ああ、今医師が診察中だが、異状はなさそうだ!』

「ちょっと待って! …本部長! アスカ、いえ、惣流の意識が戻りました! 今診察中です!」

「おおそうか!」
「えっ! よかった!!」

 五大とマヤが同時に声を上げる。五大は続けて、

「よし! もし異状がなければすぐに参号機ケージに行かせてくれ!!」

「了解しました! …加持君! 異状がなかったらアスカをすぐに参号機ケージに連れて行って!」

『わかった! では切るぞ!』

 それを聞いた中之島も、

「よし! これでこっちの戦力が少しは上がって時間が稼げる! 日向君! 青葉君! 今の内に何としても対応策を考えるのぢゃ!!」

「了解!!」
「了解!!」

 +  +  +  +  +

(「碇君! 碇君!」)

「…う、ううーん、……はっ!!」

「よかった! 気がついたのね!!」

 シンジは慌てて飛び起きた。目の前にいるのはレナである。

「…田沢……さん、……僕は、……どう……したんですか……」

「エントリープラグの中で突然叫び声を上げて、そのまま気絶してしまったのよ。…でも気がついてよかったわ」

「…ここは……」

「参号機ケージの待機室よ」

 シンジは周囲を見渡した。どうやらエントリープラグから出されてソファに寝かされていたようだ。気絶している間に医師による診断が行われていたらしく、血圧計や脳波測定器なども置かれている。

「僕、どれぐらい気を失ってたんですか?」

「10分ぐらいよ。お医者様の話では、脳波や血圧には異状はない、って。それでね、その他にも色々とあったのよ。加持部長のアイデアであなたと惣流さんと加持部長を脳神経スキャンインタフェースで参号機に接続したの」

「えっ!? そうだっんですか?」

「そうなの、それで起動したら、上手く行ってね、それで、惣流さんも……」

 その時ドアが開いて一人の人物が姿を現した。

「シンジ!!」

「アスカ!!」

 シンジは思わず立ち上がった。入って来たのは加持に伴われたプラグスーツ姿のアスカだったのだ。

 +  +  +  +  +

第十九話・心眼

 +  +  +  +  +

 加持は、少し照れたような笑いを浮かべ、

「オレとシンジ君のタロット呪術が何とか上手く行ったぞ。アスカは目を覚ましてくれたよ」

 シンジは身を乗り出し、

「加持さん、アスカはもう大丈夫なんですか?!」

「ああ、大急ぎで脳波を調べて貰ったが異状なしだった。参号機にも乗れるぞ」

 続いてシンジは、アスカに、

「アスカ、だいじょうぶなの?」

 アスカは頷くと、

「うん、だいじょうぶよ。くわしいことは知らないけど、オクタへドロンのこともふくめて、おおまかな話は加持さんからきいたわ。…しんぱいかけてごめんね……」

 しかし、シンジは首を振ると、

「そんな……、もともとは僕の失敗が原因なんだし……」

と、言った後、思い出して、加持に、

「あっ! それよりも、外の使徒はどうなったんですか!?」

 加持は、表情を曇らせ、

「オクタ5機とエヴァ3機、それとJAで牽制攻撃をしている。しかしなんせ数が多いからな。一進一退だよ」

「じゃ、すぐに行きます! 乗せて下さい!!」

 シンジの言葉に、加持はレナに向かって、

「田沢君、シンジ君は大丈夫なのか?」

 レナは頷き、

「はい、医師の診断ではエヴァの搭乗には差し支えないと言う事です」

 それを聞いた加持は、

「よし、じゃ二人とも行くんだ」

「はいっ!!」
「はいっ!!」

 +  +  +  +  +

 参号機ケージに来たシンジとアスカはエントリープラグへの搭乗準備が整うのを待っていた。

「あたしがねてる間に、たいへんなことになったわね。加持さんからオクタヘドロンの話をきいたときは、さすがにびっくりしたわよ」

「そうなんだ。使徒も30に増えちゃったしね……」

「…シンジ、……これ……」

「えっ!? ……あ……」

 アスカは右手を開いて差し出した。そこには真珠のペンダントが光っている。

「シンジ……、これさ、あたしの首にかけてよ……」

「え? ……う、うん……」

 照れ臭さを抑えながら、シンジはペンダントを両手で取り、そっとアスカの首にかける。

「シンジ、あたしといっしょにがんばってよね……」

「うん、がんばろうね」

「エントリープラグ搭乗準備が完了しました! 搭乗して下さい!!」

「は、はいっ!!」
「はいっ!!」

 係員の声に我に返った二人は真顔でプラグに乗り込んで行った。

 +  +  +  +  +

「クソおおっ!! これじゃどうにもならんっ!!」

 ヴァーユのコックピットで大作が叫ぶ。マントラレーザーで使徒を追い回してはいるのだが、何故か相手も上手く協調した行動を取っているため、全体としての牽制の効果はさほど上がっていないように思える。無論、ウィンドウに映るエネルギー反応の上昇は鈍化しており、「使徒のエネルギーを消費させる」と言う意味での効果はあるのだろうが、決め手のない牽制攻撃を延々と続けているだけの状態に、流石の大作も少々イラ付き始めていた。

「博士!! なんとかならないんですか!!」

『今分析中ぢゃ!! もうちょっと辛抱せいっ!!』

 +  +  +  +  +

 中央制御室。

 係員の声が響く。

『参号機搭乗完了です!!』

 ミサトは、

「了解!!」

と、頷くと、マヤに、

「起動してっ!!」

「参号機起動開始!! パルス入力!!」

 +  +  +  +  +

「動けえええっ!!」
「うごけええっ!!」

 +  +  +  +  +

「起動しましたっ!!」

 マヤの声が響き渡る。

 +  +  +  +  +

 地上では相変わらず一進一退の戦闘が続いていた。復活した使徒は、エヴァンゲリオンやオクタヘドロンに襲い掛かると言ったような明確な行動を取っておらず、のらりくらりと攻撃を躱すような動きに終始している。アキコもアグニで手当たり次第に使徒を追い回していた。

「発射!!」

ブシュウウウウウッ!!!

「グエエエエエエエッ!!!」

 集音マイクに灰色のシャムシェルの悲鳴と共に肉が焦げる音が入って来る。決して気持ちの良いものではないが、今はそんな事に気を取られている余裕などある筈もなかった。

「発射!!」

ブシュウウウウウッ!!!

「グエエエエエエエッ!!!」

 +  +  +  +  +

「シンクロ率上昇中!! 間もなく操縦可能域に入ります!!」

 マヤの言葉にミサトは頷くと、

「参号機はレーザーライフルを持たせて射出するわ! 準備して!!」

「了解!! 参号機起動完了! シンクロ率も安定していますっ!!」

「射出!!」

 +  +  +  +  +

「行けえええっ!!!」
「行けえええっ!!!」

 +  +  +  +  +

「シンジ君! アスカ! 参号機の射出ポイントは戦闘中の市街地中心部よっ!! 地上に出たらすぐに乱射でいいからレーザーを撃ちなさい!! ライフルはアスカが担当よっ!!」

 +  +  +  +  +

「はいっ!!」
「はいっ!!」

 +  +  +  +  +

 JA臨時ベースキャンプ。

「パワーが少し落ちてるぞ!! 動きはどうだ!?」

 時田の怒鳴り声に、操作員甲は、

「インタフェースからのフィードバックではまだ適正範囲です! 問題ありません!」

「出来るだけ使徒のエネルギーを消費させろ! 絶対に臨界を起こさせてはならん!!」

「了解!!」

 +  +  +  +  +

ガコオオオオオオオオンンッ!!

 +  +  +  +  +

「牽制行動開始!!」
「うてええっ!!」

 +  +  +  +  +

ブシュウウウウウッ!!!

「グワアアアアアアッ!!!」

 いきなりレーザーを照射された赤いサキエルが悲鳴を上げる。

 +  +  +  +  +

 トウジとヒカリが、

「シンジ!! 惣流もおるんか!!」
「アスカ!!!」

 +  +  +  +  +

 ケンスケとナツミも、

「シンジ! 惣流!!」
「アスカさんっ!!」

 +  +  +  +  +

 そして、レイとカヲルも、

「シンちゃん!! アスカ!!」
「碇君! 惣流君も!!」

 +  +  +  +  +

 シンジは、

「みんな心配かけたね!! …回避!!」

 アスカも、

「発射!! …その分とりかえすからさっ!!」

 +  +  +  +  +

ブシュウウウウウッ!!!

「グワアアアアアアッ!!!」

ブシュウウウウウッ!!!

「グワアアアアアアッ!!!」

 参号機は使徒の間を素早く駆け抜けながらレーザーを連射する。

 +  +  +  +  +

 トウジは声を張り上げた。

「よっしゃああっ!! ワシらも行くでええっ!!」

「うんっ!!」

 ヒカリも力強く頷いた。

 +  +  +  +  +

 ケンスケも、

「俺もだああっ!! 発射!!」

 ナツミも、

「回避してっ!!」
(アスカさん、よかった……)

 +  +  +  +  +

 カヲルとレイも、

「よけろっ!!」

「発射!!」
(シンちゃん、アスカ、よかった……)

 +  +  +  +  +

 参号機の参戦で一気に活気を取り戻した他の3機のパイロット達は、シンジ達に負けじとばかりに暴れ回る。

ブシュウウウウウッ!!!

「グワアアアアアアッ!!!」

ブシュウウウウウッ!!!

「グワアアアアアアッ!!!」

 さしもの使徒の「統一行動」も徐々に乱れ、それぞれがバラバラに行動し始めた。

 +  +  +  +  +

 メインモニタを睨んでいた五大が、

「うむ! 若干だが明らかに統制が乱れ始めているぞ!!」

 コンソールを操作していたマヤも、

「使徒のエネルギー反応の増加は更に鈍化しましたっ!!」

「葛城君! 参号機を出した甲斐があったな!!」

「はいっ!!」

 五大の言葉にミサトは頷き、中之島に、

「博士! 今の内に何とかお願いしますっ!!」

 中之島も力強く頷き、

「うむっ! 任せておけっ!!」

 +  +  +  +  +

 アカシャで高速飛行しながらラミエルやサハクィエルを追い回していたサトシも、エヴァ参号機の復活には大いに元気付けられていた。

「発射!!!」

ブシュウウウウウッ!!!

「よっしゃ! もう一丁行けっ!!」
(碇君、がんばれよっ!)

ブシュウウウウウッ!!!

 +  +  +  +  +

 こちらはターミナルドグマ。

 暗い表情のアダムが、

「…どうしたんだろう。みんな焦ってるみたいだよ。言うことを聞かなくなってる……」

 ゲンドウが唸り、

「うーむ…、祇園寺、どう思う?」

 祇園寺は、一瞬考えた後、

「霊波のレベルを上げて統制を強化するのが一番手っ取り早かろうな。……アダム、意識を集中して、連中の手綱を引き締めるんだ」

「わかったよ。……………」

 アダムは瞑目して精神を集中し始めた。

「…………………」
「…………………」

 無論、リツコとリリスは黙ったままである。

 +  +  +  +  +

 シンジとアスカは、白いサキエルをレーザーで追い回していた。

「発射!!」

ブシュウウウウウッ!!!

「グワアアアアアアッ!!!」

ドスウウウウウウッ!!!

「わわっ!!!」
「わわっ!!!」

 突然左側から強い衝撃を受け、参号機は転倒した。

 +  +  +  +  +

「グオオオオオオオオッ!!!」

 横から参号機に体当たりを食らわせて転倒させた青いサキエルは、そのまま咆哮を上げながら走り去って行く。その間に白いサキエルも態勢を立て直していた。

 +  +  +  +  +

『シンジ君!! アスカ!! 立て直して!!』

 コックピットに飛び込んで来たミサトの声に応えて、シンジが、

「クソおっ!! 立ち上がれっ!!」

 参号機は再びレーザーライフルを掴んで立ち上がる。

 +  +  +  +  +

 マヤが叫ぶ。

「参号機には異常ありませんっ!!」

 ミサトは五大に、

「本部長! また使徒の動きが統制されはじめています!!」

「クソっ!! どうなってるんだ!?」

 マヤは続けて、

「使徒のエネルギー反応増加のカーブが上昇傾向に転じました!!」

 +  +  +  +  +

 その時だった。懸命に初号機を操っていたナツミは奇妙な感覚に囚われ、

(!!! なに!? この感じ……。へんなものが見えるような……)

「えっ!? …あああっ!!! 黒いひもが見える!!」

 +  +  +  +  +

 五大は叫んだ。

「なにっ!!??」

 ナツミが、興奮した声で、

『見えます!! 黒いひもです!!』

 ケンスケの声が、

『八雲ちゃん! どうした!?』

『グワアアアアアアアッ!!!』

『あっ!! 回避しろ!! 発射だ!!』

『ブシュウウウウウウッ!!!』

『グエエエエエエエエッ!!!』

 ミサトは、訳が判らず、

「黒い紐!!?? 八雲さん!! どう言うことなのっ!?」

『使徒の背中に黒いひもがついているのが見えるんですっ!! そのひもは、地面から生えてますっ!! …回避!!』

『発射!!』

『ブシュウウウウウウッ!!!』

『グエエエエエエエエッ!!!』

 五大が振り向き、

「中河原!!」

 しかし、中河原は、

「わからん! 私にはそんなにはっきりとは見えんぞ! 何か黒い紐のようなものがチラつくだけだ!!」

 それを聞いた五大は、愕然とした表情で、

「八雲君!! …そうか!! 透視能力が発現したのか!!!」

 ミサトは仰天し、

「透視能力!?」

 すかさず中之島が、

「脳神経スキャンインタフェースの副作用ぢゃよ」

 五大は驚いて、

「博士! ご存知だったのですか!」

 中之島は頷くと、

「ああ、仕様書を見て判ったのぢゃ。お主の作ったインタフェースは、単に脳神経を読むだけではなく、潜在意識の情報を引き出す効果があるぢゃろう。その結果、彼女の透視能力が目覚めたのぢゃろうな」

 ミサトが、身を乗り出し、

「じゃ、本部長、安倍理事長が、八雲さんには『霊的戦士』としての素質がある、と仰ってましたが、それが開花した、と?」

「そうだ。あのインタフェースを使うと、最終的には素質に応じた霊的能力が発現するのだ」

 五大は、インカムを掴むと、

「八雲君! その黒い紐の根元がどうなっているかわからないか!!?」

『えっ? 根元? …ああっ!! 地下のずっと深いところから、…回避してっ!! 深いところから生えていますっ!!』

 それを聞いたミサトは、

「地下!? マヤちゃん! 本部の地下になにか異状はない?!」

 しかしマヤは、

「センサーにはなにも検出されていません!! 全て正常です!!」

「正常……」

 次の瞬間、ミサトは、

「!! そうだわ!! マヤちゃん!! 八雲さんのスキャン信号を解析してモニタに映して!!」

「了解!!」

『また見えた!!』

『八雲ちゃん! ここは俺にまかせろ!! 中央と話をするんだ!!』

『はいっ!! …また見えました!! 地下の深いところに色の付いた玉のようなものが五つありますっ!! 黒いひもはそこから生えているんですっ!!』

 ミサトは思わず身を乗り出し、

「色付きの玉!? どう言うことなの!?」

 その時マヤが、

「解析完了!! モニタに映しますっ!!」

 モニタに映った映像にスタッフは息を飲んだ。ターミナルドグマに、黄、赤、白、灰、青の五つの玉が存在し、それが「逆五芒星」を形作っている。更にそこから多数の黒い紐が生えており、それが蔓草のようにお互いに絡み合いながらメインシャフトを昇って行き、最終的にその「蔓草」が、またバラバラになって、それぞれの使徒の背中に繋がっていたのである。

 +  +  +  +  +

 ターミナルドグマでは、アダムが大きく息を吐き出し、

「はああああっ……。もう大丈夫だ。みんな『いい子』になったよ」

 それを聞いた祇園寺とゲンドウは、

「そうかそうか。わはははは」

「ふっ……」

 しかし、リツコとリリスは、

「…………」
「…………」

 +  +  +  +  +

 モニタをずっと見ていたミサトは、突然何とも言えない胸騒ぎに囚われ、改めてモニタを見詰め直した。

(ん!?)

 逆五芒星の内の黄色の玉が、恰も何かを訴えるように光ったかのような気がして仕方ない。

(なんなの!?)

 その時だった。ミサトの心に、「松代で車を運転しているリツコ」のイメージが油然と浮かび上がって来たのである。ミサトは思わず、

「リツコ!!!!!」

 +  +  +  +  +

「うっ!!!」

 思わず声を漏らしたリツコに、ゲンドウが、

「どうした!!?」

 +  +  +  +  +

「葛城君!! どうした!!?」

 詰め寄った五大に、ミサトは、かつてない表情で、

「リツコが! いえ、赤木博士がいます!!」

「なにっ!!?」

 +  +  +  +  +

 しかし、リツコは、

「……いえ、なんでもありません……」

「そうか。脅かすな」

 溜息を漏らしたゲンドウに、リツコは、

「申し訳ありません」

 しかし、その言葉とは裏腹に、リツコの心中は、

(ミサト……。まさか……)

 +  +  +  +  +

 ミサトは、逆に五大に詰め寄り、

「ターミナルドグマに赤木博士がいます!! 間違いありません!!」

 流石の五大も眼を白黒させ、

「待て! ちょっと落ち着け!」

 しかしミサトは、

「本部長!! 私をターミナルドグマへ行かせて下さい!!」

「なんだと!!??」

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'祈り(Ver.4b) ' composed by VIA MEDIA

二つの光 第十八話・叫び
二つの光 第二十話・連想
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