第四部・二つの光
「大変な事ぢゃ!! もしこの分析が正しければ、『人類補完計画』等と言う生易しい物ではない!! 二つの宇宙が融合してビッグバンを起こすぞ!!」
中之島の言葉にカジマとライカーが思わず叫ぶ。
「まさか!!!」
「オー、ノーッ!!!」
八人のパイロットも、レイもカヲルも、由美子も松下も、蒼白な顔で絶句するだけだった。
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第五話・償い
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凄い勢いで立ち上がったカジマは、
「博士!! とにかくなんとしてでもその事態に至る事は阻止せねばなりません!! こちらの使徒を全て殲滅すれば、次元の壁に穴が開く事は防げるのですか!?」
中之島も強い口調で、
「確かに、こちらの使徒を全て倒せば、次元の壁に穴が開く事だけはギリギリ防げるかも知れん! しかしぢゃ! 月の裏側にある『次元の通路』がレリエルの『ディラックの海』の応用ぢゃとすれば、向こうの世界の使徒も全て倒し、『通路』を塞がん限り、また向こうの世界から使徒が来て同じ事を繰り返すだけぢゃ! 例えこちらの使徒を全部倒しても、『通路』を通ってマーラと化した使徒が次々と来よったら、こちらではもうどうしようもなくなるぞ!」
「ですが博士! 使徒をまた作らない限りは、こちらに送り込む事など出来ないのでは!?」
「アダムとリリスがおって、祇園寺と碇ゲンドウが使徒を操っている限りは、同じ種類の使徒なら幾らでも作りよるぞ!! それだけではない!! 今回の使徒は生殖能力を持っておる!! もし単為生殖の能力に目覚めよったら、使徒は幾らでも増えよるぞ! しかもぢゃ! 単為生殖と言うのは相手がおらんからやむなく行うだけで、それをやったからと言って性欲が消える訳ではないのぢゃ!! いや、ますます性欲を煽る危険性さえあるぞ!!」
「!!!!!!!」
カジマが絶句する。ここで由美子も立ち上がり、
「そう言えば!! イスラフェルは元々2体に分離出来ますよ!!」
松下も、
「それだけじゃないぞ!! 既にイロウルは自己増殖しているじゃないか!! バルディエルだって粘菌みたいな奴だから、簡単に分裂出来る筈だ!!」
中之島は更に声を荒げ、
「つまりぢゃ! 大型使徒が自己増殖に目覚める前にどうしても倒さねばならんのぢゃ!! それも、向こうとこちらで同時に叩く必要があるのぢゃ!!」
悲壮な顔のカジマが、
「ですが! どうやって向こうの世界の使徒を!!?」
「知れた事よ! こっちから攻撃班を送り込んで向こうの世界と協調して戦う以外なかろうが!!」
「無茶な!!! どうやって行くのです!!?」
「月の裏側にある『次元の通路』を利用するしかなかろう! さっき説明したマントラの使い方を整理し、あれを逆用してオクタとエヴァ零号機を送り込むのぢゃ!!」
中之島の言葉に、カジマは、
「博士! 待って下さい! 仮に向こうの世界に行けたとして、エヴァ零号機を送り返す事は当然としても、オクタヘドロンに関しては1機でも送り込んだら、こちらの戦力はそれだけダウンします! 司令官としては、はい、そうですか、とは言えませんぞ!!」
「司令のお立場としては確かにそうぢゃろう! しかし、全体として考えてみたらどうぢゃ! 向こうの世界には大型使徒が8体、量産型エヴァは、確か9機ぢゃったな? 綾波君」
「えっ?」
いきなり振られたレイは、一瞬驚いたが、すぐに、
「は、はい、そうです」
中之島は頷くと、
「一応、使徒とエヴァとオクタの戦力を全て互角と考えよう。JAもおるが、相手がマーラであると言う事を考慮すると、オカルティズムに関するJAの能力は未知数ぢゃから、計算からは一応除外して、戦力的には『プラスアルファ』と考えておくべきぢゃ。
それで、我々の推定が正しいとして、量産型エヴァにバルディエルが取り付いた場合、向こうの世界の敵は17ぢゃ。それに対して使えるエヴァは、復活した参号機とここにある零号機を含めて4機。こちらの世界では大型使徒が8体に対し、オクタは旧型を含めて11機。総合すると、敵は25、こちらは15ぢゃ。
しかし幸いにして、こちらの世界に来た使徒そのものは協調行動を執っておらないようぢゃから、こちらでは1体ずつ叩くなら、当方は新型3機、旧型を含めて6機あれば充分に戦える筈ぢゃ。向こうの世界では、量産型は協調行動を執ると考えられるから当方も9機は必要ぢゃろう。つまりオクタを5機送り込むのぢゃ。もし向こうの世界で使徒が協調行動を執ったら、これでも少ないぐらいぢゃぞ。
イロウルとこっちの世界のバルディエルに関しては、オクタでは対応出来ん。個別に攻撃法を考えるしかないが、マントラレーザーとサイコバリヤーを使えば人間でも充分戦える筈ぢゃ」
「ううむ…………」
唸るカジマに、中之島は頭を下げ、
「司令、この通りぢゃ。決断してくれ。この事件は最早こちらの世界だけの問題ではないのぢゃ。確かに使徒を送り込んで来たのは向こうの世界ぢゃが、祇園寺が関わっている以上、こちらの世界の罪でもあるのぢゃぞ。我々はその罪を償うためにも向こうに力を貸すべきぢゃ。そして、向こうとこちらで協力して同時に敵を叩くのぢゃ。そうしない限り、我々、いや、二つの世界には未来はないのぢゃぞ!!」
「確かに……。しかし……」
その時、突然松下が立ち上がり、
「そうだ!! 思い出したぞ!! カジマ司令! 確かここにも反重力エンジンとレーザーを搭載した戦闘機はありましたな?!」
「ええ、ありますが。それが……」
訝しげな表情のカジマに向かって、興奮冷め遣らぬ顔の松下は、
「反重力フィールドにマーラのノイズパターンを同調させればサイコバリヤーが使えます! 更に、レーザーをマントラの波形で発振させれば、そのままマントラレーザーとなります!! オクタ並の強力な攻撃力と防御力を持った戦闘機が出来ますよ!!」
「なんですと!?」
松下の言葉にカジマは色めきたった。更に松下は、
「そうだ!! それだけじゃない!! 反重力フィールドをビーム化してマーラのノイズパターンを乗せてやれば、サイコバリヤー並みの物理的強度を持ったビームさえ作れるぞ!!」
それを聞き、中之島も、
「おおそうか! 『光速で飛ぶ劣化ウラン弾』を実現出来るのか!! ちょっと待て!! 計算する!!」
と、オモイカネⅡのキーボードを叩いた後、興奮した声で、
「おおっ!! 計算上ではラミエルのATフィールドさえ破れるぞ!!」
ここに来て、カジマも思わず、
「凄い!!!!」
興奮したライカーも、
「カジマ! 私はこの作戦に賛成しまーす! これならばオクタを5機送り込んでも充分戦えるねーっ!!」
ここで由美子が、
「待って下さい! 本部長、確かマーラのノイズをヤキシャの反重力フィールドに乗せた時は、不安定になって飛行出来なかったのでは?」
しかし、松下は、
「あの時は調整が不充分だった事もある。今回はどんな事をしても私が完全に調整してみせる!!」
一瞬の沈黙の後、カジマは確と頷き、
「わかりました!! やりましょう!! 即刻基地にある全ての反重力エンジンとレーザー砲の改造に取りかかりましょう!」
ライカーも大声で、
「もちろん、エンタープライズのビーム砲とエンジンもねーっ!!」
中之島が、大きく頷き、
「勿論ぢゃっ!!! 艦長! エンタープライズに戻ろう!! エンジンとビームの調整に取りかかるのぢゃ!! 儂は並行して『次元の通路』を通り抜ける方法を計算する!!」
ライカーが立ち上がり、
「オッケーねっ!! 行きましょうーっ!!」
中之島も、オモイカネⅡの蓋を閉めると、
「松下! ここにある8機のオクタの調整はお前に任す! エンタープライズに載っている3機は儂がやっておく!!」
「了解しました!!」
その時由美子が、
「博士! 待って下さい! 送り込む5機の選抜はどうします!?」
「おっ! そうか、それがあったわい。……よし、暫く待て! それも含めてオモイカネⅡに計算させておく!!」
「了解しました!」
由美子は改めて十人のパイロットに向かい、
「パイロット全員に指示します! まず、綾波さんと渚君は当面私達の指揮下に入ってちょうだい」
レイとカヲルは力強く、
「はいっ!」「了解しましたっ!」
由美子は頷くと、続けて、
「2名を含めたパイロット10名は全員スマートフォンを持って別命あるまで待機! 基地からの外出は禁止。基地内で行動を許可された場所のみの移動は許可するものとします! 以上!」
「はいっ!!」
「はいっ!!」
「了解!!」
「了解しましたっ!!」
「了解ですっ!!」
「了解!!」
「了解!!」
「了解致しましたっ!!」
「了解!!」
「了解!!」
十人が次々と応える。カジマは、
「では作戦会議を終了する。全員持ち場に行って作業を開始だ!」
全員が席から立ち上がった。
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'夜明け -Short Version- ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)
二つの光 第四話・怨み
二つの光 第六話・癒し
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