第二部・夏のペンタグラム




 総務部室に帰って来てからも、ミサトの頭の中は「インタフェース」の事で一杯だった。

(「脳神経スキャンインタフェース」……、どう言うことなの。まさかとは思うけど……。どっちにしても、今日は早く帰って加持君と話し合わなきゃ……)

 ミサトは壁の時計を見た。もう17:10であり、定時は過ぎている。

トゥル トゥル トゥル

「はい、総務部葛城です」

『五大です』

「あ、本部長! ……は、はい、なんでしょうか?」

『すまない。さっき、せっかく来てくれたのに言い忘れていた。総務部のスタッフの件なのだが』

「あ、ウチの、いえ、総務部のですか」

『そうだ。総務部もまだきちんと態勢が整っていないまま、君にだけ負担をかけていた。今までは技術部の伊吹君、日向君、青葉君に応援を頼んでいたんだな』

「はい、そうです。彼等にはだいぶ助けてもらいました」

『彼等を部長代行に任命した以上、総務部の応援をさせる訳にもいかん。それでだ、総務部のスタッフに関しては、予算の範囲ならどのような人選でも構わないから、君の方でメンバーを揃えてくれたまえ』

「了解致しました。ありがとうございます」

『では、頼んだぞ』

 電話を切った後、ミサトは苦笑した。

(ふふ、本部長、案外そそっかしいわねえ。さっき言うのを忘れてたなんてさ。……ん? いや、まさかこれも……)

 五大にも案外そそかっしい所がある、と考えて少々安心していたミサトの脳裏に油然とある考えが浮かび上がって来た。

(あの時マヤちゃんがもらった仕様書をわたしが見ることは簡単に推測できる。なら、わたしがここに帰ってきたあと、言い忘れていた、と言うことにして電話をかけてくれば、わたしの口調から、仕様書を見たあとのわたしの反応を知ることができる……。

 ……マヤちゃんたち三人にしても、徹底的に問題点を指摘されたあと、一転して責任者に任命された……。考えてみたら、元々もしあの中の誰か一人を部長に任命したら角が立つけど、あの形なら、三人にも満足を与えられて丸くおさまるし、その上技術部を手の内に入れられる……。つまり、指摘もさることながら、ほんとの目的は人心掌握なんじゃ……)

 ミサトは反射的に受話器に手を伸ばしていた。

「……もしもし、加持君、わたしだけど、今晩会えるかな……」

 +  +  +  +  +

第十五話・諸法無我

 +  +  +  +  +

 レイのアパート。

トゥルルル トゥルルル トゥルルル

「はい、綾波です」

『レイ? 葛城です』

「あ、こんばんわ」

『今、外からなんだけど……』

 +  +  +  +  +

 さてこちらはミサトのマンション。シンジとアスカは夕食の支度中である。

「アスカ、キャベツ取ってよ」

「はい♪ ……あ、いけない。キャベツはいいんだけど、ドレッシングが切れてるわ」

「あ、ごめん、わすれてた。……今からちょっとコンビニに行って来るよ」

「じゃ、あたし、そのあいだにキャベツ切っとくわ。……それから、わるいけど切りおわったら、シンジが行ってくれてるあいだにシャワーあびててもいいかな?」

「うん、いいよ。ゆっくり入っててよ」

「サンキュー♪」

 その時玄関の方でドアの閉まる音がした。

「あれっ? ミサトさん?」

 シンジがそう言い終わるか否かの内にミサトが入って来た。

「ただいまー。急でもうしわけないけど、今晩も19時半に集まるわ。お風呂、順番にすませてよ。ばんごはんもさっさとね」

「はい。……あの、僕、かいものがありますからちょっとでてきますけど、すぐ帰ってきますから」

「わかった。アスカもお願いね」

「オッケー♪」

 +  +  +  +  +

「じゃミサト、ばんごはんの準備おわったから、あたし、シャワーあびるね」

「オッケー。シンちゃんももうすぐ帰ってくるでしょうしね」

 アスカはタオルと着替えを持って風呂場に向かった。

 その時、

トゥルルル トゥルルル トゥルルル

「はい、葛城です」

『こんばんは、渚です』

「あら渚君、こんばんわ」

『碇君、いらっしゃいますか?』

「あらごめんねえ。シンちゃんは今ちょーっちお買い物に出てるのよ。すぐに帰ってくるけどさ♪」

『そうですか。……じゃ、惣流さんは?』

「ごめんね♪ アスカは今お風呂なのよ」

『そうですか。……じゃ、僕もすぐに出かけますので、ちょっとおつたえ願えますか』

「いいわよ♪ なに?」

『この前、……今月の7日の月曜日だったと思うんですけど、僕のことで、碇君と惣流さんと綾波さんの三人に相談に乗ってもらったんです。おかげで、それからうまく行くようになりまして、ちょっとお礼を、と思いまして』

「へえー、そんなことあったの? 初耳だわ」

『はい、部長はご存知だと思いますが、僕、ドイツでは男子校にいたでしょ』

「うんうん」

『そのせいもあってか、どうも女の子とうまく話ができなかったんです。それで、なんとなく気が合いそうな碇君にばかり話しかけてたんですけど、こんなことじゃいけないかな、って思って、思い切ってみんなに相談したんです。

「へえー」

『そしたら、学校の帰りに、みんなで一緒に喫茶店に行ってくれて、そこで色々と相談に乗ってもらって、ずいぶん気が楽になりました。

 その時、碇君が、「僕も女の子が苦手だったけど、あんまりそんなことを意識しないで、男も女も気にしないで、みんな友達だって思えばいいんじゃないかな。僕もそう心がけるようにしたら、アスカや綾波ともなかよくやって行けるようになったんだ」って言ってくれたんです』

「へえ、シンちゃんが、そんなことを」

『それを聞いて、ああなるほど、って思ったんで、気をつけるようにしていたら、クラスのみんなにも溶け込めるようになって、クリスマスパーティーでもみんなとなかよくできたんです。ただ、このことは、学校じゃ言わない方がいいかな、って思ったんで、電話させてもらったんです』

「そうなの♪ よかったわね♪ じゃ、シンちゃんとアスカにはちゃんと伝えとくわ♪」

『ありがとうござます。じゃ、おねがいします』

「はいはーい♪ じゃ、またね♪」

と、ミサトが電話を切った時、玄関のドアが閉まる音がして、シンジが入って来た。

「あ、シンちゃん♪ 今ちょうど渚君から電話があったわよ。あんたもなかなかやるじゃない。ちょーっち見直したわよ♪」

「え? なんのことですか?」

「なに言ってんのよ。女の子との付き合い方の件で、あんた、渚君の相談に乗ってあげたんでしょ♪ アスカとレイと三人で」

「え?……。なんのことだろ……」

 その時丁度アスカが風呂場から出て来た。

「お先にー。……あらシンジ、おかえり。……どうしたの? こんなとこで……」

「アスカ、あんたもすみにおけないわねー♪ レイとシンちゃんの三人で、渚君に、『女の子との付き合い方』のコーチしてあげたんだって?♪」

「え? なにそれ……。なんのことかな……」

「なに言ってんのよお。隠さなくってもいいのに♪ ……ま、いいわ。その件はお風呂から上がってから、ごはん食べながらゆっくり話しましょ♪」

「はあ……。はい、じゃとにかくミサトさんおふろどうぞ……」

「サンキュー♪ じゃ、お先にねー♪」

 ミサトが風呂に入った後、シンジとアスカは何とも言えない訝しげな表情をしていた。

 その時、

「キュウッ! ククククッ!!」

「あ、ペンペン、ごめんよ。いまごはんあげるからね。それからさあ、わるいけど、今ミサトさんがおふろに入ってるし、僕も急いでるから、ペンペンは最後に入ってよね」

「キュウッ!♪ ククククッ!!♪」

 +  +  +  +  +

 どうしても思い出せない、と言い張るシンジとアスカに、ミサトは、

「ちょっと待ってよ。あんたたち、ほんとに覚えてないの?」

「はい……。おぼえてません……」

「あたしも記憶にないわ……」

「どう言うことかしらねえ。渚君は、はっきり、今月の7日に、三人に相談に乗ってもらった、って、言ってたわよ」

「7日……、そのころ、なにしてたんだろ……」

と、訝しがるシンジに、突然アスカが、

「あらっ? そう言えばさ、8日はミサトの誕生日だったでしょ。その時のこと、おぼえてる?」

 ミサトは驚き、

「えっ!? そう言われてみると……、わたしも大台だから、って、敢えて考えないようにはしてたけど、……わたし、なにしてたのかしら……」

 アスカも首を傾げ、

「あのころさあ、みんな、日にちの感覚がおかしい、って言ってたような気がするけど、それにしても、いったい、なにしてたんだろ……」

「2日の夜に、アスカの14歳のパーティーをしたのは、はっきりおぼえてますよね?」

と、シンジが言うのへ、ミサトとアスカは、

「うん、それはちゃんと覚えてるわ」

「4日の月曜日に、クラスの子からプレゼントもらったのもおぼえてるわよ。でも、それからあとは、とくに記憶にのこるようなことなかったもんねえ……」

 シンジは唸って、

「そのあたりからなんだかあやふやなんだよねえ……。ミサトさん、渚君、なんて言ってました?」

「ええとね、確か、彼氏、ドイツでは男子校にいたから、女の子とうまく話が出来なかった、って言ってたわ」

「あ、それはなんとなく記憶にあるなあ。……アスカは?」

「うん、あたしもその話は聞いたような気がするわ」

 ミサトは改めて二人を見て、

「でもさあ、彼が男子校にいた、って話、わざわざ言うほどのことでもなかったし、意識してなかったから、わたしはあんたたちには言ってないと思うわよ。確かに、仕事柄、わたしは彼の経歴を知ってはいたけどね」

「そうですよねえ。……いつ聞いたんだろ……」

「記憶があやふやよねえ……」

「それでさ、あんたたち二人と、レイと、渚君の四人で、学校の帰りに喫茶店に行ってさ、色々と相談に乗ってもらった、って、言ってたけど」

「あれっ? そう言われてみると、なんだかそんなことがあったような……」

「うん、なんとなくそんな気もするわ……」

「その時さ、シンちゃんが渚君に、『僕も女の子が苦手だったけど、あんまり男とか女とかを気にせずに、みんな友達だって思えばいいんじゃないか、僕もそう心がけるようにしたら、アスカや綾波ともなかよくやって行けるようになった』って言ってくれて、それからクラスのみんなにも溶け込めるようになって、クリスマスパーティーでもみんなとなかよくできた、って言ってたわよ」

 流石にシンジは驚き、

「えっ!? 僕がそんなこと言った、って、言うんですか?」

 アスカは眉を顰め、

「とてもシンジの言葉とは思えないわよねえ……」

と、言った後、顔を上げ、

「でもさ、今のシンジなら、相談にのる、って立場なら、もしかしたら言えるかもしれないんじゃない?」

 ミサトも頷き、

「うん、それはあり得るわね。シンちゃんも最近、結構積極的になって来たから」

 しかしシンジは、

「でも、僕の言葉とは思えないなあ……。意識してしまったら、とても言えないですよ。……でも、そう言われてみると言ったような気も……」

 それを聞いたアスカは、

「うーん、……でもさあ、考えて見たら、渚くん、ちょうどそのあたりから、なんか、ふっきれたみたいになって、クラスにとけこんで行った、って、気がしない?」

「そうだよなあ。あまり意識してなかったけど……。そう言えば、綾波も同じころからみんなとなかよくしだしたんだ……。でも、綾波の場合は、性格が変わった、って言うはっきりとした理由があるしねえ……」

「そうよね。レイの場合とはちがうと思うわよ。……やっぱりシンジはそう言ってたのよ。それでさ、シンジがそう言ったからこそ、逆に説得力があったんじゃない?」

 その時、ミサトが、

「あんたたち、渚君やレイの態度の変化は覚えてるの?」

と、言うのへ、アスカは、

「それがさあ、具体的になにかあった、ってことをおぼえてるんじゃないのよ。渚くんにしても、レイにしても、今思い出したら、そのころからかわって行った、って気がするだけなんだけど」

 シンジも、

「僕もそうです。記憶ははっきりしないんだけど、感覚的にそうじゃないか、って……」

 ミサトは頷き、

「なるほどねえ。記憶の混乱か……」

 ふと思い出したシンジが、

「そう言えば、アスカ、クリスマスパーティーのことで、委員長が僕らに、渚君も誘う、って言った時ね、あまり付き合いないから、だいじょうぶかな、って、思わなかった?」

「うん、思った思った。渚くんとは、学校や検査の時ぐらいしか付き合ってないからだいじょうぶかな、って、ふっと思ったわ」

「だけどさ、もし僕らが喫茶店で話をしてたとしたら、そんな心配はしないよねえ」

「うん、そう思うわ。でもさ、渚くんは、シンジに電話してきたんでしょ。わざわざこんなばかげた冗談を言うために電話してくるなんてぜったいに考えられないわよ」

「そうだよね。それは考えられないよね」

 二人の話に、ミサトは、

「どっちにしてもさ、加持君とレイにもその頃の記憶に関して聞く必要があるわ。もうすぐ来るから確認しましょ。事実、わたしもよく覚えてないんだからね」

 その時、アスカが、

「あ、そうだ! シンジ、あんたさ、メモかなんかつけてない? 思い出すきっかけになるようなこととか」

「そんなものはつけてないけど、カバンの中になんかないかな……。探してみるよ」

「じゃ、あたしも見てみるわね」

と、言って、二人は部屋へ急いだ。

 +  +  +  +  +

 戻って来たシンジとアスカは、

「えーと、……カバンにはなにもないよ……」

「あたしのカバンにもなにもないわねえ……」

 ミサトが、思い付き、

「そうだわ。喫茶店に行ったとしたら、お財布とか定期入れの中に、レシートかなんか残ってない?」

 シンジは財布の中を調べた。

「ええと、……サイフの中には……、あれっ!? このレシートは、……『喫茶・再会、12月7日、四人様、1680円』! これだ!」

「やっぱり行ってたのよ! あたしたち!」

 ミサトは唸り、

「これは結構重大よ……。わたしも財布とか、バッグとか、調べてみるわ」

 +  +  +  +  +

「うーん、わたしの方は特になにもないわねえ……。ま、この所ずっと仕事してただけだもんねえ。変わったことやってたら、なにか残ってるんだろうけどねえ……」

と、ミサトが言うのへ、シンジは、

「あとは綾波と加持さんか……」

「ま、いいわ。後は二人が来てからにしましょ。テーブル片付けてさ、コーヒーでも入れましょ」

 +  +  +  +  +

 三人でコーヒーを飲みながら、シンジが、

「ミサトさん、話は変わるんですけど、ケンスケのことでお願いが」

「あら、そっちもなの。実はわたしも相田君にテンポラリスタッフを頼もうと思ってたとこなのよ。急に仕事が増えちゃって、到底六人では足りなくなってしまったの」

 アスカは少なからず驚き、

「偶然にしてはできすぎねえ。……実はケンスケのやつさあ、シクスの八雲さんにメロメロになっちゃってさ、それでいっしょに仕事したい、って話になっちゃったのよ」

「へえー、あの相田君が八雲さんに。……まあ、仕事にそのものに関しては公私混同はだめだけど、別にそれぐらいなら問題ないでしょ。うふふ。さっそく相田君のお父さんにも言っとくから、あんたたち、彼に言っといてよ。テンポラリスタッフを頼む、って。正式な連絡は手続きができ次第、すぐするから」

 シンジとアスカは、

「はい、わかりました」
「オッケーよ」

 一段落した、と見たミサトが話題を変え、

「ところでさあ。シクスの八雲さんって、どんな子? 写真ではすごく可愛らしかったけど、実物はどうだった?」

 思わずニヤついたシンジは、

「そりゃもう、写真よりずっと、……いててて、アスカ、なにすんだよ」

「あーらごめんねシンジ。まちがえて足ふんじゃった」

 シンジは少しおとなしくなり、

「……たしかにかわいい子ですけど、ま、アスカには負けるかな、って……」

 ミサトはニヤリと笑って、

「ははーん、そゆこと♪ あんたたち、どうしたのかなあ♪ うふふ♪」

「そ、そんなあ。べつになにもないですよお」

と、シンジは少し赤くなったが、アスカは平然と、

「ま、シンジの言うとおりよ。……うん、ま、性格はたしかにかわいい子だわね」

「うふふ、ま、いいわ。……それよりさあ、今度の本部長はすごい人よ。今日はほんとにまいったわ」

 その時、

ピンポーン

「あ、あたし出るわ」

と、アスカが席を立った。

 +  +  +  +  +

 やって来たのはレイだった。まずミサトが、

「あ、レイ、どうもご苦労さん」

「こんばんわ」

と、挨拶したレイに、シンジが、

「綾波、早速なんだけどさ……」

 +  +  +  +  +

 事情を聞き、レイも、訝しげな顔で、

「7日……、喫茶店……、わたしもよくおぼえてないわ……。今言われてみると、なんとなくそんなことがあったような気もするんだけど……。いったいどうしたんだろ……」

 ミサトは頷いた。

「やっぱりね。……くわしくは加持君が来てからにしましょう」

ピンポーン

「あ、加持君ね」

 今度はミサトが立ち上がった。

 +  +  +  +  +

 今度は加持が訝しげに、

「7日頃の記憶だって? ……そう言われてみると確かにはっきりしていないなあ。どう言う事なんだ……。8日の葛城の誕生日の事も記憶にない……」

 その時アスカが、

「あ、加持さん、ミサトの誕生日のプレゼント、なにか買ってないの?」

「プレゼント……、あ、そう言えばなにか買ったような気が……、7日だよな。ちょっと待てよ、財布の中に……、あ、クレジットの控えがあるぞ! 『大石宝石店、エメラルドの指輪』?!」

 ミサトは驚き、

「えっ?! そんなもの買ってくれてたの?」

「記憶がはっきりしない……。どう言う事だ……。みんなすまん、ちょっと待っててくれ。20分程で戻って来るから」

「わかった。気をつけてね」

と、ミサトが頷いた後、加持は出て行った。その後、シンジが立ち上がり、

「じゃ、ミサトさん、加持さんが戻って来るまで、コーヒーでも飲みながら待ちましょうよ」

「うん。じゃ、その間に、シクスの八雲さんのこと話してよ」

 +  +  +  +  +

 三人からナツミの話を聞いたミサトは、

「ふーん、じゃ、八雲さんって、やっぱりすごく明るい感じの子なんだ」

 レイは頷き、

「ええ。人当たりもやわらかいし、いつもにこにこした感じで、なんだか、あたたかい風のようなふんいきが……」

「やっぱりねえ。……あんたたちにはわからなくて気の毒だけどさ、わたしたちの世代だと、『春みたいな感じ』って、例えるのよ」

 アスカが、ちょっと意外、と言う顔で、

「へえー、あの子の感じが『春』ねえ……」

「それからついでに言うとさ、今は一年中『夏』だけどね、季節があった時代はさ、『夏』って言えば、なんか特別な華やかさがあったわね。そう、アスカを例えると、『夏』って感じだわ」

 それを聞いたアスカは、驚きと喜びを顔に出し、

「へえー、あたしが『夏』なの」

 続いてミサトは、

「昔のレイだったら、まちがいなく『冬』ね。今は『秋』って感じかな」

 レイは少し照れて、

「わたしが『秋』……。なんだかうれしいな……」

「僕はどうなんです?」

と、聞いたシンジに、ミサトは笑って、

「……うーん、シンちゃんは案外と例えにくいなあ。昔のシンちゃんだったら、ジメジメした『梅雨』だわね。季節じゃないけどさ」

 それを聞いたアスカとレイも笑い、

「うふふっ、ジメジメ、なんてぴったりだわね」

「ジメジメ……。うふっ……」

 シンジは閉口し、

「ひどいなあ……、ミサトさんもアスカも、綾波まで……」

 そこにミサトがフォローを入れる。

「でもさ、今のシンちゃんなら、『初夏』よ。ようやく梅雨が終わって夏に向かう、って感じかな」

 アスカはまた笑って、

「よかったわね、シンジ、ようやくジメジメともおさらばだってさ♪ うふふっ♪」

「またアスカはそんなこと言って……。あーあ……、ふふふ」

と、漸く笑ったシンジに、ミサトは、

「そうそう。そうやって冗談にも笑って応えられるようになったじゃない♪ シンちゃんも『梅雨明け』ね♪」

 その時、

ピンポーン

「あ、加持さんだ」

と、今度はシンジが立ち上がった。

 +  +  +  +  +

 戻って来た加持は、

「みんなお待たせ。……葛城、これがその指輪だ。机の引出しの中に入ったままになってたよ」

 ミサトは眼を輝かせて、

「見せて見せて。……あら、結構大きいじゃない。それに緑がすごく深くってとてもきれい……。これをわたしに? 無理したんじゃないの?」

「いやまあ、みんなの前で言うのもちょっと照れ臭いが、婚約指輪も兼ねるつもりだったからな。……遅れたけど、プレゼントだ」

「ありがとう……、加持君。……うれしいわ……」

 ミサトの様子にアスカ、シンジ、レイは微笑み、

「よかったね、ミサト♪」

「ほんと、よかったですね」

「よかったですね……」

 ミサトも微笑み、

「みんな、ありがと♪」

と、言った後、加持が、

「葛城に喜んでもらえたのは俺も嬉しいが、それよりも『記憶の混乱』の件だ。俺も含めてだが、一体、みんなどうしたんだ?」

 ミサトは表情を変え、

「それがわたしにもさっぱりわからないのよ。5日のあたりからは、仕事でも特に変わったことはなかったじゃない。だからよけい記憶がはっきりしないのよ」

 アスカ、シンジ、レイも、

「あたしもそのころ日にちの感覚がおかしかったけど、でもここまで記憶が混乱してるなんて……」

「僕もそうなんです……」

「わたしも、喫茶店の話聞かされて、そう言えばあったような、って感じなんです……」

 加持は改めて全員を見回し、

「じゃ、みんな、はっきり覚えてるのはいつ頃からだ?」

 まずミサトが、

「わたしは……、あ、そうよ。はっきり覚えてるのは、20日だったかな、本部長の就任とシクスの配属の連絡が来た時のことよ」

「おお、そうだな。それは俺も同じだ。間違いない」

 続いてシンジが、

「はっきりおぼえてる、って言えば……、僕らは、クリスマスパーティーの相談をした時だよね」

 レイが同意し、

「そうよ。……たしかその日も20日だったわ」

 アスカも、

「そうね。今カレンダー見たけど、まちがいないわ」

 加持は、何度か大きく頷き、

「うーん、つまり5日から20日までがあやふやだ、って事か……。そうだ、こいつも持って来たから、ちょいと調べてみるか……」

「あ、モバイルパソコンね」

と、言ったアスカに、加持はニヤリと笑い、

「そうだ。携帯回線内蔵型なんだぜ。……本部にログインして、と……。5日から20日までの業務日誌、と。…………うーん、やっぱり特に変わった事はなにもないなあ。俺も、これと言った事はやってないぜ……」

 ミサトが覗き込んで、

「技術部の日誌はどう? 記述に混乱はないかしら?」

「技術部、と……。結構量があるな。……しかし、毎日ほとんど同じ内容だな」

「そうよね。今は実験の下準備だけだから」

「……これを見る限りでは、日付の感覚がおかしくなって、記述が前後しているとか、前に書いた事を忘れてしまって、後で矛盾が出て来ている、ってな事はなさそうだ。変わった事はやってないが、技術部の連中は正常みたいだぜ。……じゃ、ログオフするか……」

 その時、レイが心配そうに、

「やっぱり、わたしたち五人だけなんでしょうか……」

 加持は頷き、

「そうみたいだ。つまり、『歴史』が変わった事を知っている俺達五人だけ、この頃の記憶に混乱があるんだ」

 シンジも不安気に、

「やっぱり、『向こうの世界』となにか関係があるんでしょうか……」

「うーん、こればっかりはなあ、全くわからんよ……。

 ただ一つ言える事はだな。俺達、まだ時間的には、既に経験したはずの時間をもう一回過ごしているんだ。……まあもっとも、俺はその時死んでたけどな。

 ……しかしそれであっても、一度過ぎた時間をもう一度繰り返してる、って事には変わりないし、その事実を知ってるのは俺達だけだ、って事だ。

 だから日付の感覚もおかしかったし、ましてや、『向こうの世界』では、『魔界』の影響が……、ん? 『魔界』?……」

 ミサトが訝しげに、

「どうしたの?」

「いや、ちょっと思い出した事があってね。後で言うよ。

 ……つまりだ、『向こうの世界』で、もろに『魔界のエネルギー』や『魔法』を実体験して来たんだぜ。信じ難い事だけどな。

 だから、その意味では俺達五人が、なにかを引きずって帰って来ても不思議じゃないんだ。それが関係してないか、って気はするんだが……。

 でもなあ、俺は『魔法』にはくわしくないからなあ……」

「そうねえ。まあとにかくさあ。今回のことは取り敢えず実害はなさそうだから、一応『こう言うことがあった』と言うことにしといてさ、これから充分気をつけるようにしましょうよ。極力メモをつけるとか」

「葛城の言う通りだ。とにかく、この事実だけは受け止めておいて、今後充分注意しよう。ま、みんな、あまりクヨクヨしないでな」

「そうそう。『プラス思考』で行きましょう。みんな、お願いね」

と、言ったミサトに、三人は、

「はい、わかりました」
「オッケーよ」
「わかりました」

 そこでミサトは改めて加持に、

「ところで加持君、さっき言ってたことってなに?」

「あ、あれな。いや、本部長の事だ」

「あ、そう言えば今日の本題は本部長のことだったわ。じゃ、改めて仕切り直しましょうか。……とにかくコーヒーでも入れるわ」

 それを聞いたシンジは立ち上がり、

「じゃ、僕が」

と、言うのへ、ミサトは苦笑し、

「たまにはわたしが入れるわよお。いつもシンちゃんばっかりにやらせて悪いから♪」

「はい。……じゃ、おねがいします……」

と、やや不安げなシンジの様子に加持も苦笑し、

「大丈夫かあ?」

 ミサトは憮然として、

「失礼ねっ! いくらわたしでもコーヒーぐらい入れられるわよ」

「わははは、よし、じゃ、お手並み拝見と行くか。わははは」

 +  +  +  +  +

 ミサトはにこやかにコーヒーを並べた。

「はい。コーヒーお待たせ♪」

 まず、加持が、

「どれどれ、いただこうかな。…………;」

 シンジも、

「いただきます。…………;」

 アスカも、

「いっただっきまーす♪ …………;」

 レイも、

「いただきます。…………;」

 ミサトは笑って、

「みんなどうしたのよお。変な顔しちゃってさあ。どれどれ……、うぷっ、ぶえっ!!! ……ははは、ちょーっち苦かったかな。あははは……」

 それを見たアスカがまず、

「……うふふふふっ」

 続いてシンジも、

「……くっくくくくくっ」

 レイも、

「……うふっ。うふふふっ……」

 加持が最後に、

「……ははは、わははははっ」

 みんなの様子に、ミサトは、

「あーあ、……うふふふふっ」

と、「この上ない苦笑」をした。

 +  +  +  +  +

 改めてシンジがテーブルにコーヒーを並べた。

「はい、コーヒー入りました」

 ミサトは笑って、

「サンキューシンちゃん♪ ……さて、と、加持君、本部長の話なんだけどさ、……あ、そう言えば、加持君、情報部長に任命されたのよね。おめでとう♪」

 アスカは驚き、

「えっ?! 加持さん、部長になったの?!」

 加持は、やや照れ臭そうに、

「はは、そうなんだ。新米だけどな」

と、言うのへ、アスカ、シンジ、レイは、

「へえー♪ おめでとう♪」

「おめでとうございます、加持さん」

「おめでとうございます……」

 加持は笑って、

「どうもありがとう」

と、言った後、一転して真剣な顔で、

「……ま、その話はおいといてだな、本部長の件なんだが、葛城、今度の本部長はただものじゃないぞ」

 ミサトも真顔で、

「やっぱりそう思ったの。私もそう思うわ。あの人、絶対なにか知ってるわよ。人心掌握の巧みさや、頭のキレのすごさもさることながら、時々とんでもないセリフをサラッと言うのよ。まるでわたしたちのことを知ってて、挑発してるみたいにさえ思えたわ」

「どんな事を言った?」

「まずは、旧司令室は広過ぎて落ち着かないから、総務部の隣の小部屋に移る、って言ったんだけど、理由を聞いたら、『人間には子宮回帰願望があって、狭くて薄暗い所を好むんだ』なんて、冗談めかして言うのよ」

「うーむ……、他には?」

「本部長自ら設計した新しいインタフェースの仕様書をマヤちゃんに渡して、作れ、って言ったんだけど、驚かないでよ、そのインタフェースの名前が、『脳神経スキャンインタフェース』なのよ」

「なに!!? おい、まさか……、あの本に書いてあった……」
「ええっ!! もしかして、それ……」
「ちょっとミサト!! それって……」
「えっ!? まさかそれ……」

と、驚く四人に、ミサトは続けて、

「そう。オクタヘドロンのカプセルに搭載されていた操縦用インタフェースの名前よ。おまけに京都から来た人でしょ。できすぎよ」

 加持は少々唸り、

「そう言や、旧ネルフや俺の事に関してもやたら詳しいようだったし、冬月前副司令の事もよく知ってる、って言ってたな。それからな、『旧ネルフの保安諜報部の連中が一掃されたのは連中のカルマだ』とか、『京都は魔界だ』とか言ってたぜ」

「ああ、さっき言おうとしてたの、それね。……引っかかる言葉よねえ……」

「全くだ。あの本の出版社も、架空だったみたいだが、京都の会社って事になってたし、これは絶対に京都に何かあるな。何とか機会を見つけて京都へ行く必要があるぜ」

「でもさ、そうなると、なまじ部長に任命されると動きにくいわねえ。……あ、まさかそれも意図的なんじゃ……」

「それも、って、他に何かあるのか?」

「うん、技術部のことなんだけどね。それがさ……」

と、ミサトは今日の事を語り始めた。

 +  +  +  +  +

 ここは旧東京都放置地区に程近い、日本重化学工業共同体の工場である。時田シロウは突貫工事で行われているジェットアローン(JA)の再製作プロジェクトの陣頭指揮に立っていた。「京都財団」から派遣された技術者も十数人参加し、作業は順調に進んでいる。

 最終仕上げに入っているJAを見上げ、時田は、

(……しかし、本当なのか。また使徒が襲来する可能性があると言うのは……。信じ難い話だが、京都財団も架空の機関ではない。京都の本部も確認した……。今回の再製作の名目は「JAを深海開発用に使うため」と言う事になっているが……。しかし、まさか……、また使徒が来るなんて……、そんなバカな事があるのか……。それに、IBOはどう動くんだ……)

 その時、

「時田担当、状況はどうですか」

 振り返ると、そこにいるのは京都財団の加納である。

「ああこれは加納さん。御覧の通り、順調です」

「JAの本体が分解される前に手を打てたのは何よりでした。リアクターの撤去はそちらが既に終えておられましたから、新型エンジンを搭載するだけの作業で事実上はほぼ工事完了ですな」

「はい。前回のテストの時は、原因不明のリアクターの暴走で失敗しましたが、今回はそちらから御支給戴いたエンジンを載せるだけですので、その点は安心です。……しかし加納さん、どうもこのエンジンはよくわからないんですが、こんな小型軽量で、必要なだけの出力を稼げるんですか?」

「御安心下さい。我が京都財団の関連機関が開発した新型エンジンです。既にベンチマークは完了していますし、動作は保証致します。また、新型の操縦システムも、ハッキングや妨害に極めて強いシステムを採用していますから、その点も安心です。……しかしながら、時田担当、あなたの御不安はもっともな事です。こんな所で申し訳ありませんが、新型エンジンの正式名称と、操縦システムに関して少々お話し致しましょう。但し、他言無用で願います」

「はい、ありがとうございます。しかし、他言無用、とおっしゃいますが、周囲の作業員は……」

と、付近を見回す時田に、加納は、

「ははは、大丈夫ですよ。まさかこんな所でこんな話をするとは、普通の人間は夢にも思いませんからな。かえって安心です」

「そうですか。……新型エンジンは、AG機関と呼称しておりますが、これはどう言う意味なんですか?」

「AG機関、アンチ・グラビティ機関、即ち、『反重力エンジン』です」

「!!! ……どう言う事ですか、それは!」

「読んで字の如く、重力を逆用してエネルギーを生み出す機関ですよ。それから、操縦システムは、電波ではなく、『スピン波』を使っています」

「スピン波……、聞いた事がありません……」

「まあそれに関してはいずれ詳しく説明すべき時が来ます。取り敢えず、今回はこの件はこれぐらいにしておきましょう」

 +  +  +  +  +

 ミサトの話を聞いた加持は、少々唸り、

「なるほどなあ。つまり、マヤちゃんたちは、徹底的に『総括』された後、一転して部長代行に任命された、と言う事か」

「そうなのよ。エヴァやマギの問題点もビシビシ指摘して来るし、わたしも元作戦部長としては冷汗がでたわ。でもさ、このやり方なら、技術部を手の内に入れられるし、角も立たないじゃない。そう言う意味でさ、人の使い方がすごくうまいみたいよ。だから加持君のことも、意図的かな、って思ったんだけどね。……ただ、本部長はエヴァが造られた目的を、『使徒迎撃用兵器』としてしか認識してなかったみたいだけどさ」

「おいおい、そう考えるのは甘過ぎるぜ。大体、『今の歴史』でだ、マヤちゃん達の前で、エヴァは人類補完計画、即ち、サード・インパクトを起こす目的で造られた、なんて、知ってても言う訳ないだろう。この場合、本部長の指摘は実に適切だよ。君達に、『エヴァが作られた目的』を先にしゃべらせたんだろ。その答に合わせて『総括』したんだよ」

「あ、そうか。そうだわねえ。……それに、エヴァ建造の最終目的はそれだった、ってこと、わたしたちも最後まで知らなかったもんねえ……」

「それにその人心掌握のテクニック、やっぱりただの元大学教授なんかじゃない。いずれにせよ今後充分注意しなきゃならんな。……ただ、なあ……」

「ただ、なに?」

「うん、これは何の根拠もない、俺のカンに過ぎないんだが、少なくとも、五大本部長は、俺達の『敵』じゃないような気がするんだ。もちろん、敵に回したらとんでもない男だが、敵じゃないと思う」

「うん、わたしもそう思うわ。あの人は、もし『向こうの世界』のことを知ってるとしても、いえ、知ってるなら余計に、わたしたちの味方じゃないかな、って思うわ。

 ……と、まあ、今日のところはこれぐらいね。みんな、お疲れさん。まあ、今言った通り、今度の本部長はすごい人だけど、とにかく敵じゃないとは思うからさ、みんなも本部で会うことがあったら、ちゃんと挨拶ぐらいはしてよね。怖い人じゃないし、すごく素敵なおじさまだから」

と、笑うミサトに、シンジ、アスカ、レイは、

「はい、わかりました」

「うん、わかった」

「わかりました」

 その時アスカが、

「ところでさあ、本部長って、そんなにステキな人なの?」

 ミサトはニヤリと笑い、

「そりゃもう、背は高いし、ハンサムだし、若々しいし、とても45には見えないわね」

「へえー、じゃ、加持さんよりもステキなのかなー♪」

と、茶化したアスカに、ミサトは、

「こらアスカ!」

「おいおい、まいったなあ。……あはは」

 加持は苦笑するしかなかった。

 +  +  +  +  +

 ここは松代にあるさる小さな会社の社長室である。50がらみと思われる一人の男が机にふんぞり返って伸びた鼻毛を抜いていた。

トゥル トゥル トゥル

「わしだ」

『社長、ドイツから国際電話です』

「つなげ」

『……私だ』

「あ、どうも、御無沙汰致しております」

『具合の方はどうだ』

「はい。全て仰る通りに致しております。新月の7日前、丁度5日から始めて、17日に儀式を完了致しました。順調に育っております」

『そうか。続けて様子を見ておいてくれ。落ち着いたら取りに行かせる』

「しかし、伺っておりましたとは言え、流石に儀式の最中は参りましたよ。気をつけてはおりましたが、私も私の回りの人間も、毎日時間や日付の感覚がおかしくなったり、物忘れが酷くなったりしました。大丈夫でしょうか?」

『別に問題はない。儀式を終えたら元に戻っただろう』

「はあ、その通りですが」

『では今回の報酬も振り込んでおく。ああそれから、この前依頼した「例の二人」の件も、近々こちらの準備が整うから、その時点で改めて指示する予定だ。よろしく頼むぞ』

「はい、了解致しました」

と、電話を切った後、

「おおい、誰かおらんか!」

 ドアが開いて一人の男が顔を出した。何とこの男は、先日新横須賀(旧小田原)の海岸の洞窟で、「黒い石」を探していた男達のリーダーである。

「はい、なんでしょう」

「例の二人の件だが、近々実行する。メンツを集めておけ」

「はい。わかりました。しかし、坊主一人と尼さん一人を連れ出せ、って、変わった依頼ですね」

「ごちゃごちゃ言うな。言われた事だけやってりゃいい」

「あ、はい、……すみません。では失礼します」

 男がドアから外へ消えると、「社長」はドアにカギをかけ、窓のブラインドを下ろした。そしておもむろに金庫のドアを開けると、中からオレンジ色の液体の入ったビンを取り出した。

「ふふふ、順調に育っているな……。あの『黒い石』が大金のタネになるとはな……」

 ビンの底には「黒い、人間の胎児のようなもの」が蠢いていた。

 続く



この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物です。

BGM:'IN THEME PARK ' composed by Aoi Ryu (tetsu25@indigo.plala.or.jp)

夏のペンタグラム 第十四話・乾坤一擲
夏のペンタグラム 第十六話・天真爛漫
目次
メインページへ戻る