第四部・二つの光




「日向君! あの『黒い太陽』を解析して!!」

 ミサトの叫びに日向は、

「了解!」

 中之島も、

「儂も手伝おう!」

 日向は頷き、

「お願いします! マギとオモイカネⅡをリンクします!」

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第十六話・日蝕

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 その頃、ゲンドウ達は、郊外にあるジオフロントへのゲートの近くまでやって来ていた。

 リツコが、ゲンドウに、

「碇司令」

「なんだ」

「うすうす気付いてはいましたけど…、ジオフロントに入るおつもりですの?」

 ゲンドウは薄笑いを浮かべ、

「ふっ、今更わざわざ何を言う。ここまで来たらそれ以外にはあるまい」

「ええ、そうでしょうね。…で、その後は? まさか…」

「その通りだ。ターミナルドグマを目指す。そのために君専用のパソコンをわざわざ持って来たんだろうが。ふふふ……」

 祇園寺も、ニヤリと笑い、

「そこで最後の儀式を行う、と言う訳だ。わはははは」

 ここでアダムが苦笑し、

「みなさん、そろそろゲートが近づいて来ましたよ。声を潜めましょうね。ふふふふ……」

 祇園寺も苦笑し、

「おっとそう来たか。くくくく」

 アダムと祇園寺のやりとりにゲンドウも無言のまま苦笑したが、無論、リリスとリツコは無言のままだった。

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 解析を続けていた日向が、

「博士! こ、これはっ!!」

 中之島も、

「うむ! 何じゃこれはっ!!」

 ミサトがやって来て、

「どうしたのっ!?」

 日向は、顔色を変え、

「球形の物質が、太陽を覆い隠すような角度で宇宙空間に浮かんでいます! 大きさは月と同じです!!」

「なんですって??!!」
「なんだと??!!」

 驚きの声を上げたミサトと五大に、中之島は、

「即ち、存在している位置は丁度月軌道なのぢゃ! だから日蝕のように見えるのぢゃ!!」

 愕然としたミサトは、

「!!! まさか!! レリエル!?」

 しかし、中之島は首を振り、

「判らん! 使徒の特徴もマーラの特徴も検出出来んのぢゃ! データがなさ過ぎる!!」

「ううむ……」

 思わず五大が唸る。ミサトは、無言で唇を噛み締め、メインモニタを見詰めた。

(どうする……)

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 エンタープライズメインブリッジ。

 ライカーの怒鳴り声が響き渡る。

「了解ねー! すぐに確認に向かいまーす!」

 メインビューワーの中の松下も真剣な顔で、

『頼みます!』

 ライカーは振り向きざま、

「パイロット! 目標ニ向ケテコースヲセット!」

「了解! コースセット完了シマシタ!」

「発進セヨ!!」

 地球を周回していたエンタープライズは、JRLからの連絡を受け、丁度地球の反対側の方向に浮かぶ「謎の球体」を調査すべく発進して行った。

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 ゲンドウ達は、ゲートのすぐそばで身を潜めている。

 祇園寺が、低い声で、

「碇、そろそろ潮時だな。『黒い太陽』のおかげで連中も大騒ぎしているだろうしな」

 ゲンドウは頷き、

「うむ、よかろう。……リツコ君」

「はい」

「手筈通り、祇園寺が監視員を眠らせた後に、セキュリティシステムに細工するんだ。わかっているな?」

「はい、わかっていますわ……」

「うむ、よかろう。…アダム、リリス、お前達は、連中に察せられないように、使徒やマーラとしての気配を消しておけ。いいな」

「ふふふ、了解」

「…はい……」

 祇園寺は、

「ふっふっふっ、では、行くぞ」

と、ニヤリと笑った後、自分の気配を殺し、監視員からも監視カメラからも死角になるようにゲートに近付いて行った。

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 今までにない真剣な表情のミサトが、

「博士、オクタヘドロンの出撃をお願いします」

「直接偵察すると言う事か」

「そうです」

「オクタの指揮は全て君に任せた積もりぢゃ。存分に使え」

「ありがとうございます」

 一礼したミサトはインカムを掴み直すと、

「沢田君、草野君、応答して!」

『沢田です!』
『草野です!』

「状況は把握しているわね! すぐにアカシャとヴァーユで偵察に出てちょうだい!」

『了解!!』
『了解!!』

 続いてミサトは、青葉に向かって、

「青葉君! ジオフロント天井部のゲートの操作を頼むわ!」

「了解!」

 その時マヤが、

「本部長! 京都財団から短波通信です!」

「繋げ!」

『こちら京都財団の安倍! 応答願います!』

「五大です!!」

『五大か! あの太陽は一体何だ!? 今日は日蝕の日ではないぞ!!』

「現在調査中ですが、今の所はあれが使徒なのかマーラなのかは不明です! 結果が出次第連絡します!」

『わかった! こっちもオカルティズムの観点から調査を開始する!』

「了解しました!」

 交信を終えた五大は、マヤに、

「そうだ! 伊吹君!」

「はいっ!」

「中河原をここに呼んでくれ! 至急だ!」

「了解!」

 その時、

『こちらアカシャの沢田! 搭乗完了しました!!』

『ヴァーユの草野も搭乗完了です!!』

 それを聞いたミサトは、

「了解!」

と、叫びつつ、再度青葉に向かって、

「青葉君!」

「ゲート開きます!」

 ミサトは頷くと、

「アカシャとヴァーユ! 発進して!!」

『了解!! アカシャ発進!!』
『ヴァーユ発進!!』

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 まんまとジオフロント内部への侵入を果たしたゲンドウ達五人は、密かにIBO本部へと歩を進めていた。

 呆れ顔の祇園寺が、

「しかし、こうして改めて見ると、凄いもんだ。よくも地下にこれだけの設備を……。森まで作ってあるんだからな……。随分と金を注ぎ込んだろう」

 ゲンドウは笑って、

「ふっ……、まあ、元々あった地下空洞にゼーレの金を突っ込んだだけだからな。私の懐は全く痛んでおらんよ」

「おっ、そう来るかね。わはははは……。まあしかし、お前の強欲さにはほとほと感心するわい。この私も顔負けだ」

「ふっ、何を言うか」

 その時、リツコが、

「碇司令」

「なんだ」

「本部への侵入ルートはどこになさいますの? それによってパスコードの細工も多少変わりますわよ」

 ゲンドウはニヤリと笑うと、

「私はネルフ司令だからな、正面玄関から堂々と入るぞ」

「えっ?!」

と、驚いたリツコに、ゲンドウは苦笑し、

「と、言いたい所だが、まあ、そうも行くまい。…そうだな。サブターミナルから入ろう。そこで職員の制服を奪って変装するか」

「わかりましたわ…」

 リツコの表情は相変わらず暗い。

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 「黒い球体」を霊視する中河原に、五大は、

「どうだ、中河原、何か感じないか?」

「うーむ、モニタの映像を見る限りでは、何も感じない。まさに…」

「なんだ?」

「『空』だ」

「くう? 『空』だと?」

「そうだ。あそこには何もない。『空』だ」

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 アカシャとヴァーユは順調に上昇を続け、すぐに大気圏を離脱した。

『沢田、聞こえるか?』

 大作の声にサトシは、

「おお、感度良好だ」

『コースを変えて速度を上げるぞ。調査可能距離まで上昇する』

「了解」

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 エンタープライズメインブリッジ。

 メインビューワーに映る「黒い球体」に、由美子は、

「艦長! あれは一体…」

 ライカーが、操作員に向かって、

「オペレータ! コンピュータノ分析結果ハ!?」

「不明デス!! 全ク判断出来マセン!!」

 由美子は、首を傾げ、

「正体不明の『黒い月』…。使徒レリエル…、リリスの卵…、それとも……」

 ライカーも、憮然とした顔で、

「JRLの分析はどーでしょー。京都のJRL! 応答願いまーす!」

 すぐさま真由美が、

『こちらJRL本部です! そちらから送信されたデータを解析していますが、今の所まだ何もわかりません!!』

『松下だ! 全力でオモイカネをフル回転させているが、末川君の言った通り、まだ何もわからんのだ! 引き続き分析は続けるが、出来れば新しいデータが欲しい!!』

 ライカーは頷き、

「了解ねー! もう少し接近してみましょー! …パイロット! モウ少シ近付ケ!!」

「了解シマシタ!」

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 大気の影響を受けず、直接調査出来る距離にまでアカシャとヴァーユは上昇していた。

 大作が首を捻り、

「なんだこれは……。まるで影が球になったような……」

 サトシも、

『センサーにもスキャナにも、何も反応がない。ただの「空間」だな』

「そうだ。だがしかし、まるでブラックホールのように光を吸い込んでいるぜ。一体これはなんなんだ……」

『奇妙なのは、地球の自転に合わせて少しずつ移動していると言う事だな。だから、第3新東京では常に日蝕のように見えるんだぜ』

「うーん……、何か意思を持っているのか、そうでないのか……」

 その時、中之島の声が、

『沢田君、草野君、聞こえるか!?』

「こちらヴァーユ。感度良好です」

『アカシャも感度良好です』

『そっちから送って来たデータを解析しておるが、球体が地球の自転に合わせて動いていると言う事以外は何も判らんぞ。何か気付いた事はないかの?』

「こっちも何もわかりません。まるで影が球になったような感じがするだけです」

『そうか。うーむ……』

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 ミサトは決断した。

「本部長、博士」

「なんだ」
「何ぢゃな」

「このままではラチがあきません。あの球体が常に太陽を隠すように位置を変えている事は不気味ですが、使徒ともマーラとも断定出来ない以上、予定通り作戦を開始します」

 五大は頷き、

「よかろう。そうしよう」

 中之島も、

「うむ、判ったぞよ」

 ミサトはインカムに向かって、

「沢田君! 草野君! すぐに帰還して! 予定通り作戦を開始するわ」

 すかさず大作が、

『了解しました! 僕たちはどこで待機しましょう?』

「第3新東京上空で浮上したまま待機してちょうだい!」

『了解!』
『了解!』

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「沢田、行くぞ!」

『おう!』

 2機のオクタヘドロンは猛スピードで地表目指して降下して行く。

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 ミサトは頷くと、マヤに向かって、

「では、使徒迎撃作戦を開始します!! マヤちゃん! 始めて!」

「了解! プログラムスタート!!」

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 太平洋側の海中に潜んでいた使徒に突然動きが生じた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 地響きのような音が水中にこだまする。まるで何かに取り付かれたかのように、6体の大型使徒は我先にと海面目指して急浮上を始めた。

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 祇園寺の透視能力とリツコのクラッキングでサブターミナルへ侵入したゲンドウ一行は、盗んだ職員の制服に着替えて変装した後、職員の目を掻い潜りながら、ターミナルドグマを密かに目指していた。

 その時、

「!!! あっ!!」

 声を上げたのはアダムである。すかさずゲンドウが、

「どうした?」

 祇園寺も、

「!! むっ、これは!?」

 ゲンドウは、再度、

「どうしたと言うのだ!?」

 アダムが、顔色を変え、

「使徒が勝手に動き始めた! それも、全員バラバラにこっちに向かってる!」

 流石のゲンドウも顔色を変えた。

「なんだと!!??」

 蒼白な顔で、祇園寺も、

「この波動は……、一体なんだ。この波動は……」

 勢い込んだゲンドウは、

「祇園寺、なにか感じるのか!?」

「この波動は……」

 突如祇園寺が顔色を変え、叫んだ。

「そうか!! クソっ、連中だ! 連中が妙な波動で使徒を呼び寄せているんだ!」

 驚いたゲンドウは、

「なにっ!? リリス! 向こうの使徒はどうしてる!?」

 しかしリリスは淡々と、

「…心が通じません。みんな勝手に動いています……」

 ゲンドウは、深刻な顔で、

「まずい! このまま全部の使徒がバラバラにここにやって来て一体ずつ倒されたら、ビッグバンは起こせんぞ!! アダム! 量産型はどうなんだ!?」

 しかしアダムは悲痛な顔で、

「量産型は……、だめだ! あいつらも心を閉ざしてる! テレパシーが通じないよ!」

 ここで祇園寺が、

「碇、急げ! ターミナルドグマで儀式をやればまた使徒の支配を回復出来る!」

 ゲンドウは頷き、

「うむ、急ごう!」

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 エンタープライズメインブリッジ。

 ライカーが、溜息混じりに、

「ダメですねー。近付いても何もわっかりませーん」

 由美子も、

「艦長、これ以上接近するのは危険だと思います。データも得られそうにありませんし……」

「そーですねー……。地球の自転に合わせて動く影の球、ですかー……。仕方ありませーん。これは何か変化がないか注意する事にして、地球の偵察に戻りましょー」

 その時、

ビィィィーーーーーーッ!!

「ナンダ!!??」

 顔色を変えて叫んだライカーに、操作員が、

「地球ニ多数ノ高エネルギー反応デス!!」

 由美子も大声で、

「なんですって!? この位置からも確認可能なほどの反応なの!?」

「ビューワー、オン!!」

 操作員の言葉に続いてメインビューワーに映像が現れた。

「オオッ!!」
「!!! これは!! 日本!!」

 ライカーと由美子は思わず叫んだ。メインビューワーには、日本の伊豆半島の南東から陸地を目指して高速で移動する、30個はあろうかと言う「光の点」が映し出されていたのだ。

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 アカシャとヴァーユは第3新東京上空まで辿り着き、旋回しながら待機していた。

 その時、アカシャのコックピットに、

ビィィィーーーーーーッ!!

「使徒だ!!!」

『1体目のおでましだぜ!!』

 2機のコックピットに開いたウィンドウには、空中を浮遊しながら移動する使徒サキエルの姿が映っていた。

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 コンソールを操作しながらマヤが叫ぶ。

「パターン青確認!! 使徒です!! モニタに出ます!!」

 メインモニタに映ったのは、紛れもない、使徒サキエルの姿だ。

「サキエル! 一匹目はこいつか!」

と、ミサトは頷き、

「よしっ! オクタヘドロン全機出撃!! エヴァは参号機以外全機パイロット搭乗して出撃!!」

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'たとえ、君を抱いても ' composed by QUINCY (QUINCY@po.icn.ne.jp)

二つの光 第十五話・夜明け前
二つの光 第十七話・旋転
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