第三部・トップはオレだ!
サトシとアキコは、
「あ、それはうれしいです」
「わたしも見たいですけん」
ゆかりは、
「じゃ、そうしますわね♪」
と、言って、パソコンを操作したが、
「あ、すみません。このシナリオは全部見ると2時間以上かかりますが構いませんこと?」
サトシとアキコは壁の時計を見て、
「今17時40分か……、僕はいいんですけど、綾小路さんの方がご迷惑じゃないですか?」
「わたしもかまわんですけど、綾小路さんの方が……」
「いえいえ、私は一向に構いませんわ。ただ、お二人ともお食事がまだですわね。……そうですわ。少し早いですけど、もし宜しかったら今から出前を何か頼んで、みんなで戴きませんこと? 奢らせて戴きますわよ♪」
と、笑って言ったゆかりに、二人は、
「えっ? そんな、なんか申し訳ないですし……」
「そこまで言って戴いたら申し訳ないです……」
しかしゆかりは、
「いえいえ、御遠慮は無用ですわよ。私も賑やかに食事するのは好きですから。御迷惑でなかったら、ですけど♪」
と、言ったので、サトシとアキコも、
「いえいえ、そんな、迷惑だなんて……。どうもありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
「どうもありがとうございます。じゃ、おねがいします」
「じゃ、早速頼みましょう。何がいいでしょうね。……そうですわ。お寿司なんか如何ですか」
「はい、充分です。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「じゃ、早速頼みますわね♪」
ゆかりは立ち上がって電話の所に行った。
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第七話・空即是色
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戻って来たゆかりは、
「さて、じゃ、お寿司の出前も頼みましたし、見ましょうか。あ、そうですわ。折角ですからテレビに映しましょう」
と、言ってリモコンを操作した。リビングのテーブルの横に置かれたテレビに映像が現れる。
それを見たサトシとアキコは、
「あ、すごい。ある程度絵も動くし音も出る!」
「ちょっとしたアニメじゃねえ」
と、驚いた。その様子にゆかりは微笑み、
「ええ、中之島博士がコンピュータに作らせた映像と音声ですわ」
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「新世紀エヴァンゲリオン Another Case」
「第拾九話 シンジ、再び」
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(ケイジに格納されたエヴァ初号機の中でシンジが怒り狂っている)
シンジ「父さん!! なんとか言ってよ!! 父さん!! なんであんなことをしたんだ!! トウジを殺すつもりだったのか!!」
(発令室にゲンドウにあらん限りの罵声を浴びせるシンジの声が響く。しかしゲンドウはシンジのそんな叫びを一顧だにしない。余りの状況に、日向が思わず声を上げる)
日向「シンジ君!! 君の気持ちはわかるが、あのままでは君も殺されてたんだぞ!!」
シンジ『そんなこと関係ないっ!!』
日向「だがそれも事実なんだぞ!!」
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(エントリープラグ内でシンジが怒り狂う)
シンジ「うるさいっ!! 父さんはトウジを殺そうとしたんだ!! 殺そうとしたんだぞっ!!」
マヤ『シンジ君!! 聞いて! ああしなければみんな死んでたのよ!! おねがいだからおちついて話を聞いて!!』
シンジ「そんなこと関係ないっ!! くそっ!! こうなったらもうどうでもいいっ!! 初号機にのこっているエネルギーを使って本部を破壊してやるっ!!」
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(シンジの叫びに発令室のスタッフは青ざめる)
青葉「今の彼ならやりかねませんよ!!」
(しかしゲンドウは少しも騒がず)
ゲンドウ「ガキのタワゴトには付き合っておられん。……伊吹二尉、LCLに電流を流せ。死なん程度にだ」
(驚き、顔色を変えるマヤ)
マヤ「えっ!! でも!……」
ゲンドウ「命令だ」
マヤ「は、はい……」
シンジ『父さん!! なんとか言え!! なにも言わないんなら……』
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バチィィィィッ!!!!
(エントリープラグの中でシンジが悲鳴を上げる)
シンジ「うわあああああああっ!!!」
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(発令室のモニタにはエヴァ零号機と弐号機の修復作業が映っている)
ミサト「……それで、シンジ君は?」
リツコ「あの後、強制射出されたプラグのハッチをレーザーカッターで切断して外に出されたわ。病院で手当てを受けた後、今は独房よ」
ミサト「……そう……。今回ばかりは私もまいったわ……。これからどうしたら……」
リツコ「あなたは作戦部長でしょ。使徒の殲滅が最優先じゃないの」
ミサト「わかってるわよ。それは……」
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(病室のベッドに横たわるトウジ)
トウジ(……ワシ、生きとんのか……。あかん、また眠うなってきよった……)
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(手錠をはめられたまま独房に入れられているシンジ。膝を抱えて俯いている)
保安部員「碇シンジ君」
(はっとして顔を上げるシンジ)
保安部員「来たまえ。碇司令がお会いになるそうだ」
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(ネルフ司令室でゲンドウとシンジが対峙している)
ゲンドウ「エヴァの私的占有、稚拙な恫喝、これらは全て犯罪行為だ」
シンジ「……人を殺そうとしても犯罪にならない司令がうらやましいですね。……僕はもうエヴァには乗りません」
(シンジの精一杯の皮肉にもゲンドウは表情一つ変えようとしない)
ゲンドウ「……そうか、ならここから出て行け」
シンジ「はい」
ゲンドウ「お前には失望した。もう二度と会う事はあるまい」
シンジ「はい」
(退室するシンジ。ゲンドウが受話器を取り上げる)
ゲンドウ「……私だ。サードチルドレンは抹消、初号機のパイロットはレイをベーシックに、ダミーをバックアップに回せ………」
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(夕刻、ミサトのマンションで荷造りを終えたシンジ。自室のベッドに寝転がっている所に電話)
トゥルルル トゥルルル トゥルルル
ケンスケ『シンジか? また逃げ出すのかよ。見そこなったぞ。俺はお前にあこがれてたんだ。……ちくしょう、トウジでさえエヴァに乗れるってのに……』
シンジ「…………」
音声『この通話は盗聴の危険性がありますので接続を切断させて戴きます。御協力有り難う御座いました。……ツー・ツー・ツー……』
(シンジは受話器を放り投げる)
シンジ「…………」
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(翌朝、駅にて)
ミサト「わかってると思うけど、今後あなたの行動にはかなりの制限がつくから」
シンジ「はい」
ミサト「それから、本部までのパスコードとあなたの荷物はそのままにしておくわ」
シンジ「むだですよ。捨ててください。僕はもうエヴァには乗りません」
ミサト「……そう……」(ちゃんと自分の意思でしゃべってる。……こんなの初めてね)
シンジ「一つだけ教えてください。……なんで、トウジなんですか」
ミサト「あなたたちのクラスの全員は、フォースの候補だったの。つまり、全ては仕組まれていたのよ……。鈴原君の事故に関しては、いくら言葉で謝っても済む問題ではないわ。……でも、シンジ君、私達は、あなたたちに私たちの未来を託すしかなかったの。それだけは理解して欲しいのよ」
シンジ「勝手な言いぐさですよね」
ミサト「それはわかってるわ。……でも、他に方法はなかったの……」
シンジ「それだけですか。では僕は行きます」
ミサト「……元気でね」
シンジ「ミサトさんもお元気で。……お互い、生きていられたらですけど」
ミサト「!……」
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(プラットホームで電車を待つシンジ)
放送『本日午前9時10分、東海地方を中心とした関東中部全域に、特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は、直ちに所定のシェルターに避難して下さい。繰り返します。本日午前9時10分、…………』
シンジ「!!……、使徒!」
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「新世紀エヴァンゲリオン Another Case」
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ゆかりは次のファイルを再生すべく、リモコンに手を伸ばした。
「これで第拾九話の前半が終わりですわ」
サトシとアキコは、軽く頷き、
「……ここまではテレビの内容とほとんど同じですね」
「そうね。ほとんど同じじゃわ。……でも、碇くんの雰囲気がちょっとちがいますね。なんか、ちょっと皮肉屋っぽくなった、って言うか、一皮むけてる、って言うか」
「そうだよね。そのへんが博士のアレンジかな」
ゆかりは微笑み、
「そうですのよ。ですから、それがキーポイントなんですの。ここから後はがらっと変わりますわよ」
その時、
「ピンポーン」
「あ、お寿司の出前が来てくれたようですわね。ちょっとお待ちになってくださいね」
ゆかりが玄関の方に行った後、サトシは、ふと、今の映像を思い出しながら、
「…………」
(碇君……、レイ……、みんなどうしてるんだろ)
と、シンジやレイの事を思っていた。
やがて、ゆかりが戻って来て、
「さ、お寿司が来ましたわ。今お茶を入れますわね。続きを見ながら戴きましょう♪」
と、言いながらテーブルに寿司を置いた。
アキコが頭を下げ、
「どうもありがとうございます」
と、言った時、シンジやレイの事を思っていたサトシは、「今の現実」に引き戻され、少し慌ててしまった。
「……あ、ありがとうございます」
続く
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。
BGM:'IN THEME PARK ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)
トップはオレだ! 第六話・天衣無縫
トップはオレだ! 第八話・色即是空
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