第四部・二つの光




「こちらエンタープライズの山之内! 嘉手納基地応答願います!!」

『こちら嘉手納基地のカジマだ!! そちらのスキャン信号を受け取った!!』

「高エネルギー反応は沖縄南東から徐々に本島に向かって接近して、!!?? えっ!?」

『どうした!?』

「……反応が消えました……」

 由美子は呆然とモニタを見ていた。

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第十一話・蠢き

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 こちらはハワイ上空。遠征隊隊長、ジョン・ヘンリー大尉の怒鳴り声がコックピットに響き渡る。

「全機最終着陸態勢ニ入レ!! 着陸後ハ気密防護服ヲ着用シテカラ機ヲ降リルヨウニ!! メアリー! オクタヘドロンノ指揮ヲ頼ム!!」

『了解ヨ!! ……オクタヘドロン各機!! 最終着陸態勢に入って!! 機から降りる時は気密防護服を着用するのよ!!』

『こちらカーラの四条! 了解です!』

『ヴァジュラ橋渡了解!』

『ガルバの玉置です! 了解しました!』

 コックピットに次々と無線が飛び込んで来る。ジョンは気を引き締め、操縦桿を倒した。

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 嘉手納基地発令室。

 由美子からの報告に、カジマは、

「よし、状況はわかった。とにかく偵察隊を出すから、そちらも引き続き監視を続けろ。ハワイの遠征隊にはこちらから連絡しておく。JRL本部にはそちらから連絡しておいてくれ」

『了解致しました』

 カジマは改めてマイクを握り直すと、

「コチラ嘉手納基地のカジマダ! 遠征隊ノヘンリー大尉、応答セヨ!」

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「コチラ嘉手納640ノヘンリー。感度良好デス!」

『沖縄南東ノ海上デ高エネルギー反応ガ検知サレタ」

「エッ!?」

『使徒ノ可能性ガアルノデ偵察隊ヲ出ス。ソチラハ予定通リ任務ヲ続ケテクレ。以上ダ』

「了解! ……メアリー! 通信ヲ傍受シタカ!?」

『傍受シタワ! コッチハ任務継続ネ!』

「ソウダ! オクタヘドロンノ連中ニモ伝エテオイテクレ!」

『了解ヨ!』

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 駒ケ岳山中。

 リリスは淡々と状況を説明した後、

「状況は以上です。わたしにもくわしい事はわかりませんが、魂からしぼり出すような悲しい声が聞こえました……」

 それを聞いたゲンドウは、

「祇園寺、こっちの世界のゼルエルの断末魔の悲鳴が向こうの世界に伝わって向こうが共鳴したと言う事か?」

 祇園寺は唸り、

「そう考えるしかあるまいな。……リリス、それから後の状況はわからないのか?」

「はい……。あとはなにも……」

 止むを得ないと言った顔の祇園寺は、ゲンドウに向かって、

「碇、いずれにせよだ、こちらで使徒と量産型のS2機関をここに集めて暴走させれば済む事だ。そうすれば向こうの使徒も共鳴して暴走する」

 ゲンドウは頷き、

「うむ、しかし一つ心配なのは使徒の『性欲』だ。これだけは少々シナリオから外れてしまった。暴走させるためのエネルギーが足りるのか」

「それなんだが、修正のためには、もう一度アダムとリリスによる『儀式』を行うしかあるまい」

「!……」
(えっ!)

 二人の会話にリツコが顔色を変える。しかし、アダムとリリスは淡々としたままだ。

「………」
「………」

 一瞬の沈黙の後、ゲンドウは、

「と、すると、最大の効果を狙うためには、やはり『場所』が重要だな……」

 祇園寺は頷き、

「そう言う事だ。……あそこしかないだろうな」

「……うむ……」

と、ゲンドウも頷く。それを聞いたリツコは、

(あそこ、ですって?………)

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 IBO本部中央制御室。

 コンソールを操作していたマヤが、振り向き、

「本部長、アカシャとヴァーユが戻って来ました。ジオフロント内に回収します」

 五大は頷いて、ミサトに、

「よし、会議の準備だ。葛城君」

「はい」

「いつも通り、必要と思われる関係者全員に出席の指示を出してくれ。JAが戻り次第、あちらの関係者にも合流して貰って会議を開始する。それまでの間、中之島博士に色々と聞いておきたい事もあるので、私の部屋に来て貰ってくれ。無論君もだぞ」

「了解しました。オクタヘドロンのパイロットには自室で待機して貰います」

「うむ、そうしておいてくれ」

 ここでマヤが、

「JAから連絡が入りました。音声出します」

 スピーカーから加持の声が流れる。

『こちらJAの加持です。最高速で移動していますから、予定よりもかなり早く到着出来そうです』

 五大は頷き、

「了解した。気を付けてな」

『了解です。あ、ちょっとお待ち下さい』

 そして、一瞬の沈黙の後、

『五大、聞こえるか。私だ』

 持明院である。これには流石の五大も驚き、

「元締! おいでになっておられたのですか!」

『ああ、京都は安倍に任せた。極めて深刻な事態が予想されるから、私もそっちに行く事にしたのだ』

「了解致しました。ではお気を付けて」

『うむ』

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 ハワイに着陸した遠征班は、その、「意外としか言いようのない状況」に呆気に取られていた。

「ドウイウ事ナノ?……」

 オクタヘドロンのパイロット三人と共に市街地を調査していたメアリーはそう呟くのみだった。

 無理もない。細菌状の使徒イロウルの侵攻で通信網が破壊された後、人間も襲われたらしく、死体はあちこちに散在していたが、何と、生き残った人間も多数発見されたのである。

 しかしながら、生き残ったとは言え、それらの人々は悉く魂がなくなった抜け殻のようになっていて、「ただ、生きている」と言うだけだったのだ。

 その時、目の前のビルの地下から、マサキが階段を昇って来て、

「中尉、生存者がいました。同じ状況でっけど」

「わかったわ。救護班に連絡して、私達は引き続き調査を続けましょう。……で、イロウルらしき物は、相変わらず見つからない?」

「はい。なんでやわかりまへんけど、それらしき物はなんも見つかりません。この通信機に付いてる計器でもマーラのノイズも、使徒のエネルギーらしき物も検知されておりまへん」

 マサキは憮然とした表情で左手にはめた腕時計型通信機を差し出す。

「そう……。まあ、とにかく調査を続けましょう。エンタープライズもあれからなにも発見出来ていないようだしね……」

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 嘉手納基地発令室。

 通信員が振り向き、カジマに向かって、

「司令、近海偵察隊カラ連絡デス」

「繋ゲ」

『コチラ嘉手納810。現在ノトコロ、何モ発見サレテオリマセン』

「ソウカ……。トニカク引キ続キ偵察ヲ続ケロ」

『810了解』

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 ハワイ。

 何とも言えない顔つきのジョンが、

「……ウム、少ナクトモ現状ヲ見ル限リ、ハワイニハイロウルガ潜ンデイル様子ハナイナ……」

「ハイ。如何致シマショウカ……」

 隊員の言葉を受け、ジョンは、

「メアリー、ドウ思ウ?」

「予定通リ、私達ハ偵察隊Aチームト共ニアメリカ本土ニ向ケテ出発スベキデハナイカシラ。ココノ監視ト生存者ノ救護ハ偵察隊Bチームニ任セテ」

「ウム、ソレガ一番妥当ダロウナ。……ヨシ! 出発ノ準備ダ!!」

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 IBO本部長室。

トントン

「入りたまえ」

 五大の言葉に呼応して入って来たのはミサトと中之島である。

「失礼します」
「お邪魔するぞよ」

 五大は椅子から立ち上がり、中之島の所に行くと、ソファを指し、

「博士、どうも御足労様です。まあおかけ下さい」

 勧められるまま、中之島はソファに着いた。五大は向かい合った側に腰を下ろし、ミサトも会釈した後、五大の横に腰掛ける。

 五大は改めて中之島に一礼し、

「いきなり荷物の運搬などをお頼みして申し訳御座いませんでした」

 しかし、中之島は照れ笑いを浮かべ、

「ふぉっふぉっふぉっ、何の何の、お安い御用じゃ。時に、本題に移るがの、綾波君から事情は聞いて貰ったかの?」

「いえ、敢えて聞きませんでした。博士がお帰りになられてから直接伺った方が宜しかろうと考えましたのでね。それから、こう見えても私もオカルティストの端くれです。皆さんがわざわざ来て下さったと言う事は、ただならぬ理由がある筈だ、と」

 中之島は少しニヤリと笑い、

「ほう、そう来たか。その通りぢゃ。で、お主、どう解釈する?」

 五大は頷くと、

「ロボットでこちらに来られたのは、無論戦力の確保のためでしょうが、綾波からこちらの事情を聞いておられる事を考えますと、こちらの使徒撃滅作戦の応援に来て下さったとも解釈出来ます。しかし、私の推理では、どうもそれだけではなかろう、と」

「ふむふむ。それで?」

「そちらの世界でも使徒、もしくはマーラが出現し、その原因を探っている内に、たまたま綾波と渚が出現し、こちらの事情が判明した。そして、そちらの世界の事件の原因がこちらにある事がわかり、根源を断つためにおいでになった。……祇園寺を追って来られたのですね」

「ふぉっふぉっふぉっ。その通りぢゃよ。中々の透視ぢゃの」

「いえいえ、ちょっとした推理ですが、透視と推理は不可分ですからね。……しかしやはりそうでしたか。そちらの世界でも使徒が……」

と、表情を曇らせた五大に、中之島も真顔で、

「そうぢゃ。儂等の世界にも使徒が出おった。それもぢゃ、お主の指摘通り、こちらの世界が原因と思われるのぢゃ」

「碇ゲンドウと祇園寺が生み出した使徒の一部がそちらの世界に行ったと言う事ですね」

「それに間違いなかろう。しかしそれはこちらの世界だけの責任ではない。根本的な部分には祇園寺が関わっておる。その意味では儂等の世界にも責任があるからのう」

 ここでミサトが、

「博士、こちらの世界に出現した使徒は、マーラとしての性質を持っている、と私達は考えていますが、その点はいかがですか?」

 中之島は頷くと、

「その通りぢゃ。奴等は使徒と言いながら、霊的部分はマーラぢゃ。それを踏まえた上で戦わんと、何時まで経っても根源は断てん。今回たまたま儂等はこっちでゼルエルと戦ったが、その理論に基づいて攻撃したからこそ何とか殲滅出来たと考えられるのぢゃ。儂等の世界でもその辺りに関しては気付いておるからの。それで、向こうに残っておる戦力も、その考えに基づいて戦っておるのぢゃよ。

 しかし、使徒がこちらの世界から魔界の通路を通って儂等の世界にやって来ておると考えられる以上、こちらの世界と何とか連絡を取って協調行動を取り、根源を断たぬ限り、二つの宇宙は破滅してしまう。それでこちらに来たのぢゃよ」

 ミサトは驚き、

「えっ!?『二つの宇宙が破滅する』とは、どう言う事なんですか?」

 五大も顔色を変えている。中之島は続けて、

「儂等の計算では、祇園寺と碇ゲンドウの最終目的は、『ビッグバン』ぢゃ」

「ビッグバン!!??」
「ビッグバン!!??」

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 本部内の仮眠室の一つを自室として割り当てられた各チルドレンとオクタヘドロンの各パイロット達は、何とも言えない気持のまま待機していた。

 意識不明のアスカの容態を案じたまま待機を命じられているシンジは、部屋のベッドに腰掛け、やや俯き加減の姿勢のまま手を組み、無言で祈り続けている。

(……神様、僕に力をください……)

 無論、詳しい事情は判らない。しかし、何とも言えない、「嫌な予感」としか言いようのない、ただならぬ感覚がシンジの心を捉えて離さなかった。何かが起こりつつある。シンジはそう確信していた。

(……このままでは大変なことになります。僕に力をください……)

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 レイはベッドの上に端座し、手をゆかりから教わった叉手に組んで、ひたすら心でマントラを追い続けている。

………)

 瞑目してマントラを追う彼女の心には、最早一切の雑念はなかった。いや、正確に言うと、一切の雑念に囚われなくなっていたと言うべきであろう。

………)

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 中之島から説明を受け、真っ青になったミサトは、

「博士、もし、もしその推定が正しかったとしたら、二つの宇宙は……」

 五大も声を震わせ、

「なんと言う事だ……。そこまでは考えていなかった……」

 中之島は真顔で、

「そうなのぢゃ。絶対にそれは阻止せねばならん。そのために儂等は来たのぢゃよ」

 五大も力強く頷き、

「わかりました。何としてでもやりましょう。いえ、やらねばなりません」

 その時、

トゥル トゥル トゥル

 すかさず五大が立ち上がり、デスクの電話を取る。

「五大だ」

『田沢です。JAが帰って来ました』

「わかった。すぐに会議だ。関係者全員を会議室に集合させろ」

『了解しました』

 五大は、電話を切ると、

「JAが戻りました。行きましょう」

「うむ」
「はい」

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 IBO本部臨時会議室に関係者全員を集めての会議が始まった。無論、シンジ達エヴァパイロット全員も、オクタヘドロンのパイロット達も、時田達JAの関係者も出席している。

 五大が全員を見渡し、立ち上がる。

「さて、関係者には全員集まって貰った。別次元の世界から中之島博士を始めとする六人の方々にもおいで戴いた事だから、情報を整理して今後の方針を決める会議を行う。

 最初に言っておこう。私が既に掴んでいる情報で、今まではその時期ではないと考えて公表を控えていた部分も、実はあったのだ。まずその点を詫びる。しかし今は最早隠している時ではない。すべての情報を明らかにする事を約束する。

 ではまず中之島博士にお願い致します。この世界に来て下さった理由を改めて全員の前で御説明下さい」

 中之島はゆっくりと立ち上がった。

「うむ、ではそこから纏めるとしようかの。まず、儂等がここに来るに至った経過から説明しよう。事の起こりはぢゃ、………」

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'夜明け -Short Version- ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)

二つの光 第十話・共鳴
二つの光 第十二話・伏流
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