第四部・二つの光




「艦長!! あの4機をすぐに回収してくれっ!!」

 驚きと喜びが入り混じった中之島の叫びがブリッジにこだまする。

「オーライッ!! まっかせなさいっ!!」

「オクタ3機!!! 聞こえたら応答せいいっ!!」

 +  +  +  +  +

第四話・怨み

 +  +  +  +  +

『オクタ3機!! 応答せいっ!! オクタ3機!!』

 ゆかりは一瞬気が遠くなったが、すぐに我に返った。

「う……、!!! こちらヴァルナの綾小路!! 応答願いますっ!!」

『中之島ぢゃ!! 生きとったか!!』

「はい!! 全員無事ですっ!! 沢田さんっ!! 形代さんっ!!」

 +  +  +  +  +

 JRL本部中央制御室は大騒ぎになっていた。

「オクタ3機のパイロットの生命反応確認!!」

「うおおおおおおおっ!!」

 真由美の叫びに中央制御室のスタッフが歓声を上げる。

「よかった!! 本部長!! 生きてますっ!! ……ぐすっ……」

 今までずっと耐えていた由美子も流石に涙声になっている。

「沢田君!! 形代君!! 応答しろっ!!」

 松下も声を限りに叫んだ。

 +  +  +  +  +

 嘉手納基地発令室も大騒ぎになっていた。司令官のカジマと待機室から呼び戻された五人のパイロットは、4機が映るメインモニタを固唾を飲んで見守っている。

「司令!! 全員ノ生存ガ確認サレマシタ!!」

「オオ、ヨカッタ!!」

 通信員の言葉に思わず叫んだ後、カジマは五人の方を向き、

「全員生きていたぞ!!」

「うおおおおおおっ!!」
「うおおおおおおっ!!」
「わああああああっ!!」
「わああああああっ!!」
「うおおおおおおっ!!」

 五人は喜びの余り大声で叫んだ。

 +  +  +  +  +

『沢田さんっ!! 形代さんっ!!』
『沢田君!! 形代君!!』

「………う……、ああっ!! 戻ったんだ!! やったぞ!!」

 サトシも思わず叫んでいた。

 +  +  +  +  +

 アキコも気が付き、

「こちら形代!! 応答ねがいますっ!!」

 +  +  +  +  +

 零号機の中では次々と飛び込んで来る通信の音声でレイとカヲルが意識を取り戻していた。

「こちら綾波!! 応答ねがいます!!」

『レイ!! 気が付いたか!!』

「サトシくん!! こっちはだいじょうぶよっ!!」

『よかった!! これで一安心だな!!』

 +  +  +  +  +

「艦長!! 着艦準備完了デス!!」

 オペレータの言葉にライカーは頷き、

「こちらライカー!! ヘーイ!! オクタ3機!! 飛べますかーっ!? こっちは着艦準備オーケーねーっ!!」

『こちら綾小路!! 飛行可能です!!』

「では、エヴァンゲリオンを連れて帰艦しなさーいっ!!」

『了解!! 沢田さん! 形代さん! 行きますわよ!!』

『了解!!』
『了解!!』

 +  +  +  +  +

 アカシャの中で、サトシは改めて気を引き締め、

「形代!! 零号機の左に回ってくれ!! 僕は右からかかえるから!!」

『了解!!』

「綾小路さん!! 誘導願います!!」

『了解ですわ!!』

「レイ!! しっかりつかまってろ!!」

『了解!!』

 +  +  +  +  +

 アカシャとアグニが零号機の両側に回り、腕を抱きかかえる。そしてヴァルナが先頭に立ち、4機はエンタープライズめがけてゆっくりと動き始めた。

 +  +  +  +  +

 嘉手納基地発令室では、決断を下したカジマが、

「………よし! ……ライカー!! 応答してくれ!!」

『こちらライカー! 感度良好ねー!』

「4機の回収が終わったらすぐに沖縄に来てくれ! 作戦を立て直す!」

『了解ねー! すぐに行きましょー!!』

「頼んだぞ!! ……オペレータ! 京都ノJRL本部ニ繋ゲ!!」

「了解シマシタ!!」

 +  +  +  +  +

 JRL本部中央制御室。

「本部長!! 沖縄の嘉手納基地から緊急通信です!!」

 通信オペレータの中森由美が振り向きつつ叫ぶ。

「繋げ!!」

『こちらは国連軍使徒撃退特命本部、嘉手納支部長のカジマです!! 応答願います!!』

「こちらJRL本部長の松下です! 感度良好です!」

『ご存知のように、事は大変な事態に発展しました! エヴァンゲリオン零号機の件です! 大幅な作戦変更が必要と思われますので、何があってもすぐに対応出来るよう、すぐにそちらのオクタヘドロン3機をこちらに送って下さい!』

「了解しました! しかし、在日米軍総司令部との協議は必要ないのですか!?」

『私が全ての責任を持ちます!! 出来れば松下本部長にもおいで戴きたいのですが!』

「私も!? 了解致しました!」

『ではお待ち致しております!』

「由美子君、聞いた通りだ。私も沖縄に飛ぶ」

「了解しました。ここの指揮は如何致しましょう」

「山之内君と岩城理事長に任せよう。すぐに連絡してくれ」

「了解致しました!」

 +  +  +  +  +

 こちらはエンタープライズ格納庫。4機の回収が完了したため、中之島とライカーが駆け付けた。オクタ3機は壁際に立っているが、エヴァンゲリオン零号機は床にうつ伏せになっている。

「オクタ全機! パイロット全員カプセルを分離して降りなさーい! エヴァンゲリオン零号機も降りられるなら降りなさーい!」

ガチャッ!!
ガチャッ!!
ガチャッ!!

 ライカーがインカムに叫ぶと、それに呼応してオクタ3機のカプセルが次々と分離して床に着地する。ドアが開いて、サトシ、ゆかり、アキコの三人が飛び出し、中之島とライカーの所に駆け付けて来た。

「博士!!」
「なんとか帰って参りましたわ!」
「戻りました! ご心配おかけしました!」

「おお、みんなよく帰って来たのう!! しかし、エヴァ零号機とは、えらい事になったもんぢゃ。これは一体……」

 中之島の言葉を遮り、サトシが怒鳴る。

「すみません博士、ちょっと待って下さい! 艦長! 梯子をお願いします!」

「ハシゴ? おー、ラダーね!」

「はい、エヴァ零号機のエントリープラグは下まで降ろせないので、梯子が必要なんです!」

「オッケーね! ヘーイ!! サムバディ!! ラダー!!」

「アイサー!!」

 ライカーの命令で作業員が零号機の所に梯子を運ぶ。

「綾波君が乗っておるのか?」

「いえ、それだけじゃないんです! 実は……」

バシュウッ!!

 その時、零号機のエントリープラグが射出された。ハッチが開き、二人の人物が姿を現す。

「!!! おお、綾波君! ……んむっ!? あれは誰なんぢゃ!?」

「彼は渚カヲル君なんです!」

「何ぢゃと!!??」

「いやそれが、彼は使徒ではないんです! 詳しくは後で説明します!」

「判った!」

「ドクター中之島! とにかくすぐにオキナワに向かいましょーっ!!」

「そうぢゃな!! 頼むぞ艦長!!」

「まっかせなさーいっ!!」

 +  +  +  +  +

ゴオオオオオオオオオッ!!!
ゴオオオオオオオオオッ!!!
ゴオオオオオオオオオッ!!!

 京都を飛び立ったヤキシャ、ナーガ、キナラのオクタヘドロン3機は、マッハ3を超える速度で沖縄に向かっていた。ヤキシャの操縦カプセルには由美子と松下が乗っている。

「本部長、申し訳ありませんね。こんな狭い所に」

「なに、少しの辛抱だ。それに、今は万が一に備えてカプセルは分離しない方が安全だし、同じ所にいた方がいいからな。……しかし由美子君、君も中々操縦が上手いじゃないか」

「まあ、自動操縦ですからね。これぐらいなら」

「ははは、そうだったな」

 +  +  +  +  +

 エンタープライズ作戦室。

 レイの話に中之島は眼を剥き、

「何ぢゃと!!!! そっちの世界に祇園寺が?!!」

「そうです。わたしたちは祇園寺と碇前司令が作った使徒に飲み込まれてこちらに来たんです」

 中之島が、この上ない真顔でライカーに向かって、

「艦長、これは思ったよりも遥かに重大ぢゃ! とにかく詳しくは沖縄に行ってから纏めるとしてぢゃ、これは大幅な作戦変更を検討せねばならんぞ!!」

「そのようですねー! とにかくカデナとキョウトにも連絡しておきましょー!」

 ここでゆかりが、

「すみません。それなら、オクタ3機のボイスレコーダとオモイカネⅡの記録も同時に分析をお願いしますわ」

 中之島は頷き、

「そうぢゃな。とにかくすぐにリンクしてデータを吸い上げておこう。…おおそうぢゃ、綾小路君」

「はい」

「さっき儂のオモイカネⅡが、『アヴァラハカッ・スヴァーハ』と言うマントラを検出したのぢゃが、覚えはあるかの ?」

「はい、極めて重要な情報として認識致しております。そのマントラを唱えることで、私たちは脱出できました。もしよろしければ、データの解析に合わせて説明させて戴きますが」

「おおそうか。では一緒に解析を頼む。準備が出来次第呼ぶからそれまで待機しておいてくれ」

「承知いたしました」

「それと、綾波君、エヴァ零号機のコンピュータにもリンクさせて貰うぞよ」

「はい。よろしくおねがいします」

と、頷いたレイに、中之島は続けて、

「しかし、驚いたわい。そっちでも脳神経スキャンインタフェースや反重力エンジンが実用化されておったとはのう」

「はい、おかしな縁だとは思いますけど、おかげでエヴァを動かすこともできましたし、JAも復活してたすけてもらいました」

「まあ、脳神経スキャンインタフェースが繋がっておると言う事は儂等には有難い事ぢゃ。エヴァのコンピュータにも簡単に接続出来るからのう。ついでと言ってはなんぢゃが、念のためにインタフェースそのものも解析させて貰うが、構わんな?」

「はい、どうぞ」

「よし、では儂は解析の準備をする。綾小路君、後で宜しく頼むぞよ」

「承知いたしました」

 中之島は作戦室を出て行った。ここでアキコが、レイに向かって、

「それよりもさ、わたしは、『原初の光』、って言う本の事には、ほんと、びっくりしたよ……」

「ええ、わたしもその本を見た時はびっくりしたわ……」

 サトシもレイに、

「そうだよな。まさかこっちの世界の事を書いた本があったなんてなあ……。あ、それにさ、そっちの世界ではあれから4ヶ月ほどしか経ってないんだろ。こっちでは1年8ヶ月だぜ。これも驚いたよ……」

「ええ、わたしもびっくりしたわ。……でも、たしかにこうやって見ると、サトシくんも形代さんも顔が大人になったわね……」

 レイの言葉に、サトシとアキコは少し照れたように、

「えっ? そ、そうかな……」
「えっ? そうじゃろか……」

 レイは頷き、しみじみと、

「うん、そうよ……。わたしはまだ中学2年生なのに、みんな高校生になっちゃったのよね……。なんだかとりのこされたみたい……」

 ここで、ゆかりが笑って、

「まあまあ、綾波さん、それはそれぞれの世界の問題なんですから、そんな事をおっしゃらずに。それよりも、お二人とも大変だったでしょう。暖かいコーヒーでも如何ですか?」

「あ、ありがとうございます。いただきます」
「ありがとうございます。遠慮なくいただきます」

 慌てて頷いたレイとカオルに、ゆかりは再度微笑みかけた後、

「ではちょっとお待ち下さいね。今持って来ますから」

と、言って立ち上がった。

 +  +  +  +  +

 エンタープライズメインブリッジ。

「これはっ! そう言う事ぢゃったのか!」

と、驚いた中之島に、ゆかりが、

「はい、その通りです。私も驚きました」

「なるほどな。ジェネシス時代にみんなを訓練していた時は、大日如来と一体化するための方法としてマントラを訓練に取り入れていたので、導入のための『オーム』と定常維持のための『アヴァラハカッ』は意識しておったが、わざわざ終了させずとも訓練が終われば自然に終わったような形になるので、意識して『スヴァーハ』を付けてはおらなんだ。しかし、今回のようなケースでは明確に終了を宣言する必要があったのか。全くこれは意外ぢゃったわ。まさに『目からウロコ』ぢゃな。綾小路君、大発見ぢゃぞ!」

「ありがとうございます。ご評価戴いて光栄と存じます」

「それと、この際ぢゃから伝えておこう。定常維持のための『アヴァラハカッ』と法界定印の組み合わせは正しいのぢゃが、座禅の姿勢以外では法界定印は組みにくいじゃろう」

「はい、仰る通りですわ」

「そう言う場合は、法界定印の代わりに叉手を使え」

「叉手、と仰いますと、右手の親指を握り込んだ拳を作り、手の甲側から左手で包み込む組み方ですか?」

「そうじゃ、それで問題ない。コックピットの椅子に座っている時などは、絶対にその方が組み易い。引いては、心でマントラを追うのも集中し易い、と言う事ぢゃ」

「承知致しました。しっかりと覚えておきます。この情報は私から他のパイロットに伝えておいても構いませんね?」

「無論ぢゃ、頼んだぞよ。それとぢゃ、今回沢田君が最初に認識したマントラぢゃが」

「はい」

「あれはアカシャのオモイカネⅡが発したものぢゃ」

「えっ! そうだったのですか!?」

「うむ、つまりアカシャは、綾波君たちが『暗黒の次元』に取り込まれた事と、あの場所に出入口がある事を察知し、大日如来からの呼び声の『アヴァラハカッ』を中継するような形でマントラを発した、と考えられるのう」

「博士、それは一体…」

「うむ、この件については、このマントラの事も含めて会議で全員に詳しく説明するが、取り敢えずここで簡単に説明するとぢゃ、綾小路君もアカシャと言う名前で察する事ができるのではないかの?」

「はい、アカシャとは、空間の意味ですから…、あっ! 分かりましたわ!」

 中之島はニヤリと笑い、

「ご明察ぢゃ、アカシャは空間に関する能力を持っておる。だから綾波君を認識できたのぢゃよ」

 +  +  +  +  +

 嘉手納基地発令室。

 通信員が振り向き、カジマに、

「司令! エンタープライズカラデータガ送信サレテ来マシタ!」

「スグニ解析シテプリントアウトシロ!!」

「了解!!」

 +  +  +  +  +

 飛行中のオクタヘドロン3機。

 計器を見ながら、由美子が、

「もうすぐ到着です」

 その時、

トゥルルルルル

 松下が、後部座席のコンソールに目をやり、

「おっ、データ通信だ。…………!!! 由美子君! エヴァ零号機には綾波君の他に『渚カヲル』が乗っていたらしい!」

「えっ!?」

 +  +  +  +  +

 嘉手納基地発令室。

 モニタを見詰めたまま通信員が叫ぶ。

「京都カラオクタヘドロン3機ガ到着シマシタ! 着陸許可ヲ求メテオリマス!」

 カジマは頷き、

「許可スル! 搭乗員ハ着陸後スグニ作戦室ニ来ルヨウ指示セヨ!」

「了解!!」

 カジマは、マサキ達五人に向かって、

「君達、案内させるから先に作戦室に行って待っていてくれ。京都からの3機も到着したし、すぐにエンタープライズもこちらに来る。私もすぐに行く」

「了解しました!」

 マサキが力強く応えた。

 +  +  +  +  +

 程なくして沖縄に辿り着いたエンタープライズは嘉手納基地の西の海の上空に静止した。サトシ達はシャトルで基地まで行く事になり、全員が乗り込んだ後、ライカーが、

「全員準備オーケーね! では発進しまーす! エンゲージ!」

 操縦員が頷く。

「アイサー!」

 +  +  +  +  +

 嘉手納基地作戦室。

「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」

「バタンッ!!」

 振り向いた五人の目に飛び込んで来たのは由美子と松下の姿であった。

「JRL本部所属松下と山之内、到着しました!」

 マサキが立ち上がり、

「おっ、由美子さん! 本部長!」

 かつてない真顔の由美子が、

「マサキ君、事態は急変したわ。大幅な戦略の変更が必要ね」

「その通りでんな」

「とにかく、オクタ・チームのリーダー格は継続してあなたに命じます。後は全員揃ってからね」

 マサキは大きく頷き、

「了解しました」

 その時、

「待たせたのう!」

 入ってきた中之島の姿に、松下が勢い込んで、

「博士!」

「みんな来たぞ。ほれ、ここにデータ満載のオモイカネⅡも持って来た。ライカー艦長とカジマ司令はもう少ししたらお見えになる」

 そして、その直後だった。

「ご心配おかけしました」
「何とか帰って来ましたわ」
「すみません。ご心配をおかけしまして」

 サトシ、ゆかり、アキコ。そして、

「みなさん、おひさしぶりです」
「はじめまして、渚カヲルです」

 すぐに続いて、レイとカヲル。

 作戦室にいたオクタへドロンのパイロット五人も、由美子と松下も、見んな一様に表情を緩めたが、何故か誰も声を発しない。何と言えばいいのか、言葉を選んでいる。

 一時の沈黙の後、松下がゆっくりと口を開いた。

「みんなよく帰って来たな。無事で何よりだった」

 続いて、大作が、本当に安心した、と言う顔で、

「ゆかり姉さん、心配したよ……」

 しかし、ゆかりはにっこりと笑い、

「大作君、オタオタしてはいけませんわよ。今は何が起こっても不思議ではないのですから」

「そんな事言ったって……」

と、大作は苦笑したが、すかさずリョウコが、

「まあとにかくみんな無事でよかったわ。そうでしょ、草野さん」

「えっ? う、うん、そうだな……」

 納得したのかしていないのか、自分でも判らないような顔の大作を尻目に、タカシが、

「そうそう、終わりよければ全てよし、たい」

 サリナも笑って、

「そう言うことやね。ホンマ、安心したわ」

 由美子もゆっくりと頷きながら、

「なんにせよ無事でよかったわよ……」

と、言った後、レイに向かって、

「綾波さん、久し振りね。またお会い出来るとは思ってもいなかったわ」

 レイは深々と頭を下げ、

「おひさしぶりです。中畑主任」

 その言葉に苦笑しながら、由美子は、

「あ、そうか。私は今は結婚して山之内よ。それで立場はJRLの総務部長です」

 レイは少し驚いた様子で、

「えっ、そうなんですか。失礼しました」

「いえいえ。だから、由美子、って呼んでもらっていいわ」

と、微笑んだ後、今度はカヲルの方に向き直り、

「ところでそちらは渚カヲル君ね。私は山之内由美子です。オクタヘドロン・チームの責任者をやってます。あなたの事に関してはさっきデータを見たわ」

 カヲルも丁寧に一礼すると、

「はじめまして、渚カヲルです。……あの、失礼ですけど、やっぱり、葛城部長にそっくりでいらっしゃいますね……」

「うふふ、聞いてもらったと思うけど、私とミサトは『異次元の双子』だからね。……とにかく『向こうの世界』の事を詳しく聞く必要があるから、宜しく頼むわね」

「は、はい」

 その時、

「みんな待たせたな」
「待たせましたねー」
「待たせたのう」

と、入って来たのは、カジマとライカーと中之島である。すかさず既に作戦室にいた全員が席に着く。

 ライカーと共に、他のメンバーに向かい合うように最前列の席に着いたカジマは、

「では早速作戦会議を始める。この資料を回してくれ」

 +  +  +  +  +

 その頃、世界各地に出現した使徒は、無人の広野を行くが如く、ゆっくりと都市を破壊していた。散発的に行われる軍隊の攻撃などは最早無意味に等しく、人々は唯々物陰に身を潜めて息を殺すしかなかった。

 そんな中、大型使徒が出現していない上、住民が比較的冷静を保っていたためにまだ被害が少ない「ヨーロッパの片田舎の町」の病院に、一人の患者が担ぎ込まれた。

「ドウシタノダ!?」

 医師の問いに患者を連れて来た男が答える。

「突然苦シミ出シマシタ! 凄イ熱デス!!」

 患者を見ると、顔を真っ赤にして呻き声を上げている。医師が早速患者を診察台に載せて診察にかかろうとした、その時、

「ガハッ!!!」

 突然その患者は激しく血を吐き、動かなくなった。

「オイッ!! シッカリシロ!!」

 見ると、その患者は吐血しただけではなかった。鼻血も大量に出ているし、耳や爪の間からも出血している。更には毛穴にさえも血が滲んでいるではないか。

「!!!!!! コレハ!!!」

 医師は戦慄した。

(エボラ出血熱ノ症状ニ酷似シテイル!!!)

 +  +  +  +  +

 嘉手納基地作戦室では、「カオス・コスモス」の時の戦闘経験もあるカジマの判断により、「エヴァ零号機の出現」が最重要課題として扱われ、レイとカヲルに対する事情聴取をメインとして情報の分析が続けられていた。

 レイの話を聞いた由美子は、

「しかし、そんな事になっていたとは驚きねえ。それに、そっちの世界にも私達の世界の事を書いた小説があったなんて……」

 レイは頷き、

「はい。わたしもおどろきました。もちろん、わたしたちは出てきませんでしたし、最後の部分ではオクタヘドロンが最終決戦をやって勝った、となっていただけですけど……」

「まあ、こっちの世界にもあなた達の世界の事を描いたアニメがあったぐらいなんだから、ある意味においては当然なのかも知れないけどねえ………」

 ここで、中之島が、

「とにかく今までの情報を総合しよう。綾波君、つまり、そっちの世界に突然使徒が現れたが、それは、祇園寺と、実は死んでいなかった碇ゲンドウが仕組んだ物ぢゃった、と言う事ぢゃな。……目的は判らんのか?」

「はい、くわしい目的はわかりません。しかし冬月前副司令が聞いた話では、もう一度『人類補完計画』を実行するつもりだ、と」

 由美子が、やや首を傾げ、

「でも、それだけならこっちの世界にまで使徒を送り込んだ理由が判らないわ。もちろん、祇園寺が一枚噛んでいる以上、こっちの世界に対する復讐の意味もあるでしょうけどね」

 しかし、松下は、

「いや、むしろ、向こうの世界に関してもだ、『復讐』の意味が強いんじゃないか。『怨念』から生まれた『人間に対する憎悪』が、世界の破滅を目論むまでに至ったと考える方がストレートだぞ」

 中之島も、

「確かにそうぢゃ。祇園寺と碇ゲンドウが一心同体だとすれば、向こうにせよこっちにせよ、『人間に対する憎悪』からこんな事をやらかしたと考える方が遥かに妥当ぢゃわい」

 松下が、レイに向かって、

「それで、現れた使徒なんだが、サキエル、シャムシェル、ラミエル、イスラフェル、マトリエル、サハクィエル、イロウル、レリエル、ゼルエル。全部で9種だ。これはこちらも向こうも同じだな。元々は一つの物を分割して二つ作った、と言う事か」

「はい、わたしが聞いた話では、碇前司令がネルフ本部から持ち出した遺伝子のサンプルをもとにして作った、とか」

「しかし、どうやって作ったんだろう。遺伝子データだけではあんなものを簡単に作る事は出来ないと思うんだが……」

「!!」

と、レイは一瞬顔色を変えたが、すぐに真顔に戻り、

「……はい、冬月副司令が聞いた話では、アダムの胎児とリリスの卵に、渚くんとわたしの遺伝子を組み込んで人型にして……」

「なんだと!?」

 流石の松下も顔色を変える。作戦室に何とも言えない空気が漂う中、

「……それで……」

と、言葉を続けようとしたレイを制するように、カヲルが、

「待って、綾波さん。……後は僕が言うよ」

「えっ? は、はい……」

 驚いた様子のレイに軽く微笑みかけると、カヲルは正面に向き直り、

「そのアダムとリリスの精子と卵子を使って受精卵を作り、それに遺伝子のサンプルを組み込んで、使徒を作ったらしいんです……」

 この話には、流石の松下も眉を顰め、

「何と……、そうだったのか……。いや、綾波君、渚君、悪い事を聞いてしまったな……」

「いえ、そんな………」
「いいえ………」

 松下は続けて、

「その後、レリエルの『ディラックの海』を使って、『使徒の片割れ』をこっちに送り込んだんだな」

 由美子が頷き、

「その時、祇園寺の魔力と、マーラとしても覚醒していたアダムの魔力を使って、使徒をマーラとして仕立て上げた、と言う事ですね」

「そうだな。そう考えれば辻褄が合う。これで使徒に対して核兵器が最終的に効力を発揮しなかった理由もわかった。最初の内はノイズをあまり出していなかったからすっかり騙されてしまったが、連中は、『マーラとしての能力を持った使徒』ではなく、『使徒の姿を借りたマーラ』なんだ。マーラには『実体』がなく、使徒の姿を借りて実体化しているだけだから、核兵器が効く訳がない。最初に中性子爆弾が効いたように見えたのは『見せダマ』だったんだな。まんまと一杯食わされたもんだ」

「では、最終的にはマントラレーザーが効力を発揮すると?」

 やや明るさを増した由美子の言葉に、松下は、力強い言葉で、

「そうだ。それに今ではこっちもサイコバリヤーを使える。その方向で集中的に攻めれば勝てる可能性は充分にあるぞ」

 カジマの表情が一変する。

「それは凄い! 松下本部長、その方向で武器を改良しましょう!」

 松下は、大きく頷き、

「了解しました。任せて下さい。マントラレーザーが効力を上げれば、イロウルを退治する見通しも立ちます!」

「おー、ナイスですねー!」

 ライカーも、大げさに喜びを見せた。その時、中之島が、

「おおそうぢゃ。綾波君」

「はい」

「話は前後するがの、碇ゲンドウと祇園寺が使徒を作った時、どんな方法で遺伝子を組み込んだかに関しては聞いておらんか?」

「えっと、たしか……。あ、そうです。ウイルスを使った、と言うような話でした」

「ウイルスぢゃと!!?」

「はい、たしか、冬月前副司令がそんな話を聞いた、と言うことを、葛城部長がおっしゃってました」

 呆れ顔の中之島に向かって、松下も、呆れたような顔で、

「博士、正気の沙汰とは思えませんね。そんな事をやらかしたら不安定この上ない生体が出来ますよ」

「そうぢゃな。しかし、逆に言うと、敵が不安定であると言う事は、それだけ弱点も多い筈ぢゃ。こっちには都合がいいのではないかの」

「そうですな。しかし、祇園寺にしても碇ゲンドウにしても、その程度の事がわからなかったのですかねえ……」

「まあ、遺伝子を組み込む設備がなかったからやむを得んかったのかのう…………。お、そうぢゃ。今気付いたのぢゃが、出現した使徒の種類の件で妙な事が一つあるぞ」

「なんです?」

「当然ぢゃが、オモイカネⅡには『新世紀エヴァンゲリオン』のデータも入れてある。それと、向こうの世界では歴史が変わっておったと言う綾波君の話を纏めて考えると、この、『第拾九話・男の戰い』の時点で歴史が変わったと推定されるのぢゃ。そうしてみると、碇ゲンドウが遺伝子を持ち出して作る事が出来た使徒がこれだけだった、と言うのは納得出来る話なのぢゃが、もう一つ、バルディエルがおっても可笑しくはないかの」

 すかさずレイが、中之島に、

「バルディエル、と言いますと、参号機にとりついた使徒ですか?」

「そうぢゃ。君も零号機の腕をやられてえらい目にあったぢゃろう」

「あ! ……は、はい……」

「今バルディエルはこっちの世界ではまだ現れておらん。しかし、粘菌みたいな奴ぢゃから、どこでどう活動しているのか……。もしかしたら、イロウルと一緒になって動いているのかも知れんのう。……唯、こっちの世界では然程問題ではないぢゃろう。寧ろ、問題があるのは向こうの世界ぢゃよ」

「えっ!? それはどう言うことですか?」

「バルディエルはエヴァに取り付く使徒ぢゃ。ならば、いつ何時エヴァを乗っ取りに来るかも知れんのぢゃぞ」

「!! ……たしかにそうです。でも、わたしたちが乗っている4機には今のところなにも………、あっ!! もしかして!!」

 カヲルも勢い込み、

「そうだよ!! もしかして!!」

 由美子も、身を乗り出し、

「どうしたの?!」

「もしかして、量産型をうばうつもりなんじゃ……」

 レイの言葉に、中之島は顔色を変え、

「何ぢゃと!? 確かあいつらはS2機関を搭載しているのではないのか!! もし、量産型全機と使徒のS2機関が同時に暴走させられたとしたら………」

 松下も、

「博士!! ちょっと待って下さい!! こっちにも使徒はいるんですよ! おまけに連中の実体はマーラだし、もし『ディラックの海』が『魔界』に繋がっているとしたら、向こうの使徒とこっちの使徒は、実はリンクしていて……」

 由美子も、

「それだけじゃないわ!! 今気がついたんだけど、本来使徒は単体生物なんでしょう!『受精卵』なんかで作らなくても、アダムやリリスの髪の毛からでも作れるでしょうし、大体、それ以前に、わざわざアダムやリリスを人型にしなくても、胎児の細胞だけでも作れるはずじゃないですか! それを殊更に受精卵で作って、しかもそれぞれ2体にしたと言う事は、なにか変じゃありませんか!? もしかしたら、そこになにか『性的な意味』を持たせたんじゃ……」

「使徒に『性欲』を持たせた、と言うのか!!??」

 愕然とした松下に、由美子は、

「そうです! そうとしか考えられません!」

 ここで、中之島が、

「ではもし使徒が発情して相手を求めたとしてぢゃ、それが普通では絶対に出会えない異次元世界におったとしたら……」

「最後は性欲が爆発して暴走するんじゃないですか!!?」

 由美子の言葉に、松下は思わず立ち上がった。

「まさか!! ウイルスを使って不安定にしたのは、もしかしたら、わざと暴走しやすくするためなのか!?」

 中之島が慌ててオモイカネⅡの蓋を開き、スイッチを入れながら、

「もしその時に同時に量産型のS2機関が暴走したら!!! ちょっと待て! オモイカネⅡに分析させる!」

 無限のように感じられる数十秒が経過した後、中之島はかつてない表情で叫んだ。

「これは!!!!! オモイカネⅡの分析では、悪くすると『次元の壁』に穴が開くぞ!!」

 中之島の言葉に全員が顔色をなくした。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'夜明け -Short Version- ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)

二つの光 第三話・祈り
二つの光 第五話・償い
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