第四部・二つの光
「クソっ!! こんな所で使徒のおでましかっ!!」
サトシが思わず吐き捨てる。流石の中之島も顔色を変え、
「ゼルエルは北西から高速で接近中ぢゃ! まずい! 第3から京都へ戦自のヘリ部隊が向かっておる! あいつを足止めせんとこのままではやられるぞ!」
「でも! 荷物を持ったまま戦闘は出来ませんよ!」
サトシが真顔で叫んだ時、大作からの通信が飛び込んで来た。
『沢田! このタンクを持って京都へ行け!! 僕は使徒を足止めする!』
「草野! しかしそれじゃ!」
『ごちゃごちゃ言うな! 時間がない! 早く受け取れ!!』
「沢田君! やむを得ん! そうするのぢゃ!!」
「は、はいっ!!」
中之島の言葉にサトシは操縦桿を握り直した。
+ + + + +
第十話・共鳴
+ + + + +
『渡すぞ!! 受け取れ!!』
「了解!!」
ヴァーユはアカシャに接近し、片手で燃料タンクをぶら下げて差し出す。
「よし! 受け取ったぞ! 後は頼む!!」
『任せとけ!! コースを北西の目標に向けてセット!! 離脱!!』
大作の叫びに呼応してヴァーユはコースを変え、北西に向けて速度を上げた。
「沢田君! 急げ! 早く届けるのぢゃ!!」
「了解!! 最終着陸態勢に入れ!!」
アカシャは徐々に高度を下げて京都に向かった。中之島は手早く無線機の周波数を短波にセットし、
「こちら中之島ぢゃ!! IBO本部応答せいっ!!」
+ + + + +
「はい。こちらIBO本部伊吹です。感度良好です」
『こっちのレーダーが使徒の姿を捉えた!!』
「えっ!! 使徒を!?」
『使徒は敦賀湾北西沖上空を南西に向けて飛行中ぢゃ!! オクタ1機が足止めに向かっておる! そっちも迎撃準備をしておけ!! 場合によってはオクタを出しても構わん! 指揮は葛城君に任せる!』
「了解!!」
+ + + + +
「クソっ!! 使徒が来たか!」
京都財団本部前でオクタヘドロンの到着を待っていた加持は、携帯用無線機に飛び込んで来た声に顔色を変えた。
+ + + + +
『こちら応援班の戦自310。京都の308応答せよ』
「こちら308です。感度良好。現在309と共に生存者の捜索中」
『現在豊田市付近を飛行中だが、敦賀湾北西に使徒が出現したとの無線を傍受した。安全を確認しつつそちらに向かう』
「了解。こちらも傍受しました。京都は今の所大丈夫です」
『了解した。充分に注意し、状況の変化があればすぐに連絡を頼む』
「了解」
+ + + + +
「来た! 使徒だ!!」
北西に向かって飛行するヴァーユのスクリーンに映るのは確かに使徒ゼルエルの姿である。大作は改めて操縦桿を握り直し、
「こちらヴァーユの草野!! アカシャ応答せよ!!」
+ + + + +
「こちらアカシャの沢田だ! 感度良好!」
『間もなく日本海上空で使徒と遭遇する! 牽制行動を取るが、場合によっては攻撃する!』
「了解! こっちも荷物を置いたらすぐに行く!」
サトシに続いて中之島も、
「草野君!! 今後無線は短波とスピン波を併用せい!! それから、結果が予測出来んから、儂等が行くまでの間は、可能ならギリギリまでサイコバルカンは使うな!! エネルギーは極力サイコバリヤーに回すのぢゃぞ!!」
『了解!! マントラレーザーは構いませんか!?』
「マントラレーザーなら問題なかろう!」
『了解しました!!』
「こちら中之島ぢゃ!! 京都応答せい!!」
+ + + + +
『こちらオクタヘドロンの中之島ぢゃ!! 京都聞こえるか!?』
「こちら京都の加持です! 聞こえますか!」
『おお! 聞こえるぞ!! 電波の発信位置を確認した! そこを目標にして着陸する!』
「了解!!」
その時、加持の無線機にもヴァーユからの電波が飛び込んで来た。
『こちらヴァーユ! 敦賀湾沖上空で使徒と遭遇!! 牽制行動に入る!!』
+ + + + +
「着陸!!」
サトシの叫びに呼応してアカシャはゆっくりと京都財団本部前に向かって降下し、着地した。
「荷物を降ろせ!!」
サトシの叫びに、アカシャは両手の荷物を地面にそっと降ろす。
「カプセル分離!! 着陸!!」
+ + + + +
敦賀湾上空ではゼルエルとヴァーユがドッグファイトを演じていた。
「グワアアアアアアアアッ!!!」
ブシュウウウウウッ!!
ヒュウウウッ!!
まるでテレポートのような瞬間的な移動を見せるヴァーユに対し、ゼルエルはビームを放つが命中しない。大作は余裕を持って牽制を続けていた。
「回避継続!! レーザー発射!!」
ブシュウウウウッ!!
時折発射されるマントラレーザーがATフィールドを潜り抜けてピンポイントながらもゼルエルに命中する。
「グエエエエエエッ!!」
ブオオオッ!!
それを明らかに嫌がり、雄叫びを上げながら、ゼルエルは腕を伸ばしてヴァーユに襲い掛かる。
「おっと!! そうは行かんぜ!!」
リボンのように伸びた腕を寸前で躱しながら、ヴァーユはゼルエルの周囲を飛び回る。
+ + + + +
京都財団本部前に着地した操縦カプセルから飛び降りたサトシと中之島の眼に真っ先に飛び込んで来たのは、真剣な表情の加持の姿だった。
「博士!! 沢田君!!」
「おお! 加持君!」
「加持さん!」
「博士! 敦賀湾上空の使徒は!?」
「今オクタが1機、牽制をやっておる! 戦自の応援部隊を守るためぢゃ! 儂等もすぐに敦賀湾に行く!」
「わかりました!! 私達もすぐにJAで第3に戻ります! お気を付けて!!」
「燃料タンクとユニットは確かに渡した! 後は頼む! 沢田君! 行くぞ!」
「はいっ!!」
+ + + + +
IBO本部中央制御室にも張り詰めた空気が流れていた。多くのスタッフが慌しく動き回る中、五大の怒鳴り声が響き渡る。
「葛城君!! エヴァ出撃の準備はどうなっている!?」
「パイロット全員、ケージで待機中です! オクタヘドロンのパイロット三人には状況を説明した上で自室で待機してもらっています!」
「わかった! 伊吹君! 短波通信は漏らさずモニタしろ!」
「了解!」
+ + + + +
ヒュウウウウウウッ!!!
京都を飛び立ったアカシャは速度を上げて敦賀湾に向かう。
「沢田君!! 全速で飛べ!!」
「了解!!」
+ + + + +
燃料タンクとユニットを引き渡した後、加持達は持明院と共に第3新東京に戻るべくJAに乗り込んだ。
「安倍理事長! では行きます!」
『お気を付けて!』
加持は無線機のマイクを置くと時田の方を振り返り、
「時田さん、お願いします!」
「了解! 発進だ!!」
「発進します!」
操縦員の言葉と共に、JAは国道1号線に向かって走り出した。
+ + + + +
「グワアアアアアアアアッ!!!」
ブシュウウウウウッ!!
ヒュウウウッ!!
「クソっ!! きりがないっ!!」
ゼルエルの牽制を続けていた大作にも流石に焦りの表情が現われ始めていた。
(どうする! 思い切ってサイコバルカンを撃ち込んでみるか!)
一瞬考え込んだ大作に隙が生じ、
バシュウウッ!! ………バシイイイッ!!
「しまった!!」
ゼルエルが伸ばした腕がサイコバリヤーごとヴァーユに巻き付いた。驚くべき事に、ゼルエルは信じ難い力でバリヤーを引き絞り、ヴァーユの体をしっかりと捉える。
ギュウウウウッ!!
「バリヤー全開!! ああっ!!」
大作は慌てた。ゼルエルの眼が鈍く光っている。
ブシュウウウウウッ!!!!!
「わあっ!」
スクリーンが激しく光り、大作は思わず眼を閉じた。
「グワアアアアアアアアッ!!!」
「えっ!!??」
シュルルルルッ!!
「グワアッ!! グワアアアッ!!」
大作は驚いた。てっきり自分に向けてビームが発射されたと思ったのだが、ゼルエルは腕を解いて悶えているではないか。
『草野!! 大丈夫か!!??』
「沢田!!」
スクリーンにアカシャの姿が飛び込んで来た。
+ + + + +
「危ない所ぢゃった! 連続してレーザーぢゃ!!」
中之島の言葉に呼応してサトシが叫ぶ。
「了解!! レーザー発射!!」
ブシュウウウウウッ!!!!!
「グワアアアアアアアアッ!!!」
素早く飛び回るアカシャの眼から発せられたマントラレーザーがATフィールドを潜り抜けてゼルエルの皮膚を焼く。それを嫌がり、悶えるゼルエル。
+ + + + +
大作は態勢を立て直し、マントラレーザーを発射しつつ叫んだ。
「博士! こいつにはマントラレーザーは余り効果がありません! サイコバルカンを使わせて下さい!」
+ + + + +
「しかし、この世界ではサイコバルカンを撃ったら何が起こるか判らんぞ! 少し待て! 今計算する!」
中之島は素早くオモイカネⅡのキーを叩いた。しかし、
”予測不能”
「クソっ!!『予測不能』と来おったか!!」
『どうするんです!?』
中之島は改めてスクリーンを見た。確かにマントラレーザーはATフィールドを潜り抜けてはいるものの、致命的な効果は上げていないようだ。このまま牽制を続けていてもラチは開きそうにない。
「よし! 判った! 草野君! 儂の合図でフルパワーで奴のコアにバルカンを撃て!」
『了解!!』
「沢田君はその直後にレーザーぢゃ!! こっちもフルパワーぢゃぞ!!」
「了解!!」
回避行動とレーザー攻撃を続けつつサトシも叫んだ。
+ + + + +
「サイコバルカン発射準備!!」
大作が叫ぶとヴァーユは右腕を伸ばし、手刀を作った。そして、左手で右手首を握って構える。
+ + + + +
じっとスクリーンを見詰めていた中之島が、
「今ぢゃ!! 撃て!!」
+ + + + +
「発射!!」
パスウウウッ!!!
ヴァーユのサイコバリヤーが右手に収束し、一瞬光ったと思う間もなく、ゼルエルのコアが破裂し、背中まで突き抜けた。
+ + + + +
「レーザー全開!!」
ブシュウウウウウウウウウウウッ!!!
「ガリガリガリガリガリッ!!!!」
『ガリガリガリガリガリッ!!!!』
「うわあっ!!」
「うおおっ!!」
『わああっ!!』
2機の無線機に突如強烈なノイズが入り、三人は思わず叫んだ。
+ + + + +
「グワアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
この世の物とも思えない断末魔の悲鳴を上げ、ゼルエルはゆっくりと海に落ちて行く。
+ + + + +
「あああっ!! あれはっ!?」
サトシは眼を見張った。信じ難い事に、ゆっくりと落下するゼルエルの姿が徐々に薄れて行くではないか。
「消えるぞ!! 逃げるのか!?」
+ + + + +
「逃がすか!! 光線剣!!」
大作は叫び、光線剣を伸ばすと同時に急降下し、ゼルエルの頭部を貫いた。
バスウウウッ!!
「ええっ!!?」
またもや大作は叫んだ。驚いた事に、ヴァーユの右腕がそのままゼルエルの頭部にあっさりとめり込んでしまったではないか。しかしゼルエルはピクリともせず、そのまま消えてしまった。
「消えた………」
+ + + + +
サトシは思わず中之島を見て、
「博士!! どう言う事なんですかっ!?」
「待て。今計算中ぢゃ」
無限とも思える数秒が経過した後、中之島は、
「どうやらゼルエルは消滅したようぢゃな……」
「消滅?!」
+ + + + +
こちらは駒ケ岳山中。車の後部座席でのんびり構えていたアダムが突如体を起こし、
「!!!! ゼルエル!!!」
その声に、ゲンドウが顔色を変えて振り返る。
「どうしたアダム!?」
「ゼルエルが、………死んだ……」
「なんだと!!??」
「なにっ!!??」
呆気に取られたように呟くアダムの言葉にゲンドウと祇園寺は驚きを隠せなかった。その時、リリスが無表情のまま口を開き、
「……今、『向こうの世界』のゼルエルが悲しみの叫び声を上げました……」
「!!!!」
「!!!!」
「!!!!」
「!!!!」
四人は思わずリリスを見た。
+ + + + +
「やったか!!」
短波無線をモニタしていたIBO本部中央制御室では五大が歓声を上げた。
『こちら中之島ぢゃ! IBO本部応答せい!』
「こちら伊吹です! 感度良好!」
『オモイカネⅡの計算では、ゼルエルは消滅したようぢゃ! これからそっちに戻る!』
「五大です! さっき一瞬強いマーラのノイズが入りましたが、あれはゼルエルのものですか!?」
『そのようぢゃ! こっちの計算では、「断末魔の悲鳴」と思われる! 戻ってから詳しく説明する!』
「了解しました! お気を付けて!」
『了解ぢゃ!』
『こちら加持! 今の通信を傍受しました! こちらも後2時間強でそちらに到着の予定!』
「五大だ! 了解した! ………葛城君。戦闘態勢を解除、警戒態勢だ。エヴァパイロット全員は自室にて待機」
「了解しました!」
+ + + + +
+ + + + +
地球軌道の周回を続けているエンタープライズは、丁度日本上空に差し掛かっていた。オペレータと共にモニタに向かっている由美子が呟く。
「そろそろ偵察隊がハワイに到着する時刻ね………」
「おー、ミセス山之内、どーしましたー?」
後から聞こえたライカーの言葉に、由美子は苦笑しつつ振り返り、
「いえ、そろそろ偵察隊がハワイに到着する頃だな、と思いまして。……でも艦長、どう言う事なんでしょう? 地球軌道に戻ってから監視を続けていますが、なぜ使徒が見つからないんでしょうか……」
「私も不思議でーす。普通なら、あれだけ大きな物体は、この艦のカメラで絶対に見つかる筈ねー。どこかに隠れているのでしょーか………」
「JRLでも分析しているとは思いますから聞いてみましょうか?」
「そーですねー。そうしてみましょー」
と、その時、
トウルルル
「あ、JRLからだわ。いいタイミングね。……はい、山之内です」
『松下だ。そっちはどうだ?』
「変化ありません。使徒が見つからないのはどう思われます?」
『それがこっちでもよくわからんのだ。オモイカネの分析でも確たる結論は出ておらん。我々が監視している事を知って隠れているのか、とさえ思えるね……』
「しかし、そんな事が……」
『とにかく監視を続けてくれ。そろそろ偵察隊もハワイに到着する頃だしな』
「了解しました」
その時だった。
ビィィーーーッ!!
突如鳴った警報に、由美子は慌ててモニタを覗き込み、
「これは!?」
「ミセス山之内! 何ですかー?」
ライカーも思わずモニタを覗き込んだ。
「沖縄付近の太平洋に高エネルギー反応! 使徒なの!?」
由美子は顔色を変えた。
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'たとえ、君を抱いても ' composed by QUINCY (QUINCY@po.icn.ne.jp)
二つの光 第九話・因縁
二つの光 第十一話・蠢き
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