第四部・二つの光




 メインモニタを見たミサトは顔色を変え、

「マヤちゃん!! 分析して!!」

「1体の使徒が5体に分裂しましたっ!! 総数は30体です!!」

「何ぢゃこれはっ!! オクタと同じ色別!!?」

 中之島も声を荒げた。1体の使徒が分裂して新たに生まれた5体の使徒は、それぞれが黄、白、赤、濃灰、青の光を放っている。

「こいつら!! あの時と同じだ!!」

 五大の叫びにミサトが振り返る。

「本部長! あの時、とは!?」

「4日に現れたゼルエルだ!! こいつら、あの時と同じような様子に見えるぞっ!!」

「ええっ!?」

 +  +  +  +  +

第十八話・叫び

 +  +  +  +  +

 マヤが、コンソールを操作しながら、

「使徒のエネルギー反応が上昇して行きますっ!!」

 ミサトは中之島に、

「博士!! どう言う事でしょうっ!?」

「少し待てっ!! 今分析しておるっ!!」

 オモイカネⅡを操作していた中之島が、蒼白な顔で、

「こ、これはっ!!」

「どうなんですっ!!?」

 詰め寄るミサトに、中之島は、

「使徒のS2機関の出力が増加しておる!! 負荷がないのに出力だけが上がっておるのぢゃ!! このままではS2機関が臨界に達して暴走するぞっ!! 葛城君! 全戦力を挙げてマントラレーザーで奴等を追い掛け回すのぢゃ! エネルギーを消費させろ!!」

「了解しましたっ!! 全機に緊急指令!! マントラレーザーで使徒を牽制してエネルギーを消費させてっ!! サイコバルカンとATバルカンの使用は厳禁しますっ!!」

 ここで五大が、

「博士! いくら牽制をやってもこのままでは暴走するのは時間の問題です!! なんとか打開策を考えないと!!」

 中之島も頷き、

「その通りぢゃ!! オモイカネⅡとマギをフル回転させて打開策を見つけるのぢゃ!!」

 五大は振り返り、

「日向君! 青葉君! 博士と協力して計算を進めるんだ!!」

「了解!!」
「了解!!」

 ここでミサトが、

「本部長!! 少しでも時間を稼ぐために参号機も出撃させます!!」

「わかった! 田沢君! 碇君を呼べ!!」

「はいっ!!」

 +  +  +  +  +

「……………………………」
「……………………………」

 シンジと加持はひたすらアスカへのヒーリングを続けていた。

トゥル トゥル トゥル

「!…………」
「!…………」

 二人は一瞬無言で顔を見合わせたが、すぐに加持が立ち上がって電話の所へ行く。

「はい、加持です。………………えっ!! …………うん、………うん、………………わかった。伝えておくよ」

 顔色を変えた加持に、シンジは心配そうに、

「加持さん、なにかあったんですか!?」

「参号機で出撃しろとの命令だ。6体の使徒が現れ、全部倒したが、分裂して復活したらしい。全部で30に増えた」

「ええっ!!?」

「すぐに参号機ケージに行け。後は俺に任せろ」

「は、はいっ!!」

 シンジは素早く立ち上がると早足で病室を出て行った。

 +  +  +  +  +

ブシュウウウウウウウウッ!!!!

 +  +  +  +  +

「クソっ!! なんてこった!!!」

 苦り切った表情で叫びながらサトシは空中に浮かぶ灰色のラミエルに向かってマントラレーザーを連射し続けていた。

 +  +  +  +  +

「回避!!」

 レイが叫ぶと、零号機は兵装ビルの合間を縫うように動き回りながら赤いマトリエルの攻撃を躱す。

「発射!!」

 モニタを見ながらカヲルが叫ぶ。

 +  +  +  +  +

ブシュウウウウウウウウッ!!!!

「グエエエエエエエエエエエエッ!!!」

 +  +  +  +  +

 ターミナルドグマ。

 祇園寺が、裸のままのアダムに向かって、

「儀式は全て終わった。アダム、どうだ? 使徒の様子は」

「僕の取り越し苦労だった。リリスの言った通りだったよ。みんな元気に復活したし、数も増えたよ」

「なにっ?!」
「なんだと?!」
「!!!!」

 この言葉には、流石のゲンドウと祇園寺も驚きの声を上げた。リツコも絶句している。

 しかし、アダムは自慢気な顔で、

「みんな自爆して死んだ振りしてたけど、撒き散らした細胞を使って増殖したのさ。1体が5体に増えたよ」

 それを聞いたゲンドウは、

「うーむ、……どう言う事だ……。祇園寺、使徒に『性欲』を与えるようにはしたが、自己増殖するようにした覚えはないぞ」

 それを受け、祇園寺は、

「アダム、それで、連中の『性欲』はどうなんだ?」

「順調に増加しているよ。S2機関は全開だしね」

「ふーむ……」

 祇園寺は、少し首を捻ったが、すぐに、

「まあ、それなら問題なかろう。数が多いに越した事はないからな」

と、言った後、リツコに向かって、

「赤木博士、どう思うね?」

 リツコは淡々と、

「ここでは情報が少な過ぎてなんとも言えませんわ。……でも……」

 今度はゲンドウが、

「でも、なんだ?」

「世界中のイロウルもここに集めたのでしょう?」

 ゲンドウは頷き、

「そうだ。少しでもS2機関の出力を上げるために、イロウルは全てディラックの海を使って集合させ、他の大型使徒と一体となるように命じた。……そうだな、アダム」

「ああ、そうだよ」

それを聞いたリツコは、軽く頷くと、

「なら、細菌みたいに自己増殖しても、不思議ではないのではありませんか?」

「うーむ、……成程……。そうかも知れん……」

と、ゲンドウはまだ少々納得出来ない様子だったが、祇園寺は、

「ま、いずれにせよだ、我々の統制下にある限り問題はなかろう。『性欲』も増大している事だしな」

 その言葉に、ゲンドウも、

「そうだな。……まあ、よかろう」

 ここで、アダムが、

「まあ、もう心配ないと思うよ。みんな心は通じているしさ」

 ゲンドウは、改めてアダムに、

「アダム、それで、量産型はどうだ?」

「それが、あいつらはだめだ。全然心が通じないんだ」

 その時、祇園寺が割り込み、

「リリス、『向こうの世界』の使徒はどうだ?」

「…ちょうど今、よく通じてきました。向こうでも35に増えていますし、S2機関も全開です……」

 祇園寺は頷くと、

「そうかそうか。まあ、それだけいれば、量産型がなくても、数としては充分だろう。…そうだな? 碇」

 ゲンドウも頷き、

「うむ、まあ、そうだな」

「ならば、後は時間の問題だ。ここで、『新宇宙』の誕生を待とうではないか。わははははは」

 ここでまた、ゲンドウは、

「アダム、リリス、使徒に霊波を送っておけ。連中の役目はS2機関を暴走させる事だ。無駄なエネルギーを使わないように、戦闘は極力回避させろ」

「わかったよ。…ふふふ」

「…はい、わかりました……」

 ここに来て、祇園寺も、

「まあ、碇、もうここまで来たんだ。じっくりやればよかろう。わははははは」

 その言葉に、ゲンドウも苦笑し、

「…ふっ……」

 その時、アダムが、

「ところで、祇園寺さん」

「なんだ?」

「もう、服を着てもいいかな。流石にここで裸でいると、ちょっと寒いんだけど」

 祇園寺は大笑いし、

「わはははは、そうかそうか、それはすまなかったな。風邪をひかんように、二人ともちゃんと服を着ておけ。わははははは」

「そりゃどうも♪」
「…………………」

 アダムは苦笑しながら、リリスは無表情のまま服を着始める。その様子を、リツコは相変わらず、

「…………………」

と、黙って見ているだけだった。

 +  +  +  +  +
 +  +  +  +  +

 JRL本部中央制御室。

 インカムを掴んだ松下が叫ぶ。

「オクタ全機!! 使徒の数は最終的に35だ!! 7種の大型使徒がそれぞれ5体に増殖している!! 米軍と自衛隊の戦闘機と協調して攻撃しろ!! サイコバルカンでコアを破壊。続いてマントラレーザーで霊的に止めを刺せ!!」

『こちら四条!! 了解!!!』

「中森君! 中継ブースタは射出してあるな!」

「はいっ!! もうすぐ現場に到着の予定です!!」

「山之内君! 岩城君! オモイカネのオペレーションを頼む! オカルティズムの観点に立った分析がきっと必要になる筈だ!!」

「了解しました!」

「わかった!」

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 カーラの中、マサキは声を張り上げ、

「もうちょっとで芦ノ湖に到着や! 行くでええっ!!」

『橋渡了解!!』

『玉置了解!!』

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 エンタープライズメインブリッジ。

 コンソールを操作しながら由美子が叫ぶ。

「こちらエンタープライズ! 準備が整い次第、成層圏からの長距離攻撃を行います!!」

『嘉手納基地司令部、了解しました!!』

 嘉手納基地の通信員の声に続いて真由美の声が、

『JRL本部了解です!!』

 ライカーが、メインビューワーを見ながら砲手に怒鳴る。

「第一ノ目標ハ青イラミエル! サイコバルカンパワー最大! 長距離射撃用意!!」

「了解!!」

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 ジョンも声を張り上げる。

「攻撃班!! 芦ノ湖ニ到着次第、全機サイコバルカントマントラレーザーデ攻撃ヲ開始セヨ!! サイコバルカン使用時ハフィールドガ不安定ニナル! 充分注意スルヨウニ!!」

『了解!!!』
『了解!!!』
『了解!!!』

 +  +  +  +  +

 横田基地と厚木基地から出撃した数十機の戦闘機が、相模湾から続々と上陸して来る使徒の姿を捉えた。

「コチラ横田851。迎撃ヲ開始スル」

『了解シタ』

バスウウウウッ!!

「グワアアアアッ!!」

 戦闘機から発射されるサイコバルカンのビームはまるで針のような鋭さで使徒の体を貫く。

ブシュウウウッ!!

「グエエエエエッ!!」

 続いて浴びせかけられるマントラレーザーは使徒の皮膚を容赦なく焼く。

バスウウウウッ!!
バスウウウウッ!!
ブシュウウウッ!!
ブシュウウウッ!!

「ギエエエエエッ!!」

「ギャアアアアッ!!」

 肉体を蜂の巣に、皮膚を黒焦げにされた使徒は、その歩みを緩めながらも、戦闘機による攻撃などまるで意になど介していないような様子で、恰も巡礼のように芦ノ湖を目指してゆっくり進んで行く。

「コチラ横田851。基地応答願ウ」

『コチラ横田基地司令部。感度良好』

「使徒ハサイコバルカントマントラレーザーニヨリ、活動能力ガ低下シタト推測サレル。引キ続キ同様ノ攻撃ヲ行ウ」

『了解』

 +  +  +  +  +

 エンタープライズメインブリッジ。

「サイコバルカン準備完了デス!!」

 砲手の叫びに呼応し、ライカーは、

「発射セヨ!!」

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 エンタープライズの船底の砲門が強く光ったと思う間もなく、一条の太い光が青いラミエルの体を突き抜ける。

バスウウウウウウウウウッ!!!!

ヒュウウウウッ………………、ドオオオオオオオオオンンッ!!

 ラミエルは落下しながら激しく爆発した。

 +  +  +  +  +

「目標ハ爆発シマシタ!!」

 操作員の報告に、ライカーはまた砲手に向かって、

「引キ続キ攻撃ヲ行ウ! 目標ハ赤イラミエル!!」

「了解!!」

 その時、操作員が振り返り、

「艦長!! 使徒ノ破片ニ高エネルギー反応デス!!」

「ナニッ!!??」

 +  +  +  +  +

 地上に飛び散った青いラミエルの破片が真っ赤に光ったと思う間もなく、その破片は5つのグループに分かれて集合し、膨張しながら元の青いラミエルの姿に変化して行った。

 +  +  +  +  +

「使徒ガ5体ニ分裂シテ復活!!」

 操作員の言葉に驚いたライカーは、

「ドウ言ウ事ダ!!??」

「5体ノ使徒ニ高エネルギー反応!!」

 +  +  +  +  +

 5体の青いラミエルの体の一部が一斉に強く光った。

 +  +  +  +  +

ドオオオオオオオオオオオオオンンッ!!!

「キャアアアアアアッ!!!」
「ワアアアアアアアッ!!!」

 メインブリッジ内に激しい衝突音と悲鳴が響き渡る。

 +  +  +  +  +

 JRL本部中央制御室。

「使徒のビームがエンタープライズに命中しましたっ!!」

 真由美の叫びに、松下は、

「通信はどうだ!? 可能かっ!!?」

 +  +  +  +  +

「被害状況ヲ報告セヨ!!」

 ライカーの怒鳴り声に、操作員は、

「ショックハアリマシタガ大キナ被害ハアリマセン!! 船体ニハ異状ナシ!!」

「ヨシ!! 回避行動ヲ取リナガラ反撃準備!!」

「了解シマシタ!!」
「了解シマシタ!!」

 操舵士と砲手が叫ぶ。続いて由美子が、

「JRL本部!! 応答願います!!」

 +  +  +  +  +

「松下だ! 今の様子はモニタしていた! 大丈夫か?!!」

『こっちは大丈夫です! サイコバリヤーが効いたようです! 使徒の増殖に関して分析をお願いします!!』

「今分析を開始した所だ!! 結果が出次第連絡する!!」

『了解!! 分析結果が出るまでの間の攻撃法は!?』

「とにかくサイコバルカンは一時的に使用を控えるべきだ!! マントラレーザーだけを使ってくれ!!」

『了解しました!!』

 +  +  +  +  +

「艦長!! お聞きの通りです!!」

「オーケーね!! ……砲手! マントラレーザーニヨル攻撃ニ変更スル!!」

「了解シマシタ!!」

 +  +  +  +  +

 松下は、大声で、

「山之内君! 岩城君! 何かわかったか?!」

 山之内は、

「まだですね! 今の所、分析進捗率は60パーセントです!」

 岩城も、

「米軍の戦闘機による攻撃との違いをオカルティズムの観点から洗い直している最中です!」

「わかった! 続けてくれ!」

 その時、中森由美が、

「本部長!! 嘉手納基地から緊急連絡です!!」

「繋げ!」

『嘉手納基地のカジマです! 松下本部長! 使徒が5体に増殖した理由は何です?!』

「現在分析中です!! 結果が出次第連絡します!!」

『了解しました! それまでの間、こちらは今までの攻撃方法を継続しますが構いませんな?!』

「実績から見て問題ないと思います!! もし何かあればすぐに連絡します!!」

『宜しくお願い致します!! ではこれにて!!』

 +  +  +  +  +

「JRL本部応答願います! こちら四条!!」

『松下だ!!』

「オクタ6機、芦ノ湖に到着しました! 通信はモニタしてましたさかい、状況はわかっとります!! 攻撃方法を指示して下さい!!」

 +  +  +  +  +

「当面サイコバルカンの使用を禁ずる!! マントラレーザーだけで攻撃しろ!! 対策は検討中だ!!」

『了解!!』
『了解!!』
『了解!!』

 +  +  +  +  +
 +  +  +  +  +

 第3新東京市で復活した30体の使徒は、まるで誰かに操られているのではないかとしか思えないような、極めて整然とした動きで攻撃を仕掛けて来ていた。

ブシュウウウウウウウウッ!!!!

「グエエエエエエエエエエエエッ!!!」

ブシュウウウウウウウウッ!!!!

「グエエエエエエエエエエエエッ!!!」

 あちこちでレーザーが飛び交い、使徒の体から煙が立ち昇る。それを嫌がって反撃こそして来るが、何故か使徒は決して隊列を乱そうとはしない。5体に分裂したにも拘わらず、まるで1体のような動きをしている。しかも別種の使徒同士さえも、お互いに連携を取っているかのような動きで攻撃して来るのだった。

 +  +  +  +  +

「クソおおおっ!! くらええええっ!!」

 トウジが叫びながら青いサキエルにレーザーを乱射する。その時突然弐号機のスクリーンの端に白いサキエルの姿が飛び込んで来た。

「あっ! 回避!!」

 ヒカリの叫びに呼応して、弐号機は辛くも攻撃を躱す。

 +  +  +  +  +

「攻撃!!」

 黄色のイスラフェルに向かってケンスケがレーザーを放つ。

「あっ!! 増えたわっ!!」

 ナツミは思わず叫んだ。イスラフェルが2体に分裂したのだ。

『初号機! 分裂しても気にせずに同じように牽制しなさい!!』

 ミサトからの無線に、少々慌てていたナツミは平静を取り戻し、

「了解!!」

 +  +  +  +  +

 プラグスーツに着替えて参号機ケージに駆け付けたシンジを待っていたのはレナだった。

「田沢さん!!」

「参号機の起動準備は出来てるわ!! 早く乗って!!」

「はいっ!」

「気をつけてね!!」

「はいっ!!」

 レナは係員の方を向くと、

「搭乗をお願いします!!」

「了解しました!!」

 +  +  +  +  +

 中央制御室。

 メインモニタを見ながら、五大が、

「しかし、なんで連中はこんなに統制されたような動きをしているんだ。…中河原、何かわからんか!?」

 しかし、中河原も、

「それが、なんと言うか、連中の周りに結界と言うのか、霧のようなものがあって良く見えんのだ。…ただ……」

「ただ、なんだ?」

「何か黒い紐のようなものが時々チラ付くんだ。それが何かはわからんのだがな……」

「ううむ、黒い紐、だと……」

「黒い紐……」

と、ミサトも呟いた時、レナの声が、

『参号機パイロット搭乗完了ですっ!!』

 ミサトは頷くと、

「了解!! マヤちゃん!!」

「参号機起動開始!! 起動パルス入力!!」

 +  +  +  +  +

「動けえええっ!!」

 +  +  +  +  +

「参号機起動しました! シンクロ率上昇中!!」

 マヤの叫びを受け、ミサトは、

「参号機射出準備! レーザーライフルも射出準備して!!」

「了解!! ………参号機起動完了!! シンクロ率が操縦可能域に、えっ!? ええっ!!」

 ミサトが詰め寄る。

「どうしたのっ!!??」

「突然シンクロ率が不安定になりました!! 起動はしましたが、これでは戦闘は不可能ですっ!!」

「えええっ!!??」
「なんだとおっ!!??」

 ミサトと五大が思わず叫ぶ。

 +  +  +  +  +

「!!!!!!!!!!!」

 参号機の中、シンジは絶句した。

 +  +  +  +  +

 五大は、振り返り、

「中河原!!」

「少し待て! ……なんだこれは! モニタから透視する限りでは、参号機は階梯を一段上げているぞ!!」

「なんだと!? じゃ、今のパイロットの意識レベルでは動かんと言うのか!!??」

 声を荒げた五大に、中河原は、力なく、

「残念ながら、その通りだ……」

 ミサトが血相を変え、

「なんてことなのっ!!」

 そして、中之島に向かって、

「博士! 何か方法はありませんかっ!?」

 既にキーボードを叩いている中之島が、

「今解析中ぢゃ!! ちょっと待て!!」

 +  +  +  +  +

「……………………………」

 加持は不安な気持ちを懸命に抑えてヒーリングを続けていた。

 +  +  +  +  +

 分析を終えた中之島は、悲痛な顔で、ミサトに、

「儂にはエヴァの事は良く判らんが、マギのデータをこっちで解析した限りでは、現在の所、惣流君も乗せる以外には方法はない!!」

「そんな!!」

 +  +  +  +  +

「……ど、どうしたらいいんだ……」

 参号機のエントリープラグに飛び込んで来る中央からの音声を聞きながら、シンジは愕然としていた。

(…なんで、…なんでこんなことになるんだ…。みんな必死で戦ってるのに、僕はなんにもできないなんて…。アスカがいないと、僕はなんにもできない、って言うのか…。ミサトさんに、参号機に乗せてくれって言ったのに、結局、一人じゃなんにもできないのか…。僕は、僕は、…なんて情けないやつなんだ…)

 参号機が起動出来なくなったとは言え、自分に直接の責任がある訳ではない。しかし今のシンジは情けなさと悔しさで一杯だった。

「……ううっ……、ううっ……」

 余りの悔しさに、シンジは溢れる涙を止められなくなり、

「……ううっ、……ううっ、………うわあああああああああっ!!!」

 +  +  +  +  +

『うわあああああっ!!! うわああああああああっ!!!』

「シンジ君!! どうしたの!!??」

 突然中央に飛び込んで来た泣き声ともつかないシンジの叫び声にミサトは顔色を変えた。

 +  +  +  +  +

「うわあああああっ!!! うわああああああああっ!!!」

『シンジ君!! 返事をしなさい!! シンジ君!!』

 ミサトの怒鳴り声にも構わず、シンジは操縦桿を握り締めながら泣き続ける。

「うわあああああっ!!! ……アスカあああああああっ!!!!!」

 思わずアスカの名を叫んだ時だった。

「ええっ!? なんだ!?」

 何と、シンジの脳裏に、



この上も無いほどの鮮明さでタロットの「06:恋人たち」の映像が浮かんだのだ。しかも次の瞬間、自然に視線が下方に移動し、自分の体内の様子が鮮明に眼に映ったではないか。そして、

「わああああああああああああああっ!!!!!」

 シンジは叫んでいた。自分の腹の底に白い光の玉のようなものが突然出現し、背筋を猛烈な勢いで駆け上がったと思う間もなく、その光の玉が頭の中にあるタロットの映像に向かって進んで行き、絵に重なって爆発したのである。

「わああああああああああああああっ!!!!!」

 再びシンジが叫んだ瞬間、更に驚いた事に、天使はエヴァンゲリオン参号機に、アダムは自分に、イヴはアスカに姿を変えたのである。

『シンジ君!! どうしたのっ!!?? シンジ君!!!』

「わああああっ!!! うぎゃあああああああああっ!!!!」

 シンジは思わず頭を抱えてのけぞった。その次の瞬間、その光はシンジの眉間を突き破るかのような勢いで前に向かって飛び出して行った。

「!!!!! ……………」

『シンジ君!! シンジ君!!』

 ミサトの叫び声をかすかに耳に残しながら、シンジの意識は遠のいて行った。

 +  +  +  +  +

「……………………………」

(『アスカあああああああっ!!!!!』)

 何と、ずっとイメージを追い続けていた加持の耳に、突然はっきりとシンジの声が響いたではないか。

「なんだ!? ………………ああっ!!??」

 驚いて思わず声を出した次の瞬間、突然頭の中に、



タロットの「14:節制」のイメージが極めて鮮明に浮かんだと思う間もなく、天使はエヴァンゲリオン参号機に姿を変えた。しかも両手に持った聖杯の中にはシンジとアスカがいたのであった。

「そうか!! 分かったぞっ!!」

 加持は全力で飛び上がり、電話の所に行くや、中央のスピーカーに接続して怒鳴った。

「もしもし! 中央か! 加持だ! 今から言う事をそのまま実行してくれ!!」

 +  +  +  +  +

「は、はいっ! 伊吹ですっ! 少々お待ち下さいっ!」

『ダメだ! 一切待つ余裕はないっ! すぐにやれっ!』

 驚いたマヤが五大を見る。五大は即刻、

「五大だ! 了解した! どうやったらいいのか指示してくれっ!」

 +  +  +  +  +

「まず、アスカのインタフェースを参号機に接続して下さいっ! それと、シンジくんはどうしてますか!?」

 +  +  +  +  +

「碇君は今ショック状態でプラグから出されている! どうしたらいい?!」

 +  +  +  +  +

「彼にもインタフェースを装着して参号機に接続! 僕のインタフェースも接続して下さいっ!!」

 +  +  +  +  +

「了解したっ!! 伊吹くんっ!!」

「は、はいっ! シンジくん以外は準備完了ですっ! シンジくんは……、今、参号機ドックから準備完了との連絡がありましたっ!!」

「加持君! 聞いたか! 準備完了だっ!!」

 +  +  +  +  +

「僕の指示で参号機に起動パルスを入れて下さいっ!! 行きますよ! ……起動!!!」

 +  +  +  +  +

「参号機に起動パルス送信っ!!」

 マヤの声が中央に響き渡る。

 +  +  +  +  +

「動けええええっ!!!!!」

 脳裏に焼き付いた参号機の映像に向かって、加持は全身全霊を込めて叫んでいた。そして、その次の瞬間、加持の脳内に強い光が閃き、

「!!…………」

 受話器を持ったまま、加持の意識が一瞬遠のいた。

 +  +  +  +  +

「ああっ!! 参号機起動しましたっ!! シンクロ率も上昇中!! ああっ!! セカンドとサードからのフィードバックが返って来ていますっ!!」

「何っ!!?」

マヤの叫びに五大も思わず呼応していた。

 +  +  +  +  +

 ……アスカあああああああっ!!!!!

 ……シンジ、……シンジなの? ……ここはどこ? あたし、なんでこんなとこにいるの?

 ……動けええええっ!!!!!

 ……あっ! 加持さん!!

 ……アスカ! よかった! 気がついたか!

 ……加持さん、ここはどこなの? あたし、なんでこんなとこにいるの?

 ……話は後だ。戻るぞ。シンジ君が待ってる。

 ……シンジ? さっき声がきこえたようにおもったけど。

 ……シンジ君が俺を導いてくれたのさ。とにかく戻るぞ。

 ……うん。

 +  +  +  +  +

「……んっ?!! どうしたっ!? そうだ! アスカは!?」

 一瞬気が遠くなっていたようだ。加持は受話器を置くや、アスカの所に駆け寄った。

「……う、うーん……。……ここは、どこ?……」

「アスカ!! 気が付いたか!! よしっ! 上手く行ったぞ!!」

 アスカは眩しそうに薄目を開け、

「加持さん……。はっ! ここは!?」

 慌ててベッドから起き上がろうとするアスカを止めながら、加持は、

「無理しちゃだめだ! 今医者を呼ぶからな」

「は、はい……」

 壁際の電話の方に向かう加持の背中を見ながら、アスカは自分の右手に何かが巻き付けられている事に気付いた。そっと手を上げてみると、

「!…… これ、あたしのペンダント……」

「アスカ、いえ、惣流の意識が戻りました! すぐに来て下さい!!」

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'祈り(Ver.4b) ' composed by VIA MEDIA

二つの光 第十七話・旋転
二つの光 第十九話・心眼
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