第四部・二つの光
(…これは……、何と言う事ぢゃ!!!)
マギから抜き取ったデータの分析を続ける中之島の額には油汗が浮かんでいる。
(どっちにしてもこれはこのままにしておけん。……よし……)
中之島は腕時計型スピン波通信機に仕込まれたスキャナを操作し、
(…うむ、この部屋にはマイクもカメラもないようぢゃ。これなら良かろう。まずは沢田君からぢゃな……)
+ + + + +
第十五話・夜明け前
+ + + + +
サトシの部屋。
ピピピピ
「あれ?」
と、サトシは無線機を手にする。
「沢田です」
『中之島ぢゃ。すぐに儂の部屋に来い』
「えっ? は、はい。わかりました」
『廊下を良く見るんぢゃぞ。くれぐれも誰にも見られないようにせい』
「は? はあ……」
+ + + + +
ゆかりの部屋。
「はい、綾小路です」
『中之島ぢゃ。今からきっちり2分後に儂の部屋に来い。誰にも見られないように注意するのぢゃぞ』
「了解致しました」
+ + + + +
アキコの部屋。
「形代です」
『中之島ぢゃ。今から4分後に儂の部屋に来い』
「え? は、はい」
+ + + + +
本部長室。
(…23時を回ったか……)
トゥル トゥル トゥル
「五大だ」
『伊吹です。エヴァを使って使徒をおびき寄せるプログラムが完成しました。実行に関して指示をお願い致します』
「そうか。わかった。葛城君と相談の上、改めて連絡する。一応私の考えでは、明日の夜明けと共に実行にかかるつもりだから、それに合わせて準備しておいてくれ」
『了解しました』
「いずれにしてもよくやってくれた。君も一休みしたまえ」
『ありがとうございます。まもなくシフトの交替時刻ですので、そうさせていただきます』
+ + + + +
総務部。
トゥル トゥル トゥル
「葛城です」
『五大だ。エヴァを使って使徒を呼び寄せるプログラムが完成した。私の考えでは明日の夜明けに合わせて作戦を開始したいのだが、君の意見を聞きたい』
「夜間の使徒との戦闘は避けるべきでしょう。本部長のご意見に同意致します」
『よし、では具体的なエヴァとオクタヘドロンの配備を検討しておいてくれ。伊吹君には予定通り明日の夜明けに作戦を開始する旨、連絡しておく』
「了解致しました。配備に関しましては、ある程度案を練った後に中之島博士にも相談致します」
『頼んだぞ』
+ + + + +
中之島の部屋。
最後に入って来た大作が、
「失礼します。あれっ? みんな来てたんですか?」
中之島は頷くと、
「これで全員揃ったの。草野君、とにかくその椅子に座れ」
「はい」
中之島は改めて全員を見渡し、
「では話を始める。一応言っておくが、儂が調べた限りでは、この部屋には盗聴マイクも隠しカメラもないようぢゃから安心せい」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「実は今日、このオモイカネⅡをマギに繋いでデータのやりとりをしたのぢゃが、その時、こっそりとあちらのデータを戴いたのぢゃ。それで、そのデータを分析した所、驚くべき事が判明した」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…よく聞け。この世界が、『サード・インパクト』で滅亡した後、復活した事は君等も知っておる通りぢゃが……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
中之島は、言葉を改めるように、ゆっくりと、
「…実は、『サード・インパクト』は1回だけではなかったのぢゃ」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
顔色を変えた五人に、中之島は、
「驚いたぢゃろう。儂もこれが判った時には流石に驚いたわい」
サトシが、身を乗り出し、
「じゃ、この世界は一度だけじゃなく、何度も破滅と再生を繰り返しているって言うんですか!!??」
中之島は頷き、
「その通りぢゃ。儂が調べた限りでは、少なくとも350回以上やらかしておる」
「えええっ!!??」
「そんな!!!」
「なんですって!!??」
「まさか!!!」
「350回以上!!??」
驚き呆れる五人に、中之島は続けて、
「それともう一つ驚くべき事がある。今の話とも関連するのぢゃが、現在、この世界では、『現実と虚構の混同』が起こっておるのぢゃ」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「順番に説明しようかの。まず、『350回以上の滅亡と再生』の件ぢゃが……」
+ + + + +
アスカの病室。
ピッ、ピッ、ピッ
脈拍を記録する計測機器の電子音が静かに鳴る中、シンジと加持はマントラを唱え続けている。
「……………………………」
「……………………………」
ベッドの上のアスカは相変わらず動かない。右手に真珠のペンダントを巻き付けられたまま、軽い寝息を立てているだけである。
「……………………………」
「……………………………」
+ + + + +
中之島は、経緯を説明した後、
「つまり、マギに残っておった破損ファイルの痕跡を解析した結果、『350回以上やらかしておった』と言う事が判明したのぢゃ。それも、『サード・インパクト』のエネルギーで、簡単に歴史が巻き戻される、と言う状況が発生しておったようぢゃ」
ここでゆかりが、
「でも博士、何故その痕跡がマギに残っていたのでしょうか?」
「考えられる事は一つしかあるまい。『アカシックレコード』ぢゃ」
「!! では、マギは『集合的無意識』を持っていると!?」
「おそらくそうぢゃろう。無論、『集合的無意識』のみならず、『個人的無意識』も持っているぢゃろうがな」
ここでリョウコが、
「『三人分持っている』と言うことですね」
大作が頷き、
「あ、そうか。なるほど」
真顔のリョウコは、
「三人分の無意識が連結されているのですから、集合的無意識にもつながりやすい、と考えられますね」
中之島は頷き、
「うむ、それは考えられる。良い所に気づいたの。それを通じて、『アカシックレコード』に『パラレルワールド』の記録を書き込んでおったのぢゃよ」
サトシは思わず声を上げ、
「あ! そうか! だからアカシャはこの世界への通路を見つける事が出来たのか!」
中之島は、またもや頷き、
「そう言う事ぢゃろうな。アカシャはその記録を辿ってこの世界への通路を開いたのぢゃろう」
ここで大作が、
「博士、今思ったんですが、この世界がそれほどの回数、滅亡と再生を繰り返していたとして、その歴史は全て同一ではなかった、と考えられますね」
「そうぢゃろうな。似たような流れながらも、微妙に違う歴史を何度も繰り返しておった、と。そのため、儂等の世界で、この世界の事を透視した人間が、それぞれ違った歴史を見ておったと言う事ぢゃ。だから、テレビの物語の本編にも矛盾や食い違いが多数発生したのぢゃろうし、あれほど夥しい数のファンフィクションやアンソロジーが生まれたのぢゃろう。何よりもぢゃ、正規シナリオたる本編ですら、テレビ版、ビデオ版、映画版等、シナリオは多数あるし、漫画独自のシナリオもあるぐらいぢゃからの」
ここでアキコが、
「博士、この世界の人たちは、そのことをまったく意識してないんでしょうか?」
「無意識レベルでは何か気付いておるぢゃろう。恐らく記憶にはかなりの混乱が見られると思うぞよ。しかし、困った事に、『歴史の記録』が存在しない以上、個人の無意識レベルの記憶は、『正しい歴史』とはみなされんからな。これは、『現実と虚構の混同』にも関連するのぢゃが、この世界の2015年の曜日が、儂等の世界の1995年の曜日と一致しておったり、陽電子砲を大気圏内でブッ放しておったりしたと言うのも、全て、何回も歴史をやり直した結果、『現実と虚構の混同』が発生し、想像と事実の区別がつかなくなったのが原因ぢゃろう。しかも、歴史をやり直す時、無意識的に今までのアカシックレコードの記録を参考にしておったと考えれば辻褄が合う。何しろ、アカシックレコードの世界では、想像も事実も同レベルぢゃからな」
アキコは驚き、
「えっ? アカシックレコードには、『想像が、事実であるかのように記録される』、と言うことなんですか?」
「そうなのぢゃ。それが、アカシックレコードの凄い点でもあり、泣き所でもあるのぢゃよ」
ここでゆかりが、
「博士、私たちが知っている、『今の、この歴史』ですが、綾波さんから伺った話を時間的な基準としますと、その後も何度か繰り返されていたのですか?」
「いや、儂が調べた限りでは、この歴史はまだ繰り返されておらん。恐らくは、儂等の世界と関わりを持った事で、今までの流れとは大きくかけ離れてしまった事が原因ぢゃろうな。しかし、依然としてこの世界の時間の流れは不安定ぢゃろう。今度また大きな事をやらかしたら、また歴史が巻き戻される、と言う事になるぢゃろうな」
サトシは思わず身を乗り出し、
「!! 博士!! もし祇園寺や碇ゲンドウのもくろみ通り、『ビッグバン』が起こるほどのエネルギーが発生したらどうなるんです?!」
「そこまでやらかしてしまったら、最早、『歴史のやり直し』等は無意味になるぢゃろうな。……しかしぢゃ、一応、オモイカネⅡの推測では、もし、そうなったとしたら……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
中之島は、ゆっくりと、
「宇宙はもう一度一からやり直しぢゃ。しかも、その宇宙を作った『創造主』としての『神』は、祇園寺と碇ゲンドウ、と言う事になる」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
「!!!!!!」
中之島は、続けて、
「いずれにせよぢゃ、『サード・インパクト』を防ぎ、完全にその根を絶てば、この世界の歴史が巻き戻される事もなくなるぢゃろうし、徐々に『現実と虚構の混同』もなくなって行くぢゃろうとは思うがな」
ここでゆかりが、
「博士、しかし一つ問題があります。私たちはこの世界では所詮『よそ者』です。この世界がどうなるか、どうするかはこの世界の人々の選択に任されるべきでしょう。その意味で、ここで私たちだけでこの話をするのはまずいのではありませんか?」
中之島は、頷くと、
「それは良く判っておる。しかし、実際に話す、となっても、一体誰に話すのぢゃ? これは使徒やマーラを撃退するのとはレベルの違う話ぢゃぞ」
「それは……、まず五大本部長と葛城部長に話すべきだと思いますが……」
と、困惑した表情を見せたゆかりに、中之島は、
「五大君と葛城君にか。……しかし、彼等にこの問題の決断を委ねても良いものかどうか……」
「…………」
流石のゆかりも返答に窮した。
+ + + + +
総務部。
シャーッ、シャーッ
プリンタから書類が出力されている。ミサトはマウスをクリックしてファイルを閉じ、
(…これでよし、と。…後は博士にオクタヘドロンの出撃を頼むだけね……)
ギイッ
ドアが開く音に振り返ると、レナが入って来ている。
「あ、レナちゃん。…そっか、もう交替の時間なのね」
「葛城部長、何かあったら連絡しますから、おやすみになって下さい」
「ありがとう。中之島博士に相談があるから、この書類を渡してから寝させてもらうわ」
「わかりました」
ミサトは壁の時計に目をやりながら受話器を取り上げた。
(…24時過ぎか……)
+ + + + +
トゥル トゥル トゥル
「ん!?」
突然鳴った電話に、中之島の表情が変わる。
「!」
「!」
「!」
「!」
「!」
五人も驚く中、電話は鳴り続ける。
トゥル トゥル トゥル
ややあって、中之島が受話器を取り上げ、
「中之島ぢゃ」
『葛城です』
「お、葛城君か。どうしたね」
『申し訳ありません。おやすみでしたか?』
「いや、起きておったぞよ」
『そうですか。実は、エヴァを使って使徒をおびき寄せる方法が一応完成しました。それで、夜明けと同時に作戦を開始しますが、その際のオクタヘドロンの配備に関する案を作成しましたので、博士にも目を通して戴きたいのです』
「そうか。了解した」
『これから伺ってよろしいですか?』
「うむ。構わんよ」
『ありがとうございます。ではすぐに参ります』
その時、決断した中之島は、
「あ、葛城君」
『なんでしょう?』
中之島は、軽く頷くと、
「丁度良かった。こちらにも重要な話がある。悪いが、五大本部長と綾波君を連れて一緒に来てくれんかの」
+ + + + +
ミサトは、意外な中之島の言葉に、
「えっ?! 本部長とレイ、いえ、綾波をですか?」
と、驚いたが、すぐに、
「はい、わかりました」
+ + + + +
「では待っておる」
と、電話を切った後、中之島は、五人に、
「聞いた通りぢゃ。これも何かの縁と言うものぢゃろう。葛城君と五大君、それに綾波君には全て話そうではないか」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
+ + + + +
レイの部屋。
トゥル トゥル トゥル
「はい、綾波です」
『ミサトです』
「あ、部長、なにかありましたか?」
『悪いけど、すぐに総務部室に来てちょうだい』
「え? は、はい……」
+ + + + +
総務部室。
レイがドアを開けて入って来る。
「失礼します。…あ、本部長もおいででしたか」
ミサトは、レイに向かって、
「遅くに悪いわね。中之島博士が、重要な話があるから、本部長とレイを連れて一緒に来てくれ、って仰ってね」
驚いたレイは、
「えっ? そうなんですか? いったいなんでしょう……」
しかし、五大は、
「ま、とにかく行こうじゃないか」
「はい……」
+ + + + +
中之島の部屋。
コンコン
「どうぞ」
中之島の言葉に呼応し、
ギイッ
ドアが開き、まずミサトが顔を出す。
「お邪魔します。…あれ? みなさんもおいでで…」
中之島は、軽く頷くと、
「よく来てくれた。まあ適当に座ってくれ」
ミサト、レイ、五大の三人が座った後、中之島は、ミサトに向かって、
「まず、そちらの話から済ませようかの。書類は持って来てくれたか?」
ミサトは頷き、
「はい、ここに」
手渡された書類をざっと見た中之島は、
「判った。配備に関しては問題なかろう。戦闘の指揮は葛城君に任せるぞよ」
「ありがとうございます。責任を持って、オクタヘドロンの指揮は引き受けさせて戴きます」
と、改めて一礼したミサトに、中之島は、
「念のため後で書類はよく読んでおくから心配は無用ぢゃ」
と、言った後、三人を見渡し、
「所で、こっちの話なのぢゃが」
ミサトが、それを受け、
「なんでしょう?」
中之島は、言葉を改めるように、
「葛城君、君達五人が儂等の世界に来てくれた事と、この世界の歴史が変わった事とは、深い関係がある事は理解してくれていると思うが、どうぢゃな?」
「はい、具体的な事まではわかりませんが、関係があるだろうとは思っております」
「うむ、それでぢゃ、…もし、この世界の『歴史の改変』が、その一回だけではなかったとしたら…」
「ええっ!!!???」
「なんですと!!??」
「!!!!!」
ミサト、五大、レイの三人は顔色を変えた。
+ + + + +
アスカの病室。
ピッ、ピッ、ピッ
「……………………………」
「……………………………」
+ + + + +
中之島は、経緯を説明した後、深々と頭を下げると、
「そう言う訳ぢゃ。勝手にマギのデータを拝借した事は詫びるが、止むを得ん措置だったと言う事は理解して貰いたい」
しかし、茫然自失の態の五大は、
「まさか……、そんな馬鹿な事が……」
と、言うだけである。続いてミサトが、
「博士、じゃ、私達の世界は、一体何が現実で、何が虚構なのか……」
中之島は、真顔で、
「虚構と現実が混ざった状態ぢゃからこそ、マーラが簡単に使徒と一体化して物質化したのぢゃ。そう考えれば全て理解出来る」
ミサトは、改めて顔を上げ、
「では、そちらの世界にマーラや使徒が現れたのも……」
「儂等の世界では、『マハカーラ』をきっかけとして、虚構と現実が混ざり始めた。こちらの世界では、何度も歴史を繰り返す内に、『時間と空間の概念の混触』が起きたのぢゃろう」
ここで五大が、
「時間と空間の混触、ですと?」
中之島は頷くと、
「うむ、さっきウチの五人には説明したのぢゃが、要するに、時間と言う概念は、極めて『人間的』なのぢゃよ。空間や物質、エネルギーと言ったものは、絶対的な存在として認識する事が可能ぢゃ。しかし、時間は違う。人間が勝手に決めたものに過ぎんぢゃろう」
その指摘に五大は表情を一変させ、
「!……。確かに……」
「物質の状態が変化するのは時間が流れるからではない。変化の経過を、我々人間が『時間』と呼んでおるのぢゃ。極論すれば、『歴史は書物の中にしかない』と言う事ぢゃよ」
「…………」
「…………」
「…………」
黙って説明を聞く三人に、中之島は、
「それでぢゃ。さっきも言った通り、この事件を解決すれば、徐々に虚構と現実は分離して行くぢゃろう。無論、どうするかは、君達の問題ぢゃがな……」
すかさず五大が、
「それは言うまでもありません。『事件の解決』と、『現実と虚構の分離』が一体のものであるのなら、我々の任務は『事件の解決』なのですから、同時に『現実と虚構の分離』も行わねばならんのは自明の理です」
中之島は改めて頷くと、
「そうか。判った。では儂等も出来る限りの協力は惜しまん」
五大も、頭を下げ、
「有り難う御座います。宜しく御願い致します」
「後はぢゃ、この話をみんなにどう伝えるかは、本部長と葛城君に任せるぞよ」
「了解しました」
と、応えた五大に、中之島は、
「ではこれで解散と言う事にしようかの」
+ + + + +
自室に戻って来たレイはすぐさまベッドにもぐり込んだ。しかし、体は疲れている筈なのに、どうしても眠れない。寝ようとしても、つい今聞いた話を思い出しながら考え込んでしまっているのだった。
(…もし、想像と事実の区別がつかなくなっているのだとしたら……)
心の中を色々な記憶がよぎる。しかし、よくよく考えてみると、それが実際にあった事なのか、それとも想像の産物なのか、はっきりしないではないか。レイは思わず戦慄した。
(…わたしはいったいなんなの? ……ほんとうに碇マイの娘で、シンちゃんのいとこなの?……)
+ + + + +
ミサトも仮眠室のベッドで考え込んでいる。
(…想像と事実の区別がつかないのだとしたら、私が今まで体験して来た事は、一体……)
+ + + + +
五大も本部長室のデスクに向かい、手を組んだまま瞑目して考え続けていた。
(…虚構と現実の区別がつかない状態……。まさに魔界そのものじゃないか……)
+ + + + +
アスカの病室。
「……… …… ……… …… ……」
シンジと加持はずっと三密加持を続けていた。しかし、シンジも流石に睡魔に襲われ、連想も途切れ勝ちである。
「……シンジ君、しっかりしろ」
「!! あ、どうもすみません」
「もう限界のようだな。博士からも無理するなと言われている事だし、少し横になったらどうだ?」
「いえ、だいじょうぶです。続けます」
「言う事を聞け。君はエヴァのパイロットだろう。いざという時戦えないようではこっちが困る。いいからそこの毛布を持って外へ出ろ。廊下のソファで少し眠るんだ」
「は、はい……。どうもすみません。……あの、加持さんは……?」
「俺はまだもう少し行ける。いよいよ限界、となったら休むから心配するな」
「は、はい。………じゃ、おねがいします……」
シンジはそう言うと立ち上がり、毛布を手にした。
「しっかり寝ておけよ。アスカの事は俺に任せろ」
「はい……」
(……アスカ……)
シンジはベッドの上のアスカをチラっと見ると、ドアに向かう。
「……………………………」
加持が再び姿勢を正して連想を始めた様子を横目で見て、シンジは廊下に出た。
+ + + + +
夜明け直前となった。中央制御室にスタッフが次々と集合して来る。シンジとアスカを除くエヴァンゲリオンのパイロットは全員ケージに、そして、オクタヘドロンのパイロットと時田達JAのスタッフは本部横の臨時駐機場に行った。
五大が、全員を見渡し、
「よし、では作戦を開始する。葛城君、始めてくれ」
ミサトは頷き、インカムに、
「パイロットは全員所定の位置にて待機! 準備の完了した者から順に連絡してちょうだい!」
まず、トウジの声が、
『こちら弐号機の鈴原と洞木です! 準備完了!』
続いてレイが、
『零号機の綾波と渚、準備完了!』
ケンスケも、
『初号機の相田と八雲も準備完了です!』
更には、
『アカシャの沢田です! 準備完了しました!』
『プリティヴィの綾小路です! 準備完了!』
『ヴァルナの北原です! 準備完了しました!』
『こちらヴァーユの草野! 出撃準備完了!』
『こちら時田! JAも出撃準備完了です! 現在待機中!』
『アグニの形代です! こちらも準備完了しました!』
五大は、頷くと、
「よし、全機準備完了したな。では、日の出と同時に作戦を開始する。伊吹君、マギの準備はいいな?」
「はい。いつでも開始できます」
マヤの言葉にミサトも頷き、
「日向君、メインモニタに東の空を映して」
「了解」
モニタに映る東の空は、曇っているようで何故だか妙に薄暗い。
「ちょっと曇ってますね……」
日向の言葉に、ミサトは、
「うん、そうね……。まあ、明るくなって来たし、時間的にはそろそろいいと思うんだけど……」
その時、青葉が、
「あれ? 雲の隙間に暗闇のようなものが見えますよ」
ミサトはやや眉を顰め、
「あら、確かにそうね。なにかしら……」
中之島も、
「何ぢゃろうな。確かに黒っぽく見えるぞよ」
日向が、前を向いたまま、
「駒ケ岳山頂の監視カメラに切り替えます。あれなら角度的に雲を回避出来ますから」
と、コンソールを操作した。その直後、
「あああっ!!!」
日向の叫びが中央制御室の空気を切り裂いた。中之島も、
「何ぢゃあれは!!!」
ミサトも、身を乗り出し、
「黒い太陽!!!??」
中央制御室に次々と驚きの叫び声が響き渡る。メインモニタに映し出された物は、まるで皆既日蝕のような「黒い太陽」だった。
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'夜明け -Short Version- ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)
二つの光 第十四話・静寂
二つの光 第十六話・日蝕
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