第四部・二つの光




「……そこでぢゃ、儂は政府の命を受けてオクタヘドロンを開発したのぢゃ。そして、2011年の8月15日、この日は……」

 1999年に起こった「マハカーラ」以降の出来事を、簡潔ながらも要点を押さえて語る中之島の言葉に、会議室の全員が引き込まれて行った。

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第十二話・伏流

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「どないなっとるんや。こっちもハワイとおんなじやないけ………」

 アメリカ西海岸に到着したマサキが、市街地上空をゆっくりと低空飛行しながら呟く。

『こちらメアリー、オクタヘドロン3機応答して』

「はい、こちらカーラの四条です。感度良好」

『こちらヴァジュラの橋渡、感度良好』

『ガルバの玉置です。感度良好』

『どう? そっちの状況は?』

「スキャナで調べとる限りでは、ハワイとおんなじですわ。なんちゅうか、『人が生きとる気配』、が感じられまへん。メアリーはん、そっちはどないでっか?」

『こっちも同じよ。少なくとも上空から偵察する限りではハワイと全く同じね』

「ちゅうことは、生存者がおる可能性もある、ちゅうことでんな」

『そう。でも、「生きる屍」である可能性も極めて高い、と言うことね』

「そうでんな……」

 その時、

『こちらジョンだ。やむを得んから全機着陸するんだ。ハワイと同じように調査を開始しよう』

『メアリー了解』

「四条了解です」

『橋渡了解』

『玉置了解』

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「……そして、4番目のマーラ、これを我々は『バグマーラ』と呼称しおったのぢゃが、そいつを倒した直後、事態は急変しおったのぢゃ」

 そう言いつつ、中之島はミサトをチラリと見た。ここから先は「ミサト達五人の出現」に関係する話となる。五大が「全ての事情を公表する」とは言ったものの、そのあたりに関して自分が話してもよいかどうか、少々気になったのだ。

(はい、博士。全て仰って下さい………)

 ミサトは明鏡止水の心境で軽く頷く。

(そうか。よし……)

 中之島も軽く頷き返し、改めて前に向き直ると、

「儂等にとっても極めて意外としか言いようのない事態が起こった。儂等の前に突然『客人』が現れおったのぢゃが、その『客人』とはの……」

 そう言うと中之島は一呼吸置いた。ミサト達五人、五大、冬月を除いた他の出席者は、中之島の発した「客人」と言う言葉から何かを察したのか、表情をやや変えている。

「葛城君、加持君、碇君、惣流君、綾波君の五人じゃった」

「!!!!…………」
「!!!!…………」
「!!!!…………」

 会議室に、何とも言えない異様な空気が流れた。

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 駒ケ岳山中。

 ゲンドウが、アダムに向かって、

「アダム、量産型の方はどうなっている?」

「なにしろ、飛べる、って言っても、所詮は羽根だからねえ。全速力でこちらに向かってはいるけど、もう少しかかるよ」

「祇園寺、いっその事、レリエルを使って使徒と量産型を全員を回収させたらどうだ? その方が早いぞ」

 しかし、祇園寺は顔を顰め、

「それがなあ、中之島の奴がこちらに来てしまった事で、少々予定が狂ってしまった事は否めん」

 ゲンドウは、訝し気に、

「どう言う事だ?」

「今レリエルを使って、異次元を移動させたとしてだ、その時発生する霊波を奴にキャッチされたら少々やっかいな事になる。奴は霊波を操るのが得意だ。最悪、使徒も量産型も消滅させる事が出来る波動を発見されかねんぞ」

「レリエルと同じ要領で使徒や量産型を消される、と言うのか?」

「そうだ。しかもそれを奴等の主導でやられたら、こっちで元に戻す事は不可能になる確率が高い。連中は既に次元を移動する方法を知っているんだからな」

「そうか……。やむを得んな……」

「そう言う事だ。もう少し待つしかない」

と、言った後、祇園寺はアダムに向かって、

「アダム、後どれぐらいかかる?」

「24時間以内には全員集結させられると思うよ」

 ゲンドウは、止むを得ないと言った顔で、

「仕方ない。待つとするか……」

「……………………」
「……………………」

 リツコとリリスは黙ったままである。

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 「ミサト達五人の出現」と「五人の活躍」に関する中之島の話が進むに連れ、今まで事情を知らなかったスタッフは唯々驚くしかなかった。

「葛城君達五人に関する話は以上ぢゃ。後は、『カオス・コスモス』が解決してから1年5ヶ月が経過した後の話となる。もうお気付きの事と思うが、儂等の世界にも使徒が出現しおった。戦いながらその原因を探っている最中に、綾波君と渚君がやって来たのぢゃよ。お陰で、こちらの世界の使徒と祇園寺の事を知り、原因がそこにあると判った。それで、その禍根を断つためにこちらに来た、と言う訳ぢゃ」

 中之島はそこまで話すと腰を下ろして五大を見た。全員、水を打ったように静まり返る中、五大がゆっくりと立ち上がり、

「これから後は私が話そう。さっき博士に伺ったのだが、碇ゲンドウと祇園寺は量産型を奪う事を企てていると思われる」

 マヤは思わず刮目し、

「えっ!! それじゃ!! バルディエルが現れていなかったのは!!」

「そうだ。バルディエルが出現していなかったのはそのためだ。連中の目的は量産型に取り付き、一体化する事だと推測される」

「そ、そんな!! それじゃ、9機の量産型は全部敵、と言うことに!?」

「そう考えるのが妥当だろう。使徒と合わせて敵は全部で17。ゼルエルは倒したと考えても16いる。こちらの戦力はエヴァが4機、オクタヘドロンとJAを入れても10機だ。不利な戦いになる事は否めない」

 日向は思わず立ち上がり、

「本部長!! 使徒と量産型が協調行動を取って、複数で同時に展開して来たらこっちの勝ち目は!」

 しかし、そんな日向を制し、五大はゆっくりと、

「日向君、落ち着け」

「は、はい……」

 日向が腰を下ろす。五大は続けて、

「確かに勝ち目が薄い事には違いない。しかし、今更それを云々しても仕方ない事だ。今ある戦力を最大限に活かして戦うしかあるまい。幸いにして、オクタヘドロンの武器は極めて強力だ。今の内に出来る限り、中之島博士の協力を得て武器を改造しておくのだ。特に、ビーム砲に関しては、波形を変える事でかなりの改善が見込める。会議が終わり次第、その方向ですぐに処置を進めて欲しい」

「はっ! 了解しました!」

「さて、次に極めて重大な話をせねばならん。これも先程中之島博士から伺った事で、あくまでも推定ではあるのだが、碇ゲンドウと祇園寺の真の目的が見えて来た……」

 ここで五大は一呼吸置いた。会議室はまたもや静まり返っている。

「奴等の目的は、『ビッグバン』らしいのだ」

「えええっ!?」
「えええっ!?」
「えええっ!?」

 会議室に驚きの声が満ちた。

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 アメリカ西海岸の某都市。

 メアリーが、憮然とした顔で、

「……やっぱりハワイと同じね……」

 マサキも、

「そうでんな。生存者はおっても、『生きる屍』、ちゅう奴でんな……」

 ジョンが、首を傾げ、

「しかし、使徒の姿がカケラも窺えんとはどう言う事だ……」

 タカシは、

「海の底に隠れとるんじゃろうかねえ……」

 ジョンは頷き、

「考えられるな。……しかしだ、ずっと隠れているとすると、一体目的はなんなのだ?……」

 サリナも、

「どうなんやろ……、海の底やったとすると……」

 ここで、メアリーが、

「とにかく使える戦力が残ってないかどうか調べましょう。今は少しでも戦力が欲しいところだから」

 ジョンは頷き、

「そうだな。軍の地下シェルターを調査しよう」

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 JRL本部。

 松下が、真由美に向かって、

「末川君、相変わらずこっちのレーダーとスキャナには何も出てないんだな」

「はい、全てのレーダーとスキャナ、それから、フェイズ・スキャナにも何も反応はありません」

「そうか。…そう、だな……」

「…………」

 その時、

『本部長、こちら機関部の山上です』

「松下だ」

『イロウルに対抗するためのマントラレーザーの調整が一応完了しました』

「そうか、すぐに行く」

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 機関部。

 山上が、モニタを示しながら、

「ご指示通り、波形を決定するための材料には、『新世紀エヴァンゲリオン・第拾参話』の記述、オモイカネに入っている中之島博士の研究データ、それからマーラに対して実績のあった波形を使いました。言わば、『混合ワクチンによるカクテル療法』です」

 松下は頷いて、

「うむ。まあ、肝心の相手がおらんから実験は出来んが、オモイカネのシミュレーションでは『通用する』と言う事だな」

「はい、その筈です」

と、言った山上は、続いてキーボードを操作し、

「このモニタの映像を御覧下さい」

 モニタに映った映像に、松下はやや驚き、

「ほう、『第拾参話』の一場面か」

 山上は頷くと、

「ええ、オモイカネに作らせました。この、イロウルが侵入した場面で、レーザーを照射するくだりの部分ですが……」

ブシュウウウッ!!

「御覧の通り、この時点でイロウルを退治出来た、と言う訳です」

 感心した顔で松下が頷く。

「ほう、水中でありながら、レーザーが効力を発揮するのか」

「ええ、マントラレーザーは元々次元を潜り抜けられますのでATフィールドを通過出来ます。その性質を活用しまして、近距離ならば水中でも充分な効力を挙げられるように設定しました。無論、イロウルの色に特に反応する波形を選びましたし、出力はこの話の設定よりも数段上げてあります」

「よし、これを携帯型レーザーガンにもインプットしておけば、イロウルが現れても何とか倒せそうだな。早速このデータを沖縄、エンタープライズ、遠征班に送信しておいてくれ」

「了解しました」

「あ、それから、人間に対してはどうだ? イロウルに取り付かれた人間に照射した場合はどうなる?」

「人間の肌の色には反応しにくい波形にしてありますので、出力レベルを下げておけば、かなり熱いとは思いますが、何とか耐えられるだろうと考えています。無論、本格的な治療の場合には、医師の同席が望ましい事は言うまでもありませんが……」

「そうか。わかった。とにかく、その情報も含めて送信しておこう」

「はい」

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 IBO本部臨時会議室(旧司令室)。

 一通りの説明を終えた五大は、改めて全員を見渡し、

「……と、言うのが今に至る一連の流れだ」

と、言った後、中之島に向かって、

「……中之島博士、何か補足して戴く事はありませんか?」

 中之島は、軽く首を振って、

「いや、ない」

 それを聞いた五大は、

「どうも」

と、頷き、改めて前を向くと、

「…と、言う事なので、事情説明は以上とする。この後は、質疑応答と、今後の方針の決定を行いたい。何か質問はあるかね」

 まず、ミサトが手を上げる。

「本部長、現在の所、使徒の動きは全く不明です。このままここに籠城して様子を見るか、それともオクタヘドロンの機動力を生かしてこちらから外へ出向き、敵を捜索しながら戦うのか、どうなさるおつもりですか?」

「オクタヘドロンがない時点では籠城せざるを得なかった。今は空を飛べると言う機動力を生かして外へ出る事も確かに選択肢の一つではあると思う。しかしそれについては中之島博士のご意見も伺わねばならん。……博士、そのあたりはどうお考えですか?」

「儂の考えとしては、地球的規模による捜索が可能ならいざ知らず、今の程度の戦力と捜索能力ならば、外に出るのは極めて不利ぢゃと言わざるを得んぢゃろうな。もし使徒や量産型をおびき寄せる事が可能ならば、ここに呼び寄せて一気に叩くのが得策ぢゃろう。今の所、相手の数は16と判明しておる。それならば、何とかここに呼び寄せる方法を考えるのが良いと思うがの。……葛城君」

「はい」

「前の時は、ここの地下のアダム、いや、リリスを使って使徒を呼び寄せておったのぢゃな」

「はい、そうです」

「ならば案外話は簡単ではないかの。儂の考えでは、弐号機はアダムの、零号機と初号機とはリリスのコピーぢゃと思うとるのぢゃが、違うかの?」

「はい、その通りです」

「やはりの。ならば、その3機があれば、使徒を呼び寄せる事は可能と考えられる。意図的にそれを行う方法がある筈ぢゃ」

「なるほど。では、量産型は?」

「量産型は既にバルディエルぢゃと考えた方が良かろう。ならば同じ理屈で呼び寄せられるのではないかの」

 ここで五大が、

「博士、連中は単なる使徒ではなく、マーラとしての性質も持っている筈です。しかも現在は碇ゲンドウと祇園寺に操られている訳ですが、そのあたりはどう考えます?」

「連中がマーラとしての性質を持っている事は、逆にこの場合は好運かも知れん。と、言うのもぢゃ、儂の研究結果をそのまま活かして、マーラの好きな『エサ』をバラ撒けるからの」

「エサ、ですと?」

「そうぢゃ。マーラのノイズぢゃ。あれを上手く使えば、おそらく連中はマーラとしての本能に目覚めて、祇園寺や碇ゲンドウの命令どころではなくなる筈ぢゃ」

 日向は思わず、

「あ! 我々が『パターンオレンジ』で、レリエルを呼び寄せようとしたやり方と同じですね!」

 中之島は頷き、

「そうぢゃ。それと同じぢゃ。しかし、それに関連して、充分注意せねばならん事が一つある。さっきの本部長の話で判った事ぢゃが、諸君が『パターンオレンジ』でレリエルを呼び寄せようとした事が、どう言う訳か、この『第3新東京市郊外』に、『次元の通路』の出口を開いた、と言う事ぢゃ。それぢゃからこそ、我々はここに出現出来たのぢゃからの」

「!! 成程……」

 ここで、持明院が、

「一つ構わんかな」

「どうぞ」

 五大の言葉に応じて、持明院は、

「今の中之島博士のお話に関連した事なんだが、我々『晴明桔梗』のメンバーは、ここを『黄泉比良坂』と考えている。ここに『出口』が開いた、と言うのは、もしかしてそれに関係しているとは考えられないかね?」

 中之島は、やや驚き、

「ほう、『黄泉比良坂』か。中々面白い考えぢゃの。……うむ、確かに一理あるのう」

 持明院は続けて、

「だとすると、ここに『黄泉の国』への通路を開く事は、それだけで大きな変化を呼ぶ可能性がある。それが我々にとって良い結果になるか悪い結果を生むかはわからんがね……」

「なるほどのう。……で、お主はそれに関してどう思うのぢゃな?」

「賭けだが、それも一つの選択肢とすべきだろうと思う。もしそれによって『黄泉の国』への通路が開いたら、使徒もマーラも量産型も、一気にその中へ封じ込める事は不可能ではないと考える」

 中之島は、改めて頷くと、

「うーむ、いやいや、中々のアイデアぢゃ。……お主も中々のもんぢゃの」

 中之島の言葉に、持明院は、

「まあ、これでも一応、陰陽道や密教はかじっているのでね。……ふふ」

と、苦笑した。それを見た中之島は、思わず、

「ん?!」

と、顔色を変えたが、すぐに、

「そ、そうか。なるほどの……」

 その中之島の様子に、五大は、

「博士? いかがなされました?」

 中之島は、慌てて、

「いや、何でもない。……何でもないんぢゃ……」

と、平静を装ったが、その心中は、

(何ぢゃ、この持明院と言う男、今の口調と言い、雰囲気と言い、どこかで会ったような感じがするのう……)

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 エンタープライズメインブリッジ。

 ライカーが、憮然とした顔で、

「ミセス山之内、あれから何もないですねー」

 由美子も、暗い顔で、

「ええ、……あれはいったい何だったんでしょう……」

「まあ、とにかく監視を続けるしかないですねー。がんばりましょー」

「はい。……そうですね……」

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 IBO本部臨時会議室(旧司令室)。

 出席者からの意見聴取と質疑応答を一通り終えた後、五大は、

「いずれにせよだ、現在の所は、意見を集約してみると、積極的に外に出る事は得策とは言えんようだ。それでだ、中之島博士のご意見を元にして考えた結果、出来る限り各使徒の性質を検討してだ、可能なら前のように1体ずつおびき寄せる方法を考慮したい。 しかしながら、連中のS2機関がいつ暴走を始めるか判らん現在においては、以前のように長期に亘って呼び寄せる事は時間的に不可能だ。それで、『時間差を考慮する』、と言う程度にならざるを得ない」

 ここでミサトが、

「1体ずつ連続して呼び寄せる、と言う方法ですね?」

 五大は頷き、

「そうだ。実際には可能かどうかはやってみないとわからんがな」

「もし全部が一緒に来たとしたら、その時はその時だ、と言う事ですね」

「その通りだ」

「了解致しました」

 五大は続けて、

「無論、武器の改良は言わずもがなだ。中之島博士に協力して貰って、技術部の総力を挙げてやって貰いたい」

 マヤ、青葉、日向の三人が頷き、

「了解しました」
「了解致しました」
「了解致しました」

 これで取り敢えずの話が終わったと見た五大は、

「基本方針は以上だ。他に何かないかね?」

 すると、中之島が、

「一つ聞きたいのぢゃが」

「なんでしょう?」

「惣流君の事ぢゃ。彼女が入院中なのは判ったが、治療の方は何とかならんのか?」

 五大は、顔を顰め、

「手は尽くしているのですが、どうしても意識が戻らないのです」

 二人の応答を聞きながら、シンジは心中、

(アスカ…………)

と、暗い気持で一杯である。その時、中之島が頷いて、

「そうか。ならば儂から一つ提案がある」

 五大は、やや身を乗り出し、

「と、仰いますと?」

「碇君と加持君に、三密加持によるヒーリングをやらせてみるのぢゃよ」

「えっ!?」
「えっ!?」

 中之島の言葉に、シンジと加持は思わず声を上げた。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'アヴェ・マリア(カッチーニ) ' mixed by VIA MEDIA

二つの光 第十一話・蠢き
二つの光 第十三話・疑念
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